説明

ベータ相非多孔性フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)フィルム及びその処理方法

本発明は、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)のベータ相の新しいフィルム、及び、高温で該フィルムの厚さ方向に沿って加圧して、該フィルムの気孔を除去するための方法に関する。加圧及び温度の相乗作用は、PVDFベータ相の気孔を除去し、フィルムの機械的特性(ヤング率、圧密降伏応力、破壊応力、降伏ひずみ、破断ひずみ)、電気的特性(誘電率、電気的破壊)、電気機械的特性(電気機械結合、圧電係数)を改善し、それにより、技術的応用にフィルムを使用できる。本発明によれば、全質量に対して95〜100質量%の範囲のベータ相からなり、50%以上の結晶化度を有する非多孔性材料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)ベータ相のフィルム及びその処理方法に関するものであり、それにより、該フィルムの気孔を除去し、該フィルムの機械的特性、電気的特性、及び電気機械的特性を改善することを目的とする。前記方法により得られる材料は、全質量に対して95〜100質量%の範囲のベータ相からなり、従来観察されたものよりも高い結晶化度を有している。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)は、興味深い焦電特性及び圧電特性を有する重合体であり、重要な電気光学的、電気機械的、生物医学的応用に用いられる材料として期待されている。
【0003】
この重合体は、少なくとも4つの異なる結晶相を示す。しかし、最も良い焦電特性及び圧電特性を有する相は、分極処理の後に得られるベータ相である。最近まで、このベータ相は、主として非極性アルファ相の中でフィルムを機械的に延伸することによってのみ得ることができ、最も簡単に得ることができた。この処理により、ベータ相が顕著なフィルムが得られるが、該フィルムは全質量に対して10〜20質量%の範囲のアルファ層も有していた。
【0004】
ベータ相のみの非配向性フィルムは、70℃以下の温度でジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルアセチアミド(DMA)を含む溶液からのPVDFの結晶体から得られた。その反面、この方法により得られるフィルムは、高い多孔性(60%程度。図1参照)を有していて、該多孔性により不透明(乳白色)かつ脆弱になっていて、その電気的特性を害し、フィルムの分極処理を不可能にする。
【0005】
多孔性ベータ相の応用に関する特許がある。次の特許は、主成分としてPVDFベータ相の気孔を有する製造物の構造に関するものである。特許文献1は、多孔性膜の構造に関し、特許文献2は、多孔性膜を得るための異なる方法に関し、特許文献3は、多孔性かつ防水性を有する膜の構造に関する。
【0006】
ベータ相に気孔を有していない製造物を得ることによる利点は、次の点である。第1の利点は、機械的特性及び電気的特性を改善することであり、これらの特性は気孔を増加させることによりかなり減少される。第2の利点は、電気活性特性(圧電性、焦電性、強誘電性)を改善することであり、これは多くの応用に有益であり、ベータ相の量に関連する。
【特許文献1】欧州特許出願公開第888211号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第2244180号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0256310号明細書
【非特許文献1】R. Gregorio Filho; M. Cestari J. Polym.Sci:Part B:Polym. Phys. 1994,32,859
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、機械的特性、電気的特性、及び電気機械的特性を改善することができるフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)からなるフィルム及びその処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、PVDFフィルム、及び、気孔を有しておらず、結晶破片が増加し、材料の機械的特性及び電気機械的特性が改善している、PVDFベータ相を得る方法に関する。
【0009】
従来、ベータ相の非多孔性フィルムは、非極性アルファ相を機械的に延伸することによって得られる。しかし、この方法で処理された材料には、アルファ相の材料が少量残存している。
【0010】
ベータ相のみの非配向性フィルムは、70℃以下の温度でジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルアセチアミド(DMA)を含む溶液からのPVDFの結晶体から得られる。これらのフィルムが高い多孔性を示すことは、上記特許文献に記載されている。
