説明

ベーンポンプ

【課題】 ポンプを駆動させる必要がないとき、エンジン等の回転駆動体の負荷を低減することで、省エネルギー化を図る。
【解決手段】 ベーン6は磁性体で構成する一方、シャフト11またはロータ4を磁化する磁化手段Aを設け、この磁化手段Aによってシャフト11またはロータ4を磁化させたとき、シャフト11またはロータ4の磁力によって上記ベーン6をベーン収納溝5内に保持する一方、上記シャフト11またはロータ4が磁化されていない状態にあるとき、上記ベーン6がベーン収納溝5に対して進退自在となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操舵アシスト力を付与するパワーステアリングに用いるのに適したベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可変吐出量形ポンプを用いたり、あるいはポンプとパワーシリンダとの間に流量制御弁を接続したりして、パワーシリンダに供給する圧油の流量を制御する機能を備えたパワーステアリング装置が知られている。こうしたパワーステアリング装置は、ステアリングホイールの操舵状況や車速等の走行状況に応じて、パワーシリンダへ供給される流量を制御するようにしている。例えば、高速走行時のように、アシスト力があまり必要とされないときには、パワーシリンダへの供給流量を減少させてエネルギーロスを低減している。
なお、パワーシリンダに圧油を供給するポンプとしては、例えば特許文献1に示すベーンポンプが用いられる。
【特許文献1】特開平10−131873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように、ベーンポンプを用いたパワーステアリング装置においては、ベーンポンプのシャフトの駆動源となるエンジン等の回転駆動体に連係するとともに、エンジンの駆動力によってシャフトとロータとを一体回転させ、遠心力によってベーンをロータから突出させる。
そして、エンジンが駆動していれば、それに連係したシャフトも常に回転することとなる。シャフトが回転すれば、遠心力によってベーンが突出するので、アシスト力をほとんど必要としない場合にも、ベーンポンプからは常に圧油が吐出されることとなる。また、可変吐出量形ポンプを用いた場合には、カムリングとロータとの偏心量を小さくして吐出量を低減することができるが、この場合にも、常時圧油は吐出され続けてしまう。
このように、従来のベーンポンプは、上記アシスト力が必要ないとき、すなわち、ポンプを駆動させる必要がないときにもベーンポンプから常に圧油が吐出されるので、エンジン等の回転駆動体にはシャフトを介して常に駆動トルクが生じる。したがって、必要以上にエンジン等の回転駆動体の負荷が大きくなり、エネルギーロスを生じるという問題があった。
【0004】
この発明の目的は、ポンプを駆動させる必要がないとき、エンジン等の回転駆動体の負荷を低減することで、省エネルギー化を図るベーンポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、ボディと、このボディ内に設けたカムリングと、このカムリング内に回転自在に収容されたロータと、このロータを回転させるとともに回転駆動体に連係したシャフトと、上記ロータの外周に開口する複数のベーン収納溝と、このベーン収納溝に進退自在に設けた複数のベーンとを備えたベーンポンプを前提とする。
【0006】
上記の構成を前提として、第1の発明は、ベーンは磁性体で構成する一方、上記シャフトまたはロータを磁化する磁化手段を設け、この磁化手段によってシャフトまたはロータを磁化させたとき、シャフトまたはロータの磁力によって上記ベーンをベーン収納溝内に保持する一方、上記シャフトまたはロータが磁化されていない状態にあるとき、上記ベーンがベーン収納溝に対して進退自在となる点に特徴を有する。
なお、この発明における回転駆動体とは、エンジンや電動モータ等、自力で回転駆動力を発揮させられるものである。
【0007】
第2の発明は、上記磁化手段がシャフトを磁化する点に特徴を有する。
第3の発明は、上記磁化手段を、シャフトの外周に設けたコイルで構成するとともに、上記コイルを通電してシャフトを磁化させる点に特徴を有する。
第4の発明は、上記磁化手段を、シャフトの近傍に設けた永久磁石で構成するとともに、上記永久磁石をシャフトに近づけて当該シャフトを磁化させる点に特徴を有する。
【0008】
第5の発明は、上記磁化手段がロータを磁化する点に特徴を有する。
第6の発明は、上記磁化手段をロータの近傍に設けた電磁石で構成するとともに、上記電磁石を励磁してロータを磁化させる点に特徴を有する。
