ベーマイト複合粒子及びその製造方法
【課題】母材を使用の態様に応じた形状やサイズにコントロールできるベーマイト複合粒子を提供する。母材のベーマイトと共にベーマイト複合粒子を一工程で製造できる方法を提供する。母材に酸化セリウムを被覆する場合に比べ、低い濃度の酸化セリウムで同程度の紫外線遮断効果が得られる紫外線遮断剤を提供する。
【解決手段】ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウム又は酸化亜鉛で被覆してなることを特徴とするベーマイト複合粒子。ベーマイトの原料化合物と、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成することを特徴とするベーマイト複合粒子の製造方法。
【解決手段】ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウム又は酸化亜鉛で被覆してなることを特徴とするベーマイト複合粒子。ベーマイトの原料化合物と、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成することを特徴とするベーマイト複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウム又は酸化亜鉛で被覆したベーマイト複合粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーマイトは、AlO(OH)又はAl2O3・H2Oで表されるアルミナ1水和物で、プラスチック製品などの難燃用フィラーや補強用フィラー、塗料や化粧品の光輝用フィラーなどに使用される。ベーマイトは、その使用態様に応じ形状やサイズの制御が可能である(特許文献1〜5参照)。酸化セリウムは、CeO2で表される希土類のセリウムの4価の酸化物で、紫外線遮断剤やリン・ヒ素の吸着剤、研磨剤などに使用されるが、鉱物資源として入手が困難となっている。また、酸化亜鉛は、ZnOで表される酸化物で、紫外線遮断剤、顔料などに使用される。
【0003】
紫外線遮断剤は、紫外線を吸収及び/又は散乱させ、プラスチック、ゴム、色素などの有機材料の劣化、皮膚の炎症、皮膚の褐色化などの紫外線による障害を防止するもので、有機系紫外線遮断剤と無機系紫外線遮断剤がある。有機系紫外線遮断剤は、溶解性、経皮的な体内吸収性があるため安全性に懸念があり、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムを主とする無機系紫外線遮断剤が注目されている。酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムなどのナノ粒子は、合成時や混合時に凝集する傾向があり、化粧料やプラスチックなどに用いた場合、むらが発生し透明性や紫外線遮断効果が低下するという問題があった。このような問題の解決策として、母材の表面を酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムなどで被覆する提案がある。例えば、合成フッ素雲母粒子の表面に酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを融着せしめた複合雲母粉体(特許文献6参照)、合成マイカ粉体に酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などで被覆した複合マイカ粉体(特許文献7参照)、マイカ、タルク、セリサイトなどから選ばれるフレーク状顔料表面を、酸化セリウムなどの不溶性セリウム化合物と不定形シリカで被覆した紫外線遮断剤がある(特許文献8参照)。
【0004】
しかし、上記の提案に用いられる母材の合成フッ素雲母粒子、合成マイカ粉体及びマイカ、タルク、セリサイトなどのフレーク状顔料は、形状やサイズのコントロールが容易ではないので、使用の態様に応じた形状やサイズにした母材に酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを被覆することは困難であった。すなわち、上記の複合雲母粉体、複合マイカ粉体及び紫外線遮断剤をパウダーファンデーションに添加する場合、母材は滑り性の良い、サイズが大きくアスペクト比が大きい板状が好ましく、化粧料がクリーム状、乳液状など液体のサンスクリーン剤の場合、母材は分散性の良いサイコロ状が好ましい。また、母材が針状であれば被充填物の強度を補強できると共に紫外線を遮断することができる。
さらに、酸化セリウムを砥粒として用いる場合、母材はころがり性のよいサイコロ状が好ましく、光ファイバーの研磨には母材は板状が好ましく、また研磨量に応じて種々のサイズの砥粒とすることが好ましい。また、マイカ、タルク、セリサイトなどの天然物は不純物が多いという問題がある。さらに、上記の複合雲母粉体、複合マイカ粉体及び紫外線遮断剤の各製造方法は、母材の合成フッ素雲母粒子、合成マイカ粉体及びマイカ、タルク、セリサイトなどのフレーク状顔料を別途準備した上、これらの母材に酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを被覆する工程が必要である。また、上記の複合雲母粉体、複合マイカ粉体及び紫外線遮断剤は、紫外線遮断効果を高めるためには高い濃度の酸化セリウムが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−126735号公報
【特許文献2】特開2003−054941号公報
【特許文献3】特開2003−002641号公報
【特許文献4】特開2001−261331号公報
【特許文献5】特開2000−239014号公報
【特許文献6】特開平7−206424号公報
【特許文献7】特開平7−258031号公報
【特許文献8】特開平6−145645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたもので、母材を使用の態様に応じた形状やサイズにコントロールできるベーマイト複合粒子を提供することを課題とする。また、母材のベーマイトと共にベーマイト複合粒子を一工程で製造できる方法を提供することを課題とする。さらに、母材に酸化セリウムを被覆する場合に比べ、低い濃度の酸化セリウムで同程度の紫外線遮断効果が得られる紫外線遮断剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため本発明者等は鋭意検討を重ね本発明に想到した。
本発明は、ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウム又は酸化亜鉛で被覆してなることを特徴とするベーマイト複合粒子を要旨とする。この発明において、酸化チタンに被覆されるのは酸化セリウムでも良い。
【0008】
本発明は、ベーマイトと、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成又は加熱下において共沈法により合成することを特徴とする上記のベーマイト複合粒子の製造方法を要旨とする。また、本発明は、ベーマイトの原料化合物と、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成することを特徴とする上記のベーマイト複合粒子の製造方法を要旨とする。これらの製造方法において、酸化チタンの原料化合物をチタン酸水溶液としても良い。
【0009】
上記のベーマイト複合粒子からなることを特徴とする紫外線遮断剤を要旨とする。当該紫外線遮断剤を含む化粧料又はプラスチック組成物を要旨とする。
【0010】
上記のベーマイト複合粒子を含むことを特徴とするリン・ヒ素吸着剤を要旨とする。上記のベーマイト複合粒子を含むことを特徴とする研磨剤を要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のベーマイト複合粒子によれば、母材のベーマイトを使用の態様に応じた形状やサイズにコントロールできるので、利用性を高めることができる。
【0012】
本発明のベーマイト複合粒子の製造方法によれば、母材のベーマイトを使用の態様に応じた形状やサイズにコントロールされたベーマイト複合粒子を簡易に製造できる。また、ベーマイトの原料化合物と、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成するベーマイト複合粒子の製造方法によれば、母材のベーマイトと共にベーマイト複合粒子を一工程で製造することができ、製造コストの低減化に資することができる。
