説明

ペプチド合成におけるマイクロ波により向上されたN−FMOC脱保護

【課題】脱保護反応により簡単にペプチド合成を実施する方法を提供する。
【解決手段】脱保護反応に対してマイクロ波照射を適用すると同時に、Fmoc保護アミノ酸をピペラジンにより脱保護することを含み、固相ペプチド合成方法を用いて、脱保護、活性化、及びカップリングのサイクルを繰り返し、連続するアミノ酸を付加して所望のペプチドを形成する方法。マイクロ波エネルギーを適用することでペプチド及びアミノ酸の分解を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
背景
本発明は、マイクロ波アシスト化学に関し、特にペプチド合成の化学、具体的には固相ペプチド合成(SPPS)における保護工程及び脱保護工程の化学に関する。
【0002】
ペプチド合成、固相ペプチド合成、及びマイクロ波アシスト固相ペプチド合成についての一般的な背景の説明は、本出願と同じ出願人に譲渡された米国特許出願公報No.20040260059に示されている。この開示は参照により本明細書中に完全に援用される。また、固相ペプチド合成のマイクロ波による向上は、米国ノースカロライナ州マシューズのCEMコーポレーションから入手可能なLIBERTY(商標)装置及びDISCOVER(登録商標)装置の形態で商業的に利用可能である。
【0003】
更なる背景として、タンパク質において一般に知られる20種のアミノ酸を表現するために、3文字略記及び1文字略記の両方が一般に使用される。そしてまた、ペプチド鎖を表現するために、これらの略記の群又は列が使用される。これらの略記は広く使用され、また認識されており、本明細書中で現れた場合に文脈において理解されるであろう。
【0004】
別の詳細として、ペプチドを「ポリペプチド」と表現することを好む供給源もあり、これらの用語が等しいことは理解されるであろう。本明細書中ではペプチドという用語を優先的に使用する。
【0005】
‘059公報において示されているように、また、この技術分野においてよく理解されているように、固相ペプチド合成は、典型的には、第一のアミノ酸を固相樹脂粒子に付加し、次いで第二のアミノ酸及び連続する次のアミノ酸を第一のアミノ酸に付加して、ペプチド鎖を形成することにより、実施される。成長していく鎖を固相樹脂粒子にくっつけることにより、段階的な反応をより簡単に実施することが可能となる。
【0006】
不適切な時間における不所望な反応を防止するために、各アミノ酸は、典型的には、分子のアミノ酸側に「保護基」と呼ばれる意図的に付加された成分を含む。したがって、第二のアミノ酸を第一のアミノ酸に付加するためには、第一のアミノ酸から保護基を除去することが必要となる。この工程は「脱保護」と呼ばれる。同様に(また連続して)、第二のアミノ酸及びその保護基を第一のアミノ酸に付加した後に、第三のアミノ酸に付加するために、その保護基を第二のアミノ酸から除去しなければならず、以下同様である。
【0007】
当業者に更に知られているように、一般に「N−Fmoc」(又は単に「Fmoc」)と呼ばれる9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基は、(これに限定されないが)SPPSをはじめとするペプチド合成において保護基として作用するための好ましい成分である。したがって、Fmocを除去する(脱保護)工程は、繰り返して、すなわち、成長するペプチド鎖に別の保護アミノ酸を付加するたびに、実施しなければならない。
【0008】
SPPSの間、N−Fmoc保護基は、塩基により触媒される脱離において有機塩基により除去することができる。脱保護は、アンヒンダード(unhindered)第二アミンにより最も効率的であるが、第一アミン及び第三アミンもまた可能である。典型的には、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)中20%ピペリジンの溶液を使用して、ジベンゾフルベン(DBF)中間体を形成し、この中間体が第二アミンによりすぐに捕獲されて、不活性な付加物を形成する。
【0009】
例えば、マイクロ波により向上されたFmoc脱保護は、65−74ACPペプチドに関して報告された。この研究では、DMF中20%ピペリジンにより1分で完全な脱保護が観察された。マイクロ波なしでは、多数の欠落が観察された。
【0010】
ピペリジンは、好ましいpKa(11.1)を有するが、フェニルシクリジン(合成ヘロイン)の合成の前駆体でもあることから、(米国において)麻薬取締局により規制されている。また、ピペリジンは、摂取により毒性があり、強い刺激物である。
【0011】
難しいペプチドにおいては、不完全なFmoc脱保護は問題となる可能性があり、より強い第三塩基である、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)の使用により、反応効率が高まることが示されている。DBUのみでは脱保護が達成されないことから、典型的には、少量のピペリジンをDBUに添加して、遊離したDBUを取り除く。取り除かれない場合、遊離したDBUは、潜在的に、得られる樹脂結合末端であるNα−アミンと反応して、次のアミノ酸のアシル化を妨げる可能性がある。
【0012】
