説明

ペットフード

【課題】不飽和脂肪酸含有油脂を含有し、高い保存安定性と嗜好性を具備するペットフードを提供する。
【解決手段】次の成分(A)〜(E)を含有するペットフード。
(A)二重結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂、
(B)鉄、鉄化合物、銅及び銅化合物から選ばれるミネラル成分、
(C)クエン酸及び/又はその塩、合計量がモル比で成分(B)の10倍以上、
(D)レシチン
(E)ローズマリー抽出物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和脂肪酸含有油脂を含むペットフードに関する。
【背景技術】
【0002】
ペットブームによりペット飼育数は増大しており、それに伴いペットの高齢化、運動不足、栄養過多等によりペットの肥満、糖尿病、肝臓疾患等のヒトの成人病と同様の疾病が増大している。また、避妊手術後のホルモンバランスの狂いによって肥満する犬や猫が多くなっている。このような肥満や体重増加を防止するためのペットフードが数多く開発されている。例えば、不飽和脂肪酸含有量を高くした油脂を配合したペットフードが提案されている。
【0003】
このようなペットフードは、不飽和脂肪酸を多く含むため、保存環境によっては酸化され易く、臭い、嗜好性などに影響を与えることがある。そこで本出願人は高ミネラル含有のペットフードにおいて、ビタミンC誘導体を配合する技術(特許文献1)や、天然由来の抗酸化剤を含有させると共にペットフード中の鉄イオン及び銅イオンの含有量をコントロールする技術(特許文献2)により、長期保存安定性を改善することを提案してきた。
【0004】
また、食品用途での抗酸化システムとして、中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするグリセライドと酸化防止剤を組み合わせたもの(特許文献3)、ヤマモモ抽出物と水溶性酸化防止剤及び親油性酸化防止剤を組み合わせたもの(特許文献4)、マッシュルーム菌糸体培養濾液等と抗酸化剤とを組合せたもの(特許文献5)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−204659号公報
【特許文献2】特開2007−110916号公報
【特許文献3】特開2004−115758号公報
【特許文献4】特開2007−185138号公報
【特許文献5】特開平7−59548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年における、ペットの健康志向の高まりの中では、種々の生理的効果を有することが期待されているω3脂肪酸やω6脂肪酸といった、分子内に不飽和結合を多く持つ脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂を多く配合するペットフードが求められている。しかしながら、これら脂肪酸は非常に酸化しやすく、長期に亘って生理的効果を発現させることが困難である。従って、このような高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂を含有するペットフードにおいて、長期の保存安定性を達成することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、二重結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂を含むペットフードの長期保存安定性について検討してきたところ、不飽和脂肪酸含有油脂にペットフードに必要な金属塩、特に銅や鉄を配合すると当該油脂の酸化は促進されてしまい、両者を含有する酸化に対して安定なペットフードは得られないことが判明してきた。そこで、その酸化安定性を改善すべく種々検討したところ、抗酸化作用を有するとされているカテキン、ビタミンE、レシチン、ビタミンC類、カロチンなど単独での配合では、不飽和脂肪酸含有油脂と金属塩含有ペットフードの酸化は十分に防止できなかったのに対し、クエン酸又はその塩を所定量以上配合することにより顕著に酸化が防止できることを見出した。
本発明者は、当該クエン酸又はその塩配合によるペットフードの酸化に対する安定化作用を更に向上させるべく検討した結果、全く意外にも、単独の添加ではほとんど酸化防止作用を有さないレシチンとローズマリー抽出物を、一定量以上のクエン酸又はその塩とともに配合すれば、不飽和脂肪酸含有油脂と金属塩を含有するペットフードの安定性を顕著に改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の成分(A)〜(E)を含有するペットフードを提供するものである。