【0013】
本発明の紫外線遮断剤によれば、UV−A領域及びUV−B領域の紫外線を遮断できる。また、被充填物の使用の態様に応じてベーマイトの形状やサイズをコントロールできるので、紫外線の遮断効果を有する滑り性の良いパウダーファンデーションや分散性の良いクリーム状、乳液状など液体のサンスクリーン剤を提供できる。ベーマイトは、透明性があるので、透明感のある化粧料が提供でき、また自動車のヘッドライトカバーや太陽電池パネルの紫外線遮断コート材あるいは紫外線遮断フィラーとして用いることができる。また、母材に酸化セリウムを被覆する場合に比べ、低濃度の酸化セリウムで同程度の紫外線遮断効果が得られるので、入手の難しい酸化セリウムを節減できる。
【0014】
本発明のリン・ヒ素吸着剤によれば、酸化セリウムがナノサイズであるので、吸着特性に優れると共に、酸化セリウムが剥離し難い吸着剤を提供できる。
【0015】
本発明の研磨剤によれば、砥粒として用いる酸化セリウムの母材のベーマイトをサイコロ状にしたり、光ファイバーの研磨には板状にしたり、また研磨量に応じたサイズにすることができるので、被研磨物の精密研磨が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図2】実施例1のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。CeO2膜は、ベーマイト複合粒子と同量のナノサイズの酸化セリウムだけが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図3】実施例1のベーマイト複合粒子及びベーマイト複合粒子を5質量%添加した樹脂シートのX線回析結果である。
【図4】実施例1のベーマイト複合粒子が添加された樹脂シートの断面の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図5】実施例2のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図6】実施例2のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。CeO2膜は、ベーマイト複合粒子と同量のナノサイズの酸化セリウムだけが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図7】実施例3のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図8】実施例3のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。CeO2膜は、ベーマイト複合粒子と同量のナノサイズの酸化セリウムだけが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図9】実施例4のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図10】実施例5のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図11】実施例5のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図12】実施例6のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図13】実施例6のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のベーマイト膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図14】比較例1のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図15】比較例1のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。本発明のベーマイト複合粒子は、ベーマイトの表面に酸化チタンが被覆され、当該酸化チタンに酸化セリウム又は酸化亜鉛が被覆される。
【0018】
本発明のベーマイト複合粒子は、ベーマイト粉末、酸化チタンの原料化合物及び酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物の混合物をpHの調整後、水熱合成又は加熱下において共沈法により合成することにより製造できる。共沈法は、公知の方法により行うことができる。水熱合成の方が共沈法に比べ、ベーマイトと酸化チタンの結合及び酸化チタンと酸化セリウム又は酸化亜鉛の結合が強固になるので好ましい。酸化チタンの原料化合物とは、酸化チタンを合成するための原料となる化合物で、水溶性チタニウム化合物が好ましい。このような化合物として、チタンの各種塩化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物を挙げることができる。特に、チタン酸水溶液は、より効率よくベーマイト、酸化セリウム又は酸化亜鉛に吸着するので好ましい。この場合、ベーマイトと酸化セリウム又は酸化亜鉛を加えた懸濁液にチタン酸水溶液を加え、静電吸着法によりベーマイト複合粒子を製造することもできる。また、酸化セリウムの原料化合物とは、酸化セリウム又は酸化セリウムを合成するための原料となる化合物をいう。酸化セリウムを合成するための原料となる化合物は、水溶性セリウム化合物が好ましい。このような化合物として、セリウムの各種塩化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物を挙げることができる。酸化亜鉛の原料化合物とは、酸化亜鉛又は酸化亜鉛を合成するための原料となる化合物をいう。酸化亜鉛を合成するための原料となる化合物は、水溶性亜鉛化合物が好ましい。このような化合物として、亜鉛の各種塩化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物を挙げることができる。ベーマイトは、下記のベーマイトの原料化合物を水熱合成することにより製造できる。形状やサイズがコントロールされるベーマイトは、特許文献1〜特許文献5に記載の方法で製造できる。また、市販のものを用いることもできる。pHの調整は、各種の酸やアルカリを添加することにより行うことができる。
【0019】
また、本発明のベーマイト複合粒子は、ベーマイトの原料化合物、酸化チタンの原料化合物及び酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物の混合物をpHの調整後、水熱合成することにより製造できる。ベーマイトの原料化合物とは、ベーマイトを合成するための原料となる化合物であれば良く、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物を挙げることができる。この製造方法によれば、別途、ベーマイト粉末を準備することなく、母材のベーマイトと共にベーマイト複合粒子を一工程で製造することができる。ベーマイトの原料化合物として、0.5μm以上の大きなサイズのベーマイト複合粒子を所望する場合には水酸化アルミニウムが良く、また、1μm以下の小さなベーマイト複合粒子を所望する場合には硝酸アルミニウムなどの水溶性のアルミニウム塩が良い。なお、水酸化アルミニウムを粉砕して微細化した原料を使用することで0.5μm以下のベーマイト複合粒子を得ることができる。pHの調整は、ベーマイトを板状にするには、pH値10以上のアルカリ側へ、また、ベーマイトを粒状にするには、pH値7〜10未満程度にすると良い。また、ベーマイトの形状やサイズをコントロールするための特許文献1〜5に公知の化合物を上記の混合物に添加することができる。
【0020】