第7の発明は、上記磁化手段をロータの近傍に設けた永久磁石で構成するとともに、上記永久磁石をロータに近づけて当該ロータを磁化させる点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、例えばパワーステアリング用のベーンポンプの場合には、高速走行時等のアシスト力を必要としないとき、ベーンをベーン収納溝内に保持することができるので、ベーンが油を汲まないようにすることができる。したがって、シャフトが回転する際のトルクが非常に小さくなり、エンジン等の回転駆動体の負荷を低減して省エネルギー化を実現することができる。
第2の発明によれば、ボディやカバー内、あるいはボディの外側等、磁化手段を設ける場所が限定されることなく、設計の自由度が非常に高い。
第3の発明によれば、通電可能なコイルをシャフトの外周に設けるだけでよいので、きわめて簡素な構造で磁化手段を構成することができる。また、シャフトが電磁石の鉄芯(コア)として機能するので、ベーンを引きつける磁力が強く、シャフトの高速回転時等に遠心力が大きくなっても、確実にベーンをベーン収納溝内に保持することができる。
第4の発明によれば、例えば永久磁石を油圧で移動させることができる。このようにすれば、電気を必要とせずに磁化手段を構成することができる。また、ソレノイド等を用いて電気的に永久磁石を移動させることもできるが、このときに要する電力は、ベーンを引きつけるための磁力を発生させる電力に比べ極めて小さなもので足りる。したがって、エネルギー効率が極めて高い。
【0010】
第5の発明によれば、ベーンの近くに位置するロータを磁化するので、ベーンをベーン収納溝内に保持するための磁力を小さくすることができる。したがって、磁化手段を小型化することができる。
第6の発明によれば、通電可能な電磁石をロータの近傍に設けるだけでよいので、きわめて簡素な構造で磁化手段を構成することができる。
第7の発明によれば、例えば永久磁石を油圧で移動させることができる。このようにすれば、電気を必要とせずに磁化手段を構成することができる。また、ソレノイド等を用いて電気的に永久磁石を移動させることもできるが、このときに要する電力は、ベーンを引きつけるための磁力を発生させる電力に比べ極めて小さなもので足りる。したがって、エネルギー効率が極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1,2は、この発明をパワーステアリング用のベーンポンプに適用した例を示した図である。この図1,2を用いて、この発明の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、このベーンポンプは、ボディ1の側面をカバー2でふさぐとともに、このボディ1内にはカムリング3を組み込んでいる。このカムリング3は、図2に示すように、楕円形の内壁3aを有するとともに、当該カムリング3内にロータ4を回転自在に設けている。そして、このロータ4にはベーン収納溝5を放射状に複数形成するとともに、このベーン収納溝5内に磁性体からなるベーン6を進退自在に組み込んでいる。
【0012】
一方、図1に示すように、上記ボディ1およびカバー2内には、軸穴7,8を形成するとともに、これら軸穴7,8には、それぞれブッシュ9,10を設けている。そして、これらブッシュ9,10によって、シャフト11を回転自在に支持しており、このシャフト11も、ベーン6と同様に磁性体で構成している。上記シャフト11は、ロータ4の中心部分を貫通するとともに、ロータ4とシャフト11に形成したセレーションを介して、これら両者が固定されている。したがって、このシャフト11が上記ロータ4の駆動軸となる。なお、上記ボディ1およびカバー2には、後述するポンプ室P,Pに油を導く吸入通路12を形成している。
【0013】
また、ロータ4およびカムリング3の側面には、サイドプレート13を設けるとともに、このサイドプレート13の背面側、すなわちボディ1側に高圧室14を形成している。また、上記サイドプレート13には、一対の吐出ポート13a,13aを形成しており、この吐出ポート13a,13aによってポンプ室P,Pおよび高圧室14が連通し、高圧室14から図示しないパワーシリンダに圧油を導くようにしている。
そして、吸入通路12から吸い込んだ油は、次のようにして高圧室14側に吐出される。
【0014】
すなわち、図2に示すように、カムリング3とロータ4との間には一対のポンプ室P,Pが略180度位相をずらして形成されるとともに、カバー2側に形成した一対の吸入ポート15,15が、上記ポンプ室P,Pに開口する。なお、吸入ポート15,15は、上記吸入通路12に連通しており、吸入通路12に導かれた油が、吸入ポート15,15を介してポンプ室P,Pに導かれる。
