説明

ペプチドポリマーの製造方法

【課題】アミン存在下において、ペプチドモノマーを含む第1溶液とペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液とを反応させてペプチドポリマーを製造する方法において、分子量分布が狭いペプチドポリマーを迅速に得る手段を提供する。
【解決手段】アミン存在下において、ペプチドモノマーを含む第1溶液とペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液とを反応させてペプチドポリマーを製造する方法であって、(1)第1溶液を第1微小流路に流通させる第1ステップと、(2)第2溶液を第2微小流路に流通させる第2ステップと、(3)第1微小流路から流出された第1溶液と第2微小流路から流出された第2溶液とを接触させながら第3微小流路に流通させてペプチドポリマーを生成する第3ステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン存在下において、ペプチドモノマーを含む第1溶液とペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液とを反応させてペプチドポリマーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドモノマーを含む重合単位が結合されてなるペプチドポリマーは、免疫応答における免疫源として診断や抗体作製に利用されたり、治療薬として利用されたり、培養基材や医療材料として利用されたりなど、様々な医療用途への利用が試みられている(特許文献1,2)。
【0003】
ペプチドポリマーの合成におけるアシル化反応は、例えば水溶性カルボジイミドなどの縮合剤が用いられる。このような縮合剤は、一般にペプチド合成用縮合剤と称されている。ペプチドポリマーの化学合成は、通常、数日乃至1週間程度の比較的長い時間が必要とされる(非特許文献3,4)。また、アシル化反応終了後に、反応液を透析して、目的とする分子量に達しない低分子量の生成物が取り除く工程が必要とされる。
【0004】
ところで、キャピラリーなどで実現される微小流路(マイクロチャネル)を利用して、化学的操作や電気的操作、機械的操作が行われている。例えば、物質の分析や、物質の合成、微生物の培養、電気泳動、電気浸透などにおいて微小流路が利用されており、少量の試料に基づいて所望の結果が得られるという利点がある。
【0005】
【特許文献1】特表2001−513120号公報
【特許文献2】特開平11−509861号公報
【非特許文献1】K.Kaibara, Y.Akinari, K.Okamoto, Y.Uehara, S.Yamamoto, H.Kodama, and M.Kondo. "Characteristic Interaction of Ca2+ Ions with Elastin Coacervate: Ion Transport Study Across Coacervate Layers of α-Elastin and Elastin Model Polypeputide (Val-Pro-Gly-Val-Gly)n", Biopolymers, Vol.39, 189-198 (1996)
【非特許文献2】C.Spezzacatena, T.Perri, V.Guantieri, L.B.Sandberg, T.F.Mitts, and A.M.Tamburro, "Classical Syntyesis of and Structural Studies on a Biologically Active Heptapeptide and a Nonapeptide of Bovine Elastin", Eur.J.Org.Chem. 2002. 95-103
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペプチドポリマーを迅速且つ高収率で合成することは、ペプチドポリマーを用いた医療材料や薬物などを商業的に製造する観点から重要である。しかし、従来の合成方法では多大な反応時間を必要とするために商業的な製造には不向きであった。また、目的とする分子量に到達しない低分子量の生成物が混在するので、収率が悪く、また、目的とする分子量付近の生成物を得るには透析などの工程が必要となる。さらには、例え透析を行ったとしても、目的とする分子量に対して比較的分布が広い生成物しか得ることができず、必ずしも所望の物性の生成物が得られないという問題があった。
【0007】
本発明は前述された事情に鑑みてなされたものであり、アミン存在下において、ペプチドモノマーを含む第1溶液とペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液とを反応させてペプチドポリマーを製造する方法において、分子量分布が狭いペプチドポリマーを迅速に得る手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アミン存在下において、ペプチドモノマーを含む第1溶液とペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液とを反応させてペプチドポリマーを製造する方法であって、
(1)第1溶液を第1微小流路に流通させる第1ステップと、
(2)第2溶液を第2微小流路に流通させる第2ステップと、
(3)第1微小流路から流出された第1溶液と第2微小流路から流出された第2溶液とを接触させながら第3微小流路に流通させてペプチドポリマーを生成する第3ステップと、を含む。
【0009】
本発明におけるペプチドポリマーは、重合単位であるペプチドモノマーが重合されて数多く連なったものである。ペプチドモノマーは、数個のアミノ酸がアミド結合又はペプチド結合により連なったものであり、その両端にN末端又はC末端を有する。ペプチドモノマーにおけるペプチド数は特に限定されないが、通常、数量体から数十量体が想定される。ペプチドモノマーとして、末端のカルボキシル基のみが遊離され、その他の側鎖官能基が保護されたものがあげられる。
【0010】
ペプチドモノマーの合成には、化学合成法や酵素合成法などの既に確立されたペプチド合成法が用いられてもよく、自動ペプチド合成装置が用いられてもよい。ペプチド合成は、通常、C末端側からN末端側へ向かって進められ、未反応のアミノ基はFMOC基やBOC基などに代表される保護基によって保護される。また、アミドの反応収率を高くするためにブタノールやWSCI(水溶性DCC)などの保護剤が用いられてもよい。
