説明

ペットフード及びペットフードの製造方法

【課題】栄養バランスの良い原材料を配合し、ペットの健康に配慮し、ペットの食いつきが優れたペットフード及び該ペットフードの製造方法の提供。
【解決手段】(1)原材料の混合物を造粒してフード粒を得る工程と、前記フード粒を焼成する工程と、を含むことを特徴とするペットフードの製造方法。(2)前記焼成の温度が、前記フード粒にピラジン類を生成させる温度である(1)に記載の方法。(3)焼成後の前記フード粒中のピラジン類の含有量が、焼成前の前記フード粒中のピラジン類の含有量よりも、0.10ppm以上多くなるように、前記焼成を行う(2)に記載の方法。
(4)前記ピラジン類が、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン及び/又は2,3,5−トリメチルピラジンである(2)又は(3)に記載の方法。(5)遠赤外線を用いて、前記焼成を行う(1)〜(4)に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペットフード及びペットフードの製造方法に関する。より詳しくは、ペットの食いつきを向上したペットフード及びペットフードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペットの総合栄養食として栄養バランスの良い原材料が配合されたペットフード組成物を造粒し、これを加熱して澱粉成分をアルファ化すると共に乾燥した後、更に油中で180℃以下でフライ処理を施して、食いつき(嗜好性)を向上させたペットフードの製造方法が開示されている(特許文献1)。
また、造粒した粒状のペットフードをエクストルーダによって板状に成型するペットフードの製造方法が開示されている(特許文献2)。板状のペットフードを飼い主の手から与え、飼い主及びペットの満足感を向上せしめたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64−39953号公報
【特許文献2】特許第3793845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のペットフードの製造方法として、食いつきを高めるために油中でフライ処理する技術が開示されている。しかし、ペットフードが高カロリーになってしまう問題があった。近年ではペットフードにおいても健康志向が高まっており、ペットの健康に良く、且つペットの食いつきが良いペットフードが望まれている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、栄養バランスの良い原材料を配合し、ペットの健康に配慮し、ペットの食いつきが優れたペットフード及び該ペットフードの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に記載のペットフードの製造方法は、原材料の混合物を造粒してフード粒を得る工程と、前記フード粒を焼成する工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のペットフードの製造方法は、請求項1において、前記焼成の温度が、前記フード粒にピラジン類を生成させる温度であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のペットフードの製造方法は、請求項2において、焼成後の前記フード粒中のピラジン類の含有量が、焼成前の前記フード粒中のピラジン類の含有量よりも、0.10ppm以上多くなるように、前記焼成を行うことを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のペットフードの製造方法は、請求項2又は3において、前記ピラジン類が、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン及び/又は2,3,5−トリメチルピラジンであることを特徴とする。
本発明の請求項5に記載のペットフードの製造方法は、請求項1〜4のいずれか一項において、遠赤外線を用いて、前記焼成を行うことを特徴とする。
本発明の請求項6に記載のペットフードの製造方法は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記造粒工程において、最短径及び最長径が共に3mm〜30mmの大きさであるフード粒を得ることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載のペットフードの製造方法は、請求項1〜6のいずれか一項において、前記造粒工程において、成形したフード粒を70〜90℃の温風によって乾燥させることを特徴とする。
本発明の請求項8に記載のペットフードの製造方法は、請求項6において、前記焼成工程において、雰囲気温度が160〜230℃となるように遠赤外線を照射し、前記造粒工程で得たフード粒を焼成することを特徴とする。
本発明の請求項9に記載のペットフードの製造方法は、請求項8において、前記焼成の時間が、20秒〜55秒であることを特徴とする。
本発明の請求項10に記載のペットフードの製造方法は、請求項8又は9において、前記焼成工程において、遠赤外線の照射源としてセラミックスヒーターを用い、該セラミックスヒータと前記造粒工程で得たフード粒との間の距離を80mm〜120mmとして焼成することを特徴とする。
本発明の請求項11に記載のペットフードの製造方法は、請求項5〜10のいずれか一項において、前記焼成工程において、フード粒を網に載せて搬送しつつ、該網の上方及び/又は下方から遠赤外線を照射することを特徴とする。
本発明の請求項12に記載のペットフードの製造方法は、請求項1〜7のいずれか一項において、前記焼成の温度が、270℃〜370℃であることを特徴とする。
本発明の請求項13に記載のペットフードの製造方法は、請求項12において、前記焼成の時間が、20秒〜75秒であることを特徴とする。
本発明の請求項14に記載のペットフードの製造方法は、請求項1〜13のいずれか一項において、焼成前の前記フード粒中の水分含有量が12.0質量%以下であることを特徴とする。
本発明の請求項15に記載のペットフードの製造方法は、請求項1〜14のいずれか一項において、前記造粒において、前記混合物を150℃以下で加熱することを特徴とする。
本発明の請求項16に記載のペットフードの製造方法は、請求項1〜15のいずれか一項において、前記造粒工程において、エクストルーダーを使用して、原材料の混合物を造粒してフード粒を得ることを特徴とする。
本発明の請求項17に記載のペットフードの製造方法は、請求項1〜16のいずれか一項において、さらに、前記フード粒に油脂を含浸させる油脂添加工程を有することを特徴とする。
本発明の請求項18に記載のペットフードの製造方法は、請求項17において、前記油脂添加工程が、前記焼成工程の後に行われることを特徴とする。
