説明

ペプチドボロン酸化合物のリポソーム調合物

リポソーム内に捕獲されたペプチドボロン酸プロテアソーム阻害剤化合物を有するリポソームより構成されるリポソーム組成物が記載される。ボロン酸化合物は、リポソーム−捕獲されたポリオールとの相互作用後に、リポソーム内にボロン酸エステルの形態で捕獲される。一つの態様では、リポソームは親水性重合体連鎖の外部コーティングを有しそして患者において悪性腫瘍を処置するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載される課題は、ボロン酸化合物、そして特にボロン酸エステルの形態のペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソーム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソーム、すなわち脂質二層小胞は、水相をカプセル化する同心的に配列された脂質二層よりなる球状小胞である。リポソームは水相にまたは脂質二層内に含有される治療および診断剤のための分配ビヒクルとして作用する。リポソーム−捕獲形態での薬品の分配は、薬品によるが、例えば、減じられた薬品毒性、変更された薬物動力学、または改良された薬品溶解性を包含する種々の利点を与えうる。リポソームは、親水性重合体連鎖の表面コーティング、いわゆるStealth(R)、または長−循環リポソームを包含するように調合される場合には、一部は単核性食細胞系統による減少したリポソームの除去による、長い血液循環寿命のさらなる利点を与える。リポソームが注射部位からそれらの所望する標的領域または細胞に到達するためにはしばしば長い寿命時間が必要である。
【0003】
理想的には、そのようなリポソームは(i)高い充填効率で、(ii)捕獲される化合物の高い濃度において、そして(iii)安定な形態の、すなわち、貯蔵時にほとんど化合物の漏出がない、捕獲された治療または診断化合物を包含するように製造することができる。
【0004】
捕獲しようとする化合物をリポソーム内に受動的に充填する条件下でのリポソームの製造方法は既知である。典型的には、乾燥脂質膜を水相媒体で水和して、リポソーム生成中に化合物を受動的に捕獲する多層小胞を生成する。化合物は乾燥脂質膜内に含まれる親油性化合物であってもよくまたは水和媒体内に含有される水溶性化合物であってもよい。水溶性化合物に関すると、この方法はどちらかと言えば劣悪なカプセル化効率を与え、そこでは典型的には最終的リポソーム懸濁液内の合計化合物の5−20%だけがカプセル化された形態である。小胞がさらに処理される、すなわち、より小さくより均一な寸法のリポソームを製造するために押し出しにより処理される場合には、さらなる化合物が損失されうる。劣悪なカプセル化効率はリポソーム内に充填できる化合物の量を制限し、そして製造における化合物−回収費用を高くしうる。
【0005】
溶媒注入方法および逆−蒸発相方式を包含する化合物−充填リポソームの種々の他の受動的捕獲方法が提案されていた(非特許文献1)。これらの方法は比較的劣悪な充填効率および/または困難な溶媒取扱い問題をこうむる傾向がある。
【0006】
化合物を予め製造されたリポソームと共に、化合物が相対的に可溶性である高められた温度においてインキュベートし、化合物をこの温度においてリポソーム内で平衡させ、次にリポソームの温度を下げて化合物をリポソーム内で沈殿させることにより、化合物をリポソーム内に受動的に充填することも提案されていた。この方法は、受動的充填方法の特徴である比較的劣悪なカプセル化効率により制限される。また、化合物は高められた温度、例えば、体温、においてリポソームから急速に損失されうる。
【0007】
内側−対−外側pHまたは電気化学的リポソーム勾配に対抗する化合物充填は、イオン化可能な化合物をリポソーム内に充填するために有用であることが証明されていた。理論的には、適切な勾配、例えば2−4単位のpH勾配、を使用することにより、そして初期充填条件の適切な選択により、非常に高い充填効率が得られうる(非特許文献2)。この方法では、リポソームからのイオン勾配の低下後にリポソームからの化合物漏出が続く。
従って、イオン勾配が維持されている限りのみ化合物はリポソーム−カプセル化された形態で安定的に保たれうる。
【0008】
化合物充填のためにアンモニウム塩勾配を使用することにより、この勾配安定性問題が処理され、そして少なくとも部分的には解決された(非特許文献3)。リポソーム内の蛋白質源として作用する過剰のアンモニウム塩は貯蔵中に損失されるプロトンを補充するための電池として機能するため、プロトン勾配の寿命を増加させ、そしてその結果としてリポソームからの漏出割合を減ずる。この方法はイオン化可能なアミン化合物に制限される。
【0009】
イオン化可能な化合物に対する対イオンとして作用しそしてイオン化複合体およびそれとの沈殿を生成するためにイオン化可能な捕獲剤をリポソーム内に包含することによっても、勾配安定性問題が処理されていた(特許文献1)。少なくとも1個のカルボキシル基をリポソーム内部に含有する弱酸性化合物を充填および維持するための当該技術で記載されている別の方式は、塩析するかまたは化合物を沈殿させるリポソーム内にカチオンを含むことである(特許文献2)。
【0010】
特許文献3は、アミノ酸またはペプチドのC−末端が例えばアミドまたはメチルエステルの如き非−酸性基に改変されそして改変されたアミノ酸またはペプチドがトランスメンブレンイオン勾配に対抗してリポソーム内に充填される捕獲されたアミノ酸またはペプチドを有するリポソームを記載している。改変されたアミノ酸またはペプチドは弱塩基として作用しそして化合物はリポソーム内に低い内部リポソームpHおよび高い外部リポソームpH勾配により駆動される。化合物は内部リポソーム空間に達するとプロテネートし(protenates)そしてリポソーム内にプロテネートされた形態で維持される。
【0011】
治療用化合物をリポソーム内に充填するためのこれらの種々の方式にもかかわらず、ある種の化合物をリポソーム内に、特に臨床効果のための高い薬品対脂質比で、充填することは依然として難しい。1種のそのような化合物はこれまでにPS−341(Velcade(R)、ミレニウム・ファーマシューティカルズ・インコーポレーテッド(Millennium Pharmaceuticals,Inc)、ケンブリッジ、マサチュセッツ州)として知られているボルテゾミブ(bortezomib)である。ボルテゾミブはジペプチドボロン酸誘導体でありそして0.6nモル/LのKを有する高度に選択的で、有効で、可逆的なプロテアソーム阻害剤として合成された(非特許文献4)。国立癌機構(National Cancer Institute)のインビトロスクリーンを用いると、ボルテゾミブはある範囲の腫瘍系統に対して細胞毒性を示し(非特許文献4)、そして人間の前立腺(非特許文献5、非特許文献6)および肺癌異種移植モデル(非特許文献7)において抗腫瘍活性を有していた。
【0012】
例えばボルテゾミブの如きペプチドボロン酸類は、配列の酸性端部であるC−末端部にアミノボロン酸を含有する普通は短い2−4アミノ酸ペプチド類の誘導体である(非特許文献8)。ボロン酸基と活性部位であるセリンまたはヒスチジン部分との間で安定な四面体ボレート複合体を形成する能力のために、ペプチドボロン酸類は強力なセリン−プロテアーゼ阻害剤である。ペプチドボロン酸類の配列を変えそして非天然アミノ酸基および他の置換基を導入することによりこの活性はしばしば強化されそして特定のプロテアーゼに対して高度に特異的にされる。これが、強力な抗ウイルス性(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)および細胞毒性活性を有するペプチドボロン酸類の選択をもたらした。(非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23)。これらの誘導体は他の短いペプチド類と同じ問題、最も顕著には非常に速いクリアランスおよびインビボ標的部位に達するための無
能性、をこうむる。
【0013】