【0011】
ペプチド合成により得られたペプチドモノマーの確認は、例えば、液体クロマトグラフ質量分析装置(Applied Biosystems、商品名:Marinaer)により行われてもよい。また、ペプチドモノマーの構造確認は、例えば、質量分析装置(Applied Biosystems、商品名:Voyager)により行われてもよい。また、ペプチドモノマーのアミノ酸組成は、アミノ酸分析装置(株式会社日立製作所、商品名:L−8500)により行われてもよい。
【0012】
本発明に係るペプチドポリマーの製造方法は、アミン存在下において、ペプチドモノマーを含む第1溶液と、ペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液とが反応されることによって行われる。
【0013】
本発明におけるアミンとして、三級アミンが用いられる。三級アミンとして、例えば、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリメチルアミンなどがあげられるが、その他の三級アミンが用いられてもよい。
【0014】
本発明において、アミンは、第1溶液に含まれるペプチドモノマーが第2溶液に含まれるペプチド合成用縮合剤によって脱水縮合反応をする際に存在すればよい。仮に、第1溶液にアミンを含ませるとすれば、第1溶液におけるアミンの濃度は、ペプチドモノマーに対してモル比で1.2等量が好ましい。絶対濃度でいえば、第1溶液におけるアミンの濃度は、0.1〜4mol/Lであることが好ましく、より好ましくは0.2〜3mol/Lであり、特に好ましくは0.6〜1.2mol/Lである。
【0015】
第1溶液は、少なくともペプチドモノマーを含む。このペプチドモノマーは前述されたものである。第1溶液に用いられる溶媒は、不活性溶媒である。本発明における不活性溶媒とは、ペプチドモノマー、アミン、ペプチド合成用縮合剤、反応中間物及び生成物などと相互反応せず、生成物の収率や分子量分布に悪影響を及ぼさない溶媒又は溶媒混合物をいう。このような不活性溶媒として、例えば無水のジメチルスルホキシド(以下、「DMSA」とも称される。)があげられる。なお、第1溶液の溶媒としては、DMSOの他に、NMP(N−メチルピロヒドリン)やDMFなどが用いられてもよい。
【0016】
第1溶液におけるペプチドモノマーの濃度は、0.1〜2mol/Lであることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5mol/Lであり、特に好ましくは0.5〜1.0mol/Lである。ペプチドモノマーの濃度が上記範囲より高ければ、DMSOが溶解し難くなったり、第1溶液の粘性が高くなって微小流路に流通させ難くなったりするという不具合が生じ得る。一方、ペプチドモノマーの濃度が上記範囲より低ければ、反応種が少なくなって反応性が低下し得る。
【0017】
第2溶液は、少なくともペプチド合成用縮合剤を含む。このペプチド合成用縮合剤は、ペプチドモノマーや反応中間物におけるカルボキシル基を活性化するものであり、脱水縮合剤とも称される。このペプチド合成用縮合剤として、例えばジフェニルリン酸アジド、1-[Bis(dimethylamino)methylene]-1H-benzotriazoniumu-3-oxide hexafluorophosphate(HBTU)などがあげられる。
【0018】
第2溶液に用いられる溶媒は、不活性溶媒である。本発明における不活性溶媒とは、ペプチドモノマー、アミン、ペプチド合成用縮合剤、反応中間物及び生成物などと相互反応せず、生成物の収率や分子量分布に悪影響を及ぼさない溶媒又は溶媒混合物をいう。このような不活性溶媒として、例えば無水のジメチルスルホキシドがあげられる。
【0019】
本発明に係るペプチドポリマーの製造方法は、主に3つのステップからなるが、これら以外のステップが含まれることを除くものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、さらに他のステップが後述される各ステップの前後に実施されてもよい。
【0020】
本発明における第1ステップでは、前述された第1溶液が第1微小流路に流通される。第1微小流路として、例えば、所定の長さのキャピラリーを用いることができる。キャピラリーの中空形状は特に限定されず、その断面が円、楕円、多角形などであってもよい。キャピラリーの中空は、その断面、つまりキャピラリー内を溶液が流通する方向(流路方向)と直交する断面の形状において最大となる寸法(最大寸法)が、10μm〜2mmであることが好ましく、より好ましくは500μm〜1.5mmであり、特に好ましくは約1.0mmである。ここで、最大寸法とは、キャピラリーの断面形状が円であれば直径をさし、多角形であれば最大長さとなる対角線をさす。最大寸法が上記範囲より小さければ、第1溶液の流量が十分に確保できず、ペプチドポリマーの生成量が少なくなり、実用性に欠ける。また、第1溶液中の析出物などによって第1微小流路がつまって流通性が悪くなるなどの不具合が生じやすい。最大寸法が上記範囲より大きければ、ペプチドポリマーの反応を制御しにくくなる。キャピラリーの長さは、特に限定されない。なお、キャピラリーに代えて、ガラス板やシリコン板などに形成された微小溝を第1微小流路として用いることができる。
【0021】
第1流路における第1溶液の流量は、毎分1μL〜10mLであることが好ましく、さらに好ましくは毎分10μL〜1mLであり、特に好ましくは毎分0.1〜0.5mLである。第1溶液の流量が上記範囲より小さければ、ペプチドポリマーの生成量が少なくなり、実用性に欠ける。第1溶液の流量が上記範囲より大きければ、ペプチドポリマーの反応を制御しにくくなったり、、微小流路における内部圧が高くなって送液が困難になったりするという不具合が生じ得る。第1溶液の流量は、第1流路となるキャピラリーをシリンジポンプやギヤポンプに連結することにより制御することができる。
【0022】
本発明における第2ステップでは、前述された第2溶液が第2微小流路に流通される。第2微小流路として、例えば、第1微小流路で示されたような所定の長さのキャピラリーを用いることができる。このキャピラリーの詳細についての説明は、第1微小流路と同様であるので省略される。
【0023】