水熱合成は、上記の混合物と水を容器に取り、容器を密閉後加圧下にて加熱処理することにより行うことができる。加熱処理は、170〜220℃で行うのが好ましく、180〜200℃で行うのがより好ましい。加熱処理が170℃未満では、ベーマイト複合粒子を製造できないことがあり、220℃を超えると経済性が悪くなる。また、反応時間は、加熱方法、原料のサイズ、処理量によるため次の範囲に限定されるものではないが、10〜24時間が好ましい。また、加熱処理をマイクロ波加熱処理で行うことで、1時間ほどの短時間でベーマイト複合粒子を得ることができる。水熱合成後、得られたベーマイト複合粒子は、ろ過、水洗、乾燥などを行うことができる。
【0021】
上記の製造方法によれば、ベーマイトの表面に酸化チタンが被覆し、当該酸化チタンに酸化セリウム又は酸化亜鉛が被覆するが、以下にその機序を説明する。ベーマイトに酸化セリウムや酸化亜鉛を直接被覆した場合、その結合力は弱く、酸化セリウムや酸化亜鉛が剥離したり、酸化セリウムや酸化亜鉛がベーマイト表面に被覆せず、別の場所に凝集を作る現象が発生し、紫外線遮蔽などの被覆の効果が低下する。結合力が弱い理由は、それぞれのゼータ電位が近いことが一因と推察される。水溶液中のベーマイトの等電点と酸化セリウム又は酸化亜鉛の等電点はほぼ一致する(pH9-9.5)。一般にゼータ電位が同じ符号の化合物同士は結合し難く、ゼータ電位が異なる符号のものほど強固に結合することが知られている。そこで、等電点がpH4-6の酸化チタンを仲介層とすることで強固に結合し被覆することができる。具体的には、ベーマイトと酸化チタンと酸化セリウム又は酸化亜鉛の混合物が存在する系のpHを、中性からアルカリに調整することによりベーマイトの表面電位を「正」、酸化チタンの表面電位を「負」、酸化セリウム又は酸化亜鉛の表面電位を「正」にコントロールでき、ベーマイトと酸化チタンは強固に結合し、酸化チタンと酸化セリウム又は酸化亜鉛も強固に結合する。その結果、ベーマイトと酸化セリウム又は酸化亜鉛の材料間に酸化チタンを仲介層とすることでベーマイト複合粒子全体を強固に結合し被覆できる。
【0022】
本発明のベーマイト複合粒子は、ベーマイトの形状やサイズをコントロールできるので、既述のように使用の態様に応じ、ベーマイトをすべり性の良い、サイズが大きくアスペクト比が大きい板状にしたり、分散性の良いサイコロ状にすることができる。また、透明感のある化粧料、自動車のヘッドライトカバーや太陽電池パネルの紫外線遮断コート材などに用いる場合、これらの用途は透明性が重要であるため、ベーマイトの厚さを可視光の波長以下、好ましくは50nm以下にコントロールすることで対応できる。酸化セリウムを砥粒として用いる場合、母材のベーマイトをサイコロ状にしたり、また研磨量に応じたサイズにすることができる。さらに、酸化セリウムをリンやヒ素の吸着剤として用いる場合、酸化セリウムよりサイズが大きいベーマイトが母材となるので酸化セリウムをナノサイズにしてもナノ粒子が凝集することがなく、比表面積(吸着サイト)が増加し吸着特性に優れると共に、酸化チタンと酸化セリウムとの結合及びベーマイトと酸化チタンの結合が強く、従来のプラスチックに酸化セリウムを被覆した吸着剤に比べ、酸化セリウムが剥離し難い吸着剤とできる。また、大きなベーマイトを母材とすることで、吸着処理後の吸着剤回収工程で固液分離しやすくなる。
【0023】
また、水熱合成で得られたベーマイト複合粒子は、焼成することができる。焼成の温度範囲及び焼成時間は、500〜1350℃/1〜10時間が好ましい。焼成時間が1時間未満では、焼成物が得られないことがあり、また10時間を超えると経済性が悪くなる。
比表面積を高くしたいときは、低温度で焼成し、また、α−アルミナ化及び比表面積を小さくしたいときは高温度で焼成する。さらに、低温で長時間焼成するほど形状を崩さずα−アルミナ化及び比表面積を小さくできる。なお、焼成するとベーマイトがアルミナになるが、アルミナ化すると透明性が低下するため、透明性を必要とする場合は焼成せずベーマイトを母材とすることが良い。
【実施例】
【0024】
次いで、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0025】
〔実施例1〕
ベーマイトの原料として板状のベーマイト粉末(河合石灰工業製)、酸化セリウムの原料化合物として硝酸セリウム(関東化学製)水溶液、酸化チタンの原料化合物として硫酸オキシチタン(ナカライテスク製)を選定し、混合割合を変えて、板状のベーマイト複合粒子を合成した。テフロン(登録商標)容器にベーマイト粉末と2mol/lの硝酸セリウム、硫酸オキシチタンをモル比で各80:10:10とり、pH調整剤として水酸化ナトリウムを15mol%添加し、pHを12.5に調整した。テフロン(登録商標)容器を耐圧性金属容器中に入れ、乾燥器にて200℃で20時間の加熱処理を施し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。
【0026】
合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。ベーマイト複合粒子0.1gとシリコン樹脂(信越化学製、KE-1300T)1.9gをとり、これを磨りガラスを用いて混合し、真空脱気を行った。その後、アプリケータを用いてガラス板上に厚み約20μmにベーマイト複合粒子を塗布し、60℃にて1時間保持して固化させ、樹脂シートを加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮断率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図1に合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また図2に測定した透過率を示した。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。UV-A領域とUV-B領域の紫外線を約83%遮断した。
【0027】
上記のベーマイト複合粒子について配向のしやすさ、滑りやすさを示すため、図3に樹脂シート中のベーマイト複合粒子の配向性についてX線回折結果を示した。図3からはベーマイト複合粒子の樹脂シート中の分散状態が分かる。X線回折の結果、樹脂シート中ではベーマイト複合粒子のb軸のみの回折しか得られないことからb軸配向していることが分かった。また図4から板状のベーマイト複合粒子(丸内部)は同じ面を向いており、ベーマイト複合粒子が並びやすいことが分かった。このことは、配向することにより、紫外線を遮断する面の面積が増え、効率的に紫外線を遮断することができることを示唆する。
【0028】
〔実施例2〕
実施例1で合成した板状のベーマイト複合粒子を800℃で焼成した。焼成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。焼成したベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮断率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図5に焼成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また、図6に測定した透過率を示した。その結果、未焼成粒子と同様にUV-A領域とUV-B領域の紫外線を遮断することを確認した。
【0029】
〔実施例3〕
板状のベーマイトの原料化合物として水酸化アルミニウム粉末、酸化セリウムの原料化合物として硝酸セリウム(関東化学製)水溶液、酸化チタンの原料化合物として硫酸オキシチタン(ナカライテスク製)を選定し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。テフロン(登録商標)容器に水酸化アルミニウム粉末と2mol/lの硝酸セリウム、硫酸オキシチタンをモル比で各80:10:10とり、pH調整剤として水酸化ナトリウムを15mol%添加し、pHを12.5に調整した。テフロン(登録商標)容器を耐圧性金属容器中に入れ、乾燥器にて200℃で20時間の加熱処理を施した。合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。これらのベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮蔽率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図7に合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また図8に測定した透過率を示した。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。紫外線遮蔽については約80%遮蔽した。