【0011】
第1の特徴として、本発明は、ベータ相のフィルムを処理するための方法であって、
(a)PVDFをDMF溶液又はDMA溶液に溶解させて、70℃以下の温度で該溶液からフィルムを得る工程と、
(b)(a)の工程で得られた該フィルムを、加熱下で加圧処理する工程とを含む。
【0012】
本発明の実施形態によれば、圧力は、厚み方向に沿って引加され、その大きさは7.5×10Paを超える。
【0013】
本発明の他の実施形態によれば、(b)の工程の温度は、140〜160℃の範囲の温度である。
【0014】
本発明の他の実施形態によれば、(b)の工程での加圧時間は、5分間を超える。
【0015】
第2の特徴として、本発明は、全質量に対して95〜100質量%の範囲のベータ相を含むPVDFフィルムに関し、構造に気孔を有していない点に特徴づけられる。
【0016】
本発明の実施形態によれば、PVDFフィルムは、100%を超える変形を伴う延伸により、配向する。
【0017】
本発明の他の実施形態によれば、PVDFフィルムは、60Mv/mを超える電界で分極される。
【0018】
本発明の他の実施形態によれば、処理条件によって、相対誘電率は7〜13の範囲である。
【0019】
本発明の他の実施形態によれば、処理条件によって、ヤング率は1×10〜4×10Paの範囲である。
【0020】
本発明の他の実施形態によれば、処理条件、分極状態、分極方法によって、圧電率d33は20〜35pC/Nの範囲であり、d31は、17〜25pC/Nの範囲である。
【0021】
本発明の他の実施形態によれば、フィルムの結晶化度は50%を超える。
【0022】
第3の特徴として、本発明のフィルムは、電気工学的、電気機械的、生物医学的応用に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、気孔を除去するための方法について説明する。
【0024】
溶液から直接得られたベータ−PVDFフィルムは、高い気孔率を有する(非特許文献1参照)。この気孔は、フィルムの分極処理を妨げ、その結果、圧電性、焦電性、強誘電性を含む技術的応用での活用を妨げる。さらに、機械的特性及び誘電特性は、気孔の存在により大幅に低下する。
【0025】
例えば、多孔性フィルムは、50%未満の変形で脆性破壊を示す。ところが、非多孔性フィルムは、500%を超える変形とフィルムの配向を可能にする。これは、技術的応用の観点から有益である。
【0026】
多孔性材料の誘電率は、材料と気孔との反応により形成され、結果として、非多孔性フィルムと比較して、大きな周波数分散と相対誘電率ともたらす(1kHz下で5:8)。
【0027】
最後に、多孔性フィルムが分極することはないという事実は、圧電性、焦電性、強誘電性の効果の利用を含む技術的応用の観点でその利用を妨げる。これらの効果は、多孔性フィルムにおいてそれほど重要ではなく、その上、非多孔性フィルムで得られる値は、アルファ−PVDFから延伸されることにより得られたフィルムと比較して、同程度であるか又は高い。
【0028】
20〜30mmの厚さを有するフィルムは、ガラス基板の上にPVDF(Atochem社製のFORAFLON 4000HD)を含有するN,N−ジメチルホルムアミド(DMF−Merk)溶液を塗布することにより得られた。溶液の初期濃度は、PVDFが20質量%であった。60℃の温度で60分間の時間で、溶媒の全蒸発が行われた。フィルムは、基板から除去され、油圧プレスにより、150℃の温度で10分間の時間、1.5×10Paの圧力を受けた。加圧前後のフィルムの赤外線スペクトル(FTIR)が、分光光度計パーキンエルマースペクトル1000により得られた。示差走査熱量測定分析(DSC)が、パーキンエルマーを用いて10℃/分の加熱速度で行われた。それらは、フィリップスXL30FEG電子顕微鏡による走査型電子顕微鏡(SEM)により得られ た。
【0029】
次に、得られたベータPVDFフィルムの特徴を示す。
【0030】
図1は、60℃の温度で溶液からの結晶体から得られたフィルムの写真を示す。これらの条件において、フィルムはベータ相のみに結晶化する(非特許文献1参照)。しかし、このとき、フィルムは、該フィルムを不透明(乳白色)かつ脆弱にする高い多孔性を有して結晶化する。この乳白色の外観は、図1に示すように、スフェルライト間の空孔に起因するものであり、この空孔が、可視光を反射、屈折させるだけでなく、スペクトルのベースラインでの傾きを引き起こす900〜4000cm-1の範囲の赤外線さえも反射、屈折させる固体/空気界面を生成する。フィルムの中心で、加圧された円形の領域を観察することができる。この領域では、フィルムは、透明で、優れた柔軟性を有する。
【0031】
図2の加圧前のフィルムの表面のSEM顕微鏡写真から、気孔率の上昇を引き起こすスフェルライト間の空孔を観察することができる。図3及び図4は、それぞれ加圧前後のフィルムの破損領域を示す。ここでは、フィルムの気孔率の大きな減少が明らかである。フィルムは、液体窒素に浸漬された後に破壊された。
【0032】