第2流路における第2溶液の流量は、毎1μL〜10mLであることが好ましく、さらに好ましくは毎分10μL〜1mLであり、特に好ましくは毎分0.1〜0.5mLである。第2溶液の流量が上記範囲より小さければ、ペプチドポリマーの生成量が少なくなり、実用性に欠ける。第2溶液の流量が上記範囲より大きければ、ペプチドポリマーの反応を制御しにくくなったり、、微小流路における内部圧が高くなって送液が困難になったりするという不具合が生じ得る。第2溶液の流量は、第2流路となるキャピラリーをシリンジポンプやギヤポンプに連結することにより制御することができる。
【0024】
第3ステップでは、第1微小流路から流出された第1溶液と第2微小流路から流出された第2溶液とが接触されながら第3微小流路に流通される。第1溶液及び第2溶液が第3微小流路に流通される過程において脱水縮合反応が行われて所望のペプチドポリマーが生成される。
【0025】
第3微小流路として、例えば、第1微小流路で示されたような所定の長さのキャピラリーを用いることができる。このキャピラリーの詳細についての説明は、第1微小流路と同様であるので省略される。第3微小流路としてのキャピラリーは、第1微小流路としてのキャピラリー及び第2微小流路としてのキャピラリーと連結される。
【0026】
第3流路における第1溶液及び第2溶液の流量は、毎分1μL〜10mLであることが好ましく、さらに好ましくは、毎分10μL〜1mLであり、特に好ましくは、毎分0.1〜0.5mLである。なお、第1溶液及び第2溶液は、第3流路においてペプチドポリマーを生成するので、第1流路における第1溶液及び第2溶液とペプチドポリマーとが明確に区別されなくてもよい。つまり、第3流路における第1溶液及び第2溶液の流量は、第3流路におけるペプチドポリマーの流量として把握されてもよい。第1溶液及び第2溶液の流量が上記範囲より小さければ、ペプチドポリマーの生成量が少なくなり、実用性に欠ける。第1溶液及び第2溶液の流量が上記範囲より大きければ、ペプチドポリマーの反応を制御しにくくなったり、、微小流路における内部圧が高くなって送液が困難になったりするという不具合が生じ得る。第1溶液及び第2溶液の流量は、第1流路及び第2流路において第1溶液の流量及び第2溶液の流量がそれぞれ制御されることによって制御される。
【0027】
第3微小流路において、第1溶液と第2溶液とは層流として流通すると想定される。したがって、第1溶液と第2溶液との界面においてペプチドモノマーの脱水縮合反応が生じる。脱水縮合反応は、例えば、温度20〜30℃の範囲で、1〜10分間で行われるが、第1溶液と第2溶液との界面の面積を増大させることにより、脱水縮合反応を一層促進させることができる。反応温度が上記範囲より低ければ、DMSOなどの融点以下となって溶液が固化し得る。一方、反応温度が上記範囲より高ければ、DPAAが分解しうる。
【0028】
第1溶液と第2溶液との界面は、第3微小流路を、第1溶液及び第2溶液が流れる方向が湾曲する湾曲流路とすることにより増大される。第1溶液及び第2溶液が流れる方向とは、第3微小流路がキャピラリーで構成されているとすれば、そのキャピラリー内を溶液が流通する方向、つまり流路方向である。第3微小流路を構成するキャピラリーを長さ方向に対して湾曲させると、その湾曲部分において流路方向も湾曲される。このような第3微小流路の湾曲は、例えば、第3微小流路の流路方向が反転を繰り返すように、複数のU字形状を連続して形成されたり、S字カーブやクランク形状のコーナーが連続されたりすることにより実現される。
【0029】
第3流路が湾曲されることにより、湾曲部分において第1溶液が流れる経路長と第2溶液が流れる経路長が異なる。例えば、湾曲部分の外側を第1溶液が層流をなして流れ、湾曲部分の内側を第2溶液が層流をなして流れるとすると、湾曲部分においては第2溶液の経路長に対して第1溶液の経路長が長くなる。第3微小流路の全経路において第1溶液の流速及び第2溶液の流速が一定に制御されているとすると、第3微小流路の湾曲部分において、第2溶液の流速より第1溶液の流速が速くなり、これに遠心力も作用して、第1溶液と第2溶液との界面に乱れが生じる。この界面の乱れにより、第1溶液と第2溶液とが新たに接触する界面が生じ、その界面において新たな脱水縮合反応が生じる。このように、第1溶液と第2溶液とが新たに接触する界面が、本発明において界面の面積の増加とも称される。
【0030】
また、第1溶液と第2溶液との界面は、第3微小流路において二以上の流路に分岐させる分岐位置、及び分岐された流路を合流させる合流位置が設けられることにより、第3流路における第1溶液と第2溶液との界面の面積が分岐位置の上流より合流位置の下流で広くされてもよい。
【0031】
詳細に説明するに、第3微小流路が分岐位置において二以上の流路に分岐される。仮に二つの流路に分岐されるとして、それらを第1分岐流路及び第2分岐流路と称する。第3微小流路における分岐位置より上流側では、第1溶液及び第2溶液は層流をなして流れている。分岐位置において、第1溶液と第2溶液との界面と交差する面によって第1溶液及び第2溶液の流れが分断される。例えば、第3微小流路を流路方向と直交する断面から視たときに第1溶液と第2溶液とが左右に分かれて層流をなしているとすれば、分岐位置において第1溶液及び第2溶液の流れが、その断面において上下に二分され、例えば、二分された上側が第1分岐流路に流れ込み、下側が第2分岐流路に流れ込む。
【0032】
第1分岐流路及び第2分岐流路においては、第1溶液及び第2溶液がそれぞれ層流をなして流れる。これにより、第1分岐流路及び第2分岐流路のそれぞれにおいて第1溶液と第2溶液との界面が生ずるが、各々の界面の面積が半分となっていれば分岐位置の上流側と下流側において界面の面積に変化がない。勿論、第1分岐流路及び第2分岐流路の断面形状を変更することによって、分岐位置より下流側において界面の面積を増大させることもできる。
【0033】
第1分岐流路と第2分岐流路とは、合流位置において合流される。合流位置においては、前述されたように断面において上下二段に分断された各層流が、同じ方向から視た断面において左右に連結される。つまり、第1分岐流路の第1溶液及び第2溶液の層流に、第2分岐流路の第1溶液及び第2溶液の層流が左右に隣接するように合流される。これにより、第1分岐流路における第2溶液に対して、第2分岐流路における第1溶液が隣接するので、これらの間にも第1溶液と第2溶液との界面が生じる。この界面によって、合流位置より下流側において第1溶液と第2溶液との界面が広くなる。新たな界面において、第1溶液と第2溶液とが新たに接触して新たな脱水縮合反応が生じる。このように、合流位置より下流側において、第1溶液と第2溶液とが新たに接触する界面が生じることが、本発明において界面の面積が広くなるとも称される。