本発明の請求項19に記載のペットフードの製造方法は、請求項17又は18において、前記油脂添加工程において、前記フード粒を40℃以上に加温し、油脂を該フード粒の表面に接触させた状態で減圧し、その後、大気圧まで戻すことを特徴とする。
本発明の請求項20に記載のペットフードは、請求項1〜19に記載のペットフードの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
本発明の請求項21に記載のペットフードは、請求項20において、ピラジン類を0.70ppm以上含有することを特徴とする。
本発明の請求項22に記載のペットフードは、請求項21において、前記ピラジン類が、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン及び/又は2,3,5−トリメチルピラジンであることを特徴とする。
本発明の請求項23に記載のペットフードは、請求項20〜22のいずれか一項において、水分含有量が8.0重量%未満であることを特徴とする。
本発明の請求項24に記載のペットフードは、請求項20〜23のいずれか一項において、脂肪含有量が22.0重量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のペットフードの製造方法によれば、栄養バランスが良く、ペットの食いつき(嗜好性)が優れたペットフードを製造できる。また、油中でフライ処理しなくても風味良く仕上がるので、低カロリーなペットフードを製造できる。本発明のペットフードは、ペットの食いつき(嗜好性)に優れ、健康志向の飼い主の希望に沿うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明にかかる製造方法の一実施形態を示す模式図である。
【図2】加熱時間を変化させて得られたフード粒の水分率(wt%)及び水分活性(AW)のグラフである。
【図3】真空コート法の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<<ペットフードの製造方法>>
本発明のペットフードの製造方法は、原材料の混合物を造粒してフード粒を得る工程(造粒工程)と、前記フード粒を焼成する工程(焼成工程)と、を少なくとも含むものである。
従来は、フード粒を油中でフライすることによって加熱していたが、得られるフード粒の油含有量が過多になることがあり、油含有量を調整することが困難であった。ペットの健康を考慮すると、油過多のペットフードは望ましくない。
一方、フード粒を焼成することによって、焼成後に得られるフード粒の油含有量が過多になることがない。必要に応じて別途、油を添加することができるので、ペットーフードの油含有量をより容易に調整することができる。つまり、ペットフードのカロリー等の栄養設計をより容易に行うことができる。また、焼成することによって、ペットフードの風味や食感を向上させることができる。
【0009】
<造粒工程>
造粒工程は、原材料の混合物を造粒してフード粒を得る工程である。
前記原材料としては、ペットフードの完全な栄養食として一般的に使用されるものが適用できる。前記原材料に含まれる重要な栄養素として、蛋白質及び炭水化物がある。
前記蛋白質としては、植物由来の蛋白質、動物由来の蛋白質又はこれらの混合物が例示できる。具体的には、前記植物由来の蛋白質は、例えばグルテン、小麦蛋白質、大豆蛋白質、米蛋白質、とうもろこし蛋白質等が好ましいものとして挙げられる。前記動物由来の蛋白質としては、例えば牛、豚、鶏及び魚介類の筋肉、臓器などの蛋白質、乳の蛋白質又はこれらの混合物が例示できる。これらの蛋白質には、脂肪、ビタミン、鉄分等が含まれうるので、栄養源として好ましい。
前記炭水化物としては、とうもろこし、小麦、大麦、オート麦、米、大豆等の穀物類の炭水化物が好ましいものとして例示できる。これらの穀物類には、炭水化物の他に、蛋白質、灰分、ミネラル、ビタミン等が含まれうるので、栄養源として好ましい。
前記原材料として、前記蛋白質及び前記炭水化物の他に、ビタミン・ミネラル類、塩類、脂肪、動物蛋白質のエキス(抽出物)等を前記混合物に添加してもよい。
【0010】
例えば表1に示す配合で原材料を混合することが例示できる。
【0011】
【表1】

【0012】
前記混合物は、前記原材料を所望の配合率で混合して得られる。混合時に、水、植物油、動物油脂等を適宜添加してもよい。これらを添加することによって、原材料をより均一に混合できる。
前記混合物を得る方法としては、ミキサー等で原材料を粉砕しつつ混合する公知の方法が適用できる。
前記混合物を造粒する方法としては、ペットが食するのに適した形状に成型できる方法であれば特に制限されず、例えばエクストルーダ(押出し機)が好適である。食品の混合物を適当な大きさに造粒することができる公知のエクストルーダーを使用できる。エクストルーダを用いることによって、混合物を加圧し、得られるフード粒の硬さを調整できる。
【0013】
本発明において、「造粒する」とは、ペットが食することができる形状に成型することを意味する。本発明において、成型するフード粒の形状は、ペットが食せる形状であれば特に制限されず、例えば球状、多角体状、柱状、ドーナッツ状、板状、碁石状等、あらゆる形状が適用可能である。また、成型するフード粒の大きさは、ペットが一口で頬張れる小粒形状であってもよいし、ペットが複数回にわたって噛り付くことができる大粒形状であってもよい。
【0014】
フード粒の形状としては、最短径及び最長径が共に3mm〜30mmの碁石様の形状であることが好ましい。この形状であると、後段の焼成処理において、熱の伝導が好適となり、当該フード粒中にピラジン類をより多く生成させ得る。
また、フード粒の形状は、ペットがそのまま食するには大き過ぎる板状、柱状又はチューブ状であってもよい。この場合、後段の乾燥処理及び焼成工程の何れかの後で、ペットが食し易い形状に小片化することが好ましい。
【0015】
本発明の造粒工程において、混合物を成型して造粒する際、加熱処理を行い、混合物中の炭水化物をアルファ化することが好ましい。得られるフード粒の風味及び食感が向上する効果が得られると共に、後段の焼成工程における焼成処理によるピラジン類の生成をより促進させる効果が得られる。
前記造粒における加熱処理は、例えば150℃以下で行うことが好ましく、50〜120℃がより好ましく、80〜100℃がさらに好ましい。この温度で加熱する場合、当該加熱処理の時間は、1分〜20分が好ましく、2分〜20分がより好ましく、3分〜6分がさらに好ましい。
上記温度範囲及び時間範囲の下限値以上であると、前記効果が充分に得られる。上記温度範囲の上限値以下であると、原材料が過度に加熱されることを防げる。
【0016】
造粒工程において、フード粒を乾燥させる処理を施すことが好ましい。後段の焼成工程におけるピラジン類の生成をより一層促進させる効果が得られる。ここでは、造粒工程において乾燥処理を行うことを説明するが、造粒工程とは別に、乾燥工程を設けてもよい。
<乾燥処理>
