説明

ベーンロータリ型圧縮機

【課題】低騒音で商品性の高いベーンロータリ型圧縮機を提供すること。
【解決手段】内部に筒状の中空部を有するシリンダ3と、外周部の少なくとも一部が前記シリンダ3の内壁面に近接して回転自在に配設される略円筒状のロータ4と、前記ロータ4のベーン溝4b内に摺動自在に挿入され、先端が前記シリンダ3内壁面に当接し、前記シリンダ3と前記ロータ4相互間に形成された圧縮空間を少なくとも吸入空間17と吐出空間18に仕切るベーン5とを備え前記吸入空間17に連通する吸入孔9及び前記吐出空間18に連通する吐出孔10を備えたベーンロータリ型圧縮機であって、前記ベーン5の先端部5aに永久磁石6を設け、シリンダ3を鉄合金としたことで、常にベーン5をシリンダ3の内壁に接触させることができ、静寂性の高い圧縮機を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気流体の圧縮を行う圧縮機に関するもので、たとえば自動車空調装置などに用いられるベーンロータリ型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用ベーンロータリ型圧縮機は、エンジンの駆動力によりベルトを介して電磁クラッチのプーリを回転させ、電磁クラッチのON/OFFにより圧縮運転をする。図10、図11は、特許文献1に記載された従来のベーンロータリ型圧縮機を示すものである。図11に示すように、シリンダ51と、ロータ52と、ロータ52内に構成されたベーン溝53と、ベーン54と、吸入孔55と、作動室56、吐出孔57と、吐出弁58等から構成されている。
【0003】
電磁クラッチがONするとロータ52が回転し、リアケース61より背圧付与装置62を通じて、ガス又はオイルをベーン溝53部へ供給する。これによりベーン溝53部の圧力が上がりベーン54がロータ52のベーン溝53より飛び出し、ベーン先端部がシリンダ内面59に衝突する。その後ベーン54の先端部はシリンダ内面59に内接し、ロータ52とともに回転することで作動室56で冷媒が圧縮され、圧縮された冷媒が吐出孔57より吐出される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−090286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の構成では、リアケース61より背圧付与装置62を通じて、ガス又はオイルを供給することで、ベーン溝53部の背部に圧力を保持する構造となっている。そのため、上記従来の構成の場合、圧縮機起動時に、ベーン溝53部に、ガス又はオイルの供給遅れが発生し、ベーンが出遅れ、チャッタリングを起こすこともある。また、吐出孔57付近にて、ベーン54a前方の作動室56aの高圧冷媒を吐出する時に、ベーン54a前後の作動室56aと作動室56bの圧力バランスが変化するため、チャッタリングを起こすこともある。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、チャッタリングを防止し、商品性の高いベーンロータリ型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明のベーンロータリ型圧縮機は、内部に筒状の中空部を有するシリンダと、外周部の少なくとも一部が前記シリンダの内壁面に近接して回転自在に配設される略円筒状のアルミ製ロータと、前記ロータのベーン溝内に摺動自在に挿入され、先端が前記シリンダ内壁面に当接し、前記シリンダと前記ロータ相互間に形成された圧縮空間を少なくとも吸入空間と吐出空間に仕切るベーンと、シリンダの両端を閉塞し圧縮室を構成する前部側板および後部側板と、前記吸入空間に連通する吸入孔及び前記吐出空間に連通する吐出孔を備えたベーンロータリ型圧縮機であって、前記ベーンの先端に永久磁石を設置し、前記シリンダを鉄合金製としたものである。
【0008】
これによって、磁石の磁力により、ベーンを強制的にシリンダ内壁に押し付けることが
できる為、ガス又はオイル供給遅れによるベーン出遅れが発生しなくなり、ベーンのチャッタリングが起こりにくく、商品性の高いベーンロータリ型圧縮機を提供することが出来る。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、チャッタリングを防止し商品性の高いベーンロータリ型圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1におけるベーンロータリ型圧縮機の横断面図
