説明

ペット用体脂肪測定具

【課題】ペットの体脂肪を、多くの手間を要することなく、インピーダンス法によって容易且つ精度良く測定できるペット用体脂肪測定具を提供する。
【解決手段】生体インピーダンスを計測してペットの体脂肪を測定するペット用体脂肪測定具10であって、電圧用電極13及び電流用電極14を少なくとも2個づつ備え、ペットの体の一部に押しつけて用いる電極体11と、電極体11と接続して測定時に流す電流を制御すると共に、測定電圧から計測された生体インピーダンスに基づいて体脂肪を算定するインピーダンス計測回路を備える制御算定部12とを具備し、且つ電極体11の全電極13,14の中央付近に圧縮空気を噴出させるための孔16を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペット用体脂肪測定具及びペット用体脂肪測定方法に関し、特に生体インピーダンスを計測して犬又は猫等のペット用の小動物の体脂肪を測定するペット用体脂肪測定具及びペット用体脂肪測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の豊かな食料事情により肥満が問題となってきている。肥満は、心疾患、動脈硬化、高血圧、糖尿病等の生活習慣病の大きな要因であると認識されるようになったことから、体内における脂肪の蓄積量を管理することが日々の健康を維持増進するために重要であると考えられ、このための体脂肪計が種々開発されている。このような体脂肪計の一つとして、生体インピーダンスを計測するインピーダンス法による体脂肪測定装置が知られている。
【0003】
一方、ペット用の小動物である犬や猫等に対しても食料事情が豊かになってきており、例えばペットへの愛着心が強い飼い主は、犬や猫等が肥満にならないようにペットの体脂肪を適切に管理して、給餌量をコントロールし、犬や猫等の健康の維持増進を図ることを望んでいる場合が多い。また、人体に対して用いられていたインピーダンス法による体脂肪の測定方法を、動物である家畜に応用したインピーダンス測定器具も開示されている(例えば、特許文献1参照)。更に、ペットの体毛は絶縁体であるため、より測定精度を高めるべく、ペットに接触させる電極の形状を改良したり(例えば、特許文献2参照)、接触部位と電極との間に電解液を担持させたり(例えば、特許文献3参照)、電極を接触させる部位を体毛の少ない四肢の付け根に特定した技術もある(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−253523号公報
【特許文献2】特開2003−144005号公報
【特許文献3】特開2005−27661号広報
【特許文献4】特開2004−254616号公報
【非特許文献1】Anderson, D. B., Corbin, J. E. :Estimating body fat in mature beagle bitches. Lab. Anim. Sci.,32 :367-370
【非特許文献2】Scharfetter, H. Schalager, T. Stollbergr, R. Felsberger, R. Hutten, H. Hinghofer-Szalkay, H. :Assessing abdominal fatness with local bioimpedance analysis: basics and experimental findings. Int. J. Obesity., 25 :502-511 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インピーダンス法による体脂肪計は、体内の水分の導電性は良好であることから体内水分量が多いと電流が流れやすく電気抵抗が小さくなる一方で、体脂肪の水分含有量は少ないことから体脂肪組織での導電性は悪く体脂肪の多い人の電気抵抗は大きくなることを利用して、低レベルの電流を体内に流してインピーダンスを測定し、体内の水分量及び除脂肪量を推定することによって体脂肪を測定するようにしたものである。しかし、当該方法によれば、その精度を向上させるためには、体重、体長、胴周り等のデータを必要とし、やや煩雑である。
【0006】