前記フード粒を乾燥させる方法は特に制限されず、自然に乾燥させる方法、温風を吹き付けて乾燥させる方法、減圧して乾燥させる方法、フリーズドライで乾燥させる方法、油中でフライ処理する方法等の公知の方法が適用可能である。これらの乾燥方法の中でも、温風を吹き付けて乾燥させる方法が、ペットフードの風味を向上させるので好ましい。
【0017】
前記乾燥させる際のフード粒の温度又は該フード粒に吹き付ける温風の温度としては、100℃以下が好ましく、60〜90℃がより好ましく、70〜90℃がさらに好ましい。この温度で乾燥させる場合、当該加熱処理の時間は、1分〜120分が好ましく、5分〜60分がより好ましく、10分〜30分がさらに好ましい。
上記温度範囲及び時間範囲の下限値以上であると、比較的短時間でフード粒を乾燥させることができる。上記温度範囲の上限値以下であると、フード粒が過度に加熱されることを防げる。
なお、前記加熱処理の温度と、乾燥処理の温度とは同じであっても異なっていてもよい。
【0018】
乾燥処理した後、焼成前のフード粒の水分含有量は、12.0重量%以下であることが好ましく、3.0〜10.0重量%がより好ましく、5.0〜8.0重量%がさらに好ましい。
フード粒の水分含量が上記範囲であることにより、後段の焼成処理によるフード粒中のピラジン類の生成量を向上させられる。また、風味や食感を向上させられる。
【0019】
<焼成工程>
焼成工程は、前記造粒工程で得られたフード粒を焼成する工程である。
本発明において、「焼成する」とは、フード粒を空気中において高温で短時間に加熱することを意味する。
【0020】
本発明の方法における焼成の温度は、焼成後に得られるフード粒中にピラジン類を生成させる温度であることが好ましい。
ピラジン類を生成させる温度で焼成することによって、当該フード粒中に、ペットの食いつきを向上させる成分を生成させ得る。また、ピラジン類がペットの食いつきを向上させ得る。
【0021】
本発明の方法における焼成の温度は、焼成後に得られるフード粒中のピラジン類の含有量が、焼成前の前記フード粒中のピラジン類の含有量よりも、0.10ppm以上多くなるように、前記焼成を行うことが好ましい。
ピラジン類を0.10ppm以上生成させる温度で焼成することによって、当該フード粒中に、ペットの食いつきを向上させる成分をより多く生成させ得る。また、ピラジン類が当該フード中に0.10ppm以上含有されると、ペットの食いつきを向上させ得る。
【0022】
本発明において、ピラジン類は、化学式Cで表されるピラジン、及びピラジンが有する1以上の水素原子を炭素数1〜6のアルキル基で置換したピラジン誘導体を意味する。前記炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状の何れであってもよく、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基若しくはエチル基がより好ましい。前記置換される水素原子の数は、1〜3が好ましい。
前記ピラジン類をペットフードに含有させることによって、ペットの食いつきを向上させ得る。
【0023】
前記ピラジン類は、2,5−ジメチルピラジン(2,5-DMP)、2,6−ジメチルピラジン(2,6-DMP)及び/又は2,3,5−トリメチルピラジン(2,3,5-TMP)であることがさらに好ましい。これらのピラジン類を含有するように焼成したフード粒は、ペットの食いつきをより一層向上させ得る。
【0024】
焼成後の前記フード粒に含有されるピラジン類の濃度は、0.30ppm〜30ppmが好ましく、0.70ppm〜20ppmがより好ましく、1.50ppm〜10.0ppmがさらに好ましく、3.00ppm〜6.00ppmが特に好ましい。ここで、ピラジン類の濃度は、2,5-DMP、2,6-DMP及び2,3,5-TMPの合計の含有量である。
上記範囲の下限値以上であることにより、ペットの食いつきをより一層向上させ得る。
上記範囲の上限値以下であることにより、ピラジン類が有する香気(香り)が強くなり過ぎることを防げる。
【0025】
焼成温度及び焼成時間は、焼成後のフード粒中のピラジン類の含有量を向上させること、又はフード粒(ペットフード)の風味及び食感を向上させることを考慮して、フード粒の形状や大きさによって適宜調整すればよい。
例えば、フード粒を150℃超の雰囲気に5〜200秒置いて加熱することが好ましい。
【0026】
前記フード粒を焼成する方法は特に制限されず、例えば網上に前記フード粒を並べて、当該網の上方及び/又は下方から熱線又は熱風を当てる方法が好ましい方法として挙げられる。前記熱線又は熱風の照射源としては、遠赤外線を発生する、ガスバーナーで熱したセラミックスヒーターが好適である。遠赤外線を用いると、焼成後のフード粒の水分含有量を調整することがより容易であり、風味や食感が良好となり、ペットの食いつきに優れたフード粒が得られる。
【0027】
前記フード粒を焼成する方法として、遠赤外線を照射してフード粒を焼成する方法が好ましい。
遠赤外線でフード粒を焼成することにより、グリルやローストに比べて速くフード粒の内部まで加熱することができる。この結果、設備を簡素化して設備投資を抑制することができる。また、遠赤外線で加熱することによって、焼成後のフード粒の水分含有量を調整することがより容易となり、ペットフードの風味や食感を向上させることができる。
一方、他の焼成方法として、例えばフード粒を火炎で網焼き(グリル)したり、炒ったり(ロースト)する場合、フード粒の内部までよく加熱するためには、加熱時間を長くしなければならないことがある。この場合、工業生産ラインにおいては、ライン長が長くなり、設備投資が過大となる問題がある。
【0028】
(第一実施態様)
焼成温度及び焼成時間としては、例えば、フード粒を250℃以上の雰囲気に5〜200秒置いて加熱する方法が挙げられる。具体的には、250℃〜380℃の温度範囲で、5〜200秒の時間範囲で検討すればよい。焼成前の前記フード粒が通常の形状及び大きさであれば、焼成温度は270〜370℃が好ましく、270〜350℃がより好ましく、280℃〜330℃が更に好ましい。この際、焼成時間は、5〜90秒が好ましく、10〜75秒がより好ましく、20〜75秒がさらに好ましく、20〜45秒が特に好ましい。
上記焼成温度及び焼成時間の下限値以上であることにより、焼成後に得られるフード粒中にピラジン類及び/又はペットが好む成分をより多く生成できる。上記焼成温度及び焼成時間の上限値以下であることにより、ペットが嫌う焦げ臭等の原因物質の発生を抑制できる。
【0029】
焼成前の前記フード粒が通常の形状及び大きさであるとは、形状は、球状、多角体状、柱状、ドーナッツ状、板状又は碁石状等であり、大きさは、最短径が3〜30mm程度であって、最長径が5〜150mm程度であることを意味する。
焼成前の前記フード粒の形状としては、最短径及び最長径が共に3mm〜30mmの碁石様の形状であることが好ましい。この形状であると、焼成処理において、熱の伝導が好適となり、当該フード粒中にピラジン類をより多く生成させ得る。
【0030】
(第二実施態様)
