説明

ペプチドの環化

【課題】ペプチドの環化のための改善された方法
【解決手段】シスチン形成による(H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)の環化が発明された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスルフィド結合がもたらすペプチドの環化のための改善された方法に関する。
【発明の開示】
【0002】
[発明を実施するための最良の形態]
バプレオチド(Vapreotide)は一つのシスチン部分を含む環状オクタペプチドである。それは、インスリン及びグルカゴンのようなホルモンの分泌を阻害するホルモンであり、脂肪及び糖代謝及び成長ホルモンの重要な制御因子であるソマトスタチンの合成類似体である。ソマトスタチンは、生理学的な半減期が3分間であるが、バプレオチドは、該類似体のC-末端のアミド化のために、循環中でより長く持続する。ジスルフィド結合は、バプレオチド及びソマトスタチンの両者の活性のための主要な特徴である。
【0003】
ソマトスタチンは次の構造を有する:
【化1】

【0004】
バプレオチドは次の構造を有する:
【化2】

【0005】
Volkmer-Engertらは、溶媒、即ち水中に溶解した酸素を用いた、水中での分子内ジスルフィド結合の木炭触媒酸化的形成を記載している(Surface-assisted catalysis of intramolecular disulfide bond formation in peptides , J. Peptide Res. 51, 1998, 365-369)。水性媒体中に物理的に溶解した酸素のプールは、木炭に酸化のための酸素を詰め込むのに必要且つ十分であったことが、慎重な制御から示された。木炭の使用は、触媒の非存在下での従来の空気スパージングと比較して、分子内シスチン形成の反応速度を劇的に且つ選択的に速めた。
【0006】
不均一性触媒としての木炭の使用は、そのような反応を樹脂上ではなく溶液中で行うことを必然的に要求する。それは、適用可能である場合には広く適用される方法になる;該方法は、全てのペプチドに適しているわけではない溶媒系での幾つかの制限を課す。
【0007】
US6476186は、微量の木炭の存在下、アセトニトリル/水(1:1)中の線状、脱保護されたオクタペプチドD-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr(OH)の分子内ジスルフィド結合を発明した。該ペプチドは、2-クロロトリチル樹脂上で合成され、疎水性残基及びシステインとは別に、リジン及びスレオニンを含む。システインは酸不安定性トリチル基で保護された。木炭が触媒する環化は、水酸化ナトリウムでpH8.0に慎重に調整された水性溶媒混合物中、50 mg/mLの濃度で5時間の切断及び脱保護の後に生じた。純粋な産物の収率は約80%であった。
【0008】
不都合として、対照的にほとんど水に溶解しないペプチドアミドである非環状バプレオチドに同じ方法論の適用を探索する場合、80%の分析的収率が達成されるが、しかしそれは約1 mg/mLの希釈で44時間の延長した反応時間の後でのみである。5-10 mg/mLだけの上昇した濃度は、抽出物のゆっくりとした沈殿をもたらし、従って産物の収率の低下をもたらす。約10 mg/mLの高い持続性濃度は、pHをpH6に変化させることによって達成され得るが、しかし、副産物の形成が確実であり、それ故、収率が30%に減少する。効率的な工業的規模の方法のために、材料の処理量がより高く反応時間がより短い方法が必要である。
【0009】
先行技術の不都合を回避し、完全なバプレオチドの線状ペプチド前駆体の環化のための他の又は改善された方法を発明することが本発明の目的である。この目的は、分子内シスチン形成(formation)による線状ペプチド (H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)の環化方法であって、木炭の存在下、塩基試薬として一級、二級又は三級アミン、及び、酸化試薬がさらに存在する中で、前記ペプチドを極性の非プロトン性溶媒中少なくとも20 mg/mLの濃度で環化する工程を含む方法によって解決される。
【0010】
上述の前記ペプチドは、当該分野の既知の任意の方法によって生産されることができ、それは生物工学的又は液相又は固相化学合成による。固相合成方法は、例えば「Bodansky, M. , Principles of Peptide Synthesis, 2nd ed. Springer Verlag Berlin/Heidelberg, 1993」に開示されている。当該分野で周知の酵素的又は化学的方法によって、例えば、周知のSieber 又はRinkアミド樹脂上でのC-末端結合における樹脂上での固相合成によって、恐らく達成され得るC-末端アミド化は、樹脂からの切断によってカルボキサミドを生じる。当該分野で日常的に知られているように、化学合成は通常、個々のアミノ酸のための保護基の使用が必要である。例えばトリチル、アセトアミドメチル-(acm-)、t-ブチル、トリメチルアセトアミドメチル、2,4,6-トリメトキシベンジル、メトキシトリチル、t-ブチルスルフェニルなどの極めて多様な保護基がシステイン残基の保護に用いることができる。そのような保護基の除去は、用いた保護基のタイプに依存して、特定の試薬又は反応条件を必要とする。
【0011】
