説明

ペクチネータス(Pectinatus)属菌の培養及び識別のための培地並びに綿棒サンプルの採取方法

【課題】本発明の目的は、特別な実験設備を得る必要なく一般的な醸造工場に適用でき、その使用がこれらの細菌の識別に必要な時間を最大限に短縮する、ペクチネータス属菌の培養及びそれに続く識別のための培地を提供することである。
【解決手段】本発明は、少なくとも一つの炭素源、少なくとも一つの窒素源、少なくとも一つのアミノ酸源、少なくとも一つのビタミン源、少なくとも一つの硫黄源、少なくとも一つの生体金属源、少なくとも一つの酸化還元電位を低下させる物質及び緩衝成分を含む、ペクチネータス属菌の培養及び識別のための培地であって、10〜80mg/lの濃度のイソα酸及び/又はそれらの還元水素化誘導体をさらに含むことを原則とする上記培地に関する。
さらに本発明は、サンプリングヘッドを有する綿棒を用いた綿棒サンプルの採取方法であって、綿棒サンプルを採取する前に、0.25から3g/lの濃度の酸化還元電位を低下させる物質を添加した滅菌蒸留水の溶液に綿棒のサンプリングヘッドを浸し、採取した綿棒サンプルを本発明の培地に置くことを原則とする上記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つの炭素源、少なくとも一つの窒素源、少なくとも一つのアミノ酸源、少なくとも一つのビタミン源、少なくとも一つの硫黄源、少なくとも一つの生体金属源、少なくとも一つの酸化還元電位を低下させる物質及び緩衝成分を含む、ペクチネータス属菌の培養及び識別のための培地に関する。
【0002】
さらに本発明は、サンプリングヘッドを有するサンプリング用綿棒によってサンプルを採取する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ビール中の酸素含有量を1mg/lを限度に減少させるビールのボトリング技術の改良、例えば、ホップの少ないビール、低アルコール、ノンアルコール又は非殺菌のビールのような、その性質に基づき細菌汚染を受けやすい、ある種類のビールの生産の増加、及びビールのフローパスツリゼーション又は冷滅菌の使用により、現在、嫌気性微生物によるビールの汚染のリスクが増大している。これらの微生物は、ビールの官能特性に悪影響を与え、酸性度を高め、特徴的なひどい濁り及び不快な匂いを生じるいくつもの化合物(プロピオン酸、酢酸、硫化水素など)をそのライフサイクルの間に産生する際、二次的、即ち殺菌後の汚染物質として主に生じ、ビールを「腐らせる」。例外的な事例では、これらの微生物が産生したより大量のガスの蓄積によって、ビンの爆発をひき起すことすらあり得る。
【0004】
この観点から、ペクチネータス属は最も重要な嫌気性微生物に属し、現在、ビール腐敗の30%を超える原因であると推定される。これらの細菌は、4.5%(w/v)までのアルコール、3.7の値まで低下したpH、並びにホップの苦み化合物に耐性があり、完全に嫌気性の細菌であっても、一定期間、エアロゾルの中でも生存できる。例えば、Helander I.M.、Haikara A.、Sadovskaya I.、Vinogradov E.、Salkinoja−Salonen M.S.(2004):「嫌気性ビール腐敗ペクチネータス属菌のリポ多糖−グラム陰性属のリポ多糖(Lipopolysaccharides of anaerobic beer spoilage bacteria of the genus Pectinatus−lipopolysaccharides of a gram−positive genus)」; FEMS Microbiol.Rev.28:543−552を参照のこと。
【0005】
しかし、ビール及び/又は醸造工場若しくは設備でのペクチネータス属菌の存在は検知し難く、これらの細菌は特定の成長要件があるため、従来の膜濾過はその識別には使用できない。Haikara A.(1984):「ビール中のペクチネータス混入の検出(Detection of Pectinatus contaminants in beer.)」J.Am.Soc.Brew.Chem.43(1):43−46及びHaikara A.(1985):「ビール中の嫌気性グラム陰性細菌の検出(Detection of anaerobic,gram−negative bacteria in beer)」Monats.Brauwiss.6:239−243によると、ペクチネータス属菌は、前還元した培地を用いてCO大気中で行った膜濾過を適用しても識別できない。