一方、サイドプレート13に形成した上記吐出ポート13a,13aは、吸入ポート15,15と略90度位相をずらした位置において、ポンプ室P,Pに開口している。
【0015】
そして、図示しないエンジン等の回転駆動体により、シャフト11を回転すると、これと一体となってロータ4が回転する。このとき、ベーン6は、ロータ4の回転による遠心力によって、ロータ4に形成したベーン収納溝5から突出するが、カムリング3の内壁3aが楕円形をしているので、ベーン6はこの内壁3aに沿って、ベーン収納溝5に対して突出、没入を繰り返す。つまり、各ベーン6の先端がカムリング3の内壁3aに密接したまま回転するとともに、各ベーン6間のそれぞれが独立した室を区画形成する。
そして、各ベーン6がカムリング3の内壁3aに沿って突出、没入を繰り返すのにともなって、上記各室の容積は変化するが、上記室の容積が拡大する行程に入ったとき、油を吸い込む吸い込み行程となる。つまり、上記吸入ポート15,15がポンプ室P,Pに開口する位置において室の容積が拡大し、隣り合うベーン6によって区画される室内に油が吸入される。
【0016】
一方、各室が収縮する行程に入ったとき、油の吐出行程になる。つまり、上記吐出ポート13a,13aがポンプ室P,Pに開口する位置においてポンプ室の容積が収縮し、隣り合うベーン6によって区画される室内から次々と油が吐出される。
このように、室の容積が収縮する過程において高圧油が吐出されることになるが、この一対のポンプ室P,Pから吐出した圧油が、サイドプレート13の吐出ポート13a,13aに導かれる。そして、両吐出ポート13a,13aに導かれた圧油が、高圧室14において合流して図示していない通路を介してパワーシリンダに送られるとともに、この圧油によってアシスト力を付与することができる。
【0017】
そして、この第1実施形態では、図1に示すように、ボディ1の外側に磁化手段Aを設けている。
この磁化手段Aは、シャフト11の外周に設けたコイル16からなるが、このコイル16は、制御手段17によって通電されたり、あるいはその通電を停止されたりする。そして、この制御手段17に、車両の走行状況を検出する走行状況検出手段Bを電気的に接続している。
上記走行状況検出手段Bは、例えば車速を検出する車速センサや、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ、あるいはエンジン回転数を検出する回転センサ等であるが、この実施形態においては車速を検出しているものとする。
【0018】
そして、上記制御手段17には、コイル16を通電する条件をあらかじめ記憶させておき、当該設定条件を満たす検出信号を走行状況検出手段Bが検出したときのみ、コイル16を通電するようにしている。具体的には、操舵アシスト力をあまり必要としない高速走行時すなわちエンジンの高回転時や、アイドリングが一定時間経過したときに、コイル16を通電するようにしている。
上記のようにしてコイル16が通電すると、磁性体からなるシャフト11が磁化する。つまり、コイル16とシャフト11とが電磁石の関係にあり、シャフト11が電磁石の鉄芯として機能する。
シャフト11が磁化すると、図2からも明らかなように、ロータ4に組み込まれたベーン6は、シャフト11が磁化されたときの位置を維持したまま、ベーン収納溝5内に保持される。このとき、ロータ4が回転しているので、ベーン6は、遠心力によってベーン収納溝5から突出しようとする力が作用している。
【0019】
しかし、カムリング3の内壁3aは楕円形であるため、吐出工程において、ベーン6が内壁3aに沿ってベーン収納溝5内に押し込まれる。ベーン6がいったんベーン収納溝5内に押し込まれれば、シャフト11の磁力がベーン6の遠心力に打ち勝って、当該ベーン6がベーン収納溝5内に押し込まれた状態で保持されることとなる。
一方、上記の状態で、制御手段17がコイル16の通電を停止すると、シャフト11は磁石としての働きを失って磁力が消滅する。磁力が消滅すれば、ベーン6が再び遠心力によってベーン収納溝5から突出し、通常のポンプ作用を行うこととなる。
【0020】
いま、車両が通常の走行状態にあり、エンジンに連係したシャフト11が回転するとともに、これと一体となってロータ4が回転しているとする。このとき、ベーン6は遠心力によってベーン収納溝5から突出するので、ポンプ室P,Pから圧油が吐出されるとともに、この圧油がパワーシリンダに供給され、ステアリングホイールの操舵に応じたアシスト力が付与される。
上記の走行状態から車両が高速走行状態になったとする。走行状況検出手段Bは、車速を常時検出しており、あらかじめ設定した車速を超えると、制御手段17がコイル16を通電する。このようにコイル16が通電すれば、既に説明したとおりシャフト11が磁化して、ベーン6がベーン収納溝5内に保持されるとともに、当該ベーン6は、カムリング3の内壁3aによって、ロータ4内に押し込まれた状態に保持される。