図5はフィルムのFTIRスペクトルを示し、(a)は加圧前を示し、(b)は加圧後を示す。(a)及び(b)は、ともに、この方法により処理された材料にはベータ相のみが存在することを示す、510cm−1及び840cm−1の帯域を通ることが明らかである。これは、加圧処理が、単に厚みを小さくするだけであって、フィルム中に存在する結晶相を変化させないことを示している。
【0033】
図6は、フィルムのDSC温度グラフを示し、(a)は加圧前を示し、(b)は加圧後を示す。加圧後に溶解エンタルピーの値が小さく増加していることが明らかであり、これは、フィルムの結晶化度がわずかに増加していることを示している。ベータ相のみであり、気孔を有さず、非多孔性である、これらのフィルムの誘電特性、焦電特性、圧電特性のヒステリシス曲線は、いくつかの技術的応用を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】溶液から得られたフィルムの写真であり、加圧された透明の円形領域を示す。
【図2】60℃のDMFを含む溶液から得られたフィルム表面の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図3】フィルムの破損した領域のSEM画像である。
【図4】加圧後のフィルムの破損した領域のSEM画像である。
【図5】フィルムのFTIRスペクトルであり、(a)は加圧前を示し、(b)は加圧後を示す。
【図6】フィルムのDSC曲線であり、(a)は加圧前を示し、(b)は加圧後を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)をジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルアセチアミド(DMA)溶液に溶解させて、70℃以下の温度の該溶液からベータ相フィルムを得る工程と、
(b)加熱下で該フィルムを加圧する工程と
を含むことを特徴とするベータ相フィルムの処理方法。
【請求項2】
前記フィルムの厚さ方向に沿って、かつ7.5×10Paを超える圧力を該フィルムへ印加することを特徴とする請求項1記載のフィルムの処理方法。
【請求項3】
前記(b)工程での温度が140〜160℃の範囲の温度であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のフィルムの処理方法。
【請求項4】
前記(b)工程での加圧時間が5分を超える時間であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のフィルムの処理方法。
【請求項5】
微視的構造中に気孔を有していないことを特徴とする、全質量に対して95〜100質量%のベータ相を有するPVDFフィルム。
【請求項6】
100%を超える変形を伴う延伸により配向されることを特徴とする請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
60MV/mを超える電界で分極されることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のフィルム。
【請求項8】
相対誘電率が7〜13の範囲を超えることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
ヤング率が1×10〜4×10Paの範囲であることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項10】
圧電率d33が20〜35pC/Nの範囲であり、圧電率d31が17〜25pC/Nの範囲であることを特徴とする請求項5乃至請求項9のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
結晶化度が50%を超えることを特徴とする請求項5乃至請求項10のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項12】
前記フィルムを電気光学的、電気機械的、生物医学的応用に用いることを特徴とする請求項5乃至請求項11のいずれか1項に記載のフィルムの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−501826(P2009−501826A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522156(P2008−522156)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【国際出願番号】PCT/IB2006/052474
【国際公開番号】WO2007/010491
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(506202478)ウニベルシダージ ド ミーニョ (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DO MINHO
【Fターム(参考)】