【図2】同実施の形態1におけるベーンロータリ型圧縮機の作動室断面図
【図3】同ベーンロータリ型圧縮機のA−A断面図
【図4】本発明の実施の形態2におけるベーンロータリ型圧縮機の横断面図
【図5】同実施の形態2におけるベーンロータリ型圧縮機のB−B断面図
【図6】本発明の実施の形態3におけるベーンロータリ型圧縮機の横断面図
【図7】同実施の形態3におけるベーンロータリ型圧縮機のC−C断面図
【図8】本発明の実施の形態4におけるベーンロータリ型圧縮機の横断面図
【図9】同実施の形態4におけるベーンロータリ型圧縮機のD−D断面図
【図10】従来のベーンロータリ型圧縮機の横断面図
【図11】従来のベーンロータリ型圧縮機のE−E断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の発明は、内部に筒状の中空部を有するシリンダと、外周部の少なくとも一部が前記シリンダの内壁面に近接して回転自在に配設される略円筒状のロータと、前記ロータのベーン溝内に摺動自在に挿入され、先端が前記シリンダ内壁面に当接し、前記シリンダと前記ロータ相互間に形成された圧縮空間を少なくとも吸入空間と吐出空間に仕切るベーンと、シリンダの両端を閉塞し圧縮室を構成する前部側板および後部側板と、前記吸入空間に連通する吸入孔及び前記吐出空間に連通する吐出孔を備えたベーンロータリ型圧縮機であって、前記ベーンの先端部に永久磁石を設け、前記シリンダを鉄合金製としたことにより、ベーンはシリンダの鉄合金と引き合うこととなり、ベーンを強制的にシリンダ内壁に押し付けることとなり、チャッタリングを防止することができるため静粛で商品性の高い圧縮機を提供することができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明のベーンロータリ型圧縮機において、シリンダの一部もしくは全体を鉄合金としたものである。これにより、チャッタリングを防止し、かつ、シリンダをより軽量化することが可能となる。
【0013】
第3の発明は、第1の発明のベーンロータリ型圧縮機において、前記前部側板および後部側板へリング状の鉄合金を配したことにより、鉄合金の使用量を少なくすることが可能となるため、軽量に構成することができる。
【0014】
第4の発明は、第1の発明のベーンロータリ型圧縮機において、前記シリンダの側面にOリングシールのために配されたリング状の溝にOリングと共にリング状の鉄合金を配したことにより、軽量かつ安易に行うことが可能となるため、低コストに構成することができる。
【0015】
第5の発明は、第2、3の発明のベーンロータリ型圧縮機において、前記シリンダの吸入孔および吐出孔部の少なくとも一方をカバーする位置に限定して鉄合金を配したことにより、より鉄合金の使用量を抑えるため軽量に行うことが可能となるため、安価に構成することができる。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態におけるベーンロータリ型圧縮機の縦断面図、図2は同圧縮機の作動室の断面図、図3は図2におけるA−A断面図を示すものである。
【0018】
図1および図2に示すように、本発明のベーンロータリ型圧縮機において冷媒を圧縮する作動室7は、前部側板1および後部側板2によって固定されており、冷媒の吸入孔9と圧縮冷媒の吐出孔10を有する。さらに吐出孔10は通路を介してリアケース11に設けられた高圧ケース12と連通している。また、リアケース11内には圧縮冷媒から潤滑油を分離する分離装置(図示せず)および貯油室16、背圧付与装置13が設けられている。
【0019】
図2に示すように、作動室8は内部に筒状の中空部を有するシリンダ3と、該シリンダ3内に設けられ外周部の少なくとも一部がシリンダ3の内壁面に近接して回転自在に配設された略円筒状のアルミ製ロータ4が構成されている。該ロータ4は略放射状に複数のベーン溝4bを有し、ベーン溝4b内に摺動自在に挿入され、先端がシリンダ3内壁面に当接し、シリンダ3とロータ4相互間に形成された圧縮空間を少なくとも吸入空間と吐出空間に仕切るベーン5を有する。作動室7の吸入側には吸入空間17に連通する吸入孔9が、吐出側には吐出空間18に連通する吐出孔10および吐出弁8が設けられている。