【0034】
本発明に係るペプチドポリマーの製造方法によれば、数平均分子量が1000〜25000の範囲内であり、分子量分布が1.1〜1.3の範囲内のペプチドポリマーを得ることができる。ペプチドポリマーの平均分子量及び分子量分布は、例えば、RI検出器に分離カラムを連結させて、ペプチドポリマーを含む反応液を分析し、標準物質としてShodex P−82を用いたプルランの検量線に基づいて解析し得る。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係るペプチドポリマーの製造方法によれば、第1ステップにおいて第1微小流路を流出された第1溶液と、第2ステップにおいて第2微小流路を流出された第2溶液とが、第3微小流路において接触させることによりペプチドポリマーの生成が進行するので、反応の制御が容易であり、かつ分子量分布の狭いペプチドポリマーを得ることができる。
【0036】
また、第3微小流路を、第1溶液及び第2溶液が流れる方向が湾曲する湾曲流路とすることにより、第1溶液と第2溶液とが接触する界面の面積が増加されるので、ペプチドポリマーの生成速度が向上される。
【0037】
また、第3微小流路を分岐位置において二以上の流路に分岐させてから、合流位置において第1溶液と第2溶液との界面の面積が広くなるように合流させることにより、第1溶液と第2溶液とが接触する界面の面積が増加されるので、ペプチドポリマーの生成速度が向上される。
【0038】
また、本発明に係るペプチドポリマーの製造方法により得られたペプチドポリマーの分子量分布が、1.1〜1.3であるので、所望の物性のペプチドポリマーを得ることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、本発明の好ましい実施形態が説明される。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは言うまでもない。
【0040】
[図面の説明]
図1は、本発明の第1実施形態に係るマイクロリアクタ10の外観構成を示す斜視図である。図2は、マイクロリアクタ10の構成を示す上面図である。図3は、図2における領域IIIを示す拡大図である。図4は、第1実施形態の変形例に係るマイクロリアクタ10の構成を示す上面図である。図5(A)は、図4におけるVA−VA切断面を示す断面図であり、図5(B)は、図4におけるVB−VB切断面を示す断面図であり、図5(C)は、図4におけるVC−VC切断面を示す断面図である。なお、図5においては、微小流路以外の構成が省略されている。図6は、本発明の第2実施形態に係るマイクロリアクタ40の構成を示す模式図である。図7は、第2実施形態の第1変形例に係るマイクロリアクタ40の構成を示す模式図である。図8は、第2実施形態の第2変形例に係るマイクロリアクタ40の構成を示す模式図である。
【0041】
[第1実施形態]
図1及び図2に示されるように、第1実施形態においては、マイクロリアクタ10が用いられる。マイクロリアクタ10は、例えばガラスなど、第1溶液及び第2溶液や生成物及び中間物などと反応しない不活性物質を素材とするプレート形状である。マイクロリアクタ10の上面には、第1導入口11、第2導入口12及び流出口13が形成されている。マイクロリアクタ10の内部には、第1導入口11、第2導入口12及び流出口13を接続する微小流路(マイクロチャネル)が形成されている。この微小流路の詳細な構成は後述されるが、例えばマイクロマシニング技術を用いてマイクロリアクタ10に微小流路が形成されている。第1導入口11は、ペプチドモノマー及びアミンを含む第1溶液が導入されるためのものである。第2導入口12は、ペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液が導入されるためのものである。流出口13は、脱水縮合反応により得られたペプチドポリマーを含む反応液が流出されるためのものである。
【0042】
図2に示されるように、微小流路は、第1微小流路21、第2微小流路22及び第3微小流路23に大別される。図1及び図2には現れていないが、第1微小流路21、第2微小流路22及び第3微小流路23は、液体が流通し得る流路であり、その断面形状は矩形や多角形、円形、楕円形などが採用され得る。本実施形態では、第1微小流路21、第2微小流路22及び第3微小流路23の各断面形状は流路方向に対して一定の四角形であるが、本発明において各微小流路の断面形状は特に限定されず、また、流路方向に対して変化されてもよい。
【0043】
第1微小流路21は、第1導入口11から合流位置24へほぼ直線状に延出されている。第2微小流路22は、第2導入口12から合流位置24へほぼ直線状に延出されている。合流位置24においては、第1微小流路21と第2微小流路22と第3微小流路23とが接続されている。したがって、第1導入口11から第1微小流路21へ注入された第1溶液と、第2導入口12から第2微小流路22へ注入された第2溶液とが、合流位置24において合流して第3微小流路23へ流れ込む。
【0044】
第3微小流路23には、流れの向きが反転する湾曲部25が複数形成されている。各湾曲部25によって流れの向きが相反する向きへ反転しながら、第3微小流路23が蛇行しながら流出口13へ延出されている。第1溶液及び第2溶液は、複数の湾曲部25を通過しながら第3微小流路23を流出口13へ向かって流される。
【0045】
本実施形態におけるペプチドポリマーを製造するは、主として以下の3つのステップを含む。
(1)第1溶液を第1微小流路21に流通させる第1ステップ。
(2)第2溶液を第2微小流路22に流通させる第2ステップ。
(3)第1微小流路21から流出された第1溶液と第2微小流路22から流出された第2溶液とを接触させながら第3微小流路23に流通させてペプチドポリマーを生成する第3ステップ。
【0046】
第1ステップでは、第1溶液が第1導入口11を通じて第1微小流路21に流通される。第1導入口11に、直接に又はチューブなどを介して第1溶液が充填されたシリンジが接続され、そのシリンジから第1溶液が流出されることによって、第1溶液が第1導入口11から第1微小流路21へ注入される。シリンジから一定の流速で第1溶液が流出されることにより、第1微小流路21において第1溶液が一定の流速で流通される。
【0047】
第2ステップでは、第2溶液が第2導入口12を通じて第2微小流路22に流通される。第2導入口12に、直接に又はチューブなどを介して第2溶液が充填されたシリンジが接続され、そのシリンジから第2溶液が流出されることによって、第2溶液が第2導入口12から第2微小流路22へ注入される。シリンジから一定の流速で第2溶液が流出されることにより、第2微小流路22において第2溶液が一定の流速で流通される。
