ペプチドのフラグメンテーション
本発明は水に安定な一群の新規な試薬を使用してポリペプチドを確認する方法に関する。
特に、本発明の方法は次の各段階:すなわち、
(a)_ポリペプチドのN−末端またはそのポリペプチドのペプチド1種またはそれ以上のN−末端を水溶液中、活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を含む酸性試薬少なくとも1種で誘導体化して、ペプチド誘導体1種またはそれ以上を提供する段階;
(b)_質量分析技術を使用してその誘導体少なくとも1種を分析してフラグメンテーションパターンを提供する段階;および
(c)_フラグメンテーションパターンを解析する段階;を含む。
さらに、本発明はまた本方法で使用するためのキットおよび新規試薬に関する。
特に、本発明の方法は次の各段階:すなわち、
(a)_ポリペプチドのN−末端またはそのポリペプチドのペプチド1種またはそれ以上のN−末端を水溶液中、活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を含む酸性試薬少なくとも1種で誘導体化して、ペプチド誘導体1種またはそれ以上を提供する段階;
(b)_質量分析技術を使用してその誘導体少なくとも1種を分析してフラグメンテーションパターンを提供する段階;および
(c)_フラグメンテーションパターンを解析する段階;を含む。
さらに、本発明はまた本方法で使用するためのキットおよび新規試薬に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明はポリペプチドを確認するための方法に関する。この方法では新規な一群の試薬群を用いてペプチドを誘導体化した後に質量分析を用いて分析する。本発明はまた本発明の新規試薬を含むキットにならびに新規試薬それ自身に関する。
【0002】
発明の背景
ポリペプチドの確認および配列決定は蛋白質学分野の急速な発展と共にますます重要になっている。この分野では新遺伝子の発現産物をその機能および構成について研究する。
【0003】
マトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)質量分析はペプチドおよびポリペプチドの配列決定のために開発された方法である(MALDI質量分析の原理を説明する参考文献としては、たとえばSpengler et al. "Peptide Sequencing by Matrix-assisted Laser-desorption Mass Spectrometry", Rapid Communications in Mass Spectrometry, Vol. 6, pp. 105-108 (1992)を参照)。MALDI質量分析は質量分析の領域に数々の利点を提供する。例えばこの方法は通常の電気スプレー三重四極装置よりも感度が高い。飛行時間型(TOF)質量分析器と組み合わせて使用する時には、MALDI質量分析は三重四極装置で分析できるものよりも高質量のペプチドにも使用できる。MALDI質量分析はまた最少なサンプル精製を用いて複雑な混合物を分析するためにも有用である。一方、電気スプレーイオン化法は液体クロマトグラフィー法(LC)および様々な型の毛細管電気泳動(CE)法を含む強力な分離技術と容易に連結できる。サンプルの精製にLCおよびCEを使用し、注入装置を使用すれば高度に自動化した分析が可能である。
【0004】
しかしながら最近のMALDI法も、それ程ではないが電気スプレーイオン化質量分析法も、予想可能なタンデム質量分析フラグメンテーションパターンを適切に提供しない。例えば、多重イオンシリーズ(a−イオン、b−イオンおよびy−イオンを含む)が観察されることが多く、効率的な解析および配列決定のためには複雑過ぎるMALDI―ポスト・ソース・ディケイ・スペクトルを与える。多重イオンシリーズ(b−イオンおよびy−イオン)プラス内部フラグメントおよび一重に荷電したイオンおよび多重に荷電したイオンが電気スプレーイオン化法によって発生した多重荷電前駆体イオンから形成され、得られるタンデム質量スペクトルは最初から解析が困難なことが多い。従って、フラグメンテーションに関する問題が質量分析を使用する迅速なポリペプチド配列決定法の性能を限定してきた。その結果、質量分析、殊にMALDI質量分析術、はこの分野における評価が低かった。
【0005】
いくつかの研究グループが化学的誘導体化技術を用いてポリペプチド配列決定の分野における質量分析の有用性向上を試みてきた。この技術はペプチドのMSMSスペクトルでフラグメンテーションを促進し、誘導するために利用され、感度の向上および得られるスペクトルの複雑性低下を目指した。この研究は殆どがカチオン性誘導体を提供した。例えば、四級アンモニウム基を用いる誘導体化および静電的SIMSイオン化法を使用する分析が提案された。しかしながら、MALDI質量分析および低エネルギー衝突活性化による電気スプレーイオン化を使用するこの技術の利用は、一般的な効果を証明するに到らなかった。
【0006】
最近、Keough ら(WO 00/43792、Procter & Gamble社)はアミノ酸配列決定のためにpKa値2未満の酸部分1個またはそれ以上で被分析物ポリペプチドのN末端を誘導体化した後に、たとえばMALDI質量分析のような質量分析法で分析する方法を提案した。この酸性部分は、好ましくはスルホン酸またはジスルホン酸誘導体である。この誘導体は荷電部位から開始する骨格アミド結合の切断を促進し、y−イオンを含む一連のフラグメントイオンのみを選択的に検出することを可能にする。しかしながら、Keoughらの反応は、彼らが使用した試薬が水に不安定なため、一般に非水条件下に行われる。従って、質量分析による商業的に有用なアミノ酸配列決定法のためには、なお操作法、中でも自動化操作法の要請を満たすような方法の改良が求められている。
【0007】
発明の要約
本発明の目的の一つは質量分析技術を用いてペプチドまたはポリペプチドを確認する方法で使用する試薬を提供することにある。その試薬は有機溶媒を使用する先行技術よりも環境的によいものである。この目的は一群の新規で水に安定な誘導体化試薬を使用することによって達成される。該試薬は活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を含み、後続する質量分析段階で分析すべきペプチド誘導体を提供する。本発明の別の目的は質量分析技術で確認する前に、単純であり、それ故自動化が容易なペプチドまたはポリペプチドの誘導体化に用いる操作法を提供することにある。これは一群の新規な試薬を提供することによって達成される。この試薬は先行技術の試薬と比較して水に対する安定性が優れている。
【0008】
そこで本発明はポリペプチドを確認する方法に関する。この方法は次の各段階を含む:
【0009】
(a)ポリペプチドのN−末端またはポリペプチドのペプチド1種またはそれ以上のN−末端を、活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を持つ酸性試薬少なくとも1種を用いて水性溶液中誘導体化して、ペプチド誘導体を1種またはそれ以上提供する段階(ただし、この試薬は水溶液中での半減期が室温では10分以上、好ましくは20分以上、最も好ましくは30分以上である);
【0010】
(b)その誘導体少なくとも1種を質量分析技術で分析して、フラグメンテーションパターンを提供する段階;および
【0011】
(c)得られたフラグメンテーションパターンを解析する段階。
【0012】
本発明の各目的は、特定的には上記請求項に定義するようにして達成される。以下に本発明を特定的態様およびその具体的実施例も参照しつつ、さらに詳細に説明する。
【0013】
図面の簡単な説明
図1A〜Dは下記実施例1に説明するNMRスペクトルを示す。図2A〜Bは本発明NHSエステルの安定性を図示する。さらに特定的には、図2AはD2O中における3−スルホプロピオン酸NHSエステルの安定性を示し、図2BはD2O中における2−スルホ安息香酸NHSエステルの安定性を示す。
【0014】
図3A〜Cは実施例6に記載の通りにスルホン化したペプチドのMALDI・PSDスペクトルおよび反応性比較データを示す。
【0015】
図4はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAトリプシン消化物の未誘導体化についてリフレクトロンスペクトル、ポジティブモード(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【0016】
図5は4VP−BSA(Ettan MALDI-TOFTM)トリプシン消化物の誘導化についてリフレクトロンスペクトル(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。図6はフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。このスペクトルは、EttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(I)の一連の完全y−イオンを示す。
【0017】
図7は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(II)についてフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。
【0018】
図8は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物から得たペプチド(III)(図5、m/z 1704)についてPSDスペクトル(蓄積した300ショットからのシグナル)を示す。
【0019】
図9はEttanTMMALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た未誘導化プロテインについてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムーシング5)の最初の例を示す。
【0020】
図10は図9と同じ2−Dサンプル(残り95%)、ただしN−末端をNHSエステルで誘導化後のもの、についてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【0021】
図11は誘導化ペプチド、m/z 1927のPSDスペクトル(300ショット蓄積)を示す。
【0022】
図12はEttanTMMALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た蛋白質スポットの未誘導化トリプシン消化物についてリフレクトロンスペクトル(100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムーシング5)の第二例を示す。
【0023】
図13は図11に示す2−Dサンプルと同じ物(但し、記載のようにZip Tipでの浄化およびNHSエステルで水溶液中誘導化した後)についてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
図14は誘導化ペプチドm/z 1705(図12参照)についてPSDスペクトル(蓄積した300ショットからのシグナル)を示す。
【0024】
定義
本明細書では、用語「確認する」は、完全配列の決定とは必ずしも同義語ではなく、それは、ポリペプチドを確認するための部分配列決定または既知プロテインに由来するペプチドとの異同を確認するための部分配列決定も含むためである。さらに、この用語にはまた少数の可能性の中で最も可能性の高いものに基づいて暫定的確認を行うことも含む。
【0025】
さらに、本明細書で使用する用語「イオン化」は、被分析物に電子単位プラス1またはそれ以上または電子単位マイナス1またはそれ以下の電荷を作製または保持する過程を示す。
【0026】
本明細書で使用する用語「水性環境」は、水に基づくいかなる溶液、懸濁液またはその他の形をも含む。これには有機溶媒約20%またはそれ以下を含有する。
【0027】
本明細書で使用する用語「電気スプレーイオン化」はアースした対電極に対して高電圧の毛細管電極から静電的に溶液を噴霧することによって溶液からイオンを形成する過程を示す。この定義には電気スプレーイオン化および空気支援電気スプレーイオン化の両方を含むことが意図されており、後者はイオンスプレーとも称せられる。本明細書で使用する用語「電気スプレーイオン化」は全ての液体流速に適用され、また、マイクロスプレー実験およびナノスプレー実験も含むことが意図されている。さらに、この定義は分離せずにイオン源に直接注入されたペプチドの分析および電気スプレーイオン化の前に分離されたペプチドまたはペプチド混合物の分析にも適用することが意図されている。適当なオンライン分離法には、限定するものではないが、HPLC、毛細管HPLCおよび毛細管電気泳動を含む。電気スプレーイオン化実験は、限定するものではないが、三重四極質量分析器、イオントラップ、直交加速飛行時間型分析装置およびフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴装置など、を含む種々の質量分析装置で実施できる。
【0028】
本明細書で使用する用語「ポリペプチド」はアミノ酸残基2個またはそれ以上を有する分子を示す。
【0029】
本明細書で使用する用語「野生型」は突然変異のない生体によって産生されるポリペプチドを示す。
【0030】
本明細書で使用する用語「変異型」は野生型ポリペプチドの配列とは異なるアミノ酸配列を持つポリペプチドを示す。
【0031】
本明細書で使用する用語「水に対して安定」は水溶液中室温では10分またはそれ以下ではなく、好ましくは20分またはそれ以下ではなく、最も好ましくは30分またはそれ以下ではない、半減期を持つ試薬を示す。
【0032】
用語「活性化された酸」は水性環境下でアミド結合を形成することができる、酸の誘導体好ましくはカルボン酸の誘導体を示す。
本明細書において用語「酸性」試薬はポリペプチドまたはペプチドと結合したときに、pKaが2未満、好ましくは0未満、より好ましくは−2未満である部分を1個またはそれ以上含む試薬を意味する。
【0033】
本明細書では以下の略号を使用する:
【表1】
【0034】
本発明の詳細な説明
本発明の第一の側面はポリペプチドを確認する方法である。その方法は次の各段階を含む:
【0035】
(a)ポリペプチドのN−末端またはポリペプチドのペプチド1種またはそれ以上のN−末端を、活性化された酸部分に結合したスルホニル部分を含む酸性試薬少なくとも1種を用いて水性溶液中で誘導化して、ペプチド誘導体を1種またはそれ以上提供する段階(ただし、この試薬は水溶液中での半減期が室温では10分以上、好ましくは約20分以上、最も好ましくは30分以上である);
【0036】
(b)その誘導体少なくとも1種を質量分析技術で分析してフラグメンテーションパターンを得る段階;および
【0037】
(c)得られたフラグメンテーションパターンを解析する段階。
【0038】
本発明はたとえば野生型ポリペプチド、変異型ポリペプチドおよび/または合成ポリペプチドのようなポリペプチドを配列決定するために有用である。本方法は、たとえば生物学分野および薬学分野などで用いる高分子量ポリペプチドを確認するために殊に有用である。さらに特定的には、本方法は以下に列挙する目的に使用できる:ペプチドまたはポリペプチドの迅速な配列決定を必要とする生物学研究を促進するために;プロテインの翻訳後修飾(燐酸化、グリコシル化、リジンのN−メチル化、リジンおよびアルギニンのアセチル化、または活性部位残基を確認するためまたは不活性物質を含む混合物から活性蛋白質を分離するための自殺阻害剤)を確認するために;たとえば商業的洗濯および浄化用産物に使用するような変異型プロテインにおけるアミノ酸修飾を確認するために;遺伝子クローニングのためのオリゴヌクレオチドプローブの設計を支援するために;指向性エボリューション研究で生成する産物を迅速に確認するために;コンビナトリアルライブラリーおよびペプチドライブラリーの確認において;および蛋白質学において。
【0039】
そこで段階(b)では、本発明は誘導体を分析するために質量分析技術を利用する。この技術にはマトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)質量分析または電気スプレーイオン化を含むことができる。これらイオン化技術は、限定するものではないが、三重四極装置、イオントラップ、リフレクター飛行時間型分析器、直交加速飛行時間型質量分析機およびフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴装置などを含む様々な質量分析機で実施できる。得られるスペクトルは標準的操作法に従って常法的に改めて解析される。しかしながら最も好適な態様では、段階(b)においてはMALDI質量分析を使用する。MALDI質量分析器は商業的に入手可能であって、文献にも記載されている。例えばKussmann M. and Roepstorff P., Spectroscopy 1998, 14: 1-27 を参照。
【0040】
そこで、前記の通り先行技術ではMALDI質量分析技術による配列決定を促進するためにスルホン酸基をペプチドのN−末端に結合させるが、以前に提案された試薬は水に対する安定性が低いものに限定されていた(この点に関してはたとえばT. Keough, R. S. Youngquist, M. P. Lacey, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 7131 (1999); T. Keough, M. P. Lacey, A. M. Fieno, R. A. Grant; Y. Sun; M. D. Bauer; K. B. Begley, Electrophoresis, 66 2252 (1999); T. Keough, M. P. Lacey, R. S. Youngquist, Rapid Commun. Mass Spectrom. 14, 2348 (2000)を参照)。
【0041】
本発明は初めて一段階法を提供する。この方法では実際の質量分析に先行する誘導化段階のために水に安定な試薬を使用する。有機溶媒を避けて水に対して安定な試薬を用いる利点は明白であって、乾燥工程および溶媒変更が不要なために誘導化操作を容易に自動化できる点を含む。
【0042】
これに加えて、驚くべきことに本発明者はこの新規な水に安定な試薬1種またはそれ以上を用いればペプチド誘導化の効率が高いことを証明した。この点は先行技術の方法に優っている。この新規誘導体はまた先行技術の試薬よりも水に対して安定である。そこで本発明は以前に提案されていたどの技術よりも堅牢な方法を提供する。
【0043】
本発明方法の本質的利点の一つは、以前に提案された技術(たとえば前記WO 00/43792;Keough et alを参照)と比較した場合、本発明に従えば全段階が水性条件下に行えるという事実に存在する。以前に提案された技術は乾燥工程2回および塩基性から酸性へおよびその逆のpH変更を数回も必要とするので、本発明方法は自動化のためにははるかに適切である。これを例証するためにゲル内消化物から得られるペプチド抽出物を誘導化する既知の方法を次のように要約して見る:
1.ペプチド抽出物240μL溶液(50%アセトニトリル)とする。
2.スピードバック(speed vac.)で約25μLまで濃縮する。
3.DIEAを加え、リジン側鎖を室温で一夜グアニジネート化する(塩基性)。
4.HClを添加し、C18μZipTipTM(酸性)で浄化する。
5.完全に乾燥して水分を除去する。
6.THF:DIEA=19:1、10μL(塩基性)中に再構成する。
7.試薬(THF1mL中、純クロロスルホニルアセチルクロリド2μL)2μLを添加する。
8.室温で1〜2分間反応させる。
9.完全に乾燥して有機物と過剰な塩基を除去する。
10.0.1%TFA(酸性)10μL中に再構成する。
【0044】
しかし、本発明の方法に必要なのは下記のように要約される4段階のみである:
1.ゲル内消化物からのペプチドを約20μLまで濃縮する。
2.DIEAを加え、リジン側鎖を室温で一夜グアニジネート化する。
3.水−適合性スルホン化剤を室温で30分間添加する。
4.HClを添加し、C18μZipTipTMで浄化する。
【0045】
そこで、本方法は自動化されたプロテインの誘導化および/またはたとえばプロテオミックの研究などにおけるプロテインの部分的確認のために殊に有用である。
【0046】
従って、特に有利な態様では、本方法はコンピュータに支援される方法であって、段階(c)で適当なソフトウエアを利用する。そこで、質量分析で得られる質量対電荷の比率のデータ分析を用いて、得られたフラグメンテーションパターンの解析をする。たとえばMALDI−TOF実験から得たペプチドの質量スペクトルとプロテインから得られる理論的スペクトルとを比較するために数種のソフトウエアプログラムが開発されている。この主題は、たとえば、Kussmann and Roepstorff(Kussmann M. and Roepstorff P. Spectroscopy 1998, 14: 1-27)が総説している。
【0047】
本発明による新規試薬の別な利点はこの試薬が結晶形で容易に貯蔵できる事実に存在する。そこで貯蔵中の安定性すなわち試薬の寿命が大幅に改善される。従って、本発明は操作を安価にし、多くの常用的操作で実際的な使用の単純化を可能にする試薬を提供する。
【0048】
好適な態様では、本試薬はペプチドまたはポリペプチドと結合した時にpKaが約2未満、好ましくは約0未満、最も好ましくは約−2未満を示す。この分野の熟練者は当技術分野でよく知られている標準的方法を使用してポリペプチドまたはペプチドに共有結合的に結合する酸性部分のpKa値を測定できる。例えば、その方法には滴定または電気化学的方法を含み得る。
【0049】
有利な一態様では、この試薬の活性化された酸部分は、N−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)エステルである。
【0050】
本方法の特別な態様では、NHSエステル部分に結合するスルホニル部分を含む酸性試薬は3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルである。
【0051】
別な一態様では、この試薬は2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルである。