脱保護反応は、多くの場合、樹脂結合末端であるNα−アミンのそのようなDBUアルキル化を防ぐため2段階で実施される。第一段階は、典型的には、第二段階よりも短く、反応容器から有意な量のDBUを除去する役割を果たし、その後に新しい試薬を用いてより長い脱保護反応が行われる。
【0013】
塩基により触媒されるアスパルチミド形成(文献に詳細に説明されている)は、また、ペプチド合成鎖アセンブリーの間の深刻な問題となる可能性がある。この副反応においては、アスパラギン酸又はアスパラギンのいずれかのα−カルボニル基にくっついた窒素原子が、側鎖のエステル又はアミド基をそれぞれ攻撃する。次いで、求核攻撃により、続く開環が起こり、α−アスパルチルペプチド及びβ−アスパルチルペプチドの混合物が生ずる。
【0014】
アスパルチミド(Aspartimide)形成は、「Asp−X」(X=Gly,Asn,Ser,Thr)を含有する配列において示されている。この配列を図4に示す。「Asp−X」配列の後の連続する次の脱保護サイクルのそれぞれにより、アスパルチミド形成は更に増加する。このことは、多数のAsp残基をもつより長いペプチドにおいて深刻な問題となる可能性がある。
【0015】
このプロセスは、天然には、アスパラギン酸を含有するタンパク質を伴う生物学的系において起こる。β−tert−ブチルエステル保護を含めることは、その嵩高さにより、このプロセスの発生を低減すると考えられる。しかし、この副反応は、アスパルギン酸の側鎖保護によってもなお、決まった手順のペプチド合成において充分に文書に記録されている。脱保護溶液中に0.1M HOBt(ヒドロキシベンゾトリアゾール)を含めることにより、アスパルチミド形成1,2が低減されることが示されている。しかし、多くの場合において、これによりなおアスパルチミドは有意なレベルとなる。ヘキサペプチドである「VKDGYI」は、SPPSの間に、有意な量のアスパルチミド関連生成物を生成することが示されている。このペプチドは、単一モードのマイクロ波中、手動で30秒、100Wのサイクルを3回、各照射サイクルの間に氷浴で冷却しながら合成された。最高温度は、およそ40℃と測定された。DMF溶液中20%ピペリジンを用いて、有意なアスパルチミド形成が検出された。これは脱保護溶液を変更することにより低減されたが、完全に排除されたのは、DGのHmb(ヒドロキシル−4−メトキシベンジル)ジペプチド挿入を使用したときだけであった。
【0016】
表1は、VKDGYIのアスパルチミド形成における脱保護試薬の効果を示す。
【0017】
【表1】

【0018】
したがって、ピペリジンと潜在的な副反応の実際的な不利益のために、SPPSにおいて脱保護化学を改良するための機会が存在する。
要旨
本発明は、脱保護反応に対してマイクロ波照射を適用すると同時に、Fmoc保護されたアミノ酸をピペラジンにより脱保護することを含むペプチド合成を実施する方法である。
【0019】
本発明及び同じことを達成するやり方についての前述及び他の目的ならびに利点は、添付図面とともに以下の具体的な説明に基づいてより明らかとなるだろう。
図面の簡単な説明
図1は、ピペリジンによるFmoc除去のための反応スキームを示す。
【0020】
図2は、ピペリジンを用いた慣用的な固相合成についての液体クロマトグラフィーフラクション図である。
図3は、図2で示したものと同じ配列のマイクロ波アシスト固相合成についての液体クロマトグラフィーフラクション図である。
【0021】
図4は、Asp(X)配列のアスパルチミド形成を示す。
図5は、ピペリジン及びピペラジンの式である。
図6は、マイクロ波アシスト固相合成の液体クロマトグラフィーフラクションである。
【0022】
図7は、図6に示したものと同じ反応であるが、DMF中0.1M HOBtによる液体クロマトグラフィーフラクション図である。
図8は、図6及び7に示したものと同じ反応であるが、DMF中5%ピペラジンを用いた液体クロマトグラフィーフラクション図である。
【0023】
図9は、同じ反応であるが、DMF中、0.1M HOBt、5%ピペラジンを用いた更に別の液体クロマトグラフィーフラクション図である。
具体的な説明
ピペリジンの代わりにピペラジンを使用すること(両方の式を図5に示す)により、アルパルチミド形成が有意に低いレベルとなることが実証された。比較すると、ピペラジンは、規制されていない物質であり、それにより研究室にとってピペリジンよりもアクセスしやすい。また、ピペラジンは、回虫感染を治療するために使用される経口薬物であり、ピペリジンよりも臭いや毒性が少ない。しかし、ピペラジンはpKaがピペリジンの11.1に対して9.8であるので、慣用的なスキームにおいてはより遅い脱保護試薬である。結果として、疎水性配列の慣用的な合成の間に、ピペラジンを使用することにより、Fmoc除去はより不完全となる可能性がある。多くの場合、DBUがピペリジンより強い脱保護剤として使用されるが、高いレベルのアスパルチミド形成を生ずる可能性がある。
【0024】
本発明においては、マイクロ波エネルギーを使用して、ピペラジンによるFmoc脱保護を実質的に促進する。ピペラジンにより3分で完全なFmoc除去を達成することができる。これにより、非常に望ましい試薬による効率的な脱保護が可能となる。アスパルチミド形成は、「Gly−Asp」C−末端配列をもつアミノ酸20個の化合体であるペプチドに関して最小化された。ある範囲の脱保護溶液により、0:30、その後80℃に達する最高温度で3:00、Fmoc除去を行った。