【0048】
なお、前述された第1ステップ及び第2ステップは、いずれのステップが先に開始されてもよく、また、2つのステップが同時に開始されてもよい。
【0049】
第3ステップでは、第1微小流路21から流出された第1溶液と第2微小流路22から流出された第2溶液とが接触されながら第3微小流路23に流通される。第3微小流路23における第1溶液及び第2溶液の流速は、前述された各シリンジからの流出圧によって制御されてもよく、また、流出口13から吸引圧を第3微小流路23に付与するこによって制御されてもよい。
【0050】
第3微小流路23において、第1溶液と第2溶液とは層流として流通する。したがって、第1溶液と第2溶液との界面においてペプチドモノマーの脱水縮合反応が生じる。脱水縮合反応を制御するために、マイクロリアクタ10が恒温槽などに入れられて所定の温度範囲に保持されてもよい。
【0051】
第3微小流路23における第1溶液と第2溶液との界面は、各湾曲部25において増大される。図3に示されるように、湾曲部25においては、第1溶液が流れる経路長26と第2溶液が流れる経路長27とが異なり、同図に示されるように湾曲部25における外側を層流となって流れる第1溶液の経路長26は、内側を層流となって流れる第2溶液の経路長27より長くなる。
【0052】
第3微小流路23の全経路において第1溶液の流速及び第2溶液の流速が一定に制御されているとすると、第3微小流路23の湾曲部25において、第2溶液の流速より第1溶液の流速が速くなり、これに遠心力も作用して、第1溶液と第2溶液との界面28に乱れが生じる。また、第3微小経路23が湾曲されていることにより、仮に第3微小経路23が湾曲されずに直線状に延出されているよりも、界面28が流路方向へ長くなる。これらにより、湾曲部25において第1溶液と第2溶液とが新たに接触する界面28が生じ、その界面28において新たな脱水縮合反応が生じる。
【0053】
前述されたようにして、第3微小経路23において脱水縮合反応が生じ、第3微小流路23の全経路長や保持される温度範囲などによって脱水縮合反応が制御されて、所望の分子量及び分子量分布のペプチドポリマーが生成される。そして、生成されたペプチドポリマーが流出口13から流出される。
【0054】
[第1実施形態の作用効果]
第1実施形態に係るペプチドポリマーの製造方法によれば、第1ステップにおいて第1微小流路21を流出された第1溶液と、第2ステップにおいて第2微小流路22を流出された第2溶液とが、第3微小流路23において接触されることによりペプチドポリマーの生成が進行するので、反応の制御が容易であり、かつ分子量分布の狭いペプチドポリマーを得ることができる。
【0055】
また、第3微小流路23において、第1溶液及び第2溶液が流れる方向が湾曲する複数の湾曲部25が設けられることにより、各湾曲部25において第1溶液と第2溶液とが接触する界面28の面積が増加されるので、ペプチドポリマーの生成速度が向上される。
【0056】
[第1実施形態の変形例]
以下に第1実施形態の変形例が説明される。この変形例では、マイクロリアクター10において、前述された第3微小流路23に代えて後述される第3微小流路30が設けられた点が異なり、その他の構成は同様である。したがって、第3微小流路30の構成が以下に詳細に説明され、その他の構成の説明が省略される。なお、図4において、第1実施形態に係るマイクロリアクタ10と同じ参照符号が付された箇所は同じ構成部材を示している。
【0057】
図4に示されるように、第3微小流路30は、分岐位置33において第1分岐流路31及び第2分岐流路32に分岐されている。図5に示されるように、第1分岐流路31は、分岐位置33より上流側における第3微小流路30の上側半分を導く流路である。第2分岐流路32は、分岐位置33より上流側における第3微小流路30の下側半分を導く流路である。つまり、分岐位置33において第3微小流路30は、その断面において上下に二分され、二分された上側が第1分岐路31と連続し、下側が第2分岐路32と連続する。第1分岐流路31及び第2分岐流路32は、それぞれの幅が第3微小流路30の幅と同じであって、かつそれぞれの高さが第3微小流路30の高さの半分である。
【0058】
図4に示されるように、第1分岐流路31と第2分岐流路32とは、合流位置34において合流されている。図5に示されるように、合流位置34においては、第1分岐流路31と第2分岐流路32とが、断面視において左右に並ぶように連結されている。つまり、合流位置34より下流側の第3微小流路30において、断面視において第1分岐流路31が左側となり、第2分岐流路32が右側半分となるように連結されている。分岐位置33より上流側の第3微小流路30と、合流位置34より下流側の第3微小流路30の幅及び高さは同じである。
【0059】
図4に示されるように、前述されたような分岐位置33、第1分岐流路31及び第2分岐流路32、並びに合流位置34を一組として、このような組が第3微小流路30において流路方向に複数設けられている。第3微小流路30の最下流端は流出口13に接続されている。
【0060】
本変形例においても、前述された第1実施形態と同様の第1ステップ、第2ステップ及び第3ステップが行われる。このうち、第3ステップにおいて、第3微小流路30を流通する第1溶液及び第2溶液の流れが、前述された第1実施形態における第3ステップと異なる。したがって、以下には第1実施形態と異なる第3ステップのみが詳細に説明され、第1ステップ及び第2ステップの説明が省略される。
【0061】
図5(A)に示されるように、第3微小流路30における分岐位置33より上流側では、第1溶液35及び第2溶液36は断面視において左右に分かれるが如く層流をなして流れる。このような層流において第1溶液35と第2溶液36との界面37において、脱水縮合反応が生じる。
【0062】
分岐位置33においては、第1溶液35と第2溶液36との界面37と直交する仮想面38によって第1溶液35及び第2溶液36の流れが断面視において上下に二分され、図5(B)に示されるように、二分された上側が第1分岐流路31に流れ込み、下側が第2分岐流路32に流れ込む。
【0063】