【0052】
この分野の熟練者は気付くであろうように、緩衝液が非反応性である限り、適当な緩衝液と組合わせてこの試薬を使用できる。あるいはこの試薬は単に水に溶解して使用する。さらに本方法では、実際的理由から通常は単一の試薬を使用するが、本発明はまたそれぞれNHSエステル部分に結合するスルホニル部分を含んでいるとの定義に適合する試薬を2種またはそれ以上含む混合物を利用する方法も包含することを理解すべきである。
【0053】
前記の例示した試薬の製造は本明細書の実験の部に例示する。本発明の活性化された酸は当技術分野の通常な熟練者によく知られている方法に従って製造される。本発明の化合物を製造するために使用する出発物質は既知であるか、既知方法で製造されるか、または出発物質として購入できる。
【0054】
有機化学分野における熟練した通常の専門家はこれ以上の指示なしに有機化合物を容易に標準的な処理をすることができると認識される。このような処理の例は、たとえば J. March著, Advanced Organic Chemistry, John Wiley & Sons, 1992 のような標準的教科書に説明されている。
【0055】
通常の熟練した当業者は、化合物内の他の官能基をマスクまたは保護して反応収率の増加および/または望ましくない副反応回避をするとある種の反応の実施が最適になることを容易に認識する。通常の熟練者はしばしば収率の増大または望ましくない反応の回避を達成するために保護基を利用する。このような反応は文献にも記載され、普通の専門家の熟練範囲内にある。そのような操作例の多数は、たとえばT. Greene: Protecting Groups in Organic Synthesis, John Wiley & Sons, 1981に見出される。
【0056】
本発明の化合物は当技術分野の通常の熟練者が知っている様々な操作法を使用して製造してもよい。限定を意図するものではないが一般的製造法には以下のものを含む:
【0057】
本発明の活性化された酸は、下記一般構造で表される化合物の中にある酸を活性化し、続いて本発明の水に安定な試薬を作製する反応に付せば製造できる。
【化1】
【0058】
[ここに、Yは脂肪族および/または芳香族のフラグメントを含み、要すれば別のスルホン酸を含んでいてもよいスペーサである]
【0059】
適当な酸の例はこれに限定するものではないが、たとえば2−スルホ酢酸、3−スルホプロピオン酸、3−スルホ安息香酸、4−スルホ安息香酸、2−ブロモ−5−スルホ安息香酸および2−スルホ安息香酸などである。ここに有用なスルホニル基に関する一般的な参考文献としては、たとえば WO 00/43792 を参照。
【0060】
当業者はこれら化合物のプロトン化された酸に加え、限定するものではないが、ナトリウム塩およびカリウム塩を含む塩が本発明化合物の合成に有用であることに想到するであろう。活性化された酸は大部分が本技術分野の常法を用いて容易に製造できる。ペプチド合成および活性エステル製造に関する最近の総説および成書には次のものがある:a) Alberico, F.; Carpino, L.A.: Coupling reagents and activation, Method. Enzymol., 1997, 289, 104-126; b) Bodansky, M.: Principles of Peptide Synthesis, 2ed., Springer-Verlag:Berlin, 1993; c) Humphrey, J.M.; Chamberlin, A. R.: Chemical Synthesis of Natural Product Peptides: Coupling Methods for the Incorporation of Noncoded Amino Acids into Peptides. Chem. Rev., 1997, 97, 2243-2266; d) Handbook of Reagents for Organic Synthesis: Activating Agents and Protecting Groups, Pearson, A.J. andRoush, W.R., ed., John Wiley & Sons, 1999。この構造を持つ反応性誘導体には例えば1−ヒドロキシベンゾトリアゾールエステルのような活性エステル、たとえば塩酸およびスルホン酸のような有機酸または無機酸の混合無水物および該構造を持つ酸の対称無水物を含む。これらの活性化された原料は本発明の水に安定な試薬として直接有用でありうる。しかしながら、たとえば酸塩化物のような活性の高い物質は本明細書に定義する水に対する安定さはないかもしれないが、たとえばこれを更にN−ヒドロキシサクシンイミドのような試薬と反応させれば、本発明の水に安定な試薬である活性化された酸を生成させることができる。
【0061】
文献に見出される無数の活性エステルの中で、N−ヒドロキシサクシンイミドに由来するエステル(Anderson, G.W., Zimmerman, J.E., Callahan, F.M., J. Am. Chem. Soc., 1964, 86, 1839, 総説はKlausner, Y.S.; Bodansky, M.S.: Synthesis, 1972, 453参照)オルトおよびパラ−ニトロフェニルエステル (Bodansky, M.; Funk, K.W., Fink, M.L.; J. Org. Chem., 1973, 38, 3565; Bodansky, M.; Du Vigneaud, V.; J. Am. Chem. Soc., 1959, 81, 5688)、2,4,5−トリクロロフェニルエステル(Pless, J.; Boissonnas, R.A.: Helv. Chim. Acta, 1963, 46, 1609)、ペンタクロロフェニルエステル(Kovacs, J.; Kisfaludy; L., Ceprini, M.Q.: J. Am. Chem. Soc., 1967, 89, 183)、ペンタフルオロフェニルエステル(Kisfaludy, L.; Roberts, J.E.; Johnson R. H.; Mayers, G.L.; Kovacs, J.: J. Org. Chem., 1970, 35, 3563) には最も実用的興味がある。他の活性化された酸部分としてはたとえば 2−ピリジルチオエステル (Lloyd, K.; Young, G.T.: J. Chem.Soc. (C), 1971, 2890)のようなチオエステル、シアノメチルエステル (Schwyzer, R.; Iselin, B.; Feurer; M.: Helv. Chim. Acta, 1955, 38, 69)、N−アシルイミダゾリド(Wieland, T.; Vogeler, K.: Angew. Chem., 1961, 73, 435)、アシルアジド (Curtius, T.: Ber. dtsch. chem. Ges., 1902, 35, 3226 Fujii, N.; Yajima, H.: J. Chem. Soc. Perkin Trans I, 1981, 789)またはベンゾトリアゾール由来の中間体 (Dormoy, J.R.; Castro, B.: Tetrahedron, 1981, 37, 3699)も考慮される。
【0062】
この活性化されたエステルは同様に例えば4−ジメチルアミノピリジン(Hoefle, G.; Steglich, W.; Vorbrueggen, H.: Angew. Chem., Int. Ed. Engl., 1978, 17, 569; Scriven, E.F.V.: Chem. Soc. Rev., 1983, 12, 129) のような選択されたアシル化触媒と組合せて使用することも可能である。
【0063】
しかし、本試薬の仔細な分子構造はスルホニル部分と活性化された酸部分とが存在し、水に対する安定性およびアミンとの化学的反応性が保持されている限り、本質的なものではない。従って、このような試薬は水に安定であって反応性があれば全て本発明の範囲内にある。続いてたとえば反応のために至適なpHを確認するために、またはたとえばヒドロキシル基での望ましくない副反応が少ない特定の活性化された酸を確認するために、常法の実験を行うことができる。
【0064】
ポリペプチドまたはそのペプチドはどのような方法で得てもよい。例えば、必要ならば目的とするポリペプチドを分析のために分離する。分離には例えば一次元および二次元の電気泳動などを含む数種の操作法を利用してもよい。あるいは、このポリペプチドはこの技術分野でよく知られているコンビナトリアル化学の方法によって合成してもよい。この例では、生成ポリペプチドのC末端にまたはその付近に塩基性または疎水性残基、好ましくは塩基性残基(最も好ましくはアルギニンまたはリジン)を有するポリペプチドを合成することが最も好ましい。
【0065】
消化はゲル内または膜上、好ましくはゲル内を含む様々な方法で行ってもよい(例えばShevchenko et al., "Mass Spectrometric Sequencing of Proteins from Silver-Stained Polyacrylamide Gels", Analytical Chemistry, Vol. 68, pp. 850-858 (1996)を参照)。そこで、有利な態様の一つでは本方法はゲル内消化を使用し、次に浄化なしに分析を行うことができる。しかしながら、ポリペプチドを消化、すなわち酵素的消化または化学的消化のいずれか、好ましくは酵素的消化、をすることが可能である。得られるペプチドのC−末端またはその付近に塩基性または疎水性残基、最も好ましくは塩基性を与える消化操作を利用するのが最も好ましい。
【0066】
ポリペプチドは、たとえばトリプシン、エンドプロテイナーゼLysC、エンドプロテイナーゼArgCまたはキモトリプシンなどを用いて酵素的に消化してもよい。トリプシン、エンドプロテイナーゼLysCまたはエンドプロテイナーゼArgCは、ポリペプチド自体のC末端を除いて、ポリペプチドから生成するペプチドでは典型的にはC末端がアルギニンまたはリジン残基(塩基性基)で終結するので好適である。特に生成するペプチドのC−末端またはその付近に塩基性残基ができれば、他の酵素も使用できる。例えば、典型的には疎水性アミノ酸残基で切断するキモトリプシンを使用してもよい。あるいは、たとえばシアノーゲンブロミドのような化学的消化(消化方法の一般的参考文献としては例えばU.S. Pat. No. 5821063を参照)も使用できる。
【0067】
そこで特定的態様では本方法を使用してポリペプチドまたはプロテインを確認するが、この場合、該ポリペプチドまたはプロテインを消化、好ましくは酵素的消化、を施してペプチドを得る第一段階を含む。好適な態様ではこの酵素はトリプシンである。
【0068】
特に有利な態様では、本方法は誘導化段階の前に特定の残基を保護する段階も含む。例えばポリペプチドまたはプロテインをトリプシンで消化する場合、たとえば望ましくないスルホン化反応を避けるためにLys残基の保護が必要になろう。グアニジン化によるこのような保護操作の一例は下記実験の部(実施例5参照)に詳記する。グアニジン化はたとえば地図作成実験のような後続する段階でのペプチド回収に悪影響なしにLys側鎖を選択的に保護できるので有利に使用される。さらにその上、未処置プロテイン中のリジン残基はグアニジン化してもトリプシン消化を受けるので、リジン含有ペプチドは定量分析のために使用できる。
【0069】
本方法は好ましくはプロテイン消化物からのポリペプチドについて使用する。ポリペプチドとしては好ましくは約50アミノ酸残基未満、より好ましくは約40アミノ酸残基未満、更に好ましくは約30アミノ酸残基未満、なおさら好ましくは約20アミノ酸残基未満、最も好ましくは約10アミノ酸残基未満を含むものを使用できる。
【0070】
本発明の第二の側面は3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステル化合物そのものである。この化合物は前記ペプチド誘導化のために用いる試薬として特に有用である。
【0071】
本発明の第三の側面は2−スルホ安息香酸N−ヒロドキシサクシンイミドエステル化合物そのものである。この化合物も前記ペプチド誘導化のために用いる試薬として有用である。
【0072】
本発明の第四の側面はポリペプチドを確認するためのキットであって、そのキットは活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を有する酸性試薬を適当な容器内に含む。このようなキットにはモデルペプチドを含めることもできる。このキットにはその使用法に関するたとえばパンフレットの形での説明書を添付することもできる。
【0073】
そこで、一態様では、本キットはペプチドまたはポリペプチドを確認する本発明の方法を行うために必要な装置および手段を含む。特定的態様の一つは1種またはそれ以上の本発明新規試薬およびマトリックス支援レーザー脱着イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析での使用に必要な手段を含むキットである。別の一態様は1種またはそれ以上の本発明新規試薬および電気スプレーイオン化質量分析(ESI−MS)での使用に必要な手段を含むキットである。
【0074】
本発明の第五の側面は、たとえば3−スルホプロピオン酸N−ヒロドキシサクシンイミドエステルまたは2−スルホ安息香酸N−ヒロドキシサクシンイミドエステルなどのN−ヒロドキシサクシンイミド(NHS)エステルのようなエステル部分に結合するスルホニル部分を含む酸性試薬の、質量分析技術における誘導化試薬としての使用である。より特定的には、本発明は本発明方法における前記試薬の使用に関する。
(図面の詳細な説明)
【0075】
図1A〜1Dは下記実施例1に記載するNMRスペクトルを示す。特定的には図1Aは3−スルホプロピオン酸のスペクトルを示す;図1Bは3−スルホプロピオン酸無水物の13C−NMRスペクトルを示す;図1Cは無水物炭素のスペクトルを示す;図1Dは3−スルホプロピオン酸無水物から得られるNHSエステルのスペクトルを示す。
【0076】
図2A〜2Bは本発明のNHSエステルの安定性を図示する。特定的には図2Aは3−スルホプロピオン酸NHSエステルのD2O中における安定性を示す。図2Bは2−スルホ安息香酸NHSエステルのD2O中における安定性を示す。この分析は JEOLの270MHz−NMR装置で行った。NHSエステルをNMRチューブに入れ、D2Oで700μLに希釈した。シングルパルス1H−NMRを行い、スペクトルを分析した。加水分解は3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドの2.92ppmシグナルの積分値または2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドの3.01ppmにあるシグナルの積分値とN−ヒドロキシサクシンイミドプロトンの2.76ppmにあるシグナルとの比率から測定した。
【0077】
図3A〜3Cは各誘導体について得られたMALDI−PSD質量スペクトルおよび実施例4に記載のようにしてスルホン化したペプチドの相対的反応性を示す。特に、図3Aは2−スルホ安息香酸アセトアミドを含むペプチド(上図)および3−スルホプロピオンアミドを含むペプチド(下図)についてのフラグメンテーションパターンの比較を示す。3−スルホプロピオンアミドは、誘導体の損失(出発ペプチドを再生するので情報が得られない)が少なく、さらに低質量フラグメントの収率が高いので、好適である。図3BはプロピオニルスルホネートNHSエステル(上図)と2−スルホ安息香酸NHSエステル(下図)の1nM−モデルペプチドに対する反応性の比較を示す。3−スルホプロピオン酸NHSエステルは出発ペプチドから産物への変換が良好である。図3Cは図3Bと同様であるが反応にはモデルペプチドとしてFibAを10 pmol使用した。
【0078】
図4はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAの未誘導化トリプシン消化物(250fmolを3−スルホプロピオン酸無水物NHSエステルと反応させてペプチドI〜IIIを定量的に誘導化した(図5参照))のリフレクトロンスペクトル、ポジティブモード(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【0079】
図5は4VP−BSA(Ettan MALDI-TOFTM)の誘導化トリプシン消化物についてリフレクトロンスペクトル(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。このペプチドは前記水性条件で3−スルホプロピオン酸NHSエステルで誘導化したものである。図中にI〜IIIと記号をつけた各ペプチドは定量的に誘導化され、PSD分析を行った。
【0080】
図6はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物から得たペプチド(I)(図5)の完全y−イオンシリーズについてフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。イオンゲートは誘導化親イオンの質量 m/z 1064に設定し、300ショットからのシグナルを蓄積した。
【0081】
図7は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(II)についてフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。ここではイオンゲートは m/z 1616 に設定し、300ショットのシグナルを蓄積した。ギャップにはXマークを付けた。
【0082】
図8は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(III)m/z 1704についてPSDスペクトル(300ショットのシグナルを蓄積)を示す。ギャップにはXマークを付けた。ペプチド、MH+ m/z 1715は誘導化ペプチドとともにイオンゲートを通過した。
【0083】
図9はEttan MALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た未誘導化プロテインのリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムージング5)の初回例を示す。全溶離トリプシン消化物の5%を用いてこのスペクトルを得た(丸でマークしたピークは図10に完全に誘導化されて現れる)。
【0084】
図10は、図9と同じ2−Dサンプル(残り95%)であるがN−末端をNHSエステルで誘導化した後に測定したリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムージング5)を示す。このサンプルはμC18 ZipTipsTM 上で浄化し、プロトコルに従って誘導化した。このペプチド m/z 1791(前図の値)は定量的に誘導化され、標識の質量が増加して m/z 1927として観察された。
【0085】
図11は誘導化ペプチド m/z 1927 についてPSDスペクトル(300ショット蓄積)を示す。このフラグメント(y−イオン)の質量を用いてPep-Fragで確認した。このプロテインはアクチンとして確認された。
【0086】
図12はEttanTM MALDI-TOF 由来クーマジー染色2−Dゲルから得たプロテインスポットの未誘導化トリプシン消化物のリフレクトロンスペクトル(100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムージング5)の第二例を示す。サンプルの5%をこの分析に使用した。マークしたペプチドを、誘導化した後にPSD分析を行った(次図参照)。
【0087】
図13は図11と同じ2−Dサンプルであるが既述のようなZipTipsTM 浄化および水溶液中NHS−エステルで誘導化した後のサンプルについてのリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムージング5)を示す。ペプチド m/z 1569.9(前図)は定量的に誘導化されており、標識質量(+136)が増加し、m/z 1705.9 が観察された。
【0088】
図14は誘導化ペプチド m/z 1705(図12参照)についてPSDスペクトル(300ショットのシグナルを蓄積)を示す。このフラグメント質量(y−イオン)を利用してPepFragでプロテインの確認を行った。このプロテインは大腸菌サクシニルCoAシンセターゼと同定された。
【実施例】
【0089】
本実施例は例示目的のみを意図するものであって、請求項が定義する本発明を限定するものと解すべきではない。下記のまたは本明細書を通じて引用する参考文献は全て参考のために引用するものである。
【0090】
実施例1 3−スルホプロピオン酸N−ヒロドキシサクシンイミドエステルの製造
【0091】
材料
合成用試薬:
【0092】
N−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)、社内品、Art-Nr 30070800。
ALDRICHの3−メルカプトプロピオン酸、99+%、CAS-107-96-0。
過酸化水素(30%水溶液)。
KEBOの氷酢酸、100%、CAS-64-19-7。
Merckの水酸化カリウム、ペレット。
Merckのn−ヘプタン、99%。
ALDRICHの塩化チオニル、99+%、CAS-7719-09-7。
Merckのn−ヘキサン、99%。
ALDRICHのジイソプロピルアミン、99%、CAS-7087-68-5。
ALDRICHのジクロロメタン、99.8%、無水、CAS-75-09-2。
Air Liquideのアルゴンガスチューブ。
KEBOの酢酸エチル、CAS-141-78-6。
KEBOのメタノール、CAS-67-56-1。
MerckのプラスチックTLC板シリカゲル60-F254TLC。
【0093】
分析用試薬:
【0094】
Cambridge Isotope Laboratoriesの重クロロホルム、99.8%、CAS-865-49-6。
Larodan Fine Chemicalsの重水(D2O)、CAS-7789-20-0。