(A)二重結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂、
(B)鉄、鉄化合物、銅及び銅化合物から選ばれるミネラル成分、
(C)クエン酸及び/又はその塩、合計量がモル比で成分(B)の10倍以上、
(D)レシチン
(E)ローズマリー抽出物
【0009】
また、本発明は、(A)二重結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂、(B)鉄、鉄化合物、銅及び銅化合物から選ばれるミネラル成分、を含有する組成物中に、(C)クエン酸及び/又はその塩、合計量がモル比で成分(B)の10倍以上、(D)レシチン、(E)ローズマリー抽出物、が配合されることを特徴とする該組成物の酸化防止方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペットフードは長期保存安定性に著しく優れている。従って、ω3、6等の高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として多量に含む油脂を配合した場合などにおいては、その期待される生理的機能を長期に亘って発現することが可能となる。また、脂肪酸の酸化に伴う臭いの変化、嗜好性の低下等が効果的に抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】試料の電気伝導率の経過変化を示す図である。
【図2】油脂とミネラル成分を含む組成物に対する種々の抗酸化剤の抗酸化力をランシマット試験法で評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のペットフードは、(A)二重結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸(以下、単に高度不飽和脂肪酸ともいう)を構成脂肪酸として含む油脂を含有する。当該油脂の構成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の含量は、ペットの皮膚及び被毛の健康の点から、20〜90質量%(以下、単に%で示す)、更に23〜80%、特に25〜70%であることが好ましい。また、構成脂肪酸として高度不飽和脂肪酸を含む油脂のペットフード中の含量は、2〜45%が好ましく、2.5〜40%がより好ましく、3〜35%が更に好ましい。ここで、高度不飽和脂肪酸としては、炭素数18〜24の高度不飽和脂肪酸が好適なものとして挙げられる。二重結合を2つ有する不飽和脂肪酸としてはリノール酸が挙げられる。また、二重結合を3つ以上有する不飽和脂肪酸を多く含むことが種々の生理的効果を期待できる観点から好ましい。当該不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)が好ましく、成分(A)の油脂の構成脂肪酸中の当該脂肪酸の含量として3.0%以上が好ましく、3.5%以上がより好ましく、4.0%以上が更に好ましい。
なお、成分(A)の油脂を構成する脂肪酸としては、高度不飽和脂肪酸以外に、二重結合を1つ有する不飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸を含んでいても良い。ここで、二重結合を1つ有する不飽和脂肪酸としては炭素数16〜24の不飽和脂肪酸が挙げられ、オレイン酸、パルミトオレイン酸等が好ましい。また、飽和脂肪酸としては炭素数12〜18の飽和脂肪酸が挙げられ、パルミチン酸、ステアリン酸等が好適である。
【0013】
またペットフードに含まれる全油脂の構成脂肪酸中に二重結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸の含量は5%〜80%が好ましく、さらに10〜75%がより好ましく、さらに15〜70%が好ましく、さらに20〜65%が好ましい。
本発明においては、成分(A)以外の油脂、すなわち高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含まない油脂を含有していても良い。本発明のペットフード中の全油脂の含有量は、嗜好性とペットフードの不快臭除去の点から6〜50%が好ましく、6〜45%がより好ましく、6〜40%が更に好ましく、8〜35%が特に好ましい。