第1分岐流路31及び第2分岐流路32においては、第1溶液35及び第2溶液36がそれぞれ層流をなして流れる。これにより、第1分岐流路31及び第2分岐流路32のそれぞれにおいて第1溶液35と第2溶液36との界面37A,37Bがそれぞれ生ずるが、各々の界面37A,37Bにおける流路方向の単位長さ当たりの面積の合計は、分岐位置33より上流側における界面37における流路方向の単位長さ当たりの面積と同等である。
【0064】
図5(C)に示されるように、合流位置34においては、前述されたように断面において上下二段に分断された第1分岐流路31及び第2分岐流路32の各層流が左右に並ぶように連結される。つまり、第1分岐流路31の第1溶液35及び第2溶液36の層流に、第2分岐流路32の第1溶液35及び第2溶液36の層流が左右に隣接するように合流される。これにより、第1分岐流路31における第2溶液36に対して、第2分岐流路32における第1溶液35が隣接するので、これらの間にも第1溶液35と第2溶液36との界面39が生じる。界面39における流路方向の単位長さ当たりの面積は、界面37における流路方向の単位長さ当たりの面積と同等である。また、各界面37A,37Bは、合流位置34より下流側の第3微小流路30において、それぞれの高さが界面37の高さと同じとなって、各界面37A,37Bにおける流路方向の単位長さ当たりの各面積は、界面37における流路方向の単位長さ当たりの面積と同等となる。これにより、合流位置34より下流側において、第1溶液35と第2溶液36との界面37A,37B,39における流路方向の単位長さ当たりの面積の合計は、界面37における流路方向の単位長さ当たりの面積より広くなる。このようにして拡がった界面37A,37B,39において、第1溶液35と第2溶液36とが新たに接触して新たな脱水縮合反応が生じる。したがって、第3微小流路30におけるペプチドポリマーの生成速度が向上される。
【0065】
前述と同様の分岐位置33、第1分岐流路31及び第2分岐流路32、並びに合流位置34の組が第3微小流路30において流路方向に複数設けられているので、前述と同様にして、3つの界面37A,37B,39が7つの界面に増加されて、それぞれの流路方向の単位長さ当たりの面積の合計が増加され、同様に、その下流側における組においても界面の増加が繰り返される。これにより、第3微小流路30におけるペプチドポリマーの生成速度が一層向上される。
【0066】
[第2実施形態]
図6に示されるように、第2実施形態においては、第1シリンジ41、第2シリンジ42及びキャピラリー43,44,45を連結させたマイクロリアクタ40が用いられる。第1シリンジ41、第2シリンジ42及びキャピラリー43,44,45は、第1溶液及び第2溶液や生成物及び中間物などと反応しない不活性物質を素材とする。
【0067】
第1シリンジ41には、ペプチドモノマー及びアミンを含む第1溶液が充填されている。また、第1シリンジ41には、キャピラリー43が接続されている。このキャピラリー43が、本発明における第1微小流路を形成している。第1シリンジ41のプランジャが操作されることにより、第1シリンジ41に充填された第1溶液がキャピラリー43へ流出される。第1シリンジ41のプランジャは手動で操作されても、シリンジポンプの如く機械的に動作されるものであってもよい。
【0068】
第2シリンジ42には、ペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液が充填されている。また、第2シリンジ42には、キャピラリー44が接続されている。このキャピラリー44が、本発明における第2微小流路を形成している。第2シリンジ42のプランジャが操作されることにより、第2シリンジ42に充填された第2溶液がキャピラリー44へ流出される。第2シリンジ42のプランジャは手動で操作されても、シリンジポンプの如く機械的に動作されるものであってもよい。
【0069】
各キャピラリー43,44は、ジョイント46により連結されてキャピラリー45へ連続する流路を形成している。このキャピラリー45が、本発明における第3微小流路を形成している。キャピラリー45の末端はフラスコ47内へ挿入されている。フラスコ47は生成物であるペプチドポリマーを回収するための容器である。キャピラリー45は、所望の分子量のペプチドポリマーを得るために必要な脱水縮合反応が生じるような長さに設定されている。また、キャピラリー45の一部は蛇行するように湾曲されており、その湾曲部分48は脱水縮合反応に適した温度範囲に保持されている。
【0070】
本実施形態におけるペプチドポリマーを製造するは、主として以下の3つのステップを含む。
(1)第1溶液を第1シリンジ41からキャピラリー43に流通させる第1ステップ。
(2)第2溶液を第2シリンジ42からキャピラリー44に流通させる第2ステップ。
(3)キャピラリー43から流出された第1溶液とキャピラリー44から流出された第2溶液とを接触させながらキャピラリー45に流通させてペプチドポリマーを生成する第3ステップ。
【0071】
第1ステップでは、第1溶液が第1シリンジ41からキャピラリー43へ流通される。前述されたように、第1シリンジ41のプランジャーが手動で又は機械的に動作されることにより、第1シリンジ41から第1溶液が流出される。第1シリンジから一定の流速で第1溶液が流出されることにより、キャピラリー43において第1溶液が一定の流速で流通される。
【0072】
なお、前述された第1ステップ及び第2ステップは、いずれのステップが先に開始されてもよく、また、2つのステップが同時に開始されてもよい。
【0073】
第3ステップでは、キャピラリー43から流出された第1溶液とキャピラリー44から流出された第2溶液とが接触されながらキャピラリー45に流通される。キャピラリー45における第1溶液及び第2溶液の流速は、第1シリンジ41及び第2シリンジ42からの流出圧によって制御されてもよく、また、キャピラリー45の最下流端から吸引圧をキャピラリー45内に付与するこによって制御されてもよい。
【0074】
キャピラリー45において、第1溶液と第2溶液とは層流として流通する。したがって、第1溶液と第2溶液との界面においてペプチドモノマーの脱水縮合反応が生じる。脱水縮合反応を制御するために、キャピラリー45の湾曲部分48が恒温槽などに入れられて所定の温度範囲に保持されてもよい。
【0075】
第1実施形態で説明されたように、キャピラリー45における第1溶液と第2溶液との界面は、湾曲部分48において増大される。これにより、湾曲部分48において第1溶液と第2溶液とが新たに接触する界面が生じ、その界面において新たな脱水縮合反応が生じる。
【0076】