そのようなペプチドボロン酸化合物をリポソーム担体内に捕獲することが望ましいであろう。しかしながら、どのようにしてこれらの比較的非−極性ジペプチド類を効率的に充填するかに関する難点がある。それらの構造および容易にイオン化可能なアミノ基の不存在から判断して、化合物は以上で論じたpH勾配またはアンモニウム勾配方法によりリポソーム内に蓄積しないようである。受動的なカプセル化は選択できるものであるが、化合物の非−極性を仮定するなら、それらは脂質膜内を容易に通過しそしてその結果としてカプセル化された薬品が時間につれてそして希釈時に放出されるであろう。
【0014】
関連技術の以上の例およびそれに関連する制限は説明用でありそして排他的でない。関連技術の他の制限は明細書を読み且つ図面を検討すると明らかになるであろう。
【特許文献1】米国特許第6,110,491号明細書
【特許文献2】米国特許第5,939,096号明細書
【特許文献3】米国特許第5,380,531号明細書
【非特許文献1】Szoka,F. and Papahadjopoulos,D.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:4194−4198,(1978)
【非特許文献2】Nichols and Deamer,D.,Biochim.Biophys.Acta 455:269−171,(1976)
【非特許文献3】Haran,G.,et al.,Biochim.Biophys.Acta 1151:201−215,(1993)
【非特許文献4】Adams,et al.,Semin.Oncol.,28(6):613−619(2001)
【非特許文献5】Frankel et al.,Clin.Cancer Res.,6(9):3719−3728(2000)
【非特許文献6】DiPaola et al.,Hematol.Oncol.Clin.North Am.,15(3):509−524(2001)
【非特許文献7】Oyaizu et al.,Oncol.Rep.,8(4):825−829(2001)
【非特許文献8】Zembower et al.,Int.J.Pept.Protein Res.,47(5):405−413(1996)
【非特許文献9】Priestley,E.S.and Decicco,C.P.,Org.Lett.,2(20):3095−3097(2000)
【非特許文献10】Bukhtiyarova,M.et al.,Antivir.Chem.Chemother,.12(6):367−73(2001)
【非特許文献11】Archer,S.J.et al.,Chem.Biol.,9(1):79−92(2002)
【非特許文献12】Priestley,E.S.et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.,12(21):3199−202(2002)
【非特許文献13】Teicher,B.A.et al.,Clin.Cancer Res.,5(9):2638−2645(1999)
【非特許文献14】Frankel et al.,Clin.Cancer Res.,6(9):3719−3728(2000)
【非特許文献15】Lightcap,E.S.et al.,Clin.Chem.,46(5):673−683(2000)
【非特許文献16】Adams,J.,Semin.Oncol.,28(6):613−619(2001)
【非特許文献17】Cusack,J.C.,Jr.et al.,Cancer Res.,61(9):3535−3540(2001)
【非特許文献18】Shah,S.A. et al.,J.Cell Biochem.,82(1):110−122(2001)
【非特許文献19】Adams,J.,Curr.Opin.Chem.Biol.,6(4):493−500(2002)
【非特許文献20】Orlowski,R.Z.and Dees,E.C.,Breast Cancer Res.,5(1):1−7(2002)
【非特許文献21】Orlowski,R.Z.et al.,J.Clin.Oncol.,20(22):4420−4427(2002)
【非特許文献22】Schenkein,D.,Clin.Lymphoma,3(1):49−55(2002)
【非特許文献23】Ling,Y.H.,et al.,Clin.Cancer Res.,9(3):1145−1154(2003)
【発明の開示】
【0015】
要旨
従って、一面では、リポソーム内に安定的に捕獲されたペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソーム組成物が提供される。
【0016】
別の面では、リポソーム内にペプチドボロン酸エステルの形態で捕獲されたペプチドボロン酸化合物を有するリポソームの懸濁液が提供される。
【0017】
一面では、ここに記載された課題は、小胞−形成性脂質より形成されるリポソーム、並びにこのリポソーム内に捕獲されている、ペプチドボロン酸化合物およびポリオールから製造されるボロン酸エステル化合物を含んでなる組成物に関する。
【0018】
1つの態様では、ペプチドボロン酸化合物はジペプチドボロン酸化合物であり、ただしジペプチドボロン酸化合物はボルテゾミブ(bortezomib)ではない。
【0019】
別の態様では、ポリオールはシス1,2−ジオールまたは1,3−ジオール官能基を有する化合物である。例示のポリオールはポリビニルアルコールである。別の例示のポリオールはカテコールである。他の例示のポリオールは単糖、二糖、オリゴ糖、および多糖である。単糖は、例えば、マルトース、グルコース、リボース、フルクトース、またはソルビトールでありうる。ポリオールはまたグリセロールもしくはポリグリセロールまたはアミノポリオール、例えばアミノソルビトール、でありうる。特に、ビニルアルコールおよびビニルアミンの共重合体が意図される。
【0020】
別の態様では、リポソームはより高い内部/より低い外部イオン勾配をさらに含んでなる。イオン勾配は、例えば、水素イオン(pH)勾配でありうる。イオン勾配が水素イオン勾配である場合には、リポソームの内部pHは約7.5〜8.5の間でありそしてリポソーム外部環境のpHは約6〜7の間でありうる。
【0021】
別の態様では、リポソームは約1〜20モル%の間の親水性重合体で誘導化された疎水性部分をさらに含む。
【0022】
リポソームが親水性重合体に共有結合された疎水性部分を含む態様では、好ましい重合体はポリエチレングリコールである。好ましい疎水性部分は脂質であり、そして好ましくは小胞−形成性脂質である。
【0023】
さらに別の面では、人間患者の処置のためのペプチドボロン酸化合物の分配方法が提供される。この方法は、水溶液状のリポソームであるペプチドボロン酸化合物およびポリオ
ールから製造されるペプチジルボロン酸エステル化合物を捕獲された形態で有するリポソームの懸濁液を製造し、そしてリポソームの懸濁液を患者に投与することよりなる。
【0024】
1つの態様では、リポソームは注射により投与される。
【0025】
さらに別の面では、放射線療法を受けている腫瘍がある患者において腫瘍組織を選択的に破壊する方法が開示される。この方法は、腫瘍がある患者に、改変されたポリオールに共有結合されてペプチジルボロン酸エステル化合物およびホウ素の同位体を生成する捕獲されたペプチドボロン酸化合物を有するリポソームを投与し、そして患者を中性子−放射線療法にかけることを含んでなる。
【0026】
1つの態様では、ホウ素の同位体はペプチドボロン酸、例えば10Bである。
【0027】
上記の例示された面および態様の他に、図面の参照および以下の記述の検討により、別の面および態様が明らかになるであろう。
【0028】
図面の簡単な記述
図1A〜1Pは例示のペプチドボロン酸化合物の構造を示す。
【0029】
図2は捕獲されたポリオールとの反応のためのより高い内部/より低い外部pH勾配に対抗するリポソーム内への例示のペプチドボロン酸の充填およびリポソーム内部のボロン酸エステル化合物の生成を説明する。
【0030】
詳細な記述
I.定義
「ポリオール」は1個より多いヒドロキシル(−OH)基を有する化合物を意図する。
【0031】