一方、雌のビーグル犬のあばら骨部分の脂肪厚みが体脂肪率と相関があるとする知見がある(非特許文献1参照)。更に、腹部の皮下脂肪の厚みを測定するために、腹部のインピーダンスを測定するという技術もあるため(非特許文献2参照)、当該方法をペットのあばら骨部分に適用することも考えられた。しかし、単に皮下脂肪の厚みの絶対値が同じであっても、体格が大きく異なれば体脂肪率が異なることは容易に類推される。即ち、これらの方法は測定対象のペットの体格がほぼ一定の範囲内にある場合には有効な方法であるが、様々なペットを対象とした場合には、個体により体格が大幅に異なるため、当該方法は適用できないことが判明した。また、被毛を有するペットにおいては、生体インピーダンス測定時、電極体をペットの体の一部に押しつける際に、電極体とペットの皮膚の間に被毛が存在すると、各測定間でインピーダンスの測定値に変動が生じることが判明した。これを解決するためには、生体インピーダンス測定時に櫛等で被毛をかき分け、皮膚を露出させた後に電極体を押しつけるという方法が考えられるが、両手を使用することとなり、動きの激しいペットにおいてはその測定が困難となる場合もある。また、被毛が直毛でない個体では櫛で掻き分ける際、被毛が櫛に引っかかりやすく掻き分けるのに時間がかかる場合もある。また、被毛が短く剛毛である個体では、櫛で掻き分けても被毛が元に戻ってしまうため、手等で被毛を押さえていなければならず、非常に煩雑となる場合もある。
【0007】
本発明の目的は、犬や猫等のペット用の小動物の体脂肪を、多くの手間を要することなく、インピーダンス法によって容易且つ精度良く測定することのできるペット用体脂肪測定具及びペット用体脂肪測定方法を提供することにある。そこで、本発明者らは、ペットの体脂肪を有効に測定する方法を探索した結果、電極体をペットの体の一部に押しつける際に、電極体付近から圧縮空気を噴出させれば、櫛等で被毛をかき分けることなく電極体をペットの皮膚に直接当てることが可能となり、インピーダンス測定値の変動がなくなり、体脂肪を極めて正確に測定することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生体インピーダンスを計測して被毛を有するペットの体脂肪を測定するペット用体脂肪測定具であって、電流用電極及び電圧用電極を少なくとも2個づつ備え、ペットの体の一部に押しつけて用いる電極体と、前記電極体と接続して測定時に流す電流を制御すると共に、測定電圧から計測された生体インピーダンスに基づいて体脂肪を算定するインピーダンス計測回路を備える制御算定部とを具備し、且つ前記電極体の全電極又はその近傍に圧縮空気を噴出させるための孔を備えたペット用体脂肪測定具を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
また、本発明は、上記ペット用体脂肪測定具を用いて生体インピーダンスを計測して、ペットの体脂肪を測定するペット用体脂肪測定方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペット用体脂肪測定具及びペット用体脂肪測定方法によれば、犬や猫等の被毛を有するペット用の小動物の体脂肪を、インピーダンス法によって極めて容易に且つ精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のペットの体脂肪測定方法における「体脂肪」という語は、特別明記しない限り、「体脂肪率」と「体脂肪量(重量、体積)」の両方を含む概念である。
【0012】
本発明のペット用体脂肪測定具は、電極体が電流用電極と電圧用電極を少なくとも2個づつ備えることが必要であるが、3個以上備え、それぞれの電極間のインピーダンスを計測することにより、更に正確に測定することが可能となる。当該電極の材料は導電性であることが必要であり、銅、鉄、アルミニウム、黄銅、ステンレス等の金属を用いることができるが、錆びにくいという点からステンレスを用いることが好ましい。
【0013】
電極の形状は、円形状、円筒状、平板状、凸状等、適用部位により適宜変えることができ、脇やそけい部に挟み込む場合には円筒状、被毛の多い部位に押し付ける場合には凸状が好ましいが、本発明においては被毛を有するペットに対して適用するものであるため、凸状の電極を用い、脇やそけい部ではなくその他の部位に押し付けるのが好ましい。また、電極の大きさは、ペットの体の大きさや、適用部位により適宜調整されるが、犬や猫であれば、円筒状の場合、外径が5〜20mm程度、内径が3〜18mm程度、長さが5〜30mm程度が好ましく、凸状の場合、外径が2〜30mm、更に3〜10mm程度、高さが2〜15mm、更に3〜10mm程度が好ましい。なお、電圧用電極と電流用電極の大きさは特に同一でなくても構わない。更に、形状は凸状でも、球や紡錘体の表面のように単一の滑らかな凸面からなる形状であることがペットに対する痛みが少ないので好ましい。本発明のペット用体脂肪測定具の具体例としては、図1又は2に示すものが挙げられる。
