説明

ペプチド合成用化合物

【課題】 使用時(細胞導入時)に蛋白質に細胞膜透過性ペプチドを結合させることのできる新しい手段を提供する。
【解決手段】 下記式の化学構造を有する化合物を用いて細胞膜透過性ペプチド誘導体を合成し、このペプチド誘導体の化合物に金属を配位させ、金属親和性タグを有する蛋白質とペプチド誘導体とを非共有結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、ペプチド合成用の化合物に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、細胞導入を目的とする蛋白質と細胞膜透過性ペプチドを非共有結合により要時調製することを可能とするペプチド合成用の化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞膜透過性ペプチドは、アルギニンを多く含む約10アミノ酸配列からなるペプチドであり、このペプチドを付加した蛋白質は細胞膜を透過し、細胞内に進入することが知られている。これまでに、例えば、Hiv tat(非特許文献1)、herpes virus tegument protein VP22(非特許文献2)、Drosophila melanogaster antennapedia (penetratin)(非特許文献3)、the protegrin 1(PG-1) antimicrobial peptide SynB(非特許文献4)、the basic fibroblast growth factor(非特許文献5)等が知られている。
【0003】
このような細胞膜透過性を持った蛋白質は細胞を用いた基礎研究分野や、医療分野における診断及び治療において有用である。
【非特許文献1】Schwarze, S. R., Ho, A., Vocero-Akbani, A. and Dowdy, S. F. (1999) In vivo protein transduction: delivery of a biologically active protein into the mouse. Science 285,1569-1572
【非特許文献2】Elliott, G. and O’Hare, P. (1997) Intercellular trafficking and protein delivery by herpesvirus structural protein. Cell (Cambridge, Mass.) 88, 223-233
【非特許文献3】Derossi, D., Calvet, S., Trembleau, A., Brunissen, A., Chassaing, G. and Prochiantz, A. (1996) Cell internalization of the third helix of the Antennapedia homeodomain is receptor-independent. J. Biol. Chem. 271, 18188-18193
【非特許文献4】Kokryakov, V. N., Harwig, S. S., Panyutich, E. A., Shevchenko, A. A., Aleshina, G. M., Shamova, O. V., Korneva, H. A. and Lehrer, R. I. (1993) Protegrins: leukocyte antimicrobial peptides that combine features of corticostatic defensins and tachyplesins. FEBS Lett. 327, 231-236
【非特許文献5】Jans, D. A. (1994) Nuclear signaling pathways for polypeptide ligands and their membrane receptors. FASEB J. 8, 841-847
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛋白質に細胞膜透過性ペプチドを人為的に付加する場合には、細胞膜透過性ペプチドと蛋白質とを共有結合(ペプチド結合)により連結するか、あるいは細胞膜透過性ペプチドのコード配列と蛋白質コード配列とを連結した融合ポリヌクレオチドを調製し、これを遺伝子工学的に発現させて融合蛋白質としての 細胞膜透過性ペプチド付加蛋白質を得る。
【0005】
しかしながら、いずれの場合にも、得られた蛋白質は、細胞膜透過性ペプチドが結合した状態で保存されるため、細胞膜透過性ペプチドに由来する蛋白質変性作用により蛋白質自体の安定性が低下するという問題がある。また、細胞膜透過性ペプチドを付加した蛋白質は高い細胞導入効率を持つため、蛋白質に病原性や毒性などがある場合には、それを取り扱う研究者にとっては危険な存在になる。
【0006】
この発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、使用時(細胞導入時)に蛋白質に細胞膜透過性ペプチドを結合させることのできる新しい手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この出願は、以下の化学構造を有するペプチド合成用の化合物を提供する。
【0008】
【化2】

またアミノ酸構造を有する前記化合物と、この化合物を含む細胞膜透過性ペプチド誘導体、さらには、化合物に金属を配位させた細胞膜透過性ペプチド誘導体を提供する。
【0009】
またさらに、化合物に金属を配位させた細胞膜透過性ペプチド誘導体と蛋白質とが非共有結合した複合体、この複合体を細胞に接触させることを特徴とする蛋白質細胞導入方法を提供する。
【0010】