【0006】
同じ理由からペトリ皿の一般的な培地での培養を用いることもできないが、いくつもの国内外の機関がこのやり方を推奨する。例えば、ヨーロッパ醸造協議会(European Brewing Convention)は、MRS、NBB、PYF、Raka−Ray、SDA及びUBAタイプの非選択前還元固体培地の使用又はSMMP選択液体培地を推奨する。例えば、Analytica Microbiologica−EBC,2005を参照のこと。
【0007】
上記タイプの非選択培地の使用の欠点は、この培地が腐敗ビール並びに/又は醸造環境及び/若しくは設備に存在するさらなる種の微生物の成長を妨げず、これらの微生物(酵母、大腸菌群、乳酸菌など)は培地上のペクチネータス属菌とよく競合し、その培養を抑制し、またその代謝物の生成やpHの変化などによって培養を阻害することである。この理由から、ペクチネータス属菌の培養及びそれに続く識別のための非選択培地の使用は十分に確証的ではなく、故に一般的な醸造慣習への適用にも適さない。
【0008】
これらの培地の適用はさらに、膜濾過のための固体の前還元型及び嫌気性条件での培養において推奨され、その結果として、所定の実験室がN及びH制御空気の嫌気性チャンバーを備えるという条件下でのみ、それらの培地は確実に役割を果たすが、それは醸造工場の一般的な設備ではない。
【0009】
これらの欠点の一部は、SMMPタイプの液体選択培地の使用によって部分的に改善される。ここで、酸化還元電位を低下させる物質及び抗生物質(例えば、アクチノン)を含むため、酵母の成長が阻害されるが、ペクチネータス属菌の存在を決定するには、調査するビール、その中での濁りの生成、及び培地の着色変化を14日に渡って監視する必要がある。これは醸造設備への適用には全く適していない期間である。さらに、この培地は本来、腐敗ビールに直接存在する細菌の培養及び識別のみのためであり、醸造設備から採取した、及び/又は醸造施設にある綿棒サンプルから得たペクチネータス属菌の培養には適さない。
【0010】
Lee S.Y.、Moore S.E.、Mabee M.S.の論文では、「他の醸造微生物からのペクチネータスの単離及び区別のための選択識別培地(Selective−differential medium for isolation and differentiation of Pectinatus from other brewery microorganisms.)」Appl.Environ.Microbiol.2:386−387,1981は、ペクチネータス属菌の培養及びそれに続く識別のための、いわゆるLL寒天の適用案であり、培地に存在する酢酸鉛を有する細菌によって産生された硫化水素の化学反応によって生じる黒い着色によって、これらの細菌の存在が現れる。この培地の使用の欠点は、一般的には入手可能でなく、関連取得原価並びに運用費が高い、いわゆる二重壁のLee試験管を使用する必要があることである。さらに、このペクチネータス属菌の培養及び識別方法は、調製に比較的時間を要し(通常、5、6日)、試料中で少数の時に、これらの細菌の検出が可能でない。
【0011】
従来技術の上記の欠点を除くため、専門の文献及び特許文献、例えばJP2004121259、JP2005006556又はUS5869642には、これらの細菌のDNAの特定領域の検出に基づくさらなるいくつかのペクチネータス属菌の識別方法案がある。しかし、これらの方法は時間及び費用の両方を要し、その実行のために、複雑な分子技術に熟練した専門の人材だけでなく、特定の実験設備を要する。通常、それ自体の識別は、細菌の培養及び単離、或いはさらなる工程が先行し、その結果、全ての工程では数日かかり得る。さらにこれらの方法の生産物は、多くの場合、明らかでなく、間違った陽性/陰性識別が起こり得る。このことによって、これらの方法は一般的な醸造工場での適用にさえ適さない。
【0012】