【0030】
〔実施例4〕
板状のベーマイトの原料化合物として硝酸アルミニウム(関東化学製)水溶液、酸化セリウムの原料化合物として硝酸セリウム(関東化学製)水溶液、酸化チタンの原料化合物として硫酸オキシチタン(ナカライテスク製)を選定し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。テフロン(登録商標)容器に2mol/lの硝酸アルミニウム、硝酸セリウムと硫酸オキシチタンをモル比にて各60:30:10とり、pH調整剤として水酸化ナトリウムを15mol%添加し、pHを12.5に調整した。テフロン(登録商標)容器を耐圧性金属容器中に入れ、乾燥器にて200℃で20時間の加熱処理を施した。合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。図9にベーマイト複合粒子のSEM写真を示す。その結果、大きさ300〜500nmの板状ナノ粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。
【0031】
〔実施例5〕
板状のベーマイト原料としてベーマイト粉末、酸化亜鉛の原料化合物として硝酸亜鉛(関東化学製)水溶液、酸化チタンの原料化合物としてチタン酸水溶液(チタン-n-ブトキシド(関東化学製)、乳酸(関東化学製)、水を混合しブタノールを除去して作製)を選定し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。容器にベーマイト粉末と1mol/lの硝酸亜鉛水溶液、チタン酸水溶液をモル比で各70:25:5とり、撹拌混合しながら水酸化ナトリウムを添加して、pH8に調整した。得られた懸濁液を吸引ろ過及び水洗して沈殿物を得た。
この沈殿物を乾燥器にて150℃で4時間加熱処理を施した。合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。ベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮蔽率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図10に合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また図11に測定した透過率を示した。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化亜鉛ナノ粒子が分散している状態を確認した。紫外線遮蔽については約80%遮蔽した。
【0032】
〔実施例6〕
板状のベーマイト原料としてベーマイト(河合石灰工業製)、酸化セリウムの原料として酸化セリウム粉末(日本イットリウム工業製)、酸化チタンの原料化合物としてチタン酸水溶液(チタン-nブトキシド(関東化学製)、乳酸(関東化学製)、水を混合し、n-ブタノールを除去して作製)を選定し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。容器にベーマイト粉末と酸化セリウム粉末、1mol/lのチタン酸水溶液をモル比にて各75 : 20 : 5とり、撹拌混合しながら水酸化ナトリウムを添加して、pH8に調整した。得られた懸濁液を吸引ろ過及び水洗して沈殿物を得た。この沈殿物を乾燥器にて150℃で4時間加熱処理を施した。合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。ベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮蔽率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図12に合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示す。また図13に測定した透過率を示す。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。紫外線遮蔽については約90%遮蔽した。
【0033】
〔比較例1〕
ベーマイトの原料として板状のベーマイト粉末(河合石灰工業製)、酸化セリウムの原料化合物として硝酸セリウム(関東化学製)水溶液を選定し、混合割合を変えて、板状のベーマイト複合粒子を合成した。テフロン(登録商標)容器にベーマイト粉末及び硝酸セリウムをモル比で各90:10、80:20、70:30、60:40取り、pH調整剤として水酸化ナトリウムを15mol%添加し、pHを12.5に調整した。テフロン(登録商標)容器を耐圧性金属容器中に入れ、乾燥器にて180℃で24時間の加熱処理を施し、ベーマイト複合粒子を合成した。
【0034】
合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。ベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮断率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図14にモル比70:30で合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また図15に測定した透過率を示した。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。紫外線遮断については60:40の比において約80%遮断した。しかし、紫外線遮断について、約80%の遮断率を得るために硝酸セリウムを40mol%が必要であったが、実施例1では10mol%の硝酸セリウムで約83%遮断率が得られた。このことより、ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウムで被覆することにより紫外線遮断率を高めることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のベーマイト複合粒子は、紫外線遮断剤として用いることができ、化粧品分野やプラスチック製品分野において有用である。また、本発明のベーマイト複合粒子は、研磨剤として用いることができ、液晶分野や電子部品分野において有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウム又は酸化亜鉛で被覆したベーマイト複合粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーマイトは、AlO(OH)又はAl2O3・H2Oで表されるアルミナ1水和物で、プラスチック製品などの難燃用フィラーや補強用フィラー、塗料や化粧品の光輝用フィラーなどに使用される。ベーマイトは、その使用態様に応じ形状やサイズの制御が可能である(特許文献1〜5参照)。酸化セリウムは、CeO2で表される希土類のセリウムの4価の酸化物で、紫外線遮断剤やリン・ヒ素の吸着剤、研磨剤などに使用されるが、鉱物資源として入手が困難となっている。また、酸化亜鉛は、ZnOで表される酸化物で、紫外線遮断剤、顔料などに使用される。
【0003】
紫外線遮断剤は、紫外線を吸収及び/又は散乱させ、プラスチック、ゴム、色素などの有機材料の劣化、皮膚の炎症、皮膚の褐色化などの紫外線による障害を防止するもので、有機系紫外線遮断剤と無機系紫外線遮断剤がある。有機系紫外線遮断剤は、溶解性、経皮的な体内吸収性があるため安全性に懸念があり、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムを主とする無機系紫外線遮断剤が注目されている。酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムなどのナノ粒子は、合成時や混合時に凝集する傾向があり、化粧料やプラスチックなどに用いた場合、むらが発生し透明性や紫外線遮断効果が低下するという問題があった。このような問題の解決策として、母材の表面を酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムなどで被覆する提案がある。例えば、合成フッ素雲母粒子の表面に酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを融着せしめた複合雲母粉体(特許文献6参照)、合成マイカ粉体に酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などで被覆した複合マイカ粉体(特許文献7参照)、マイカ、タルク、セリサイトなどから選ばれるフレーク状顔料表面を、酸化セリウムなどの不溶性セリウム化合物と不定形シリカで被覆した紫外線遮断剤がある(特許文献8参照)。