なお、蛋白質細胞導入方法の好ましい態様は、複合体を形成させ、次いでこの複合体を細胞に接触させる方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によって、細胞膜透過性ペプチドを蛋白質とを、その使用時に結合させて細胞膜透過性ペプチド付加蛋白質を調製することができる。細胞膜透過性ペプチドによる蛋白質の変性を最小限に押えることが可能となる。また、細胞膜透過性ペプチド付加蛋白質を取り扱う研究者等に対する危険性も大幅に低減する。
【0012】
これらにより、細胞膜透過性ペプチド付加蛋白質の利用範囲が拡大し、例えば、蛋白質細胞導入を基本技術とする新たな疾患治療法や医薬品の開発に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明の化合物は、以下の化学構造を有している。
【0014】
【化3】

アミノ基をFmoc保護基で保護してあり、なおかつNitriloTriAcetic Acid(NTA)と呼ばれる金属キレート活性を持つ原子団を、カルボン酸が合成時に反応しないように保護基で保護されている構造を特徴とする。
【0015】
具体的には、化学式C42H59N3O11で示され、
精密質量:781.41、
分子量:781.93、
m/e:781.41(100%)、782.42(46.5%)、783.42(13.3%)、784.43(1.6%)、784.42(1.2%)、782.41(2.2%)、
C, 46.51; H, 7.61; N, 5.37; O, 22.51
である。
【0016】
この化合物は、下記の実施例1に例示した方法で合成することができる。
【0017】
さらにこの化合物は、ペプチド合成に用いた後、脱保護により図1に示したようなアミノ酸構造を有することができる。この化合物の保護基を例えばtBOC基等に変更して、代用する事もできる。またペプチド骨格からNTA基への構造を変更しても代用する事が出来る。
【0018】
アミノ酸構造を有する化合物(アミノ酸誘導体)を用いて、公知のペプチド合成法によって、アミノ酸誘導体を一部として有するペプチド誘導体を合成することができる。このペプチドの基本配列は、非特許文献1−5に記載されているような細胞膜透過性ペプチドの配列と同一とすることができる。
【0019】
そして、この細胞膜透過性ペプチド誘導体におけるアミノ酸誘導体のNTA保護機を除去し、金属(例えば、ニッケルやコバルト等)を接触させることによって、NTA部位に金属を配位させることができる。
【0020】
一方、細胞導入を目的とする蛋白質には、金属と親和性の高いタグペプチドを付加する。例えば、金属としてニッケルやコバルトを採用した場合には、ヒスチジンを多く含むペプチド(例えば、ヒスチジンが6個連続したヒスチジンタグ)を蛋白質の端部またはその内部に付加する。このようなヒスチジンタグ付きの蛋白質(his蛋白質)は、市販のhis蛋白質発現用ベクター等も用いて調製することができる。
【0021】
金属が配位したペプチド誘導体とタグ付き蛋白質の複合体を形成するためには、選択的に金属とタグが結合する様に、反応を生理塩濃度より高い濃度で選択的に結合させ、その後、希釈等によって塩濃度を低下させる様に反応させる方法が適当である。複合体の作成は塩濃度、界面活性化剤、競合物質等の濃度の調整を行い、選択的に結合させることを留意する必要がある。また立体構造予測プログラムをもちいて、ペプチドおよび蛋白質の結合部位が立体障害により、接近が影響受けないように配列を決定する事も留意する。
実施例1
本願発明の非天然型アミノ酸誘導体を、図2に従い以下のとおりに合成した。
(1)N5-benzyloxycarbonyl-N1,N1-(di- carboxymethyl)-L-lysine (化合物2)の合成
文献(Hochuli, E.; Dobeli, H.; Schacher, A. J. Chromatography 1987, 411, 177-184)の記載に従って、化合物2を以下のとおりに合成した。
【0022】
Bromoacetic acid(4.17 g, 15.0 mmol)を100 mLナス型フラスコに量りとり、15 mLの2 M NaOH水溶液を加えて完全に溶解させ、攪拌しながら寒剤を用いて-2℃に冷却した。一方、4.20 g(14.98 mmol)のN5-benzyloxycarbonyl-L-lysine(化合物1)をサンプル瓶に量りとり、22.5 mLの2 M NaOH水溶液に溶解させた。これを先のbromoacetic acid溶液にピペットを用いて12分かけて滴下した。系は始め白濁し、のちに無色透明となった。全て加え終わったのち、氷浴のまま2時間攪拌し、次いで室温まで昇温し、室温にて14時間攪拌した。さらに50 ℃に昇温して2時間攪拌し、50 ℃のまま45 mLの1 M HCl水溶液を加えたところ、白沈が析出した。室温まで冷却したのち、さらに氷浴にて充分に沈殿を析出させ、桐山ロートにて吸引ろ過し、粗生成物を得た。この白色固体に30 mLの1 M NaOH水溶液を加えて溶解させ、この溶液に30 mLの1 M HCl水溶液を滴下して析出する白色沈殿を吸引ろ過して集め、真空ポンプにて乾燥させ、4.69 g (収率79%)の化合物2を得た。
Colorless powder; mp 173-176℃; IR(KBr) nmax cm-1: 3370, 2940, 1720, 1700, 1540, 1420, 1330, 1270, 1230, 1150, 1060, 1020, 970; 1H NMR (0.2 M NaOD-D2O, DSS = 0.00): d 1.3-1.6 (4H, m), 1.7-2.0 (2H, m), 3.13 (2H, br), 3.75 (1H, m), 3.74, 3.77 (4H, ABq, J = 16.8 Hz), 5.09 (2H, m), 7.42 (5H, m).
