説明

ペプチド徐放性製剤

ペプチド活性物質の遅延送達用組成物であって、i)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む前記ペプチド活性物質の塩、ii)徐放送達ベヒクルを含む組成物。当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン、好ましくは、塩化物又は臭化物イオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド活性物質(特に、ソマトスタチン類似体の)の塩の制御された放出のためのin situ生成組成物の製剤前駆体(前製剤(pre-formulation))に関する。特に、本発明は、非経口投与のための、両親媒性成分とペプチド活性物質(例えば、ソマトスタチン類似体)の少なくとも1種の塩からなる前製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
調合薬、栄養素、ビタミンなどを含む多くの生物活性剤は、「機能発現枠(functional window)」を有している。すなわち、これら薬剤が何らかの生物学的効果をもたらすことが確認できる濃度範囲が存在する。身体の適切な部位での濃度(例えば、局所的な濃度、又は血清濃度により示される濃度)が一定のレベルを下回ると、その薬剤による有益な効果がなくなる。同様に、一般的には濃度レベルの上限が存在し、そのレベルよりも濃度を高くしてもさらなるメリットは得られない。場合によっては、特定のレベルを超えて濃度を高めると、望ましくない効果又は危険な影響さえも引き起こす。
【0003】
いくつかの生理活性剤は、生物学的半減期が長く、かつ/又は機能発現枠が広いため、間隔をおいて投与されて、機能的な生物学的濃度がかなりの期間(例えば、6時間から数日間)にわたって維持される可能性がある。また、別の場合では、クリアランス速度が速く、かつ/又は機能発現枠が狭いため、生物学的濃度をこのウィンドウの範囲内に維持するためには、少量ずつの定期的(又は、継続的)な投与が必要である。これは、非経口経路での投与(例えば、腸管外投与)が望ましい場合には特に困難となり得る。なぜなら自己投与が困難で、したがって、不都合、及び/又は不十分な服薬コンプライアンスの原因となる可能性があるからである。このような場合には、活性が必要とされる期間全体にわたって治療レベルとなるように活性物質を提供しなければならない単回投与が有利である。ペプチド活性物質は、自然発生するペプチダーゼ活性が通常当該活性物質の半減期を短くするので、徐放性組成物としての調製が特に適している。
【0004】
ソマトスタチン(成長ホルモン放出抑制因子:SST)は、動物において広くみられる天然ペプチドホルモンであり、中枢神経系で神経伝達物質として作用し、いくつかの組織に対して多様なパラクリン/オートクリン調節作用を有する。2種類の生物学的に活性のある産物、すなわちSST−14及びSST−28(N末端で延長されたSST−14のコンジナー)が高等な種において知られている。SST−14は、Ala−Gly−Cys−Lys−Asn−Phe−Phe−Trp−Lys−Thr−Phe−Thr−Ser−Cysという配列を有する14残基環状ペプチドホルモンであり、2つのシステイン残基がジスルフィド架橋によって結合され、主要な結合配列であるPhe−Trp−Lys−ThrにII型βターンが生じている。天然のSST−14の生物学的半減期は極めて短く(1〜3分)、したがってそれ自体は現行の処方においては利用可能な治療剤ではないが、インビボでより高い活性及び/又はより長いクリアランス時間を有する、利用可能なソマトスタチン類似体の数が増加している。
【0005】
オクトレオチド、ランレオチド、バプレオチド、パシレオチド(SOM230)、及び関連するペプチドなどのソマトスタチン類似体は、様々な症状の治療において使用又は適応されており、これら薬剤は通常長期間にわたって投与される。
【0006】
例えば、オクトレオチドは、D−Phe−Cys−Phe−D−Trp−Lys−Thr−Cys−Thr−ol(2〜7ジスルフィド架橋)配列を有する合成オクタペプチドであり、通常は酢酸塩の形態で投与される。このSST−14誘導体は、インビボSST様活性に必要とされる主要なPhe−(D)Trp−Lys−Thrβターンを保持しているが、天然のホルモンとは対照的に、その終末半減期は1.7時間前後である。オクトレオチドは、カルチノイド腫瘍及び先端巨大症を含む疾患の治療で使用され、通常、数週間、又はより一般的には何ヶ月間若しくは何年間にもわたって持続的に投与される。様々な腫瘍でソマトスタチン受容体(SSTR)が発現することがわかっているため、ソマトスタチン類似体は、多くの種類の癌の治療において特に関心が高い。SST−14に対して同様に高親和性を示す公知の5種類のSSTR(SSTR1〜SSTR5)が存在する。最も研究されているソマトスタチン類似体(オクトレオチドを含む)はSSTR2及びSSTR5に対して高い選択性を示すので、オクトレオチドはこれらの種類の受容体を発現する腫瘍の治療において関心が高い。
【0007】
最も一般的な「シンプルな」オクトレオチド製剤は、ノバルティス社からの「サンドスタチン」(登録商標)である。これは、皮下(s.c)注射用の水溶液であり、100μg投与すれば、注射後0.4時間で5.2ng/mlのピーク濃度に達する。作用持続時間は最大12時間であり得るが、皮下投薬は、8時間毎に行われるのが一般的である。1日3回の皮下注射を数ヶ月間又は数年間にわたって行うことは、理想的な投与計画ではないことは明らかである。
【0008】
オクトレオチドを1日に何度も注射する必要をなくすため、同じくノバルティス社からの「サンドスタチンLAR」(登録商標)というさらに別の製剤が利用可能である。これは、オクトレオチドを乳酸グリコール酸共重合体ミクロスフェア中に含む製剤であり、再懸濁後、筋肉内(i.m.)注射によって投与することができる。