【0014】
本発明のペット用体脂肪測定具は、前記電極体の全電極に圧縮空気を噴出させるための孔を備えることが必要である。これにより、生体インピーダンス測定時、前記電極体をペットの体の一部に押しつける際に、前記電極体の圧縮空気を噴出させるための孔を介して、圧縮空気供給手段から供給される圧縮空気を噴出させることにより、櫛等で被毛をかき分けることなく電極体をペットの皮膚に直接当てることが可能となり、インピーダンス測定値の変動がなくなり、体脂肪を極めて正確に測定することができる。
【0015】
前記圧縮空気を噴出させるための孔は、電極体の形状により被毛をかき分ける効果を考慮し、その位置を最適箇所に設定することができる。前記圧縮空気を噴出させるための孔は、各電極の押しつけ部の中央部分に開口するように設けることが好ましいが、前記孔の位置は電極体の全電極の押しつけ部の中央部分のみならず、端の方又は各電極の根元等の近傍に設けても良い。例えば、電極体が凸状の円筒形の場合は、前記孔の位置は電極体の先端のみならず、電極体の根元に設けても良いが、電極が接触する部分の被毛を効果的に排除する点から、電極体の先端中央部に設けることが好ましい。具体的には、図3(a)に示すものが挙げられる。この場合、電極13,14の中心部に孔16を空け、ペットに接触する電極面の反対側に圧縮空気供給管17等を設け、圧縮空気を吐出させることにより、ペットに接触する電極面へ圧縮空気を供給する形態が挙げられる。また、孔16の位置を凸状の円筒形電極13,14の根元の近傍に設ける場合は、例えば図3(b)に示すように、その箇所から電極13,14に沿って電極13,14の先端付近まで、電極13,14の高さ未満の長さで管18を延ばすことが好ましい。
【0016】
前記圧縮空気を噴出させるための孔の大きさは、内径が1〜3mmであることが好ましく、更に1〜2mm、特に1〜1.5mmであることが、より少ない空気で被毛を有効にかき分けるために十分な圧縮空気を噴出させることができる点から好ましい。
【0017】
本発明のペット用体脂肪測定具は、前記電極体の電圧用電極と電流用電極間の距離、及び電圧用電極と電圧用電極間の距離が固定されていることが、インピーダンスの測定値に変動が生じず、体脂肪を極めて正確に測定できる点から好ましい。図1又は2におけるペット用体脂肪測定具10の電極体11をペットの体の一部に押し付け、測定時に流す電流を制御すると共に、測定電圧から計測された生体インピーダンスに基づいて体脂肪を算定するインピーダンス計測回路を備える制御算定部12により、体脂肪(体脂肪率、体脂肪量)を求める。電極体11を押し付ける部位は、ペットの胴体部の肩甲骨から腸骨までの間で体側側から見た胴体の背部側半分の範囲であることが、動きのあるペットにおいても測定がし易い点、インピーダンス値と体脂肪率の相関性が高い点等から好ましい(図4(a)〜(e)参照)。
【0018】
電極体11をペットの体の一部に押し付ける際に、ペット用体脂肪測定具の内部又は外部に設けた圧縮空気噴出装置を起動し、電極体11が皮膚に接触する直前又は接触すると同時に圧縮空気を噴出させ、被毛をかき分けることが好ましい。圧縮空気供給手段として前記圧縮空気を噴出させるための機構は、例えば、ペット用体脂肪測定具の本体内又は本体筐体上に電動式のマイクロポンプ(例えば、(株)榎本マイクロポンプ製作所 CM15)、あるいは手動式のブロアー(例えば、(株)エツミ E−111)等を設けることが挙げられるが、簡便性、測定精度等の点から前記電動式のマイクロポンプが好ましい。具体的には、図1のような圧縮空気を噴出させる外部ポンプ34が挙げられる。また、図5のような圧縮空気を噴出させるための機構を内蔵させたものも挙げられる。
【0019】
ここで、図1のペット用体脂肪測定具10における圧縮空気を噴出させる外部ポンプ34は、例えば、空気噴出口35を圧縮空気供給管17を介して各電極13,14の圧縮空気を噴出させるための孔16(図3(a),(b)参照)と接続し、制御算定部12に設けたスイッチからの操作によって、所定のタイミングで孔16から圧縮空気を噴出させる。
