説明

ベータゼオライトの修飾

【課題】外表面がシリカから成るベータゼオライトの調製方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムを含有するベータゼオライトを製造する工程1、およびフッ化水素を用いてゲル溶液を調製後、該ゲル溶液に工程1で製造したアルミニウムを含有するベータゼオライトを入れ、110〜200℃で10時間以上30時間以下の攪拌条件下に水熱合成を行なう工程2からなる処理を行うことにより、外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベータゼオライトの修飾に関し、詳しくはアルミニウムを含有するベータゼオライトの外表面がシリカから成ることを特徴としたベータゼオライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性アルミノシリケートであるゼオライトはミクロ細孔を有すると共に酸点を有する為、種々の固体酸反応用触媒として用いられている。反応の一例として、オルトキシレンまたはメタキシレンからのパラキシレン合成や、ノルマルパラフィンの骨格異性化反応が挙げられる。これらの反応では、ゼオライトがミクロ細孔を有しているため、シリカアルミナに代表される非結晶性アルミノシリケートと比較して目的生成物の選択性が高い。しかしながら、ゼオライト粒子の外表面ではミクロ細孔による形状選択性が期待できず、その結果、好ましくない反応が起こる。
【0003】
ゼオライトの外表面で起こる反応を抑制することは目的生成物の収率向上に重要である。ゼオライト外表面における反応を抑制するためには、外表面の酸点を不活性化することが有効であると考えられる。その方法として、ミクロ細孔内には入らない窒素化合物の吸着方法や外表面のシリル化方法を挙げることができ、例えば非特許文献1および非特許文献2にその一例が記載されている。
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・キャタリシス(Journal of Catalysis)」,1996年,161巻,p.687
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・キャタリシス(Journal of Catalysis)」,1991年,128巻,p.551
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、窒素化合物の吸着による酸点の不活性化方法では、反応中に窒素化合物がゼオライトから脱着し、その結果、目的生成物の選択性が低下する場合がある。また、シリル化による不活性化ではゼオライト外表面のミクロ細孔径が変化し、その結果、反応性が低下したり目的生成物の選択性が低下したりする場合がある。これらが従来技術の欠点であり、より目的生成物の選択性を向上させる方法が必要である。即ち、外表面に酸点を持たずに元のミクロ細孔構造を維持したゼオライトの製造方法が望まれている。
本発明は、アルミニウムを含有するベータゼオライトの外表面が不活性なシリカから成るベータゼオライトおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、水熱合成時にアルミニウムを含有するベータゼオライトを核として用い、かつ特殊な合成条件化でのみ外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、アルミニウムを含有するベータゼオライトの外表面がシリカから成ることを特徴とするベータゼオライトに関する。
【0007】
また、本発明は、アルミニウムを含有するベータゼオライトを製造する工程1、およびフッ化水素を用いてゲル溶液を調製後、該ゲル溶液に工程1で製造したアルミニウムを含有するベータゼオライトを入れ、110〜200℃で10時間以上30時間以下の攪拌条件下に水熱合成を行なう工程2からなることを特徴とする外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する方法に関する。
【0008】
また、本発明は、工程1が焼成過程を伴うことを特徴とする請求項2に記載の外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する方法に関する。
【0009】
また、本発明は、ゲル溶液の組成が、ケイ素1に対する窒素の重量比が0.4〜0.8、フッ素の重量比が0.3〜0.8、水の重量比が5〜10であることを特徴とする請求項2に記載の外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する方法に関する。
【0010】
また、本発明は、アルミニウム含有ベータゼオライトのゲル溶液に対する質量割合が、0.3〜10質量%であることを特徴とする請求項2に記載の外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳述する。
外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する本発明の方法は、アルミニウムを含有するベータゼオライトを製造する工程1と、製造されたベータゼオライトを核として水熱合成により核から結晶成長させて外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する工程2からなる。
【0013】
まず、アルミニウムを含有するベータゼオライトを製造する工程1について説明する。