最も一般に、トリチル基はペプチド合成の間の単純な保護のために用いられ、次いで、他の保護基及び樹脂結合と同時に、例えば30-60% TFA中で、簡単な酸分解により除去され得る。本発明のために、環化のために探し求められるシステイニルペプチドは、本発明の方法を適用するための遊離の非保護システインを有することのみが要求される。側面の問題として、Athertonら(1985, J. Chem. Perkin Trans. I. , 2065)が報告した、酸分解においてスカベンジャー及び酸分解プロモーターのいずれでもある二機能性であるポピュラーなスカベンジャー、チオアニソール(thioanisol)の使用が、acm、t-ブチル及びS-t-ブチルスルフェニル保護システインの部分的な脱保護をもたらす、という言及が役に立ち得る。これは、本発明が作用することを可能にするものでもある。より定量的には、S-tBu-スルフェニル基は、ベータ-メルカプト-エタノール又はジチオ-スレイトールのようなチオール試薬による処置によって、或いは、例えばトリスフェニル-又はトリセチル-ホスフィンによる処置によって、穏やかな反応条件下で、容易に及び選択的に除去され得る。
【0012】
反対に、当該分野では習慣的に、acm-保護基は、環化と同時にヨウ素酸化によって定量的に除去される;それ故、ヨウ素酸化によって生じたacm基の脱保護は、本発明とは適合しない。
【0013】
極性の非プロトン性溶媒は好ましくは、水及びアセトンの混和性溶媒である。本発明に従ったこのタイプの溶媒の適切な例は、例えば、ジメチル-ホルムアミド(DMF)、N-メチル-ピロリドン(NMP)、アセトアミド又はテトラヒドロフラン(THF)である。言うまでもないが、本発明の内容における適切な溶媒は必然的に少なくとも20 mg/mLのペプチド濃度の達成に応じるものである。結果的に、アセトニトリルは、実施例の部分の比較例で示されたように、本発明に従う適切な溶媒ではない。好ましくは、該溶媒は、アセトアミド、ジメチル-ホルムアミド及びN-メチル-ピロリドンから成る群から選択される。より好ましくは、該溶媒は、ジメチル-ホルムアミド及びN-メチル-ピロリドンから成る群から選択される。最も好ましくは、該溶媒は、ジメチル-ホルムアミドである。
【0014】
好ましくは、前記塩基は、7.5〜10の結合(conjugated)pKaの弱塩基であり、二級、より好ましくは、立体的に邪魔された三級アミンである。そのような例及びさらに好ましい例は、Hunig塩基(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)、N,N’-ジアルキルアニリン、2,4,6-トリアルキルピリジン又は直鎖又は分枝鎖のC1-C4アルキルであるアルキルを有するN-アルキル-モルフォリンであり、より好ましくは、それはN-メチルモルフォリン又はコリジン(2,4,6-トリメチルピリジン)であり、最も好ましくは、それはコリジンである。
【0015】
酸化試薬は好ましくは、空気及び/又は酸素である。従来技術の水性溶媒系から本発明の非水性溶媒系に切り替える場合、例えば、水中ガス多孔分散管(submerged gas sparer)から該溶媒中に定常で又は時間によって空気の流れを配向する(directing)ことによって、少なくとも期間の間、該溶媒液体に空気及び/又は酸素を積極的に供給又は換気することによって、酸素による触媒の飽和を確実にすることは極めて好ましい。
【0016】
任意に、局所的な撹拌を避けるための液相対ボルテックスの都合よいアスペクト比と共に溶液の撹拌から起こる強いボルテックス、及び、取り得る適切な形状、例えばプロペラ様又はビーズ様の、撹拌機装置又は撹拌手段が用いられ得る。
【0017】
木炭又は活性炭は、従来公報で用いられるものと同じタイプであってよい;好ましくは、それは少なくとも触媒量で用いられる。言うまでもないが、反応率は、存在する触媒の量と抽出物の濃度の両者によって影響され、後者は、溶液からのシステイニルペプチドを伴う不均一触媒に対する吸着率を増強し又はその固体表面をローディングする(loading)。しかしながら、本発明によれば、溶媒の選択は、効率的な触媒作用に強く寄与する。さらに、反応カイネティクスが、溶媒系のみに依存するのではなく、抽出物の量にも依存することが、そのような知見又は任意のそれぞれの理論に極めて厳密に結びつくことが望まれないが観察された:1〜100 mg/mLの範囲で抽出物の量が増大する一方、該反応カイネティクスは、全く驚くべき形状変化を示し、シグモイドよりもむしろより直線的になった。固体−液体の境界相での、幾つかのまだ報告されていない移行現象がそれを説明する。結果において、幾分か改善された収率に達する100% 転換率が、抽出物の濃度を上昇することによって、劇的に短い反応時間で達成された。これは、木炭が触媒する酸化を用いた場合、従来は説明されていなかった。それ故、上述のシステイニルペプチド前駆体(H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)は、本発明に従って該反応に少なくとも20 mg/mL、より好ましくは50 mg/mL、最も好ましくは100 mg/mLの量で添加される。上限は、もちろん最大溶解度によって与えられる。
【0018】
環化反応は、約0℃〜80℃、より好ましくは5℃〜60℃、最も好ましくは約15〜40℃の範囲の温度での還流条件下で、及び好ましくは酸化試薬としての空気/酸素の使用と組合せて、行われることができる。
【実施例】
【0019】
1.(H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)の合成
線状ペプチドは、Fmoc標準方法により、Sieber樹脂(Novabiochem)上で合成した。側鎖保護基:D-oder L-Trp(Boc)、Cys(Trt)、Lys(Boc)、Tyr(tBu)。保護されたペプチドは、ジクロロメタン中の5% TFA中で切断し、次いで、300 eq.の濃TFA、12 eq.のジチオスレイトール、12. eq.のジクロロメタン、50 eq.の水(acqua dest.)の切断混合物中で、室温で1時間の酸分解によって全体的に脱保護した(eq.=体積部(volume parts))。該産物は、メチル-tブチル-エーテルの添加によって沈殿し、該産物(H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)中のBoc基を完全に除去し、そして純度をHPLCで検証した。
【0020】
全ての環化反応を25℃で行った。式Iのバプレオチド産物
【化3】