【0095】
方法
NMR分析:
この分析はJEOLの270MHz−NMR装置で行った。
【0096】
NHSエステル10mgをNMRチューブに入れ、CDCl3700μLで希釈した。シングルパルス1H−NMRを測定し、スペクトルを分析した。この分析は3−スルホプロピオン酸無水物の場合も同様に行った。3−スルホプロピオン酸の場合は、溶媒としてCDCl3の代わりにD2Oを使用した。
【0097】
3−スルホプロピオン酸無水物には1H−NMR(前記)と同様にしてデカップリングした13C−NMRを測定した。
【0098】
融点測定:
【0099】
NHSエステル結晶の融点はBuCHI Melting Point B-540装置で測定した。結晶数個をバイアルに入れ、溶融するまで加熱した。温度範囲は160℃から185℃、温度勾配は1℃/分とした。
【0100】
水中安定性試験:
【0101】
NHSエステル10mgをNMRチューブに入れ、D2O700μLを加えた。シングルパルス1H−NMRを測定し、スペクトルを分析した。同じサンプルを室温(20〜25℃)で保存し、5時間後および24時間後に別な1H−NMRスペクトルを測定した。
【0102】
空気中安定性試験:
【0103】
NHSエステル10mgをNMRチューブに入れ、前記のように重クロロホルムを溶媒にして分析した。次にNHSエステル約100mgをフラスコに入れて、開栓して空気中室温(20〜25℃)で数日間保存した。エステルの加水分解はNMRで追跡した。
【0104】
合成
【0105】
3−スルホプロピオン酸の合成:
【化2】
【0106】
三頚丸底フラスコ(500mL)に温度計、滴下濾斗、および脱ガス管を取り付けた。安全瓶2個(相互に直列に結合、後者に25%KOH溶液を入れる)のガストラップをパイプに取り付けた。反応中、窒素バルーンで系内を不活性雰囲気に維持した。酢酸(70mL)および過酸化水素(70g、30%水溶液、620ミリモル)をフラスコに入れ、この溶液を攪拌しつつ水浴上で50℃に加熱した。3−メルカプトプロパン酸(8.20mL、94ミリモル)を滴下濾斗から約1時間にわたり非常に注意深く添加した。直ちに発熱反応が始まり、温度が約80℃に上昇した。そこで溶液を温度が再び50℃になるまでエタノール/CO2 浴(−72℃)で冷却した。この操作を滴下濾斗から3−メルカプトプロパン酸の添加が終わるまで反復した。次に反応物を50℃で2時間および室温で一夜攪拌した。
【0107】
容積が約30mLになるまでロータリーエバポレータ(水浴40℃、100mb)で溶媒を蒸発し、残留溶媒はヘプタン3×300mLとの共沸蒸発で除去した。得られた油状物を高真空下にデシケータで一夜乾燥した。粗製生成物は油状物中に白色沈殿となった。NMRスペクトルから推測すると収率は約50%であった。図1参照。
【0108】
3−スルホプロピオン酸無水物の合成:
【化3】
【0109】
三頚丸底フラスコに3−スルホプロピオン酸(前実験の粗生成物20g)を入れた。還流冷却器とセプタムをフラスコに取り付けた。磁気攪拌機で攪拌しつつSOCl2(140mL)をセプタム経由で30分間にわたって注意深く加えた。SOCl2添加終了後、混合物を3時間還流した。還流中に全内容が溶解して褐赤色溶液となった。約5分間冷却後、ヘキサン(140mL)を添加した。直ちに白色固体が沈殿し、フラスコの底部に褐色の油が生成した。この溶液を白色固体が溶解するまで再加熱し、溶液を他のフラスコにデカンテーションして油を除いた。溶液を1時間かけて室温にまで冷やし、次に週末にわたって冷蔵庫中に置いて結晶化させた。
【0110】
沈殿を窒素雰囲気下に濾過し、冷n−ヘキサン(冷蔵庫から)で洗浄し、デシケータ中で高真空下に一夜乾燥した。無水物は水に著しく敏感なので、濾過に使った装置全てを事前にオーブンで乾燥し、デシケータ中で冷却した。
【0111】
3−スルホプロピオン酸無水物からNHSエステルの合成:
【化4】
【0112】
使用する全装置を合成の前にオーブン(100℃)で乾燥し、デシケータに入れた。
【0113】
NHS(420mg、3.68ミリモル)を秤量してセプタムとアルゴンバルーンを取り付けた丸底フラスコ(100mL)に入れた。DCM(20mL、無水、99.5%)を加え、マグネティックスターラで攪拌を開始した。攪拌しながらDIEA(0.64mL、3.68ミリモル)と3−スルホプロピオン酸無水物(0.50g、3.68ミリモル)とを注意深く添加した。反応物をアルゴン雰囲気下に3時間攪拌した。溶媒を蒸発(RT、100mbar)し、生成物を真空オーブン中で一夜乾燥(RT、1mbar)した。得られた結晶を最少量の温EtOAc/MeOH=9:1に溶解した。全てが溶解した後に、溶液を約3時間かけて室温まで放冷し、次にフリーザー中で一夜冷却した。夜の間に白色結晶が形成され、これをガラスフィルター(p3)で濾取、冷酢酸エチル(5℃)で洗浄した。最後に結晶を高真空下にデシケータ中で乾燥してNHSエステルのDIEA塩を白色結晶(収率42%)をとして得た。
【0114】
結果および検討:
合成:
3−スルホプロピオン酸の合成:
この合成は全く簡単で、粗製の3−スルホプロピオン酸が白色のスラリーとして得られた。肝心な点は反応温度を50℃に維持することであって、これは氷浴と油浴を随時交換して行ったが、多分これが最も有効な方法だとは思われない。反応中に温度が20℃から80℃の間で変動した。もしも反応温度がもっとよく制御できていたらおそらく収率は高くなったであろう。次工程(無水物の合成)には必要なかったのでこれ以上の精製は行わなかったが収率の計算は難しくなった。NMRスペクトルによれば少なくとも1種の副産物およびおそらく出発物質(NMR分析参照)の何れか見出された。純度の推測値は大体50%であったと思われる。
【0115】
3−スルホプロピオン酸無水物の合成:
【0116】
予期の通り、この無水物は水に対して著しく敏感で、装置を全て使用前にオーブンで乾燥することおよび反応と精製をアルゴン雰囲気下に行うことが必要であった。反応および再結晶は非常に毒性の高い溶媒であるSOCl2中で行った。生成物、3−スルホプロピオン酸無水物は明褐色結晶として回収された。信頼できる収率計算のためには出発物質が純粋であることが必須である。
【0117】
3−スルホプロピオン酸無水物からNHSエステルの合成:
【0118】
今回も反応前に材料をオーブン中で乾燥し、反応はアルゴン雰囲気中で行った。反応は全く単純で、2時間攪拌後に溶媒を蒸発して粗製NHSエステル/DIEA塩を白色/黄色の固体として得た。精製後の収率は42%であった。反応時間がさらに長く、NHSおよび/またはDIEAの量が過剰であったなら、収率は向上したかもしれない。収率は、100%純3−スルホプロピオン酸無水物についても算出した。
【0119】
精製:
粗NHSエステル/DIEA塩を再結晶した。この操作は最初の試験ではEtOAc/MeOH=7:3で再結晶を試し、その後、EtOAc/MeOH=9:1で行った。前試験では冷却後結晶は生じなかった。
【0120】
無水物の合成(前記)では、一種の再結晶をSOCl2中で行った。しかしこれは実際には反応混合物の単なる再加熱と、フラスコの底に溜まった油を除去するためのデカンテーションであった。通常の再結晶でさらに純度の高い無水物が得られるであろう。
【0121】
キャラクタリゼーション:
融点測定:
【0122】
粗製NHSエステル/DIEA塩の融点は145〜155℃の間であった。しかし再結晶後の融点は176〜178℃になった。精製後に融点が高く、鋭くなったことは生成物が実際に純粋になったことを示す。
【0123】
NMR分析:
NMR分析で得たスペクトルを図1に示す。
【0124】
3−スルホプロピオン酸:
表1 3−スルホプロピオン酸の1H−NMRスペクトル(CDCl3)の解析
【表2】
【0125】
このスペクトルはδ2.78、δ2.85、δ3.18およびδ3.52にピークを与える副産物および出発物質を含んでいた。これは未精製のときに予期されたものである。
【0126】
3−スルホプロピオン酸無水物:
表2 3−スルホプロピオン酸無水物の1H−NMRスペクトル(CDCl3)の解析
【表3】
【0127】
表3 3−スルホプロピオン酸のデカップリングした13C−NMRスペクトルの解析(CDCl3)
【表4】
【0128】
両スペクトルを比較し、標品のスペクトルで確認した。
【0129】
3−プロピオン酸無水物からのNHSエステル:
表4 1H−NMRスペクトル(CDCl3)の解析
【表5】
【0130】
粗製生成物中の典型的な不純物は、NHSおよびDIEAである。NHSはδ 2.68(s)にピークを与え、DIEAは表中の前記ppmと殆ど同じppmにピークを与える。そのためDIEA不純物はNHS不純物よりも特定するのが困難であるが、ピークの積分値を観測すれば推測はできる。残留溶媒があれば、MeOHはδ3.49(s)に、EtOAcはδ2.05(s)、δ1.26(t)およびδ4.12(q)に、DCMはδ5.30(s)に、ピークを与える。
【0131】
実施例2 2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルの製造
2−スルホ安息香酸環状無水物のN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)エステルは反応式3に従い、下記のようにしてDIPEA塩として製造した。
【化5】
【0132】
装置全てを使用前にオーブンで乾燥し、アルゴンを満たしたデシケータ中に移した。反応はアルゴン雰囲気下に行った。NHSおよび2−スルホ安息香酸環状無水物は使用前に真空乾燥した。NHS(673.2、5.85ミリモル)を入れた丸底フラスコに塩化メチレン(1.9mL)およびDIEA(1.019mL、5.85ミリモル)を加えた。次に2−スルホ安息香酸環状無水物(1.077g、5.85ミリモル)の塩化メチレン(19mL)溶液を少量づつ(7×)反応液に加え、室温に2時間20分放置した。反応液を二分し、各々濃縮して粘度の高い明黄色残渣(画分1:1.11g。画分2:1.24g)を得た。
【0133】
画分1をMQ(11.098mL、100mg/mL)に溶解し、濾過し、3×1mLを逆相分取HPLC(カラム:Supelcosil LC-18、10cm×21.2mm、2μ;流速10mL/分。方法:0〜10分:定常0.1%TFA−B含有5%アセトニトリル水;2分:サンプル注入。10〜15分:5〜12%勾配B水)に付した。各画分を蒸発させ、凍結乾燥して白色固体/粘性の透明油状物(合計237.7mg)として未精製産物DIEA塩、それに加えてNHS、DIEAおよび副産物を得た。以前の実験ではもっと良い結果を得た。そこでは逆相分取HPLC(同じカラムと同じ系を用いるが、別の方法:0〜6分、定常0.1%TFA B含有5%アセトニトリル水。2分、サンプル注入。6〜18分、5〜25%勾配B水)に付して、生成物をDIEA塩を得た。これには約5%の残留NHSおよび芳香族構造部分での副産物が痕跡量混入していた。
【0134】
1H-NMR (D2O) δ:8.0-8.1 (dd, 1H), 7.9-8.0 (dd, 1H), 7.7-7.8 (m, 2H), 3.6-3.8 (m, 2H), 3.1-3.2 (m, 2H), 3.0 (s, 4H), 1.2-1.3 (m, 15 H), 2.7 (s, 0.2 H, NHS ピーク)。
【0135】
アセトン(2.5mL、0℃冷、氷水浴)を画分2に滴下し、室温20分間および4℃25分間後に白色沈殿を得た。この沈殿を濾取、アセトン(24mL、0℃冷、氷水浴)で注意深く洗浄して生成物をDIEA塩(612.7mg、46.3%)として得た。
【0136】
1H-NMR (D2O)δ:8.0-8.1 (dd, 1H), 7.9-8.0 (dd, 1H), 7.7-7.8 (m, 2H), 3.6-3.8 (m, 2H), 3.1-3.3 (m, 2H), 3.0 (s, 4H), 1.2-1.3 (m, 15 H)。
【0137】
実施例3 他種NHSエステルの合成
【化6】
【0138】
2−ブロモ−5−スルホ安息香酸をジオキサン1mLおよび水0.5mLに溶解する。ジイソプロピルエチルアミン2当量を加える。溶液をよく攪拌しつつ、これにO-(N-サクシンイミジル)-N,N、N',N'-テトラメチルウロニウムBF4(TSTU)の固体1.2当量を加える。この反応物を30分間攪拌し,次にロータリーエバポレータで濃縮し、続いて高真空下に乾燥する。2%水:アセトニトリルを移動相としてシリカゲルカラムを調製する。サンプルを2%水:アセトニトリルに負荷する。カラムは2%水:アセトニトリルから始め、極性を徐々に上げて5%水:アセトニトリルとし、最後に10%水:アセトニトリル80mLで行う。生成物含有画分を10%水:アセトニトリルTLCで確認する。陰イオンMSでも確証する。NMRによればこの物質は約1当量のDIEAを含む。
【0139】
実施例4 ペプチドのスルホン化
モデルペプチドおよびさまざまなプロテインのトリプシン消化物、を塩基約20μLに溶解した。この塩基は脱イオン水とジイソプロピルエチルアミン(DIEA)とを19:1v/vの比率で混合して調製した。ゲル内消化物からのペプチド混合物を最終容積約20μLに濃縮してDIEA1μLを加え、溶液を塩基性とした。これにスルホン酸の活性エステル試薬100mg/mLを5μL加え、溶液をふりまぜる。各反応物のpHを測定して塩基性を確認し、必要なら調整する。反応をRTで30分間進行させる。各サンプルを5μLの1N−HClで酸性とし、C18 mini-column(μC18 Zip TipsTM, Millipore, Bedford MA)を用いて直接精製する。スルホン化されたペプチドを0.1%TFA含有アセトニトリル:H2O=1:1v/v4〜20μLづつでカラムから溶離する。
【0140】
実施例5 グアニジン化によるLys側鎖の保護および後続するトリプシン消化ペプチドのスルホン化
モデルペプチドおよびさまざまなプロテインのトリプシン消化物を塩基約20μLに溶解した。この塩基は脱イオン水とジイソプロピルエチルアミン(DIEA)とを19:1v/vの比率で混合して調製したものである。ゲル内消化物からのペプチド混合物を最終容積約20μLに濃縮し、DIEA1μLを加えて溶液を塩基性とした。0.5M−硫酸水素O−メチルイソ尿素水2μLを加え、溶液をふりまぜた。各溶液のpHを測定してグアニジン化試薬の添加後にその塩基性を確認し、必要なら調整した。反応を室温(RT)で様々な長さの時間(数時間から2日間)進行させた。典型的には室温での反応は一夜進行させた。翌朝、100mg/mLスルホン酸活性エステル試薬を5μL加え、溶液をふりまぜる。各反応物のpHを測定してその塩基性を確認し、必要なら修正する。反応はRTで30分進行させる。サンプルを5μLの1N−HClで酸性として、直接C18 mini-columns(μC18 Zip TipsTM Millipore, Bedford MA)を用いて精製する。グアニジン化されたスルホン化ペプチドを0.1%TFA含有アセトニトリル:H2O=1:1v/v4〜20μLづつでカラムから溶離させた。
【0141】
実施例6 使用した装置の実験室的説明(図3)
誘導化ペプチドは、Applied Biosystems(Framingham、MA 、01701)のVoyager DE−STR飛行時間型質量分析器にN2レーザー(337nm、パルス幅3nsec、反復速度20Hz)を装着して測定した。質量スペクトルは全て遅延引き出し機構のリフレクトロンモードで得た。外部質量補正は低質量標準ペプチドで行い、質量測定の精度は典型的には±0.2Daであった。PSDフラグメントイオンのスペクトルは適当な誘導化された前駆体イオンを時間イオン選択によって分離した後に観測した。リフレクトロンに次のような比で段階的に電圧を印加してフラグメントイオンを最終検出器にリフォーカスした:1.0000(前駆体イオンセグメント)、0.9126、0.6049、0.4125、0.2738、0.1975および0.1273(フラグメントイオンセグメント)。個々のセグメントは Applied Biosystems が開発したソフトウエアを用いてステッチした。前駆イオンセグメントは全て検出器の飽和を避けるために低レーザーパワー(変動減衰=1800)<256レーザーパルスで観測した。PSD捕捉の残りのセグメントではレーザーパワーを増強した(変動減衰=2100)。PSDのデータは20MHzのデジタル化レートで得た;それ故フラグメントイオンは全て単一同位元素質量としてではなく、化学的平均として測定した。質量の検証は標準ペプチドを外部基準として行った。全PSD実験で準安定イオンの分解を測定した。
【0142】
PSDタンデム質量スペクトルはNCBI非リダンダントプロテイン配列データベース(最新更新は本願出願時点では2001年2月3日)について、二つの方法で検索した。第一の方法は、未解析PSDスペクトルをUCSFが開発した検索ツール(P. R. Baker, K. R. Clauser, http://prospector.ucsf.edu参照)のProtein Prospector suite のMS-Tagプログラムで検索した。検索の入力には測定された前駆体イオン質量およびフラグメントイオン質量を含めた。グアニジン化ペプチドの観測されたフラグメントイオン質量はいずれのデータベースについても検索する前に添加したグアニジウム基の質量42Daを差引いた。使用した典型的な中庸の誤差許容範囲は単一同位元素前駆体イオンでは±0.6Da、化学的平均フラグメントイオンでは±±2.0Daであった。y-型フラグメントイオンのみに許容される可能性があった。a、b、(b+H2O)、(b−NH3)および内部分解物イオンなどのような他種のフラグメントイオンはスルホン化後のPSDスペクトルでは顕著ではないので、考慮しなかった。あるいはPSDデータを手動で解析した。誘導した配列タグはProtein ProspectorソフトウエアパッケージのMS−エドマンプログラムを用いて検索した。MS−エドマンでは入力に前駆体イオンまたはフラグメントイオンの質量を必要としない。MS−エドマンは観測された配列タグのみを使用する。このプログラムでは(K、QおよびE)または(I、L、NおよびD)のように類似の質量を持つ不鮮明な残基の組合せをすべて考慮する。
【0143】
実施例7 データベースの説明
ポリペプチドおよびそのペプチドの配列は、未解析y−イオンシリーズの質量またはy−イオン質量から誘導した配列タグのいずれか、質量スペクトルフラグメンテーションデータを配列データベース検索の入力として取り入れるソフトウエアを用いて効率的にかつ正確に決定できることもある。熟練した専門家が通常に利用する検索ソフトウエアはこれに限定するものではないが、"Protein Prospector"(米国サンフランシスコのカリホルニア大学またはhttp://prospector.ucsf.eduから購入できる)および"Peptide Search"(ドイツ国ハイデルベルグのEuropean Molecular Biology Laboratoryまたはhttp://www.mann.embl-heidelberg.deから購入できる)。
【0144】
本発明で作成されたフラグメンテーションパターンは多数の配列データベースで検索できるが、このようなデータベースにはこれに限定するものではないが、次を含む:NCBI non-redundant database (ncbi.nlm.nih.gov/blast/db.nr.z); SWISPROT (ncbi.nlm.gov/repository/SWISS-PROT/sprot33.dat.z); EMBL (FTP://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/peptidesearch/); OWL (ncbi.nlm.nih.gov/repository/owl/FASTA.z); dbEST (ncbi.nlm.nih.gov/repository/dbEST/dbEST.weekly.fasta.mmddyy.z); およびGenebank (ncbi.nlm.nih.gov/genebank/genpept.fsa.z)。目的とするポリペプチドの完全配列はしばしば配列データベースから本発明方法を使用して生成する関連ペプチド誘導体1種またはそれ以上から得られるフラグメンテーションデータを検索することによって検索できる。
【0145】
勿論、データベース検索技術を用いる時は、y−イオンまたは(y−NH3)イオンのみが許容されるフラグメントであると特定して検索を限定することが最も効率的である。その理由はy−および(y−NH3)イオンは本方法を利用するフラグメンテーションパターンに観察される最も顕著な分子種だからである。a−、b−、(b+H2O)、(b−H2O)、(b−NH3)および内部分解物イオンのような他種のフラグメントイオン型は本発明方法を使用して誘導化したペプチドのスペクトルでは顕著ではないので許容しなくてもよい。本発明で生成する誘導体は単純なフラグメンテーションパターンを提供し、これが誘導化のない同じペプチドのスペクトルでの検索と比較してしばしば優れたデータベース検索特異性を与える。
【0146】
実施例8 NHSエステル誘導化ペプチドのdPSD
モデルプロテインNHSエステルで誘導化したトリプシン消化物のdPSD:
4−ビニルピリジンアシル化ウシ血清アルブミン(4VP−BSA)(Sigma)をNHSエステルを用いるdPSDのためのモデルプロテインとして使用した。
【0147】
ビニルピリジンを用いるアシル化:
凍結乾燥プロテイン(2.4mg)を8M−尿素、50mM−トリスHCl、pH8.0および50mM−DTTを含む緩衝液800μLに溶解し、30℃で30分間インキュベーションした。4−ビニルピリジン(ジスルフィド結合形成阻止用)10μLを加え、サンプルを30℃で1時間インキュベーションした。100mM−NH4HCO3、pH8.8と平衡させた NAP-10 column (Amersham Pharmacia Biotech) を用いて脱塩し、サンプルを1.2mLで溶離した。このサンプルをトリプシン(Promega、トリプシン1μg/100μgプロテイン)を用いて30℃で6時間消化し、TFAを最終濃度1%まで加えて反応を止めた。最終濃度100ng/μL(1.5pmole/μL)になるまで50%AcN:0.5%TFAで消化物を希釈した。
【0148】
3−スルホプロピオン酸無水物のNHSエステルを用いるN−末端誘導化:
