説明

ペプチド固定化基板及びそれを用いた標的タンパク質の測定方法

【課題】標的タンパク質による認識に必要な構造をとらせることができ、正確なローディング量を達成することができ、微量の標的タンパク質を正確、かつ簡便に測定することができる、標的タンパク質測定用ペプチド固定化基板が開示されている。
【解決手段】本発明の標的タンパク質測定用ペプチド固定化基板は、所期の立体構造又は標的タンパク質との結合能を有する化学合成されたペプチドであって、標的タンパク質と結合することが可能なペプチドを基板上に固定して成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的タンパク質を測定するためのペプチド固定化基板及びそれを用いた標的タンパク質の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内に存在するするタンパク質の機能解析は重要な課題である。これら発現タンパク質に関する同定・定量法は研究分野における細胞機能の解明等から医療における診断治療まで社会的に広い要求度を満たすものである。タンパク質の同定・定量の手段として抗体を用いる手法や特定タンパク質をアレイにするなどの様々なバイオセンサーシステムが知られている。
【0003】
従来のプロテインチップ開発のコンセプトは、構造既知のタンパク質あるいはタンパク質を部分フラグメント化したペプチド断片の固定化である。抗体分子の固定化も同様である。この方法では固定化のローディング量の定量性に問題があり、均一な固定化が困難である。特に固定化の収量(ローディング量)は一般に低く、さらにペプチドフラグメントの性質に依存しているため、確実性に欠け、汎用化・普及化に難点がある。また、部分フラグメント化では、切断における特異性(特異性無しではランダム断片となりチップ固定化の場合に固定化された分子の特定ができない)による切断部位の制限が生じ、自由なデザインはできない。また、このようにして固定化されたタンパク質は実際には生体での構造とは異なる構造となり、目的の認識を起こさせるために不可欠な構造をとらない可能性もある。これらは実用上の難点となっている。
【0004】
また、従来、溶液中で例えば蛍光光度計等を用いてペプチドタンパク質の相互作用を検定する方法が知られているが、この方法では相当量のサンプルが必要であり、従ってサンプル調製に多大な時間を要した。最近では表面プラズモンなどの手法も用いられるが装置が高額であること、感度が一般に低いこと、また遠隔地で簡便に測定することは不可能である。従って、従来の方法では多数のサンプルの処理に難点があった。
【0005】
【非特許文献1】W. E. Stites, Chem Rev, 97, 1233-1250 (1997)
【非特許文献2】D. P. Fairlie et al, Curr. Medicinal Chem., 5, 29-62 (1998)
【非特許文献3】A. G. Cochran, Chem & Biol, 7, R85-R94 (2000)
【非特許文献4】軒原清史、有機合成化学協会誌、52, 347-358, 1994、「高効率ペプチド合成:多種品目同時自動合成とペプチドライブラリー」;
【非特許文献5】軒原清史、横溝義男、島津評論、52、1-8、1995、「Fmoc-tBuストラテジーによる合成ペプチドの切り出し法」;
【非特許文献6】軒原清史、島津評論、 50, 13-24, 1993
【非特許文献7】軒原清史、山本林太郎、狭間 一、中村伸、島津評論、 50, 33-43, 1993
【非特許文献8】K. Nokihara, R. Yamamoto, M. Hazama, O. Wakizawa, S. Nakamura, and M. Yamaguchi, Peptide Chemistry 1991, ed., A. Suzuki, Protein Research Foundation, Osaka, 203-208, 1992, "Development and Applications of a Novel and Practical Simultaneous Multiple Solid Phase Peptide Synthesizer"
【非特許文献9】Chan, W. C.; White, P. D. Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach; Oxford University Press: New York, 2000; pp 41- 76.
【非特許文献10】K. T. O'Neil and W.F.DeGrado, Trend Biochem Sci, 15, 59-64 (1990)
【非特許文献11】F.J. Blanco et al., Eur J Biochem 200, 345-351 (1991)
【非特許文献12】S. Ono et al, Biosci Biotechnol Biochem, 62, 1621-1623 (1998)
【非特許文献13】安原義、軒原清史、古庄律、片岡榮子、東農大農学集報, 43, 260-267, 1999
【非特許文献14】K. Gregorius, S. Mouritsen, H. I. Elsner, J. Immunol. Meth., 1995, 181, 65-73.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、標的タンパク質による認識に必要な構造をとらせることができ、正確なローディング量を達成することができ、微量の標的タンパク質を正確、かつ簡便に測定することができる、標的タンパク質測定用ペプチド固定化基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、所期の立体構造又は標的タンパク質との結合能を有する化学合成されたペプチドであって、標的タンパク質と結合することが可能なペプチドを基板上に固定したペプチド固定化基板により上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成した。さらに、複数の化学合成ペプチドを基板に固相化し、該標的タンパク質を含むかもしれない被検試料とを反応させ、各ペプチドについて測定した信号に、視認可能な物理量を割り当て、各ペプチドについての視認可能な測定データを並べて出力することにより、容易、簡便に被検試料中のタンパク質を測定することができ、また、未知の被検試料中に含まれるタンパク質の同定又は特徴付が可能となることに想到して本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、所期の立体構造又は標的タンパク質との結合能を有する化学合成されたペプチドであって、標的タンパク質と結合することが可能なペプチドを基板上に固定して成る標的タンパク質測定用ペプチド固定化基板を提供する。また、本発明は、上記本発明のペプチド固定化基板と、前記標的タンパク質を接触させ、前記ペプチドに結合した標的タンパク質を、前記信号の変化により測定する、標的タンパク質の測定方法を提供する。さらに、本発明は、所期の立体構造又は標的タンパク質との結合能を有する又は有する可能性がある化学合成されたペプチドであって、標的タンパク質と結合することが可能な又は可能かもしれない複数の化学合成ペプチドを同一又は異なる基板上に固相化したものと、該標的タンパク質を含むかもしれない被検試料とを反応させる工程と、ペプチドと標的タンパク質との結合により変化する信号を測定する工程と、各ペプチドについて測定した信号に、視認可能な物理量を割り当て、各ペプチドについての視認可能な測定データを並べて出力する工程とを含む、被検試料中のタンパク質の測定方法を提供する。さらに、本発明は、種々の被検試料について上記した複数の化学合成ペプチドを用いる本発明の測定方法を行い、出力された測定データを蓄積してデータベース化し、未知試料についての測定データを、データベース化された測定データと比較して未知試料の同定又は特徴付けを行う、被検試料中のタンパク質の同定又は特徴付け方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により微量の標的タンパク質を正確、かつ簡便に測定することができる、新規な標的タンパク質測定用ペプチド固定化基板が提供された。本発明のペプチド固定化基板は、ペプチドが化学合成されたものであり、アミノ酸の側鎖の官能基を保護あるいは無保護の状態で基板に固定化することができ、すなわち、ペプチドの特定の位置で基板に固定化することができ、有効な固定化量を任意にコントロールすることができる。また、ペプチドのデザインは自由に行うことができ、任意の位置に任意の標識や機能性分子団を結合させたり、天然のタンパク質中には存在しないアミノ酸を含むペプチドを用いることができる。また、本発明のフィンガープリント法によれば、被検試料中に含まれるタンパク質の同定又は特徴付けが容易、迅速に行うことができ、また、多数の被検試料や未知の被検試料についても測定可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、基板上に固定されるペプチドは、所期の立体構造又は標的タンパク質との結合能を有する化学合成されたペプチドである。天然に存在する多くのタンパク質は、特定の立体構造を有するオリゴペプチドを分子認識して結合する性質を有している(文献:W. E. Stites, Chem Rev, 97, 1233-1250 (1997), protein-protein 構造と結合の熱力学:Protein-protein interactions:Interface structure, binding thermodynamics, and mutational analysis(非特許文献1); D. P. Fairlie et al, Curr. Medicinal Chem., 5, 29-62 (1998) Toward protein surface mimetics タンパク質立体構造の表面を模倣したペプチド設計とターゲットタンパク質との相互作用(非特許文献2);A. G. Cochran, Chem & Biol, 7, R85-R94 (2000) Antagonist of protein-protein interactions(非特許文献3))。