【0009】
公知の市販のソマトスタチン類似体製剤(特に、遅延放出性を有するもの)はすべて、ペプチド活性物質が酢酸塩の形態で製剤化されている。
【0010】
カルチノイド腫瘍は、パラクリン機能を有する特異性細胞(APUD細胞)から生じる腸腫瘍である。原発性腫瘍は、通常、虫垂内に生じ、虫垂内では臨床的に良性である。続発性の転移性腸内カルチノイド腫瘍は、セロトニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、及びポリペプチドホルモンを含む血管作動性物質を過剰量分泌する。その臨床結果は、カルチノイド症候群(心臓弁膜症患者、並びにそれほど多くはないが喘息及び関節症の患者における、突発性皮膚紅潮、チアノーゼ、腹部痙攣、及び下痢からなる症候群)である。カルチノイド腫瘍は、消化管(及び、肺)の任意の場所で増殖する可能性があるが、約90%が虫垂で生じる。残りは、回腸、胃、結腸、又は直腸で起こる。
【0011】
現在、カルチノイド症候群の治療は、まず静脈内ボーラス注射から始まり、続いて、サンドスタチンの静脈内点滴が行われる。症状に対して十分な効果が確立されると、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ミクロスフェア中にオクトレオチドが調合されたデポー製剤による治療が開始される。しかしながら、デポーの注射後、最初の2週間又はそれ以上の間、PLGAスフェアからの徐放を補うため、サンドスタチンを毎日皮下注射することが推奨される。
【0012】
先端巨大症は、脳下垂体が過剰量の成長ホルモン(GH)を産生した場合に起こる、まれな慢性及び潜行性のホルモン障害である。これは中年成人に最も起こりやすく、早世を招き得る。糖尿病、高血圧、及び循環器系疾患のリスクの増加が、先端巨大症の最も重篤な健康への影響である。さらに、先端巨大症の患者は、癌性となる可能性のある結腸ポリープを発症するリスクが高い。先端巨大症の有病率は、人口百万人当たり約60例であり、その発生率は、年間百万人当たり3.3人の新規症例である。先端巨大症(acromegaly)という言葉は、ギリシャ語の「先端」(acro)及び「巨大な」(megaly)に由来しており、これは、この疾患の最も一般的な症状の一つが手足の異常な成長であることによる。
【0013】
先端巨大症は、長期にわたる成長ホルモン(GH)の過剰な産生、及びインスリン様成長因子−I(IGF−I)の過度な産生によって引き起こされる。98%の症例において、GHの過剰産生は、下垂体腺腫に起因している。GH産生の速度及び腫瘍の悪性度は、患者ごとに異なる。一般的に、より若年の患者において、より悪性の強い腫瘍が見られる。
【0014】
先端巨大症の治療は、1日3回の皮下注射期間(最適な1日量=オクトレオチド300μg)によって開始される。最後の皮下投与後、適切な効果が得られていることが観察されてから、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)ミクロスフェア中にオクトレオチドが調合されたデポー製剤を用いた治療が開始される。通常約3ヶ月後、バイオマーカー(GH及びIGF−1)の測定後に用量の調整が行われる。
【0015】
既存のオクトレオチド徐放製剤は、確立されたインビボ分解ポリマー型デポー製剤に依拠している。これは、通常、ポリ乳酸(PLA)及び/又は乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)を含有する生分解性ポリマーであり、有機溶媒中の液剤、開始剤と混合されたプレポリマー、カプセル封入されたポリマー粒子、又は(オクトレオチドの場合と同様に)ポリマーミクロスフェアの形態である場合がある。
【0016】
ポリマー又はポリマー粒子は、活性物質を閉じ込めており、徐々に分解されて、緩やかな拡散により、及び/又はマトリクスが吸収されるにつれて、活性物質を放出する。このような系の例としては、米国特許第4938763号明細書、米国特許第5480656号明細書、及び米国特許第6113943号明細書に記載のものが挙げられ、最大で数ヶ月間に及ぶ期間にわたって活性物質を送達することができる。しかしながら、これらの系には、製造の複雑さや滅菌の困難さ(特に、ミクロスフェア調製で)を含む多くの制約がある。注射部位で放出される乳酸及び/又はグリコール酸に起因する局所刺激もまた注目すべき欠点である。また、粉末状の前駆体から注射用量を調製するにはしばしばかなり複雑な手順を踏むことになる。
【0017】
公知のPLGAオクトレオチドデポー系の一つの極めて重大な欠点は、投与者にとっての調製の複雑さである。デポーは、オクトレオチド含有ミクロスフェアが均一に懸濁されなければならない希釈液と共に、オクトレオチド含有ミクロスフェアの粉末状前駆体として提供される。デポー系を投与用にうまく調製するためには、多段階の工程を含む方法が必要であり、この方法は、確実に粉末状前駆体を完全に飽和させ、注射前に均一な懸濁液とするように正確に実施されなければならない。次いで、デポー系は、臀部深部への筋肉内注射を実施する時点まで均一な分散を維持するための継続的な注射器の振盪を伴う方法によって、即座に投与されなければならない。
【0018】
シンプルな調製は非常に有利な特徴であるが、これは、しばしば長期の保存安定性の必要性と比較検討されなければならない。PLGAに基づいたものなどの既知のオクトレオチドデポー組成物又は既知の脂質デポー組成物(例えば、WO2006/075124号明細書)でさえ、一般的には、長期の保存安定性(特に、室温又はそれ以上で)を有していない。複雑な調製の必要がないだけでなく、長期にわたっていつでも使用できる形態で保存(特に、室温で)もできる組成物を提供することは利点であることは明らかである。
【0019】