「ペプチドボロン酸化合物」は形態
【0032】
【化1】

【0033】
[式中、R、R、およびRは同一または互いに異なりうる独立して選択される部分であり、そしてnは1〜8、好ましくは1〜4である]
の化合物を意図し、但し条件として化合物は構造:
【0034】
【化2】

【0035】
を有するボルテゾミブ(Pyz−Phe−boroLeu、Pyz:2,5−ピラジンカルボン酸、PS−341、Velcade(R)としても知られる)でない。
【0036】
例示のペプチドボロン酸化合物は図1A〜1Pに示されている。
【0037】
「親水性重合体」はある量の水中溶解度を室温において有する重合体を意図する。例示の親水性重合体はポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアスパルトアミドおよび親水性ペプチド配列を包含する。重合体はホモ重合体としてまたはブロックもしくは不規則的共重合体として使用することができる。好ましい親水性重合体連鎖は、好ましくは500〜10,000ダルトンの間の、より好ましくは750〜10,000ダルトンの間の、さらにより好ましくは750〜5000ダルトンの間の分子量を有するPEG連鎖としての、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0038】
「より高い内部/より低い外部pH勾配」は、リポソームの内部(より高いpH)およびリポソームがその中に懸濁される外部媒体(より低いpH)の間のトランスメンブランpH勾配をさす。典型的には、内部リポソームpHは外部媒体pHより少なくとも1pH単位、そして好ましくは2〜4単位高い。
【0039】
「捕獲されたリポソーム」はリポソームの中央の水性区画内に、リポソーム脂質二層間の水性空間の中に、または二層自体の中に封鎖された化合物をさす。
【0040】
II.リポソーム調合物
一面では、本発明は捕獲されたペプチドボロン酸化合物を有するリポソーム組成物を提供する。この章では、リポソーム組成物および製造方法が記載される。
【0041】
A.リポソーム成分
上記のように、リポソーム調合物は捕獲されたペプチドボロン酸化合物を含有するリポソームより構成される。ペプチドボロン酸化合物は酸性のまたはC−末端であるペプチド配列の端部にα−アミノボロン酸を含有するペプチド類である。一般的に、ペプチドボロン酸化合物は形態:
【0042】
【化3】

【0043】
[式中、R、R、およびRは同一または互いに異なりうる独立して選択される部分であり、そしてnは1〜8、好ましくは1〜4であり、ただしRがS−ベンジルであり且つRがR−イソブチルである時にはRは2−ピラジニルでない]
のものである。ボロン酸を側鎖として有するアスパラギン酸またはグルタミン酸基を有する化合物も意図される。
【0044】
好ましくは、R、R、およびRは水素、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、アラルキル、アラルコキシ、シクロアルキル、もしくは複素環から独立して選択されるか、またはR、R、およびRのいずれかはペプチド骨格内の隣接窒素原子と共に複素環式環を形成しうる。アルコキシ、アラルキルおよびアラルコキシのアルキル部分を包含するアルキルは、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜6個の炭素原子のものでありそして線状もしくは分枝鎖状でありうる。アリールオキシ、アラルキルおよびアラルコキシのアリール部分を包含するアリールは好ましくは単核もしくは二核(すなわち、2個の縮合環)性であり、より好ましくは単核性、例えばベンジル、ベンジルオキシ、またはフェニルである。アリールはまたヘテロアリール、すなわち1個もしくはそれ以上の窒素、酸素、または硫黄原子を環内に有する芳香族環、例えばフリル、ピロール、ピリジン、ピラジン、またはインドールも包含する。シクロアルキルは好ましくは3〜6個の炭素原子のものである。複素環は1個もしくはそれ以上の窒素、酸素、または硫黄原子を環内に有する非−芳香族環、好ましくは3〜6個の炭素原子を有する5−〜7−員環をさす。そのような複素環は、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、およびモルホリンを包含する。例えばシクロヘキシルメチルのように、シクロアルキルまたは複素環のいずれもアルキルと組み合わせることができる。
【0045】
上記の基(水素を除外する)のいずれも、ハロゲン、好ましくはフルオロまたはクロロ;ヒドロキシ;低級アルキル;低級アルコキシ、例えばメトキシまたはエトキシ;ケト;アルデヒド;カルボン酸、エステル、アミド、カーボネート、またはカルバメート;スルホン酸もしくはエステル;シアノ;第一級、第二級、または第三級アミノ;ニトロ;アミジノ;およびチオまたはアルキルチオから選択される1個もしくはそれ以上の置換基で置換されていてもよい。好ましくは、基は多くとも2個のそのような置換基を包含する。
【0046】
例示のペプチドボロン酸化合物は図1A〜1Pに示されている。図1A〜1Pに示されるR、R、およびRの具体例はn−ブチルおよびネオペンチル(アルキル);フェニルまたはピラジル(アリール);4−((t−ブトキシカルボニル)アミノ)ブチル、3−(ニトロアミジノ)プロピル、および(1−シクロペンチル−9−シアノ)ノニル(置換されたアルキル);ナフチルメチルおよびベンジル(アラルキル);ベンジルオキシ(アラルコキシ);並びにピロリジン(Rが隣接窒素原子と共に複素環式環を形成する)を包含する。
【0047】
一般的に、ペプチドボロン酸化合物はモノ−ペプチド、ジ−ペプチド、トリ−ペプチド、またはより高級なペプチド化合物でありうる。他の例示のペプチドボロン酸化合物は、引用することにより本発明の内容となる米国特許第6,083,903号明細書、第6,297,217号明細書、第6,617,317号明細書に記載されている。
【0048】
多くのペプチドボロン酸化合物は容易にイオン化可能なアミノ基を欠くか、または非常に極性であり、そしてそれ故、以上で論じられた従来の遠隔充填工程を用いてリポソーム内に充填することは難しい。それ故、図2に関連して以下で記載されるように、ペプチドボロン酸化合物がリポソーム内にペプチドボロン酸エステルの形態で捕獲されているリポソーム調合物を与えるためのペプチドボロン酸化合物に関する充填方法が設計されていた。
【0049】
図2は1本の濃い線12により表示された脂質二層膜を有するリポソーム10を示す。多層リポソーム内では脂質二層膜は間に挟まる水性空間を有する複数の脂質二層から構成される。リポソーム10は外部媒体14の中に懸濁され、そこで外部媒体のpHは約7.0もしくはそれ以下、1つの態様では7.0以下、そして他の態様では約5.5〜7.0の間、より好ましくは約6.0〜7.0の間、である。リポソーム10は脂質二層膜により規定される内部水性区画16を有する。ポリオール18は内部水性区画内に捕獲されており、その例は以下に示される。内部水性区画のpHは好ましくは約7.0より大きく、より好ましくは約7.1〜9.0の間であり、さらにより好ましくは約7.5〜約8.5の間である。
【0050】