【0020】
さらに、図1に示すようにリアケース11には、後部側板2に固定され、高圧ケース12内の高圧ガス流体となった圧縮後の冷媒と、貯油室16に溜まった潤滑油を適宜切り替えて給油通路から油溝14に供給することでベーン溝4bに背圧を付与する背圧付与装置13が設けられている。該背圧付与装置13は、作動室7内の吸入空間17あるいは吐出空間18と、高圧ケース12あるいは貯油室16との圧力差によって球弁および球座からなる弁機構の連通および遮断動作を制御して、必要な背圧を付与することでベーン5が確実にロータ4に押し付けられるようにしている。
【0021】
また、図2および図3に示すように、本実施の形態のベーンロータリ型圧縮機のベーン先端部5aには、永久磁石6が設置されている。シリンダ3の材料は、鉄合金にて構成されている。
【0022】
以上のように構成されたベーンロータリ型圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0023】
電磁クラッチがオン状態となって圧縮機が起動すると、駆動軸4aに連結されたロータ4が回転を開始して作動室内7内に冷媒が吸引され、冷媒の圧縮が行なわれる。
【0024】
このとき、ベーン5をシリンダ3の内壁面へ押し付けるには、背圧付与装置13によってベーン溝4bに潤滑油または冷媒を供給することが必要となるが、起動時のように圧力差が小さく、ベーン溝4bに供給される潤滑油または冷媒が少ない場合においても、本発明の永久磁石6を用いた構成によると、磁石の磁力により常にベーン5はシリンダ3に押し付けられることとなるため、ベーンの出遅れやチャッタリングが発生することはない。
【0025】
以上のように、本実施の形態のベーンロータリ型圧縮機は、起動時においても確実にベーン5をシリンダ3の内壁面に押し付けることが可能となり、ベーンの出遅れが発生しにくくなり、背圧が不足してもチャッタリングが起こることを防止できるため、静粛で商品
性の高い圧縮機を提供することができる。
【0026】
なお、ベーン5の材料を鉄合金とすることにより、永久磁石6の設置が容易となる。
【0027】
また、ベーン5への永久磁石6の設置方法は、図2および図3に示す形状に限ったものではなく、ベーン5を永久磁石製としてもよい。
【0028】
さらに、本実施の形態において、ベーン5に背圧を付与するために背圧付与装置13を用いる構成としたが、本発明のように磁石の磁力による押し付け力を利用することで該背圧付与装置13が不要もしくは簡単な構成によって実現できる可能性がある。
【0029】
(実施の形態2)
本実施の形態は、特に第1の実施の形態において、前部測板1および後部側板2にリング状の溝19を設け、リング状の溝19とシリンダ3の間にリング状の鉄合金20を構成したものである。第1の実施の形態と同様の部分については同様の符号を用い、説明を省略する。
【0030】
図4は本発明の第2の実施の形態におけるベーンロータリ型圧縮機の縦断面図、図5は同圧縮機の作動室のB−B断面図を示すものである。
ベーンロータリ型圧縮機 図4および図5に示すように、前部側板1および後部側板2にリング状の溝19を設け、リング状の溝19とシリンダ3の間にリング状の鉄合金20を構成したことにより、第1の実施の形態と同様の静寂性への効果を発揮しつつ、鉄合金の使用量を少なくすることが可能となるため、軽量にて実施することができる。
【0031】
また、シリンダをアルミ製とした場合でも、上述のようにリング状の鉄合金20とベーン先端部5aに設けた永久磁石6とが引き合うため、チャッタリングを防止することができる。
【0032】
(実施の形態3)
本実施の形態は、特に第1の実施の形態において、シリンダ3に設けられているOリングシール用のOリング溝21内にリング状の鉄合金20をOリング22と一緒に挿入したものである。第1の実施の形態と同様の部分については同様の符号を用い、説明を省略する。
【0033】
図6は本発明の第3の実施の形態におけるベーンロータリ型圧縮機の縦断面図、図7は同圧縮機の作動室のC−C断面図を示すものである。
