説明

ベータグルコシダーゼ活性増強剤及び生理活性配糖体の吸収促進剤

【課題】生体に有用な配糖体の吸収を促進すること。
【解決手段】ダイフラクトース アンハイドライドを有効成分として含有する腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性増強作用を有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管内容物中のβグルコシダーゼ活性増強剤に関するものである。また、腸管内容物中のβグルコシダーゼ活性を増強することにより生理活性を有する配糖体を分解して、生理活性物質本体の吸収を促進する剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にヒトに経口摂取された食品成分は、小腸の消化酵素による分解の後に小腸より受動輸送、または能動輸送で吸収される。成分が少糖、多糖であった場合、腸管のマルターゼ、スクラーゼ、トレハラーゼまたはラクターゼ等の糖水解酵素により、単糖に水解され吸収される。
また、フラボノイド類、イソフラボノイド類、サポニン類、アントシアニン類、ピリドキシン等生体に有用な食品成分には配糖体として経口摂取されるものが多く知られている。特に、フラボノイド配糖体やイソフラボノイド配糖体に関しては、小腸の糖水解酵素による水解後に糖とアグリコンが遊離した後吸収されるとされている。しかしながら、その水解、吸収は完全ではなく、これらの配糖体の一部は大腸に到達し、腸内細菌由来の酵素による水解後に吸収されるが、これによる水解の能力も完全ではなく、摂取したこれらの配糖体の一部は、体内に吸収され機能を発揮することなく、そのまま体外に排出されている。
大腸でフラボノイド配糖体やイソフラボノイド配糖体を水解する腸内細菌由来の酵素としては、ベータグルコシダーゼの寄与が大きいことが知られている。(非特許文献1:Rowland Iら British Journal of Nutrition 89巻 別冊1 S45−S58頁 2003年)
【0003】
一方、ダイフラクトースアンハイドライドIII(以下DFAIIIと記す)についてはビフィズス菌増殖作用を有すること(特許文献1:特公平3−5788号公報)やカルシウム吸収量を増やすこと(特許文献2:特開平11−43438号公報)、利尿作用をもつこと(特許文献3:特開2003−321371号公報)がすでに周知であるが、腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性を増強する作用は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−5788号公報
【特許文献2】特開平11−43438号公報
【特許文献3】特開2003−321371号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Rowland Iら British Journal of Nutrition 89巻 別冊1 S45−S58頁 2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、生体に有用な配糖体は、通常その吸収が完全には行われずに排出されている。そこで、本発明は生体に有用な配糖体の吸収を促進することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性に着目し、研究を続けた結果、腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性増強作用を持ち、さらに、生理活性を持つ配糖体の吸収を促進する作用を有する成分として、ダイフラクトース アンハイドライドの投与によって腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性が上昇することを見出した。すなわち本発明は、ダイフラクトース アンハイドライドを有効成分とする腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性増強剤に関するものである。
【0008】
(1)ダイフラクトース アンハイドライドを有効成分とする腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性増強剤
(2)ダイフラクトース アンハイドライドを有効成分とする生理活性を持つ配糖体の吸収促進剤
(3)生理活性を持つ配糖体がポリフェノール配糖体である(2)の剤
(4)生理活性を持つ配糖体がフラボノイド配糖体、又はイソフラボノイド配糖体である(2)の剤
【発明の効果】
【0009】
本発明のダイフラクトース アンハイドライドを含有する経口剤は腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性を増強する。