【0014】
本発明のペットフードに用いられる上記の油脂としては、前記高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むサフラワー油、オリーブ油、綿実油、コーン油、ナタネ油、大豆油、パーム油、ひまわり油、アマニ油、ごま油、ラード、牛脂、魚油、乳脂、ココナツ油、ヤシ油、米ぬか油、紫蘇油、エゴマ油、月見草油、ヘンプシード油等が挙げられる。これらの中でも、二重結合を3つ以上有する不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として多く含むアマニ油、魚油、紫蘇油、エゴマ油、月見草油、ヘンプシード油が好ましい。しかし、油脂として配合したものに限られず、他の植物原料、又は動物原料中に油脂が含有されている場合にはこれも含む。また、油脂中には、ジグリセリドが含まれていてもよい。
【0015】
本発明のペットフードはまた、成分(B)として鉄、鉄化合物、銅及び銅化合物から選ばれるミネラル成分を含有する。鉄化合物としては、硫酸鉄、塩化第二鉄、フマル酸第一鉄、炭酸第一鉄、酸化鉄等が挙げられる。該鉄化合物のペットフード中の含有量は、ペットフードの配合において許容できる範囲、鉄換算で0.00001〜1%、更に0.00005〜0.3%、特に0.0001〜0.1%が好ましい。
【0016】
銅化合物としては、硫酸銅、塩化銅、酸化銅、炭酸銅、硫化銅、銅クロロフィル等が挙げられる。該銅化合物のペットフード中の含有量は、ペットフードの配合において許容できる範囲、銅換算で0.00001〜0.1%、更に0.00005〜0.03%、特に0.0001〜0.01%が好ましい。
【0017】
これらのミネラル成分のうち、鉄又は鉄化合物と銅又は銅化合物とは併用するのが好ましい。本発明では、これらのミネラル成分の合計の含有量は、ミネラル換算(鉄換算及び銅換算)で0.0005〜1%が好ましく、0.0005〜0.5%がより好ましく、0.001〜0.1%が更に好ましい。
【0018】
本発明のペットフードには、ミネラル成分として鉄、銅以外に、マンガン、コバルト、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム等を含有してもよい。これらミネラル成分は、例えば、酸化マンガン、炭酸コバルト、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等として配合される。
【0019】
本発明のペットフードは、更に成分(C)として、クエン酸及び/又はその塩を含み、その合計量が成分(B)に対してモル比で10倍以上である。ここでクエン酸塩としてはアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が挙げられ、特にアルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属塩としては、クエン酸の正塩(三アルカリ金属塩)、一水素二アルカリ金属塩及び二水素アルカリ金属塩を意味する。クエン酸のアルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられ、特にナトリウム塩であることが好ましい。なお、本明細書において、特に断らない限りは、クエン酸ナトリウムという場合にはクエン酸三ナトリウム塩(二水和塩)を表わす。
【0020】
クエン酸及びその塩の合計量が成分(B)の金属に対してモル比で10倍以上であると、クエン酸及び/又はその塩とレシチンとの併用による前記酸化防止効果が相乗的に向上する。当該成分(C)の合計量は、成分(B)に対してモル比で11倍以上が好ましく、12倍以上がより好ましい。また、クエン酸又はその塩の合計量は、嗜好性の点から、成分(B)に対してモル比で60倍以下が好ましい。
【0021】
また、成分(C)はペットフード中にクエン酸換算で0.5%以上含まれていることが好ましい。ここで「クエン酸換算で」とは、成分(C)としてクエン酸及びクエン酸のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の塩(以下、クエン酸類とも言う)が含まれている場合、又は成分(C)がクエン酸のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の塩のみである場合、当該アルカリ金属分及びアルカリ土類金属分を水素に置き換えてクエン酸分子量とみなして質量を換算することを意味する。