遠赤外線を照射してフード粒を焼成する場合は、風味や食感を向上させる観点から、雰囲気温度が160〜230℃となるように遠赤外線を照射して前記フード粒を焼成することが好ましい。
【0031】
遠赤外線を照射することによってフード粒を焼成する方法としては、例えば、遠赤外線を照射しつつ、フード粒を160℃〜230℃の雰囲気(空気雰囲気)とした炉内に置く方法が挙げられる。この際、例えば、フード粒を搬入する前の炉内の温度(空焚き時の温度)が200℃〜330℃となるように遠赤外線を照射した後、その炉内(雰囲気)にフード粒を搬入することによって、当該フード粒に遠赤外線を照射しつつ、160℃〜230℃の雰囲気温度で焼成することができる。なお、フード粒を搬入する前の温度が200℃〜330℃となるように遠赤外線を照射した雰囲気を形成する方法としては、使用する遠赤外線照射装置の設定温度を280℃〜330℃に設定する方法が例示できる。空焚き状態の200℃〜330℃の雰囲気にフード粒を搬入すると、当該雰囲気がフード粒や外気の流入等によって冷却されて160℃〜230℃程度になる。フード粒を160℃〜230℃で安定して加熱することができる場合は、装置の設定温度を160℃〜230℃としても構わない。ここで例示した温度について、表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
雰囲気温度が160〜230℃となるように遠赤外線照射してフード粒を焼成する時間は、フード粒の大きさに応じて適宜調整すればよい。例えば、前述のように、フード粒が最短径及び最長径が共に3mm〜30mmの大きさである場合、加熱時間は20秒〜55秒が好ましい。この加熱条件であると、フード粒の内部まで確実に加熱して、風味及び食感をより向上させることができる。一方、160℃未満又は20秒未満であると、フード粒の内部が生焼けになり風味や食感が不良になることがある。また、55秒超の焼成時間であると、フード粒の表面が激しく焦げて、不快な焦げ臭が生じることがある。
【0034】
フード粒に遠赤外線を効率良く照射するために、該フード粒を網に載せて、該フード粒に対して上方及び/又は下方から遠赤外線を照射する方法が好ましい。この方法によれば、鉄板上にフード粒を載せて、該フード粒に対して上方から遠赤外線を照射する方法よりも、該フード粒の下部をより効率よく加熱できる。
具体的な方法としては、例えば、図1に示すように、ネットコンベヤーを用いてフード粒を載せた金属製の網を搬送しつつ、当該フード粒の上下から遠赤外線を照射する方法が挙げられる。フード粒の搬送速度を調整することにより、フード粒の加熱時間を調整することができる。
【0035】
フード粒を搬送する際の前記ネットコンベヤーの速度を調整して、加熱時間を変化させて得られたフード粒の水分率(wt%)及び水分活性(AW)のグラフを図2に示す。加熱時間が長くなるほど、すなわち搬送速度が遅くなるほど、水分率及び水分活性が低下している。
【0036】
遠赤外線の照射源としては、熱せられたセラミックス若しくは石英又は燃焼している炭等が用いられる。ガス炎や電熱線等で加熱されたセラミックス若しくは石英から遠赤外線を放射させて、フード粒に照射することができる。耐久性が高く、遠赤外線を強力に照射できるので、セラミックスヒーターを用いることが好ましい。セラミックスを熱する方法は、設備投資及びランニングコストの観点から、ガス炎であることが好ましい。
【0037】
遠赤外線を放射するセラミックスヒーターとフード粒との間の距離は、80mm〜120mmが好ましく、90〜110mmがより好ましい。この離間距離であると、フード粒の内部までより確実に加熱することができ、且つ表面を激しく焦がす恐れがない。
【0038】
<コーティング工程(油脂添加工程)>
本発明の方法は、前記造粒工程及び前記焼成工程以外の処理を行う工程を含んでいてもよい。例えば、前記焼成工程の前工程又は後工程として、コーティング工程を加えてもよい。具体的には、焼成前の前記フード粒を動物油脂及びミールエキスを含むコート剤でコーティングした後、焼成工程を行ってもよい。又は焼成後の前記フード粒に前記コート剤でコーティングして、完成品のペットフードとしてもよい。
フード粒を油脂等でコーティングすることによって、ペットの食い付き(嗜好性)を向上させること、及びペットフードのカロリーを必要に応じて高めることができる。
【0039】
前記動物油脂としては、例えば牛脂が好ましいものとして挙げられる。前記ミールエキスとしては、例えばチキンエキス(鶏肉由来の抽出物)、フィッシュエキス(魚肉由来の抽出物)等の公知のミールエキスが好ましいものとして挙げられる。
前記コート剤は、フード粒にムラなくコーティングできる状態であれば、液状であっても粉末状であってもよい。
【0040】
本発明の方法においては、コーティング工程(油脂添加工程)は焼成工程の後で行うことが好ましい。焼成後のフード粒をコーティングすることによって、焼成後のフード粒中に生成されたピラジン類を、当該フード粒中に閉じ込める効果が得られ、製造されたペットフードの風味を長期間に渡って安定に保つことが容易となる。また、焼成によりフード粒中に生成された風味を向上させる成分を、当該フード粒中に閉じ込める効果が得られ、製造されたペットフードの風味を長期間に渡って安定に保つことが容易となる。なお、油脂でコーティングした後に遠赤外線照射等で焼成した場合には、当該油脂が酸化してしまう恐れがあるが、遠赤外線照射による加熱後に油脂を添加することにより、この恐れが無くなる。
【0041】
油脂等をフード粒にコートする好適な方法として、加温したフード粒と油脂等を接触又は付着させた状態で、減圧することにより、フード粒の表面だけでなくフード粒の内部まで油脂を含浸させる(含ませる)真空コート法が例示できる。フード粒の表面だけに油脂が付いている場合は、製造後にフード粒同士が擦れることにより油脂が落ちることがある。一方、フード粒の内部まで油脂を含ませることにより、油脂がフード粒から離れて落ちることが少なくなる。
【0042】
前記油脂等を投入する際の加温は、油脂が固化しないようにすることが主な目的である。この目的が達成できる温度であれば、加温の温度は特に限定されない。油脂の酸化を防ぐ観点から、なるべく低い温度であることが好ましく、例えば40〜80℃とすることができる。
前記減圧の程度は、油脂をフード粒内に含ませることが可能な程度であれば特に限定されない。フード粒の大きさや硬さに応じて適宜調整すればよく、例えば0.1〜0.3気圧まで減圧する程度が挙げられる。
フード粒に添加する前記油脂等の割合は、カロリー設計に応じて適宜調整することが可能であり、例えば、製造後のペットフードの全重量のうち油脂等が5〜20重量%となるような割合で添加することができる。
【0043】
真空コート法によって油脂をフード粒に添加する具体例を、図3を参照して説明する。まず、攪拌フィンを備えた釜へフード粒4を投入して、密閉後に油脂(牛脂)を投入し、混合しながら約40℃まで加温する。つぎに、混合しながら釜内を約0.2気圧まで減圧し、その後、徐々に、例えば1〜5分、好ましくは1〜3分をかけて、大気開放する。つづいて、必要に応じて調味料を投入して2分程度混合した後、包装工程へ搬送する。ゆっくりと大気開放することによって、フード粒の内部まで均一に油脂等を含浸させることができる。