上記欠点に関して、ビール中、並びに/又は醸造工場及び/若しくは設備中のペクチネータス属菌の識別のため、現在はいわゆる「フォーシングテスト(forcing test)」を用いる。このテストで採取した試料を、ペクチネータス属菌の成長を支える物質により強化されたビールに接種し、密閉した瓶を28から30℃の温度で培養する。同時に、接種から1から6週間以内に、ペクチネータス属菌の存在に付随する影響である濁りの形成を観察する。このやり方の欠点は明らかである。無菌状態で個々の濃縮成分をビールに加える必要がある時、培養及び識別に特に長時間必要であること、このやり方の作業が困難であること、また、ビール瓶の大きさに対する生物培養器の体積への要求の増加がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、特別な実験設備を得る必要なく一般的な醸造工場に適用でき、その使用がこれらの細菌の識別に必要な時間を最大限に短縮する、ペクチネータス属菌の培養及びそれに続く識別のための培地を提供することである。同時に、この培地の使用は汚染されたビールにおけるペクチネータス属菌の識別に限定されないが、醸造工場において及び/又は醸造設備から採取された綿棒サンプルにおいてもまた、その識別を可能にするであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、少なくとも一つの炭素源、少なくとも一つの窒素源、少なくとも一つのアミノ酸源、少なくとも一つのビタミン源、少なくとも一つの硫黄源、少なくとも一つの生体金属源、少なくとも一つの酸化還元電位を低下させる物質及び緩衝成分などの培地の一般的な成分を含む、ペクチネータス属菌の培養及び識別のための培地であって、10〜80mg/lの濃度のイソα酸及び/又はそれらの還元水素化誘導体をさらに含むことを原則とする上記培地によって達成された。これらの成分は、その存在によってペクチネータス属菌の培養を促進し、同時に競合する微生物の培養を全体的又は少なくとも部分的に阻害する。その結果、接種後早くも24時間後に、ペクチネータス属菌を一般的な顕微鏡のみによって観察して識別し得る。
【0015】
実験中、イソα酸及び/又はその還元水素化誘導体の最も適当な濃度は50mg/lと規定した。
【0016】
サンプリング又は運搬物としての本発明の培地の使用において、この培地は0.05〜0.3重量%の寒天をさらに含み、この寒天は操作中及び運搬中の培地の酸化を制限する。
【0017】
本発明の培地は、イソα酸の還元水素化誘導体としてテトラヒドロイソα酸及び/又はジヒドロイソα酸及び/又はヘキサヒドロイソα酸を含む。
【0018】
最良の結果を得るため、本発明の培地の使用中に、本発明のサンプリングヘッドを有する綿棒による綿棒サンプルの採取方法をこの培地と組み合わせて同時に用いると、さらに有利である。本発明は、綿棒サンプルを採取する前に、0.25から3g/lの濃度の酸化還元電位を低下させる物質を添加した滅菌蒸留(destilled)水の溶液に綿棒のサンプリングヘッドを浸し、採取した綿棒サンプルを本発明の培地に置くことを原則とする。
【0019】
酸化還元電位を低下させる物質として、0.25から1g/lの濃度の塩酸システイン、チオグリコール酸ナトリウム又はアスコルビン酸、或いはこれらの物質のうち少なくとも2つの混合物であり、同時にそれらのいずれの濃度も1g/lの値を越えないものを使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】他のペクチネータス属菌を含む、醸造設備から採取した綿棒サンプルを接種してから24時間後の培地の写真である。
【図2】醸造設備から得た同じ綿棒サンプルを接種してから24時間後の本発明の培地の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の培地は、その組成により嫌気性ペクチネータス属菌の培養を促進し、同時に競合する微生物の培養を阻害する。ペクチネータス属菌及び乳酸菌を同時に接種(実際によく起こる)すると、早くも24時間後に、特徴的な蛇のような動きをするペクチネータス属菌の独特な細長い細胞を一般的な顕微鏡で観察し、これらの特徴に従ってこの菌を支障なく識別することが可能である。乳酸菌は同時に、本発明の培地の組成により全体的又は少なくとも部分的に阻害され、その結果、乳酸菌はペクチネータス属菌の培養も識別も決して妨げない。本発明の培地は、必要に応じて、サンプリング用、運搬用、並びに診断用に適用できる。培地の組成は表1に大まかに示され、それに加えて培地のpHは5.5から5.9までの範囲である。