4VP−BSA(3pmole)のトリプシン消化物をスピードバックで乾燥し、脱イオン水:ジイソプロピルエチルアミン=19:1v/v10μLに再構成した。NHSエステルを脱イオン水に溶解(NHSエステル10mg/H2O100μL)し、その5μLを各サンプルに加えた。反応混合物をふりまぜ室温に15分間放置して反応させた。サンプルに10%TFA1μLを加えて酸性とし、製造社の説明書に従ってμC18 Zip Tips(Millipore)を通して精製した。サンプルを直接MALDI標的上にα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸の50%AcN:0.1%TFA飽和溶液で溶離し、リフレクトロンポジティブモードおよびPSDポジティブモードでEttanTM MALDI−TOFで分析した。
【0149】
大腸菌由来プロテイントリプシン消化物の誘導体NHSエステルのdPSD:
【0150】
大腸菌低速上清物の製造:大腸菌(E. coli)(40μg、B株、ATCC11303)を8M−尿素、4%chaps、2%3〜10phannalyt、65mM−DTTを含む還元緩衝液20mLに入れ、細胞を超音波(7×20秒間、氷冷下)で破壊した。溶解物を10000×g、8℃で40分間遠心分離した。低速上清(LSS)は使用まで-20℃で保存した。
【0151】
二次元(2D)電気泳動による分離:大腸菌のLSS(1mg)をIPGレヒドレーション緩衝液(8M−尿素/2%CHAPS/2%IPG緩衝液4〜7/10mM−DTT)で希釈し、IPGストリップ(24cm、pH3−10、NL Amersham Pharmacia Biotech)に一夜レヒドレーションした。製造社説明書に従って二次元電気泳動を行った。二次元(2―D)電気泳動で分離後、ゲルを40%エタノール(EtOH)、10%酢酸(HAc)で1時間固定し、40%EtOH、10%HAc中、0.1%クーマジーブリリアントブルーで30分間染色し、20%EtOH、5%HAc中で一夜脱色した。
【0152】
トリプシン消化:中強度(低pmole)から低強度(高fmole)までのプロテインスポット(直径1.4mm)を取り、EttanTM spot picker(Amersham Pharmacia Biotech)を用いてミクロタイタープレートに移した。各プロテインを50%メタノール、50mM−炭酸水素アンモニウム(AMBIC)100μLで3×30分間脱色し、Tubo-Vap中で15分間乾燥した。これをトリプシン(40ng/μL、20mM−AMBIC、Promega)5μLで EttanTM TA Digester(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて37℃で60分間消化した。0.5%TFA含有50%アセトニトリル35μLで2×20分間ペプチドを抽出した。抽出物を室温で一夜乾燥した。
【0153】
N−末端の誘導化:各サンプルを脱イオン水20μL中に再構成した。各サンプル(20%)1μLをαシアノマトリックス溶液と1:1に混合し、EttanTM MALDI-TOF を用いてリフレクトロンポジティブモードで分析した。各サンプルの残り19μLにDIEA1μLとスルホプロピオン酸NHSエステル10mg/100μL溶液を5μL加えた。サンプルをピペットで完全に混合し、室温で15分間反応させた。TFA(1μL、10%)を各サンプルに加え、μC18 Zip-Tips (Millipore)で精製した。α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸の50%AcN:0.1%TFA飽和溶液でサンプルをMALDIターゲット上に直接溶離し、EttanTM MALDI-TOFを用いてリフレクターポジティブモードおよびPSDポジティブモードで分析した。
【0154】
NHSエステルを用いる自動化dPSD:
【0155】
最近の化学は自動化に適している。EttanTM digester とEttanTM spotter を用いればサンプルの取扱いおよび反応混合物は自動的に操作できる。実験的には、マイクロタイタープレートの各ウェルに入れたモデルペプチドまたはペプチド混合物を水(18MΩまたはそれ以上の品質)100μL中に再構成する。この時点で液体ハンドラーはサンプルを反応物2個に二分できる。一方は5μLをMSによる直接分析に、他方は化学的修飾に用いる。化学修飾用に割当てた物質を室温で1時間乾燥する。ハンドラー(たとえばGilson 215 Multiprobe)は次に乾燥した物質をDIEA(ジイソプロピルエチルアミン)含有緩衝液中、反応性誘導化試薬10μLを添加して再構成する。吸引を繰返して反応物を混合する。この化学修飾段階を室温で約15分間進行させる。最後に各サンプルを前記と同様に後処理し、MSで分析する。
【0156】
結果:
【0157】
4VP−BSAトリプシン処理ペプチドのN−末端定量的誘導化は水溶液中、3−スルホプロピオン酸無水物のNHSエステルで得られた。図4、図5は各々未誘導化および誘導化4VP−BSAのリフレクトロンスペクトルを示す。ペプチドI〜IIIをdPSD分析に使用した(図6〜図8)。フラグメンテーションスペクトルはy−イオンのみを示した。ペプチド3種から得た各フラグメンテーションデータは NCBInr protein sequence database(PepFrag、www.proteometric.com)に対する明確な確認のために使用できた。
【0158】
クーマジー染色2Dゲルから得たE-coliプロテインを含むゲルプラグ2個を、NHSエステルを用いてdPSDで同定した。このプロテインをトリプシンで消化し、ゲルプラグから抽出し、記載の通りに誘導化した。図9および図10は一方のゲルプラグから得た未誘導化サンプルおよび誘導化サンプルのリフレクトロンスペクトルを示す。丸印を付けたペプチドを定量的に誘導化し、PSD分析(図11)に付した。このフラグメントイオン(y−イオン)の質量を用いてPepFragでプロテイン確認を行った。PepFragが示唆した候補はProFound(proteometrics.com)のトリプシン地図を検索して得た候補と一致した。第二ゲルプラグから得た未誘導化サンプルおよびNHSエステル誘導化サンプルのリフレクトロンスペクトルを図12と図13に示す。ペプチド m/z 1569を定量的に誘導化し(m/z 1705)、PSD分析(図14)に用いた。得られたy−イオンを用いてPepFragでプロテイン確認を行い、ProFoundのペプチドマスで得た候補と同じ候補を示した。
【0159】
実施例9 3-スルホプロピオン酸N-ヒドロキシサクシンイミドエステルの別途合成
3−スルホプロピオン酸の製造:
1L三頚フラスコに攪拌機、温度計、窒素導入口、滴下漏斗および加熱マントルを取付け、効率的なドラフト内に設置した。酢酸165.4mLおよび30%H202、165.4mL、1.46モルを容器に入れた。この混合物を攪拌し50℃に加熱した。マントルを除去した後、50℃で3−メルカプトプロピオン酸50g、0.471モルの滴下を開始した。この反応は発熱反応であって、外部から冷却する必要がある。ドライアイス/アセトン浴で温度を50〜55℃に維持した。添加終了後(約5分所要)も反応物は約30分間発熱を続けた後冷え始めた。発熱が終わった時、マントルを付けて温度をさらに2時間50℃に維持した。ヨード澱粉試験紙を使う過ヨード酸試験は溶液に過酸化水素の存在が続いていたことを示した。2時間後、透明な無色の溶液を放冷し、フラッシュエバポレーション用フラスコに移した。ロータリーエバポレータの浴温を50℃に設定し、約5〜6mmHgの真空源に接続した。この工程は後の酢酸エチル抽出を妨害しないように酢酸をできるだけ除去するために必要であった。この温度および真空度でこれ以上の酢酸/水/H2O2が留出しなくなった時(約1〜1.5時間)、サンプルを取り出すと重量は約100−120gであった。これは生成物の理論重量より72g多く、これは使用した蒸発技術では除去し難い水を表す。この物質は−20℃でも凍結しないので、凍結乾燥では残留する水を除去できなかった。希薄に希釈すればおそらくこの物質はサンプルの凍結を持続するであろうが、余計な水を加えることは望ましくない操作である。濃厚溶液を水500mLで希釈し、酢酸エチル300mLづつで3回抽出した。酢酸エチル抽出物はH2O2陽性であったがその強度は抽出毎に減少した。水層を最後に約100gまで濃縮した。この生成物は粘度の高い油状物であって白色沈殿を含んでいた。D2O中の1H−NMRは内部基準として加えた痕跡のアセトニトリル(2.06ppm)の他にシングレットを3.23ppmと2.78ppmに示した。註:これらのピークは濃度に依存してシフトする。微量の不純物が3.58、2.9および2.23ppmに観測された。同じサンプルの13C−NMRは174.8、45.5および28.4ppmにピークを示した。
【0160】
β−スルホプロピオン酸無水物の製造:
上記反応で得られたサンプル全体 (〜100g)を効率的なドラフトを用い、塩化チオニル652.4g、5.48モルで処理した。残留水が激しい反応を起こす可能性があったので塩化チオニルは少量づつ加えた。激しい発煙はなかったが、塩酸と二酸化硫黄が発生したのでアダプターでコンデンサーの頭部に結合したtygon管を用いてドラフトの後に導いた。添加終了後、混合物を12時間加熱還流しつつ磁気的に攪拌した。冷却、攪拌を続けている間に、β−スルホプロピオン酸無水物が沈殿した。フラスコに栓をして2時間フリーザに入れて沈殿量を最大にした。固体の無水物をグローブバッグ中N2下に濾過し、フィルターケーキを石油エーテル50mLづつで2回洗浄した。この無水物は水に対して極めて敏感に反応して出発物質3−スルホプロピオン酸を生ずるのでグローブバッグ(ドライボックスでもよい)の使用は非常に重要である。無水物の固体をグローブバッグ内で密栓付フラスコに移し、真空デシケータに移し、栓を去り、P2O5上で1mm真空に暴露した。乾燥した無水物の重量は39g、収率は61%であった。1H−NMR分析はCDCl3中で各々3.8および3.45ppmにシングレットを示した。同じサンプルの13C−NMRは161.9、48および32ppmにピークを示した。融点:74.6℃。文献値:76〜77℃。
【0161】
再現性:
同じスケールと技法を用いて全過程(両反応)を反復した。殆ど同一が結果を得られた。粗製物質の重量は84gであった。註:塩化チオニル添加後の混合物を仔細に観察すると30〜45分間に過剰な塩化チオニルで反応物中の水が消費されるに従って、美しい白色の固体が沈殿することが判明した。これは無水の3−スルホプロピオン酸であると推測される。還流下に更に1時間攪拌するとこれが全て溶解し、以前に観察したように反応した。β−スルホプロピオン酸無水物の第二サンプルの最終重量は40.7gであった。収率:63.5%。1H−NMR(CDCl3 )分析は3.8ppm と3.45ppmとにシングレットを示した。同じサンプルの13C−NMRは161.9、48および32ppmにピークを示した。
【0162】
3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルのジイソプロピルエチルアミン塩:
500mL三頚フラスコにマグネティックスターラーバー、温度計、窒素導入口、および滴下漏斗を装備した。室温でフラスコにN−ヒドロキシサクシンイミド3.9g,0.0338モルを入れた。CH2Cl2100mLを加え、混合物を攪拌しながらジイソプロピルエチルアミン4.37g、5.9mL、0.0338モルを加えた。註:このN−ヒドロキシサクシンイミドは、ジイソプロピルエチルアミン4.6g、0.0338モルを加えると溶解した。β−スルホプロピオン酸無水物をCH2Cl280mLに溶解し、この溶液を攪拌しつつ滴下漏斗を用いて添加した。添加が進行するにつれて混合物は暗色になった。添加完了後、混合物を更に3時間室温で攪拌した後、単頚フラスコに移し、溶媒をロータリーエバポレータで取り除き明褐色固体残渣を得た。残渣をCH2Cl250mLに溶解し、活性炭2gとともに室温で1時間攪拌した。続いてガラス繊維濾紙およびセライト床で濾過した。セライトをCH2Cl225mLで一回洗浄した。ロータリーエバポレータでCH2Cl2を除去した。固体の残渣をメタノール20mLに50℃で溶解した。この溶液を酢酸エチル180mLに注入し、溶液を一夜フリーザ中に置いた。翌朝、黄褐色固体が沈殿し、これを濾取した。冷酢酸エチル(フリーザ温度)約50mLを用いて固体を濾紙上で洗浄した。このエステルは出発無水物よりも水に対してはるかに安定であると思われたがこの濾過はN2を詰めたグローブバッグを用いて行った。乾燥したサンプルの重量は7.3g、収率:86%であった。1H−NMR(CDCl3 )分析は9.175(1H−bs)、3.6ppm(2H−m)、3.1ppm(4H−s)、3.0ppm(2H−m)、2.8ppm(4H−s)、1.35ppm(15H−m)にピークを示した。同じサンプルの13C−NMRは173.3、168.8、167.4、53.9、45.7、42.2、27.4、25.3、18.3、17.1、11.9ppmにピークを示した。サンプルの融点は175〜176℃であった。文献値:176〜178℃。
註:再結晶段階には最少量のメタノール/酢酸エチル溶媒を使用するように注意すべきである。多すぎると生成物が殆どまたは全く沈殿しなくなり得る。
【0163】
本明細書に示す本発明の修正および変形の多くが本発明の精神および範囲から逸脱することなしに行えるであろうことは明白である。記載された特定的態様は単なる実例であって、本発明は添付する請求項の記載によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1A】図1Aは実施例1のNMRスペクトルを示す。
【図1B】図1Bは実施例1のNMRスペクトルを示す。
【図1C】図1Cは実施例1のNMRスペクトルを示す。
【図1D】図1Dは実施例1のNMRスペクトルを示す。
【図2A】図2AはD2O中における3−スルホプロピオン酸NHSエステルの安定性を示す。
【図2B】図2BはD2O中における2−スルホ安息香酸NHSエステルの安定性を示す。
【図3A】図3Aは実施例6に記載の通りにスルホン化したペプチドのMALDI・PSDスペクトルおよび反応性比較データを示す。
【図3B】図3Bは実施例6に記載の通りにスルホン化したペプチドのMALDI・PSDスペクトルおよび反応性比較データを示す。
【図3C】図3Cは実施例6に記載の通りにスルホン化したペプチドのMALDI・PSDスペクトルおよび反応性比較データを示す。
【図4】図4はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAトリプシン消化物の未誘導体化についてリフレクトロンスペクトル、ポジティブモード(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【図5】図5は4VP−BSA(Ettan MALDI-TOFTM)トリプシン消化物の誘導化についてリフレクトロンスペクトル(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【図6】図6はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(I)の一連の完全y−イオンを示すフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。
【図7】図7は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(II)についてフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。
【図8】図8は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物から得たペプチド(III)(図5、m/z 1704)についてPSDスペクトル(蓄積した300ショットからのシグナル)を示す。
【図9】図9はEttanTMMALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た未誘導化プロテインについてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムーシング5)の最初の例を示す。
【図10】図10は図9と同じ2−Dサンプル(残り95%)、ただしN−末端をNHSエステルで誘導化後のもの、についてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【図11】図11は誘導化ペプチド、m/z 1927のPSDスペクトル(300ショット蓄積)を示す。
【図12】図12はEttanTMMALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た蛋白質スポットの未誘導化トリプシン消化物についてリフレクトロンスペクトル(100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムーシング5)の第二例を示す。
【図13】図13は図11に示す2−Dサンプルと同じ物(但し、記載のようにZip Tipでの浄化およびNHSエステルで水溶液中誘導化した後)についてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【図14】図14は誘導化ペプチドm/z 1705についてPSDスペクトル(蓄積した300ショットからのシグナル)を示す。
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明はポリペプチドを確認するための方法に関する。この方法では新規な一群の試薬群を用いてペプチドを誘導体化した後に質量分析を用いて分析する。本発明はまた本発明の新規試薬を含むキットにならびに新規試薬それ自身に関する。
【0002】
発明の背景
ポリペプチドの確認および配列決定は蛋白質学分野の急速な発展と共にますます重要になっている。この分野では新遺伝子の発現産物をその機能および構成について研究する。
【0003】
マトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)質量分析はペプチドおよびポリペプチドの配列決定のために開発された方法である(MALDI質量分析の原理を説明する参考文献としては、たとえばSpengler et al. "Peptide Sequencing by Matrix-assisted Laser-desorption Mass Spectrometry", Rapid Communications in Mass Spectrometry, Vol. 6, pp. 105-108 (1992)を参照)。MALDI質量分析は質量分析の領域に数々の利点を提供する。例えばこの方法は通常の電気スプレー三重四極装置よりも感度が高い。飛行時間型(TOF)質量分析器と組み合わせて使用する時には、MALDI質量分析は三重四極装置で分析できるものよりも高質量のペプチドにも使用できる。MALDI質量分析はまた最少なサンプル精製を用いて複雑な混合物を分析するためにも有用である。一方、電気スプレーイオン化法は液体クロマトグラフィー法(LC)および様々な型の毛細管電気泳動(CE)法を含む強力な分離技術と容易に連結できる。サンプルの精製にLCおよびCEを使用し、注入装置を使用すれば高度に自動化した分析が可能である。
【0004】
しかしながら最近のMALDI法も、それ程ではないが電気スプレーイオン化質量分析法も、予想可能なタンデム質量分析フラグメンテーションパターンを適切に提供しない。例えば、多重イオンシリーズ(a−イオン、b−イオンおよびy−イオンを含む)が観察されることが多く、効率的な解析および配列決定のためには複雑過ぎるMALDI―ポスト・ソース・ディケイ・スペクトルを与える。多重イオンシリーズ(b−イオンおよびy−イオン)プラス内部フラグメントおよび一重に荷電したイオンおよび多重に荷電したイオンが電気スプレーイオン化法によって発生した多重荷電前駆体イオンから形成され、得られるタンデム質量スペクトルは最初から解析が困難なことが多い。従って、フラグメンテーションに関する問題が質量分析を使用する迅速なポリペプチド配列決定法の性能を限定してきた。その結果、質量分析、殊にMALDI質量分析術、はこの分野における評価が低かった。
【0005】
いくつかの研究グループが化学的誘導体化技術を用いてポリペプチド配列決定の分野における質量分析の有用性向上を試みてきた。この技術はペプチドのMSMSスペクトルでフラグメンテーションを促進し、誘導するために利用され、感度の向上および得られるスペクトルの複雑性低下を目指した。この研究は殆どがカチオン性誘導体を提供した。例えば、四級アンモニウム基を用いる誘導体化および静電的SIMSイオン化法を使用する分析が提案された。しかしながら、MALDI質量分析および低エネルギー衝突活性化による電気スプレーイオン化を使用するこの技術の利用は、一般的な効果を証明するに到らなかった。
【0006】
最近、Keough ら(WO 00/43792、Procter & Gamble社)はアミノ酸配列決定のためにpKa値2未満の酸部分1個またはそれ以上で被分析物ポリペプチドのN末端を誘導体化した後に、たとえばMALDI質量分析のような質量分析法で分析する方法を提案した。この酸性部分は、好ましくはスルホン酸またはジスルホン酸誘導体である。この誘導体は荷電部位から開始する骨格アミド結合の切断を促進し、y−イオンを含む一連のフラグメントイオンのみを選択的に検出することを可能にする。しかしながら、Keoughらの反応は、彼らが使用した試薬が水に不安定なため、一般に非水条件下に行われる。従って、質量分析による商業的に有用なアミノ酸配列決定法のためには、なお操作法、中でも自動化操作法の要請を満たすような方法の改良が求められている。
【0007】
発明の要約
本発明の目的の一つは質量分析技術を用いてペプチドまたはポリペプチドを確認する方法で使用する試薬を提供することにある。その試薬は有機溶媒を使用する先行技術よりも環境的によいものである。この目的は一群の新規で水に安定な誘導体化試薬を使用することによって達成される。該試薬は活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を含み、後続する質量分析段階で分析すべきペプチド誘導体を提供する。本発明の別の目的は質量分析技術で確認する前に、単純であり、それ故自動化が容易なペプチドまたはポリペプチドの誘導体化に用いる操作法を提供することにある。これは一群の新規な試薬を提供することによって達成される。この試薬は先行技術の試薬と比較して水に対する安定性が優れている。