図2において、図1Bの化合物である[(1R)−3−メチル−1−[[(2S)−1−オキソ−3−(2−ナフチル)−2−[ピラジニルカルボニル)アミノ]プロピル]アミノ]ブチル]ボロン酸により代表されるペプチドボロン酸化合物もリポソーム内に捕獲される。天然化合物上の1個もしくはそれ以上のヒドロキシル部分はポリオールと共有反応してエステル結合を形成するため、ペプチドボロン酸化合物はリポソーム内に捕獲される時にはボロン酸エステル化合物の形態であり、従って天然のペプチドボロン酸化合物の改変された形態であることは認識されるであろう。ペプチドボロン酸化合物に関するここでの言及は天然形態およびポリオールとの反応後の改変された形態の化合物を包含する。1個より多いヒドロキシル(−OH)基を有する化合物としてのポリオールに関するここでの言及はペプチドボロン酸化合物との反応前のポリオールを意図し、その理由は反応後にポリオールは残存ヒドロキシル基を有していないか、1個の残存ヒドロキシル基もしくは1個より多いヒドロキシル基を有するからである。改変されたポリオールは、ヒドロキシル基から除去された少なくとも1個の水素原子を有するポリオールを意図する。続けて図2に言及すると、例示のペプチドボロン酸化合物は、脂質二層膜を越える通過前に、外部水性媒体中に示されている。外部水性媒体の中では、微酸性媒体のために、化合物は変化しない。その未変化状態で、化合物は脂質二層を越えて自由に透過可能である。ボロン酸エステルの生成が平衡をずらして、追加の化合物を外部媒体から脂質二層を越えて透過させて、リポソーム内での化合物の蓄積をもたらす。別の態様では、外部懸濁液媒体中でのより低いpHおよびリポソーム内部上での幾分高いpHが、リポソーム内部のポリオールと組み合わされて、リポソームの水性内部区画中の薬品蓄積を誘発する。リポソーム内部では、化合物はポリオールと反応してボロン酸エステルを生成する。ボロン酸エステルは本質的にリポソーム二層を越えることができないため、薬品化合物はボロン酸エステルの形態でリポソーム内部に蓄積する。
【0051】
リポソーム内部のポリオールの濃度は、好ましくは、荷電された基、例えば、ヒドロキシル基の濃度がボロン酸化合物の濃度より高いようなものである。例えば、100mMの最終的薬品濃度を有する組成物では、重合体荷電基(polymer charged group)の内部化合物濃度は典型的には少なくともこれより大きい。
【0052】
ポリオールは高い内部/低い外部濃度で存在し、すなわち、リポソーム脂質二層膜を越えるポリオールの濃度勾配がある。ポリオールが有意な量で外部バルク相の中に存在する場合には、ポリオールは外部媒体内のペプチドボロン酸化合物と反応して、リポソーム内
部の化合物の蓄積を遅らす。それ故、以下に記載されているように、好ましくは、組成物がバルク相(外側の水相)の中にポリオールを実質的に含まないようにリポソームが製造される。
【0053】
上記のように、ここで使用されるポリオールは1個より多いヒドロキシル基を有する化合物を意図する。アルコール系ヒドロキシル基を含有する単量体状および重合体状化合物が意図される。ポリオールは脂肪族化合物、環化合物ジオール、ポリフェノールなどであることができ、そして例は以下に示される。
【0054】
単量体状ポリオール類の非限定例は糖類、グリセロール、グリコール類、炭水化物、アミノ−糖類(特にアミノ−ソルビトール)、糖−アルコール類、デオキシソルビトール、グルコン酸、酒石酸、没食子酸などを包含する。単糖類、例えばマルトース、グルコース、リボース、フルクトース、およびソルビトールがボロン酸エステルを生成することは全て既知であり、挙げられた順序でエステル生成に関する増加傾向がある(Myohanen,T.A.,Biochem.J.,197(3):683−688(1981))。1−アミノ−2−デオキシソルビトールはボロン酸エステル生成に関するさらに高い傾向を有する(Shiino,D.et al.,Biomaterials,15:121−128(1994))。挙げられた糖類の間の反応性の差を用いて捕獲強度の勾配を有するように薬品放出特徴を微調整することができる。
【0055】
重合体状ポリオール類の非限定例はビニルアルコールおよびビニルアミンの共重合体、ポリエーテル類、ポリグリコール類、ポリエステル類、ポリアルコール類などを包含する。重合体状ポリオール類の具体例はオリゴ糖類、多糖類、ポリグリセロール(Hebel,A.et al.,J.Org.Chem.,67(26):9452−9455(2002))、ポリ(ビニルアルコール)(Kitano,S.et al.,Makromol.Chem.Rapid Commun.,12:227−233(1991))を包含するが、それらに限定されない。ポリオール重合体が好ましい捕獲剤であり、その理由は1個もしくは数個の薬品分子の結合時にそれらはそれらの性質、例えばそれらの溶解度およびそれらが二層脂質膜を越える能力、を変える傾向がないからである。
【0056】
ポリフェノール類、特にオルトジオールを有するもの、例えばカテコール(カテキン類、フラベノール類)も適する。1つの態様では、緑茶ポリフェノール類が、単独でまたはいずれかの組み合わせで、ポリオールとしての使用が意図される。少なくとも6種のカテキン類が緑茶中で見出され、(−)−3−没食子酸エピガロカテキンが大量にある。赤ワインからのポリフェノール類も適する。
【0057】
好ましいポリオール化合物は複数のシス1,2−および/または1,3−ジオール基を有するものである。
【0058】
適するポリオールを同定するためには、選択されたポリオール、例えば、シス1,2−および/または1,3−ジオール官能基を有するもの、を適当な溶媒、典型的には水、の中に所望する濃度においてそして典型的には約6〜8の選択されたpHにおいて溶解する。選択されたボロン酸化合物を溶解したポリオールに、所望するリポソーム−捕獲濃度に相当する濃度において加える。適当なインキュベーション時間後に、混合物をボロン酸エステル生成に関して、例えば沈澱の視覚的検査によりまたは分析技術により、検査する。1つの態様では、リポソームの内部の弱酸塩の沈殿を除いたボロン酸エステルの沈殿の生成が意図される。適するポリオールを同定するこの方法は重合体状ポリオール類の同定用に特に適する。
【0059】
組成物内のリポソームは主として小胞−形成性脂質より構成される。そのような小胞−
形成性脂質は、内部との接触時のその疎水性部分、二層膜の疎水性領域、および膜の外部の極性表面に向かって配向されたその頭部基部分を有する燐脂質により例示されるように、水中で瞬間的に二層小胞中に形成しうるものである。脂質二層内への安定な導入を可能な脂質、例えばコレステロールおよびその種々の同族体もリポソーム内で使用することができる。小胞−形成性脂質は好ましくは2つの炭化水素連鎖、典型的にはアシル連鎖、および極性もしくは非極性のいずれかである頭部基を有する脂質である。燐脂質を包含する種々の合成小胞−形成性脂質および天然−産出小胞−形成性脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジリノシトール、およびスフィンゴミエリンがあり、ここでは2つの炭化水素連鎖は典型的には約14−22の間の炭素長を有し、そして種々の飽和度を有する。脂肪族連鎖が種々の飽和度を有する上記の脂質および燐脂質は市販されているか、または公表された方法に従い製造することができる。他の適する脂質は糖脂質、セレブロシド類およびステロール類、例えばコレステロール、を包含する。
【0060】
特定された流動度もしくは硬度を得るように、血清中のリポソームの安定性を調節するように、および/またはリポソーム内部の捕獲された剤の放出速度を調節するように、小胞−形成性脂質を選択することができる。比較的硬い脂質、例えば60℃までの比較的高い相転移温度を有する脂質、の導入によって、より硬い脂質二層または液体の結晶性二層を有するリポソームが得られる。硬い、すなわち、飽和した脂質は脂質二層内のより大きい膜硬度に寄与する。他の脂質成分、例えばコレステロールが脂質二層構造内の膜硬度に寄与することも知られている。他方で、相対的に流体の脂質、典型的には比較的低い液体対液体−結晶相転移温度、例えば室温もしくはそれより以下を有する脂質相を有するものの導入により脂質流動性が得られる。
【0061】