本発明のペットフードは、保存安定性及び嗜好性の点から、クエン酸類をクエン酸換算で0.7%以上、更に0.75%以上、更に1.0%以上含有していることが好ましい。クエン酸類含有量の上限値としては、嗜好性、保存時の臭いを考慮して5.0%、更に4.0%が好ましい。
【0022】
本発明のペットフードは、更に、成分(D)としてレシチンを含有する。レシチンは狭義にはホスファチジルコリンを意味するが、広義にはグリセロリン脂質を意味する。本発明で好適に用いられるホスファチジルエタノールアミンはグリセロリン脂質の一種であり、広義のレシチンに含まれる。レシチンが商業用又は工業用に用いられるときは広義のグリセロリン脂質を意味し、グリセロリン脂質を主成分とした混合物であることが多い。
【0023】
本発明に用いられる(D)レシチンとしては、大豆レシチン、粉末大豆レシチン、卵黄レシチン、水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、菜種レシチン、コーンレシチン、牛脳レシチン、牛肝臓レシチン等が挙げられる。また、食品や飼料に一般的に用いられる大豆レシチンの成分として、含有量の多い順にホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)が存在するが、これら単独でも本発明ではレシチンとして扱われる。また、PCの構成脂肪酸としてDHAが結合したPC−DHAなどもレシチンとして挙げられる。これらのうちPEは抗酸化活性が高いことが分かった。従って、混合物としてはPE含有量が高いものが望ましく、大豆レシチン、粉末大豆レシチン、水素添加大豆レシチン、卵黄レシチンが風味、臭い、コストの観点からより好ましい。
【0024】
成分(D)は抗酸化効果の点から、成分(A)の油脂に対して0.3%以上、更に0.5%以上含有されることが望ましい。より高い抗酸化効果と風味の観点から、0.6%以上20.0%以下、更に1.0%以上15.0%以下であることが好ましい。
なお、本発明において前記レシチン(D)の量はアセトン不溶分であるリン脂質換算の量を指し、該リン脂質換算量は日本油脂科学会編「基準油脂分析試験法 5.3.3.1−86 リン脂質リン組成」に記載の方法により測定することができる。例えば、食品などで一般的に使用される大豆レシチンにはトリグリセライドなどのアセトン可溶分も含まれるので、このような成分を除く趣旨である。アセトン不溶分であるレシチン量としては、レシチン源(例えば、大豆レシチンとして市販される剤)中に60%程度であることが多い。また、成分(D)は、抗酸化効果と風味の観点から本発明のペットフード全量中に0.06〜6.0%、更に0.1〜3%、更に0.2〜2.0%含有するのが好ましい。また、成分(A)の油脂の構成成分である高度不飽和脂肪酸に対して0.5%以上75%以下、更に0.5%以上50%以下であることが高い抗酸化効果の観点から好ましい。
【0025】
本発明は更に、(E)ローズマリー抽出物を含む。ローズマリー抽出物はシソ科の植物であるローズマリーの葉の水及び/又は有機溶剤抽出物であり、一般的にハーブであるローズマリー独特の香気を有している。より詳細には、ローズマリーの葉を乾燥し、粉砕し、水、熱水、ヘキサン、エタノール、アセトン、酢酸エチルあるいはこれらの混合溶剤等で抽出することにより得られる。本発明では、上記水及び又は有機溶剤による抽出物の他、これを製剤化したオレオレジン製剤類又は構成成分であるロスマノール、カルソノール、イソロスマノール等の製剤類も使用してもよい。これらの抽出物を更に減圧法、加熱減圧法、超臨界抽出法、カラム吸着法等により脱臭処理したもの(以下、脱臭品と記載する)が風味の点で特に好ましい。ここで、ローズマリー抽出物の市販品としては、ハーバーロックスタイプO、同タイプHT−O、同タイプ25、デュオライトNMH、同NM−1(以上、カルセック社製)、レオミールE、レオミールIO(以上、ライオン(株)製)RMキーパー(以上、三菱化学フーズ製)等が挙げられる。
【0026】
(E)ローズマリー抽出物は抗酸化効果の点から、成分(A)の油脂に対して抽出物分(溶剤なし)として0.04%以上含有される。より高い抗酸化効果と風味および経済的な観点から、0.04%以上0.4%以下、更に0.08%以上0.2%以下であることが好ましい。また、(E)ローズマリー抽出物は、抗酸化効果の観点から本発明のペットフード全量中に抽出物分(溶剤なし)として0.004%以上、更に0.008%以上、更に0.01%以上含有するのが好ましい。また、風味の観点からはペットフード中に5%以下、更に3%以下であることが好ましい。