【0020】
また、図5のペット用体脂肪測定具10における圧縮空気を噴出させる機構は、例えば、ペット用体脂肪測定具10のポンプ内蔵部30に内蔵された電動式のマイクロポンプ31の空気噴出口32を、圧縮空気供給管17を介して各電極13,14の圧縮空気を噴出させるための孔16と接続し、制御算定部12に設けたスイッチ33からの操作によって、所定のタイミングで孔16から圧縮空気を噴出させる。電動式のマイクロポンプ31は、図6(a),(b)に示すように、ペット用体脂肪測定具10の背面部に背負わせるように取り付けて用いることもできる。
【0021】
電極体11の電圧用電極13と電流用電極14間の距離は、図1及び図7に示すように、その中心間距離L1が5〜30mm、更に6〜20mm、特に8〜15mm、電圧用電極13と電圧用電極13間の距離は、その中心間距離L2が10〜300mm、更に10〜200mm、特に15〜100mm、殊更20〜60mmであることが、インピーダンス値と体脂肪率の相関性が高い点から好ましい。また、それぞれの電極13,14間は、絶縁体により隔てられていることが好ましい。絶縁体としては、ゴム、プラスチック、木材等が用いられることが好ましい。
【0022】
さらに、図1においては、電極体11の電流用電極14及び電圧用電極13には、制御算定部12から延設する接続コード15が各々接続されており、制御算定部12からの指令によって電極体11の2個の電流用電極14間に電流を流すと共に、電極体11の2個の電圧用電極13間の電圧を測定できるようになっている。
【0023】
本実施形態のペット用体脂肪測定具10を構成する制御算定部12は、例えばマイクロコンピュータ等による公知の制御機構が組み込まれていると共に、公知のインピーダンス計測回路が組み込まれており、接続コード15を介して電極体11の電流用電極14及び電圧用電極13と各々接続し、測定時に流す電流を制御できるようになっている。また測定電圧から計測した生体インピーダンスに基づいて体脂肪率を算定し、算定した体脂肪率を測定データとして蓄積すると共に、例えば表示部12aに表示することができるようになっている。また、体重を別途入力すれば、体脂肪量(重量)を表示することができる。
【0024】
すなわち、制御算定部12は、電流源と電圧計を備える。電流源は扱い安さの観点から交流であることが好ましく、交流の周波数は通常は50kHzに設定されるが、更に50〜800kHz、特に80〜600kHzとすることが、精度向上の点から好ましい。また、この時の電流値は通常0.1〜1mAを用いることができる。電圧計による電圧値(電圧の振幅又は実効値)の測定の際に位相遅れを同時に測定しても良く、その場合、測定した位相遅れをデータ解析に利用することもできる。また制御算定部12のインピーダンス計測回路には、測定電圧と生体インピーダンスや体脂肪率との相関関係に関するデータが予め入力されており、測定電圧から計測した生体インピーダンスに基づいて体脂肪率、又は別途入力した体重のデータを乗じた体脂肪量(重量)を容易に算定することができるようになっている。本発明のペット用体脂肪測定具は、ペットの種類、大きさ等を問わないが、場合により、さらに、制御算定部12に体脂肪を測定するペットの種類、性別、体重等が初期データとして入力されることにより、ペットの種類等に応じた適切な相関関係を示すデータをインピーダンス計測回路において選定して、より精度良く体脂肪を算定することができるようになっている。
【0025】
なお、インピーダンス計測回路を備える制御算定部は、ペット専用の単独のものとしても良いが、通常、人に用いられる体脂肪測定具の内部に組み込み、これに電極から延接される接続コードを接続し、スイッチ等で切り替えてペット用として使用し、ペットの体脂肪を表示させても良い。
【0026】