【0044】
<ピラジン類の含有量の測定法>
前記フード粒及び前記ペットフード中のピラジン類の含有量は、ガスクロマトグラフ−質量分析法によって測定することができる。具体的には、以下の溶媒抽出法によって、測定することが好ましい。本発明で示したピラジン類の含有量は、この溶媒抽出法によって測定した数値である。
(溶媒抽出法)
ペットフード試料2〜10gに水50ml及びジエチルエーテル20mlを加え浸漬し、氷冷下でホモジナイザーで攪拌し、塩化ナトリウム20gを加え、10分間の振とう抽出を行った後、2000rpm/分で5分間の遠心分離を行う。ジエチルエーテル層を脱水ろ過し、4mlまで濃縮したものを試験溶液とする。この試験溶液の所定量をガスクロマトグラフ−質量分析計に注入し、ガスクロマトグラムでピラジン類に該当するピークのマススペクトルを得、物質の特定を行う。得られたガスクロマトグラムから、試料中のピラジン類の含有量を算出できる。例えば、焼成処理を行ったフード粒と焼成処理を行っていないフード粒とを各々試料として測定すると、ピラジン類の含有量を測定できる。以下に、好適な条件を示す。
(ガスクロマトグラフ−質量分析計の操作条件)
機種:6890N/5975B inertXL [Agilent Technologies, Inc.]、カラム:DB-WAX [Agilent Technologies, Inc.] φ0.25mm×30m 膜厚0.25μm、注入量:1μl、導入系:スプリット(1:5)、温度:試料注入口220℃ カラム60℃(1分保持)→10℃/分 昇温→220℃、ガス流量:ヘリウム(キャリアーガス)1ml/分、イオン源温度:230℃、イオン化法:EI、設定質量数:m/z=108.42(2,5−DMP及び2,6−DMP)、m/z=122.42(2,3,5−TMP)
【0045】
<<ペットフード>>
本発明のペットフードは、ピラジン類を0.70ppm以上含有するものである。
ここで、ピラジン類は、化学式Cで表されるピラジン、及びピラジンが有する1以上の水素原子を炭素数1〜6のアルキル基で置換したピラジン誘導体を意味する。
前記炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状の何れであってもよく、炭素数1〜3の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基若しくはエチル基がより好ましい。前記置換される水素原子の数は、1〜3が好ましい。
前記ピラジン類を0.70ppm以上で含有することによって、当該ペットフードに対するペットの食いつきを向上させ得る。
【0046】
本発明のペットフードが含有するピラジン類の濃度は、0.70ppm〜30ppmが好ましく、1.00ppm〜20ppmがより好ましく、1.50ppm〜10.0ppmがさらに好ましく、3.00ppm〜6.00ppmが特に好ましい。ここで、ピラジン類の濃度は、2,5-DMP、2,6-DMP及び2,3,5-TMPの合計の含有量である。
上記範囲の下限値以上であることにより、ペットの食いつきをより一層向上させ得る。
上記範囲の上限値以下であることにより、ピラジン類が有する香気(香り)が強くなり過ぎることを防げる。
【0047】
本発明のペットフードの水分含有量は、8.0重量%未満であることが好ましく、2.0〜6.0重量%であることがより好ましく、2.0〜5.0重量%であることがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であることにより、ペットフードが極端に固くなったり、形状が保てないほど極端に脆くなったりすることを防ぐことができる。また、8.0重量%未満若しくは上記範囲の上限値以下であることにより、ピラジン類が適度に揮発し易くなり、当該ペットフードの風味を良好とし、ペットの食いつきを向上させ得る。
【0048】
本発明のペットフードの脂肪含有量は、22.0重量%以下であることが好ましい。下限値は特に制限されないが、総合栄養食の基準を考慮すると、例えば8.1%以上が好ましい。
上記範囲の脂肪含有量とすることで、当該ペットフードのカロリーやコレステロールを低減し、ペットの健康に資することができる。また、22.0重量%以下とした場合のペットフードの食感と、当該ペットフードに含まれるピラジンの香気との相性が良くなり、ペットの食いつきを向上させ得る。
【0049】
本発明のペットフードは、従来公知の原材料を使用して、前述の方法で製造できる。
本発明のペットフードは、植物以外の動物であれば好んで食するものであり、猫及び犬が好むものであり、特に猫に好まれる。
【実施例】
【0050】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
<ペットフードの製造>
[実施例1〜4]
表3に示す配合率で、穀類、肉類、魚介類及びビタミン・ミネラル類を混合し、ミキサーで粉砕し、原材料の混合物を得た。
前記穀類は、とうもろこし、小麦粉、コーングルテンミール、大豆などを含む。前記肉類は、チキンミール、ポークミールなどを含む。前記魚介類は、フィッシュミールなどを含む。
【0052】
【表3】

【0053】
得られた混合物をエクストルーダを用いて、直径8mm、高さ(厚さ)2mmの碁石状のフード粒となるように造粒した。この際、80〜100℃で4分の加熱処理を施し、澱粉成分をアルファ化した。
得られたフード粒を乾燥機を用いて、約100℃で約20分の乾燥処理を行い、ドライフード粒を得た。
得られたドライフード粒を、遠赤外線を発生する、ガスバーナーで熱したセラミックスヒーターを用いて、300℃で30秒の焼成処理を行い、焼成フード粒を得た。
得られた焼成フード粒に、動物性油脂(牛脂)、チキンエキス及びフィッシュエキスを用いてコーティングして、ペットフードを製造した。前記コーティングの際、前記混合物の重量基準で、動物性油脂が4重量部、チキンエキス及びフィッシュエキスが2重量部となるようにコーティングした。
【0054】
[実施例5]
焼成時間を60秒とした以外は、実施例4と同様にペットフードを得た。
[実施例6]
焼成時間を90秒とした以外は、実施例4と同様にペットフードを得た。
【0055】
[比較例1〜4]
配合A〜Dの前記ドライフード粒を得た後、前記焼成処理を行わず、コーティングして比較例1〜4のペットフードを製造した。
【0056】
<ピラジン類の含有量の分析>
製造したペットフードのピラジン類の含有量の分析を、前述の溶媒抽出法を用いたガスクロマトグラフ−質量分析法で行った結果を表4に示す。単位はppmである。表4中、「0」は0.10ppm未満であり、検出限界以下であったことを示す。
【0057】
【表4】

【0058】
以上から、焼成処理によって、2,5−ジメチルピラジン(2,5-DMP)、2,6−ジメチルピラジン(2,6-DMP)及び2,3,5−トリメチルピラジン(2,3,5-TMP)のうち、いずれか一以上が増加していることが明らかである。