【0027】
レシチン、ローズマリー抽出物は、それぞれ単独で、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂とミネラル成分を含有する組成物に配合した場合、抗酸化効果が低く、ミネラル成分を含まない系の抗酸化力にまで及ばない。また、レシチンとローズマリー抽出物を併用した場合においても、やはり抗酸化効果は高くない(図1参照)。一方、クエン酸を単独で1.0%以上配合した系においては、抗酸化力がミネラル成分を含まない系のレベルまで回復する。本発明においては、クエン酸を組成物中のミネラル成分に対してモル比で10倍以上含有させて、かつ、レシチンとローズマリー抽出物を共存させることによって、各々単独での効果からは想像できないレベルにまで抗酸化力が向上することを見出したものである。実際、他の一般的に知られている抗酸化剤であるミックストコフェロールや、効果が非常に高いといわれているδ-トコフェロールをクエン酸と共存させた場合には、クエン酸単独よりも抗酸化力が低下する現象が観測された(図1)。つまり、この抗酸化力の向上は、所定量のクエン酸と、レシチン及びローズマリー抽出物を組み合わせたことによる特有の現象と言える。
【0028】
本発明のペットフードは、(D)レシチンと(E)ローズマリー抽出物の合計量として0.1〜10%、更に0.3〜5%、更には0.5〜3%含有することが、抗酸化効果と風味の両立を図る観点から好ましい。
【0029】
本発明のペットフードは、そのpHが3.5〜7.0であることが好ましい。当該範囲であると、上記成分(B)による上記成分(A)の酸化がより効果的に抑制され、嗜好性も良好となる。当該pHが4.0〜7.0、更に好ましくは4.5〜6.8であると、酸化抑制効果が一層高まるとともに、保存時の臭いが良好になるので好ましい。クエン酸類を含み、かつpHがこのような範囲とするには、クエン酸のほかにpH調整剤を加える方法がある。そのような方法の中でも、クエン酸とクエン酸塩を併用する方法がpH調整がし易いとともに、嗜好性も良好で、風味も統一感があるので好ましい。特に、クエン酸塩として上述のクエン酸アルカリ金属塩を用いることが好ましい。
【0030】
なお、「ペットフードのpH」とは、ペットフードを以下の方法によって測定したときのpHのことを意味する。
<ペットフードのpH測定方法>
ペットフード10gを45℃のイオン交換水(好ましくは25℃における電気伝導度が0.01mS/m以下のイオン交換水)60mL中に加えて十分に攪拌し、1時間静置した後に定性ろ紙(No.1, Advantec製)を用いてろ過し、濾液を25℃においてpH測定した。
なお、ペットフードの性状が固形の場合には、乳鉢等を使用して細かく磨り潰した後に上記攪拌操作を行うことが好ましい。
【0031】
本発明のペットフードには、更に炭水化物を含むことが好ましい。炭水化物源としては、単糖類、オリゴ糖、多糖類、食物繊維、デンプン類等が含まれる。デンプン類としては、ワキシーコーンデンプン、コーンデンプン、小麦デンプン、米デンプン、糯米デンプン、馬鈴薯デンプン、甘露デンプン、タピオカデンプン、サゴデンプン、又はこれらに化学的処理を施したものや化学修飾した加工デンプン等が挙げられる。また、炭水化物は、穀物類として含有させてもよく、穀物類としては、とうもろこし、大麦、小麦、ライ麦、ソルガム、米、ひえ、あわ、アマラサンサス、キヌア等が挙げられる。炭水化物は、ペットフード中に10〜70%、更に20〜60%、更に30〜50%含有するのが、経済的、肥満防止効果、摂取性、便の状態、及び外観を健康的に美しくする点から好ましい。
【0032】
本発明のペットフードにおいては、更に動物性又は植物性のタンパク質を含むことが、肥満防止効果、摂取性、栄養バランス、及び外観を健康的に美しくする点から好ましいが、摂取性の点から動物性タンパク質がより好ましい。動物性タンパク質としては、カゼイン等の乳タンパク質も挙げられるが、肥満防止効果及び摂取性の点から、動物性肉類タンパク質が好ましい。このような動物性肉類タンパク質としては、牛、豚、羊、うさぎ、カンガルー等の畜肉及び獣肉、並びにその副生成物及び加工品;鶏、七面鳥、うずら等の鳥肉並びにその副生成物及び家屋品;魚、白身魚等の魚肉並びにその副生成物及び加工品;ミートミール、ミートボーン、チキンミール、ポータリーミール、フィッシュミール等の上記原料のレタリング等が挙げられる。このうち、肥満防止効果の点で、鶏肉、魚肉が特に好ましい。複数の肉類タンパク質を混合して用いる場合には、鶏肉及び/又は魚肉を肉類中の30〜100%、更に50〜100%含有させるのが好ましい。