リポソームは場合により親水性重合体に共有結合された小胞−形成性脂質を包含しうる。例えば米国特許第5,013,556号明細書に記載されているように、リポソーム組成物中におけるそのような重合体−誘導化脂質の包含がリポソーム周辺に親水性重合体連鎖の表面コーティングを形成する。親水性重合体連鎖の表面コーティングはそのようなコーティングを欠くリポソームと比べた時にリポソームのインビボ血液循環を増加させるのに有効である。メトキシ(ポリエチレングリコール)(mPEG)およびホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、またはジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)より構成される重合体−誘導化脂質は種々のmPEG分子量(350、550、750、1000、2000、3000、5000ダルトン)でアバンティ・ポラー・リピズ・インコーポレーテッド(Avanti Polar Lipids,Inc.)(アラバスター、アラバマ州)から得られうる。mPEG−セラミドのリポポリマーもアバンティ・ポラー・リピズ・インコーポレーテッドから購入することができる。脂質−重合体共役体の製造も文献に記載されており、米国特許第5,631,018号明細書、第6,586,001号明細書、および第5,013,556号明細書、Zalipsky,S.et al.,Bioconjugate Chem.,:111(1997)、Zalipsky,S.et al.,Meth.Enzymol.,387:50(2004)を参照のこと。これらのリポポリマーは最少の分子量分散度を有する高純度の明確な均質物質として製造することができる(Zalipsky,S.et al.,Bioconjugate Chem.,:111(1997)、Wong,J.et al.,Science,275:820(1997))。リポポリマーは「中性」リポポリマー、例えば引用することにより本発明の内容となる米国特許第6,586,001号明細書に記載されたような重合体−ジアステアロイル共役体、でありうる。
【0062】
脂質−重合体共役体がリポソーム内に包含される場合には、典型的には脂質−重合体共
役体の1−20モル%が全脂質混合物に導入される(例えば、米国特許第5,013,556号明細書参照)。
【0063】
リポソームはさらに配位子を含んでここで「リポポリマー−配位子共役体」とも称する脂質−重合体−配位子共役体を生成するように改変されたリポポリマーも包含しうる。配位子は治療分子、例えばインビボ活性を有する薬品もしくは生物学的分子、診断分子、例えば対比剤もしくは生物学的分子、または結合相手、好ましくは細胞の表面上の結合相手に対する結合親和力を有する標的分子でありうる。好ましい配位子は細胞の表面に対する結合親和力を有しそしてインターナリゼーションによる細胞の細胞質内へのリポソームの導入を促進させる。そのようなリポポリマー−配位子を含むリポソーム内に存在する配位子はリポソーム表面から外側に配向され、そしてその結果としてその同族受容体との相互作用に利用可能である。
【0064】
配位子をリポポリマーに接触させる方法は既知であり、そこでは重合体をその後の選択された配位子との反応のために官能化することができる。(米国特許第6,180,134号明細書、Zalipsky,S.et al.,FEBS Lett.,353:71(1994)、Zalipsky,S.et al.,Bioconjugate Chem.,:296(1993)、Zalipsky,S.et al.,J.Control.Rel.,39:153(1996)、Zalipsky,S.et al.,Bioconjugate Chem.,(2):111(1997)、Zalipsky,S.et al.,Meth.Enzymol.,387:50(2004))。官能化重合体−脂質共役体、例えば端部−官能化PEG−脂質共役体も商業的に得られうる(アバンティ・ポラー・リピズ・インコーポレーテッド)。配位子および重合体の間の結合は安定な共有結合または例えばpHにおける変化もしくは還元剤の存在の如き刺激に応じて開裂する放出可能な結合でありうる。
【0065】
配位子は細胞受容体に対するまたは血液中を循環する病原体に対する結合親和力を有する。配位子は治療または診断分子、特に遊離形態で投与される場合には短い血液循環寿命を有する分子でもありうる。1つの態様では、配位子は生物学的配位子であり、そして好ましくは細胞受容体に対する結合親和力を有するものである。例示の生物学的配位子は、CD4、葉酸エステル、インスリン、LDL、ビタミン類、トランスフェリン、アシアログリコプロテイン、セレクチン類、例えばE、L、およびPセレクチン類、Flk−1,2、FGF、EGF、インテグリン類、特にαβαβ、αβαβ、αβインテグリン類、HER2などに関して受容体に対する結合親和力を有するものである。好ましい配位子は蛋白質およびペプチド類を包含し、抗体および抗体断片、例えばF(ab’)、F(ab)、Fab’、Fab、Fv(重いおよび軽い連鎖の可変性領域よりなる断片)、並びにscFv(軽いおよび重い可変性領域がペプチド結合基により連結されている組み換え一本鎖ポリペプチド分子)などを包含する。配位子は小分子ペプチド擬態でもありうる。細胞表面受容体またはその断片が配位子として機能しうることは理解されよう。他の例示の標的配位子はビタミン分子(例えば、ビオチン、葉酸エステル、シアノバラミン)、オリゴペプチド類、オリゴ糖類を包含するが、それらに限定されない。他の例示の配位子は引用することにより本発明の内容となる米国特許第6,214,388号明細書、第6,316,024号明細書、第6,056,973号明細書、第6,043,094号明細書に表示されている。
【0066】
B.リポソーム調合物の製造
リポソーム−捕獲ポリオール上のヒドロキシル官能基およびボロン酸化合物の間のボロン酸エステルの生成により、ペプチドボロン酸化合物がリポソーム内部に蓄積されそして捕獲される。簡単に述べると、ポリオールはリポソーム内部に配置され、ペプチドボロン酸化合物はリポソーム脂質二層膜を越えて拡散され、化合物が捕獲されたポリオールと反
応してボロン酸エステルを生成し、それにより化合物(改変された形態)をリポソーム内に捕獲する。
【0067】
1つの態様では、この方法はpHにより駆動され、そこではリポソームの外側のより低いpH(例えばpH6〜7)およびリポソームの内部上のそれより幾分高いpH(pH7.5〜8.5)がポリオールの存在と組み合わされて、化合物の蓄積および充填を誘発する。この態様では、ポリオールのより高い内部/より低い外部勾配を有するリポソームを調合することにより組成物が製造される。上記のようにして選択されるポリオールの水溶液は上記のようにして決められる所望する濃度で製造される。ポリオール溶液が下記の脂質水和に適する粘度を有することが好ましい。ポリオール水溶液のpHは好ましくは約7.0より高い。
【0068】
ポリオール水溶液は、小胞−形成性脂質、非−小胞−形成性脂質(例えばコレステロール、DOPEなど)、リポポリマー、例えばmPEG−DSPE、およびいずれかの他の所望する脂質二層成分の所望する混合物から製造される乾燥した脂質膜の水和のために使用される。乾燥した脂質膜は、選択された脂質を適当な溶媒、典型的には揮発性有機溶媒、の中に溶解し、そして溶媒を蒸発させて乾燥した膜を残すことにより製造される。脂質膜を約7.0より高いpHに調節されたポリオールを含有する溶液で水和して、リポソームを生成する。
【0069】
実施例1は、卵のホスファチジルコリン(PC)、コレステロール(CHOL)およびポリエチレングリコール誘導化ジアステアロールホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE)より構成されたリポソームの製造を記載する。脂質を、10:5:1 PC:CHOL:PEG−DSPEのモル比で、クロロホルムの中に溶解しそして溶媒を蒸発させて脂質膜を形成する。脂質膜をポリビニルアルコールの水溶液、pH7.5で水和して、内部に捕獲されたポリオールを有するリポソームを生成する。
【0070】
リポソーム生成後に、リポソームを寸法分類して、典型的には約0.01〜0.5ミクロンの間の、より好ましくは0.03〜0.40ミクロンの間の実質的に均質な寸法範囲を有するリポソームの集団を得ることができる。REV類およびMLV類の1つの有効な寸法分類方法は、リポソームの水性懸濁液を0.03〜0.2ミクロンの範囲内の、典型的には0.05、0.08、0.1、または0.2ミクロンの選択された均一な孔寸法を有する一連のポリカーボネート膜を通して押し出すことを包含する。膜の孔寸法は、特に調合物が同じ膜を通して2回以上押し出される場合には、その膜を通す押し出しにより製造されるリポソームの最大寸法にほぼ相当する。ホモジェニゼーション方法もリポソームを100nmもしくはそれ以下の寸法に寸法減少するために有用である(Martin,F.J.,in SPECIALIZED DRUG DELIVERY SYSTEMS-MANUFACTURING AND PRODUCTION TECHNOLOGY,P.Tyle,Ed.,Marcel Dekker,New York,pp.267−316(1990))。