【0004】
しかし、上記の提案に用いられる母材の合成フッ素雲母粒子、合成マイカ粉体及びマイカ、タルク、セリサイトなどのフレーク状顔料は、形状やサイズのコントロールが容易ではないので、使用の態様に応じた形状やサイズにした母材に酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを被覆することは困難であった。すなわち、上記の複合雲母粉体、複合マイカ粉体及び紫外線遮断剤をパウダーファンデーションに添加する場合、母材は滑り性の良い、サイズが大きくアスペクト比が大きい板状が好ましく、化粧料がクリーム状、乳液状など液体のサンスクリーン剤の場合、母材は分散性の良いサイコロ状が好ましい。また、母材が針状であれば被充填物の強度を補強できると共に紫外線を遮断することができる。
さらに、酸化セリウムを砥粒として用いる場合、母材はころがり性のよいサイコロ状が好ましく、光ファイバーの研磨には母材は板状が好ましく、また研磨量に応じて種々のサイズの砥粒とすることが好ましい。また、マイカ、タルク、セリサイトなどの天然物は不純物が多いという問題がある。さらに、上記の複合雲母粉体、複合マイカ粉体及び紫外線遮断剤の各製造方法は、母材の合成フッ素雲母粒子、合成マイカ粉体及びマイカ、タルク、セリサイトなどのフレーク状顔料を別途準備した上、これらの母材に酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを被覆する工程が必要である。また、上記の複合雲母粉体、複合マイカ粉体及び紫外線遮断剤は、紫外線遮断効果を高めるためには高い濃度の酸化セリウムが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−126735号公報
【特許文献2】特開2003−054941号公報
【特許文献3】特開2003−002641号公報
【特許文献4】特開2001−261331号公報
【特許文献5】特開2000−239014号公報
【特許文献6】特開平7−206424号公報
【特許文献7】特開平7−258031号公報
【特許文献8】特開平6−145645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたもので、母材を使用の態様に応じた形状やサイズにコントロールできるベーマイト複合粒子を提供することを課題とする。また、母材のベーマイトと共にベーマイト複合粒子を一工程で製造できる方法を提供することを課題とする。さらに、母材に酸化セリウムを被覆する場合に比べ、低い濃度の酸化セリウムで同程度の紫外線遮断効果が得られる紫外線遮断剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため本発明者等は鋭意検討を重ね本発明に想到した。
本発明は、ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウム又は酸化亜鉛で被覆してなることを特徴とするベーマイト複合粒子を要旨とする。この発明において、酸化チタンに被覆されるのは酸化セリウムでも良い。
【0008】
本発明は、ベーマイトと、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成又は加熱下において共沈法により合成することを特徴とする上記のベーマイト複合粒子の製造方法を要旨とする。また、本発明は、ベーマイトの原料化合物と、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成することを特徴とする上記のベーマイト複合粒子の製造方法を要旨とする。これらの製造方法において、酸化チタンの原料化合物をチタン酸水溶液としても良い。
【0009】
上記のベーマイト複合粒子からなることを特徴とする紫外線遮断剤を要旨とする。当該紫外線遮断剤を含む化粧料又はプラスチック組成物を要旨とする。
【0010】
上記のベーマイト複合粒子を含むことを特徴とするリン・ヒ素吸着剤を要旨とする。上記のベーマイト複合粒子を含むことを特徴とする研磨剤を要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のベーマイト複合粒子によれば、母材のベーマイトを使用の態様に応じた形状やサイズにコントロールできるので、利用性を高めることができる。
【0012】
本発明のベーマイト複合粒子の製造方法によれば、母材のベーマイトを使用の態様に応じた形状やサイズにコントロールされたベーマイト複合粒子を簡易に製造できる。また、ベーマイトの原料化合物と、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成するベーマイト複合粒子の製造方法によれば、母材のベーマイトと共にベーマイト複合粒子を一工程で製造することができ、製造コストの低減化に資することができる。
【0013】
本発明の紫外線遮断剤によれば、UV−A領域及びUV−B領域の紫外線を遮断できる。また、被充填物の使用の態様に応じてベーマイトの形状やサイズをコントロールできるので、紫外線の遮断効果を有する滑り性の良いパウダーファンデーションや分散性の良いクリーム状、乳液状など液体のサンスクリーン剤を提供できる。ベーマイトは、透明性があるので、透明感のある化粧料が提供でき、また自動車のヘッドライトカバーや太陽電池パネルの紫外線遮断コート材あるいは紫外線遮断フィラーとして用いることができる。また、母材に酸化セリウムを被覆する場合に比べ、低濃度の酸化セリウムで同程度の紫外線遮断効果が得られるので、入手の難しい酸化セリウムを節減できる。
【0014】
本発明のリン・ヒ素吸着剤によれば、酸化セリウムがナノサイズであるので、吸着特性に優れると共に、酸化セリウムが剥離し難い吸着剤を提供できる。
【0015】
本発明の研磨剤によれば、砥粒として用いる酸化セリウムの母材のベーマイトをサイコロ状にしたり、光ファイバーの研磨には板状にしたり、また研磨量に応じたサイズにすることができるので、被研磨物の精密研磨が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図2】実施例1のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。CeO2膜は、ベーマイト複合粒子と同量のナノサイズの酸化セリウムだけが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図3】実施例1のベーマイト複合粒子及びベーマイト複合粒子を5質量%添加した樹脂シートのX線回析結果である。
【図4】実施例1のベーマイト複合粒子が添加された樹脂シートの断面の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図5】実施例2のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図6】実施例2のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。CeO2膜は、ベーマイト複合粒子と同量のナノサイズの酸化セリウムだけが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図7】実施例3のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図8】実施例3のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。CeO2膜は、ベーマイト複合粒子と同量のナノサイズの酸化セリウムだけが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図9】実施例4のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図10】実施例5のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図11】実施例5のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図12】実施例6のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図13】実施例6のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のベーマイト膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【図14】比較例1のベーマイト複合粒子の走査型電子顕微鏡による写真像である。