ベータグルコシダーゼ活性を増強することにより、生理活性を持つ配糖体の吸収を促進することができる。
ダイフラクトース アンハイドライドと生理活性を持つ配糖体を配合した経口剤を提供することにより、効果よく生理活性を持つ配糖体を体内に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】DFAIIIによるベータグルコシダーゼ活性の増強を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明でいうダイフラクトース アンハイドライド(DFA)とは、2個のフラクトースの還元末端が、互いに一方の還元末端以外の水酸基に結合した環状二糖である。従来、カラメルなどに存在することが知られていたが、工業的には、イヌリンをイヌリン分解酵素、例えば、Arthrobacter sp.H65−7株が産生するイヌリンフラクトトランスフェラーゼ(EC2.4.1.93)により発酵させたり、レヴァンをArthrobacter nicotinovorans GS−9が産生するレヴァンフルクトトランスフェラーゼ(EC2.4.1.10)により発酵させたりすることにより製造することができる。二分子のフラクトースの結合様式の差異により、誘導体が5種類存在し、それぞれ、DFAI、DFAII、DFAIII、DFAIV、DFAVと称される。本発明でいうDFAとは、それら全てをいうが、本発明では、もっぱら、工業的生産の効率、精製してからの安定性などが優れているDFAIII(di-D-fructofuranose-1,2’ : 2,3’dianhydride)、DFAIV(di-D-fructofuranose-2,6’ : 6,2’dianhydride)が好ましく使用される。
【0012】
本発明に係る経口剤は、DFA を有効成分とするものであって、医薬品タイプ、飲食品タイプ、動物用飼餌料タイプの組成物として利用することができ、例えば、ヒト又は動物用の医薬品、飲食品、調製粉乳、経腸栄養剤、健康飲食品、飼餌料添加物など、最終的に経口投与可能な形態であれば制限はない。また、有効成分の含有量は、特に限定されない。
【0013】
飲食品タイプの組成物として使用する場合には、DFA又はその処理物をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と併用したりして、適宜常法に従い使用できる。また、加工にあたっては、熱安定性、酸安定性が高いため、通常の食品加工方法がなんら問題なく適用できる。DFAを含有する食品タイプの経口剤は、粉末、顆粒状、ペースト状、液状、懸濁状など特段の限定は受けない。例えば甘味料、酸味料、ビタミン剤その他ドリンク剤製造に常用される各種成分を用いて、健康ドリンクに製剤化することも例示できる。
【0014】
医薬品タイプの組成物として使用する場合、本有効成分は、種々の形態で投与される。その投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与が例示できる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。その使用量は症状、年令、体重、剤形によって異なるが、通常は、成人に対して、経口投与の場合に1日当たり、体重1kg当たり0.5〜2000mg、好ましくは1〜1000mgの範囲で投与するのがよい。
【0015】
本発明でいう生理活性を持つ配糖体としては、ポリフェノール配糖体、フラボノイド配糖体が上げられる。
ポリフェノールとはベンゼン環に複数の水酸基を持つ化合物を指し、タンニン(加水分解タンニンとしてガロタンニン、エラジタンニン、縮合型タンニンとしてカテキンやエピカテキンの縮合体)、カテキン(カテキン、エピカテキン)、フラボノイド(フラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、イソフラボン、カルコン、オーロン、ロイコアントシアニン、カテキン)、リグナン(セサミノール、ピノレジノール)、リグニン、クマリン、シンプルフェノール(プロトカテチュ酸、没食子酸、シリンガ酸)などが上げられ、抗酸化作用を有することが知られている。本発明のダイフラクトース アンハイドライドを摂取することにより、これらポリフェノールの消化吸収を促進することができる。
【0016】
また、フラボノイドは上記ポリフェノールにも含まれるが、狭義にはフラボン(ルテオリン、アピゲニン等)、フラボノール(ケルセチン、ケンフェロール等)、フラバノン(ナリンゲニン、ヘスペレチン等)、フラバノノール、イソフラボン(ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテイン等)の5種類を指し、広義にはアントシアニジン、ロイコシアニジン、カテキン、カルコン(フロレチン、イソリクイリチゲニン等)、オーロン、クメスタン(クメステロール等)等を含むものである。