【0021】
は、常に、該反応混合物を逆相HPLCに直接添加することによって精製した。
【0022】
2.比較例:(H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)の環化
例1の産物を、1mg/mLの線状システイニルペプチドの濃度を用い、pHをアンモニアで約pH8に調整し、及びさらなる空気を、撹拌下で液中に低圧でスパージ(sparged)した他は、基本的にUS6476186に記載された木炭方法に供し、アセトニトリル:水(1:1)を使用した。44時間後、該反応混合物からの産物の即時型のHPLC精製後の84%(w/w)の分析的収率の、100%の転換を達成した。10 mg/mLまでの高濃度は、不安定であると以前に発見されており、抽出物は短時間の後に沈殿を始める。ペプチドの溶解度は、アセトニトリル:水の比率を3〜2:1に上昇させることによっては著しく改善されず、むしろ、1 mg/mLでの反応時間が、50〜100%上昇し、同時に純度が損失した(収率:74%(w/w))。
【0023】
3.比較例:(H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)の環化
pHを6に調整するために、また、システイニルペプチドを10 mg/mLに適宜溶解するために、アンモニア/NH4Clを用いたことを唯一の相違として、例2の反応を繰り返した。70時間後、80%の転換率が達成され、一方、該産物は低い純度のみを有した。産物Iの収率は31%であった。
【0024】
4.(H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)の環化
例1の産物を、微量の活性炭粉末を用い、1 eq.のジイソプリル-エチル-アミンの存在下、ジメチルホルムアミド中、50 mg/mL(1eq.)の線状システイニルペプチド濃度で、木炭方法に供し、さらなる空気を低圧で液体中に撹拌下でスパージした。
【0025】
15〜20時間後(!)、79%の産物Iの分析的収率の100%の転換が達成された。該実験は、3回独立して行い、常に同じ結果を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内シスチン形成(formation)による線状ペプチド (H)-D-Phe-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Val-Cys-Trp(NH2)の環化方法であって、木炭の存在下、塩基試薬として一級、二級又は三級アミン、及び、酸化試薬がさらに存在する中で、前記ペプチドを極性の非プロトン性溶媒中少なくとも20 mg/mLの濃度で環化する工程を含む方法。
【請求項2】
前記木炭が少なくとも触媒的な量で存在することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化試薬が空気及び/又は酸素である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記反応が、反応中に空気及び/又は酸素を供給されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記反応容器が、空気及び/又は酸素を液体中に直接配向する手段を有し、好ましくは、反応容器の底及び/又は壁に複数の開口部(orifices)を具備するか、或いは、該手段又は多孔分散管からの空気が前記溶媒中に直接通気する、少なくとも一つの水中ガス多孔分散管を具備する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記極性の非プロトン性溶媒が、水及びアセトンの両者の混和性である溶媒の群から選択される溶媒であり、好ましくは、ジメチルホルムアミド及びN-メチル-ピロリドンから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒がジメチルホルムアミドである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ペプチドの濃度が少なくとも50 mg/mLであり、好ましくは前記溶媒がジメチルホルムアミドであり、前記ペプチドの濃度が少なくとも100 mg/mLであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2008−517962(P2008−517962A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538318(P2007−538318)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011383
【国際公開番号】WO2006/048144
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(398075600)ロンザ ア−ゲ− (58)
【Fターム(参考)】