(2)N5-benzyloxycarbonyl-N1,N1-(di-tert-butoxycarbonylmethyl)-L-lysine tert-butyl ester(化合物3)の合成
文献(Tahir, M. N.; Theato, P.; Muller, W. E. G.; Schroder, H. C.; Janshoff, A.; Zhang, J.; Huth, J.; Tremel, W. Chem. Commun. 2004, 2848-2849)の記載を参考にして、化合物3を以下のとおりに合成した。
【0023】
N5-benzyloxycarbonyl-N1,N1-(di- carboxymethyl)-L-lysine(化合物2)(394 mg, 0.993 mmol)を10 mL 2口ナスフラスコに量りとり、ジムロートを接続して、減圧乾燥したのちアルゴン雰囲気に置換し、無水トルエン3 mLをシリンジを用いて加え、攪拌しながら50℃に昇温した。ここへO-tert-butyl-N,N’-diisopropyl isourea(0.47 mL, 2.98 mmol)を加えて攪拌した。TLCで反応の進行をモニタリングして8時間後に0.94 mL、さらに1日後に0.47 mLを加え、7時間攪拌したのち反応溶液をセライトろ過し、10 mLの酢酸エチルで2回洗い、ろ液を集めて濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル 25 g, ヘキサン:酢酸エチル=1:2)にて精製し、486 mg (91%)の化合物3を無色のシロップとして得た。
Colorless syrup; Rf = 0.80 (hexane : EtOAc = 1 : 2); [a]D27 = -15.1 (c 1.0, MeOH); IR (neat) nmax cm-1: 3380, 2980, 2930, 1730, 1530, 1460, 1390, 1370, 1250, 1150, 1030, 990; 1H NMR (CDCl3, TMS = 0.00): d 1.43 (18H, s), 1.45 (9H, s), 1.50 (4H, m), 1.64 (2H, m), 3.20 (2H, m), 3.29 (1H, m), 3.43, 3.47 (4H, ABq, J = 17.1 Hz), 5.08 (2H, s), 5.15 (1H, br), 7.34 (5H, m); 13C NMR (CDCl3, CDCl3 = 77.16): d 23.07, 28.17, 28.29, 29.28, 30.19, 40.87, 53.95, 65.14, 66.49, 80.77, 81.17, 128.01, 128.16, 128.51, 136.85, 156.56, 170.77, 172.48; HR-EI-MS m/z 564.3410 [M]+, calcd for C30H48N2O8 564.3431.