【表1】

【0022】
本発明の培地は、表1に示す個々の成分aからeを混合することによって、容易で安価に所要の割合で調製し得る。しかし、成分a、b及びcは現行で市販のMRSタイプの非選択培地に適当な濃度で既に含まれており、少なくとも場合によっては、残りの成分d及びeを添加した本発明の培地の基礎としてこの非選択培地を用いると、より有利である。MRSタイプの非選択培地は、成分a、b及びcに加えて、例えば、1g/lの濃度の界面活性物質−ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ツイーン80又はポリソルベート80として市販される)、いくつかの微生物のエネルギー源として同時に働く選択成分−2g/lの濃度のクエン酸アンモニウム及び5g/lの濃度のCHCOONaの混合物などの他の成分もまた含むが、それらの存在は、本発明の調製培地の望ましい効果に決して影響を及ぼさないし、ペクチネータス属菌の培養も識別も妨げない。本発明の培地の他の調製手順では、これらの成分を用いる必要はなく、同じ又は類似の機能をもつ他の物質に置き換えられる。
【0023】
成分a−炭素源、窒素源、アミノ酸源及びビタミン源は、1つの適当な物質、またさらに頻繁には2つ以上の種々の物質の混合物により生成される。MRSタイプの非選択培地を本発明の培地の基礎として用いる場合、それは10g/lの濃度のペプトン、10g/lの濃度の肉エキス、5g/lの濃度の酵母エキス及び20g/lの濃度のグルコースの混合物である。しかし、個々の成分を混合して本発明の培地を調製する場合、2〜15g/lの範囲で任意の濃度のペプトン、肉エキス及び酵母エキス、或いは同じ又は類似の機能をもつ他の物質を用いてよいが、例えばペプトンはトリプトン、酵素的カゼイン加水分解物などと適切に置き換えてよい。グルコースは1〜25g/lの任意の濃度で用いてよく、或いはフルクトース、乳酸などと置き換えてよい。
【0024】
成分b−硫黄源及び生体金属源は、1つの適当な物質、またさらに頻繁には2つの混合物により、或いはより様々な物質により生成される。MRSタイプの非選択培地を使用する場合、0.2g/lの濃度のMgSO・7HO及び0.05g/lの濃度のMnSO・4HOの混合物である。個々の成分を混合して本発明の培地を調製する場合、0.025〜0.25g/lの範囲の濃度で同じ物質を、或いは同じ又は類似の機能をもつ他の物質、例えば0.005〜0.02g/lなどの範囲の濃度でFeSO・7HO及びZnSO・7HO、又は2つ以上の適当な物質の混合物を用いてよい。
【0025】
成分c−緩衝成分は、通常1つの物質により生成される。MRSタイプの非選択培地を使用する場合、それは2g/lの濃度のKHPOである。個々の成分を混合して本発明の培地を調製する場合、1〜3g/lの範囲の濃度のKHPOを、或いは同じ又は類似の機能をもつ他の物質、例えばNaHPOなど、又は2つ以上の適当な物質の混合物を用いてよい。
【0026】
成分d−酸化還元電位を低下させる成分は、本発明の培地におけるその存在によりその酸化還元電位を低下させることで、ペクチネータス属菌などの偏性嫌気性微生物の培養を可能にする。本発明の培地中での濃度が0.25〜1g/lの範囲で変化する1つの物質、主に塩酸システイン、アスコルビン酸又はチオグリコール酸ナトリウム、或いは、本発明の培地中の濃度が0.25g/l〜3g/lで変化し、いずれの物質の濃度が1g/lの値を越えない、これらの物質の混合物のいずれかである。この目的のさらなるバリアントにおいて、記載の物質に加えて、同じ又は類似の効果をもつ他の物質、或いはかかる物質の混合物を用いてもよい。
【0027】
成分e−イソα酸及び/又はそれらの誘導体は、その存在によりさらにペクチネータス属菌の培養を促進し、同時に競合する微生物の培養を全体的又は部分的に阻害する。この群はイソα酸(トランス−及びシス−異性体の混合物)及びそれらの還元水素化誘導体、或いはそれらの混合物を含む。最も適当と思われるのは、テトラヒドロイソα酸の使用であるが、それらに加えて、ジヒドロイソα酸若しくはヘキサヒドロイソα酸、これらのイソα酸の還元水素化誘導体の混合物、又はイソα酸及びそれらの還元水素化誘導体の任意の混合物もまた、同様の結果を持って使用し得る。この成分の本発明の培地中の濃度は10〜80mg/lの範囲で変化し、好ましくは50mg/lに達する。