【0017】
フラボノイドには抗酸化作用が期待されるが、その他に、エストロジェン作用を有するフラボノイドとして、カルコン類のイソリクイリチゲニン、イソフラボン類のゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、フラボノール類のケンフェロール、フラバノン類のナリンゲニン、フラボン類のアピゲニン、クメスタン類のクメステロールを挙げることができる。その他にも、フラボノイドには発ガン予防効果、老化防止効果、痴呆症・糖尿病・動脈硬化・胃潰瘍・肝炎等の改善効果が期待され、研究されている。
【0018】
本発明の経口剤にDFAと共に、上記のような生理活性を持つポリフェノールあるいはフラボノイドの配糖体を一緒に配合することが可能であり、これらの配糖体の吸収を促進する上で好ましい。
【0019】
〔実施例〕
以下の実施例をもって本発明をより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
DFAの腸管内ベータグルコシダーゼ活性増強作用を調べた。
Wistar系雄ラット(3週齢)24匹を3日間固形飼料で予備飼育した後、基本食7gを3日間与え、4群に分けた。それぞれに基本食7gにDFAIII0.5gまたは ショ糖 0.5gずつ足した飼料を与えた。3週間の本飼育の後、屠殺し、盲腸内容物を採取し、以下の方法により、ベータグルコシダーゼの測定を行った。
盲腸内容物を採取した後、その場で内容物を均一になるように攪拌した。内容物の全重量を測定し、分析まで−20℃で保管した。約0.5gのサンプルを採取し、0.1Mリン酸バッファー(pH6.4)を1:20(w/w)となるように添加し、氷冷下でホモジナイズを行った後、超音波(20s)破砕を行い、遠心分離(500G×15min)した上清を測定に供した。p−nitrophenol glucoside(1.5mg/mL)100μLに測定サンプルを200μL添加し、37℃で30分間インキュベートを行った。その後、0.25mol/L炭酸ナトリウム溶液を1.6mL添加し400nmの吸光度を測定した。測定された吸光度より、サンプルブランクの吸光度を差し引きp−nitrophenol溶液の検量線を用いて30分間当たりの生成物量を算出した。
【0021】
結果を図1に示す。
図1のSはショ糖、DはDFAIIIの略である。また、0.5は7gの基本食にそれぞれ0.5g足した飼料を与えたことを示す。
この結果から明らかなように、DFAの摂取により、腸管内容物のベータグルコシダーゼ活性の増強が認められた。
【0022】
DFAIII(ダイフラクトース アンハイドライド)とルチン(フラボノイド配糖体)を含有する錠剤の処方例を示す。
処方例1 錠剤 (配合量:質量%)
DFAII 77
ケルセチン4グルコシド ※ 2
コーンスターチ 20
グアーガム 1
※ ケルセチン4グルコシドはフラボノイドの一種であるケルセチンのグルコース配糖体である。
【0023】
DFAIII(ダイフラクトースアンハイドライド)とダイジン(フラボノイド配糖体)を含有するジュースの処方例を示す。

処方例2 ジュース (配合量:質量%)
DFAIII 10
ダイジン※ 2
冷凍濃縮温州ミカン果汁 5
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
香料 0.2
色素 0.1
水 82.48
※ ダイジンはフラボノイドの一種であるダイゼインのグルコース配糖体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイフラクトース アンハイドライドを有効成分とする腸管内容物中のベータグルコシダーゼ活性増強剤。
【請求項2】
ダイフラクトース アンハイドライドを有効成分とする生理活性を持つ配糖体の吸収促進剤。
【請求項3】
生理活性を持つ配糖体がポリフェノール配糖体である請求項2の剤。
【請求項4】
生理活性を持つ配糖体がフラボノイド配糖体、又はイソフラボノイド配糖体である請求項2の剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−275312(P2010−275312A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152690(P2010−152690)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【分割の表示】特願2004−38565(P2004−38565)の分割
【原出願日】平成16年2月16日(2004.2.16)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】