既存のPLGAオクトレオチドデポー系のさらなる制約は、特定の患者に適するように投薬を容易に調整できないということである。ソマトスタチン類似体の投薬は、血漿濃度が対象の体重によって著しい変動を示すことから、対象の体重に対し相対的に行うべきであることが近年提案されている。しかしながら、注射剤のベヒクルに不安定に懸濁された予め計量された乾燥粉末を含むデポー系では、かなり広範囲にわたる事前測定用量が提供されない限り、このような制御はできない。この懸濁液は、粒子が均一に懸濁していないため、部分的に投与することはできない。したがって、投与時に対象別の基準で決定された用量を投与できる均一なデポー前駆体を有することは、相当な利点である。
【0020】
薬物送達の観点から、ポリマーデポー組成物は、一般的に、比較的低い薬物負荷のみを許容し、かつ「バースト/遅延」放出プロファイルを有するという欠点がある。ポリマーマトリクスの性質は、特に液剤又はプレポリマーとして適用される場合、最初に組成物が投与されると薬物放出の初期バーストを引き起こす。これに続いて低放出期間があり、マトリクスの分解が始まる一方で、続いて最終的に放出速度が所望の持続プロファイルにまで増加する。このバースト/遅延放出プロファイルは、活性物質のインビボ濃度が投与直後に機能発現枠を突発的に超え、次いで、遅延期間中は再び機能発現枠の下限を過ぎて低下し、その後持続機能濃度に達する原因となりうる。機能的及び毒物学的観点から、このバースト/遅延放出プロファイルは望ましくなく、危険であり得ることは明かである。また、「ピーク」点における副作用の危険性のために、提供可能な平衡濃度も制約される可能性がある。
【0021】
オクトレオチドの場合、機能発現枠は、0.8〜20+ng/ml前後の範囲であるが、このような機能発現枠を有しているとしても、上に示したように、PLGAミクロスフェアの使用は数週間の遅延の原因となり、この間に「補充(top-up)」注射が行われなければならない。より迅速に「プラトー」レベルに達するデポー系を提供することは利点であることは明らかである。PLGAミクロスフェア製品からのウサギへのオクトレオチド放出に関する研究が、例えば、コメッツ(Comets)ら(「ジャーナル・オブ・コントロールドリリース(J. Controlled Release)59(1999)197〜05)によって行われ、これにより投与後15日目が過ぎた後85%を超える活性物質の「第3段階」の放出が始まることが明らかにされた。
【0022】
ポリマーデポー製品の低負荷能(loading capacity)及び微粒子の性質は、投与に際しさらなる問題の原因となる。特に、微粒子懸濁液を運ぶためには5ml前後と比較的高容量が注射されなければならず、懸濁液が注射器の針を容易に詰まらせる可能性があるので(よって、厳密な投与プロトコルの順守が必要である)、比較的太い(例えば、19ゲージ)針の使用が必要となる。これら要因のいずれも、並びに深部筋肉内注射の必要性により、投与中に患者にかなりの不快感を与えることになる。よりゲージの小さい針で投与可能であり、かつ/又はこのような深部注射を必要としない、低容量の投与ですむデポー系を提供することができれば相当な利点となる。
【0023】
さらに、既存のソマトスタチン類似体のデポー系を有するPLGAマイクロビーズの製造は相当に困難である。特に、ビーズは粒子状であるので濾過滅菌できず、さらに、PLGA共重合体は40℃前後で溶融するため、ビーズを熱処理して滅菌することはできない。その結果、高度に無菌の条件下において複雑な製造工程が全て行われなければならない。
【発明の概要】
【0024】
ソマトスタチン類似体の公知の脂質デポー組成物が、既知のデポー組成物に伴う問題の多くを克服しているが、投薬及び放出速度に対するさらなる制御を提供することは依然として望ましい。上に示すように、オクトレオチド及び他のソマトスタチン類似体は、安定した投与量レベルで長期間にわたって必要である場合があり、したがって、さらにより綿密に制御された速度でさらにより延長された期間にわたって活性物質を放出する組成物を提供することが有利である。
【0025】
本発明者らは、現在、ペプチド活性物質(特に、ソマトスタチン類似体)の除放性組成物は、適切な対イオンが当該ペプチド活性物質の塩に対して選択された場合に驚くほどにより効果的であるということを確立した。
【0026】
したがって、第1の態様では、本発明は、ペプチド活性物質の遅延送達用組成物を提供し、この組成物は、
i)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む当該ペプチド活性物質の塩、
ii)徐放送達ベヒクル、を含む。
ここで、当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。
【0027】
多くの徐放性の送達系が存在し、これらの多くは本発明における使用に適している。例えば、PLGA、ポリ乳酸、又はポリグリコール酸などの分解性ポリマーに基づく、ポリマーをベースとする除放性組成物が適しているが、本発明での使用に最も適しているのは、WO2005/117830号明細書及び/又はWO2006/075124号明細書に記載のものなどの脂質をベースとするデポー組成物である。これら文献の全ての開示内容、併せて本明細書で引用される文書の開示内容は、参照により本明細書に援用される。生分解性ポリマーデポー製剤への活性物質の調合は、当該技術分野において現在十分に確立されておりかつ周知であって、したがって、本発明のペプチド塩は、公知の方法を用いてこれらと共に製剤化されてもよい。
【0028】
本発明の組成物は、機能的な濃度で少なくとも1か月間オクトレオチドを放出することができることが好ましい。この組成物は、25℃以上で少なくとも4週間の保存に対して、活性物質の本来の活性の5%を超えて失わず、安定していることがさらに好ましい。好ましいペプチド活性物質は、本明細書に記載のソマトスタチン類似体である。
【0029】