【0021】
したがって、吐出ポート13a,13aから圧油が吐出されなくなり、ロータ4が空転することとなる。そして、ロータ4が空転すれば、その分シャフト11に作用するトルクが小さくなり、したがってエンジンの負荷も低減することができる。
なお、高速状態から通常の走行状態に戻った場合には、制御手段17がコイル16の通電を停止して、再び通常のポンプ作用が行われることとなる。
【0022】
次に、図3を用いてこの発明の第2実施形態について説明する。
ただし、この第2実施形態においては、磁化手段Aの構成のみ上記第1実施形態と異なり、その他の構成および作用については上記第1実施形態と同じである。したがって、上記第1実施形態と同じ構成については上記と同様の符号を付するとともに、ここでは、磁化手段Aについて説明する。
【0023】
この第2実施形態のベーンポンプは、図3に示すように、ボディ1の外側であってシャフト11の近傍に、永久磁石18からなる磁化手段Aを設けている。この永久磁石18は、駆動機構Cによってシャフト11の半径方向に移動する。上記駆動機構Cは、シリンダ19と、このシリンダ19に接続した電磁弁20とからなり、上記シリンダ19のロッド19aに上記永久磁石18を固定している。
そして、電磁弁20には、上記制御手段17を電気的に接続しており、制御手段17から切り換え信号が入力したとき、図面上側位置に切り換わるようにしている。したがって、通常は、シリンダ19のロッド側室19bに作動油が導かれて、永久磁石18が図示の位置に保たれているが、制御手段17から切り換え信号が入力すると、シリンダ19のピストン側室19cに作動油が導かれ、永久磁石18が図中点線で示す位置に移動することとなる。
【0024】
いま、車両が通常の走行状態にあり、エンジンに連係したシャフト11が回転するとともに、これと一体となってロータ4が回転しているとする。このとき、電磁弁20は図示の下側位置に保たれるので、ロッド側室19bに作動油が導かれるとともに、永久磁石18も図示の位置に保たれる。したがって、ベーン6は遠心力によってベーン収納溝5から突出し、ポンプ室P,Pから圧油が吐出されるとともに、この圧油がパワーシリンダに供給され、ステアリングホイールの操舵に応じたアシスト力が付与される。
【0025】
上記の走行状態から車両が高速走行状態になったとする。走行状況検出手段Bは、車速を常時検出しており、あらかじめ設定した車速を超えると、制御手段17が電磁弁20を図面上側位置に切り換える。
すると、シリンダ19のピストン側室19cに作動油が導かれるとともに、ロッド側室19b内の作動油がタンクに還流し、ロッド19aが伸長する。そして、ロッド19aの伸長にともなって、永久磁石18が図中点線で示す位置まで移動する。
【0026】
このようにシャフト11に永久磁石18が近づけば、シャフト11が磁化して、ベーン6がベーン収納溝5内に保持される。
したがって、吐出ポート13a,13aから圧油が吐出されなくなり、ロータ4が空転することとなる。そして、ロータ4が空転すれば、その分シャフト11に作用するトルクが小さくなり、したがってエンジン等の回転駆動体の負荷も低減することができる。
なお、高速状態から通常の走行状態に戻った場合には、制御手段17が電磁弁20を再び図面上側位置に切り換えるので、再び通常のポンプ作用が行われることとなる。
そして、上記第2実施形態においては、永久磁石18を作動油によって移動させる構成にしたが、駆動機構Cは上記の構成に限らない。例えば、永久磁石18をソレノイド等を用いて電気的に移動させるように駆動機構Cを構成してもよい。
【0027】
なお、磁化手段Aによってシャフト11を磁化する場合としては、図4に示す第3実施形態のように、ボディ1の外側であってシャフト11の近傍に、電磁石21を設けてもよい。このようにしても、上記第1,2実施形態と同様の作用、効果をえることができる。
また、上記第1〜3実施形態においては、シャフト11を磁化する磁化手段Aをボディ1の外側に設けたが、ボディ1内やカバー2内に組み込んでもよいこと当然である。
そして、磁化手段Aをロータ4に近づければ、それだけ磁化手段Aの磁力が小さくてもよくなるので、磁化手段Aの小型化が可能となる。
【0028】
次に、図5を用いてこの発明の第4実施形態について説明する。
ただし、この第4実施形態においては、電磁石21からなる磁化手段Aをカバー2に組み込むとともに、当該磁化手段Aによってロータ4を磁化する構成のみ上記第3実施形態と異なり、その他の構成および作用については上記第3実施形態と同じである。したがって、上記第3実施形態と同じ構成については上記と同様の符号を付するとともに、その詳細な説明は省略する。