【0028】
そのバリアントのいくつかにおいてのみ用いられる本発明の培地の別の成分は、寒天である。本発明の培地に存在することで操作中又は運搬中の酸化を阻害し、嫌気性微生物の存在に適した条件を作るのを容易にする。本発明の培地は、実験室において、特に直接塗布に指定されるが、全く寒天を含む必要がない。
【0029】
本発明の培地の効率を確認するため、MRSタイプの非選択培地及び様々な濃度の成分d及びeの組み合わせで生成した、MRSタイプの非選択培地及び本発明の培地のいくつかのバリアントを用いた多くの比較実験を行った。試験された培地の特定の組成を表2に示す。
【表2】

【0030】
まず、本発明の培地中の成分d及びeの様々な濃度の、最も一般的なペクチネータス属菌の培養に対する効果を観測した。
【0031】
(例1)
表2によるバリアントAからFにおける培地の成分を1000mlの蒸留水中で撹拌し、得られた溶液を微生物試験管に10ml注ぎ、続いて121℃の温度のオートクレーブで15分間殺菌した。冷却後、微生物試験管中の培地の全てのバリアントに、ペクチネータス属菌の3つの収集株、即ちペクチネータス・フリシンゲンシス(Pectinatus frisingensis)DSM20465、ペクチネータス・フリシンゲンシスCCM6217及びペクチネータス種RIBM2−86の高密度懸濁液を0.1ml接種した。28℃の温度での24時間の培養後、濁り及び沈殿物の生成を評価し、培地AからFの各バリアントの顕微鏡検査を行った。
【0032】
培地(MRS)のバリアントAでは濁りは観察されなかった。顕微鏡検査の間、ごく少数のペクチネータス属菌の不規則な存在だけが観察された。
【0033】
ペクチネータス属菌の存在に付随する影響である強い濁りが、培地のバリアントBで観察された。顕微鏡検査にて、その特徴的な蛇のような形及び動きに基づいて、さらなる処置なしで容易に支障なく特定できたこれらの細菌の良好な培養が確認された。
【0034】
培地のバリアントCからFでは強い濁りが観察された。顕微鏡検査によって、その特徴的な蛇のような形及び動きに基づいて容易に支障なく特定できたペクチネータス属菌の非常に良好な培養が確認された。
【0035】
続いて、本発明の培地における成分d及びeの様々な濃度の、乳酸菌の最も一般的な株の培養に対する影響を観察した。
【0036】
(例2)
例1と同様の方法で、培地AからFのバリアントを調製した。培地の全てのバリアントに、最も一般的な乳酸菌の25の収集株の高密度懸濁液を0.1ml接種した。ある事例において、菌株はVUPS収集物から得たラクトバチルス属菌株であった。28℃の温度での24時間の培養後、濁り及び沈殿物の生成を評価し、培地AからFの各バリアントの顕微鏡検査を行った。
【0037】
乳酸菌の存在に付随する影響である強い濁りが、培地(MRS)のバリアントAで観察された。顕微鏡検査の間、乳酸菌の全ての菌株の良好な培養が確認された。
【0038】
培地のバリアントBでは強い濁りが観察された。顕微鏡検査にて、乳酸菌の全ての菌株の良好な培養が確認された。
【0039】
バリアントCの培地の19本の試験管では強い濁りが観察された。その後、顕微鏡検査にて、19の乳酸菌株の培養が確認された。バリアントA及びBの培地と比較すると、本発明の培地の組成によって、6つの乳酸菌株が阻害された。
【0040】
バリアントDの培地の10本の試験管では強い濁りが観察された。その後、顕微鏡検査にて、10の乳酸菌株のみの培養が確認された。バリアントA及びBの培地と比較すると、本発明の培地の組成によって、15の乳酸菌株が阻害された。
【0041】
培地のバリアントE及びFでは濁りは観察されなかった。顕微鏡検査にて、接種した乳酸菌株の培養は確認されなかった。したがって、25の全ての乳酸菌株は、本発明の培地の組成によって阻害された。
【0042】
この次に、本発明の培地における成分d及びeの様々な濃度の、ペクチネータス属菌及び乳酸菌の並行培養に対する、並びに顕微鏡検査によるペクチネータス属菌の識別可能性に対する影響を観測した。
【0043】
(例3)