本発明のある好ましい態様では、本発明の組成物は、後に相変化を経てこれにより除放性の組成物を形成する低粘度の脂質組成物の注入により形成される。この態様では、本発明は、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む前製剤を提供する。
ここで、前製剤は、水性流体との接触に際して、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか又は形成することができ、かつ当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。
【0030】
一般的に、当該水性流体は体液(特に、血管外液、細胞外液/間質液、又は血漿)であり、前製剤は、そのような流体に接触(例えば、インビボで)すると、液晶相構造を形成する。本発明の前製剤は、一般的に、投与前には有意量の水分を含有しない。
【0031】
前製剤は投与に適した形態であることが好ましい(すなわち、希釈液又は懸濁液などに組成物を改変させる調製工程を必要としない)。前製剤(特に、投与に適した形態である場合)は、室温で少なくとも1ヶ月間(好ましくは、少なくとも6ヶ月間)の保存に対して、保存前の活性物質の活性の10%(好ましくは、5%)を超えて失わず、安定していることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の別の態様では、ヒト又は非ヒト動物(好ましくは、哺乳類)の身体へのソマトスタチン類似体の送達方法も提供され、この方法は、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む前製剤を非経口的に投与すること(例えば、筋肉内又は好ましくは皮下)を含み、これにより、投与後にインビボでの水性流体との接触に際して少なくとも1つの液晶相構造が形成され、当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。このような方法で投与される前製剤は、本明細書に記載の本発明の前製剤であることが好ましい。
【0033】
別の態様では、本発明はまた、液晶デポー組成物の調製方法を提供し、この方法は、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、並びに
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む前製剤をインビボで水性流体に曝露することを含み、ここで当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。
【0034】
投与される前製剤は、本明細書に記載の本発明の前製剤であることが好ましい。
【0035】
さらに別の態様では、本発明は、対象(好ましくは、哺乳類)への生物活性物質の投与に適した前製剤の形成プロセスを提供し、当該プロセスは、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
の低粘度混合物を形成すること、並びに少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩を、低粘度混合物中に或いは低粘度混合物を形成する前に成分a、b、又はcの少なくとも1つに、溶解又は分散させることを含み、ここで当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。このように形成された前製剤は、本明細書に記載の本発明の製剤であることが好ましい。
【0036】
また別の態様では、本発明は、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物の、当該ソマトスタチン類似体の持続的な投与で用いる前製剤の製造における使用を提供し、ここで、当該前製剤は、水性流体との接触に際して、少なくとも1つの液晶相構造を形成することができ、当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。
【0037】
また別の態様では、本発明は、治療を必要とするヒト又は非ヒト哺乳類対象のソマトスタチン類似体を用いた治療方法を提供し、当該方法は、当該対象に、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む前製剤を投与することを含み、ここで当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。
【0038】
上記治療方法は、先端巨大症、癌(癌腫及びメラノーマ、少なくとも1種のソマトスタチン受容体を発現する腫瘍、SSTR2−陽性腫瘍、SSTR−5−陽性腫瘍、前立腺癌、胃腸膵神経内分泌(GEP NE)腫瘍及び特にカルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管作動性腸管ペプチド(VIP)を産生する腫瘍、並びにグルカゴノーマなど)、成長ホルモン(GH)上昇、IGF−I上昇、静脈瘤出血(特に、食道の)、化学療法誘発性胃腸疾患(下痢など)、リンパ漏、糖尿病性網膜症、甲状腺眼症、肥満、膵炎、並びに関連する疾患から選ばれる少なくとも1種の疾患の治療方法であることが好ましい。
【0039】
さらに別の態様では、本発明は、先端巨大症、癌(癌腫及びメラノーマ、少なくとも1種のソマトスタチン受容体を発現する腫瘍、SSTR2−陽性腫瘍、SSTR−5−陽性腫瘍、前立腺癌、GEP NE腫瘍及び特にカルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、VIP産生する腫瘍、並びにグルカゴノーマなど)、GH上昇、IGF−I上昇、静脈瘤出血(特に食道の)、化学療法誘発性胃腸疾患(下痢など)、リンパ漏、糖尿病性網膜症、甲状腺眼症、肥満、膵炎、及び/又は関連する疾患の治療のためのデポーのインビボ形成に用いる低粘度前製剤薬剤の製造における、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の使用を提供し、ここで当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。