そして、どのタンパク質がどのような立体構造を有するオリゴペプチドと結合するかは決まっている。本発明で用いるペプチドは、まず第1に、このような特定の立体構造を有するペプチドである。タンパク質と結合するオリゴペプチドの立体構造としては、α−ヘリックス、α−ループ−α、β−ターン、β−ループ−β、β−ストランド等、種々の立体構造がある。基板に固定するペプチドとしては、このような特定の立体構造を有するペプチドが挙げられる。なお、これらの立体構造は、標的タンパク質と結合した状態で当該ペプチドがとる構造であり、ペプチドが単に基板上に固定されている状態では必ずしもこのような立体構造をとるものではない。本発明で言う、「所期の立体構造を有する」とは、標的タンパク質と結合した状態において所期の立体構造を有するという意味である。なお、ペプチドの所期の立体構造は、ペプチド全体がとる必要はなく、ペプチドの大部分の領域(好ましくはアミノ酸数で60%以上、さらに好ましくは70%以上の領域)が所期の立体構造を有していればよい。従って、ペプチドの一端部又は両端部には、後述する標識を結合することができ、それによってその部分が所期の立体構造の形成に関与していなくてもよい。むしろ、基板と結合したり標識を結合したりする領域(以下、「結合領域」と言うことがある)と、標的タンパク質との結合に供する領域とを分離し、標的タンパク質との結合に供する領域(以下、「コア領域」と言うことがある)は、当該結合にとって最適の立体構造を有していることが好ましい。この場合、コア領域の一端又は両端に、結合領域が付加されていることが好ましい。また、上記の立体構造を有するペプチドは、環状に形成されていてもよい。環状に形成することにより、タンパク質との結合アフィニティが大きく向上する場合がある。なお、ペプチド抗原を化学合成してペプチドとして用い、抗体を測定することも可能であるが、ペプチドと標的タンパク質との結合は、抗原抗体反応である必要は全くない。
【0011】
上記した各立体構造を有するオリゴペプチドと結合するタンパク質としては、次のようなものが例示できる。すなわち、α−ヘリックス構造を有するオリゴペプチドと結合するタンパク質としてはカルモジュリン、HIVのgp41タンパク質;β−ループ構造を有するオリゴペプチドと結合するタンパク質としてはアミラーゼ;βストランドペプチドと結合するタンパク質としてはMHCタンパク質、アスパラギン酸プロテアーゼ、HIV-1プロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ;β−ループ−β、βターンペプチドと結合するタンパク質としてはフィブロネクチン、LH-RHレセプター、substance Pレセプター、ソマトスタチンレセプター等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0012】
ペプチドとしては、上記した所期の立体構造を有するものに加え、例えばタンパク質との相互作用が知られている有機分子団(機能性分子団)を特定位置に導入したような、標的タンパク質との結合能を有するペプチド誘導体であってもよい。このような機能性分子団の例として、ポルフィリン誘導体(ヘム)、フラビン誘導体、レチナールやパルミチル基等のアルキル基、核酸塩基、ペプチド核酸等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0013】
これらの機能性分子団と結合するタンパク質としては、例えば、ポルフィリン誘導体(ヘム)含有ペプチドと結合するタンパク質としてアポヘムタンパク質、フラビン誘導体含有ペプチドと結合するタンパク質としてアポフラビンタンパク質、レチナールやパルミチル基等のアルキル基を含有ペプチドと結合するタンパク質としてリポカリン属、核酸塩基を含有ペプチドと結合するタンパク質としてDNA分解酵素、RNA分解酵素、各種遺伝子機能制御タンパク質、RNA結合性タンパク質等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0014】
所期の立体構造を有するペプチド又は標的タンパク質との結合能を有するペプチドを基板上に固定した本発明のペプチド固定化基板の概念を図1に模式的に示す。
【0015】
特定の立体構造をとらせるために、アミノ酸配列をどのようにすればよいかということは現在の技術ではコンピューターを用いて容易に決定することができる。このような分子設計を行うコンピューターソフトは市販されており、市販のコンピューターソフトを用いて、所期の立体構造を有するペプチドの配列を容易に決定することができる。なお、ペプチドのサイズは特に限定されないが、通常、アミノ酸数で2〜50個程度が好ましく、さらに好ましくは5〜20個程度である。
【0016】
基板上に固定化されたペプチドに結合した標的タンパク質は、種々の方法で測定することができる。例えば、固定化するペプチドを、標的タンパク質と結合することにより信号が変化する標識により標識しておき、その標識の変化に基づいて、標的タンパク質を測定する方法、表面プラズモン共鳴法、表面プラズモン共鳴法においてプリズムを用いない1変法であるGrating法、質量分析法等を採用することができるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、固定化するペプチドを、標的タンパク質と結合することにより信号が変化する標識により標識しておき、その標識の変化に基づいて、標的タンパク質を測定する方法が最も高感度で再現性が高く、好ましい。
【0017】
上記の通り、本発明で用いるペプチドは、標的タンパク質と結合することにより信号が変化する標識により標識されていることが好ましい。このような標識の例として、蛍光標識、スピン標識、紫外光・可視光吸収色素、ラジオアイソトープ、安定同位体、化学発光反応を起こさせる酵素(アルカリフォスファターゼ、アシッドフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、グリーンフルオレッセンスタンパク質等)等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。これらのうち蛍光標識が最も好ましい。蛍光標識としては、フルオレッセイン、及びカルボキシフルオレッセインのような、フルオレッセイン構造を有するその誘導体、ダンシル基やエチルダンシル基、およびそれらのようにダンシル基構造を有するその誘導体、クマリン誘導体、ピレン誘導体、ナフタレン誘導体等等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。なお、これらの蛍光標識用試薬自体は周知であり、多くのものは市販もされている。また、市販の蛍光色素をアミノ基等のアミノ酸中の置換基に結合してアミノ酸を標識する方法自体は周知である。例えば、実施例1に記載した操作と同様にリシンやグルタミン酸あるいはシステイン残基側鎖やペプチドのアミノ末端やカルボキシル末端に共有結合により導入することがより容易に行うことができる。また合成に用いる各種の蛍光標識ビルディングブロックが米国Molecular Probe社等から市販されており、これらを購入してそのまま使用することも可能である。
【0018】
蛍光標識するために用いられる好ましい例として、テトラメチルローダミン及びカルボキシフルオレッセインの化学構造を下記式[I]及び[II]にそれぞれ示す。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
上記した標識は、ペプチドと標的タンパク質とが結合することによって、標識が発する信号が変化する。単一の標識をペプチドに結合させている場合でも変化するが、複数の異なる標識をペプチドの異なる位置に結合しておくと、信号の変化をより鋭敏に検出することができ、検出感度をより高めることができ、好ましい。特に好ましい態様では、蛍光波長の異なる2種類の蛍光色素をペプチドの異なる位置に結合する。このようにすることによって、蛍光共鳴エネルギー移動系(FRET)を利用して鋭敏な検出が可能になる。なお、FRETを実現するための好ましい蛍光標識の組合せとして、フルオレッセイン誘導体とローダミン誘導体、ダンシル誘導体とフルオレッセイン誘導体、ピレン誘導体とフルオレッセイン誘導体等が挙げることができるがこれらに限定されるものではない。またFRETと同様の機構を利用する蛍光消光系のための好ましい蛍光標識の組合せとして、ダンシル誘導体とダブシル誘導体、ピレン誘導体とニトロベンゼン誘導体等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
標識を結合する位置は、ペプチドの一端部又は両端部が好ましく、両端部にそれぞれ異なる標識、好ましくは蛍光波長の異なる2種類の蛍光標識を結合することが好ましい。
【0023】
また、ペプチドの一端は、基板に結合するためのシステインであるペプチドが好ましい。
【0024】
従って、好ましいペプチドの一例として、図2に示す構造を有するものを挙げることができる。図2中、A、B、はその側鎖に蛍光標識を導入したアミノ酸残基である。この場合はCys残基側鎖のスルフィドリルを介して基板に上記ペプチド鎖を固定化する。
【0025】
図2に示すペプチドの好ましい例として、Bをそのε位にテトラメチルローダミンを導入したLys残基とし、Aをそのε位にフルオレセインを導入したLys残基としたものを挙げることができる。このような構造とすることにより2種の異なる蛍光基団をペプチド鎖の両端に持つ標識ペプチドとなり、FRET法による測定が可能となる。なお、A,Bのアミノ酸残基の所はLysのみではなく、Orn(オルニチン)やGlu(グルタミン酸)、システインなど反応性の比較的高い官能基をもつ化合物であれば何でも良い。この反応性の高い官能基を利用して標識用の基団を導入することにより、ビルディングブロックができる。また、当該立体構造をとるペプチド配列中に同様の反応性の側鎖官能基が無ければペプチド合成(アミノ酸残基のアッセンブリー)のあとで位置特異的に標識基を導入することも可能である。これらの合成法はペプチド合成化学では定法である。下記表1に記述したが、Cysに限らす、表1に示す組み合わせの官能基の片方が使える、すなわち当該立体構造をとるペプチド配列中に同様の反応性の側鎖官能基が無ければ位置特異的に固定化が可能である。また、Cysなど固定化に用いる残基はC末端(上図のBの後に配置する事もできる)。すなわち、図2に示される2個の構造のうちの下側に示される構造とすることもできる。なお、図2中、「立体構造をとるペプチド鎖」と記載されている部分が上記コア領域に該当する。