核として使用するアルミニウム含有ベータゼオライトは、既知である従来の方法で合成することができる。合成手順の一例を以下に示す。
型剤(テンプレート)としては、例えば、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドまたはテトラエチルアンモニウムフルオライドを用いることができる。
アルミニウム源は特に制限は無く、一般に安価な硝酸アルミニウムを用いることができる。
シリカ源としてはテトラエトキシシランを通常用いる。
【0014】
最初に、型剤、アルミニウム源、およびシリカ源を混ぜ合わせ、通常1〜3時間、室温で十分に攪拌する。
次に、得られたゲル溶液から生成したエタノールを真空下で除去する。エタノールの除去が不十分の場合は、ベータゼオライトが生成しにくくなるおそれがある。
エタノール除去後、必要に応じてフッ化水素水溶液を添加し、生成するベータゼオライトの結晶粒子径を調整することができる。
かくして得られたゲル溶液をオートクレーブに投入し、120〜200℃、好ましくは140〜160℃で攪拌しながら5〜8日間水熱合成を行う。水熱合成後、濾過により固形物(ベータゼオライト)を分離し、イオン交換水で十分に洗浄する。
【0015】
最後に400〜600℃、好ましくは450〜550℃で空気中にて5〜20時間焼成を行い、型剤を除去してアルミニウム含有ベータゼオライトを得る。この焼成を行わずに型剤を含んだまま次の工程2で使用すると、最終目的生成物である外表面がシリカから成るベータゼオライトができにくくなる傾向があるので好ましくない。
【0016】
次に、外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する工程2について説明する。
工程2においても必要なゲル調製を初めに行う。型剤としては工程1で使用したテトラエチルアンモニウムヒドロキシドまたはテトラエチルアンモニウムフルオライドを用いることができる。型剤はそのまま用いても良いが、通常20〜50質量%の水溶液として用いるのが好ましい。この型剤の水溶液にシリカ源として例えばテトラエトキシシランを加えて、室温で30分以上、好ましくは1時間以上攪拌する。攪拌時間が30分未満の場合、外表面がシリカから成るベータゼオライトが生成しにくくなる傾向にあるので好ましくない。
【0017】
次に、上記の混合溶液を脱気下(例えばエバポレーター使用)で生成したエタノールと水を除去し、最後に水およびフッ化水素水溶液を加えて下記に示す組成のゲル溶液を調製する。
ゲル溶液の組成として、ケイ素1に対する窒素の重量比は0.4〜0.8であり、フッ素の重量比は0.3〜0.8であり、水の重量比は5〜10である。これら重量範囲を満たさない場合、目的生成物である外表面がシリカから成るベータゼオライトを合成することはできないので好ましくない。
【0018】
得られたゲル溶液に工程1で合成したアルミニウム含有ベータゼオライトを入れる。アルミニウム含有ベータゼオライトのゲル溶液に対する質量割合は、好ましくは0.3〜10質量%であり、より好ましくは1.0〜6.0質量%である。この割合が0.3質量%未満ではアモルファスシリカが副生する傾向にあり、また10質量%を超えるとアルミニウムが外表面に一部露出する傾向にあるので好ましくない。
【0019】
また、アルミニウム含有ベータゼオライトはゲル溶液調製後に入れる必要があり、ゲル溶液調製中に入れると目的生成物である外表面がシリカから成るベータゼオライトが生成しにくくなる傾向にあるので好ましくない。
【0020】
ゲル溶液および核となるアルミニウム含有ベータゼオライトをオートクレーブに投入し、水熱合成を行う。温度は110〜200℃であり、好ましくは140〜170℃である。合成温度が110℃未満または200℃を超えると目的生成物を得ることができない。
また、水熱合成時の攪拌速度および攪拌時間も重要な因子である。攪拌速度は3〜20回転/分が好ましい。また、攪拌時間は10時間以上30時間以下が好ましく、15〜20時間が更に好ましい。攪拌時間が10時間未満ではアモルファスシリカが副生する傾向にあり、また30時間を超えると生成物の外表面にアルミニウムが存在する傾向にあるので好ましくない。
【0021】
所定時間攪拌が終了した後は、合成温度を保持したまま、好ましくは50時間以上、より好ましくは70時間以上静置して水熱合成を終了する。
水熱合成終了後、固形物(目的のベータゼオライト)と液をろ過分離し、更にイオン交換水で洗浄する。最後に400〜600℃、好ましくは450〜550℃で空気中にて、好ましくは3〜20時間焼成を行い、型剤を除去して外表面がシリカから成るベータゼオライトを得る。
【実施例】
【0022】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
(アルミニウム含有ベータゼオライトの合成)
以下のようにしてアルミニウム含有ベータゼオライトを合成した。
200mlのポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに型剤であるテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(35%水溶液)25.1gと硝酸アルミニウム9水和物1.52gを攪拌しながら混合し、次いでテトラエトキシシラン20.7gを入れて1.5時間攪拌を続けた。
この混合溶液をエバポレータに移し、真空下、40℃に加温して生成したエタノールおよび水を除去した。残存物に以下に示すゲル比になるように水およびフッ化水素水溶液(46%水溶液)2.59gを加えて、ゲル溶液を調製した。この時のゲル組成は重量比でSi:Al:N:F:HO=1:0.04:0.6:0.6:7.5である。