ベーンロータリ型圧縮機 図6および図7に示すように、シリンダ3に設けられているOリングシール用のOリング溝21内にOリング22と一緒にリング状の鉄合金20を挿入することにより、現状から加工を追加する必要もなく、容易に鉄合金の設置を行うことが可能となり、安価に生産が可能となる。
【0034】
また、実施の形態2と同様に、シリンダをアルミ製とした場合でも、上述のように、Oリング溝21内に設けたリング状20の鉄合金と、ベーン先端部5aに設けた永久磁石6とが引き合うため、チャッタリングを防止することができる。
【0035】
(実施の形態4)
本実施の形態は、特に第2または3の実施の形態において、リング状の溝19及びリング状の鉄合金20を、吐出孔10および吸入孔9の少なくとも一方をカバーする略円弧状の形状とし、略円弧状の溝23及び略円弧状の鉄合金24としたものである。第1の実施の形態と同様の部分については同様の符号を用い、説明を省略する。
【0036】
図8は本発明の第4の実施の形態におけるベーンロータリ型圧縮機の横断面図、図9は同作動室のD−D断面図を示すものである。
ベーンロータリ型圧縮機 圧縮機の起動中において、吐出孔10付近をベーン5が通過するときにベーン5前後の圧力バランスが変化しやすく、吸入孔9付近をベーン5が通過するときにベーン5の出遅れが発生しやすいという傾向があるため、吐出孔10および吸入孔9付近でのベーンチャッタリングの発生確率が高くなっている。よって、図8および図9に示すように、吐出孔10および吸入孔9付近をカバーするように略円弧状の鉄合金24を配置することで、十分、静寂性を向上させることが期待できる。
【0037】
さらに、鉄合金の使用量を抑えることができるため、軽量での設置が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明にかかるベーンロータリ型圧縮機は、低騒音で商品性の高いベーンロータリ型圧縮機を提供することが可能となり、自動車用エアコンの圧縮機等の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 前部側板
2 後部側板
3 シリンダ
4 ロータ
4a 駆動軸
4b ベーン溝
5 ベーン
5a ベーン先端部
6 永久磁石
7 作動室
8 吐出弁
9 吸入孔
10 吐出孔
11 リアケース
12 高圧ケース
13 背圧付与装置
14 油溝
15 連通孔
16 貯油室
17 吸入空間
18 吐出空間
19 リング状の溝
20 リング状の鉄合金
21 Oリング溝
22 Oリング
23 略円弧状の溝
24 略円弧状の鉄合金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に筒状の中空部を有するシリンダと、外周部の少なくとも一部が前記シリンダの内壁面に近接して回転自在に配設される略円筒状のロータと、前記ロータのベーン溝内に摺動自在に挿入され、先端が前記シリンダ内壁面に当接し、前記シリンダと前記ロータ相互間に形成された圧縮空間を少なくとも吸入空間と吐出空間に仕切るベーンと、シリンダの両端を閉塞し圧縮室を構成する前部側板および後部側板と、前記吸入空間に連通する吸入孔及び前記吐出空間に連通する吐出孔を備えたベーンロータリ型圧縮機であって、前記ベーンの先端部に永久磁石を設けたベーンロータリ型圧縮機。
【請求項2】
前記シリンダの一部もしくは全体を鉄合金としたことを特徴とする請求項1に記載のベーンロータリ型圧縮機。
【請求項3】
前記前部側板および後部側板にリング状の鉄合金を設けたことを特徴とする請求項1に記載のベーンロータリ型圧縮機。
【請求項4】
前記シリンダの側面に配した溝部にリング状の鉄合金を設けたことを特徴とする請求項1に記載のベーンロータリ型圧縮機。
【請求項5】
リング状の鉄合金を、吸入孔部および吐出孔部近傍の少なくとも一方をカバーする位置としたことを特徴とする請求項3または4に記載のベーンロータリ型圧縮機。

【図1】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−99329(P2011−99329A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252608(P2009−252608)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】