【0026】
本発明に用いるペプチドは、化学合成したものである。化学合成したペプチドを用いることにより、アミノ酸の側鎖の官能基を保護した状態でペプチドを合成し、かつ、合成されたペプチドを位置特異的に基板に結合させることができる。固定化するペプチドは保護ペプチドの場合は固定化後に脱保護する。フリーのペプチド(無保護のペプチド)を固定化する事も可能である。たとえば末端にCys残基を配置したり、アビジン・ビオチンの片方を末端に配置したりする事によって無保護でも容易に特定位置での結合が可能である(下記表1参照)。これにより、ペプチドは、所定の位置で基板に結合させることができ、基板への有効な(すなわち、所期の立体構造をとり得る)固定化量を任意にコントロールすることができる。なお、保護された官能基は、ペプチドを基板に結合した後、通常、脱保護される。すなわち、特に相互作用をするタンパク質と出会った時に、所期の立体構造をとり得ない位置でペプチドが基板に結合されることを確実に防止することができる。また、ペプチドを化学合成することにより、合成後に容易に精製、検定を行うことができ、基板への固定化量を確実にコントロールすることができる。さらに、上記した機能性分子団や、標識を容易にアミノ酸に導入することができ、ひいてはペプチドに結合させることができる。さらに、特定の立体構造をとるために、天然のタンパク質中には存在しないアミノ酸を用いることが好ましい場合には、そのようなアミノ酸を容易にペプチドに組み入れることができる。従って、ペプチド鎖を構成するアミノ酸残基の全部又は一部がDアミノ酸等の非天然アミノ酸であるペプチド、あるいはヘム、フラビン・アルキル鎖等アミノ酸以外の機能性基を含有するペプチド等も固定化ペプチドとして採用することができ、測定の自由度が大幅に高まる。
【0027】
ペプチドの化学合成自体は周知の方法で行うことができ、市販のペプチド合成機を用いて容易に行うことができる。この場合、上記のように、アミノ酸の側鎖の官能基を保護した状態で行うことが好ましい。なお、アミノ酸の側鎖の官能基を保護する方法自体は周知であり、例えば、軒原清史、有機合成化学協会誌、52, 347-358, 1994、「高効率ペプチド合成:多種品目同時自動合成とペプチドライブラリー」;軒原清史、横溝義男、島津評論、52、1-8、1995、「Fmoc-tBuストラテジーによる合成ペプチドの切り出し法」;軒原清史、島津評論、 50, 13-24, 1993, 「高効率ペプチド固相法合成のための試薬」;軒原清史、島津評論、 50, 3-12, 1993, 「ペプチド化学合成の基礎」;軒原清史、山本林太郎、狭間 一、中村伸、島津評論、 50, 33-43, 1993「実用的多種品目自動ペプチド合成機PSSM-8の開発」;K. Nokihara, R. Yamamoto, M. Hazama, O. Wakizawa, S. Nakamura, and M. Yamaguchi, Peptide Chemistry 1991, ed., A. Suzuki, Protein Research Foundation, Osaka, 203-208, 1992, "Development and Applications of a Novel and Practical Simultaneous Multiple Solid Phase Peptide Synthesizer";Chan, W. C.; White, P. D. Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach; Oxford University Press: New York, 2000; pp 41- 76.等に記載されている方法等により容易に行うことができる。
【0028】
化学合成したペプチドを、次に基板に固定化する。これは、例えば、ペプチドのアミノ基やカルボキシル基等を基板上のアミノ基やカルボキシル基等と反応させて共有結合させることにより好ましく行うことができる。あるいは、ペプチドにビオチン又はアビジンを結合し(これは所望のアミノ酸の側鎖の官能基を介して常法により行うことができる)、基板上に固定化されたアビジン又はビオチンと結合させることもできる。基板上への固定化に利用できる、基板上の官能基(及び物質)と、ペプチド上の官能基(及び物質)の組合せの例を下記表1に示す。なお、表1に示す官能基(又は物質)同士の反応によりペプチドを基板上に固定化する方法自体は周知である。また、表1に示される官能基(又は物質)を有する基板の調製方法も周知であり、市販もされており、市販の基板を好ましく用いることができる。
【0029】
【表1】

【0030】
なお、基板に固定化する各ペプチドの量は、何ら限定されるものではなく、被検試料中に含まれる標的タンパク質の濃度や、ペプチドと標的タンパク質の反応性等に応じて適宜設定されるが、例えば、1fmol (1 femto mol)〜 1000nmol程度、好ましくは 0.01 pmol-1000 pmol 程度である。
【0031】
また、ペプチドの基板への結合は、物理吸着によっても行うことができる。この場合、ペプチドの固定化は、ペプチドを緩衝液中に溶解した溶液と担体とを接触させることにより行うことができる。この場合、固定化化反応は、従来と同様、例えば室温で15分間〜2時間程度、4℃なら一夜程度で行うことができる。また、固定化に用いるペプチド溶液の濃度は、ペプチドの種類や測定すべき検体中の物質の種類や濃度に応じて適宜選択することが可能であり、例えば、1 ng/ml 〜 100μg/ml 程度を例示することができる。
【0032】
ペプチドを基板に結合した後、アミノ酸の側鎖の官能基を脱保護する。脱保護の方法も周知であり、例えば、文献例えば、軒原清史、有機合成化学協会誌、52, 347-358, 1994、「高効率ペプチド合成:多種品目同時自動合成とペプチドライブラリー」(非特許文献4);軒原清史、横溝義男、島津評論、52、1-8、1995、「Fmoc-tBuストラテジーによる合成ペプチドの切り出し法」(非特許文献5);軒原清史、島津評論、 50, 13-24, 1993, 「高効率ペプチド固相法合成のための試薬」(非特許文献6);軒原清史、山本林太郎、狭間 一、中村伸、島津評論、 50, 33-43, 1993「実用的多種品目自動ペプチド合成機PSSM-8の開発」(非特許文献7);K. Nokihara, R. Yamamoto, M. Hazama, O. Wakizawa, S. Nakamura, and M. Yamaguchi, Peptide Chemistry 1991, ed., A. Suzuki, Protein Research Foundation, Osaka, 203-208, 1992, "Development and Applications of a Novel and Practical Simultaneous Multiple Solid Phase Peptide Synthesizer"(非特許文献8); Chan, W. C.; White, P. D. Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach; Oxford University Press: New York, 2000; pp 41- 76.(非特許文献9)等に記載されている脱保護の手法を用いること等により容易に行うことができる。一般に固相合成法におけるクリーベイジの手法(樹脂からのペプチドの切断と同時に側鎖脱保護を行う手法)がそのまま使える。当該ペプチド固定化基板のクリーベイジ条件での反応ではペプチドが基板から切断されることは無い。
【0033】
本発明のペプチド固定化基板では、1枚の基板上に複数種類のペプチドを、それぞれ特定の領域に固定化することが好ましい。そうすることによって、検体中の複数の標的タンパク質を同時に測定することができる。ペプチドの種類の数は、何ら限定されないが、通常、1枚の基板上に100〜10000種類、特には1000〜3000種類程度のペプチドを固定化することが好ましい。なお、基板としては、化学合成ペプチドを結合できるものであるなら何ら限定されるものではなく、例えば従来のDNAチップ等と同様な、スライドガラスのようなガラス基板を用いることができる。また、基板上に微小な凹部や溝を形成したものであってもよいし、マイクロプレートのウェル等も基板として利用することができる。マイクロプレートのウェルを基板として利用する場合には、各ウェルの内壁がそれぞれペプチド固定化基板を構成する。なお、ペプチドを物理吸着により固定化する場合には、ペプチド溶液を注入することができるように、基板としてはマイクロプレートのウェルや、スライドガラス等のチップに設けた溝や穴等の凹部を用いることが好ましい。物理吸着でペプチドを固定化する場合に凹部を基板として利用すると、標的タンパク質との反応時に、固定化したペプチドの一部が溶液中に溶出しても問題なく測定を行うことができる。
【0034】
本発明のペプチド固定化基板は、標的タンパク質の測定に用いることができる。ここで、「測定」には検出と定量の両者が包含される。
【0035】
標的タンパク質の測定は、標的タンパク質を含むかもしれない検体をペプチド固定化基板上に添加し、反応させた後、チップを洗浄し、信号を測定することにより行うことができる。検体との反応は、特に限定されないが、通常、4℃〜40℃で1分間〜3時間程度、好ましくは、室温で1分間〜15分間程度行われる。
【0036】