(3)N1,N1-(di-tert-butoxycarbonylmethyl)-L-lysine tert-butyl ester (化合物4)の合成
文献(Tahir, M. N.; Theato, P.; Muller, W. E. G.; Schroder, H. C.; Janshoff, A.; Zhang, J.; Huth, J.; Tremel, W. Chem. Commun. 2004, 2848-2849)記載に従って、化合物4を以下のとおりに合成した。
【0024】
N5-benzyloxycarbonyl-N1,N1-(di-tert-butoxycarbonylmethyl)-L-lysine tert-butyl ester(化合物3)(463 mg, 0.863 mmol)を30 mL 3口ナス型フラスコに量りとり、減圧乾燥し、アルゴン雰囲気に置換した。ここへPd-Cを15.4 mg量りとり、すぐにアスピレーターを用いてアルゴン置換をおこなったのち、エタノール (8.63 mL)を加え、攪拌しながらアルゴン置換をおこなったのち、攪拌しながら水素雰囲気に置換した。1.5時間後、TLCで確認したのちアルゴン雰囲気に置換し、酢酸エチル5 mLを加えたのち反応液をセライトろ過した。さらに酢酸エチル3 mLで2回洗ったのちろ液と洗液を集め、濃縮して化合物4 (355 mg, 99%)を得た。
Colorless syrup; Rf = 0.08 (MeOH : CHCl3 = 1 : 10); IR (neat) nmax cm-1: 3370, 2980, 2930, 1740, 1730, 1600, 1480, 1460, 1390, 1370, 1250, 1220, 1150, 1040, 990, 950, 920; 1H NMR (CDCl3, TMS = 0.00): d 1.28-1.58 (4H, m), 1.45 (18H, s), 1.46 (9H, s), 1.66 (2H, m), 2.69 (2H, t, J = 6.3 Hz), 3.31 (1H, t, J = 7.2 Hz), 3.45, 3.50 (4H, ABq, J = 17.1 Hz); 13C NMR (CDCl3, CDCl3= 77.16): d 23.16, 28.02, 28.12, 33.43, 41.90, 53.60, 65.23, 80.44, 80.83, 170.55, 172.32; HR-EI-MS m/z 430.3043 [M]+, calcd for C22H42N2O6430.3043.
(4)N-(fluoren-9-ylmethoxycarbonyl)-L-glutamic acid 1-allyl-3-tert-butyl ester(化合物6)の合成
文献(Kaul, R.; Brouillette, Y.; Sajjadi, Z.; Hansford, K. A.; Lubell, W. D. J. Org. Chem. 2004, 69, 6131-6133)の記載を参考にして、化合物6を以下のとおりに合成した。
【0025】
3-tert-Butyl N-(fluoren-9-ylmethoxycarbonyl)-L-glutamate monohydrate(5) (886 mg, 1.99 mmol)を30 mLナス型フラスコに量りとり、減圧乾燥した。これをアルゴン雰囲気に置換し、無水ジクロロメタン10 mL、2-propene-1-ol (0.204 mL, 2.99 mmol)を加えて攪拌した。ここへEDCI (460.0 mg, 2.39 mmol)、N,N-dimethylaminopyridine (24.4 mg, 0.200 mmol)を順に加えて30分間攪拌した。TLCにて確認したのち、氷浴にて冷却し、水 5 mLを加え、クロロホルム5 mLで3回抽出し、飽和食塩水5 mLで有機層を洗ったのち有機層を集めて濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル15 g, ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製し、化合物6(860 mg, 92%)を無色針状結晶として得た。
Colorless needles; Rf = 0.76 (EtOAc : hexane = 1 : 1); mp 74-75 ℃; [a]D27 =-16.6 (c 1.0, MeOH); IR (neat) nmax cm-1: 3360, 3010, 2990, 1750, 1720, 1690, 1510, 1450, 1390, 1370, 1350, 1280, 1250, 1210, 1180, 1150, 1110, 1090, 1040, 990, 980, 940, 850, 760, 740; 1H NMR (CDCl3, TMS = 0.00): d 1.44 (9H, s), 1.98 (1H, m), 2.20 (1H, m), 2.33 (2H, m), 4.19 (1H, t, J = 7.2 Hz), 4.31-4.46 (3H, m), 4.62 (2H, d, J = 5.5 Hz), 5.22 (1H, dd, J = 1.2, 10.5 Hz), 5.30 (1H, d, J = 17.1 Hz), 5.71 (1H, br), 5.88 (1H, tdd, J = 5.5, 10.5, 17.1 Hz), 7.27 (2H, t, J = 7.2 Hz), 7.36 (2H, t, J = 7.2 Hz), 7.57 (1H, d, J = 7.2 Hz), 7.58 (1H, d, J = 7.2 Hz), 7.72 (2H, d, J = 7.2 Hz); 13C NMR (CDCl3, CDCl3 = 77.16): d 27.41, 28.00, 31.43, 47.06, 53.51, 65.99, 66.97, 80.73, 118.84, 119.92, 125.05, 125.09, 127.01, 127.64, 131.45, 141.20, 141.22, 143.66, 143.87, 156.01, 171.75, 172.00; HR-EI-MS m/z 465.2135 [M]+, calcd for C27H31NO6465.2151.