【0008】
そこで本発明はポリペプチドを確認する方法に関する。この方法は次の各段階を含む:
【0009】
(a)ポリペプチドのN−末端またはポリペプチドのペプチド1種またはそれ以上のN−末端を、活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を持つ酸性試薬少なくとも1種を用いて水性溶液中誘導体化して、ペプチド誘導体を1種またはそれ以上提供する段階(ただし、この試薬は水溶液中での半減期が室温では10分以上、好ましくは20分以上、最も好ましくは30分以上である);
【0010】
(b)その誘導体少なくとも1種を質量分析技術で分析して、フラグメンテーションパターンを提供する段階;および
【0011】
(c)得られたフラグメンテーションパターンを解析する段階。
【0012】
本発明の各目的は、特定的には上記請求項に定義するようにして達成される。以下に本発明を特定的態様およびその具体的実施例も参照しつつ、さらに詳細に説明する。
【0013】
図面の簡単な説明
図1A〜Dは下記実施例1に説明するNMRスペクトルを示す。図2A〜Bは本発明NHSエステルの安定性を図示する。さらに特定的には、図2AはD2O中における3−スルホプロピオン酸NHSエステルの安定性を示し、図2BはD2O中における2−スルホ安息香酸NHSエステルの安定性を示す。
【0014】
図3A〜Cは実施例6に記載の通りにスルホン化したペプチドのMALDI・PSDスペクトルおよび反応性比較データを示す。
【0015】
図4はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAトリプシン消化物の未誘導体化についてリフレクトロンスペクトル、ポジティブモード(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【0016】
図5は4VP−BSA(Ettan MALDI-TOFTM)トリプシン消化物の誘導化についてリフレクトロンスペクトル(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。図6はフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。このスペクトルは、EttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(I)の一連の完全y−イオンを示す。
【0017】
図7は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(II)についてフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。
【0018】
図8は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物から得たペプチド(III)(図5、m/z 1704)についてPSDスペクトル(蓄積した300ショットからのシグナル)を示す。
【0019】
図9はEttanTMMALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た未誘導化プロテインについてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムーシング5)の最初の例を示す。
【0020】
図10は図9と同じ2−Dサンプル(残り95%)、ただしN−末端をNHSエステルで誘導化後のもの、についてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【0021】
図11は誘導化ペプチド、m/z 1927のPSDスペクトル(300ショット蓄積)を示す。
【0022】
図12はEttanTMMALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た蛋白質スポットの未誘導化トリプシン消化物についてリフレクトロンスペクトル(100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムーシング5)の第二例を示す。
【0023】
図13は図11に示す2−Dサンプルと同じ物(但し、記載のようにZip Tipでの浄化およびNHSエステルで水溶液中誘導化した後)についてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
図14は誘導化ペプチドm/z 1705(図12参照)についてPSDスペクトル(蓄積した300ショットからのシグナル)を示す。
【0024】
定義
本明細書では、用語「確認する」は、完全配列の決定とは必ずしも同義語ではなく、それは、ポリペプチドを確認するための部分配列決定または既知プロテインに由来するペプチドとの異同を確認するための部分配列決定も含むためである。さらに、この用語にはまた少数の可能性の中で最も可能性の高いものに基づいて暫定的確認を行うことも含む。
【0025】
さらに、本明細書で使用する用語「イオン化」は、被分析物に電子単位プラス1またはそれ以上または電子単位マイナス1またはそれ以下の電荷を作製または保持する過程を示す。
【0026】
本明細書で使用する用語「水性環境」は、水に基づくいかなる溶液、懸濁液またはその他の形をも含む。これには有機溶媒約20%またはそれ以下を含有する。
【0027】
本明細書で使用する用語「電気スプレーイオン化」はアースした対電極に対して高電圧の毛細管電極から静電的に溶液を噴霧することによって溶液からイオンを形成する過程を示す。この定義には電気スプレーイオン化および空気支援電気スプレーイオン化の両方を含むことが意図されており、後者はイオンスプレーとも称せられる。本明細書で使用する用語「電気スプレーイオン化」は全ての液体流速に適用され、また、マイクロスプレー実験およびナノスプレー実験も含むことが意図されている。さらに、この定義は分離せずにイオン源に直接注入されたペプチドの分析および電気スプレーイオン化の前に分離されたペプチドまたはペプチド混合物の分析にも適用することが意図されている。適当なオンライン分離法には、限定するものではないが、HPLC、毛細管HPLCおよび毛細管電気泳動を含む。電気スプレーイオン化実験は、限定するものではないが、三重四極質量分析器、イオントラップ、直交加速飛行時間型分析装置およびフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴装置など、を含む種々の質量分析装置で実施できる。
【0028】
本明細書で使用する用語「ポリペプチド」はアミノ酸残基2個またはそれ以上を有する分子を示す。
【0029】
本明細書で使用する用語「野生型」は突然変異のない生体によって産生されるポリペプチドを示す。
【0030】
本明細書で使用する用語「変異型」は野生型ポリペプチドの配列とは異なるアミノ酸配列を持つポリペプチドを示す。
【0031】
本明細書で使用する用語「水に対して安定」は水溶液中室温では10分またはそれ以下ではなく、好ましくは20分またはそれ以下ではなく、最も好ましくは30分またはそれ以下ではない、半減期を持つ試薬を示す。
【0032】
用語「活性化された酸」は水性環境下でアミド結合を形成することができる、酸の誘導体好ましくはカルボン酸の誘導体を示す。
本明細書において用語「酸性」試薬はポリペプチドまたはペプチドと結合したときに、pKaが2未満、好ましくは0未満、より好ましくは−2未満である部分を1個またはそれ以上含む試薬を意味する。
【0033】
本明細書では以下の略号を使用する:
【表1】
【0034】
本発明の詳細な説明
本発明の第一の側面はポリペプチドを確認する方法である。その方法は次の各段階を含む:
【0035】
(a)ポリペプチドのN−末端またはポリペプチドのペプチド1種またはそれ以上のN−末端を、活性化された酸部分に結合したスルホニル部分を含む酸性試薬少なくとも1種を用いて水性溶液中で誘導化して、ペプチド誘導体を1種またはそれ以上提供する段階(ただし、この試薬は水溶液中での半減期が室温では10分以上、好ましくは約20分以上、最も好ましくは30分以上である);
【0036】
(b)その誘導体少なくとも1種を質量分析技術で分析してフラグメンテーションパターンを得る段階;および
【0037】
(c)得られたフラグメンテーションパターンを解析する段階。
【0038】
本発明はたとえば野生型ポリペプチド、変異型ポリペプチドおよび/または合成ポリペプチドのようなポリペプチドを配列決定するために有用である。本方法は、たとえば生物学分野および薬学分野などで用いる高分子量ポリペプチドを確認するために殊に有用である。さらに特定的には、本方法は以下に列挙する目的に使用できる:ペプチドまたはポリペプチドの迅速な配列決定を必要とする生物学研究を促進するために;プロテインの翻訳後修飾(燐酸化、グリコシル化、リジンのN−メチル化、リジンおよびアルギニンのアセチル化、または活性部位残基を確認するためまたは不活性物質を含む混合物から活性蛋白質を分離するための自殺阻害剤)を確認するために;たとえば商業的洗濯および浄化用産物に使用するような変異型プロテインにおけるアミノ酸修飾を確認するために;遺伝子クローニングのためのオリゴヌクレオチドプローブの設計を支援するために;指向性エボリューション研究で生成する産物を迅速に確認するために;コンビナトリアルライブラリーおよびペプチドライブラリーの確認において;および蛋白質学において。
【0039】
そこで段階(b)では、本発明は誘導体を分析するために質量分析技術を利用する。この技術にはマトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)質量分析または電気スプレーイオン化を含むことができる。これらイオン化技術は、限定するものではないが、三重四極装置、イオントラップ、リフレクター飛行時間型分析器、直交加速飛行時間型質量分析機およびフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴装置などを含む様々な質量分析機で実施できる。得られるスペクトルは標準的操作法に従って常法的に改めて解析される。しかしながら最も好適な態様では、段階(b)においてはMALDI質量分析を使用する。MALDI質量分析器は商業的に入手可能であって、文献にも記載されている。例えばKussmann M. and Roepstorff P., Spectroscopy 1998, 14: 1-27 を参照。
【0040】
そこで、前記の通り先行技術ではMALDI質量分析技術による配列決定を促進するためにスルホン酸基をペプチドのN−末端に結合させるが、以前に提案された試薬は水に対する安定性が低いものに限定されていた(この点に関してはたとえばT. Keough, R. S. Youngquist, M. P. Lacey, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 7131 (1999); T. Keough, M. P. Lacey, A. M. Fieno, R. A. Grant; Y. Sun; M. D. Bauer; K. B. Begley, Electrophoresis, 66 2252 (1999); T. Keough, M. P. Lacey, R. S. Youngquist, Rapid Commun. Mass Spectrom. 14, 2348 (2000)を参照)。
【0041】
本発明は初めて一段階法を提供する。この方法では実際の質量分析に先行する誘導化段階のために水に安定な試薬を使用する。有機溶媒を避けて水に対して安定な試薬を用いる利点は明白であって、乾燥工程および溶媒変更が不要なために誘導化操作を容易に自動化できる点を含む。
【0042】
これに加えて、驚くべきことに本発明者はこの新規な水に安定な試薬1種またはそれ以上を用いればペプチド誘導化の効率が高いことを証明した。この点は先行技術の方法に優っている。この新規誘導体はまた先行技術の試薬よりも水に対して安定である。そこで本発明は以前に提案されていたどの技術よりも堅牢な方法を提供する。
【0043】
本発明方法の本質的利点の一つは、以前に提案された技術(たとえば前記WO 00/43792;Keough et alを参照)と比較した場合、本発明に従えば全段階が水性条件下に行えるという事実に存在する。以前に提案された技術は乾燥工程2回および塩基性から酸性へおよびその逆のpH変更を数回も必要とするので、本発明方法は自動化のためにははるかに適切である。これを例証するためにゲル内消化物から得られるペプチド抽出物を誘導化する既知の方法を次のように要約して見る:
1.ペプチド抽出物240μL溶液(50%アセトニトリル)とする。
2.スピードバック(speed vac.)で約25μLまで濃縮する。
3.DIEAを加え、リジン側鎖を室温で一夜グアニジネート化する(塩基性)。
4.HClを添加し、C18μZipTipTM(酸性)で浄化する。
5.完全に乾燥して水分を除去する。
6.THF:DIEA=19:1、10μL(塩基性)中に再構成する。
7.試薬(THF1mL中、純クロロスルホニルアセチルクロリド2μL)2μLを添加する。
8.室温で1〜2分間反応させる。
9.完全に乾燥して有機物と過剰な塩基を除去する。
10.0.1%TFA(酸性)10μL中に再構成する。
【0044】
しかし、本発明の方法に必要なのは下記のように要約される4段階のみである:
1.ゲル内消化物からのペプチドを約20μLまで濃縮する。
2.DIEAを加え、リジン側鎖を室温で一夜グアニジネート化する。
3.水−適合性スルホン化剤を室温で30分間添加する。
4.HClを添加し、C18μZipTipTMで浄化する。
【0045】
そこで、本方法は自動化されたプロテインの誘導化および/またはたとえばプロテオミックの研究などにおけるプロテインの部分的確認のために殊に有用である。
【0046】
従って、特に有利な態様では、本方法はコンピュータに支援される方法であって、段階(c)で適当なソフトウエアを利用する。そこで、質量分析で得られる質量対電荷の比率のデータ分析を用いて、得られたフラグメンテーションパターンの解析をする。たとえばMALDI−TOF実験から得たペプチドの質量スペクトルとプロテインから得られる理論的スペクトルとを比較するために数種のソフトウエアプログラムが開発されている。この主題は、たとえば、Kussmann and Roepstorff(Kussmann M. and Roepstorff P. Spectroscopy 1998, 14: 1-27)が総説している。
【0047】
本発明による新規試薬の別な利点はこの試薬が結晶形で容易に貯蔵できる事実に存在する。そこで貯蔵中の安定性すなわち試薬の寿命が大幅に改善される。従って、本発明は操作を安価にし、多くの常用的操作で実際的な使用の単純化を可能にする試薬を提供する。
【0048】
好適な態様では、本試薬はペプチドまたはポリペプチドと結合した時にpKaが約2未満、好ましくは約0未満、最も好ましくは約−2未満を示す。この分野の熟練者は当技術分野でよく知られている標準的方法を使用してポリペプチドまたはペプチドに共有結合的に結合する酸性部分のpKa値を測定できる。例えば、その方法には滴定または電気化学的方法を含み得る。
【0049】
有利な一態様では、この試薬の活性化された酸部分は、N−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)エステルである。
【0050】
本方法の特別な態様では、NHSエステル部分に結合するスルホニル部分を含む酸性試薬は3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルである。
【0051】
別な一態様では、この試薬は2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルである。
【0052】
この分野の熟練者は気付くであろうように、緩衝液が非反応性である限り、適当な緩衝液と組合わせてこの試薬を使用できる。あるいはこの試薬は単に水に溶解して使用する。さらに本方法では、実際的理由から通常は単一の試薬を使用するが、本発明はまたそれぞれNHSエステル部分に結合するスルホニル部分を含んでいるとの定義に適合する試薬を2種またはそれ以上含む混合物を利用する方法も包含することを理解すべきである。
【0053】
前記の例示した試薬の製造は本明細書の実験の部に例示する。本発明の活性化された酸は当技術分野の通常な熟練者によく知られている方法に従って製造される。本発明の化合物を製造するために使用する出発物質は既知であるか、既知方法で製造されるか、または出発物質として購入できる。
【0054】
有機化学分野における熟練した通常の専門家はこれ以上の指示なしに有機化合物を容易に標準的な処理をすることができると認識される。このような処理の例は、たとえば J. March著, Advanced Organic Chemistry, John Wiley & Sons, 1992 のような標準的教科書に説明されている。
【0055】
通常の熟練した当業者は、化合物内の他の官能基をマスクまたは保護して反応収率の増加および/または望ましくない副反応回避をするとある種の反応の実施が最適になることを容易に認識する。通常の熟練者はしばしば収率の増大または望ましくない反応の回避を達成するために保護基を利用する。このような反応は文献にも記載され、普通の専門家の熟練範囲内にある。そのような操作例の多数は、たとえばT. Greene: Protecting Groups in Organic Synthesis, John Wiley & Sons, 1981に見出される。
【0056】
本発明の化合物は当技術分野の通常の熟練者が知っている様々な操作法を使用して製造してもよい。限定を意図するものではないが一般的製造法には以下のものを含む:
【0057】
本発明の活性化された酸は、下記一般構造で表される化合物の中にある酸を活性化し、続いて本発明の水に安定な試薬を作製する反応に付せば製造できる。
【化1】
【0058】
[ここに、Yは脂肪族および/または芳香族のフラグメントを含み、要すれば別のスルホン酸を含んでいてもよいスペーサである]
【0059】
適当な酸の例はこれに限定するものではないが、たとえば2−スルホ酢酸、3−スルホプロピオン酸、3−スルホ安息香酸、4−スルホ安息香酸、2−ブロモ−5−スルホ安息香酸および2−スルホ安息香酸などである。ここに有用なスルホニル基に関する一般的な参考文献としては、たとえば WO 00/43792 を参照。
【0060】
当業者はこれら化合物のプロトン化された酸に加え、限定するものではないが、ナトリウム塩およびカリウム塩を含む塩が本発明化合物の合成に有用であることに想到するであろう。活性化された酸は大部分が本技術分野の常法を用いて容易に製造できる。ペプチド合成および活性エステル製造に関する最近の総説および成書には次のものがある:a) Alberico, F.; Carpino, L.A.: Coupling reagents and activation, Method. Enzymol., 1997, 289, 104-126; b) Bodansky, M.: Principles of Peptide Synthesis, 2ed., Springer-Verlag:Berlin, 1993; c) Humphrey, J.M.; Chamberlin, A. R.: Chemical Synthesis of Natural Product Peptides: Coupling Methods for the Incorporation of Noncoded Amino Acids into Peptides. Chem. Rev., 1997, 97, 2243-2266; d) Handbook of Reagents for Organic Synthesis: Activating Agents and Protecting Groups, Pearson, A.J. andRoush, W.R., ed., John Wiley & Sons, 1999。この構造を持つ反応性誘導体には例えば1−ヒドロキシベンゾトリアゾールエステルのような活性エステル、たとえば塩酸およびスルホン酸のような有機酸または無機酸の混合無水物および該構造を持つ酸の対称無水物を含む。これらの活性化された原料は本発明の水に安定な試薬として直接有用でありうる。しかしながら、たとえば酸塩化物のような活性の高い物質は本明細書に定義する水に対する安定さはないかもしれないが、たとえばこれを更にN−ヒドロキシサクシンイミドのような試薬と反応させれば、本発明の水に安定な試薬である活性化された酸を生成させることができる。
【0061】
文献に見出される無数の活性エステルの中で、N−ヒドロキシサクシンイミドに由来するエステル(Anderson, G.W., Zimmerman, J.E., Callahan, F.M., J. Am. Chem. Soc., 1964, 86, 1839, 総説はKlausner, Y.S.; Bodansky, M.S.: Synthesis, 1972, 453参照)オルトおよびパラ−ニトロフェニルエステル (Bodansky, M.; Funk, K.W., Fink, M.L.; J. Org. Chem., 1973, 38, 3565; Bodansky, M.; Du Vigneaud, V.; J. Am. Chem. Soc., 1959, 81, 5688)、2,4,5−トリクロロフェニルエステル(Pless, J.; Boissonnas, R.A.: Helv. Chim. Acta, 1963, 46, 1609)、ペンタクロロフェニルエステル(Kovacs, J.; Kisfaludy; L., Ceprini, M.Q.: J. Am. Chem. Soc., 1967, 89, 183)、ペンタフルオロフェニルエステル(Kisfaludy, L.; Roberts, J.E.; Johnson R. H.; Mayers, G.L.; Kovacs, J.: J. Org. Chem., 1970, 35, 3563) には最も実用的興味がある。他の活性化された酸部分としてはたとえば 2−ピリジルチオエステル (Lloyd, K.; Young, G.T.: J. Chem.Soc. (C), 1971, 2890)のようなチオエステル、シアノメチルエステル (Schwyzer, R.; Iselin, B.; Feurer; M.: Helv. Chim. Acta, 1955, 38, 69)、N−アシルイミダゾリド(Wieland, T.; Vogeler, K.: Angew. Chem., 1961, 73, 435)、アシルアジド (Curtius, T.: Ber. dtsch. chem. Ges., 1902, 35, 3226 Fujii, N.; Yajima, H.: J. Chem. Soc. Perkin Trans I, 1981, 789)またはベンゾトリアゾール由来の中間体 (Dormoy, J.R.; Castro, B.: Tetrahedron, 1981, 37, 3699)も考慮される。