【0025】
図6〜9は、[Val−Tyr−Trp−Thr−Ser−Pro−Phe−Met−Lys−Leu−Ile−His−Glu−Gln−Cys−Asn−Arg−Ala−Asp−Gly−NH2]のマイクロ波SPPSの比較結果を示す。それら図において、数字1は生成物を示し、数字2は、α及びβペプチドを示す。見出しに示すように、条件はすぐ上に示すとおりであり、反応は、ピペリジン、ピペラジンに関して、またDMFとともにHOBtが存在するか、存在しないか、に関して異なる。
【0026】
ピペラジンによる脱保護により、アスパルチミド形成の副反応が全体的に低減することが示された。ピペラジンにより、ピペリジンと比較して、アスパルチミド形成の低減が観察された。両方の場合において、0.1M HOBtの添加により、アスパルチミド形成は更に低減した。ピペリジン含有脱保護溶液では、塩基により触媒されるイミド開環から得られるα及びβピペリジドが、液体クロマトグラフィー/質量分析上に存在していた。ピペラジン含有脱保護溶液では、対応する生成物は検出されなかった。更に、ピペリジンの代わりにピペラジンを用いると、溶液中のイミド環の加水分解により生じ得るアスパラギン酸のラセミ化は有意に少ないことが測定された。
【0027】
表2は、6N DCl/D2Oによる加水分解の後、GC/MSにより測定した%D−Aspを列挙している。
【0028】
【表2】

【0029】
図面及び明細書においては、本発明の好ましい態様を示してきた。具体的な用語を使用してきたが、これらは包括的かつ説明的な意味においてのみ使用されたもので、限定する目的のために使用されたものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲により規定される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、ピペリジンによるFmoc除去のための反応スキームを示す。
【図2】図2は、ピペリジンを用いた慣用的な固相合成についての液体クロマトグラフィーフラクション図である。
【図3】図3は、図2で示したものと同じ配列のマイクロ波アシスト固相合成についての液体クロマトグラフィーフラクション図である。
【図4】図4は、Asp(X)配列のアスパルチミド形成を示す。
【図5】図5は、ピペリジン及びピペラジンの式である。
【図6】図6は、マイクロ波アシスト固相合成の液体クロマトグラフィーフラクションである。
【図7】図7は、図6に示したものと同じ反応であるが、DMF中0.1M HOBtによる液体クロマトグラフィーフラクション図である。
【図8】図8は、図6及び7に示したものと同じ反応であるが、DMF中5%ピペラジンを用いた液体クロマトグラフィーフラクション図である。
【図9】図9は、同じ反応であるが、DMF中、0.1M HOBt、5%ピペラジンを用いた更に別の液体クロマトグラフィーフラクション図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱保護反応に対してマイクロ波照射を適用すると同時に、Fmoc保護アミノ酸をピペラジンにより脱保護することを含む、ペプチド合成を実施する方法。
【請求項2】
固相ペプチド合成を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ペプチド合成の活性化工程及びカップリング工程を実施すると同時に、マイクロ波エネルギーを適用することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
固相ペプチド合成の開裂工程を実施すると同時に、マイクロ波エネルギーを適用することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
脱保護、活性化、及びカップリングのサイクルを繰り返し、連続する次の酸を付加して、所望の配列のペプチドを形成することを含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
マイクロ波エネルギーの適用の間に反応を事前に冷却して、それにより、マイクロ波エネルギーの適用に起因するであろう熱の蓄積を制限することにより、ペプチドまたは酸の不所望な分解を防止することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
容器の温度をモニターし、モニターした温度に基づいて適用されるエネルギー源を和らげることを含む、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−211013(P2007−211013A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−30405(P2007−30405)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(500119569)シーイーエム・コーポレーション (16)
【Fターム(参考)】