例1と同様の方法で、培地AからFのバリアントを調製した。培地の全てのバリアントに、例1のペクチネータス属種RIBM2−86の菌株の高密度懸濁液を0.1ml接種し、同時に例2に記載の乳酸菌の25の収集株の高密度懸濁液を0.1ml接種した。28℃の温度での24時間の培養後、濁り及び沈殿物の生成を評価し、培地AからFの各バリアントの顕微鏡検査を行った。
【0044】
培地(MRS)のバリアントAにおける強い濁り。顕微鏡検査にて、全ての乳酸菌株の非常に良好な培養が確認された。ペクチネータス属菌は全く観察されなかった。
【0045】
培地のバリアントBでは強い濁りが観察された。顕微鏡検査にて、全ての乳酸菌株の良好な培養が確認され、同時にペクチネータス属菌もまた不規則に観察された。
【0046】
培地のバリアントCからFでは強い濁りが観察された。顕微鏡検査にて、ペクチネータス属菌の特性である蛇のような形並びに動きの特徴的な細胞が非常にはっきりと観察されたが、このことにより、これらの細菌が非常に確実に識別され得る。バリアントC及びDの培地では、いくつかの乳酸菌株の培養もまた同時に起こったが、それらの存在がペクチネータス属菌の確実な識別を妨げなかった。バリアントE及びFではペクチネータス属菌が試料中を完全に支配した。
【0047】
さらなる実験において、本発明の培地のバリアントCからFのみを用いたが、ペクチネータス属菌の培養及び識別への適用の可能性は、腐敗したビールの試料中において直接検査した。
【0048】
(例4)
例1と同様の方法で、バリアントCからFにおける本発明の培地を調製し殺菌した。ペクチネータス属菌の培養及びそれに続く識別を実験室で実施したため、本発明の培地はいずれのバリアントにおいても寒天を含まなかった。
【0049】
ペクチネータス属菌及び他の微生物に汚染されたビールの入った容器の下部から、0.1mlのビールを採取し、10mlの培地の各バリアントをピペットで各試験管に入れた。28から30℃の温度での24時間の培養後、顕微鏡検査を行い、本発明の培地の全てのバリアントにおける特徴的な蛇のような形及び動きの細胞の存在により、ペクチネータス属菌を支障なく識別した。このことから、汚染されたビール中に直接あるペクチネータス属菌の培養及びそれに続く識別への本発明の培地の適用の可能性が確認された。
【0050】
本発明の培地のバリアントCからF及び培地のバリアントBにて、醸造設備から直接採取した綿棒サンプルにおけるペクチネータス属菌の培養及びそれに続く識別の可能性をさらに検査し、先行技術から公知の方法で、ペクチネータス属菌の存在を先立って確認した。
【0051】
(例5)
例1と同様の方法で、バリアントCからFにおける本発明の培地及びバリアントBにおける培地を調製し殺菌した。醸造環境に綿棒サンプルを入れて採取し、培地の全てのバリアントに接種し、実験室に運搬した。28から30℃の温度での24時間の培養後、顕微鏡検査を行った。
【0052】
バリアントBの培地において、醸造環境に典型的な微生物、特に酵母、さらに円形又は楕円形の細菌が存在した。動く楕円形の細菌のいくつかは、同時にペクチネータス属菌とも考えられたが、これらの細菌は特徴的な蛇のような動きを示さなかったため、識別が十分信頼できなかった。
【0053】
例示のため、図1は630倍率の顕微鏡写真を示す。
【0054】
それにもかかわらず、バリアントCからFにおける本発明の培地において、蛇のような形及び動きの独特な細菌が目立って支配し、それはペクチネータス属菌としてかなり確実に識別できた。同時に他の微生物のほとんどが阻害されたか、又はその存在が識別を妨げなかった。
【0055】
例示のため、図2はバリアントFにおける本発明の培地の顕微鏡検査で得られた630倍率の顕微鏡写真を示す。
【0056】
行った実験から、炭素源、窒素源、アミノ酸源、ビタミン源、硫黄源、生体金属源、酸化還元電位を低下させる物質(ある事例において、0.25gの塩酸システイン及び0.25gのチオグリコール酸ナトリウムの混合物)及びイソα酸の還元脱水素化誘導体(ある事例において、10mgのテトラヒドロイソα酸)などの少量の特定成分を加えた緩衝成分などの主要成分を含む本発明の培地が、これらの細菌の純粋培養の直接接種でも、腐敗したビール又は醸造環境にて、及び/若しくは醸造設備から採取した綿棒サンプルから得られた様々な種の細菌の混合物を含む培地の接種でも、ペクチネータス属菌の識別に適用できるという結果になる。同時に、接種からわずか24時間後に、本発明の培地の使用によるペクチネータス属菌の識別が可能であるため、これが今まで使用された技術よりも何倍も早い。さらに、この方法は一般的な光学顕微鏡を用いて本発明の培地の顕微鏡検査によってペクチネータス属菌が確実に識別され得るため、特別な実験設備の取得を必要としない。