【0062】
この活性化されたエステルは同様に例えば4−ジメチルアミノピリジン(Hoefle, G.; Steglich, W.; Vorbrueggen, H.: Angew. Chem., Int. Ed. Engl., 1978, 17, 569; Scriven, E.F.V.: Chem. Soc. Rev., 1983, 12, 129) のような選択されたアシル化触媒と組合せて使用することも可能である。
【0063】
しかし、本試薬の仔細な分子構造はスルホニル部分と活性化された酸部分とが存在し、水に対する安定性およびアミンとの化学的反応性が保持されている限り、本質的なものではない。従って、このような試薬は水に安定であって反応性があれば全て本発明の範囲内にある。続いてたとえば反応のために至適なpHを確認するために、またはたとえばヒドロキシル基での望ましくない副反応が少ない特定の活性化された酸を確認するために、常法の実験を行うことができる。
【0064】
ポリペプチドまたはそのペプチドはどのような方法で得てもよい。例えば、必要ならば目的とするポリペプチドを分析のために分離する。分離には例えば一次元および二次元の電気泳動などを含む数種の操作法を利用してもよい。あるいは、このポリペプチドはこの技術分野でよく知られているコンビナトリアル化学の方法によって合成してもよい。この例では、生成ポリペプチドのC末端にまたはその付近に塩基性または疎水性残基、好ましくは塩基性残基(最も好ましくはアルギニンまたはリジン)を有するポリペプチドを合成することが最も好ましい。
【0065】
消化はゲル内または膜上、好ましくはゲル内を含む様々な方法で行ってもよい(例えばShevchenko et al., "Mass Spectrometric Sequencing of Proteins from Silver-Stained Polyacrylamide Gels", Analytical Chemistry, Vol. 68, pp. 850-858 (1996)を参照)。そこで、有利な態様の一つでは本方法はゲル内消化を使用し、次に浄化なしに分析を行うことができる。しかしながら、ポリペプチドを消化、すなわち酵素的消化または化学的消化のいずれか、好ましくは酵素的消化、をすることが可能である。得られるペプチドのC−末端またはその付近に塩基性または疎水性残基、最も好ましくは塩基性を与える消化操作を利用するのが最も好ましい。
【0066】
ポリペプチドは、たとえばトリプシン、エンドプロテイナーゼLysC、エンドプロテイナーゼArgCまたはキモトリプシンなどを用いて酵素的に消化してもよい。トリプシン、エンドプロテイナーゼLysCまたはエンドプロテイナーゼArgCは、ポリペプチド自体のC末端を除いて、ポリペプチドから生成するペプチドでは典型的にはC末端がアルギニンまたはリジン残基(塩基性基)で終結するので好適である。特に生成するペプチドのC−末端またはその付近に塩基性残基ができれば、他の酵素も使用できる。例えば、典型的には疎水性アミノ酸残基で切断するキモトリプシンを使用してもよい。あるいは、たとえばシアノーゲンブロミドのような化学的消化(消化方法の一般的参考文献としては例えばU.S. Pat. No. 5821063を参照)も使用できる。
【0067】
そこで特定的態様では本方法を使用してポリペプチドまたはプロテインを確認するが、この場合、該ポリペプチドまたはプロテインを消化、好ましくは酵素的消化、を施してペプチドを得る第一段階を含む。好適な態様ではこの酵素はトリプシンである。
【0068】
特に有利な態様では、本方法は誘導化段階の前に特定の残基を保護する段階も含む。例えばポリペプチドまたはプロテインをトリプシンで消化する場合、たとえば望ましくないスルホン化反応を避けるためにLys残基の保護が必要になろう。グアニジン化によるこのような保護操作の一例は下記実験の部(実施例5参照)に詳記する。グアニジン化はたとえば地図作成実験のような後続する段階でのペプチド回収に悪影響なしにLys側鎖を選択的に保護できるので有利に使用される。さらにその上、未処置プロテイン中のリジン残基はグアニジン化してもトリプシン消化を受けるので、リジン含有ペプチドは定量分析のために使用できる。
【0069】
本方法は好ましくはプロテイン消化物からのポリペプチドについて使用する。ポリペプチドとしては好ましくは約50アミノ酸残基未満、より好ましくは約40アミノ酸残基未満、更に好ましくは約30アミノ酸残基未満、なおさら好ましくは約20アミノ酸残基未満、最も好ましくは約10アミノ酸残基未満を含むものを使用できる。
【0070】
本発明の第二の側面は3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステル化合物そのものである。この化合物は前記ペプチド誘導化のために用いる試薬として特に有用である。
【0071】
本発明の第三の側面は2−スルホ安息香酸N−ヒロドキシサクシンイミドエステル化合物そのものである。この化合物も前記ペプチド誘導化のために用いる試薬として有用である。
【0072】
本発明の第四の側面はポリペプチドを確認するためのキットであって、そのキットは活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を有する酸性試薬を適当な容器内に含む。このようなキットにはモデルペプチドを含めることもできる。このキットにはその使用法に関するたとえばパンフレットの形での説明書を添付することもできる。
【0073】
そこで、一態様では、本キットはペプチドまたはポリペプチドを確認する本発明の方法を行うために必要な装置および手段を含む。特定的態様の一つは1種またはそれ以上の本発明新規試薬およびマトリックス支援レーザー脱着イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析での使用に必要な手段を含むキットである。別の一態様は1種またはそれ以上の本発明新規試薬および電気スプレーイオン化質量分析(ESI−MS)での使用に必要な手段を含むキットである。
【0074】
本発明の第五の側面は、たとえば3−スルホプロピオン酸N−ヒロドキシサクシンイミドエステルまたは2−スルホ安息香酸N−ヒロドキシサクシンイミドエステルなどのN−ヒロドキシサクシンイミド(NHS)エステルのようなエステル部分に結合するスルホニル部分を含む酸性試薬の、質量分析技術における誘導化試薬としての使用である。より特定的には、本発明は本発明方法における前記試薬の使用に関する。
(図面の詳細な説明)
【0075】
図1A〜1Dは下記実施例1に記載するNMRスペクトルを示す。特定的には図1Aは3−スルホプロピオン酸のスペクトルを示す;図1Bは3−スルホプロピオン酸無水物の13C−NMRスペクトルを示す;図1Cは無水物炭素のスペクトルを示す;図1Dは3−スルホプロピオン酸無水物から得られるNHSエステルのスペクトルを示す。
【0076】
図2A〜2Bは本発明のNHSエステルの安定性を図示する。特定的には図2Aは3−スルホプロピオン酸NHSエステルのD2O中における安定性を示す。図2Bは2−スルホ安息香酸NHSエステルのD2O中における安定性を示す。この分析は JEOLの270MHz−NMR装置で行った。NHSエステルをNMRチューブに入れ、D2Oで700μLに希釈した。シングルパルス1H−NMRを行い、スペクトルを分析した。加水分解は3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドの2.92ppmシグナルの積分値または2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドの3.01ppmにあるシグナルの積分値とN−ヒドロキシサクシンイミドプロトンの2.76ppmにあるシグナルとの比率から測定した。
【0077】
図3A〜3Cは各誘導体について得られたMALDI−PSD質量スペクトルおよび実施例4に記載のようにしてスルホン化したペプチドの相対的反応性を示す。特に、図3Aは2−スルホ安息香酸アセトアミドを含むペプチド(上図)および3−スルホプロピオンアミドを含むペプチド(下図)についてのフラグメンテーションパターンの比較を示す。3−スルホプロピオンアミドは、誘導体の損失(出発ペプチドを再生するので情報が得られない)が少なく、さらに低質量フラグメントの収率が高いので、好適である。図3BはプロピオニルスルホネートNHSエステル(上図)と2−スルホ安息香酸NHSエステル(下図)の1nM−モデルペプチドに対する反応性の比較を示す。3−スルホプロピオン酸NHSエステルは出発ペプチドから産物への変換が良好である。図3Cは図3Bと同様であるが反応にはモデルペプチドとしてFibAを10 pmol使用した。
【0078】
図4はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAの未誘導化トリプシン消化物(250fmolを3−スルホプロピオン酸無水物NHSエステルと反応させてペプチドI〜IIIを定量的に誘導化した(図5参照))のリフレクトロンスペクトル、ポジティブモード(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【0079】
図5は4VP−BSA(Ettan MALDI-TOFTM)の誘導化トリプシン消化物についてリフレクトロンスペクトル(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。このペプチドは前記水性条件で3−スルホプロピオン酸NHSエステルで誘導化したものである。図中にI〜IIIと記号をつけた各ペプチドは定量的に誘導化され、PSD分析を行った。
【0080】
図6はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物から得たペプチド(I)(図5)の完全y−イオンシリーズについてフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。イオンゲートは誘導化親イオンの質量 m/z 1064に設定し、300ショットからのシグナルを蓄積した。
【0081】
図7は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(II)についてフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。ここではイオンゲートは m/z 1616 に設定し、300ショットのシグナルを蓄積した。ギャップにはXマークを付けた。
【0082】
図8は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(III)m/z 1704についてPSDスペクトル(300ショットのシグナルを蓄積)を示す。ギャップにはXマークを付けた。ペプチド、MH+ m/z 1715は誘導化ペプチドとともにイオンゲートを通過した。
【0083】
図9はEttan MALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た未誘導化プロテインのリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムージング5)の初回例を示す。全溶離トリプシン消化物の5%を用いてこのスペクトルを得た(丸でマークしたピークは図10に完全に誘導化されて現れる)。
【0084】
図10は、図9と同じ2−Dサンプル(残り95%)であるがN−末端をNHSエステルで誘導化した後に測定したリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムージング5)を示す。このサンプルはμC18 ZipTipsTM 上で浄化し、プロトコルに従って誘導化した。このペプチド m/z 1791(前図の値)は定量的に誘導化され、標識の質量が増加して m/z 1927として観察された。
【0085】
図11は誘導化ペプチド m/z 1927 についてPSDスペクトル(300ショット蓄積)を示す。このフラグメント(y−イオン)の質量を用いてPep-Fragで確認した。このプロテインはアクチンとして確認された。
【0086】
図12はEttanTM MALDI-TOF 由来クーマジー染色2−Dゲルから得たプロテインスポットの未誘導化トリプシン消化物のリフレクトロンスペクトル(100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムージング5)の第二例を示す。サンプルの5%をこの分析に使用した。マークしたペプチドを、誘導化した後にPSD分析を行った(次図参照)。
【0087】
図13は図11と同じ2−Dサンプルであるが既述のようなZipTipsTM 浄化および水溶液中NHS−エステルで誘導化した後のサンプルについてのリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムージング5)を示す。ペプチド m/z 1569.9(前図)は定量的に誘導化されており、標識質量(+136)が増加し、m/z 1705.9 が観察された。
【0088】
図14は誘導化ペプチド m/z 1705(図12参照)についてPSDスペクトル(300ショットのシグナルを蓄積)を示す。このフラグメント質量(y−イオン)を利用してPepFragでプロテインの確認を行った。このプロテインは大腸菌サクシニルCoAシンセターゼと同定された。
【実施例】
【0089】
本実施例は例示目的のみを意図するものであって、請求項が定義する本発明を限定するものと解すべきではない。下記のまたは本明細書を通じて引用する参考文献は全て参考のために引用するものである。
【0090】
実施例1 3−スルホプロピオン酸N−ヒロドキシサクシンイミドエステルの製造
【0091】
材料
合成用試薬:
【0092】
N−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)、社内品、Art-Nr 30070800。
ALDRICHの3−メルカプトプロピオン酸、99+%、CAS-107-96-0。
過酸化水素(30%水溶液)。
KEBOの氷酢酸、100%、CAS-64-19-7。
Merckの水酸化カリウム、ペレット。
Merckのn−ヘプタン、99%。
ALDRICHの塩化チオニル、99+%、CAS-7719-09-7。
Merckのn−ヘキサン、99%。
ALDRICHのジイソプロピルアミン、99%、CAS-7087-68-5。
ALDRICHのジクロロメタン、99.8%、無水、CAS-75-09-2。
Air Liquideのアルゴンガスチューブ。
KEBOの酢酸エチル、CAS-141-78-6。
KEBOのメタノール、CAS-67-56-1。
MerckのプラスチックTLC板シリカゲル60-F254TLC。
【0093】
分析用試薬:
【0094】
Cambridge Isotope Laboratoriesの重クロロホルム、99.8%、CAS-865-49-6。
Larodan Fine Chemicalsの重水(D2O)、CAS-7789-20-0。
【0095】
方法
NMR分析:
この分析はJEOLの270MHz−NMR装置で行った。
【0096】
NHSエステル10mgをNMRチューブに入れ、CDCl3700μLで希釈した。シングルパルス1H−NMRを測定し、スペクトルを分析した。この分析は3−スルホプロピオン酸無水物の場合も同様に行った。3−スルホプロピオン酸の場合は、溶媒としてCDCl3の代わりにD2Oを使用した。
【0097】
3−スルホプロピオン酸無水物には1H−NMR(前記)と同様にしてデカップリングした13C−NMRを測定した。
【0098】
融点測定:
【0099】
NHSエステル結晶の融点はBuCHI Melting Point B-540装置で測定した。結晶数個をバイアルに入れ、溶融するまで加熱した。温度範囲は160℃から185℃、温度勾配は1℃/分とした。
【0100】
水中安定性試験:
【0101】
NHSエステル10mgをNMRチューブに入れ、D2O700μLを加えた。シングルパルス1H−NMRを測定し、スペクトルを分析した。同じサンプルを室温(20〜25℃)で保存し、5時間後および24時間後に別な1H−NMRスペクトルを測定した。
【0102】
空気中安定性試験:
【0103】
NHSエステル10mgをNMRチューブに入れ、前記のように重クロロホルムを溶媒にして分析した。次にNHSエステル約100mgをフラスコに入れて、開栓して空気中室温(20〜25℃)で数日間保存した。エステルの加水分解はNMRで追跡した。
【0104】
合成
【0105】
3−スルホプロピオン酸の合成:
【化2】
【0106】
三頚丸底フラスコ(500mL)に温度計、滴下濾斗、および脱ガス管を取り付けた。安全瓶2個(相互に直列に結合、後者に25%KOH溶液を入れる)のガストラップをパイプに取り付けた。反応中、窒素バルーンで系内を不活性雰囲気に維持した。酢酸(70mL)および過酸化水素(70g、30%水溶液、620ミリモル)をフラスコに入れ、この溶液を攪拌しつつ水浴上で50℃に加熱した。3−メルカプトプロパン酸(8.20mL、94ミリモル)を滴下濾斗から約1時間にわたり非常に注意深く添加した。直ちに発熱反応が始まり、温度が約80℃に上昇した。そこで溶液を温度が再び50℃になるまでエタノール/CO2 浴(−72℃)で冷却した。この操作を滴下濾斗から3−メルカプトプロパン酸の添加が終わるまで反復した。次に反応物を50℃で2時間および室温で一夜攪拌した。
【0107】
容積が約30mLになるまでロータリーエバポレータ(水浴40℃、100mb)で溶媒を蒸発し、残留溶媒はヘプタン3×300mLとの共沸蒸発で除去した。得られた油状物を高真空下にデシケータで一夜乾燥した。粗製生成物は油状物中に白色沈殿となった。NMRスペクトルから推測すると収率は約50%であった。図1参照。
【0108】
3−スルホプロピオン酸無水物の合成:
【化3】
【0109】
三頚丸底フラスコに3−スルホプロピオン酸(前実験の粗生成物20g)を入れた。還流冷却器とセプタムをフラスコに取り付けた。磁気攪拌機で攪拌しつつSOCl2(140mL)をセプタム経由で30分間にわたって注意深く加えた。SOCl2添加終了後、混合物を3時間還流した。還流中に全内容が溶解して褐赤色溶液となった。約5分間冷却後、ヘキサン(140mL)を添加した。直ちに白色固体が沈殿し、フラスコの底部に褐色の油が生成した。この溶液を白色固体が溶解するまで再加熱し、溶液を他のフラスコにデカンテーションして油を除いた。溶液を1時間かけて室温にまで冷やし、次に週末にわたって冷蔵庫中に置いて結晶化させた。
【0110】
沈殿を窒素雰囲気下に濾過し、冷n−ヘキサン(冷蔵庫から)で洗浄し、デシケータ中で高真空下に一夜乾燥した。無水物は水に著しく敏感なので、濾過に使った装置全てを事前にオーブンで乾燥し、デシケータ中で冷却した。
【0111】
3−スルホプロピオン酸無水物からNHSエステルの合成:
【化4】
【0112】
使用する全装置を合成の前にオーブン(100℃)で乾燥し、デシケータに入れた。
【0113】
NHS(420mg、3.68ミリモル)を秤量してセプタムとアルゴンバルーンを取り付けた丸底フラスコ(100mL)に入れた。DCM(20mL、無水、99.5%)を加え、マグネティックスターラで攪拌を開始した。攪拌しながらDIEA(0.64mL、3.68ミリモル)と3−スルホプロピオン酸無水物(0.50g、3.68ミリモル)とを注意深く添加した。反応物をアルゴン雰囲気下に3時間攪拌した。溶媒を蒸発(RT、100mbar)し、生成物を真空オーブン中で一夜乾燥(RT、1mbar)した。得られた結晶を最少量の温EtOAc/MeOH=9:1に溶解した。全てが溶解した後に、溶液を約3時間かけて室温まで放冷し、次にフリーザー中で一夜冷却した。夜の間に白色結晶が形成され、これをガラスフィルター(p3)で濾取、冷酢酸エチル(5℃)で洗浄した。最後に結晶を高真空下にデシケータ中で乾燥してNHSエステルのDIEA塩を白色結晶(収率42%)をとして得た。
【0114】
結果および検討:
合成:
3−スルホプロピオン酸の合成:
この合成は全く簡単で、粗製の3−スルホプロピオン酸が白色のスラリーとして得られた。肝心な点は反応温度を50℃に維持することであって、これは氷浴と油浴を随時交換して行ったが、多分これが最も有効な方法だとは思われない。反応中に温度が20℃から80℃の間で変動した。もしも反応温度がもっとよく制御できていたらおそらく収率は高くなったであろう。次工程(無水物の合成)には必要なかったのでこれ以上の精製は行わなかったが収率の計算は難しくなった。NMRスペクトルによれば少なくとも1種の副産物およびおそらく出発物質(NMR分析参照)の何れか見出された。純度の推測値は大体50%であったと思われる。
【0115】
3−スルホプロピオン酸無水物の合成:
【0116】
予期の通り、この無水物は水に対して著しく敏感で、装置を全て使用前にオーブンで乾燥することおよび反応と精製をアルゴン雰囲気下に行うことが必要であった。反応および再結晶は非常に毒性の高い溶媒であるSOCl2中で行った。生成物、3−スルホプロピオン酸無水物は明褐色結晶として回収された。信頼できる収率計算のためには出発物質が純粋であることが必須である。
【0117】
3−スルホプロピオン酸無水物からNHSエステルの合成:
【0118】