【0071】
寸法分類後に、カプセル化されていないバルク相ポリオールを適当な技術、例えばダイアフイルトレーション(diafiltration)、透析、遠心、サイズ排除クロマトグラフィー、またはイオン交換、により除去して内部の高いポリオール濃度および好ましくはほとんどないし全くない外部ポリオールを有するリポソームの懸濁液を得る。リポソーム生成後にも、リポソームの外部相を、滴定、透析などにより、約7.0より低いpHに調節する。
【0072】
捕獲しようとするペプチドボロン酸化合物を次にリポソーム内への能動的充填のためにリポソーム分散液に加える。加えられるペプチドボロン酸化合物の量は、100%カプセ
ル化効率と仮定して、すなわち加えられる化合物の全てがリポソーム内にボロン酸エステルの形態で実際に充填される場合には、カプセル化される薬品の合計量から決めることができる。
【0073】
リポソーム内の沈殿の生成による証明として、化合物およびリポソーム分散液の混合物を、バルク媒体中の化合物の数倍である化合物濃度までのリポソームによる化合物の吸収を可能にする条件下で、インキュベートする。後者は、例えば、標準的な電子顕微鏡またはx−線回折技術により確認されうる。典型的には、インキュベーティングは高められた温度において、そして好ましくはリポソーム脂質の主な相転移温度Tにおいてまたはそれ以上で行われる。55℃のTを有する高い相転移脂質に関しては、インキュベーションは約55〜70℃の間、より好ましくは60〜70℃の間において行うことができる。インキュベーション時間は、インキュベーション温度によって、1時間以下ないし12時間以上の間において変動しうる。
【0074】
このインキュベーション段階の終りに、懸濁液をさらに処理して、例えば、捕獲されたポリオールを含有する最初のリポソーム分散液から遊離重合体を除去するための上記の方法のいずれかを用いて、遊離(未カプセル化)化合物を除去することができる。
【0075】
実施例2はボロン酸化合物およびポリオールをボロン酸エステルの形態で含んでなるリポソームの製造方法を記載しており、ここでポリオールはソルビトールである。この実施例では、卵のPCおよびコレステロールの薄い脂質膜が製造される。脂質膜をソルビトールの溶液で水和して内部水性区画内に捕獲されたソルビトールを有するリポソームを生成する。捕獲されていないソルビトールを適当な技術、例えば透析、遠心、サイズ排除クロマトグラフィー、またはイオン交換により除去して内部の高いポリオール濃度および好ましくはほとんどないし全くない外部ポリオールを有するリポソームの懸濁液を得る。次に、所望するペプチドボロン酸化合物を外部媒体に加える。化合物はそのイオン化されない状態でリポソーム脂質二層を越えて自由に透過可能である。リポソーム内部では、化合物が捕獲されたポリオールと反応してボロン酸エステルを生成して、脂質二層を越えるさらなる薬品の通過に対して平衡をずらす。この方法で、ペプチドボロン酸化合物がリポソーム内に蓄積しそしてその中に安定的に捕獲される。
【0076】
脂質−重合体−配位子標的共役体を含むリポソーム調合物は種々の方式により製造することができる。1つの方式は、端部−官能化された脂質−重合体誘導体、すなわち、遊離重合体端部が反応性であるかまたは「活性化されている」脂質−重合体共役体を包含する脂質小胞の製造を包括する(例えば、米国特許第6,326,353号明細書および第6,132,763号明細書)。そのような活性化された共役体はリポソーム組成物中に含まれそしてリポソーム生成後に活性化された重合体端部が標的配位子と反応する。別の方式では、リポソーム生成時に脂質−重合体−配位子共役体が脂質組成物中に含まれる(例えば、米国特許第6,224,903号明細書、第5,620,689号明細書参照)。さらに別の方式では、脂質−重合体−配位子共役体のミセル溶液をリポソームの懸濁液と共にインキュベートし、そして脂質−重合体−配位子共役体を予め製造されたリポソームに挿入する(例えば、米国特許第6,056,973号明細書、第6,316,024号明細書参照)。
【0077】
III.使用方法
ボロン酸エステルの形態で捕獲されたペプチドボロン酸化合物を有するリポソーム調合物を、1つの態様では、腫瘍のある患者の処置のために使用する。ペプチドボロン酸化合物がホウ素の同位体を含む態様では、リポソーム調合物をホウ素ニュートロン捕獲療法のために使用することができる。これらの例示の用途を次に記載する。
【0078】
A.腫瘍処置
ボロン酸化合物はプロテアソーム阻害剤と称する薬品種の中にある。プロテアソーム阻害剤はそれらが細胞プロテアソーム活性を阻害する能力のために細胞のアポプトシスを誘発する。より具体的には、真核細胞内では、ユビキチン−プロテアソーム経路は細胞内蛋白質の蛋白質分解のための主要な経路である。蛋白質は最初はポリユビキノン連鎖の接触による蛋白質分解に標的が向けられ、そして次にプロテアソームによって小ペプチド類に急速に分解しそしてユビキチンが放出されそして再循環される。この整合する蛋白質分解経路はユビキチン−共役系統および26Sプロテアソームの相乗活性に依存する。26Sプロテアソームは真核細胞の核および細胞質内に存在する大きな(1500−2000kDa)複数−サブユニット複合体である。20Sプロテアソームと称するこの複合体の触媒芯はα−およびβ−サブユニットを含有する4個の七量体状の環よりなる円筒状構造である。プロテアソームは、標的蛋白質内のペプチド結合のカルボニル基を攻撃する求核試薬を与えるβ−サブユニットのN−末端スレオニンであるスレオニンプロテアーゼである。少なくとも3種の顕著な蛋白質分解活性であるキモトリプシン、トリプシンおよびペプチジルグルタミルは、プロテアソームに関連する。ポリユビキチン化された基質を認識しそして結合する能力は19S(PA700)により与えられ、それは20Sプロテアソームの各端部に結合する。これらの補助的なサブユニットが基質を開きそしてそれらを20S触媒複合体に供給しながら、結合されたユビキチン分子を除去する。26Sプロテアソームの組立ておよび蛋白質基質の分解はATP−依存性である(Almond,Leukemia,16:433(2002))。
【0079】
ユビキチン−プロテアソーム系統は多くの細胞工程を蛋白質の整合されそして一時的な分解により調節する。多くの重要な細胞蛋白質の水準を調節することにより、プロテアソームは細胞成長およびアポプトシスの調節剤として作用し、そしてその活性の停止は細胞サイクルに強い影響を有する。例えば、不完全なアポプトシスはある種の癌、例えばB細胞慢性リンパ性白血病を包含する数種の疾病の病因に関与する。
【0080】
化合物種としてのプロテアソーム阻害剤は一般的に蛋白質分解をプロテアソームにより阻害することにより作用する。この種類はペプチドアルデヒド類、ペプチドビニルスルホン類を包含し、それらはプロテアソームの20S芯の中で活性部位と結合しそして直接阻害することにより作用する。しかしながら、ペプチドアルデヒド類およびペプチドビニルスルホン類は20S芯粒子に不可逆的な方法で結合するため、蛋白質分解活性はそれらの除去で回復されえない。対照的に、ペプチドボロン酸化合物はプロテアソームの安定な阻害を与えるが、プロテアソームからゆっくり解離する。ペプチドボロン酸化合物はそれらのペプチドアルデヒド同族体より有効であり、そしてさらに具体的には、ホウ素と硫黄との間の弱い相互作用はペプチドボロン酸エステルがチオールプロテアーゼ類を阻害しないことを意味する点において作用する(Richardson,P.G.et al.,Cancer Control.,10(5):361(2003))。
【0081】