【0040】
本発明の前製剤は、その最終的な「投与準備完了」形態において、長期保存に対して安定しているという点で極めて有利である。その結果、上記前製剤は、医療従事者、或いは十分に訓練された医療従事者である必要はなくまた複雑な製剤を調製するための経験やスキルを有している可能性のない患者又はその介護者のいずれかによる投与のために容易に供給され得る。本発明者らは驚くべきことに、ペプチド活性物質が特定の対イオン(本明細書に記載のような)との塩の形態である組成物は、酢酸対イオンを有するWO2006/075124号明細書に記載の比較的安定な組成物よりも有意に安定しているということを見出した。
【0041】
さらに別の態様では、本発明は、測定された用量(測定用量)の本発明の前製剤を予め装填した使い捨て投与装置(装置の部品も含む)を提供する。このような装置は、通常、投与準備が完了している単回用量を含有し、一般的には、組成物が投与時まで装置内に保存されるように無菌包装されている。適切な装置としては、カートリッジ、アンプル、及び、特に、一体型の針又は適切な使い捨て用の針を収容するように適合させた標準的な取り付け具(例えば、ルアー)のいずれかを備えた注射器及び注射筒が挙げられる。
【0042】
さらなる態様では、本発明はしたがって、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む測定用量の前製剤を予め装填した使い捨て投与装置(特に、上記前製剤は、水性流体との接触に際して、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか又は形成できる)を提供し、ここで当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。
【0043】
本発明の充填済み装置はまた、投与キットに適宜組み込まれてもよく、このキットもまた本発明の別の態様をなす。さらに別の態様では、本発明は、したがって、少なくとも1種のソマトスタチン類似体の投与用キットを提供し、当該キットは、測定用量の本発明の製剤を含有し、任意に投与装置又はその部品を含有する。好ましくは、上記用量(これは筋肉内又は好ましくは皮下投与に適している)は、装置又は部品内に保持される。キットは、針、スワブなどのような投与用部品をさらに備えていてもよく、任意でかつ好ましくは投与に関する説明書を備えている。このような説明書は、通常、本明細書に記載の経路による、及び/又は本明細書で上に示した疾患の治療目的での投与に関するものである。
【0044】
また別の態様では、本発明はしたがって、少なくとも1種のソマトスタチン類似体の投与用キットをさらに提供し、当該キットは、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、並びに
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む測定用量の製剤(前製剤)を含み(特に、該前製剤は、水性流体との接触に際して、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか又は形成できる)、ここで当該少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン(好ましくは、塩化物又は臭化物イオン)である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、あらゆる種類の除放性組成物(例えば、7日毎よりも頻繁な投薬を必要としないもの)に適用可能であるが、いくつかの本発明の製剤は、投与後に非ラメラ液晶相を生成する。生理活性物質の送達における非ラメラ相構造(液晶相など)の使用は、現在では、比較的よく確立されている。このような構造は、両親媒性化合物が溶媒に曝露されると形成され、これは両親媒性物質が極性基及び非極性基をいずれも有し、これらが一団となって極性領域及び非極性領域を形成するからである。これらの領域は、極性及び非極性化合物をいずれも効果的に可溶化できる。さらに、極性及び/又は非極性溶媒において両親媒性物質によって形成される構造の多くは、他の両親媒性化合物が吸着及び安定化され得る非常に大きな面積の極性/非極性境界を有する。両親媒性物質はまた、酵素を含む侵食性の生物学的環境から少なくともある程度は活性物質を保護するように調合することができ、これにより、活性物質の安定性と放出を有利に制御することができる。
【0046】
両親媒性物質/水、両親媒性物質/油、及び両親媒性物質/油/水の相図における非ラメラ領域の形成は、周知の現象である。このような相としては、P型立方相、D型立方相、G型立方相、及び六方相などの液晶相(これらは分子レベルでは流体であるが、有意な長距離秩序を示す)、並びに非ラメラであるが液晶相の長距離秩序を欠く二分子層シートの多重相互結合両連続ネットワークを含むL3相が挙げられる。両親媒性物質シートの曲率に応じて、これらの相は、順相(平均曲率が非極性領域を指向する)又は逆相(平均曲率が極性領域を指向する)と記述される場合がある。
【0047】
非ラメラ液晶相及びL3相は、熱力学的に安定な系である。すなわち、これらは単に層やラメラ相などに分離及び/又は再構成される準安定状態にあるのではなく、脂質/溶媒混合物の安定な熱力学的形態である。
【0048】