得られたゲル溶液を45mlのオートクレーブ2個に均等に入れ、150℃で水熱合成を行った。水熱合成時は、攪拌を20回転/分の速度で60時間行った後、115時間静置した。生成した固形物と液とをろ過分離し、固形物をイオン交換水で十分に洗浄した。
最後に固形物を550℃で4時間空気中焼成し、目的のアルミニウム含有ベータゼオライトを得た。
固形物がベータゼオライトであることはX線回折測定により確認し、またその結晶粒子径は6〜9μmであることが走査電子顕微鏡測定からわかった。
ここで得られたアルミニウム含有ベータゼオライトは、以下に示す実施例および比較例に共通して使用するものである。
【0024】
(実施例1)
200mlのポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに型剤であるテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(35%水溶液)25.1gとテトラエトキシシラン20.7gを入れて1.5時間攪拌を続けた。
この混合溶液をエバポレータに移し、真空下、40℃に加温して生成したエタノールおよび水を除去した。残存物に以下に示すゲル比になるように水およびフッ化水素水溶液(46%水溶液)2.59gを加えて、ゲル溶液を調製した。この時のゲル組成は重量比でSi:N:F:HO=1:0.6:0.6:7.5である。
得られたゲル溶液および核となるアルミニウム含有ベータゼオライト0.50gを45mlのオートクレーブ2個に均等に入れ、140℃で水熱合成を行った。水熱合成時は、攪拌を20回転/分の速度で20時間行った後、90時間静置した。生成した固形物と液とをろ過分離し、固形物をイオン交換水で十分に洗浄した。
最後に固形物を550℃、4時間空気中で焼成した。得られた固体の粒子径およびその固体が単結晶であるかどうかを判断する為、走査電子顕微鏡測定を行った。また、外表面がシリカから成ることを確認するため、蛍光X線分析を行った。それら測定結果を表1に示す。
【0025】
(比較例1)
200mlのポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに型剤であるテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(35%水溶液)25.1gとテトラエトキシシラン20.7gを混合した際に、同時にアルミニウム含有ベータゼオライト0.50gも混合したこと以外は実施例1と同様の合成を行った。得られた固体の粒子径およびその固体が単結晶であるかどうかを判断する為、走査電子顕微鏡測定を行った。また、外表面がシリカから成ることを確認するため、蛍光X線分析を行った。それら測定結果を表1に示す。
【0026】
(比較例2)
調製したゲル溶液の中にフッ化水素水溶液を入れなかったこと以外は、実施例1と同様の合成を行った。得られた固体の粒子径およびその固体が単結晶であるかどうかを判断する為、走査電子顕微鏡測定を行った。また、外表面がシリカから成ることを確認するため、蛍光X線分析を行った。それら測定結果を表1に示す。
【0027】
(比較例3)
水熱合成時の攪拌時間を50時間行ったこと以外は実施例1と同様の合成を行った。得られた固体の粒子径およびその固体が単結晶であるかどうかを判断する為、走査電子顕微鏡測定を行った。また、外表面がシリカから成ることを確認するため、蛍光X線分析を行った。それら測定結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
以上より、特殊な条件下でのみ外表面がシリカから成るベータゼオライトが合成できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含有するベータゼオライトの外表面がシリカから成ることを特徴とするベータゼオライト。
【請求項2】
アルミニウムを含有するベータゼオライトを製造する工程1、およびフッ化水素を用いてゲル溶液を調製後、該ゲル溶液に工程1で製造したアルミニウムを含有するベータゼオライトを入れ、110〜200℃で10時間以上30時間以下の攪拌条件下に水熱合成を行なう工程2からなることを特徴とする外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する方法。
【請求項3】
工程1が焼成過程を伴うことを特徴とする請求項2に記載の外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する方法。
【請求項4】
ゲル溶液の組成が、ケイ素1に対する窒素の重量比が0.4〜0.8、フッ素の重量比が0.3〜0.8、水の重量比が5〜10であることを特徴とする請求項2に記載の外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する方法。
【請求項5】
アルミニウム含有ベータゼオライトのゲル溶液に対する質量割合が、0.3〜10質量%であることを特徴とする請求項2に記載の外表面がシリカから成るベータゼオライトを製造する方法。

【公開番号】特開2008−222448(P2008−222448A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58273(P2007−58273)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】