検体としては、何ら限定されるものではなく、動物細胞破壊液、植物細胞破壊液、菌体破壊液、ウイルス破壊液、および各分画成分、血液、血清、血漿、尿、便、唾液、組織液、髄液等の体液や、各種食品、飲料等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0037】
本発明のペプチド固定化基板を用いることにより、標的タンパク質を正確、かつ、簡便に測定することができる。
【0038】
なお、本発明のペプチド固定化基板は、所期の標的タンパク質の測定に用いることができるだけではなく、未知の標的タンパク質のスクリーニングにも用いることができる。すなわち、特定の立体構造をとり得る基本的なオリゴペプチドの種類の数は10種程度と考えられるが、それらペプチドの構成アミノ酸側鎖のサイズや酸性度、塩基性度、芳香族性、脂肪族性などの組み合せから基本的なペプチドとして約3000程度と考えられる。従って、これらの3000種類のペプチドをそれぞれ化学合成して本発明のペプチド固定化基板を作製し、これに種々のタンパク質を反応させる。そうすることによって、どのようなタンパク質がどのような立体構造のペプチドと結合するかを調べることができる。その結果をデータベース化していけば、極めて多種類のタンパク質を測定することができるようになり、これは各種疾病の診断や新薬の開発等に大いに貢献するものと考えられる。さらに非天然アミノ酸等の組み込みによる多様性も含めるとオリゴペプチドの種類は100万種を越える。これらの多くの種類のペプチドによって認識の種類をさらに細分化することが可能となり、診断などに用いた場合の精度は向上すると考えられる。
【0039】
上記した本発明の方法を、複数の化学合成ペプチドについて行い、各ペプチドについて測定した値に応じて違いが肉眼で認識できるデータに変換し、各ペプチドについての視認可能なデータを並べて出力することにより、容易、簡便に被検試料中のタンパク質を測定することができ、また、未知の被検試料中に含まれるタンパク質の同定又は特徴付が可能となる。
【0040】
ここで、肉眼で認識できるデータの好ましい例として、色相、明度及び/又は彩度等の色に関する物理量を挙げることができ、各ペプチドについての前記測定値に応じて肉眼で色の違いが認識できることが好ましい。これにより、各測定値を肉眼で識別可能になり、それらを並べて出力する。このようにすることにより、各ペプチドについての測定値によって、色模様が形成される。基板に固相化される化学合成ペプチドの数を大きくすれば、この色模様は、各被検試料について固有のものとなり、あたかもフィンガープリント(指紋)として機能する(以下、肉眼で認識可能なデータに変換することを含む本発明の方法を、便宜的に「フィンガープリント法」と言うことがある)。
【0041】
種々の数値の差を、視認可能なデータにする作業は、市販のコンピューターソフトウェアを用いて容易に行うことができる。すなわち、データ整理のために、数値の差を視認可能にする、データ整理ソフトが市販されており、例えば、Igor Pro ver.4.04 (WaveMetrics, Inc.より市販)を一例として挙げることができる。このようなデータ整理ソフトを用いると、例えば、固相化された化学合成ペプチドと反応前後の蛍光強度の変化率を測定値としてソフトに入力することにより、例えばこの変化率が大きいほど黄色がかった色が出力されるようにすることができる(どのような色にするかはソフトで選択可能)。そして、各測定値に対応する色は、並べて出力されるようになっている。従って、各被検試料について、カラーの縞模様が得られることになる。このカラーの縞模様は、被検試料中に含まれるタンパク質の種類や量に応じて固有のものとなるので、フィンガープリントとして未知の試料中に含まれるタンパク質の同定や特徴付け(特徴ないしは性質を判定したり、同定したりさらには含有量の推定等)が可能になる。
【0042】
この方法の場合、被検試料中に標的タンパク質が複数含まれていてもよい。複数の標的タンパク質が含まれる場合でも、標的タンパク質の種類や量に応じて固有の色模様が出力されるので、試料のフィンガープリントとして利用できる。また、この場合には、各標的タンパク質と結合する各化学合成ペプチドが基板に固相化されていることが好ましい。もっとも、複数の標的タンパク質のうち、1又は2以上のものと結合する化学合成ペプチドが存在しない場合でも、それに応じた色模様が形成されるので必ずしも支障はない。
【0043】
フィンガープリント法の場合、化学合成ペプチドとして、標的タンパク質と結合する可能性がある(すなわち結合しない可能性もある)ものも基板に固相化しておくことができる。例えば、下記実施例に記載するように、各ペプチドの一部にランダムな領域を含めた化学合成ペプチドを固相化してもよい。このような場合、どのペプチドがどのような標的タンパク質と結合するのか不明であるが、ともかく、被検試料中に含まれる標的タンパク質の種類や量に応じて固有の色模様が出力されるので、試料のフィンガープリントとして利用できる。
【0044】
フィンガープリント法により、化学合成ペプチドが固相化された同一の基板を用いて多数の被検試料について測定を行い、出力された測定データを蓄積してデータベース化し、未知試料についての測定データを、データベース化された測定データと比較することにより未知試料の同定又は特徴付けが可能になる。
【0045】
フィンガープリント法も、基本的に上記したペプチド固定化基板を用いた本発明の方法の一態様であるから、化学合成ペプチドやその標識、結合方法、被検試料、反応条件などの説明は、全て上記の記述があてはまる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
図3に模式的に示すように、αヘリックス構造をとるペプチドの両端部を異なる蛍光標識で標識したペプチドを基板に結合したペプチドチップを用いてカルモジュリンを測定した。これらは具体的に次のようにして行った。
【0048】
αヘリックス構造を形成するペプチドのコア領域配列は、文献(K. T. O'Neil and W.F.DeGrado, Trend Biochem Sci, 15, 59-64 (1990)(非特許文献10))のペプチドのアミノ酸配列を参考にし、コンピュータを用いた分子モデリング(米国Molecular Simulation 社,Insight II / Discoverを用いた分子モデリング)を用いて設計した。その結果、コア領域のアミノ酸配列は、Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-とした。この配列に固定化のアンカーのためのCys残基、蛍光標識をした残基としてGlu(Rf1), Lys(Rf2)あるいはLys(Rf3)をそれぞれ追加しCys-Glu(Rf1)-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Lys(Rf2)-NH2あるいは Glu(Rf1)-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Lys(Rf2)-Cys-NH2 あるいはLys(Rf3)-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Cys-NH2を合成した。Rf1,Rf2, Rf3はそれぞれ蛍光基団エチルダンシル基、ダプシル基、カルボキシフルオレッセイン基である。グルタミン酸やリシンのアミノ酸の側鎖に蛍光基(図3におけるA、B)を導入した蛍光性アミノ酸誘導体を合成しビルディングブロックとして合成に用いた。ダブシル基のついたカルボン酸をジイソプロピルカルビジイミドを用いてN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル誘導体に導いた。Fmoc-Lys-OH(スイスNovabiochem社、製品番号#04-12-1042)の側鎖アミノ基と上記活性エステルとを常法にしたがってジメチルホルムアミド中、室温で、一夜撹拌したのち、反応混合物を濃縮、エーテルで沈殿させて蛍光標識(図3におけるB)をしたFmoc-Lys(Rf2)-OHを得た。収率80%。(Fmoc:フルオレニルメチルオキシカルボニル)。またグルタミン酸Fmoc-Glu-OBut(tertブチルエステル)(スイスNovabiochem社、製品番号#04-12-1075)の側鎖に蛍光基(図3におけるA、エチルダンシル基)を導入した蛍光性アミノ酸Fmoc-Glu(Rf1)-OHを合成した。すなわち Fmoc-Glu-OButの側鎖カルボン酸とエチルダンシルとをジオキサンー水(3:1)中で水溶性カルボジイミドにより縮合後、トリフルオロ酢酸によりtertブチルエステルを除去し、Fmoc-グルタミン酸エチルダンシルを合成した。収率60%。さらに、カルボキシフルオレッセインをジイソプロピルカルビジイミドを用いてN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル誘導体に導き、Fmoc-Lys-OH(スイスNovabiochem社、製品番号#04-12-1042)の側鎖アミノ基と上記活性エステルとを常法にしたがってジメチルホルムアミド中、室温で、一夜撹拌したのち、反応混合物を濃縮、エーテルで沈殿させて蛍光標識をしたFmoc-Lys(Rf3)-OHを得た。収率85%。
【0049】
これらをビルディングブロックとして用いて、常法のFmoc法による固相ペプチド合成により図のA、B標識付き合成ペプチドを各15マイクロモルスケールで合成した。すなわち、TentaGel SRAM 、ドイツRapp Polymere社商品番号#S30-023(ポリエチレングリコール鎖付リンクアミド樹脂)を固相担体としてFmoc-アミノ酸誘導体を順次縮合させた。具体的には特許第2007165号多種品目同時化学反応装置に記載された方法を用い、市販の島津製作所モデルPSSM-8多種品目同時ペプチド合成装置に依って実施した。
【0050】
基板はアミノプロピルグラス(米国Corning社製品番号2550)をブロモアセチル化した。すなわち、ブロモ酢酸をジメチルホルムアミドに溶解し、氷冷攪拌下で水溶性カルボジイミド(1.05当量)を加え20分後アミノプロピルガラス板を浸し、室温で2時間全体をゆっくりと振とう攪拌したのちガラス板をとりだし、50%ジメチルホルムアミド水溶液、テトラヒドロフランで洗浄し減圧デシケータ中で乾燥させた。