【0059】
<水分含有量の測定>
実施例1〜4と比較例1〜4のペットフードの水分含有量を、以下に説明する常圧加熱乾燥法で測定した。その結果を表5に示す。単位は重量%である。
(常圧加熱乾燥法)
アルミ秤量缶の重量(W1グラム)を恒量値として予め測定する。このアルミ秤量缶に試料を入れて重量(W2グラム)を秤量する。つぎに強制循環式の温風乾燥器を使用して、135℃、2時間の条件で試料を乾燥させる。乾燥雰囲気中(シリカゲルデシケーター中)で放冷した後、重量(W3グラム)を秤量する。得られた各重量から下記式を用いて水分含有量を求める。
水分(%)=(W2−W3)÷(W2−W1)×100
【0060】
また、実施例1〜4の脂肪含有量を、以下に説明する酸分解ジエチルエーテル抽出法で測定した。その結果を表5に示す。単位は重量%である。
(酸分解ジエチルエーテル抽出法)
分析試料2gを正確に量って100mlのビーカーに入れ、エタノール2mlを加え、ガラス棒で混和して試料を潤した後、28%の塩酸20mlを加えて時計皿で覆い、70〜80℃の水浴中でときどきかき混ぜながら1時間加熱した後放冷する。
先のビーカーの内容物を200mLの分液漏斗Aに入れ、ビーカーをエタノール10ml及びジエチルエーテル25mlで順次洗浄し、洗浄液を分液漏斗Aに合わせて入れる。
更にジエチルエーテル75mlを分液漏斗Aに加え、振り混ぜた後で静置する。ジエチルエーテル層(上層)をピペット等でとり、あらかじめ水20mlを入れた300mlの分液漏斗Bに加える。
分液漏斗Aにジエチルエーテル50mlを加え、同様に2回操作し、各ジエチルエーテル層をピペット等でとり、分液漏斗Bに合わせて入れる。
分液漏斗Bを振り混ぜた後で静置し、水層(下層)を捨てる。更に水20mlを分液漏斗Bに加え、同様に2回操作する。ジエチルエーテル層を、あらかじめ脱脂綿を詰め硫酸ナトリウム(無水)10g以上の適量を入れた漏斗で、脂肪ひょう量瓶又は300mlのなす形フラスコにろ過する。この脂肪ひょう量瓶又はなす形フラスコは、あらかじめ95〜100℃で乾燥し、デシケーター中で放冷した後、重さを正確に量っておいたものを使用する。
次に、脂肪ひょう量瓶を用いた場合はソックスレー抽出器を使用して、なす形フラスコを用いた場合はロータリーエバポレーターを使用して、前記ろ過したジエチルエーテルを回収する。回収したジエチルエーテルを揮散させて、95〜100℃で3時間乾燥し、デシケータ中で放冷した後、重さを正確にはかり、試料中の粗脂肪量を算出する。
【0061】
【表5】

【0062】
以上から、焼成処理によって、水分含有量が約3.0〜4.0重量%低下していることが明らかである。また、実施例1〜4のペットフードの脂肪含有量は22.0重量%以下であった。
【0063】
<遊離アミノ酸の減少比率の測定>
実施例2,4と比較例2,4のペットフードの遊離アミノ酸分析を行い、実施例2,4のリジン、ヒスチジン、メチオニンについて、焼成処理による減少比率を次式で求めた。
減少比率(%)={(実施例のアミノ酸含有量)−(比較例のアミノ酸含有量)}÷(比較例のアミノ酸含有量)×100。その結果を表6に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
以上から、焼成処理によって、リジン、ヒスチジン及びメチオニンはいずれも5.0%以上減少していることが明らかである。
【0066】
前記製造工程における前記ドライフード粒の遊離アミノ酸分析を、以下に説明する公知のアミノ酸分析法で行った結果を表7に示す。なお、単位は%である。
(遊離アミノ酸の分析)
1.5gの試料に10w/v%のスルホサリチル酸溶液25mlを加えて混和し、20分間の振とうを行って抽出した。得られた抽出液に3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を加えて中和し、更にpH2.2のクエン酸ナトリウム緩衝液を添加して、合計で50mlとなるように抽出液をpH2.2に調整し、更にこれをろ過した。
得られたろ過液の一部を分取して試験溶液とし、アミノ酸自動分析法によって、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン酸及びシスチンの17種類の遊離アミノ酸を定量した。以下に、条件を示す。
(アミノ酸自動分析計の操作条件)
機種:L-8800形高速アミノ酸分析計[株式会社 日立ハイテクノロジーズ]、カラム:日立カスタムイオン交換樹脂 φ4.6mm×60mm[株式会社 日立ハイテクノロジーズ]、移動相:MCI L-8500-PF (PF-1〜PF-4)[三菱化学株式会社]、反応液:日立用ニンヒドリン発色溶液キット[和光純薬工業株式会社]、流量:移動相0.35ml/分
反応液0.30ml/分、測定波長:570nm(プロリンを除く16種類の測定時)
440nm(プロリンの測定時)
【0067】
また、上記17種類に含まれないトリプトファンの定量は、次のように行った。上記ろ過液のうち2.5mlを分取して、3mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を加えて微アルカリに調整し、10mlの試験溶液とし、高速液体クロマトグラフ法によって分析した。
以下に、条件を示す。
(高速液体クロマトグラフの操作条件)
機種:LC-20AD[株式会社 島津製作所]、検出器:蛍光分光光度計 RF-20Axs[株式会社 島津製作所]、カラム:CAPCELL PAK C18 AQ φ4.6mm×250mm[株式会社 資生堂]、移動相:20mmol/L 過塩素酸及びメタノールの混合液(混合比80:20)、流量:0.7mm/分、蛍光励起波長:285nm、蛍光測定波長:348nm、カラム温度:40℃
【0068】
【表7】

【0069】
以上の結果から、遊離のメチオニン含有量が多い前記ドライフード粒を使用することによって、前記焼成フード粒のピラジン類の含有量を高められることが明らかである。また、遊離のアミノ酸含有量が多い前記ドライフード粒を使用することによって、前記焼成フード粒のピラジン類の含有量を高められることが明らかである。
【0070】
<嗜好性の評価(1)>
実施例1〜4及び比較例1〜4の嗜好性(食いつき)を以下の方法で評価した。この結果を表8に示す。
評価方法は、次の通りである。
まず、実施例1と比較例1の組、実施例2と比較例2の組、実施例3と比較例3の組、及び実施例4と比較例4の組、の第一組〜第四組のペットフードを準備した。各組について、20頭の猫をモニターとして2日間でテストした。
第1日は、第一組目のペットフードのうち、一方を左から、他方を右から、猫1頭に対して70gずつ同時に給与し、猫が食べた量を1時間後に測定した。
当該猫1頭が第1日に食べた合計のペットフードの重量のうち、実施例のペットフードの摂食量と比較例のペットフードの摂食量を百分率で求めた。モニターである20頭の猫から得られた百分率を平均して、第1日の結果とした。