バルク液晶相は一般的に粘度が高いため、本発明の前製剤は(投与後に液晶デポー組成物を形成する場合)、投与前に液晶性でないことが重要である。したがって、上記前製剤は、投与されると相変化を起こして液晶塊(liquid crystalline mass)を形成する低粘度で非液晶性の製剤である。低粘度混合物の特に好ましい例は、分子性溶液並びに/或いは等方相(L2相及び/又はL3相など)である。上に記載のように、L3は、何らかの相構造を有してはいるが液晶相の長距離秩序を欠く相互結合シートの非ラメラ相である。一般的に粘度が高い液晶相とは異なり、L3相は、より粘度が低いものである。L3相と分子性溶液との混合物、及び/又は1種若しくは複数の成分からなるバルク分子性溶液に懸濁したL3相の粒子もまた好適であることは明らかである。L2相は、いわゆる「逆ミセル」相又はマイクロエマルジョンである。最も好ましい低粘度混合物は、分子性溶液、L3相、及びその混合物である。L2相は、以下に述べるような膨潤L2相の場合を除き、好ましさが劣る。
【0049】
本明細書では、「低粘度混合物」なる語は、対象に容易に投与し得る混合物(特に、標準的な注射器及び針からなる装置によって容易に投与され得る)を表すものとして使用される。これは、例えば、1mlの使い捨て注射器からゲージの小さい針を通して供給される能力で表すことができる。低粘度混合物は、19awgの針、好ましくは19ゲージよりも細い針、より好ましくは23awg(又は最も好ましくは27ゲージ)の針を通して、指圧によって供給可能であることが好ましい。特に好ましい実施形態では、低粘度混合物は、0.22μmのシリンジフィルターなどの標準的な滅菌濾過膜を通過できる混合物とするのがよい。適切な粘度の典型的な範囲は、例えば、20℃で0.1〜5000mPas、好ましくは1〜1000mPasである。
【0050】
本明細書に示すような低粘度の溶媒を少量添加することにより、極めて有意な粘度の変化をもたらすことができることが確認されている。図1に示すように、例えば、わずか5%の溶媒を脂質混合物に添加するだけで、粘度を100分の1にまで低下させることができ、10%の溶媒を添加すると、粘度を最大で10000分の1にまで低下させる可能性がある。この非線形の相乗効果を達成するために、粘度を低下させるにあたり、適度に低粘度であり適切な極性を有する溶媒を採用することが重要である。このような溶媒としては、本明細書において下記に記載のものが挙げられる。
【0051】
本発明は、本明細書で示す、成分a、b、c、及びソマトスタチン類似体の塩などの少なくとも1種のペプチド塩を含む前製剤を提供する。これらの成分の量は、通常、a)が40〜70%、b)が30〜60%、及びc)が0.1〜20%の範囲であり、ペプチド塩は0.1〜10%の割合で存在する。本明細書全体にわたり%は、特に記載のない限り、いずれも重量%である。製剤は、実質的にこれらの成分のみで構成されていてもよく、一態様では、完全にこのような成分のみで構成されている。成分a)の好ましい範囲は43〜60%、特に45〜55%であり、成分b)の好ましい範囲は35〜55%、特に40〜50%である。成分c)の好ましい範囲は0.1〜10%である。本発明のこれら及び全ての好ましい態様は、特に記載のない限り、個別に又は任意に組み合わせて使用されてもよい。
【0052】
a:bの比率は、通常、40:60〜70:30、好ましくは45:55〜60:40、より好ましくは48:52〜55:45である。50:50前後の比率が極めて効果的である。
【0053】
前製剤中の溶媒成分c)の量は、いくつかの特徴に多大な影響を与える。特に、粘度及び放出の速度(及び持続時間)は、溶媒濃度に伴って著しく変化する。したがって、溶媒の量は、少なくとも低粘度混合物を提供するのに十分な量となるが、さらに、所望の放出速度を提供するように決定される。これは、下記の実施例に鑑みた慣例的な方法で決定されてもよい。通常、溶媒濃度が0.1〜20%であれば、適切な放出及び粘度特性が提供される。これは、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは2〜8%であり、5%前後の量が非常に効果的である。
【0054】
本発明者らによる注目すべき発見は、放出の最初の数日間における活性物質の放出プロファイルを「調節」するために、製剤中の溶媒の割合を利用することができるということである。特に、本発明の製剤はいずれも驚くほど低い「バースト/遅延」効果を有し(実際には、遅延期間が全くない可能性がある)、注射から数日(例えば、5日、好ましくは3日、より好ましくは1日)以内にプラトー放出レベルに達するが、最初の1〜2日間で活性物質の制御された「バースト」/初期放出が必要とされる場合には、これは、先に挙げた範囲の上部にまで溶媒の割合を高めることによって提供され得る。これに対し、上記範囲の中間から下部では、実質的にバーストがなく、迅速にプラトー放出レベルにまで低下するデポーを生成する製剤が提供される。
【0055】
したがって、一実施形態では、本発明は、成分c)を0.1〜6重量%前後含有し、投与後最初の数日間活性化合物の放出が少ない(「低バーストプロファイル」)製剤及びデポーを提供する。別の実施形態では、本発明は、成分c)を6.5〜10重量%前後含有し、投与後最初の数日間活性化合物の初期放出が多い(「バーストプロファイル」)製剤及びデポーを提供する。
【0056】
活性物質の初期放出が少ない(「低バーストプロファイル」)とは、最初の24時間における血漿中濃度−時間曲線下面積が、曲線全体における曲線下面積(時間0から時間無限大又は時間0から最終のサンプリング時点までを測定又は推定)の15%未満、より好ましくは10%未満、最も好ましくは7%未満であると定義される。さらに、初期ピーク後のプラトー血漿中濃度レベルまでの低下は迅速であるのがよい(48時間以内、より好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内にプラトーに達するように)。逆に、初期放出が多い(「バーストプロファイル」)とは、15%を超える活性物質が24時間以内に放出されること、より好ましくは20%を超える活性物質が最初の24時間で放出されることである。プラトーへの低下は、36時間後まで、より好ましくは48時間後まで、最も好ましくは72時間後まで起こらない。これらのプロファイルのそれぞれが、「プラトー」レベルへの活性物質の血漿中濃度の迅速な降下と組み合わされることが好ましい。例えば、10日後の血漿中濃度は、5日目〜20日目の平均濃度の50%を超えて上回らない又は50%未満がよい。これは、30%以下、より好ましくは20%以下であることが好ましい。