【図15】比較例1のベーマイト複合粒子の紫外線透過率を示すグラフである。実線のブランク膜は、樹脂シートの紫外線透過率を示し、破線のブランク膜は何も被覆されていないベーマイトが添加された樹脂シートの紫外線透過率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。本発明のベーマイト複合粒子は、ベーマイトの表面に酸化チタンが被覆され、当該酸化チタンに酸化セリウム又は酸化亜鉛が被覆される。
【0018】
本発明のベーマイト複合粒子は、ベーマイト粉末、酸化チタンの原料化合物及び酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物の混合物をpHの調整後、水熱合成又は加熱下において共沈法により合成することにより製造できる。共沈法は、公知の方法により行うことができる。水熱合成の方が共沈法に比べ、ベーマイトと酸化チタンの結合及び酸化チタンと酸化セリウム又は酸化亜鉛の結合が強固になるので好ましい。酸化チタンの原料化合物とは、酸化チタンを合成するための原料となる化合物で、水溶性チタニウム化合物が好ましい。このような化合物として、チタンの各種塩化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物を挙げることができる。特に、チタン酸水溶液は、より効率よくベーマイト、酸化セリウム又は酸化亜鉛に吸着するので好ましい。この場合、ベーマイトと酸化セリウム又は酸化亜鉛を加えた懸濁液にチタン酸水溶液を加え、静電吸着法によりベーマイト複合粒子を製造することもできる。また、酸化セリウムの原料化合物とは、酸化セリウム又は酸化セリウムを合成するための原料となる化合物をいう。酸化セリウムを合成するための原料となる化合物は、水溶性セリウム化合物が好ましい。このような化合物として、セリウムの各種塩化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物を挙げることができる。酸化亜鉛の原料化合物とは、酸化亜鉛又は酸化亜鉛を合成するための原料となる化合物をいう。酸化亜鉛を合成するための原料となる化合物は、水溶性亜鉛化合物が好ましい。このような化合物として、亜鉛の各種塩化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩、水酸化物を挙げることができる。ベーマイトは、下記のベーマイトの原料化合物を水熱合成することにより製造できる。形状やサイズがコントロールされるベーマイトは、特許文献1〜特許文献5に記載の方法で製造できる。また、市販のものを用いることもできる。pHの調整は、各種の酸やアルカリを添加することにより行うことができる。
【0019】
また、本発明のベーマイト複合粒子は、ベーマイトの原料化合物、酸化チタンの原料化合物及び酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物の混合物をpHの調整後、水熱合成することにより製造できる。ベーマイトの原料化合物とは、ベーマイトを合成するための原料となる化合物であれば良く、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物を挙げることができる。この製造方法によれば、別途、ベーマイト粉末を準備することなく、母材のベーマイトと共にベーマイト複合粒子を一工程で製造することができる。ベーマイトの原料化合物として、0.5μm以上の大きなサイズのベーマイト複合粒子を所望する場合には水酸化アルミニウムが良く、また、1μm以下の小さなベーマイト複合粒子を所望する場合には硝酸アルミニウムなどの水溶性のアルミニウム塩が良い。なお、水酸化アルミニウムを粉砕して微細化した原料を使用することで0.5μm以下のベーマイト複合粒子を得ることができる。pHの調整は、ベーマイトを板状にするには、pH値10以上のアルカリ側へ、また、ベーマイトを粒状にするには、pH値7〜10未満程度にすると良い。また、ベーマイトの形状やサイズをコントロールするための特許文献1〜5に公知の化合物を上記の混合物に添加することができる。
【0020】
水熱合成は、上記の混合物と水を容器に取り、容器を密閉後加圧下にて加熱処理することにより行うことができる。加熱処理は、170〜220℃で行うのが好ましく、180〜200℃で行うのがより好ましい。加熱処理が170℃未満では、ベーマイト複合粒子を製造できないことがあり、220℃を超えると経済性が悪くなる。また、反応時間は、加熱方法、原料のサイズ、処理量によるため次の範囲に限定されるものではないが、10〜24時間が好ましい。また、加熱処理をマイクロ波加熱処理で行うことで、1時間ほどの短時間でベーマイト複合粒子を得ることができる。水熱合成後、得られたベーマイト複合粒子は、ろ過、水洗、乾燥などを行うことができる。
【0021】
上記の製造方法によれば、ベーマイトの表面に酸化チタンが被覆し、当該酸化チタンに酸化セリウム又は酸化亜鉛が被覆するが、以下にその機序を説明する。ベーマイトに酸化セリウムや酸化亜鉛を直接被覆した場合、その結合力は弱く、酸化セリウムや酸化亜鉛が剥離したり、酸化セリウムや酸化亜鉛がベーマイト表面に被覆せず、別の場所に凝集を作る現象が発生し、紫外線遮蔽などの被覆の効果が低下する。結合力が弱い理由は、それぞれのゼータ電位が近いことが一因と推察される。水溶液中のベーマイトの等電点と酸化セリウム又は酸化亜鉛の等電点はほぼ一致する(pH9-9.5)。一般にゼータ電位が同じ符号の化合物同士は結合し難く、ゼータ電位が異なる符号のものほど強固に結合することが知られている。そこで、等電点がpH4-6の酸化チタンを仲介層とすることで強固に結合し被覆することができる。具体的には、ベーマイトと酸化チタンと酸化セリウム又は酸化亜鉛の混合物が存在する系のpHを、中性からアルカリに調整することによりベーマイトの表面電位を「正」、酸化チタンの表面電位を「負」、酸化セリウム又は酸化亜鉛の表面電位を「正」にコントロールでき、ベーマイトと酸化チタンは強固に結合し、酸化チタンと酸化セリウム又は酸化亜鉛も強固に結合する。その結果、ベーマイトと酸化セリウム又は酸化亜鉛の材料間に酸化チタンを仲介層とすることでベーマイト複合粒子全体を強固に結合し被覆できる。
【0022】
本発明のベーマイト複合粒子は、ベーマイトの形状やサイズをコントロールできるので、既述のように使用の態様に応じ、ベーマイトをすべり性の良い、サイズが大きくアスペクト比が大きい板状にしたり、分散性の良いサイコロ状にすることができる。また、透明感のある化粧料、自動車のヘッドライトカバーや太陽電池パネルの紫外線遮断コート材などに用いる場合、これらの用途は透明性が重要であるため、ベーマイトの厚さを可視光の波長以下、好ましくは50nm以下にコントロールすることで対応できる。酸化セリウムを砥粒として用いる場合、母材のベーマイトをサイコロ状にしたり、また研磨量に応じたサイズにすることができる。さらに、酸化セリウムをリンやヒ素の吸着剤として用いる場合、酸化セリウムよりサイズが大きいベーマイトが母材となるので酸化セリウムをナノサイズにしてもナノ粒子が凝集することがなく、比表面積(吸着サイト)が増加し吸着特性に優れると共に、酸化チタンと酸化セリウムとの結合及びベーマイトと酸化チタンの結合が強く、従来のプラスチックに酸化セリウムを被覆した吸着剤に比べ、酸化セリウムが剥離し難い吸着剤とできる。また、大きなベーマイトを母材とすることで、吸着処理後の吸着剤回収工程で固液分離しやすくなる。