第2日は、第一組目のペットフードのうち、一方を右から、他方を左から、猫1頭に対して70gずつ同時に給与し、猫が食べた量を1時間後に測定した。
当該猫1頭が第2日に食べた合計のペットフードの重量のうち、実施例のペットフードの摂食量と比較例のペットフードの摂食量を百分率で求めた。モニターである20頭の猫から得られた百分率を平均して、第2日の結果とした。
最後に、第1日と第2日の結果を平均して、最終結果である摂食量の比(嗜好性)を求めた。この嗜好性の数値が高い程、モニターである猫が好んで摂食したことを示す。
第二〜第四組のペットフードについても、第一組のペットフードと同様に評価した。
【0071】
【表8】

【0072】
上記結果から、実施例1〜4の方が比較例1〜4よりも嗜好性が優れていることが明らかである。
【0073】
<嗜好性の評価(2)>
実施例4と比較例4の嗜好性(食いつき)を、以下に説明する2ボールテスト及びシングルユーステストで評価した。その結果を表9,10に示す。
【0074】
2ボールテストは、6日間継続して実施例4と比較例4とを同時に給与し、猫の食べ具合を確認した。この際、摂食量は測定せず、どちらのテスト品の方が猫の食いつきが良いか、を飼い主が判断した。飼い主と猫の一組をモニター1名とし、モニター数50名によって評価した。2ボールテストは、以下の(a1)〜(e1)の順序で行った。
(a1)1日目は、実施例4及び比較例4の二種を、1日当たり70g、左右同時に給与し、猫の食べ具合を確認した。この際、摂食量は測定しなかった。25名は実施例4を左側から給与し、残り25名は比較例4を左側から給与し、猫の食べ具合を確認した。
(b1)2日目は、実施例4と比較例4を給与する配置を左右逆にして、猫の食べ具合を確認した。
(c1)3〜6日目は、1日毎に配置を左右逆にして、猫の食べ具合を確認した。
(d1)6日目終了後に、飼い主から見て、猫が実施例4と比較例4のどちらをより好んだかを評価した。この評価基準は、50名のモニター数のうち、実施例4が非常に良い(A◎)、実施例4がやや良い(A○)、どちらとも同じくらいで差異はない(△)、比較例4がやや良い(B○)、又は比較例4が非常に良い(B◎)と回答した人数の百分率として求めた。
(e1)上記評価基準から、次式で計算して、実施例4及び比較例4の得点を数値化した。実施例4の得点=(A◎)+(A○)+(△)÷2、比較例4の得点=(B◎)+(B○)+(△)÷2、を求めた。
【0075】
シングルユーステストは、実施例4及び比較例4の何れか一方を5日間、連続で給与し、続く5日間、他方を連続で給与し、猫の食べ具合を確認した。この際、摂食量は測定せず、どちらのテスト品の方が猫の食いつきが良いか、を飼い主が判断した。飼い主と猫の一組をモニター1名とし、モニター数50名によって評価した。シングルユーステストは、以下の(a2)〜(e2)の順序で行った。
(a2)1日目は、25名に対し実施例4を1日当たり70g給与し、残りの25名に対しては比較例4を1日当たり70g給与し、猫の食べ具合を確認した。この際、摂食量は測定しなかった。
(b2)2〜5日目は、1日目と同じペットフードを給与し、猫の食べ具合を確認した。
(c2)6〜10日目は、1〜5日目とは異なる他方のペットフードを各モニターに1日当り70g給与し、猫の食べ具合を確認した。
(d2)10日目終了後に、飼い主から見て、猫が実施例4と比較例4のどちらをより好んだかを評価した。この評価基準は、50名のモニター数のうち、実施例4が非常に良い(A◎)、実施例4がやや良い(A○)、どちらとも同じくらいで差異はない(△)、比較例4がやや良い(B○)、又は比較例4が非常に良い(B◎)と回答した人数の百分率として求めた。
(e2)上記評価基準から、次式で計算して、実施例4及び比較例4の得点を数値化した。実施例4の得点=(A◎)+(A○)+(△)÷2、比較例4の得点=(B◎)+(B○)+(△)÷2、を求めた。
【0076】
【表9】

【0077】
【表10】

【0078】
上記結果から、2ボールテスト及びシングルユーステストの何れにおいても、実施例4の方が比較例4よりも嗜好性が優れていることが明らかである。
【0079】
<嗜好性の評価(3)>
実施例4,5,6のペットフードの嗜好性(食いつき)を評価した。その結果を表11に示す。
評価方法は、次の通りである。
3頭の猫をモニターとして、1日間でテストした。実施例4,5,6のペットフードを猫1頭に対して各50gずつ同時に給与し、摂食量を6時間後に測定した。各猫が食べた量を平均した重量を最終結果とした。
【0080】
【表11】

【0081】
[比較例5]
前記焼成処理に代えて、油中で180℃で30秒のフライ処理を行った以外は、実施例4と同様の方法でペットフードを製造した。
測定の結果得られたペットフードの脂肪(油)含有量は、22.0重量%を超えて、約27重量%であった。
得られたペットフードのピラジン類の含有量を表12に併記する。
【0082】
[参考例1]
前記フライパンで180℃で3分の炒り処理を行った以外は、実施例4と同様の方法でペットフードを製造した。この際、フライパンに油をひいて炒ったため、得られたペットフードの油含有量は、約13.5重量%であった。
得られたペットフードのピラジン類の含有量を表12に併記する。なお、単位はppmである。
【0083】
【表12】

【0084】
<ペットフードの製造>
[実施例7〜10]
表13に示す配合率で、穀類、肉類、魚介類及びビタミン・ミネラル類を混合し、ミキサーで粉砕し、原材料の混合物を得た。
前記穀類は、とうもろこし、小麦粉、コーングルテンミール、大豆などを含む。前記肉類は、チキンミール、ポークミールなどを含む。前記魚介類は、フィッシュミールなどを含む。
【0085】
【表13】

【0086】
得られた混合物をエクストルーダを用いて、直径及び高さ(厚さ)が3mm〜30mmの碁石状のフード粒となるように造粒した。この際、80〜100℃で3〜6分間の加熱処理を施し、澱粉成分をアルファ化した。
得られたフード粒を、乾燥機を用いて、70〜90℃の温風で10〜30分の乾燥処理を行い、ドライフード粒を得た。ドライフード粒の重量に対して1.5wt%の牛脂を添加して、ドライフード粒の表面をコーティングした。このコーティングにより、ドライフード粒から細かな粉が発生すること(粉立ち)を防止した。
つぎに、図1に模式的に示したように、牛脂で表面をコーティングしたドライフード粒を金属製の網上に載せてネットコンベヤーで搬送し、セラミックスヒーターを備えた炉内において、該網の上方及び下方から遠赤外線を照射して、当該フード粒を加熱した。具体的には、フード粒を搬入する前の炉内の温度(空焚き時の温度)240〜260℃の範囲とし、フード粒の搬入を継続的に行う際の炉内の温度(粒流し時の温度)を190〜210℃の範囲にして、当該フード粒1個当り20〜75秒の加熱となるように、ネットコンベヤーによる網の搬送速度を調整した。この際、セラミックスヒーターとフード粒との離間距離は約100mmにした。なお、炉内の温度(雰囲気温度)は、網から30mm上方且つ網の端から350mm側方且つセラミックスヒーターの中央部から95mm離れた位置に温度計を設置してモニターした。