プロテアソーム阻害剤への種々の腫瘍−由来細胞系統の露呈が、細胞サイクル調節蛋白質、p53、および核因子カッパB(NF−κB)を包含する多分数種の経路に対する影響の結果として、アポプトシスを引き起こす(Grimm,L.M.and Osborne,B.A.,Results Probl.Cell Differ.,23:209−228(1999);Orlowski,R.Z.,Cell Death Differ.,(4):303−313(1999))。プロテアソーム阻害剤が介在するアポプトシスを証明する初期の研究の多くは単芽球(Imajoh−Ohmi,S.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,217(3):1070−1077(1995))、T−細胞およびリンパ性白血病細胞(Shinohara,K.et al.,J.Biochem.J.,317(Pt2):385−388(1996))、リンパ腫細胞(Tanimoto,Y.et al.,J.Biochem.(Tokyo),121(3):542−549(1997))、および前骨髄球白血病細胞(Drexler,H.C.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,94(3):855−860(1997))を包含する造血源の細胞を使用した。インビボ抗腫瘍活性の最初の呈示はヒトリンパ腫移植モデルを使用した(Orlowski,R.Z.et al.,Cancer Res.,58(19):4342−4348(1998))。さらに、対照の形質転換されなかった細胞の貧弱性と比べてプロテアソーム阻害剤は患者−由来リンパ腫(Orlowski,R.et al,Cancer,Res,58(19);4342(1998))および白血病細胞(Masdehors,P.et al.,Br J Haematol 105(3):752−757(1999))の好ましいアポプトシスを誘発しそして多発性骨髄細胞の増殖を優先的に阻害した(Hideshima,T.et al.,Cancer Res.,61(7):3071−3076(2001))ことが報告された。それ故、プロテアソーム阻害剤は治療しにくい血液学的悪性腫瘍のある患者における治療剤として特に有用である。
【0082】
1つの態様では、ペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソーム調合物が癌の処置のために、そしてより特に癌患者における腫瘍の処置のために使用される。
【0083】
多発性骨髄腫は、米国で毎年約15,000人の人間において診断される不治の悪性腫瘍である(Richardon,P.G.et al.,Cancer Control.10(5):361(2003))。それは、典型的には骨髄内の複数部位におけるクローン血漿細胞の蓄積により特徴づけられる血液学的悪性腫瘍である。患者の多くは化学療法および放射線を用いる初期処置に応答するが、ほとんどが最後には耐性腫瘍細胞の増殖のために逆戻りする。1つの態様では、ボロン酸エステルの形態で捕獲されたペプチドボロン酸化合物を含んでなるリポソーム調合物が多発性骨髄腫に罹っている患者に投与される多発性骨髄腫の処置方法が提供される。
【0084】
リポソーム調合物は、癌細胞が化学療法の作用に耐性である腫瘍経路の一部の克服を助けることにより、乳癌処置においても有効である。例えば、アポプトシスの調整剤であるNF−κBおよびp44/42マイトジェン−活性化蛋白質キナーゼ経路による信号発生は抗−アポプトシス性でありうる。プロテアソーム阻害剤がこれらの経路を遮断するため、化合物はアポプトシスを活性化しうる。それ故、リポソーム内に捕獲されたペプチドボロン酸化合物をボロン酸エステルの形態で含んでなるリポソームを投与することにより、乳癌を有する患者を処置する方法が提供される。さらに、例えばタキサン類(taxanes)およびアンスラシスリン類(anthracyclines)の如き化学療法剤がこれらの経路の一方または両方を活性化することが示されるため、従来の化学療法剤と組み合わされたプロテアソーム阻害剤の使用は例えばパクリタキセル(paclitaxel)およびドキソルビシン(doxorubicin)の如き薬品の抗腫瘍活性を増強するように作用する。それ故、別の態様では、遊離形態またはリポソーム−捕獲形態の化学療法剤がリポソーム−捕獲されたペプチドボロン酸化合物(改変された形態でリポソーム内に捕獲された)と組み合わされて投与される処置方法が提供される。
【0085】
リポソーム調合物に関する服用量および投薬処方は、処置される癌、癌の段階、患者のサイズおよび健康、並びに看護する医学的管理者に容易に明らかな他の因子に依存するであろう。さらに、プロテオソーム阻害剤ボルテゾミブであるPyz−Phe−boroLeu(PS−341)を用いる臨床研究が適切な薬用量および投薬処方に関する十分な指針を与える。例えば、週に1回または2回静脈内に与えられる場合には、固体腫瘍を有する患者における最大許容服用量は1.3mg/mであった(Orlowski,R.Z.et al.,Breast Cancer Res.,:1−7(2003))。別の研究では、3週間サイクルの1、4、8、および11日目に静脈内大型丸剤として与えられるボルテゾミブは1.56mg/mの最大許容服用量を示唆した(Vorhees,P.M.et al.,Clinical Cancer Res.,:6316(2003))。
【0086】
リポソーム調合物は典型的には非経口的に投与され、静脈内投与が好ましい。調合物が分配を促進させるために必要なまたは望ましい製薬学的賦形剤を包含しうることは認識されよう。
【0087】
B.ホウ素ニュートロン捕獲療法
別の面では、ホウ素−ニュートロン捕獲療法のための腫瘍に対するホウ素−10同位体(10B−NCT)を投与する方法が提供される。癌処置のためのニュートロン−捕獲療法は下記の式:
10B+n→Li+He+2.4MeV
に従う、各々が比較的無毒である10B同位体と熱ニュートロンとの相互作用に基づく。この反応は、単一のまたは隣接する癌細胞を閉じ込める強いイオン化放射線を生ずる。それ故、成功を収める処置のためには、適量のホウ素−10同位体を腫瘍に分配することが望ましい。ここに記載されたリポソーム調合物はリポソーム内に10B同位体を有するペプチドボロン酸化合物を捕獲するための手段を提供する。10B同位体を有するペプチドボロン酸化合物はリポソーム内に改変された形態で、典型的には以上で論じられたペプチドボロン酸エステルとして、捕獲される。表面コーティングである親水性重合体連鎖を包含するリポソームが、そのようなリポソームの長い血液循環寿命のために、優先的に腫瘍内に蓄積する(米国特許第5,013,556号明細書、第5,213,804号明細書参照)。10B同位体を有するペプチドボロン酸化合物が充填されたリポソームは腫瘍を下記の2つの独立している機構により根絶させる:リポソームは腫瘍内で薬品受器として作用しそして腫瘍内で抗癌化合物を徐々に遊離させそしてリポソームは腫瘍内のかなり多い量のホウ素−10同位体を蓄積するように作用する。
【0088】
前記から、意図する主題の種々の面および特徴が明らかである。ボロン酸エステルを生成するためのペプチドボロン酸化合物と会合した水溶性の脂質二層の不透過性ポリオール化合物を含んでなるリポソームが記載される。リポソームは、例えば、ポリオールをリポソームの内部水性区画内にカプセル化し、いずれかのカプセル化されていないポリオールを外部媒体から除去し、脂質二層の透過性ボロン酸化合物を加え、それが脂質二層膜の中を通過してポリオール上のヒドロキシル部分との可逆的エステル結合を生成することにより製造される。この方法で、通常は脂質二層を越えて自由透過性であるボロン酸化合物がリポソーム内にボロン酸エステル化合物の形態で安定的に捕獲される。リポソーム内のペプチドボロン酸化合物の蓄積はイオン勾配の不存在下で起きるが、所望によりイオン勾配が存在しうる。
【実施例】
【0089】
IV.実施例
以下の実施例はここに記載された本発明をさらに説明するものでありそして本発明の範囲を限定することはどの点においても意図されない。
【0090】
実施例1
ペプチドボロン酸化合物が充填されたリポソーム
ポリビニルアルコール(分子量2,000;アルドリッヒ・コーポレーション(Aldrich Corporation)、ミルウォーキー、ウィスコンシン州)を水中に溶解しそして濃ポリビニルアルコール溶液を用いてpH7.4に調節する。卵のホスファチジルコリン、コレステロール、およびポリエチレングリコール−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE、PEG分子量2,000Da、アバンチ・