前述されたようにして、キャピラリー45において脱水縮合反応が生じ、キャピラリー45の全経路長や湾曲部分48が保持される温度範囲などによって脱水縮合反応が制御されて、所望の分子量及び分子量分布のペプチドポリマーが生成される。そして、生成されたペプチドポリマーがキャピラリー45からフラスコ47へ流出される。
【0077】
前述されたようなマイクロリアクタ40によっても、第1実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0078】
[第2実施形態の第1変形例]
以下に第2実施形態の第1変形例が説明される。第1変形例では、マイクロリアクター40において、フラスコ47からキャピラリー45へ溶液を循環するための新たなキャピラリー51が設けられた点が主に異なり、その他の構成は同様である。したがって、新たなキャピラリー51の構成を中心として以下に詳細な説明がなされ、その他の構成の説明が省略される。なお、図7において、第2実施形態に係るマイクロリアクタ40と同じ参照符号が付された箇所は同じ構成部材を示している。
【0079】
図7に示されるように、第2実施形態の第1変形例においては、第1シリンジ41に接続されたキャピラリー43と第2シリンジ42に接続されたキャピラリー44とが、ジョイント46を介してキャピラリー49に接続され、このキャピラリー49が、ジョイント50を介してキャピラリー45に接続されている。キャピラリー45,49が本発明における第3微小流路に相当する。キャピラリー45の末端はフラスコ47内へ挿入されている。
【0080】
フラスコ47には、別のキャピラリー51が挿入されており、このキャピラリー51は、ジョイント50に接続されている。キャピラリー51により形成される微小流路には、ポンプ52が設けられている。このポンプ52は、例えば、ギアポンプやチューブポンプなどの公知のポンプが用いられる。ポンプ52は、フラスコ47からジョイント50へ向かってキャピラリー51内の溶液を流通させる。キャピラリー51から流出された溶液は、ジョイント50を通じてキャピラリー45へ流入する。
【0081】
なお、キャピラリー49,51は、第1溶液及び第2溶液や生成物及び中間物などと反応しない不活性物質を素材とする。
【0082】
本変形例においても、前述された第2実施形態と同様の3つのステップにより、キャピラリー45においてペプチドポリマーが生成され、生成されたペプチドポリマーがキャピラリー45からフラスコ47へ流出される。
【0083】
フラスコ47に流出されたペプチドポリマーを含む溶液は、ポンプ52によってフラスコ47からキャピラリー51へ吸入される。そして、キャピラリー51内を流通されたペプチドポリマーがジョイント50を通じて再びキャピラリー45へ流入する。
【0084】
キャピラリー45へ流入したペプチドポリマーは、キャピラリー49から流出された第1溶液及び第2溶液と接触されて脱水縮合反応が生じ、さらに重合される。このように一度キャピラリー45から流出されたペプチドポリマーを再循環させて脱水縮合反応を行うことにより、キャピラリー45の径や長さによらずに、マイクロリアクタ40において所望の分子量のペプチドポリマーを合成することができる。
【0085】
[第2実施形態の第2変形例]
以下に第2実施形態の第2変形例が説明される。第2変形例では、マイクロリアクター40において、第1シリンジ41、第2シリンジ42、キャピラリー43,44,45と同様の組み合わせが、キャピラリー45の下流側に直列に接続された点が主に異なり、その他の構成は同様である。したがって、新たな組み合わせである、第3シリンジ53、第4シリンジ54、キャピラリー55,56,58,60などの構成を中心として以下に詳細な説明がなされ、その他の構成の説明が省略される。なお、図8において、第2実施形態に係るマイクロリアクタ40と同じ参照符号が付された箇所は同じ構成部材を示している。
【0086】
第3シリンジ53には、ペプチドモノマー及びアミンを含む第1溶液が充填されている。第4シリンジ54には、ペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液が充填されている。図8に示されるように、第3シリンジ53に接続されたキャピラリー55と第4シリンジ54に接続されたキャピラリー56とが、ジョイント57を介してキャピラリー58に接続され、このキャピラリー58が、ジョイント59を介してキャピラリー45,60と接続されている。
【0087】
キャピラリー60の末端はフラスコ47内へ挿入されている。また、キャピラリー60の一部は蛇行するように湾曲されており、その湾曲部分61は脱水縮合反応に適した温度範囲に保持されている。
【0088】
なお、キャピラリー55,56,60は、第1溶液及び第2溶液や生成物及び中間物などと反応しない不活性物質を素材とする。
【0089】
前述されたキャピラリー55が、本発明における第1微小流路に相当し、キャピラリー56が、本発明における第2微小流路に相当し、キャピラリー58,60が、本発明における第3微小流路に相当する。つまり、第2変形例にかかるマイクロリアクタ40は、本発明における第3微小流路を形成するキャピラリー45の下流側に、本発明における第1微小流路、第2微小流路及び第3微小流路の組み合わせが直列に接続された二段構造のものである。
【0090】
本変形例においても、前述された第2実施形態と同様の3つのステップにより、キャピラリー45においてペプチドポリマーが生成され、生成されたペプチドポリマーがキャピラリー45からジョイント59を介してキャピラリー60へ流出される。
【0091】
キャピラリー60へ流入したペプチドポリマーは、キャピラリー58から流出された第1溶液及び第2溶液と接触されて脱水縮合反応が生じ、さらに重合される。このようにキャピラリー45から流出されたペプチドポリマーに対して、さらにペプチドモノマー及びペプチド用縮合剤を接触させて脱水縮合反応を行うことにより、マイクロリアクタ40において所望の分子量のペプチドポリマーを合成することができる。
【0092】
なお、前述された第1実施形態及び第2実施形態、並びに各々の変形例においては、第1溶液にペプチドモノマーとともにアミンが含まれるものとしたが、本発明においてアミンは必ずしも第1溶液に含まれる必要はなく、例えば、別の微小流路を通じて第3微小流路にアミンが注入されてもよい。
【実施例】
【0093】
以下に、本発明の実施例が説明される。実施例は、本発明の一実施形態であり、本発明が実施例に記載されたものに限定されないことは言うまでもない。
【0094】
〔第1実施例〕
(第1溶液)