植物性タンパク質としては、大豆タンパク質、小麦タンパク質、小麦グルテン、コーングルテン等が好ましい。
【0033】
本発明のペットフード中に動物性又は植物性タンパク質は、乾燥減量で5〜70%、更に10〜60%、更に15〜40%含有するのが好ましい。
【0034】
本発明のペットフードは、更に植物ステロールを含有してもよい。植物ステロールはペットフード中に、コレステロール低下効果の点で、0.1%以上、更に0.5%以上含有するのが好ましい。また植物ステロール含有量の上限は、0.1〜30%の範囲であればよい。ここで植物ステロールとしては、例えばα−シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール等のフリー体、及びこれらの脂肪酸エステル、フェルラ酸エステル、桂皮酸エステル等のエステル体が挙げられる。
【0035】
本発明のペットフードには、更に、ぬか類、粕類、野菜、ビタミン類等を配合することができる。ぬか類としては、米ぬか、ふすま等が、粕類としては、大豆粕等が挙げられる。野菜類としては野菜エキス等が挙げられる。ビタミン類としては、A、B1、B2、D、E、ナイアシン、パントテン酸、カロチン等が挙げられ、0.05〜10%含有するのが好ましい。この他、一般的にペットフードに使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等も含有することができる。
【0036】
本発明のペットフードは、前記成分を混合し、所望の形態にすることで製造できるが、成分(A)の油脂成分は最後に添加するのが好ましい。例えば、穀物、肉ミール並びに鉄及び銅等のミネラル成分とともに、クエン酸及びクエン酸塩を混合し、十分混合したあとに、水や水蒸気で加水しながらエクストルーダーによって押出成型をする。その後に、好ましくは水分を10%以下になるまで熱風乾燥させる。二重結合が二つ以上の脂肪酸を多く含む油脂は、熱風乾燥させたあとに、コーティングするのが望ましい。また、レシチン及びカテキンは、クエン酸等とともに添加してもよいし、油脂とともに添加してもよい。
【0037】
また、本発明のペットフードとしては、ドライタイプ、ウェットタイプ、セミモイストタイプ、ジャーキータイプ、ビスケットタイプ、ガムタイプ、粒状、粉状、スープ状等いずれの形態であってもよいが、ドライタイプであることが保存の簡便性から好ましい。通常、ドライタイプの場合には、複数回食餌量のペットフードがラミネート製のパッケージ内に収容されているが、開封後には空気と触れ易い環境となるために酸化が進行し易い。従って、本発明のペットフードはドライタイプにおいてより効果を発揮し易いといえる。
【0038】
ドライタイプのペットフードとしては、キブル形状、平板形状、骨形状などが挙げられる。ペットの噛み易さや扱いやすい形状を得るなどの観点からは、嵩密度が100〜900kg/m3、特に300〜700kg/m3であることが好ましい。しかしながら、このような嵩密度であると、表面積が高くなるとともに表面に多数の空隙が存在しやすくなるので、ペットフード中の油脂の酸化が進みやすいと言える。しかし、このような場合であっても、本願発明のペットフードは高い抗酸化力を有しているので、上述した長所を活かすことが可能である。このためにペットの嗜好性に優れ、長期に亘って風味等が劣化せず、しかも高度不飽和脂肪酸に起因する所望の生理的効果の恩恵を受けることができる。
【実施例】
【0039】
<試料の調製>
表1に示す(A)油脂、(B)ミネラル成分、(C)クエン酸+クエン酸ナトリウム(質量比1:2;以下、クエン酸混合物という)、(D)レシチン、(E)ローズマリー抽出物、(X)その他の抗酸化剤について、種々の組み合わせの試験を行った。試験は(A)油脂3g、又はこれに(D)レシチン、(E)ローズマリー抽出物、(X)その他の抗酸化剤を配合し、(B)ミネラル成分、(C)クエン酸混合物を少量の水に溶解したものを添加して行った。
【0040】
【表1】

【0041】
試験に用いた材料の詳細は以下の通りである。
(A)油脂: 脂肪酸組成は表2に示した通り。
(B)ミネラル成分
塩化第二鉄 :試薬、和光純薬製
塩化第二銅 :試薬、和光純薬製
(C)クエン酸混合物