本発明の態様においては、図2に示すように、電極体11と制御算定部12が一体化されたものとすることが好ましい。この態様とすることにより、電極体11と制御算定部12を接続するコードが不要となり、ペット用体脂肪測定具をよりコンパクトなものとすることができ、1名でも場所を選ばずに測定が可能である。なお、制御算定部12には表示部12aも有することが好ましい。また、一体化することによってコードがなくなり、コードのインピーダンスを補正する必要がなく、精度良く生体インピーダンスを測定することができる点から好ましい。更に、コードがなくなることにより、ペットが測定中にコードに足を引っ掛かる等により測定精度に影響が生じたり、怪我をしたり、測定が中断することがなくなる点からも好ましい。なお、電極体11の電流用電極14及び電圧用電極13は、図2に示した直線状の配置に限られず、例えば、図8のようにスクエア状に2列に配置することもできる。
【0027】
本発明のペット用体脂肪測定具10は、測定の際、ペットの体が汚れている場合は、予め皮脂を取り除くことが好ましい。この手段として有機溶剤、界面活性剤を含浸させたスポンジ、織布、不織布、脱脂綿等で電極体11を押し当てる部位を拭き取ることができる。有機溶剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性のものが用いられる。これら有機溶剤は、1種以上を10〜100重量%、特に50〜100重量%の濃度の水溶液で使用することが好ましい。界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等のアニオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン等の両性界面活性剤等が用いられるが、(獣)医学的に安全性の高いものとして、特に非イオン界面活性剤、とりわけ脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤、ポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤、アルキルアルカノールアミド型界面活性剤、又はアルキルグルコシド型非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。これらの界面活性剤は、シャンプー等の洗い流すタイプであれば、1種以上を組成物中に10〜25重量%、特に15〜20重量%配合することが好ましく、洗い流さないタイプであれば、1種以上を組成物中に0.1〜5重量%、特に0.5〜2重量%配合することが好ましい。また、吸油性粉体を振りかけた後に拭き取ったり、極細繊維からなる織布による拭き取りにより皮脂を除去しても良い。
【0028】
また、本発明のペット用体脂肪測定具10においては、電極体11の各電極13,14をペットの体の一部に押し付けた状態で、体表面との間に電解液を担持させて使用することが好ましい。これにより、体表面と電極13,14の間に絶縁体である体毛が存在しても、体脂肪を正確に測定することが可能となる。担持される電解液としては、例えば塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等を用いることができる。これらの電解液の溶質の濃度は0.03〜10%、好ましくは0.2〜10%、特に0.5〜5%とすることが好ましい。濃度が低すぎると導電性が悪化し、濃度が高すぎると乾燥後べたつく。またこれらの電解液は、各電極13,14の1個につき0.1〜10cc程度、好ましくは1〜5cc、特に2〜4cc用いることが好ましい。少なすぎると導電性が悪化し、多すぎると不経済であり、また周囲にしたたり落ちて床等を汚す。また、ペットの体への電解液の付着性を高めるため、増粘剤を用いて電解液の粘度を上げることもできる。増粘剤としては、アクリル酸重合物やCMC、ペクチン、キサンタンガムなどの食品添加物があげられるが、ペットが舐めることを考えると、食品添加物であることが好ましい。これらの電解液の粘度は1〜120000cpsの範囲で、ペットの毛の量等の状態に応じて適宜選択可能であるが、好ましくは1〜40cps、特に1〜20cpsであることにより、電極13,14と体表面の間に体毛が存在しても、電解液がよりよく浸潤して電気的導通が向上し、精度の良い測定が可能になる点から好ましい。また皮脂を取り除くための有機溶剤や界面活性剤と電解液をあらかじめ混合し使用することにより、皮脂の除去と電解液の付与を同時に行うことも好ましい。
【0029】
また、本発明のペット用体脂肪測定具10においては、前記電解液の替わりに、電解質を含有しない有機溶剤を体表面と電極体の間に担持させて使用することが、測定精度の点から好ましい。担持される有機溶剤としては例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性のものが好ましい。これら有機溶剤は、1種又は2種以上の混合物を10〜100重量%、特に50〜100重量%の濃度の水溶液で使用することが、測定精度の点から好ましい。