【0023】
また、水熱合成で得られたベーマイト複合粒子は、焼成することができる。焼成の温度範囲及び焼成時間は、500〜1350℃/1〜10時間が好ましい。焼成時間が1時間未満では、焼成物が得られないことがあり、また10時間を超えると経済性が悪くなる。
比表面積を高くしたいときは、低温度で焼成し、また、α−アルミナ化及び比表面積を小さくしたいときは高温度で焼成する。さらに、低温で長時間焼成するほど形状を崩さずα−アルミナ化及び比表面積を小さくできる。なお、焼成するとベーマイトがアルミナになるが、アルミナ化すると透明性が低下するため、透明性を必要とする場合は焼成せずベーマイトを母材とすることが良い。
【実施例】
【0024】
次いで、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0025】
〔実施例1〕
ベーマイトの原料として板状のベーマイト粉末(河合石灰工業製)、酸化セリウムの原料化合物として硝酸セリウム(関東化学製)水溶液、酸化チタンの原料化合物として硫酸オキシチタン(ナカライテスク製)を選定し、混合割合を変えて、板状のベーマイト複合粒子を合成した。テフロン(登録商標)容器にベーマイト粉末と2mol/lの硝酸セリウム、硫酸オキシチタンをモル比で各80:10:10とり、pH調整剤として水酸化ナトリウムを15mol%添加し、pHを12.5に調整した。テフロン(登録商標)容器を耐圧性金属容器中に入れ、乾燥器にて200℃で20時間の加熱処理を施し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。
【0026】
合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。ベーマイト複合粒子0.1gとシリコン樹脂(信越化学製、KE-1300T)1.9gをとり、これを磨りガラスを用いて混合し、真空脱気を行った。その後、アプリケータを用いてガラス板上に厚み約20μmにベーマイト複合粒子を塗布し、60℃にて1時間保持して固化させ、樹脂シートを加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮断率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図1に合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また図2に測定した透過率を示した。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。UV-A領域とUV-B領域の紫外線を約83%遮断した。
【0027】
上記のベーマイト複合粒子について配向のしやすさ、滑りやすさを示すため、図3に樹脂シート中のベーマイト複合粒子の配向性についてX線回折結果を示した。図3からはベーマイト複合粒子の樹脂シート中の分散状態が分かる。X線回折の結果、樹脂シート中ではベーマイト複合粒子のb軸のみの回折しか得られないことからb軸配向していることが分かった。また図4から板状のベーマイト複合粒子(丸内部)は同じ面を向いており、ベーマイト複合粒子が並びやすいことが分かった。このことは、配向することにより、紫外線を遮断する面の面積が増え、効率的に紫外線を遮断することができることを示唆する。
【0028】
〔実施例2〕
実施例1で合成した板状のベーマイト複合粒子を800℃で焼成した。焼成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。焼成したベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮断率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図5に焼成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また、図6に測定した透過率を示した。その結果、未焼成粒子と同様にUV-A領域とUV-B領域の紫外線を遮断することを確認した。
【0029】
〔実施例3〕
板状のベーマイトの原料化合物として水酸化アルミニウム粉末、酸化セリウムの原料化合物として硝酸セリウム(関東化学製)水溶液、酸化チタンの原料化合物として硫酸オキシチタン(ナカライテスク製)を選定し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。テフロン(登録商標)容器に水酸化アルミニウム粉末と2mol/lの硝酸セリウム、硫酸オキシチタンをモル比で各80:10:10とり、pH調整剤として水酸化ナトリウムを15mol%添加し、pHを12.5に調整した。テフロン(登録商標)容器を耐圧性金属容器中に入れ、乾燥器にて200℃で20時間の加熱処理を施した。合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。これらのベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮蔽率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図7に合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また図8に測定した透過率を示した。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。紫外線遮蔽については約80%遮蔽した。
【0030】
〔実施例4〕
板状のベーマイトの原料化合物として硝酸アルミニウム(関東化学製)水溶液、酸化セリウムの原料化合物として硝酸セリウム(関東化学製)水溶液、酸化チタンの原料化合物として硫酸オキシチタン(ナカライテスク製)を選定し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。テフロン(登録商標)容器に2mol/lの硝酸アルミニウム、硝酸セリウムと硫酸オキシチタンをモル比にて各60:30:10とり、pH調整剤として水酸化ナトリウムを15mol%添加し、pHを12.5に調整した。テフロン(登録商標)容器を耐圧性金属容器中に入れ、乾燥器にて200℃で20時間の加熱処理を施した。合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。図9にベーマイト複合粒子のSEM写真を示す。その結果、大きさ300〜500nmの板状ナノ粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。
【0031】
〔実施例5〕
板状のベーマイト原料としてベーマイト粉末、酸化亜鉛の原料化合物として硝酸亜鉛(関東化学製)水溶液、酸化チタンの原料化合物としてチタン酸水溶液(チタン-n-ブトキシド(関東化学製)、乳酸(関東化学製)、水を混合しブタノールを除去して作製)を選定し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。容器にベーマイト粉末と1mol/lの硝酸亜鉛水溶液、チタン酸水溶液をモル比で各70:25:5とり、撹拌混合しながら水酸化ナトリウムを添加して、pH8に調整した。得られた懸濁液を吸引ろ過及び水洗して沈殿物を得た。
この沈殿物を乾燥器にて150℃で4時間加熱処理を施した。合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。ベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮蔽率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図10に合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また図11に測定した透過率を示した。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化亜鉛ナノ粒子が分散している状態を確認した。紫外線遮蔽については約80%遮蔽した。
【0032】
〔実施例6〕