今回も反応前に材料をオーブン中で乾燥し、反応はアルゴン雰囲気中で行った。反応は全く単純で、2時間攪拌後に溶媒を蒸発して粗製NHSエステル/DIEA塩を白色/黄色の固体として得た。精製後の収率は42%であった。反応時間がさらに長く、NHSおよび/またはDIEAの量が過剰であったなら、収率は向上したかもしれない。収率は、100%純3−スルホプロピオン酸無水物についても算出した。
【0119】
精製:
粗NHSエステル/DIEA塩を再結晶した。この操作は最初の試験ではEtOAc/MeOH=7:3で再結晶を試し、その後、EtOAc/MeOH=9:1で行った。前試験では冷却後結晶は生じなかった。
【0120】
無水物の合成(前記)では、一種の再結晶をSOCl2中で行った。しかしこれは実際には反応混合物の単なる再加熱と、フラスコの底に溜まった油を除去するためのデカンテーションであった。通常の再結晶でさらに純度の高い無水物が得られるであろう。
【0121】
キャラクタリゼーション:
融点測定:
【0122】
粗製NHSエステル/DIEA塩の融点は145〜155℃の間であった。しかし再結晶後の融点は176〜178℃になった。精製後に融点が高く、鋭くなったことは生成物が実際に純粋になったことを示す。
【0123】
NMR分析:
NMR分析で得たスペクトルを図1に示す。
【0124】
3−スルホプロピオン酸:
表1 3−スルホプロピオン酸の1H−NMRスペクトル(CDCl3)の解析
【表2】
【0125】
このスペクトルはδ2.78、δ2.85、δ3.18およびδ3.52にピークを与える副産物および出発物質を含んでいた。これは未精製のときに予期されたものである。
【0126】
3−スルホプロピオン酸無水物:
表2 3−スルホプロピオン酸無水物の1H−NMRスペクトル(CDCl3)の解析
【表3】
【0127】
表3 3−スルホプロピオン酸のデカップリングした13C−NMRスペクトルの解析(CDCl3)
【表4】
【0128】
両スペクトルを比較し、標品のスペクトルで確認した。
【0129】
3−プロピオン酸無水物からのNHSエステル:
表4 1H−NMRスペクトル(CDCl3)の解析
【表5】
【0130】
粗製生成物中の典型的な不純物は、NHSおよびDIEAである。NHSはδ 2.68(s)にピークを与え、DIEAは表中の前記ppmと殆ど同じppmにピークを与える。そのためDIEA不純物はNHS不純物よりも特定するのが困難であるが、ピークの積分値を観測すれば推測はできる。残留溶媒があれば、MeOHはδ3.49(s)に、EtOAcはδ2.05(s)、δ1.26(t)およびδ4.12(q)に、DCMはδ5.30(s)に、ピークを与える。
【0131】
実施例2 2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルの製造
2−スルホ安息香酸環状無水物のN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)エステルは反応式3に従い、下記のようにしてDIPEA塩として製造した。
【化5】
【0132】
装置全てを使用前にオーブンで乾燥し、アルゴンを満たしたデシケータ中に移した。反応はアルゴン雰囲気下に行った。NHSおよび2−スルホ安息香酸環状無水物は使用前に真空乾燥した。NHS(673.2、5.85ミリモル)を入れた丸底フラスコに塩化メチレン(1.9mL)およびDIEA(1.019mL、5.85ミリモル)を加えた。次に2−スルホ安息香酸環状無水物(1.077g、5.85ミリモル)の塩化メチレン(19mL)溶液を少量づつ(7×)反応液に加え、室温に2時間20分放置した。反応液を二分し、各々濃縮して粘度の高い明黄色残渣(画分1:1.11g。画分2:1.24g)を得た。
【0133】
画分1をMQ(11.098mL、100mg/mL)に溶解し、濾過し、3×1mLを逆相分取HPLC(カラム:Supelcosil LC-18、10cm×21.2mm、2μ;流速10mL/分。方法:0〜10分:定常0.1%TFA−B含有5%アセトニトリル水;2分:サンプル注入。10〜15分:5〜12%勾配B水)に付した。各画分を蒸発させ、凍結乾燥して白色固体/粘性の透明油状物(合計237.7mg)として未精製産物DIEA塩、それに加えてNHS、DIEAおよび副産物を得た。以前の実験ではもっと良い結果を得た。そこでは逆相分取HPLC(同じカラムと同じ系を用いるが、別の方法:0〜6分、定常0.1%TFA B含有5%アセトニトリル水。2分、サンプル注入。6〜18分、5〜25%勾配B水)に付して、生成物をDIEA塩を得た。これには約5%の残留NHSおよび芳香族構造部分での副産物が痕跡量混入していた。
【0134】
1H-NMR (D2O) δ:8.0-8.1 (dd, 1H), 7.9-8.0 (dd, 1H), 7.7-7.8 (m, 2H), 3.6-3.8 (m, 2H), 3.1-3.2 (m, 2H), 3.0 (s, 4H), 1.2-1.3 (m, 15 H), 2.7 (s, 0.2 H, NHS ピーク)。
【0135】
アセトン(2.5mL、0℃冷、氷水浴)を画分2に滴下し、室温20分間および4℃25分間後に白色沈殿を得た。この沈殿を濾取、アセトン(24mL、0℃冷、氷水浴)で注意深く洗浄して生成物をDIEA塩(612.7mg、46.3%)として得た。
【0136】
1H-NMR (D2O)δ:8.0-8.1 (dd, 1H), 7.9-8.0 (dd, 1H), 7.7-7.8 (m, 2H), 3.6-3.8 (m, 2H), 3.1-3.3 (m, 2H), 3.0 (s, 4H), 1.2-1.3 (m, 15 H)。
【0137】
実施例3 他種NHSエステルの合成
【化6】
【0138】
2−ブロモ−5−スルホ安息香酸をジオキサン1mLおよび水0.5mLに溶解する。ジイソプロピルエチルアミン2当量を加える。溶液をよく攪拌しつつ、これにO-(N-サクシンイミジル)-N,N、N',N'-テトラメチルウロニウムBF4(TSTU)の固体1.2当量を加える。この反応物を30分間攪拌し,次にロータリーエバポレータで濃縮し、続いて高真空下に乾燥する。2%水:アセトニトリルを移動相としてシリカゲルカラムを調製する。サンプルを2%水:アセトニトリルに負荷する。カラムは2%水:アセトニトリルから始め、極性を徐々に上げて5%水:アセトニトリルとし、最後に10%水:アセトニトリル80mLで行う。生成物含有画分を10%水:アセトニトリルTLCで確認する。陰イオンMSでも確証する。NMRによればこの物質は約1当量のDIEAを含む。
【0139】
実施例4 ペプチドのスルホン化
モデルペプチドおよびさまざまなプロテインのトリプシン消化物、を塩基約20μLに溶解した。この塩基は脱イオン水とジイソプロピルエチルアミン(DIEA)とを19:1v/vの比率で混合して調製した。ゲル内消化物からのペプチド混合物を最終容積約20μLに濃縮してDIEA1μLを加え、溶液を塩基性とした。これにスルホン酸の活性エステル試薬100mg/mLを5μL加え、溶液をふりまぜる。各反応物のpHを測定して塩基性を確認し、必要なら調整する。反応をRTで30分間進行させる。各サンプルを5μLの1N−HClで酸性とし、C18 mini-column(μC18 Zip TipsTM, Millipore, Bedford MA)を用いて直接精製する。スルホン化されたペプチドを0.1%TFA含有アセトニトリル:H2O=1:1v/v4〜20μLづつでカラムから溶離する。
【0140】
実施例5 グアニジン化によるLys側鎖の保護および後続するトリプシン消化ペプチドのスルホン化
モデルペプチドおよびさまざまなプロテインのトリプシン消化物を塩基約20μLに溶解した。この塩基は脱イオン水とジイソプロピルエチルアミン(DIEA)とを19:1v/vの比率で混合して調製したものである。ゲル内消化物からのペプチド混合物を最終容積約20μLに濃縮し、DIEA1μLを加えて溶液を塩基性とした。0.5M−硫酸水素O−メチルイソ尿素水2μLを加え、溶液をふりまぜた。各溶液のpHを測定してグアニジン化試薬の添加後にその塩基性を確認し、必要なら調整した。反応を室温(RT)で様々な長さの時間(数時間から2日間)進行させた。典型的には室温での反応は一夜進行させた。翌朝、100mg/mLスルホン酸活性エステル試薬を5μL加え、溶液をふりまぜる。各反応物のpHを測定してその塩基性を確認し、必要なら修正する。反応はRTで30分進行させる。サンプルを5μLの1N−HClで酸性として、直接C18 mini-columns(μC18 Zip TipsTM Millipore, Bedford MA)を用いて精製する。グアニジン化されたスルホン化ペプチドを0.1%TFA含有アセトニトリル:H2O=1:1v/v4〜20μLづつでカラムから溶離させた。
【0141】
実施例6 使用した装置の実験室的説明(図3)
誘導化ペプチドは、Applied Biosystems(Framingham、MA 、01701)のVoyager DE−STR飛行時間型質量分析器にN2レーザー(337nm、パルス幅3nsec、反復速度20Hz)を装着して測定した。質量スペクトルは全て遅延引き出し機構のリフレクトロンモードで得た。外部質量補正は低質量標準ペプチドで行い、質量測定の精度は典型的には±0.2Daであった。PSDフラグメントイオンのスペクトルは適当な誘導化された前駆体イオンを時間イオン選択によって分離した後に観測した。リフレクトロンに次のような比で段階的に電圧を印加してフラグメントイオンを最終検出器にリフォーカスした:1.0000(前駆体イオンセグメント)、0.9126、0.6049、0.4125、0.2738、0.1975および0.1273(フラグメントイオンセグメント)。個々のセグメントは Applied Biosystems が開発したソフトウエアを用いてステッチした。前駆イオンセグメントは全て検出器の飽和を避けるために低レーザーパワー(変動減衰=1800)<256レーザーパルスで観測した。PSD捕捉の残りのセグメントではレーザーパワーを増強した(変動減衰=2100)。PSDのデータは20MHzのデジタル化レートで得た;それ故フラグメントイオンは全て単一同位元素質量としてではなく、化学的平均として測定した。質量の検証は標準ペプチドを外部基準として行った。全PSD実験で準安定イオンの分解を測定した。
【0142】
PSDタンデム質量スペクトルはNCBI非リダンダントプロテイン配列データベース(最新更新は本願出願時点では2001年2月3日)について、二つの方法で検索した。第一の方法は、未解析PSDスペクトルをUCSFが開発した検索ツール(P. R. Baker, K. R. Clauser, http://prospector.ucsf.edu参照)のProtein Prospector suite のMS-Tagプログラムで検索した。検索の入力には測定された前駆体イオン質量およびフラグメントイオン質量を含めた。グアニジン化ペプチドの観測されたフラグメントイオン質量はいずれのデータベースについても検索する前に添加したグアニジウム基の質量42Daを差引いた。使用した典型的な中庸の誤差許容範囲は単一同位元素前駆体イオンでは±0.6Da、化学的平均フラグメントイオンでは±±2.0Daであった。y-型フラグメントイオンのみに許容される可能性があった。a、b、(b+H2O)、(b−NH3)および内部分解物イオンなどのような他種のフラグメントイオンはスルホン化後のPSDスペクトルでは顕著ではないので、考慮しなかった。あるいはPSDデータを手動で解析した。誘導した配列タグはProtein ProspectorソフトウエアパッケージのMS−エドマンプログラムを用いて検索した。MS−エドマンでは入力に前駆体イオンまたはフラグメントイオンの質量を必要としない。MS−エドマンは観測された配列タグのみを使用する。このプログラムでは(K、QおよびE)または(I、L、NおよびD)のように類似の質量を持つ不鮮明な残基の組合せをすべて考慮する。
【0143】
実施例7 データベースの説明
ポリペプチドおよびそのペプチドの配列は、未解析y−イオンシリーズの質量またはy−イオン質量から誘導した配列タグのいずれか、質量スペクトルフラグメンテーションデータを配列データベース検索の入力として取り入れるソフトウエアを用いて効率的にかつ正確に決定できることもある。熟練した専門家が通常に利用する検索ソフトウエアはこれに限定するものではないが、"Protein Prospector"(米国サンフランシスコのカリホルニア大学またはhttp://prospector.ucsf.eduから購入できる)および"Peptide Search"(ドイツ国ハイデルベルグのEuropean Molecular Biology Laboratoryまたはhttp://www.mann.embl-heidelberg.deから購入できる)。
【0144】
本発明で作成されたフラグメンテーションパターンは多数の配列データベースで検索できるが、このようなデータベースにはこれに限定するものではないが、次を含む:NCBI non-redundant database (ncbi.nlm.nih.gov/blast/db.nr.z); SWISPROT (ncbi.nlm.gov/repository/SWISS-PROT/sprot33.dat.z); EMBL (FTP://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/peptidesearch/); OWL (ncbi.nlm.nih.gov/repository/owl/FASTA.z); dbEST (ncbi.nlm.nih.gov/repository/dbEST/dbEST.weekly.fasta.mmddyy.z); およびGenebank (ncbi.nlm.nih.gov/genebank/genpept.fsa.z)。目的とするポリペプチドの完全配列はしばしば配列データベースから本発明方法を使用して生成する関連ペプチド誘導体1種またはそれ以上から得られるフラグメンテーションデータを検索することによって検索できる。
【0145】
勿論、データベース検索技術を用いる時は、y−イオンまたは(y−NH3)イオンのみが許容されるフラグメントであると特定して検索を限定することが最も効率的である。その理由はy−および(y−NH3)イオンは本方法を利用するフラグメンテーションパターンに観察される最も顕著な分子種だからである。a−、b−、(b+H2O)、(b−H2O)、(b−NH3)および内部分解物イオンのような他種のフラグメントイオン型は本発明方法を使用して誘導化したペプチドのスペクトルでは顕著ではないので許容しなくてもよい。本発明で生成する誘導体は単純なフラグメンテーションパターンを提供し、これが誘導化のない同じペプチドのスペクトルでの検索と比較してしばしば優れたデータベース検索特異性を与える。
【0146】
実施例8 NHSエステル誘導化ペプチドのdPSD
モデルプロテインNHSエステルで誘導化したトリプシン消化物のdPSD:
4−ビニルピリジンアシル化ウシ血清アルブミン(4VP−BSA)(Sigma)をNHSエステルを用いるdPSDのためのモデルプロテインとして使用した。
【0147】
ビニルピリジンを用いるアシル化:
凍結乾燥プロテイン(2.4mg)を8M−尿素、50mM−トリスHCl、pH8.0および50mM−DTTを含む緩衝液800μLに溶解し、30℃で30分間インキュベーションした。4−ビニルピリジン(ジスルフィド結合形成阻止用)10μLを加え、サンプルを30℃で1時間インキュベーションした。100mM−NH4HCO3、pH8.8と平衡させた NAP-10 column (Amersham Pharmacia Biotech) を用いて脱塩し、サンプルを1.2mLで溶離した。このサンプルをトリプシン(Promega、トリプシン1μg/100μgプロテイン)を用いて30℃で6時間消化し、TFAを最終濃度1%まで加えて反応を止めた。最終濃度100ng/μL(1.5pmole/μL)になるまで50%AcN:0.5%TFAで消化物を希釈した。
【0148】
3−スルホプロピオン酸無水物のNHSエステルを用いるN−末端誘導化:
4VP−BSA(3pmole)のトリプシン消化物をスピードバックで乾燥し、脱イオン水:ジイソプロピルエチルアミン=19:1v/v10μLに再構成した。NHSエステルを脱イオン水に溶解(NHSエステル10mg/H2O100μL)し、その5μLを各サンプルに加えた。反応混合物をふりまぜ室温に15分間放置して反応させた。サンプルに10%TFA1μLを加えて酸性とし、製造社の説明書に従ってμC18 Zip Tips(Millipore)を通して精製した。サンプルを直接MALDI標的上にα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸の50%AcN:0.1%TFA飽和溶液で溶離し、リフレクトロンポジティブモードおよびPSDポジティブモードでEttanTM MALDI−TOFで分析した。
【0149】
大腸菌由来プロテイントリプシン消化物の誘導体NHSエステルのdPSD:
【0150】
大腸菌低速上清物の製造:大腸菌(E. coli)(40μg、B株、ATCC11303)を8M−尿素、4%chaps、2%3〜10phannalyt、65mM−DTTを含む還元緩衝液20mLに入れ、細胞を超音波(7×20秒間、氷冷下)で破壊した。溶解物を10000×g、8℃で40分間遠心分離した。低速上清(LSS)は使用まで-20℃で保存した。
【0151】
二次元(2D)電気泳動による分離:大腸菌のLSS(1mg)をIPGレヒドレーション緩衝液(8M−尿素/2%CHAPS/2%IPG緩衝液4〜7/10mM−DTT)で希釈し、IPGストリップ(24cm、pH3−10、NL Amersham Pharmacia Biotech)に一夜レヒドレーションした。製造社説明書に従って二次元電気泳動を行った。二次元(2―D)電気泳動で分離後、ゲルを40%エタノール(EtOH)、10%酢酸(HAc)で1時間固定し、40%EtOH、10%HAc中、0.1%クーマジーブリリアントブルーで30分間染色し、20%EtOH、5%HAc中で一夜脱色した。
【0152】
トリプシン消化:中強度(低pmole)から低強度(高fmole)までのプロテインスポット(直径1.4mm)を取り、EttanTM spot picker(Amersham Pharmacia Biotech)を用いてミクロタイタープレートに移した。各プロテインを50%メタノール、50mM−炭酸水素アンモニウム(AMBIC)100μLで3×30分間脱色し、Tubo-Vap中で15分間乾燥した。これをトリプシン(40ng/μL、20mM−AMBIC、Promega)5μLで EttanTM TA Digester(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて37℃で60分間消化した。0.5%TFA含有50%アセトニトリル35μLで2×20分間ペプチドを抽出した。抽出物を室温で一夜乾燥した。
【0153】
N−末端の誘導化:各サンプルを脱イオン水20μL中に再構成した。各サンプル(20%)1μLをαシアノマトリックス溶液と1:1に混合し、EttanTM MALDI-TOF を用いてリフレクトロンポジティブモードで分析した。各サンプルの残り19μLにDIEA1μLとスルホプロピオン酸NHSエステル10mg/100μL溶液を5μL加えた。サンプルをピペットで完全に混合し、室温で15分間反応させた。TFA(1μL、10%)を各サンプルに加え、μC18 Zip-Tips (Millipore)で精製した。α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸の50%AcN:0.1%TFA飽和溶液でサンプルをMALDIターゲット上に直接溶離し、EttanTM MALDI-TOFを用いてリフレクターポジティブモードおよびPSDポジティブモードで分析した。
【0154】
NHSエステルを用いる自動化dPSD:
【0155】
最近の化学は自動化に適している。EttanTM digester とEttanTM spotter を用いればサンプルの取扱いおよび反応混合物は自動的に操作できる。実験的には、マイクロタイタープレートの各ウェルに入れたモデルペプチドまたはペプチド混合物を水(18MΩまたはそれ以上の品質)100μL中に再構成する。この時点で液体ハンドラーはサンプルを反応物2個に二分できる。一方は5μLをMSによる直接分析に、他方は化学的修飾に用いる。化学修飾用に割当てた物質を室温で1時間乾燥する。ハンドラー(たとえばGilson 215 Multiprobe)は次に乾燥した物質をDIEA(ジイソプロピルエチルアミン)含有緩衝液中、反応性誘導化試薬10μLを添加して再構成する。吸引を繰返して反応物を混合する。この化学修飾段階を室温で約15分間進行させる。最後に各サンプルを前記と同様に後処理し、MSで分析する。
【0156】
結果:
【0157】
4VP−BSAトリプシン処理ペプチドのN−末端定量的誘導化は水溶液中、3−スルホプロピオン酸無水物のNHSエステルで得られた。図4、図5は各々未誘導化および誘導化4VP−BSAのリフレクトロンスペクトルを示す。ペプチドI〜IIIをdPSD分析に使用した(図6〜図8)。フラグメンテーションスペクトルはy−イオンのみを示した。ペプチド3種から得た各フラグメンテーションデータは NCBInr protein sequence database(PepFrag、www.proteometric.com)に対する明確な確認のために使用できた。
【0158】
クーマジー染色2Dゲルから得たE-coliプロテインを含むゲルプラグ2個を、NHSエステルを用いてdPSDで同定した。このプロテインをトリプシンで消化し、ゲルプラグから抽出し、記載の通りに誘導化した。図9および図10は一方のゲルプラグから得た未誘導化サンプルおよび誘導化サンプルのリフレクトロンスペクトルを示す。丸印を付けたペプチドを定量的に誘導化し、PSD分析(図11)に付した。このフラグメントイオン(y−イオン)の質量を用いてPepFragでプロテイン確認を行った。PepFragが示唆した候補はProFound(proteometrics.com)のトリプシン地図を検索して得た候補と一致した。第二ゲルプラグから得た未誘導化サンプルおよびNHSエステル誘導化サンプルのリフレクトロンスペクトルを図12と図13に示す。ペプチド m/z 1569を定量的に誘導化し(m/z 1705)、PSD分析(図14)に用いた。得られたy−イオンを用いてPepFragでプロテイン確認を行い、ProFoundのペプチドマスで得た候補と同じ候補を示した。