クエン酸ナトリウム(二水和物):試薬、和光純薬製
クエン酸(無水) :試薬、和光純薬製
(D)大豆レシチン
YELKIN TS(製品名、AGM社製、リン脂質換算量(有効分)63.3%)
(E)ローズマリー抽出物
Harbalox HT−OC(製品名、Kalsec Inc製、ローズマリー抽出物含有量40%)
(X)その他の抗酸化剤
δ−トコフェロール: タマ生化学株式会社製
ミックストコフェロール: ミックストコフェロール MTS-60S(製品名、Archer Daniels Midland Company製)
【0042】
【表2】

【0043】
<抗酸化剤の評価方法>
調製した試料を、自動油脂安定性試験装置(「ランシマット743」、メトローム社製)に取り付け、20mL/minの条件で空気をバブリングしながら120℃に保ち、電気伝導率を測定する。経時時間に対する電気伝導率をプロットし、図1のようにして立ち上がりの時間(単位:時間)を求め、安定性の評価とする。これは、酸化により電気伝導率が増加するという原理に基づく評価であり、立ち上がり時間が長いことは酸化に対する耐性が高いことを意味する。
【0044】
試験例
抗酸化剤として(C)クエン酸混合物、(D)レシチン、(E)ローズマリー抽出物及び(X)他の酸化剤を用いた場合の試験結果を表3及び図2に示す。なお、ランシマット試験結果は以下の様に評価した。
<ランシマット立ち上がり時間の見方>
抗酸化剤の効果は、それを添加する前の組成に比べて、立ち上がり時間が延びているかどうかを判断基準とした。また、これまでの経験から、ペットフードに用いる油脂はランシマットの立ち上がり時間(以下立ち上がり時間とする)が3時間以上であることが好ましいと考えられるので、これを好ましい組成と評価した。
【0045】


【表3】

【0046】
表3及び図2に示す結果より、クエン酸、レシチン及びローズマリー抽出物共存系(試験番号15−18)においては油脂にミネラルを加えたもの(試験番号2)及びそれにクエン酸を加えたもの(試験番号3−5)と比較して、ランシマット試験における立ち上がり時間が大きく改善され、いずれも立ち上がり時間が3時間を越えるものであった。すなわち、不飽和脂肪酸を構成要素として多く含む油脂とミネラルを多く含む系において、本発明の組成物は高い抗酸化力を示すことが分かる。特に、試験番号11及び12に示されるクエン酸に周知の抗酸化剤であるトコフェロールを加えたものと比較すると、その効果の高さが明白である。
【0047】
<ペットフードにおける抗酸化力の評価 その1>
実施例1〜3、参考例及び比較例1〜2
表4に示す組成の原料を用い、エクストルーダーで混合押出成型をすることにより、直径10mm、長さ約10mmの円柱状のペットフード(キブル)を製造した。嵩密度は472kg/m3であった。
【0048】
実施例1〜3、参考例及び比較例1〜2のペットフードから抽出した油脂のグリセリド又は脂肪酸組成、二重結合を2つ、及び3つ以上有する不飽和脂肪酸含有量を表5〜7に示す。ペットフードに含まれる全油脂は15%であった。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】


【表7】

【0053】
<安定性試験方法>
安定性試験評価として、保存前後で油脂のPOV(過酸化物価)、及び消費酸素量に基づく評価を行った。
【0054】
<POV(過酸化物価)の測定方法>
ペットフードに含有される油脂の過酸化物価(POV)を、保存前及び保存(室温:約20℃)12週目に、日本油脂化学会制定の「規準油脂分析試験法」の2.4.12.2−94「過酸化物価」に従って、以下の手順で分析した。
(1)ペットフードからの油脂の抽出
50gのキブルを粉砕し、1mm目開きのふるいに通し、そのサンプルを円筒ろ紙に充填し、コック付きのオープンカラムにセットした。コックを閉じたまま、上方から滴下ロートで150mLのジエチルエーテルを滴下し、滴下終了後カラムのコックを開けてジエチルエーテルを回収した。次に、50mLジエチルエーテルにて同様の操作を行った。回収したジエチルエーテルをエバポレーターにより除去し、ペットフードからの抽出油脂を得た。
(2)油脂のPOV測定
ペットフードから抽出した油脂0.5gを250mLのトールビーカーに量り取り、酢酸/イソオクタン=3/2(容積比)の溶液20mL溶かした。0.1mLの飽和ヨウ化カリウム溶液をそのトールビーカーに加え、1分間よく振とうした。その後、30mLの蒸留水を加え滴定サンプルとした。この滴定サンプルを0.01Nチオ硫酸ナトリウムで滴定した。このとき、メトロームシバタ(株)のPOV自動滴定装置、DMPティトリーノ785型を使用した。