(5)3-Allyl N-(fluoren-9-ylmethoxycarbonyl)-L-glutamate (化合物7)の合成
文献(Kaul, R.; Brouillette, Y.; Sajjadi, Z.; Hansford, K. A.; Lubell, W. D. J. Org. Chem. 2004, 69, 6131-6133)の記載を参考にして、化合物7を以下のとおりに合成した。
【0026】
N-(fluoren-9-ylmethoxycarbonyl)-L-glutamic acid 1-allyl-3-tert-butyl ester(化合物6)(438 mg, 0.946 mmol)を10 mLナス型フラスコに量りとり、0.94 mLのジクロロメタンを加えて溶解させ、氷浴にて攪拌した。ここへトリフルオロ酢酸 (0.94 mL)を加えて0 ℃のまま2時間攪拌し、TLCで確認後、エバポレーターにて濃縮した。さらにトルエン3 mLを加えて濃縮する操作を3回行うと生成物は固体となった。真空ポンプで減圧乾燥し、化合物7(388 mg, 96%)を無色固体として得た。
【0027】
A colorless solids; Rf = 0.60 (MeOH : CHCl3 = 1 : 10); mp 122-123 ℃; IR (neat) nmax cm-1: 3340, 3050, 2950, 1750, 1690, 1530, 1450, 1420, 1340, 1280, 1250, 1210, 1180, 1100, 1090, 1050, 970, 950, 930, 760, 740; 1H NMR (CDCl3, TMS = 0.00): d 1.97 (1H, m), 2.22 (1H, m), 2.43 (2H, m), 4.18 (1H, t, J = 6.6 Hz), 4.33-4.49 (3H, m), 4.61 (2H, d, J = 5.4 Hz), 5.23 (1H, d, J = 10.8 Hz), 5.30 (1H, d, J = 17.1 Hz), 5.64 (1H, br), 5.87 (1H, tdd, J = 5.4, 10.8, 17.1 Hz), 7.28 (2H, t, J = 7.5 Hz), 7.36 (2H, t, J = 7.5 Hz), 7.57 (2H, br d, J = 7.5 Hz), 7.72 (2H, d, J = 7.5 Hz); 13C NMR (CDCl3, CDCl3 = 77.16): d 27.36, 29.97, 47.12, 53.28, 66.34, 67.17, 119.25, 125.05, 125.13, 127.14, 127.78, 131.31, 141.32, 143.69, 143.83, 156.20, 171.75, 178.18; HR-EI-MS m/z 409.1528 [M]+, calcd for C23H23NO6409.1525.
(6)N5-[N-(fluoren-9-ylmethoxycarbonyl)-1-allyl glutamyl]-N1,N1-(di-tert-butoxy
carbonylmethyl)-lysine tert-butyl ester(化合物8)の合成
N1,N1-(di-tert-butoxycarbonylmethyl)-L-lysine tert-butyl ester(化合物4)(310 mg, 0.748 mmol) および3-Allyl N-(fluoren-9-ylmethoxycarbonyl)-L-glutamate(化合物7)(291 mg, 0.680 mmol)を20 mLナス型フラスコに量りとり、真空ポンプにて減圧乾燥を行った。これをアルゴン雰囲気に置換し、無水THF 6.8 mLおよびN-methylmorpholine (0.085 mL, 0.748 mmol)を加えて攪拌し、均一溶液とした。この溶液を氷浴にて0 ℃に冷却し、HOBt (115 mg, 0.748 mmol)、EDCI (144 mg, 0.748 mmol)を順に加えたのち室温に昇温した。1.5時間後、TLCにて反応の終了を確認後、氷浴にて冷却し、水2 mLを加え、酢酸エチル4 mLにて3回抽出し、飽和食塩水 5 mLにて有機層を洗ったのち有機層を集めて濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル 40 g, ヘキサン:酢酸エチル1:1)にて精製し、化合物8 (474 mg, 85%)を無色泡状固体として得た。