【0051】
各合成ペプチド(濃度0.1-10 μM)をガラス板上のブロム基と室温で30分反応させ固定化した。エチルダンシルーダブシル基を組み合わせた系においては、励起波長340nm、検出波長480nmにて蛍光測定を行った。カルモジュリン溶液(トリス緩衝液 pH7.4、150mM NaCl, 0.1mM CaCl2 、カルモジュリン濃度:1.0 μM)を加えていくことにより、約5倍の蛍光強度の増加が蛍光プレートリーダーを用いて測定された。これにより、タンパク質の検出・定量が可能であった。カルボシキシルフルオレセインを含むペプチド系においては、励起波長490nm、検出波長520nmの蛍光測定により、タンパク質存在下、約10倍の強度増加を観測し、タンパク質の検出・定量が可能であった。なお、カルモジュリン溶液と、ペプチドチップとは25℃で5分間反応させた。
【0052】
実施例2
図4に模式的に示すように、βループ構造をとるペプチドの一端部を蛍光標識で標識したペプチドを基板に結合したペプチドチップを用いてアミラーゼを測定した。これらは具体的に次のようにして行った。
【0053】
実施例1と同様にβループ構造を形成するペプチドを文献(F.J. Blanco et al., Eur J Biochem 200, 345-351 (1991)(非特許文献11)、S. Ono et al, Biosci Biotechnol Biochem, 62, 1621-1623 (1998)(非特許文献12))のペプチドのアミノ酸配列を参考にし、コンピュータを用いた分子モデリングにより設計した。その結果、コア領域のアミノ酸配列は、Tyr-Gln-Ser-Trp-Arg-Tyr-Ser-Gln-Ala とした。なおこの配列の一端に固定化のアンカー用にCys残基を、他の一端に蛍光基Rf(図4中のカルボキシフルオレセイン等の蛍光基団)を持ったLys残基を導入したペプチドを合成した。すなわちその配列はLys(Rf)-Tyr-Gln-Ser-Trp-Arg-Tyr-Ser-Gln-Ala-Cys-NH2である。実験例1と同様にアミノ酸の側鎖に蛍光基(カルボキシフルオレセイン基等)を有する蛍光性アミノ酸誘導体をビルディングブロックとして、実施例1と同様にFmoc法を用いた固相ペプチド合成法により各15μ molスケールにて種々合成した。ペプチド(濃度0.1-10 μM)をトリス緩衝液、pH 8.0中,実施例1と同様にしてプレート上にチオエーテル結合を介して固定化 した。プレート上にチオエーテル結合を介して固定化した。カルボキシフルオレセイン基を用いた場合、励起波長490nm、検出波長520nmにて蛍光測定を行った。アミラーゼ溶液(トリス緩衝液pH7.4、150mM NaCl、アミラーゼ濃度:1.0 μM)を加えていくことにより、約10倍の蛍光強度の増加が蛍光プレートリーダーを用いて測定され、アミラーゼの検出・定量が可能であった。なお、アミラーゼ溶液と、ペプチドチップとは25℃で5分間反応させた。
【0054】
実施例3 フィンガープリント法
下記に詳述する方法により、Ac-Cys-Glu-Thr-Ile-Thr-Val-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Lys-Thr-Tyr-Lys(F)-Lys-NH2(ただし、「Ac」はアセチル基、(F)は蛍光標識)の配列を有する126種類のペプチドを合成し、それぞれ1種類ずつ、マイクロプレートのウェルに固相化した。これを下記に詳述する方法により、1)α-アミラーゼ、2)ウシ血清アルブミン(BSA)、3)β-グルコシダーゼ、4)β-ガラクトシダーゼ、5)リゾチーム、6)セルラーゼ、7)β-ラクトグロブリン、8)脱脂アーモンド粉末(タンパク質混合物)、9) 1)〜7)混合物、又は10)大腸菌細胞の溶解物(cell lysate)を反応させ、反応前後の蛍光強度を測定した。蛍光強度の変化率をIgor Pro ver.4.04 (WaveMetrics, Inc.より市販)に入力し、各数値に対応した色(数値が高い程黄色い色になる)を並べて出力した。
【0055】
その結果、各被検試料に特徴的なカラーの縞模様が得られた。縞模様は、横軸にペプチド番号をとり、1つのペプチドについての横幅を約1.5 mm(従って、126個のペプチド全部では1.5 x 126 = 189 mm)、縦を約5 mmとした全体として横長の長方形状であり、各ペプチドの領域(幅1.5 mm x 縦5 mmの長方形)が、蛍光強度の変化率に応じた色に着色され、かつ、各ペプチドの領域が隣接して配置されて全体としてカラーの縞模様を形成しているものである。
【0056】
なお、上記配列中の-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-で示される領域の具体的なアミノ酸配列は下記表2に示す通りであった。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例3の詳細な手順
試薬及び装置
全ての薬品及び溶媒は、試薬又はHPLCグレードであり、さらに精製することなく用いた。ペプチド合成に用いたジメチルホルムアミド(DMF)は、0.4 nmのモレキュラーシーブで一夜処理してから合成に用いた。Fmocで保護されたアミノ酸誘導体は、渡辺化学株式会社、スイスNovabiochem社、あるいは島津総合科学研究所から入手し用いた。側鎖の保護基として、以下の各基を以下のアミノ酸の保護に用いた。
【0059】
アセタミドメチル(Acm)又はトリフェニルメチル(Tft): Cys
t-ブチル(tBu): Asp, Glu, Thr, Tyr, Ser
Trt: Asn, Gln, His
t-ブチロキシカルボニル(Boc)又は4-メチルトリチル(Mtt): Lys
2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル(Pbf): Arg
【0060】
ペプチドは、Fmocケミストリーによる固相ペプチド合成法により合成した。
【0061】
HPLCは、日立 D7500 Chromato-Integratorと、分析のためのカラム和光純薬工業 Wakosil 5C18 (4.6 x 150 mm) 若しくは精製のためのカラムYMC社 ODS A323 (10 x 250 mm)を用いた日立L7400 UV-VIS Detectorとから成るシステム、又はインタクト社カラムCadenza CD-C18 column (4.6 x 50 mm)を用いた島津 LC2010Cシステム上で、アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)の直線勾配を用い、流速1.0 mL/分で行った。
【0062】
MALDI-TOFMSは、Shimadzu KOMPACT MALDI III質量分析器上で、3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシシンナミル酸(SA)又はα-シアノ-4-ヒドロキシシンナミル酸(CHCA)をマトリックスとして用いて行った。ペプチド含量検定のアミノ酸分析は、密閉管内において、6M HClで110℃で24時間加水分解し、フェニルイソシアネート(PITC)で標識した後、和光純薬工業 Wakopak WS-PTC column (4.0 x 200 mm)を用いて行った。
【0063】
15-23配列を有するペプチドの合成
ペプチド鎖の構築: ペプチドは、NovaSyn TGR 樹脂(Novabiochem, 0.15 mmol/g)上で固相合成した。Fmoc-Tyr(tBu)-Gln(Trt)-Ser(tBu)-Trp-Arg(Pbf)-Tyr(tBu)-Ser(tBu)-Gln(Trt)-Ala-Cys(Acm)-樹脂(Fmoc(15-23)Acm-resin)と、Fmoc-Tyr(tBu)-Gln(Trt)-Ser(tBu)-Trp-Arg(Pbf)-Tyr(tBu)-Ser(tBu)-Gln(Trt)-Ala-Cys(Trt)-樹脂(Fmoc(15-23)Trt-resin)と、Fmoc-Tyr(tBu)-Gln(Trt)-Ser(tBu)-Trp-Arg(Pbf)-Tyr(tBu)-Ser(tBu)-Gln(Trt)-Ala-Lys(Mtt)-樹脂(Fmoc(15-23)Mtt-resin)は、Advanced ChemTech Model 348 MPSペプチド合成機で合成した。Fmoc-アミノ酸(6当量(以下、当量を「eq.」と表すことがある)), 2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU, 6 eq.), HOBt・H2O (6 eq.) 及びNMP中DIEA (12 eq.) をアミノ酸の結合に用い(30分間、2回)、Fmocの除去のためにNMP中25%ピペリジンを用いた。ペプチドレジンの洗浄等にはDMFを用いた。
【0064】
フルオレッセイン部分により標識されたペプチド、F(15-23)Acm and F(15-23)SH
Fmoc(15-23)Acm-resin又はFmoc(15-23)Trt-resinを20%(v/v)ピペリジン/NMPで処理してFmoc基を除去した。次いで、5(6)-FAM (1.5 eq.), HBTU (1.5 eq.), HOBt・H2O (1.5 eq.)及びDMF中DIEA (3 eq.)を用い(1.5時間x 2又は2.5時間x 1)、5(6)-カルボキシフルオレッセイン(5(6)-FAM, Molecular probes, Inc.)をペプチドのN末端に結合した。樹脂及びAcm以外の保護基は、室温下、TFA/ m-クレゾール/エタンジオール/チオアニソール(40 / 1 / 3 / 3, v/v)で1時間処理することにより除去した。ペプチドは、逆相HPLCで精製し、MALDI-TOFMSで分析した。F(15-23)Acm m/z 1721.4 ([M+H]+ calcd. 1721.8); F(15-23)SH 1649.4 (1649.7).