(3)抗酸化効果の評価
ペットフードの抗酸化性を評価するため、保存前後でのPOVの値の差をPOV上昇値として求めた。結果を表4に示す。POV上昇値が低いほどペットフードの抗酸化性が高いことを表す。
【0055】
<酸素消費量の測定方法>
ペットフードを50gはかりとりアルミニウムで積層された包材で密封し40℃の恒温槽に保存し中の空気の酸素濃度Xt(%)を1週間毎に測定し酸素の減少速度を計算した。最初に包材中に存在する空気の容量V(mL)を測定し、ペットフード50グラムあたりの酸素の消費量を下記計算で求めた。
酸素消費量(mL)=V・(20.8−Xt)/100
保存期間と酸素消費量の関係を測定したが、とても良い直線関係にあることがわかり、直線の傾きをペットフードの安定性の指標として、結果を表4に示した。
【0056】
<クエン酸換算値の測定方法>
ミキサーで砕いたキブル(3.0g)に5%過塩素酸5mLを加え、10分間震とうする。震とう後、50mLのメスフラスコで定容する。10分間超音波処理を行い、ろ過した溶液を用い高速液体クロマトグラフ(HPLC)法で測定する。なお、HPLC測定条件は以下の通りである。
カラム:Shodex Rspak KC-811 2本、直径8mm×長さ300mm(昭和電工株式会社製)
カラム温度:40℃
移動相:3mmol/L過塩素酸水溶液
反応液:0.2mmol/Lブロムチモールブルー含有15mmol/Lリン酸水素二ナトリウム水溶液
流量:移動相1.0mL/分、反応液1.4mL/分
測定波長:445nm
【0057】
表4の結果から、クエン酸、レシチンおよびローズマリー抽出物の3成分系では、POV上昇値及び酸素消費量が低下し、酸化安定性が著しく向上したことが分かる。したがって、本発明の組成物では、ω3、ω6といった生理機能的に有望な不飽和脂肪酸を多く含むようなペットフードの効果を長期間にわたって安定的に維持することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(E)を含有するペットフード。
(A)二重結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂、
(B)鉄、鉄化合物、銅及び銅化合物から選ばれるミネラル成分、
(C)クエン酸及び/又はその塩、合計量がモル比で成分(B)の10倍以上、
(D)レシチン
(E)ローズマリー抽出物
【請求項2】
前記成分(D)の含有量がペットフード中に0.06〜6.0質量%である、請求項1記載のペットフード。
【請求項3】
前記成分(E)の含有量がペットフード中に0.04質量%以上である、請求項1又は2記載のペットフード。
【請求項4】
前記クエン酸塩がクエン酸アルカリ金属塩である請求項1〜3いずれか記載のペットフード。
【請求項5】
前記成分(C)が、クエン酸とクエン酸塩を共に含むものである請求項1〜4のいずれか記載のペットフード。
【請求項6】
前記成分(A)が、構成脂肪酸として二重結合を3つ以上有する不飽和脂肪酸を3質量%以上含む油脂である請求項1〜5のいずれか記載のペットフード。
【請求項7】
pHが3.5〜7.0である請求項1〜6のいずれか記載のペットフード。
【請求項8】
前記成分(D)としてホスファチジルエタノールアミンを含み、その含有量がペットフード中に0.03質量%以上である、請求項1〜7いずれか記載のペットフード。
【請求項9】
ドライタイプである請求項1〜8のいずれか記載のペットフード。
【請求項10】
(A)二重結合を2つ以上有する不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂、(B)鉄、鉄化合物、銅及び銅化合物から選ばれるミネラル成分、を含有する組成物中に、(C)クエン酸及び/又はその塩、合計量がモル比で成分(B)の10倍以上、(D)レシチン、及び(E)ローズマリー抽出物、が配合されることを特徴とする該組成物の酸化防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−94145(P2013−94145A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242196(P2011−242196)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】