【0029】
この第4実施形態のベーンポンプは、図5に示すように、カバー2に組み込み穴22を形成している。この組み込み穴22は、ロータ4とカバー2との対向面であって、ベーン収納溝5の底面近傍に開口している。
そして、上記組み込み穴22には、電磁石21からなる磁化手段Aを組み込むとともに、制御手段17によって電磁石21を励磁したり、あるいはその励磁を停止したりしている。
上記のようにして電磁石21が励磁されれば、当該電磁石21に生じる磁力によってロータ4が磁化する。ロータ4が磁化すれば、上述したとおりにベーン6をベーン収納溝5内に保持することができる。一方、電磁石21が励磁されていない状態では、ロータ4の磁力が消滅するので、ベーン6が再び遠心力によってベーン収納溝5から突出し、通常のポンプ作用を行うこととなる。
【0030】
この第4実施形態においても、上記第1〜3実施形態のベーンポンプと同様の作用、効果を得ることができる。
しかも、ロータ4は、シャフト11よりもベーン6の近くに位置しているので、シャフト11を磁化する場合よりも、小さな磁力でベーン6をベーン収納溝5内に保持することができる。したがって、磁化手段Aを小型化することが可能である。
なお、図5においては、カバー2内に電磁石21を2つ設けているが、電磁石21はいくつ設けても構わない。また、ロータ4を磁化すればよいので、電磁石21をロータ4に対向して位置させれば、その場所は特に限定されるものではない。ただし、図5に示すように、ベーン収納溝5の底部近傍に電磁石21を位置させれば、ベーン6をより確実に、しかも小さな磁力でベーン収納溝5内に保持することができる。
【0031】
次に、図6を用いてこの発明の第5実施形態について説明する。
ただし、この第5実施形態においては、永久磁石18からなる磁化手段Aをカバー2に組み込むとともに、当該磁化手段Aによってロータ4を磁化する点、および駆動機構Cの構成のみ上記第2実施形態と異なり、その他の構成および作用については上記第2実施形態と同じである。したがって、上記第2実施形態と同じ構成については上記と同様の符号を付するとともに、その詳細な説明は省略する。
【0032】
この第5実施形態のベーンポンプは、図6に示すように、カバー2に組み込み穴22を形成している。この組み込み穴22は、ロータ4とカバー2との対向面であって、ベーン収納溝5の底面近傍に開口している。
そして、上記組み込み穴22には、永久磁石18からなる磁化手段Aを組み込むとともに、駆動機構Cによって永久磁石18をロータ4に近づけたり、あるいはロータ4から遠ざけたりしている。
上記駆動機構Cは、シリンダ23と、このシリンダ23に接続した電磁弁24とからなり、上記シリンダ23のロッド23aに上記永久磁石18を固定している。なお、上記ロッド23aは、通常はスプリング25によって図面左側のストロークエンドに位置しており、永久磁石18はロータ4から離れて位置している。
【0033】
そして、電磁弁24には、上記制御手段17を電気的に接続しており、制御手段17から切り換え信号が入力したとき、図面上側位置に切り換わるようにしている。上記のようにして電磁弁24が図面上側位置に切り換わると、シリンダ23に作動油が導かれて、永久磁石18がロッド23aと一体となってロータ4側に移動する。
【0034】
いま、車両が通常の走行状態にあり、エンジンに連係したシャフト11が回転するとともに、これと一体となってロータ4が回転しているとする。このとき、電磁弁24は図示の下側位置に保たれるので、スプリング25によってシリンダロッド23aおよび永久磁石18が図示の位置に保たれる。したがって、ベーン6は遠心力によってベーン収納溝5から突出し、ポンプ室P,Pから圧油が吐出されるとともに、この圧油がパワーシリンダに供給され、ステアリングホイールの操舵に応じたアシスト力が付与される。
【0035】
上記の走行状態から車両が高速走行状態になったとする。走行状況検出手段Bは、車速を常時検出しているが、あらかじめ設定した車速を超えると、制御手段17が電磁弁24を図面上側位置に切り換える。
すると、シリンダ23に作動油が導かれるとともに、スプリング25の弾性力に抗してロッド23aが伸長する。そして、ロッド23aの伸長にともなって、永久磁石18がロータ4を磁化可能な位置まで移動する。
【0036】
このようにしてロータ4が磁化されれば、前述したとおりにベーン6がベーン収納溝5内に保持される。したがって、吐出ポート13a,13aから圧油が吐出されなくなり、ロータ4が空転することとなる。そして、ロータ4が空転すれば、その分シャフト11に作用するトルクが小さくなり、したがってエンジンの負荷も低減することができる。