Colorless foam; Rf = 0.45 (EtOAc : hexane = 1 : 1); IR (KBr) nmax cm-1: 3310, 2980, 2940, 1740, 1700, 1650, 1540, 1450, 1390, 1370, 1280, 1260, 1220, 1140, 1050, 990, 760, 740; 1H NMR (CDCl3, TMS = 0.00): d 1.44 (18H, s), 1.45 (9H, s), 1.4-1.5 (2H, m), 1.53 (2H, m), 1.64 (2H, m), 2.08 (1H, m), 2.21 (1H, m), 2.34 (2H, m), 3.14-3.34 (2H, m), 3.30 (1H, t, J = 7.8 Hz), 3.42, 3.47 (4H, ABq, J = 17.4 Hz), 4.18 -4.50 (4H, m), 4.63 (2H, d, J = 5.5 Hz), 5.22 (1H, d, J = 10.5 Hz), 5.31 (1H, d, J = 18.0 Hz), 5.89 (1H, tdd, J = 5.5, 10.5, 18.0 Hz), 6.26 (1H, br d, J = 7.5 Hz), 6.57 (1H, br), 7.29 (2H, t, J = 7.3 Hz), 7.38 (2H, t, J = 7.5 Hz), 7.60 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.62 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.74 (2H, d, J = 7.2 Hz); 13C NMR (CDCl3, CDCl3 = 77.16): d 22.68, 27.80, 28.06, 28.16, 29.58, 32.29, 39.30, 47.06, 53.89, 64.65, 65.90, 67.03, 80.78, 81.11, 118.74, 119.90, 125.14, 125.25, 127.03, 127.64, 131.55, 141.18, 141.20, 143.69, 143.94, 156.35, 170.79, 171.79, 172.21, 172.39.
(7)N5-[N-(fluoren-9-ylmethoxycarbonyl)-glutamyl]-a-N1,N1-(di-tert-butoxycarbonylmethyl)-lysine tert-butyl ester(化合物9)の合成
N5-[N-(fluoren-9-ylmethoxycarbonyl)-a-allyl glutamoyl]-a-N1,N1-(di-tert-
butoxycarbonyl methyl)-lysine tert-butyl ester (化合物8) (965 mg, 1.17 mmol)を10 mL ナス型フラスコに量りとり、アルゴン雰囲気に置換した。ここへ無水THF (2.4 mL)およびN-メチルアニリン (0.141 mL, 1.29 mmol)を加えて攪拌したのち氷浴にて冷却し、tetrakis(triphenylphosphine)paradium(0) (40 mg, 0.035 mmol)を加えた。その後室温に昇温して3時間攪拌し、TLCにて反応の終了を確認したのち、そのままカラムクロマトグラフィー(シリカゲル80 g, ヘキサン:酢酸エチル=1:1のち酢酸エチル)にて精製し、化合物9 (722 mg, 79%)を得た。化合物9のNMRチャートを図4に示す。
Colorless foam; Rf = 0.34 (MeOH : CHCl3 = 1 : 10); mp 58-62 ℃; [a]D27 = -10.2 (c 1.0, MeOH); IR (KBr) nmax cm-1: 3350, 2980, 2940, 1730, 1650, 1540, 1450, 1390, 1370, 1250, 1230, 1150, 1080, 1050, 990, 850, 760, 740; 1H NMR (CDCl3, TMS = 0.00): d 1.43 (18H, s), 1.45 (9H, s), 1.4-1.5 (2H, m), 1.5-1.6 (4H, m), 2.14 (2H, m), 2.47 (1H, m), 2.54 (1H, m) 3.12-3.35 (3H, m), 3.40, 3.45 (4H, ABq, J = 17.4 Hz), 4.15 -4.43 (4H, m), 6.11 (1H, d, J = 6.9 Hz), 7.06 (1H, br), 7.30 (2H, t, J = 7.2 Hz), 7.39 (2H, t, J = 7.2 Hz), 7.58 (1H, d, J = 7.2 Hz), 7.61 (1H, d, J = 7.2 Hz), 7.75 (2H, d, J = 7.2 Hz) 10.22 (1H, br); 13C NMR (CDCl3, CDCl3 = 77.16): d 22.56, 27.53, 28.20, 28.32, 29.20, 29.42, 32.34, 39.70, 47.17, 53.57, 54.17, 64.67, 67.21, 81.21, 81.46, 120.06, 125.26, 125.37, 127.19, 127.80, 141.36, 143.80, 144.06, 156.20, 171.11, 172.57, 173.68, 174.19; HR-EI-MS m/z 781.4175 [M]+, calcd for C42H59N3O11781.4150.