【0065】
ダンシル部分により標識されたペプチド、D(15-23)Acm and D(15-23)SH
Fmoc(15-23)Acm-resin又はFmoc(15-23)Trt-resinを20%(v/v)ピペリジン/NMPで処理してFmoc基を除去した。DMA中5-ジメチルアミノナフタレン-1-スルホニルクロリド(ダンシルCl, 3-6 eq.)2〜3時間用いて、ダンシル部分をペプチドのN末端に導入した。フルオレッセイン標識ペプチドの場合と同じ方法により、ペプチドを樹脂から切り出し、Acm以外の全ての保護基を除去した。ペプチドは、逆相HPLCで精製し、MALDI-TOFMSで分析した。D(15-23)Acm m/z 1596.3 ([M+H]+ calcd. 1596.8); D(15-23)SH 1525.9 (1525.7).
【0066】
フルオレッセイン及びEDANS基により標識されたペプチド、F(15-23)ED
Fmoc(15-23)Trt-resinを20%(v/v)ピペリジン/NMPで処理してFmoc基を除去した。5(6)-カルボキシフルオレッセインスクシンイミジルエステル(5(6)-FAM, SE, Molecular probes, Inc., 1.2 eq.)及びDMF中DIEA (2 eq.)を7時間用いてペプチドのN末端にフルオレッセイン部分を導入した。フルオレッセイン標識ペプチドの場合と同じ方法により、ペプチドを樹脂から切り出し、全ての保護基を除去し、逆相HPLCで精製した。得られたペプチドを、100 mM Tris-HCl (pH 7.4)に溶解し、N-(ヨードアセトアミノエチル)-1-ナフチルアミン-5'-スルホニック(IAEDANS, Research Organics, 3 eq.)のDMF溶液を加えた。1時間後、反応物質を逆相HPLCで精製した。ペプチドをMALDI-TOFMSで分析した。F(15-23)ED m/z 1959.2 ([M+H]+ calcd. 1956.0).
【0067】
クマリン部分により標識されたペプチド、H(15-23)C、及びクマリンとフルオレッセイン部分により標識されたペプチドF(15-23)C
Fmoc(15-23)Mtt-resinをCHCl3 (4回)及びDCM(1回)で洗浄し、次いでDCM / TIS / TFA = 94 / 5 / 1 (4〜6回、各2分間)処理してMtt基を除去した。樹脂をCHCl3(5回)及びNMP(5回)で洗浄した後、7-ジエチルアミノクマリン-3-カルボン酸(Fluka, 2 eq.) , HBTU (2 eq.), HOBt・H2O (2 eq.)及びNMP中DIEA (4 eq.) を30分間(2回)用いて、Lys残基の側鎖アミノ基にクマリン部分を導入した。次いで、20%(v/v)ピペリジン/NMPで処理してペプチドのFmoc基を除去し、フルオレッセイン標識ペプチドの場合と同じ方法によりフルオレッセイン部分をペプチドのN末端に導入した。上記した方法により、ペプチドを樹脂から切り出し、全ての保護基を除去した。ペプチドは、逆相HPLCで精製し、MALDI-TOFMSで分析した。H(15-23)C m/z 1559.7 ([M+H]+ calcd. 1559.7); F(15-23)C 1919.3 (1918.0).
【0068】
設計されたループ配列を有するペプチドの合成
ペプチドは、Rink amide SS resin (Advanced ChemTech, 0.6 mmol/g)上で固相合成した。Fmoc-Cys(Trt)-Glu(OtBu)-Thr(tBu)-Ile-Thr(tBu)-Val-Ser(tBu)-Trp-Arg(Pbf)-Tyr(tBu)-Lys(Boc)-Thr(tBu)-Tyr(tBu)-Lys(Mtt)-Lys(Boc)-resin (Fmoc-Loop1(Mtt)-resin) は、上記した方法により、Advanced ChemTech Model 348 MPS ペプチド合成機で合成した。それぞれのペプチド−樹脂は、CHCl3(4回)及びDCM(1回)で洗浄し、次いで、DCM / TIS / TFA = 94 / 5 / 1 (4〜6回、各2分間)処理してMtt基を除去した。樹脂をCHCl3(5回)及びDMF(5回)で洗浄した後、5(6)-FAM, SE (3 eq.) 及びDIEA (1.5 eq.) を一夜用いて、5(6)-FAM, SEをLys残基の側鎖アミノ基に結合した。上記した方法により、ペプチドを樹脂から切り出し、全ての保護基を除去した。ペプチドは、逆相HPLCで精製し、MALDI-TOFMSで分析した。Loop1 m/z 2306.9 ([M+H]+ 計算値 2306.6);
【0069】
蛍光分析
蛍光スペクトルは、10 mmの経路長を有する石英セルを用い、温度調節器を具備する日立 fluorescence spectrophotometer 850で記録した。全ての測定は、25℃で、20 mM Tris-HCl (pH 7.4)又は150 mM NaCl含有20 mM Tris-HCl (pH 7.4)中で行った。
【0070】
円二色性分析
円二色性分析は、1 mmの経路長を有する石英セルを用い、温度調節器を具備する日本分光 J-720WI分光偏光計で行った。全ての測定は、25℃で、150 mM NaCl含有20 mM Tris-HCl (pH 7.4)中で行った。
【0071】
ペプチドライブラリーの構築
デザインしたペプチド合成は島津総合科学研究所の多種品目同時合成器、モデル SRM96 を用いて実施した。合成法は同社のマニュアル並びに下記の論文に基づいて行った。
文献: 安原義、軒原清史、古庄律、片岡榮子、東農大農学集報, 43, 260-267, 1999 合成トリペプチドライブラリーの構築と抗酸化活性ペプチドの高効率スクリーニング(非特許文献13)
【0072】
63種類のペプチドおよびLoop構造を有する天然のペプチドの一部分 SWRY 配列を有する合計64種ペプチドを同時に合成した。
【0073】
4-(2',4'-dimethoxyphenyl-Fmoc-aminomethyl)phenoxyacetamido-norleusyl-MBHA resin (Rink amide MBHA resin) を出発物質、固相担体とし、C末端部分の共通部分の配列はまとめてBig LibraTube (島津総合科学研究所製RT20 を用いてペプチド鎖の伸長を行った。その後乾燥レジンをSRM96の各マイクロチューブリアクターに分配し、N末端側のアミノ酸の導入を行った。ペプチド結合生成反応は、軒原らの高効率合成プロトコル等25項に記載した論文に基づいて実施した。すなわちHBTU (10 eq.), HOBt・H2O (10 eq.)、 DIEA (12 eq.). 保護アミノ酸(10 eq)をアシル成分として反応させた。目的とする保護ペプチドレジンの側鎖(イプシロン位)のMtt基を、特異的に蛍光標識するために除去した。すなわちDCM / TIS / TFA = 94 / 5 / 1 でペプチドレジンを洗浄(20 min)した。 5(6)-FAM (6 eq.) with HBTU (6 eq.), HOBt・H2O (6 eq.) and DIEA (9 eq.), あるいは 5(6)-FAM (5 eq.) O-(7-azabenzotriazol-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium hexafluorophosphate (HATU, 5 eq.) DIEA (6 eq.).によって蛍光基を活性化してペプチドレジンへ導入した。反応はきわめて特異的完結したことが切断後のペプチドの検定で証明された。
【0074】
レジンからのペプチド鎖の切断を行った。これを業界ではクリーベイジと称する。合成した標識保護ペプチドレジンをクリーベイジカクテル TFA / m-cresol / ethaneditiol / thioanisole (40 / 1 / 3 / 3, v/v) で定法により処理した。 64 種のペプチドのために約 20 mLのカクテルを使用した。SRM96のガラスプレートにろ液を集めるため、カクテルを30分かけて滴下しさらに60分放置ごカクテルを追加してレジンをリンスした。ガラスプレート中のろ液(ペプチド入りカクテル)を窒素を吹き付けることで濃縮しジエチルエーテルを加えて目的のペプチドを沈殿させた。沈殿と溶液を1.5mLのポリプロピレンチューブに移し遠心して沈殿を単離した。沈殿は5回ジエチルエーテルで洗浄した後そのまま減圧遠心乾燥した。
【0075】
粗ペプチドは Sephadex G-10 (Pharmacia)を用い10% (v/v)酢酸で溶出させるゲル濾過で精製した。 (約 100 マイクロL/tube). 蛍光標識ペプチドは色が付いているため目視で容易に目的とする分画を得た。この溶液を減圧遠心乾固下。残存酢酸は水を加え凍結乾燥で除去した。得られたペプチドは200 マイクロLのメタノールに溶解しストック溶液とし、密栓して4℃で保管した。.