そして、高速状態から通常の走行状態に戻った場合には、制御手段17が電磁弁24を再び図面上側位置に切り換えるので、ロータ4の磁化が解消され、再び通常のポンプ作用が行われることとなる。
なお、上記第5実施形態においては、永久磁石18を作動油によって移動させる構成にしたが、駆動機構Cは上記の構成に限らない。例えば、永久磁石18をソレノイド等を用いて電気的に移動させるように駆動機構Cを構成してもよい。
また、上記第4,5実施形態においては、ロータ4を磁化するため、当該ロータ4は、当然のこととして磁性体でなければならない。
さらに、上記第4,5実施形態においては、カバー2内に磁化手段Aを組み込んだが、ボディ1内に組み込んでもよい。
【0037】
なお、上記各実施形態においては、走行状況検出手段Bが車速を検出しているが、既に説明したように、エンジン回転数や操舵角等を検出しても構わない。いずれにしても、走行状況検出手段Bは、操舵アシスト力が必要でない状況を検出すればよい。
また、操舵アシスト力が必要でないときにシャフト11やロータ4を磁化するのであれば、制御手段17にあらかじめ設定する条件についても、適宜決定すればよい。
なお、上記各実施形態におけるサイドプレート13は、磁性体で構成するのが一般的である。サイドプレート13を磁性体で構成すると、シャフト11やロータ4の磁化にともなって、当該サイドプレート13も磁化してしまう。サイドプレート13が磁化すると、ベーン6がサイドプレート13側に引きつけられるとともに、当該ベーン6とサイドプレート13とが接触した状態で相対回転して、ロータ4の回転抵抗が多少大きくなることが考えられる。そのため、ロータ4の回転抵抗を極力小さくしたい場合には、サイドプレート13をセラミック等の非磁性体で構成することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1実施形態のベーンポンプを示す断面図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】第2実施形態のベーンポンプを示す断面図である。
【図4】第3実施形態のベーンポンプを示す断面図である。
【図5】第4実施形態のベーンポンプを示す断面図である。
【図6】第5実施形態のベーンポンプを示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ボディ
3 カムリング
4 ロータ
5 ベーン収納溝
6 ベーン
11 シャフト
16 コイル
18 永久磁石
21 電磁石
A 磁化手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディと、このボディ内に設けたカムリングと、このカムリング内に回転自在に収容されたロータと、このロータを回転させるとともに回転駆動体に連係したシャフトと、上記ロータの外周に開口する複数のベーン収納溝と、このベーン収納溝に進退自在に設けた複数のベーンとを備えたベーンポンプにおいて、上記ベーンは磁性体で構成する一方、上記シャフトまたはロータを磁化する磁化手段を設け、この磁化手段によってシャフトまたはロータを磁化させたとき、シャフトまたはロータの磁力によって上記ベーンをベーン収納溝内に保持する一方、上記シャフトまたはロータが磁化されていない状態にあるとき、上記ベーンがベーン収納溝に対して進退自在となる構成にしたベーンポンプ。
【請求項2】
上記磁化手段はシャフトを磁化する構成にした請求項1記載のベーンポンプ。
【請求項3】
上記磁化手段はシャフトの外周に設けたコイルで構成するとともに、このコイルに通電してシャフトを磁化させる請求項2記載のベーンポンプ。
【請求項4】
上記磁化手段はシャフトの近傍に設けた永久磁石で構成するとともに、この永久磁石をシャフトに近づけて当該シャフトを磁化させる請求項2記載のベーンポンプ。
【請求項5】
上記磁化手段はロータを磁化する構成にした請求項1記載のベーンポンプ。
【請求項6】
上記磁化手段はロータの近傍に設けた電磁石で構成するとともに、この電磁石を励磁してロータを磁化させる請求項5記載のベーンポンプ。
【請求項7】
上記磁化手段はロータの近傍に設けた永久磁石で構成するとともに、この永久磁石をロータに近づけて当該ロータを磁化させる請求項5記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−133222(P2009−133222A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308199(P2007−308199)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】