実施例2
本願発明のアミノ酸誘導体を含むTATペプチド誘導体である化合物10を合成した。天然アミノ酸からなるペプチド部分の合成には渡辺化学社製試薬を機械にセットし、3サイクル目のNTA基を持つ非天然型アミノ酸の導入に関してはABI社の特殊ペプチド合成の方法に準拠し、アミノ酸誘導体156.3mgをセットし、イソロイシンをロードしたパムレジンを332.8mgを合成開始物としてN末端からGKYGRKKRRQRRRRG(図1の構造)GFIとなるように合成を行い最終工程でFmoc基をはずすプログラムを選択し、自動で合成した。
【0028】
合成終了後、このレジンを機械から取り出し、チオアニソール 0.9mL、m-クレソール0.15mL、トリイソプロピルシラン 0.25mL、トリフルオロ酢酸 6.5mLのカクテルで室温で二時間処理し、切り出しおよび脱保護を行い、上澄みをろ過したのち、ろ液を減圧濃縮し、残渣にエーテル 100mLを加え、化合物10を沈殿させた。沈殿物をろ過し、ろ物をエーテルで洗浄しクルード物120mg得た。このクルード物を水2mLに溶解させ、純水で平衡化したアマシャムファルマシア社製脱塩カラムPD-10にロードし、純水で溶出し、ボイドフラクションを粗抽出液として得た。
【0029】
この粗抽出液を、ワイエムシィ社製の逆相カラムにアプライし、0.1%トリフルオロ酢酸存在下、アセトニトリルを5%から40%のグラジエントをかけ、溶出物を210nmで検出し、18.6分に溶出される主ピークを分取した。溶出のチャートを図6に示す。この操作を繰り返し、集めた溶出液をIWAKI社製の凍結乾燥機で濃縮し精製された化合物10を粉末として3.7mg得た。
【0030】
このサンプルをABI社製のマススペクトルVOYGERにて分子量を計測し、計算値である2648.99と等価な分子量2648.90であることを確認した。このチャートを図5に示す。
【0031】
尚、化合物10にGFIの構造を付加した理由として、化合物10のHPLCによる精製の際、逆送クロマトグラフィーの担体に化合物10がつかなかった事に由来する。その為、より親油性をあげるためフェニルアラニンを含み、なおかつ次のNTA誘導体導入の際に立体障害の影響を与えずらいと考えられるアミノ酸であるグリシンを設定したが、この構造を付加しても、担体に結合しなかった。しかし、粗生成物を脱塩カラムにより処理することにより、カラム担体に結合するようになったので、GFIの構造は必要なかったと考えられる。
実施例3
ヒスチジンタグが付加されたβ-Galactosidaseと、核移行シグナルが付加されたヒスチジンタグを持つβ-Galactosidaseを作成した。
【0032】
インビトロゲン社のヒスチジンタグ付きβ-Galactosidase(his-β-Galactosidase)の発現ベクターpBAD/his/LacZをテンプレ−トしてPCRを行い、Invitrogen社のGenetailorキットを用いて、核移行シグナルが付加されたヒスチジンタグを持つβ-Galactosidase(Nls-his-β-Galactosidase)を大腸菌に発現させるプラスミド(Nls-his-LacZ-pBAD)を作成した。
【0033】
pBAD/his/LacZもしくはNls-his-LacZ-pBADをStratagene社の大腸菌BL-21Coden+に形質転換し、得られた形質転換株にインビトロゲン社のプロトコルに従い、アラビノースを用いて発現を誘導し、Nls-his-LacZ-pBADより核移行シグナルが付加されたヒスチジンタグをNls-his-β-Galactosidaseを、pBAD/his/LacZよりヒスチジンタグが付加したhis-β-Galactosidaseを発現させた。
【0034】
これらの大腸菌を遠心により回収し、Qiagen社のプロトコルに従い、ニッケルキレートカラムNTA セファロース(Qiagen社)を用いて目的蛋白質を非変性条件で精製後、濃縮し、PBSを用いて透析を行い、それぞれのβ-Galactosidaseを得た。
実施例4