【0057】
上に示すように、本発明の前製剤中の成分cの量は、少なくとも、成分a、b、及びcから成る低粘度混合物(例えば、分子性溶液、上を参照のこと)を提供するために十分な量であり、いかなる特定の成分の組み合わせに関しても、標準的な方法により容易に決定される。相挙動自体は、偏光顕微鏡法、核磁気共鳴、及び低温透過型電子顕微鏡法(cryo−TEM)と組み合わせた目視観察などの技術により、溶液、L2相若しくはL3相、又は液晶相を観察して分析されてもよい。粘度は、標準的な手段により直接測定されてもよい。上に記載のように、適切で実用的な粘度は、効果的に注射可能な、特に濾過滅菌可能な粘度である。これは、本明細書に記載のように容易に判断できる。
【0058】
本明細書に示す成分「a」は、少なくとも1種のジアシルグリセロール(DAG)であり、したがって2つの非極性の「尾部」基を有する。2つの非極性基は、同一又は異なる数の炭素原子を有していてもよく、それぞれ独立して飽和又は不飽和であってもよい。非極性基の例としては、C6〜C32アルキル及びアルケニル基が挙げられ、これらは通常長鎖カルボン酸のエステルとして存在する。これらはしばしば炭素鎖における炭素原子数及び不飽和数を参照して説明される。したがって、CX:Zは、X個の炭素原子及びZ個の不飽和を有する炭化水素鎖を示す。具体例としては、カプロイル(C6:0)、カプリロイル(C8:0)、カプリル(C10:0)、ラウロイル(C12:0)、ミリストイル(C14:0)、パルミトイル(C16:0)、フィタノイル(C16:0)、パルミトレオイル(C16:1)、ステアロイル(C18:0)、オレオイル(C18:1)、エライドイル(C18:1)、リノレオイル(C18:2)、リノレノイル(C18:3)、アラキドノイル(C20:4)、ベヘノイル(C22:0)、及びリグノセロイル(C24:9)基が挙げられる。したがって、典型的な非極性鎖は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、フィタン酸、パルミトール酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、若しくはリグノセリン酸、又は対応するアルコールを含む天然エステル脂質の脂肪酸に基づく。好ましい非極性鎖は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸であり、特にオレイン酸である。
【0059】
任意の数のジアシル脂質の混合物を、成分aとして使用してもよい。好ましくは、この成分は、ジオレイン酸グリセロール(GDO)の少なくとも一部を含む。極めて好ましい例は、GDOを少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、さらには実質的に100%含むDAGである。
【0060】
GDO及び他のジアシルグリセロールは自然源由来の生成物であるため、一般的に、別の鎖長等を有する「混入物質」としての脂質がいくらかの割合で存在する。一態様では、本明細書ではGDOは、したがって、不純物が付随する任意の商業用等級のGDO(すなわち、商業純度のGDO)を示すために使用されている。当該不純物を精製により分離及び除去してもよいが、等級が一定である場合はこのような処理はほとんど必要ない。しかしながら、必要であれば、「GDO」は、実質的に化学的に純粋なGDOであってもよい(例えば、少なくとも純度が80%、好ましくは少なくとも純度が85%、より好ましくは少なくとも純度が90%のGDO)。
【0061】
本発明における成分「b」は、少なくとも1種のホスファチジルコリン(PC)である。成分aと同様に、この成分は、極性の頭部基と、少なくとも1つの非極性の尾部基を有する。成分aと成分bとの違いは、主に極性基にある。したがって、非極性部分は、成分aに関して先に考察した脂肪酸又は対応するアルコールから適切に誘導されてもよい。成分a)と同様に、PCは2つの非極性基を含みうる。
【0062】
ホスファチジルコリン部分は、どのジアシルグリセロール部分よりも好適に、自然源から誘導され得る。適切なリン脂質源としては、卵、心臓、脳、肝臓(例えば、ウシの)、及び大豆を含む植物源が挙げられる。このような材料源は、成分bの構成成分を1種又は複数提供してもよく、当該構成成分は、リン脂質の任意の混合物を含んでいてもよい。これら又はその他の材料源からの任意の単一のPC又は複数のPCの混合物を使用してもよいが、大豆PCを含む混合物が極めて好適である。PC成分は、好ましくは大豆PCを少なくとも50%、より好ましくは大豆PCを少なくとも75%、最も好ましくは本質的に純粋に大豆PCを含む。
【0063】
本発明の前製剤は、ソマトスタチン類似体活性物質の制御放出を目的として対象に投与されるため、成分が生体適合性であることが重要である。この点において、本発明の前製剤は、PC及びDAGがいずれも良好に許容され、インビボで哺乳類の身体に元来存在する成分へと分解されるため、極めて有利である。
【0064】
成分a及びbの特に好ましい組み合わせは、GDOとPC、特にGDOと大豆PCである。
【0065】
本発明の前製剤の成分「c」は、酸素含有有機溶媒である。前製剤は、投与(例えば、インビボで)後、水性流体との接触に際してデポー組成物を生成させるためのものであるため、この溶媒は、対象にとって許容可能なものであり、水性流体と混合可能であり、かつ/又は前製剤から水性流体中に拡散若しくは溶解可能であることが望ましい。したがって、少なくとも中程度の水溶性を有する溶媒が好ましい。