【0057】
さらなるバリアントにおいて、本発明の培地は他の補助成分を含み得るが、その機能は重要でない。例えば、1〜3g/lの濃度のNaCl、KClなどの塩類源、0.05〜0.1g/lの濃度のクロロフェノールレッドなどの酸塩基指示薬、0.001〜0.003g/lの濃度のメチレンブルー、レサズリンなどの酸化還元指示薬などがある。
【0058】
ペクチネータス属菌の識別において最良の結果を得るため、醸造工場及び/又は設備から、或いは他の場所から得た綿棒サンプルを、サンプル採取前に、酸化還元電位を低下させる物質を0.25〜0.1g/lの範囲で、或いは0.25〜3g/lの濃度でいくつかのかかる物質の混合物を加え、ただしこれらのどの物質の濃度も1g/lの値を越えない滅菌蒸留水にそのサンプリングヘッドを浸した綿棒を用いて採取すれば、さらに有利である。酸化還元電位を低下させる物質は好ましくは塩酸システインであるが、例えば、チオグリコール酸ナトリウム、アスコルビン酸など、或いはかかる物質の混合物など、同じ効果を持つ他の物質もまた使用可能である。採取した綿棒サンプルはすぐに本発明の培地に配置する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの炭素源、少なくとも一つの窒素源、少なくとも一つのアミノ酸源、少なくとも一つのビタミン源、少なくとも一つの硫黄源、少なくとも一つの生体金属源、少なくとも一つの酸化還元電位を低下させる物質及び緩衝成分を含む、特にビール及び/又は醸造工場及び/又は醸造設備から採取したサンプルから得た、ペクチネータス(Pectinatus)属菌の培養及び識別のための培地であって、10〜80mg/lの濃度のイソα酸及び/又はその還元水素化誘導体をさらに含むことを特徴とする上記培地。
【請求項2】
50mg/lの濃度のイソα酸及び/又はそれらの還元水素化誘導体を含むことを特徴とする請求項1に記載の培地。
【請求項3】
0.05〜0.3重量%の寒天をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の培地。
【請求項4】
イソα酸の還元水素化誘導体としてテトラヒドロイソα酸を含むことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の培地。
【請求項5】
イソα酸の還元水素化誘導体としてジヒドロイソα酸を含むことを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の培地。
【請求項6】
イソα酸の還元水素化誘導体としてヘキサヒドロイソα酸を含むことを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項に記載の培地。
【請求項7】
サンプリングヘッドを有する綿棒を用いた綿棒サンプルの採取方法であって、綿棒サンプルを採取する前に、0.25から3g/lの濃度の酸化還元電位を低下させる物質を添加した滅菌蒸留水の溶液に綿棒のサンプリングヘッドを浸し、採取した綿棒サンプルを、請求項1から6までのいずれか一項に記載の培地に置くことを特徴とする上記方法。
【請求項8】
酸化還元電位を低下させる成分が、0.25から1g/lの濃度の塩酸システイン、チオグリコール酸ナトリウム、アスコルビン酸の群からの物質、又はこれらの物質のうち少なくとも2つの混合物であり、同時にそれらのどの濃度も1g/lの値を越えないことを特徴とする、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−224001(P2011−224001A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−90604(P2011−90604)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(511095643)
【Fターム(参考)】