【0030】
また、上記電解液、又は有機溶剤は、各電極13,14の電極面に直結した電解液、又は有機溶剤の供給部により、電極体11の表面に供給されるものであることが好ましい。供給部としては、例えば制御算定部12に内蔵した供給装置から供給チューブ等を介して供給される電解液や有機溶剤を、電極13,14の電極面に形成した孔を介して吐出させるもの用いることができ、また電解液や有機溶剤を吐出させる孔は、圧縮空気を噴出させるための孔16と併用することもできる。この場合の電極13,14の材質としては、例えば白金、金、銀、塩化銀、胴、アルミニウム、ステンレス、金属メッキされた樹脂等を用いることができる。またこの場合の孔16の径は、例えば円形の孔である場合、好ましくは直径を1〜5mm、さらに好ましくは1.2〜3mmとすることができる。
【0031】
電解液や有機溶剤を供給する供給チューブ等の材質としては、例えばナイロン、シリコンゴム、ビニル等の一般的なものを、特に制約されることなく用いることができる。また供給チューブは、それぞれの電極13,14毎に設けても良く、例えば2本又は1本にまとめて用いることも可能である。前記電解液、又は有機溶剤の供給部は、例えばスポイト状となった液溜まりに電解液、又は有機溶剤を担持し必要に応じて押すことにより供給する形態の他、シリンジ、洗瓶、手動ポンプ、或いは電動ポンプ等によるものであっても良く、その供給方法は、手動でも電動でも良い。更に、電解液、又は有機溶剤の供給部の先にスポンジ状の保持体を備え、この表面に電極板を設ける形態等であっても良い。供給部からの電解液、又は有機溶剤の供給量は、1回につき例えば4〜20ccとすることが好ましく、また電極13,14より吐出される電解液、又は有機溶剤の量は、1つの電極13,14について、例えば、短毛種の場合1〜3cc、長毛種の場合2〜5ccとすることが好ましい。
以下、犬の場合を例に説明する。
【0032】
すなわち、本実施形態の犬用体脂肪測定具10は、図1及び図2に示すように、生体インピーダンスを計測して被毛を有するペットである犬の体脂肪を測定する体脂肪測定具であって、電極体11には2個づつの電圧用電極13及び電流用電極14が、電流用電極14と電圧用電極13間の距離L1が10mm、電圧用電極13と電圧用電極13間の距離L2が30mmとなるように直線状に配置されて取り付けられている。また、インピーダンス計測回路が組み込まれ、電流用電極14及び電圧用電極13と接続して測定時に流す電流を制御すると共に、測定電圧から計測した生体インピーダンスに基づいて体脂肪を算定する制御算定部12を備えている。さらに、電極体11の全電極13,14に圧縮空気を噴出させるための孔16が設けられている(図3(a)参照)。そして、本実施形態の犬用体脂肪測定具10の電極体11を、例えば図4(a)及び(b)に示すように、好ましくは犬の胴体部で肩甲骨から腸骨までの間で体側側から見た胴体の背部側半分の範囲で、犬の最後肋骨周囲部に押し付けるようにして使用すると共に、電極体11を押し付ける際に、当該電極体11の全電極13,14の圧縮空気を噴出させるための孔16から、例えば電動式マイクロポンプにより圧縮空気供給管17を介して供給される圧縮空気を噴出させ、電極面が接触するペットの体の一部へ圧縮空気を供給する。
【0033】
また、例えば図4(c)に示すように、背骨の正中線と好ましくは30mm程度平行にずらせた位置において、一列に配置した電圧用電極13及び電流用電極14を押し付けるようにして使用することもでき、例えば図4(d)に示すように、背骨の正中線と垂直な方向において、一列に配置した電圧用電極13及び電流用電極14を押し付けるようにして使用することもできる。さらに、電流用電極14及び電圧用電極13をスクエアに2列に配置した図7に示す電極体11を用いる場合には、例えば図4(e)に示すように、背骨を挟んだ片側に押し付けるようにして使用することもできる。これらの使用時においても、電極体11を押し付ける際に、当該電極体11の全電極13,14の圧縮空気を噴出させるための孔16から、例えば電動式マイクロポンプにより圧縮空気供給管17を介して供給される圧縮空気を噴出させ、電極面が接触するペットの体の一部へ圧縮空気を供給する。