【0159】
実施例9 3-スルホプロピオン酸N-ヒドロキシサクシンイミドエステルの別途合成
3−スルホプロピオン酸の製造:
1L三頚フラスコに攪拌機、温度計、窒素導入口、滴下漏斗および加熱マントルを取付け、効率的なドラフト内に設置した。酢酸165.4mLおよび30%H202、165.4mL、1.46モルを容器に入れた。この混合物を攪拌し50℃に加熱した。マントルを除去した後、50℃で3−メルカプトプロピオン酸50g、0.471モルの滴下を開始した。この反応は発熱反応であって、外部から冷却する必要がある。ドライアイス/アセトン浴で温度を50〜55℃に維持した。添加終了後(約5分所要)も反応物は約30分間発熱を続けた後冷え始めた。発熱が終わった時、マントルを付けて温度をさらに2時間50℃に維持した。ヨード澱粉試験紙を使う過ヨード酸試験は溶液に過酸化水素の存在が続いていたことを示した。2時間後、透明な無色の溶液を放冷し、フラッシュエバポレーション用フラスコに移した。ロータリーエバポレータの浴温を50℃に設定し、約5〜6mmHgの真空源に接続した。この工程は後の酢酸エチル抽出を妨害しないように酢酸をできるだけ除去するために必要であった。この温度および真空度でこれ以上の酢酸/水/H2O2が留出しなくなった時(約1〜1.5時間)、サンプルを取り出すと重量は約100−120gであった。これは生成物の理論重量より72g多く、これは使用した蒸発技術では除去し難い水を表す。この物質は−20℃でも凍結しないので、凍結乾燥では残留する水を除去できなかった。希薄に希釈すればおそらくこの物質はサンプルの凍結を持続するであろうが、余計な水を加えることは望ましくない操作である。濃厚溶液を水500mLで希釈し、酢酸エチル300mLづつで3回抽出した。酢酸エチル抽出物はH2O2陽性であったがその強度は抽出毎に減少した。水層を最後に約100gまで濃縮した。この生成物は粘度の高い油状物であって白色沈殿を含んでいた。D2O中の1H−NMRは内部基準として加えた痕跡のアセトニトリル(2.06ppm)の他にシングレットを3.23ppmと2.78ppmに示した。註:これらのピークは濃度に依存してシフトする。微量の不純物が3.58、2.9および2.23ppmに観測された。同じサンプルの13C−NMRは174.8、45.5および28.4ppmにピークを示した。
【0160】
β−スルホプロピオン酸無水物の製造:
上記反応で得られたサンプル全体 (〜100g)を効率的なドラフトを用い、塩化チオニル652.4g、5.48モルで処理した。残留水が激しい反応を起こす可能性があったので塩化チオニルは少量づつ加えた。激しい発煙はなかったが、塩酸と二酸化硫黄が発生したのでアダプターでコンデンサーの頭部に結合したtygon管を用いてドラフトの後に導いた。添加終了後、混合物を12時間加熱還流しつつ磁気的に攪拌した。冷却、攪拌を続けている間に、β−スルホプロピオン酸無水物が沈殿した。フラスコに栓をして2時間フリーザに入れて沈殿量を最大にした。固体の無水物をグローブバッグ中N2下に濾過し、フィルターケーキを石油エーテル50mLづつで2回洗浄した。この無水物は水に対して極めて敏感に反応して出発物質3−スルホプロピオン酸を生ずるのでグローブバッグ(ドライボックスでもよい)の使用は非常に重要である。無水物の固体をグローブバッグ内で密栓付フラスコに移し、真空デシケータに移し、栓を去り、P2O5上で1mm真空に暴露した。乾燥した無水物の重量は39g、収率は61%であった。1H−NMR分析はCDCl3中で各々3.8および3.45ppmにシングレットを示した。同じサンプルの13C−NMRは161.9、48および32ppmにピークを示した。融点:74.6℃。文献値:76〜77℃。
【0161】
再現性:
同じスケールと技法を用いて全過程(両反応)を反復した。殆ど同一が結果を得られた。粗製物質の重量は84gであった。註:塩化チオニル添加後の混合物を仔細に観察すると30〜45分間に過剰な塩化チオニルで反応物中の水が消費されるに従って、美しい白色の固体が沈殿することが判明した。これは無水の3−スルホプロピオン酸であると推測される。還流下に更に1時間攪拌するとこれが全て溶解し、以前に観察したように反応した。β−スルホプロピオン酸無水物の第二サンプルの最終重量は40.7gであった。収率:63.5%。1H−NMR(CDCl3 )分析は3.8ppm と3.45ppmとにシングレットを示した。同じサンプルの13C−NMRは161.9、48および32ppmにピークを示した。
【0162】
3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルのジイソプロピルエチルアミン塩:
500mL三頚フラスコにマグネティックスターラーバー、温度計、窒素導入口、および滴下漏斗を装備した。室温でフラスコにN−ヒドロキシサクシンイミド3.9g,0.0338モルを入れた。CH2Cl2100mLを加え、混合物を攪拌しながらジイソプロピルエチルアミン4.37g、5.9mL、0.0338モルを加えた。註:このN−ヒドロキシサクシンイミドは、ジイソプロピルエチルアミン4.6g、0.0338モルを加えると溶解した。β−スルホプロピオン酸無水物をCH2Cl280mLに溶解し、この溶液を攪拌しつつ滴下漏斗を用いて添加した。添加が進行するにつれて混合物は暗色になった。添加完了後、混合物を更に3時間室温で攪拌した後、単頚フラスコに移し、溶媒をロータリーエバポレータで取り除き明褐色固体残渣を得た。残渣をCH2Cl250mLに溶解し、活性炭2gとともに室温で1時間攪拌した。続いてガラス繊維濾紙およびセライト床で濾過した。セライトをCH2Cl225mLで一回洗浄した。ロータリーエバポレータでCH2Cl2を除去した。固体の残渣をメタノール20mLに50℃で溶解した。この溶液を酢酸エチル180mLに注入し、溶液を一夜フリーザ中に置いた。翌朝、黄褐色固体が沈殿し、これを濾取した。冷酢酸エチル(フリーザ温度)約50mLを用いて固体を濾紙上で洗浄した。このエステルは出発無水物よりも水に対してはるかに安定であると思われたがこの濾過はN2を詰めたグローブバッグを用いて行った。乾燥したサンプルの重量は7.3g、収率:86%であった。1H−NMR(CDCl3 )分析は9.175(1H−bs)、3.6ppm(2H−m)、3.1ppm(4H−s)、3.0ppm(2H−m)、2.8ppm(4H−s)、1.35ppm(15H−m)にピークを示した。同じサンプルの13C−NMRは173.3、168.8、167.4、53.9、45.7、42.2、27.4、25.3、18.3、17.1、11.9ppmにピークを示した。サンプルの融点は175〜176℃であった。文献値:176〜178℃。
註:再結晶段階には最少量のメタノール/酢酸エチル溶媒を使用するように注意すべきである。多すぎると生成物が殆どまたは全く沈殿しなくなり得る。
【0163】
本明細書に示す本発明の修正および変形の多くが本発明の精神および範囲から逸脱することなしに行えるであろうことは明白である。記載された特定的態様は単なる実例であって、本発明は添付する請求項の記載によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1A】図1Aは実施例1のNMRスペクトルを示す。
【図1B】図1Bは実施例1のNMRスペクトルを示す。
【図1C】図1Cは実施例1のNMRスペクトルを示す。
【図1D】図1Dは実施例1のNMRスペクトルを示す。
【図2A】図2AはD2O中における3−スルホプロピオン酸NHSエステルの安定性を示す。
【図2B】図2BはD2O中における2−スルホ安息香酸NHSエステルの安定性を示す。
【図3A】図3Aは実施例6に記載の通りにスルホン化したペプチドのMALDI・PSDスペクトルおよび反応性比較データを示す。
【図3B】図3Bは実施例6に記載の通りにスルホン化したペプチドのMALDI・PSDスペクトルおよび反応性比較データを示す。
【図3C】図3Cは実施例6に記載の通りにスルホン化したペプチドのMALDI・PSDスペクトルおよび反応性比較データを示す。
【図4】図4はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAトリプシン消化物の未誘導体化についてリフレクトロンスペクトル、ポジティブモード(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【図5】図5は4VP−BSA(Ettan MALDI-TOFTM)トリプシン消化物の誘導化についてリフレクトロンスペクトル(平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【図6】図6はEttanTM MALDI-TOFで得た4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(I)の一連の完全y−イオンを示すフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。
【図7】図7は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物(図5)から得たペプチド(II)についてフラグメンテーションスペクトル(PSD、ポジティブモード)を示す。
【図8】図8は4VP−BSAの誘導化トリプシン消化物から得たペプチド(III)(図5、m/z 1704)についてPSDスペクトル(蓄積した300ショットからのシグナル)を示す。
【図9】図9はEttanTMMALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た未誘導化プロテインについてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムーシング5)の最初の例を示す。
【図10】図10は図9と同じ2−Dサンプル(残り95%)、ただしN−末端をNHSエステルで誘導化後のもの、についてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【図11】図11は誘導化ペプチド、m/z 1927のPSDスペクトル(300ショット蓄積)を示す。
【図12】図12はEttanTMMALDI-TOFで得たクーマジー染色2−Dゲルから得た蛋白質スポットの未誘導化トリプシン消化物についてリフレクトロンスペクトル(100ショット蓄積、平均質量、濾過後、スムーシング5)の第二例を示す。
【図13】図13は図11に示す2−Dサンプルと同じ物(但し、記載のようにZip Tipでの浄化およびNHSエステルで水溶液中誘導化した後)についてリフレクトロンスペクトル(ポジティブモード、平均質量、濾過後、スムーシング5)を示す。
【図14】図14は誘導化ペプチドm/z 1705についてPSDスペクトル(蓄積した300ショットからのシグナル)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドを確認する方法であって、次の各段階を含む方法:
(a)ポリペプチドのN−末端を、またはポリペプチドのペプチド1種またはそれ以上のN−末端を、ペプチド誘導体1種またはそれ以上を提供するための活性エステル部分に結合するスルホニル部分を含み、かつ水溶液中での半減期は室温で10分以上である酸性試薬少なくとも1種を用いて水性溶液中で誘導体化して誘導体を1種またはそれ以上提供する段階;
(b)該誘導体少なくとも1種を質量分析の技術を用いて分析して、フラグメンテーションパターンを提供する段階;および
(c)得られるフラグメンテーションパターンを解析してポリペプチドを確認する段階。
【請求項2】
ポリペプチドと結合した時に酸性試薬がpKa約2またはそれ以下を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階(b)で使用する質量分析技術がマトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)質量分析である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
段階(b)で使用する質量分析技術が電気スプレーイオン化(ESI)法である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
段階(c)においてフラグメンテーションパターンをソフトウエアプログラムまたはデータベースを使用して解析する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
全段階を自動化操作または半自動化操作の一部として行う、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
活性化された酸部分がN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)エステルである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
試薬が3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
試薬が2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ポリペプチドが酵素消化で製造される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
酵素がトリプシンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
誘導体化段階の前にリジン残基を保護する段階をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
活性エステル部分に結合するスルホニル部分を含み、請求項1に記載の方法で使用するための、試薬
【請求項14】
試薬が3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルである、ペプチドの誘導体化での使用に適する試薬。
【請求項15】
試薬が2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルである、ペプチドの誘導体化での使用に適する試薬。
【請求項16】
質量分析技術でポリペプチドを確認するためのキットであって、そのキットは活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を有する酸性試薬であって、その酸性試薬は水性溶液中、室温での半減期が10分以上、好ましくは20分以上、最も好ましくは30分以上である酸性試薬少なくとも1種を容器内に含むキット。
【請求項17】
試薬がポリペプチドと結合した時にpKaが約2またはそれ以下である、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
質量分析技術がマトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)質量分析である、請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
質量分析技術が電気スプレーイオン化(ESI)である、請求項16〜18のいずれかに記載のキット。
【請求項20】
活性化された酸部分がN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)エステルである、請求項16〜19のいずれかに記載のキット。
【請求項21】
NHSエステルが3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルおよび2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルから構成される群から選択される、請求項20に記載のキット。
【請求項1】
ポリペプチドを確認する方法であって、次の各段階を含む方法:
(a)ポリペプチドのN−末端を、またはポリペプチドのペプチド1種またはそれ以上のN−末端を、ペプチド誘導体1種またはそれ以上を提供するための活性エステル部分に結合するスルホニル部分を含み、かつ水溶液中での半減期は室温で10分以上である酸性試薬少なくとも1種を用いて水性溶液中で誘導体化して誘導体を1種またはそれ以上提供する段階;
(b)該誘導体少なくとも1種を質量分析の技術を用いて分析して、フラグメンテーションパターンを提供する段階;および
(c)得られるフラグメンテーションパターンを解析してポリペプチドを確認する段階。
【請求項2】
ポリペプチドと結合した時に酸性試薬がpKa約2またはそれ以下を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階(b)で使用する質量分析技術がマトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)質量分析である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
段階(b)で使用する質量分析技術が電気スプレーイオン化(ESI)法である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
段階(c)においてフラグメンテーションパターンをソフトウエアプログラムまたはデータベースを使用して解析する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
全段階を自動化操作または半自動化操作の一部として行う、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
活性化された酸部分がN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)エステルである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
試薬が3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
試薬が2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルを含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ポリペプチドが酵素消化で製造される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
酵素がトリプシンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
誘導体化段階の前にリジン残基を保護する段階をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
活性エステル部分に結合するスルホニル部分を含み、請求項1に記載の方法で使用するための、試薬
【請求項14】
試薬が3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルである、ペプチドの誘導体化での使用に適する試薬。
【請求項15】
試薬が2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルである、ペプチドの誘導体化での使用に適する試薬。
【請求項16】
質量分析技術でポリペプチドを確認するためのキットであって、そのキットは活性化された酸部分に結合するスルホニル部分を有する酸性試薬であって、その酸性試薬は水性溶液中、室温での半減期が10分以上、好ましくは20分以上、最も好ましくは30分以上である酸性試薬少なくとも1種を容器内に含むキット。
【請求項17】
試薬がポリペプチドと結合した時にpKaが約2またはそれ以下である、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
質量分析技術がマトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)質量分析である、請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
質量分析技術が電気スプレーイオン化(ESI)である、請求項16〜18のいずれかに記載のキット。
【請求項20】
活性化された酸部分がN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)エステルである、請求項16〜19のいずれかに記載のキット。
【請求項21】
NHSエステルが3−スルホプロピオン酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルおよび2−スルホ安息香酸N−ヒドロキシサクシンイミドエステルから構成される群から選択される、請求項20に記載のキット。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2006−504930(P2006−504930A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−591834(P2002−591834)
【出願日】平成14年5月20日(2002.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2002/016244
【国際公開番号】WO2002/095412
【国際公開日】平成14年11月28日(2002.11.28)
【出願人】(597064713)アメルシャム・バイオサイエンシーズ・アクチボラグ (109)
【氏名又は名称原語表記】Amersham Biosciences Aktiebolag
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成14年5月20日(2002.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2002/016244
【国際公開番号】WO2002/095412
【国際公開日】平成14年11月28日(2002.11.28)
【出願人】(597064713)アメルシャム・バイオサイエンシーズ・アクチボラグ (109)
【氏名又は名称原語表記】Amersham Biosciences Aktiebolag
【Fターム(参考)】
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