【0076】
96-well プレートの吸光度測定
標識ペプチドストック溶液の濃度測定は 490 nm でBenchmark Multiplate Reader (Bio-Rad Laboratories社)実施した。用いたプレートは(旭テクノグラス、アッセイプレート)である。ペプチドはメタノールに溶解し、ストック溶液とし、20 mM Tris-HCl 150 mM NaCl 含有(pH 7.4)で希釈して用いた. 濃度計算はアミノ酸分析により、ペプチド量を検定した標準ペプチドと比較することにより求めた。
【0077】
96-well プレートを用いた蛍光測定
マイクロタイタープレート(旭テクノグラス、アッセイプレート)中での溶液状態あるいは固定化された蛍光標識ペプチドの蛍光強度は PerSeptive Biosystems 社のCytoFluor(登録商標) 4000TR multi-well plate readerを用い30℃で測定した。 Excitation および Emission フィルターは 485/20 と 530/10 ( フルオレセイン標識ペプチド用), 360/20 と515/10 (ダンシル標識ペプチド用), 450/50 と 530/10 (クマリンおよびフルオレセイン標識ペプチド用), をそれぞれ用いた。
【0078】
96-well ポリスチレンプレートへのペプチドの固定化
トレシル活性化デキストラン(TAD)の合成
デキストラン (100.0 mg, 平均分子量 64,000-76,000, Sigma社 D4751) を約20mLの水から凍結乾燥して得たデキストランをヘキサメチルホスホトリアミド (10 mL) に115℃、50 mL 中の丸底フラスコで溶解した。フラスコに塩化カルシウム管を接続した。当該溶液を室温にし2,2,2-trifluoroethanesulfonyl chloride (トレシルクロライド, 220 マイクロL, 2 mmol, Aldrich社 32,478-7)を攪拌下1分かけて滴下した。15 分後乾燥ピリジン (440 マイクロL, 5.4 mmol) を一分かけて滴下添加した。 15分後 生成物を冷エタノール(約. 20 mL).で沈殿させ、遠心分離で集めた。沈殿はさらにエタノールで2回洗浄したのち酢酸水(1% v/v 約 10 mL)に溶解し,凍結乾燥し−20℃で保存した。. 収量120.2 mg. これはデキストランの4,5グルコース単位の水酸基の 7.4 % がトレシル化されたことに相当する。この結果は下記文献記載と同様の結果であった。
文献:K. Gregorius, S. Mouritsen, H. I. Elsner, J. Immunol. Meth., 1995, 181, 65-73.(非特許文献14)
【0079】
ブロモアセチル基修飾マイクロタイタープレートの調製:
ポリスチレン製マイクロタイタープレート(旭テクノグラス社製アッセイプレート)に0.01mg/mLのポリーL−リシン(シグマ社製、P1274、分子量70000−150000)の0.1M炭酸緩衝溶液(pH9.6)を1ウェルに150マイクロL ずつ加え、室温で2時間または4℃で一夜インキュベートした。このポリーL−リシンでコートしたプレートを洗浄緩衝液(10mMリン酸緩衝液、2.7mM KCl、500mMNaCl、1%(v/v)トリトンX-100、pH7.2)で4回、水で3回洗浄し、窒素ガスで乾燥した。つぎにポリーL−リシンでコートプレートにTAD(前出) (0.5 mg/mL) の リン酸緩衝液 (10 mM phosphate, 150 mM NaCl, pH 7.2)を1ウェルに150マイクロLずつ加え、4℃で2時間インキュベートした。水洗、乾燥後、TAD修飾プレートに1,4-ジアミノブタン (10 mM) の炭酸緩衝液を1ウェルに100マイクロLずつ加え、室温で2時間インキュベートした。水洗後、ブロッキング緩衝液(0.1 M 2-アミノエタノール 水, pH 8.0 HClで調整)を1ウェルに200マイクロLずつ加え、室温で2時間インキュベートした。このアミンで機能化したプレートは洗浄緩衝液(前述)で3回、水で3回洗浄後、窒素ガスで乾燥した。
【0080】
アミン機能化プレートはブロモ酢酸無水物によりブロモアセチル化した。ブロモ酢酸無水物はブロモ酢酸(0.6 M)をジメチルホルムアミド中、ジイソプロピルカルボジイミド(0.3 M)と60分間反応させ調製した。このブロモ酢酸無水物をそのまま水で10mMに希釈し、アミン機能化プレートに1ウェルに100マイクロLずつ加え、室温で5時間または4℃で一夜インキュベートした。水で3回洗浄し、ブロモアセチル基修飾マイクロタイタープレートの調製した。
【0081】
ペプチド結合マイクロタイタープレートの調製:
遊離のチオール基を有するペプチドはメタノールに1mMの濃度で溶解し、ストック溶液とした。このペプチド溶液は100mMトリス緩衝液(pH8.0)で10μMに希釈し、すぐにブロモアセチル基修飾マイクロタイタープレートに1ウェルに100マイクロLずつ加え、室温で10時間インキュベートした後、洗浄緩衝液で4℃で一夜洗浄した。水洗後、窒素ガスで乾燥させペプチド結合マイクロタイタープレートの調製した。本プレートは4℃で保存した。
【0082】
プレート固定化ペプチドによるタンパク質検出アッセイ:
すべての測定は緩衝液(20mMトリス、150 mM NaCl (pH 7.4))中で行った。精製および部分精製タンパク質はシグマ社から購入した。商品番号は以下の通りである;1. α-アミラーゼ from Aspergillus oryzae: A6211, 2. 牛血清アルブミン (BSA): A6793, 3. β-グルコシダーゼ from Almonds: G0395, 4. β-ガラクトシダーゼ from Aspergillus oryzae: G5160, 5. リゾチーム from Chicken egg white: L6876, 6. セルラーゼ from Aspergillus niger: C1184, 7. β-ラクトグロブリン from Bovine milk: L3908, 8. アーモンド粉(タンパク質混合物) : A3265。他使用したタンパク質群は、上記1−7の混合物、大腸菌可溶性タンパク質(細胞破砕液)である。
タンパク質溶液(0.5 mg/mL)をペプチド結合プレートに1ウェルに100マイクロLずつ加え、4℃で24時間インキュベートした。各ウェルの蛍光強度Iはマイクロプレート蛍光リーダー(パーセプティブ社製、CytoFluorTM)により30℃で測定した。プレートを水洗後、緩衝液を1ウェルに100マイクロLずつ加え、再び参照蛍光強度I0をマイクロプレート蛍光リーダー(パーセプティブ社製、CytoFluorTM)により30℃で測定した。測定は2回以上繰り返し行い、蛍光強度比I/I0の平均値を記録した。
【0083】
大腸菌分解液の調製:
大腸菌E. coli. JA221 (F-, hsdR, DtrpES, leuB6, lacY, recAI )を培地(1% trypton, 0.5 % yeast extract, and 1 % NaCl (w/v))5ml中で37℃一夜、培養した後、400mlの同じ培地で強攪拌下37℃一夜、培養した。細胞を遠心機で回収した後、緩衝液(100 mM potassium phosphate, pH 6.5)に懸濁し、洗浄した。洗浄した細胞を16mlの同じ緩衝液に懸濁し、氷浴上にて超音波処理し、細胞を破砕した。菌体の堆積物や沈殿物は遠心分離(12000rpm, 20分)により除去した。得られた溶液の総タンパク質量は30 mg/mL(Bio-Rad DC Protein Assay kit使用)であった。10 mM フッ化フェニルメチル硫酸5 mM EDTAを含む緩衝液で 0.86 mg/mLの濃度に希釈しペプチド固定化プレートで分析した。
【0084】
蛍光データのフィンガープリント様コンピュータ処理:
プレート固定化ペプチドライブラリにより得られた各タンパク質の蛍光データについて、フィンガープリント様にグラフ化の処理をした。一例として、ソフトウェア Igor Pro ver.4.04 (WaveMetrics, Inc.) を用いて行った例を示す。まず、各ペプチド(1-126) をx軸とし、y=1の線を折れ線グラフとしてタンパク質(1. α-アミラーゼ from Aspergillus oryzae、2. 牛血清アルブミン (BSA), 3. β-グルコシダーゼ from Almonds, 4. β-ガラクトシダーゼ from Aspergillus oryzae, 5. リゾチーム from Chicken egg white, 6. セルラーゼ from Aspergillus niger, 7. β-ラクトグロブリン from Bovine milk, 8. アーモンド粉(タンパク質混合物)、9. 1−7の混合物、10. 大腸菌可溶性タンパク質(細胞破砕液))の種類分(10本)表示させた。次に、これらの線をy軸をずらして表示させ、それぞれの線に対してz軸の値として各タンパク質に対する蛍光応答値 (I/I0)を当てはめた。カラーグラデーションはソフトウェアに標準で含まれているパターンのうち、暖色系(yellow-hot)というものを用いた。結果として、各タンパク質に対して、ペプチドのアミノ酸配列に依存した特徴的な蛍光応答パターン(タンパク質フィンガープリント)を得ることができ、本パターンからタンパク質を再現性良く特徴化することが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、本発明のペプチド固定化基板の概念を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明に用いられるペプチドの一次構造を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施例1で行った測定を模式的に示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施例2で行った測定を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所期の立体構造又は標的タンパク質との結合能を有する化学合成されたペプチドであって、標的タンパク質と結合することが可能なペプチドを基板上に固定して成る標的タンパク質測定用ペプチド不動化基板。