板状のベーマイト原料としてベーマイト(河合石灰工業製)、酸化セリウムの原料として酸化セリウム粉末(日本イットリウム工業製)、酸化チタンの原料化合物としてチタン酸水溶液(チタン-nブトキシド(関東化学製)、乳酸(関東化学製)、水を混合し、n-ブタノールを除去して作製)を選定し、板状のベーマイト複合粒子を合成した。容器にベーマイト粉末と酸化セリウム粉末、1mol/lのチタン酸水溶液をモル比にて各75 : 20 : 5とり、撹拌混合しながら水酸化ナトリウムを添加して、pH8に調整した。得られた懸濁液を吸引ろ過及び水洗して沈殿物を得た。この沈殿物を乾燥器にて150℃で4時間加熱処理を施した。合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。ベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮蔽率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図12に合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示す。また図13に測定した透過率を示す。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化チタンが被覆し、酸化チタンに酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。紫外線遮蔽については約90%遮蔽した。
【0033】
〔比較例1〕
ベーマイトの原料として板状のベーマイト粉末(河合石灰工業製)、酸化セリウムの原料化合物として硝酸セリウム(関東化学製)水溶液を選定し、混合割合を変えて、板状のベーマイト複合粒子を合成した。テフロン(登録商標)容器にベーマイト粉末及び硝酸セリウムをモル比で各90:10、80:20、70:30、60:40取り、pH調整剤として水酸化ナトリウムを15mol%添加し、pHを12.5に調整した。テフロン(登録商標)容器を耐圧性金属容器中に入れ、乾燥器にて180℃で24時間の加熱処理を施し、ベーマイト複合粒子を合成した。
【0034】
合成したベーマイト複合粒子の各粒子径や形態は走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM-7001F)にて観察した。ベーマイト複合粒子を実施例1と同様にシリコン樹脂中に5質量%添加混合し、約20μmの厚さの樹脂シートに加工した。本樹脂シートの透過率(紫外線遮断率)を分光光度計(日本分光製V-670)により測定した。図14にモル比70:30で合成したベーマイト複合粒子のSEM写真を示した。また図15に測定した透過率を示した。その結果、ミクロン粒子のベーマイト上に酸化セリウムナノ粒子が分散している状態を確認した。紫外線遮断については60:40の比において約80%遮断した。しかし、紫外線遮断について、約80%の遮断率を得るために硝酸セリウムを40mol%が必要であったが、実施例1では10mol%の硝酸セリウムで約83%遮断率が得られた。このことより、ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウムで被覆することにより紫外線遮断率を高めることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のベーマイト複合粒子は、紫外線遮断剤として用いることができ、化粧品分野やプラスチック製品分野において有用である。また、本発明のベーマイト複合粒子は、研磨剤として用いることができ、液晶分野や電子部品分野において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウム又は酸化亜鉛で被覆してなることを特徴とするベーマイト複合粒子。
【請求項2】
酸化チタンに被覆されるのが、酸化セリウムであることを特徴とする請求項1に記載のベーマイト複合粒子。
【請求項3】
ベーマイトと、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベーマイト複合粒子の製造方法。
【請求項4】
ベーマイトと、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して加熱下において共沈法により合成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベーマイト複合粒子の製造方法。
【請求項5】
ベーマイトの原料化合物と、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベーマイト複合粒子の製造方法。
【請求項6】
酸化チタンの原料化合物がチタン酸水溶液であることを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のベーマイト複合粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のベーマイト複合粒子からなることを特徴とする紫外線遮断剤。
【請求項8】
請求項7に記載の紫外線遮断剤を含むことを特徴とする化粧料。
【請求項9】
請求項7に記載の紫外線遮断剤を含むことを特徴とするプラスチック組成物。
【請求項10】
請求項2に記載のベーマイト複合粒子を含むことを特徴とするリン・ヒ素吸着剤。
【請求項11】
請求項2に記載のベーマイト複合粒子を含むことを特徴とする研磨剤。
【請求項1】
ベーマイトの表面を酸化チタンで被覆し、当該酸化チタンを酸化セリウム又は酸化亜鉛で被覆してなることを特徴とするベーマイト複合粒子。
【請求項2】
酸化チタンに被覆されるのが、酸化セリウムであることを特徴とする請求項1に記載のベーマイト複合粒子。
【請求項3】
ベーマイトと、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベーマイト複合粒子の製造方法。
【請求項4】
ベーマイトと、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して加熱下において共沈法により合成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベーマイト複合粒子の製造方法。
【請求項5】
ベーマイトの原料化合物と、酸化チタンの原料化合物と、酸化セリウムの原料化合物又は酸化亜鉛の原料化合物と、を混合して水熱合成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベーマイト複合粒子の製造方法。
【請求項6】
酸化チタンの原料化合物がチタン酸水溶液であることを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のベーマイト複合粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のベーマイト複合粒子からなることを特徴とする紫外線遮断剤。
【請求項8】
請求項7に記載の紫外線遮断剤を含むことを特徴とする化粧料。
【請求項9】
請求項7に記載の紫外線遮断剤を含むことを特徴とするプラスチック組成物。
【請求項10】
請求項2に記載のベーマイト複合粒子を含むことを特徴とするリン・ヒ素吸着剤。
【請求項11】
請求項2に記載のベーマイト複合粒子を含むことを特徴とする研磨剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−214337(P2012−214337A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81051(P2011−81051)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(591051335)河合石灰工業株式会社 (11)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(591051335)河合石灰工業株式会社 (11)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【Fターム(参考)】
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