【0034】
さらに、電極体11の電流用電極14及び電圧用電極13は、接続コード15等を介して制御算定部12と接続されることにより、測定時に流す電流が制御されると共に、測定電圧から計測した生体インピーダンスに基づいて、ペットの体脂肪を容易に算定できるようになっている。
【0035】
本発明のペット用体脂肪測定具を用いてペットの体脂肪を測定するためには、予め重水希釈法等により正確に体脂肪率を測定し、本発明のペット用体脂肪測定具により測定したインピーダンス値との間に関係式を作成しておく必要がある。その後は、単にインピーダンス値を測定するのみでペットの体脂肪率を算定することが可能である。更に、体重を別途入力しておけば、生体インピーダンスを測定すると同時に体脂肪量(重量)を算定し、即座に表示部に表示することができるようになっている。
【0036】
そして、本実施形態の犬用体脂肪測定具10によれば、電極体11の全電極13,14に圧縮空気を噴出させるための孔16を備えており、電極体11を押し付ける際に、当該圧縮空気を噴出させるための孔16から、圧縮空気供給管17を介して供給される圧縮空気を噴出させ、電極面が接触するペットの体の一部へ圧縮空気を供給するので、櫛等で被毛をかき分けることなく電極体11の各電極13,14を犬の皮膚に直接当てることが可能となり、インピーダンス測定値の変動がなくなり、体脂肪を極めて正確に測定することが可能になる。したがって本実施形態のペット用体脂肪測定具10及び該ペット用体脂肪測定具10を用いたペット用体脂肪測定方法によれば、犬や猫等のペット用の小動物の体脂肪を、多くの手間を要することなく、インピーダンス法によって容易且つ精度良く測定することが可能になる。
【実施例】
【0037】
ビーグル犬5頭を対象とし、以下に示す測定を行った。
【0038】
〔重水希釈法による体脂肪率測定〕
まず、Burkholderらの方法1)に準じ、表1に示す各犬(個体No.1〜5)の体脂肪率を正確に測定した。ただし無麻酔にて行なった。頚静脈より6ml採血し、血清分離を行い、重水注入前の血清サンプルとした。次に前足静脈に翼状針を留置し、重水をシリンジに0.2ml/(kg体重)計り取り注入し、さらにヘパリン生理食塩水10mlを注入した。注入前後のシリンジの重量を測定し差分を重水の注入量(WD2O)gとした。重水の拡散時間として90分間とった。その後再び反対の頚静脈より6ml採血し、血清分離を行い注入後の血清サンプルとした。注入前の血清サンプル中の重水濃度を(C1)ppm、注入後の重水濃度を(C2)ppmとし、IRMSにて重水濃度を分析した。また体重を(BW)kgとして下の計算式により体脂肪率を算出した。
体脂肪率(%)=100−{105 WD2O/(C2−C1)}/0.732BW
[1]:William J. Burkholder, Craig D. Thatcher AJVR 59(8) 1998 927-937]
【0039】
〔本発明品によるインピーダンス測定〕
図3(a)に示した機構を備え、図2に示した形態のペット用体脂肪測定具を用い、電極体11の電圧用電極13と電流用電極14間の距離L1を15mm、及び電圧用電極13と電圧用電極13間の距離L2を30mmに設定し、それぞれ次の手順で測定を行った。まず、表1に示した各犬に対して70重量%のエタノール溶液にて、図4(c)に示す測定部位周辺を清拭後、まだ湿った状態にあるうちに、前記電極体11を測定部位に押し付けた。電極を押しつける直前にマイクロポンプを起動し、各電極先端の中央より空気を噴出させた。その後、電極を押しつけた後にインピーダンスを計測した。この時の電流値は約0.2mA、周波数は50kHzとした。
なお、電極より空気を噴出させず、その他は前記の方法と同じ測定手順でインピーダンスを測定し、実施例と比較した。
【0040】
各犬の重水希釈法による体脂肪率と電極先端より圧縮空気を噴出させた時、又は噴出させない時のインピーダンス値から、相関係数を算出し、表1に示した。また、測定対象であるビーグル犬5頭の背部の体毛長も同表に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1によれば、重水希釈法による体脂肪率と、測定直前に圧縮空気を噴出させた場合のインピーダンス値との間には、圧縮空気を噴出させない場合のインピーダンス値との間に比べて非常に高い相関が確認され、極めて容易且つ精度良くペットの体脂肪率を測定できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係るペット用体脂肪測定具を説明する斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るペット用体脂肪測定具の他の態様を例示する斜視図である。