1mMの化合物10の水溶液5μlに0.8mM硫酸ニッケル水溶液5μlを加え、5N食塩水3.5μlおよびPBS6.5μlを加え、20mg/mlのhis-β-GalactosidaseもしくはNls-his-β-Galactosidase PBS水溶液(濃度10mg/ml)を加えた。さらに、100μlの50mM燐酸バッファー(pH7.4)を加え、さらに5%ウシ胎児血清を含むPBS 200μlを加えた。24ウエルプレートに95%コンフルエントに撒かれているHela細胞をPBSで3回洗浄し、PBSを取り除いた後に前述の混合液を加え、二酸化炭素5%の存在下、37度で15分間処理した。細胞を10%のウシ胎児血清を含むDMEM-1640培地で2回洗浄し、さらにPBSで2回洗浄した。光学顕微鏡でβ-Galactosidase活性を計測する際は4%パラホルムアルデヒド水溶液で固定後、PBSで洗浄し、Bluo-galでβ-Galactosidase陽性細胞を染色し、光学顕微鏡にて検鏡した。Nls-his-β-Galactosidaseを用いて実施し、上述のとおり染色した活性を顕鏡下で確認した結果を図7に示す。
【0035】
実施例5
細胞内に取り込まれたβ-Galactosidase活性を検出するため、実施例4の実験を4%パラホルムアルデヒド水溶液で固定する前まで行い、細胞をトリプシン/EDTA溶液で処理し、細胞膜外にあるβ-Galactosidase誘導体を分解すると共に細胞をディッシュから剥がし、10%のウシ胎児血清を含むDMEM-1640培地を用いて、試験管内で遠心を用いて洗浄した。
【0036】
3回洗浄後、細胞をプロメガ社のルシフェラーゼ活性検出用の細胞溶解液を用いて、細胞内β-Galactosidase活性を抽出し、プロメガ社のプロトコールに従って、β-Galactosidase活性をOPNGの分解による405nmの吸光度を測定し、細胞内β-Galactosidase活性を定量した。導入の条件を調べるため、Nls-his-β-Galactosidase、ニッケル塩、化合物10を各々加えない比較実験を行い、TATペプチド誘導体(化合物10)、ニッケルイオン、Nls-his-β-Galactosidaseを全て加える事がβ-Galactosidase活性の細胞への導入に必要であることを証明した。この事をHela細胞を用いた結果を図8に、293細胞を用いた結果を図9に示した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の化合物の合成ルートである。
【図2】アミノ酸構造を有する化合物の化学構造を示す。
【図3】実施例で作成したTATペプチド誘導体である化合物10の化学構造を示す。
【図4】本発明の化合物9の核磁気共鳴チャートである。
【図5】TATペプチド誘導体のマススペクトルである。
【図6】TATペプチド誘導体の高速逆相クロマトグラフィーのチャートである。目的物はピーク2である。
【図7】TATペプチド誘導体とβ-galactosidaseとニッケルイオンを混合し、Hela細胞にβ-galactosidaseを導入した場合の、β-galactosidase活性をX-galにより検出した例とそのコントロールを示す。
【図8】TATペプチド誘導体とβ-Galactosidaseの複合体をHela細胞に導入し、細胞内に導入されたβ-Galactosidase活性の導入条件と導入効率を示す。
【図9】TATペプチド誘導体とβ-Galactosidaseの複合体を293細胞に導入し、細胞内に導入されたβ-Galactosidase活性の導入条件と導入効率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学構造を有するペプチド合成用の化合物。
【化1】

【請求項2】
アミノ酸残構造を有する請求項1の化合物。
【請求項3】
請求項2の化合物を含む細胞膜透過性ペプチド誘導体。
【請求項4】
化合物に金属を配位させた請求項3の細胞膜透過性ペプチド誘導体。
【請求項5】
請求項4の細胞膜透過性ペプチド誘導体と蛋白質とが非共有結合した複合体。
【請求項6】
請求項5の複合体を細胞に接触させることを特徴とする蛋白質細胞導入方法。
【請求項7】
複合体を形成させ、次いでこの複合体を細胞に接触させる請求項6の蛋白質細胞導入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−24642(P2008−24642A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198681(P2006−198681)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(501026318)
【出願人】(506248672)
【Fターム(参考)】