ポラー・リピズ(Avanti Polar Lipids)、バーミンガム、アラバマ州)の10:5:1のモル比の混合物をクロロホルム中に溶解し、溶媒を真空中で蒸発させ、脂質膜をポリビニルアルコール溶液中で振りながらインキュベートし、そして脂質分散液を圧力下で0.2μmの孔寸法を有する2つの積層されたNucleopore(R)(プレサントン、カリフォルニア州)膜を通して押し出す。外部緩衝液を5mMのヒドロキシエチルピペラジン−エタンスルホン酸ナトリウム(HEPES)を含有する0.14M NaClとpH6.5においてSepharose CL−4B(ファーマシア(Pharmacia)、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)上のゲルクロマトグラフィーを用いて交換し、同時に、捕獲されていないポリビニルアルコールを除去する。このようにして得られたリポソームに、図1Bのジペプチドボロン酸化合物である[(1R)−3−メチル−1−[[(2S)−1−オキソ−3−(2−ナフチル)−2−[ピラジニルカルボニル)アミノ]プロピル]アミノ]ブチル]ボロン酸を加える。混合物を一晩にわたり37℃において振りながらインキュベートし、Dowex(R) 50Wx4(シグマ・ケミカル・カンパニー(Sigma Chemical Co.)、セントルイス、ミズーリ州)で処理し、そしてNaCl−HEPES溶液と平衡化して捕獲されていないボルトゼミブ(bortozemib)を除去する。生じたリポソームを0.2μmフィルターを通す濾過により殺菌する。
【0091】
実施例2
ペプチドボロン酸化合物が充填されたリポソーム
ソルビトールを水中に溶解しそしてpHを7.4に調節する。卵のホスファチジルコリン、コレステロール、およびポリエチレングリコール−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE、PEG分子量2,000Da)の10:5:1のモル比の混合物をクロロホルム中に溶解しそして溶媒を真空下で蒸発させる。脂質膜をソルビトール溶液で水和しそして振りながらインキュベートしてリポソームを製造する。リポソームを圧力下で0.2μmの孔寸法を有する2つの積層されたNucleopore(R)(プレサントン、カリフォルニア州)膜を通して押し出す。外部緩衝液を処理して捕獲されていないソルビトールを除去する。ペプチドボロン酸化合物であるBz−Leu−Leu−boroLeu(ピナコールエステル)(図1Fの化合物)を次にこの外部懸濁液媒体に加えそして混合物を一晩にわたり37℃において振りながらインキュベートする。捕獲されていない化合物を次に除去する。
【0092】
実施例3
リポソーム−捕獲されたペプチドボロン酸化合物のインビトロ活性
多発性骨髄腫細胞をマイクロタイタープレート上で集密的に成長させる。細胞を実施例1に記載された通りにして製造されたリポソームと共にペプチドボロン酸化合物の種々の濃度においてインキュベートする。24時間のインキュベーション期間後に、細胞をアポプトシスに関して検査する。リポソーム調合物で処理した細胞は対照細胞より高いアポプトシスの発生があったことが見出られる。
【0093】
実施例4
リポソーム−捕獲されたペプチドボロン酸化合物のインビボ活性
実施例1に記載された通りにして製造されたリポソームを固体腫瘍のあるラットに静脈内大型丸剤服用量で投与する。腫瘍寸法は時間の関数として測定され、そしてリポソーム調合物で処理した動物に関して減少したことが見られる。
【0094】
多くの例示の特徴および態様を以上で論じてきたが、当業者はそれらのある種の変更、交替、付加および細分組み合わせを認識するであろう。従って、添付された特許請求の範囲およびその後に導入される特許請求の範囲は全てのそのような変更、交替、付加および細分組み合わせをそれらの真の精神および範囲内に包含すると解釈することが意図される

【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1A−1P】図1A−1Pは例示のペプチドボロン酸化合物の構造を示す。
【図2】図2は捕獲されたポリオールとの反応のためのより高い内部/より低い外部pH勾配に対抗するリポソーム内への例示のペプチドボロン酸の充填およびリポソーム内部のボロン酸エステル化合物の生成を説明する。
【図1A−1C】

【図1D−1M】

【図1N−1P】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小胞−形成性脂質より形成されるリポソーム、並びに
該リポソーム内に捕獲されている、ペプチドボロン酸化合物およびポリオールから製造されるボロン酸エステル化合物を含んでなり、ただしペプチドボロン酸化合物がボルテゾミブ(bortezomib)でない組成物。
【請求項2】
該ペプチドボロン酸化合物がジペプチジルボロン酸化合物である、請求項1の組成物。
【請求項3】
該ポリオールがシス1,2−ジオール官能基または1,3−ジオール官能基を有する化合物である請求項1の組成物。
【請求項4】
該ポリオールがポリビニルアルコールである請求項1の組成物。
【請求項5】
該ポリオールが単糖、二糖、オリゴ糖、または多糖である、請求項1の組成物。
【請求項6】
該ポリオールがマルトース、グルコース、リボース、フルクトース、およびソルビトールから選択される単糖である請求項5の組成物。
【請求項7】
該ポリオールがグリセロールまたはポリグリセロールである請求項1の組成物。
【請求項8】
該ポリオールがアミノポリオールである請求項1の組成物。
【請求項9】
該アミノポリオールがアミノソルビトールである請求項8の組成物。
【請求項10】
該アミノポリオールがビニルアルコールおよびビニルアミンの共重合体である請求項8の組成物。
【請求項11】
該リポソームがより高い内部/より低い外部イオン勾配をさらに含んでなる請求項1の組成物。
【請求項12】
該イオン勾配が水素イオン勾配である請求項11の組成物。
【請求項13】
該水素イオン勾配が約7.5〜8.5の間の内部pHおよび約6−7の間の外部pHを与える請求項12の組成物。
【請求項14】
該リポソームが約1〜20モル%の間の親水性重合体で誘導化された疎水性部分をさらに含んでなる請求項1の組成物。
【請求項15】
該親水性重合体で誘導化された疎水性部分がポリエチレングリコールで誘導化された疎水性部分である請求項14の組成物。
【請求項16】
該疎水性部分が脂質である請求項15の組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物を有するリポソームを含んでなる悪性腫瘍の処置において使用するための組成物。
【請求項18】
該悪性腫瘍が血液学的悪性腫瘍である請求項17の組成物。
【請求項19】
該組成物が注射により投与される請求項17の組成物。
【請求項20】
(i)請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物および(ii)ホウ素の同位体を有するリポソームを含んでなる、放射線療法を受けている腫瘍がある患者において腫瘍組織を選択的に破壊する際に使用するための組成物。
【請求項21】
該ホウ素の同位体がペプチドボロン酸化合物上にある請求項20の組成物。
【請求項22】
該ホウ素の同位体が10Bである請求項20の組成物。

【図2】
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【公表番号】特表2008−519041(P2008−519041A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540071(P2007−540071)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/039973
【国際公開番号】WO2006/052734
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】