【請求項2】
前記ペプチドは、標的タンパク質と結合することにより信号が変化する標識により標識されている請求項1記載のペプチド不動化基板。
【請求項3】
前記ペプチドは、所期の立体構造をとるように分子デザインされたアミノ酸配列を有する請求項1又は2記載のペプチド不動化基板。
【請求項4】
前記ペプチドを構成するアミノ酸の数が3〜50個である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板。
【請求項5】
前記標識は、ペプチドを構成する特定位置のアミノ酸に結合された蛍光標識である請求項2ないし4のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板。
【請求項6】
2種類の蛍光標識が、それぞれ異なる特定位置のアミノ酸に結合されている請求項5記載のペプチド不動化基板。
【請求項7】
前記標識は、前記ペプチドの一端部又は両端部に結合されている請求項2ないし5のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板。
【請求項8】
前記ペプチドは、アミノ酸の側鎖の官能基を保護してペプチド合成されたものであり、かつ、該官能基を保護した状態で基板に結合することにより、所望の位置で基板に結合され、結合後、前記官能基を脱保護されたものである請求項1ないし7のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板。
【請求項9】
前記ペプチドは、その一端に基板と化学結合する官能基を有し、該官能基を介して基板に結合される請求項1ないし7のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板。
【請求項10】
前記ペプチドの一端がシステインであり、該システインのスルフィドリルを介して基板に結合される請求項9記載のペプチド不動化基板。
【請求項11】
前記ペプチドは、前記基板に共有結合により結合されている請求項1ないし10のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板。
【請求項12】
前記ペプチドは、標的タンパク質との結合に供されるコア領域と、基板との結合、及び標識を有する場合には該標識との結合に供される結合領域とを含み、前記コア領域は、標的タンパク質との結合に最適な立体構造を有する請求項1ないし11のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板。
【請求項13】
複数種類の前記ペプチドが単一の基板上の所定の位置にそれぞれ固定されている請求項1ないし12のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載のペプチド不動化基板と、前記標的タンパク質を接触させ、前記ペプチドに結合した標的タンパク質を、前記信号の変化により測定する、標的タンパク質の測定方法。
【請求項15】
所期の立体構造又は標的タンパク質との結合能を有する又は有する可能性がある化学合成されたペプチドであって、標的タンパク質と結合することが可能な又は可能かもしれない複数の化学合成ペプチドを同一又は異なる基板上に固相化したものと、該標的タンパク質を含むかもしれない被検試料とを反応させる工程と、ペプチドと標的タンパク質との結合により変化する信号を測定する工程と、各ペプチドについて測定した値を、測定値に応じて違いが肉眼で認識できるデータに変換し、各ペプチドについての視認可能なデータを並べて出力する工程とを含む、被検試料中のタンパク質の測定方法。
【請求項16】
前記視認可能な物理量は、色相、明度及び/又は彩度であり、各ペプチドについての前記測定値に応じて肉眼で色の違いが認識できる請求項15記載の方法。
【請求項17】
複数の標的タンパク質に結合する複数の化学合成ペプチドが固相化されている請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
種々の被検試料について請求項15又は16記載の方法を行い、出力された測定データを蓄積してデータベース化し、未知試料についての測定データを、データベース化された測定データと比較して未知試料の同定又は特徴付けを行う、被検試料中のタンパク質の同定又は特徴付け方法。
【請求項19】
前記複数のペプチドのうちの少なくとも一部は、それぞれのペプチド中の少なくとも一部のアミノ酸配列がランダムな配列を有する請求項15ないし18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の化学合成ペプチドの少なくとも一部は、標的タンパク質と結合することにより信号が変化する標識により標識されている請求項15ないし19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の化学合成ペプチドの少なくとも一部は、所期の立体構造をとるように分子デザインされたアミノ酸配列を有する請求項15ないし20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記複数の化学合成ペプチドを構成するアミノ酸の数が3〜50個である請求項15ないし21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記標識は、ペプチドを構成する特定位置のアミノ酸に結合された蛍光標識である請求項19ないし21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
2種類の蛍光標識が、単一のペプチドのそれぞれ異なる特定位置のアミノ酸に結合されている請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記標識は、前記単一のペプチドの一端部又は両端部に結合されている請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記複数の化学合成ペプチドは、アミノ酸の側鎖の官能基を保護してペプチド合成されたものであり、かつ、該官能基を保護した状態で基板に結合することにより、所望の位置で基板に結合され、結合後、前記官能基を脱保護されたものである請求項15ないし25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記複数の化学合成ペプチドは、その一端に基板と化学結合する官能基を有し、該官能基を介して基板に結合される請求項15ないし26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記複数の化学合成ペプチドの一端がシステインであり、該システインのスルフィドリルを介して基板に結合される請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記複数の化学合成ペプチドは、前記基板に共有結合により結合されている請求項15ないし28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記複数の化学合成ペプチドの少なくとも一部は、標的タンパク質との結合に供されるコア領域と、基板との結合、及び標識を有する場合には該標識との結合に供される結合領域とを含み、前記コア領域は、標的タンパク質との結合に最適な立体構造を有する請求項15ないし29のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−268231(P2008−268231A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182422(P2008−182422)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【分割の表示】特願2002−588191(P2002−588191)の分割
【原出願日】平成14年5月7日(2002.5.7)
【出願人】(502249851)株式会社ハイペップ研究所 (11)