トリエチルアミン(東京化成工業)2.2mmol(215μL)を加えたDMSO溶液(和光純薬、脱水、安定剤不含)1mLに、プロリル-4-ベンジルヒドロキシプロリル−グリシン(H-Pro-Hyp(Bzl)-Gly-OH、MW=343、NSマテリアルズ製)1.0mmol(0.343g)を溶解して第1溶液を調整した。
【0095】
(第2溶液)
DMSO溶液(和光純薬、脱水、安定剤不含)1mLに、ジフェニルリン酸アジド(渡辺化学工業)166μLを溶解して第2溶液を調整した。
【0096】
(マイクロリアクタ)
前述された第1実施形態に係るマイクロリアクタ10を用いた。なお、第1溶液及び第2溶液は、マイクロシリンジ(ハミルトン、1mL)にそれぞれ充填し、各マイクロシリンジをテフロン(登録商標)チューブ(ジーエルサイエンス、1/16"×0.5mm)を用いて第1導入口11及び第2導入口12にそれぞれ接続した。また、マイクロリアクタ10の流出口にもテフロン(登録商標)チューブを接続し、そのテフロン(登録商標)チューブの末端をサンプル管と接続した。
【0097】
(ペプチドポリマーの合成)
シリンジポンプ(kdScientific)を用いて、各マイクロシリンジから第1溶液及び第2溶液を200μL/minの流速で全量を流出させ、サンプル管に反応液を回収した。マイクロリアクタ10は、20〜30℃の温度範囲に保持された環境内に載置した。
【0098】
(評価)
サンプル管に回収された反応液をそのままゲルろ過クロマトグラフ分析に供与した。日立LaCHromeシステムにゲルろ過用カラム(ナカライテスク5GPC-300(φ4.6×250mm)を連結したもの)を装着し、DMSO溶液を遊離液として0.2mL/minで流通させた。化合物の検出は示差屈折率計で行い、結果の解析は、プルランを標準とした構成曲線を用いて行った。その結果、数平均分子量20万、分子量分布1.2のペプチドポリマーが生成されていることが確認された。
【0099】
〔第2実施例〕
ペプチドモノマーとしてエラスチンペンタペプチド(H-Gly-Val-Gly-Val-Pro-OH、MW=379、NSマテリアルズ製)1.0mmolを溶解して第1溶液とした他は、第1実施例と同様にして、ペプチドポリマーを合成した。その結果、数平均分子量14万、分子量分布1.2のペプチドポリマーが生成されていることが確認された。
【0100】
〔第3実施例〕
ペプチド合成用縮合剤としてHBTU(MW=379)0.38gを溶解して第2溶液とした他は、第1実施例と同様にして、ペプチドポリマーを合成した。その結果、数平均分子量20万、分子量分布1.2のペプチドポリマーが生成されていることが確認された。
【0101】
〔第3実施例〕
ペプチド合成用縮合剤としてHBTU(MW=379)0.38gを溶解して第2溶液とした他は、第2実施例と同様にして、ペプチドポリマーを合成した。その結果、数平均分子量14万、分子量分布1.2のペプチドポリマーが生成されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るマイクロリアクタ10の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、マイクロリアクタ10の構成を示す上面図である。
【図3】図3は、図2における領域IIIを示す拡大図である。
【図4】図4は、第1実施形態の変形例に係るマイクロリアクタ10の構成を示す上面図である。
【図5】図5(A)は、図4におけるVA−VA切断面を示す断面図であり、図5(B)は、図4におけるVB−VB切断面を示す断面図であり、図5(C)は、図4におけるVC−VC切断面を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の第2実施形態に係るマイクロリアクタ40の構成を示す模式図である。
【図7】図7は、第2実施形態の第1変形例に係るマイクロリアクタ40の構成を示す模式図である。
【図8】図8は、第2実施形態の第2変形例に係るマイクロリアクタ40の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0103】
21・・・第1微小流路
22・・・第2微小流路
23・・・第3微小流路
25・・・湾曲部(湾曲経路)
33・・・分岐位置
34・・・合流位置
43,55・・・キャピラリー(第1微小流路)
44,56・・・キャピラリー(第2微小流路)
45,49,58,60・・・キャピラリー(第3微小流路)
48,61・・・湾曲部分(湾曲経路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン存在下において、ペプチドモノマーを含む第1溶液とペプチド合成用縮合剤を含む第2溶液とを反応させてペプチドポリマーを製造する方法であって、
第1溶液を第1微小流路に流通させる第1ステップと、
第2溶液を第2微小流路に流通させる第2ステップと、
第1微小流路から流出された第1溶液と第2微小流路から流出された第2溶液とを接触させながら第3微小流路に流通させてペプチドポリマーを生成する第3ステップと、を含むペプチドポリマーの製造方法。
【請求項2】
上記第3微小流路を、第1溶液及び第2溶液が流れる方向が湾曲する湾曲流路とする請求項1に記載のペプチドポリマーの製造方法。
【請求項3】
上記第3微小流路を二以上の流路に分岐させる分岐位置、及び分岐された流路を合流させる合流位置を設け、第3流路における第1溶液と第2溶液との界面の面積を、分岐位置の上流より合流位置の下流で広くする請求項1に記載のペプチドポリマーの製造方法。
【請求項4】
上記第1微小流路、上記第2微小流路、及び上記第3微小流路における溶液が流れる方向と直交する断面の最大寸法が、それぞれ10μm〜2mmである請求項1から3のいずれかに記載のペプチドポリマーの製造方法。
【請求項5】
得られたペプチドポリマーの分子量分布が、1.1〜1.3である請求項1から4のいずれかに記載のペプチドポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−53053(P2010−53053A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217569(P2008−217569)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(507106847)NSマテリアルズ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】