加熱後、炉内から搬出されたフード粒はネットコンベヤーで搬送されている間に空気で自然に冷却した。
つづいて、フード粒を釜内に投入して40℃以上に加温し、混合しながら油脂をフード粒の重量に対して3〜15wt%で添加して、0.2気圧まで減圧した後、約2分間かけて大気圧まで戻すことによって、油脂をフード粒内に含浸させた。
実施例7〜10で得られたフード粒は、いずれも油含有量が適切に調整されていた。具体的には、油含有量を約13.5%とすることができた。また、ペットの食い付きが良かったことから、実施例7〜10の製造方法によって得られたペットフードの風味や食感はペットにとって好ましいものであることが明らかである。
また、遠赤外線の照射による焼成時間(加熱時間)は20〜75秒であり、これはグリルやローストによる加熱時間よりも短縮されていた。例えば、参考例1の炒り処理(ロースト)においては、加熱完了までに3分を要した。この遠赤外線照射で製造した実施例7〜10のペットフード(焼成時間30秒)と、3分の炒り処理で製造した参考例1のペットフードとを用いて、前述の2ボールテストと同様の方法によって、嗜好性の評価を行った。評価結果は、実施例7〜10のペットフードは参考例1と同等以上の優れた食い付きを示すものであった。したがって、遠赤外線照射による製造方法は、炒り処理よりも短時間の焼成でありながら食い付きの良いペットフードを製造することができるので、製造効率に優れた方法であるといえる。
【符号の説明】
【0087】
1…セラミックスヒーター、2…炉、3…ネットコンベヤー、4…フード粒、5…フード粒の輸送路、6…焼成したフード粒の回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原材料の混合物を造粒してフード粒を得る工程と、前記フード粒を焼成する工程と、を含むことを特徴とするペットフードの製造方法。
【請求項2】
前記焼成の温度が、前記フード粒にピラジン類を生成させる温度であることを特徴とする請求項1に記載のペットフードの製造方法。
【請求項3】
焼成後の前記フード粒中のピラジン類の含有量が、焼成前の前記フード粒中のピラジン類の含有量よりも、0.10ppm以上多くなるように、前記焼成を行うことを特徴とする請求項2に記載のペットフードの製造方法。
【請求項4】
前記ピラジン類が、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン及び/又は2,3,5−トリメチルピラジンであることを特徴とする請求項2又は3に記載のペットフードの製造方法。
【請求項5】
遠赤外線を用いて、前記焼成を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項6】
前記造粒工程において、最短径及び最長径が共に3mm〜30mmの大きさであるフード粒を得ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項7】
前記造粒工程において、成形したフード粒を70〜90℃の温風によって乾燥させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程において、雰囲気温度が160〜230℃となるように遠赤外線を照射し、前記造粒工程で得たフード粒を焼成することを特徴とする請求項6に記載のペットフードの製造方法。
【請求項9】
前記焼成の時間が、20秒〜55秒であることを特徴とする請求項8に記載のペットフードの製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程において、遠赤外線の照射源としてセラミックスヒーターを用い、該セラミックスヒータと前記造粒工程で得たフード粒との間の距離を80mm〜120mmとして焼成することを特徴とする請求項8又は9に記載のペットフードの製造方法。
【請求項11】
前記焼成工程において、フード粒を網に載せて搬送しつつ、該網の上方及び/又は下方から遠赤外線を照射することを特徴とする請求項5〜10のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項12】
前記焼成の温度が、270℃〜370℃であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項13】
前記焼成の時間が、20秒〜75秒であることを特徴とする請求項12に記載のペットフードの製造方法。
【請求項14】
焼成前の前記フード粒中の水分含有量が12.0質量%以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項15】
前記造粒において、前記混合物を150℃以下で加熱することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項16】
前記造粒工程において、エクストルーダーを使用して、原材料の混合物を造粒してフード粒を得ることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項17】
さらに、前記フード粒に油脂を含浸させる油脂添加工程を有することを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載のペットフードの製造方法。
【請求項18】
前記油脂添加工程が、前記焼成工程の後に行われることを特徴とする請求項17に記載のペットフードの製造方法。
【請求項19】
前記油脂添加工程において、前記フード粒を40℃以上に加温し、油脂を該フード粒の表面に接触させた状態で減圧し、その後、大気圧まで戻すことを特徴とする請求項17又は18に記載のペットフードの製造方法。
【請求項20】
請求項1〜19に記載のペットフードの製造方法によって製造されたペットフード。
【請求項21】
ピラジン類を0.70ppm以上含有することを特徴とする請求項20に記載のペットフード。
【請求項22】
前記ピラジン類が、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン及び/又は2,3,5−トリメチルピラジンであることを特徴とする請求項21に記載のペットフード。
【請求項23】
水分含有量が8.0重量%未満であることを特徴とする請求項20〜22のいずれか一項に記載のペットフード。
【請求項24】
脂肪含有量が22.0重量%以下であることを特徴とする請求項20〜23のいずれか一項に記載のペットフード。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−17470(P2013−17470A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280512(P2011−280512)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】