【図3】(a),(b)は各電極に設けた圧縮空気を噴出させるた孔を例示する部分断面図、(b)は各電極の根元の近傍に設けたものである。
【図4】(a)〜(e)は、本発明のペット用体脂肪測定具を犬に対して使用する際の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る圧縮空気を噴出させる機構を内蔵したペット用体脂肪測定具の要部透視正面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る圧縮空気を噴出させる機構を背面部に取り付けたペット用体脂肪測定具の、(a)は側面図、(b)は背面図である。
【図7】図2のペット用体脂肪測定具の底面図である。
【図8】電極体の他の形態を例示する底面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 ペット用体脂肪測定具
11 電極体
12 制御算定部
13 電圧用電極
14 電流用電極
15 接続コード
16 圧縮空気を噴出させるための孔
17 圧縮空気供給管
L1 電圧用電極と電流用電極との中心間距離
L2 電圧用電極と電圧用電極との中心間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体インピーダンスを計測して被毛を有するペットの体脂肪を測定するペット用体脂肪測定具であって、電流用電極及び電圧用電極を少なくとも2個づつ備え、ペットの体の一部に押しつけて用いる電極体と、前記電極体と接続して測定時に流す電流を制御すると共に、測定電圧から計測された生体インピーダンスに基づいて体脂肪を算定するインピーダンス計測回路を備える制御算定部とを具備し、且つ前記電極体の全電極又はその近傍に圧縮空気を噴出させるための孔を備えたペット用体脂肪測定具。
【請求項2】
前記圧縮空気を噴出させるための孔が、各電極の押しつけ部の中央部分に開口する請求項1に記載のペット用体脂肪測定具。
【請求項3】
前記電極体の電圧用電極と電流用電極間の距離、及び前記電極体の電圧用電極と電圧用電極間の距離が固定されている請求項1又は2記載のペット用体脂肪測定具。
【請求項4】
電圧用電極と電流用電極の中心間距離が5〜30mmである請求項1〜3のいずれか1項に記載のペット用体脂肪測定具。
【請求項5】
電圧用電極と電圧用電極の中心間距離が10〜300mmである請求項1〜4のいずれか1項に記載のペット用体脂肪測定具。
【請求項6】
前記電極体と前記制御算定部が一体化されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のペット用体脂肪測定具。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のペット用体脂肪測定具を用い、生体インピーダンスを計測してペットの体脂肪を測定するペットの体脂肪測定方法。
【請求項8】
電極体をペットの体の一部に押しつける際に、当該電極体の全電極の圧縮空気を噴出させるための孔から圧縮空気を噴出させる請求項7記載のペットの体脂肪測定方法。
【請求項9】
電極体をペットの胴体部の肩甲骨から腸骨までの間で体側側から見た胴体の背部側半分の範囲に押し付ける請求項7又は8記載のペットの体脂肪測定方法。
【請求項10】
体毛を有するペットの体表面と前記各電極の電極面との間に介在する体毛に電解液、又は有機溶剤を担持させる請求項7〜9のいずれか1項に記載のペットの体脂肪測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−148878(P2008−148878A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339139(P2006−339139)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】