【0066】
好ましい種類では、溶媒は、a及びbを含む組成物に比較的少量(すなわち、好ましくは10%未満)を加えた場合に、1桁以上の大幅な粘度低下をもたらす。本明細書に記載のように、10%の溶媒を加えることにより、溶媒を含まない組成物に対し、その組成物が溶媒を含まない溶液若しくはL2相、又は水などの不適当な溶媒若しくはグリセロールを含む場合であっても、2桁、3桁、又は4桁も粘度を低下させることができる。
【0067】
成分cとしての使用に適した典型的な溶媒としては、アルコール、ケトン、エステル(ラクトンを含む)、エーテル、アミド、及びスルホキシドから選ばれる少なくとも1種の溶媒が挙げられる。アルコールが特に好適であり、好ましい溶媒群を形成する。好適なアルコールの例としては、エタノール、イソプロパノール、及びグリセロールホルマールが挙げられる。エタノールが最も好ましい。モノオールが、ジオール及びポリオールよりも好ましい。ジオール又はポリオールが使用される場合、少なくとも等量のモノオール又は他の好ましい溶媒と併用されることが好ましい。ケトンの例としては、アセトン及び炭酸プロピレンが挙げられる。好適なエーテルとしては、ジエチルエーテル、グリコフロール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソバーバイド(dimethylisobarbide)、及びポリエチレングリコールが挙げられる。好適なエステルとしては、酢酸エチル、安息香酸ベンジル、及び酢酸イソプロピルが挙げられ、ジメチルスルフィドは好適な硫化物溶媒である。好適なアミド及びスルホキシドとしては、それぞれ、n−メチルピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド(DMA)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
【0068】
極めて好ましい組み合わせは、大豆PC、GDO、及びエタノールである。これは、塩化オクトレオチドなどのソマトスタチン類似体の塩化物又は臭化物と特に相溶性がある。PCが40〜60%、GDOが40〜60%、エタノールが3〜10%、及び塩化オクトレオチドが1〜8%前後の組成物が、好ましい例である。
【0069】
成分cが、ハロゲンで置換された炭化水素をほとんど又は全く含有しないことが好ましく、これは、当該炭化水素は、比較的低い生体適合性を有する傾向があるためである。ジクロロメタン又はクロロホルムなどのハロゲン化溶媒が一部必要である場合、その割合は、一般的に、最小限とされる。
【0070】
本明細書では成分cは、単一の溶媒であってもよいし、又は複数の好適な溶媒の混合物であってもよいが、一般的には低粘度のものである。このことは、本発明の主たる態様の一つは低粘度の前製剤を提供することであり、好適な溶媒の主要な役割はこの粘度を低下させることであるため重要である。この低下は、より低い粘度の溶媒による効果と、溶媒と脂質組成物との分子間相互作用による効果とが組み合わされたものである。本発明者らの所見の一つは、本明細書に記載の低粘度の酸素含有溶媒は、組成物の脂質部分との間に極めて有利かつ予期しなかった分子間相互作用をもたらし、これにより、少容量の溶媒を加えることにより非線形の粘度低下をもたらすということである。
【0071】
「低粘度」溶媒成分c(単一の溶媒又は混合物)の粘度は、通常、20℃で18mPas以下とするのがよい。これは、好ましくは20℃で15mPas以下、より好ましくは10mPas以下、最も好ましくは7mPas以下である。
【0072】
本発明の前製剤の別の利点は、生理活性物質をより高濃度で系に組み込み得るということである。特に、成分a〜c(特に、c)を適切に選択することにより、高濃度の活性物質を前製剤に溶解又は懸濁し得る。これにより、投与容量を低減し、したがって対象の不快感を緩和することができる。
【0073】
本発明の前製剤は、通常、有意量の水分を含まない。脂質組成物から微量の水分を全て除去することは実質的に不可能であるため、これは、容易に除去できない最低限の微量の水分のみが存在することを意味しているものと解釈される。このような量は、一般的に、前製剤の1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満である。好ましい一態様では、本発明の前製剤は、グリセロール、エチレングリコール、又はプロピレングリコールを含まず、先ほど記載したように微量の水分を含む。
【0074】
本発明の前製剤のいくつかは、1種又は複数のソマトスタチン類似体(ソマトスタチン類似体はペプチド活性物質の好ましい例であり、翻って本明細書では「活性物質」に対するいずれの言及よってもソマトスタチン類似体が意図される)の塩を含有する。SST−14はペプチドホルモンであるため、典型的なソマトスタチン類似体はペプチド(特に14個以下のアミノ酸で構成されるもの)である。このようなペプチドは、環状であること、及び/又は少なくとも1つの分子内架橋を有することなどにより、構造的に制約されていることが好ましい。アミド、エステル、又は特にジスルフィド架橋が極めて好適である。好ましい制約されたペプチドは、2型βターンを示す。このようなターンは、ソマトスタチンの主要領域に存在する。ペプチドは、遺伝情報に示された20個のα−アミノ酸から選ばれるアミノ酸のみを含んでいてもよく、或いは、より好ましくは、これらの異性体及び他の天然及び非天然アミノ酸(一般的には、α、β、又はγ、或いはL又はD−アミノ酸)並びにこれらの類似体及び誘導体を含んでいてもよい。本明細書では「ソマトスタチン類似体」なる語は、場合によってはSST−14及び/又はSST−28も包含する。これは、本明細書に記載の非常に高機能な除放性製剤において、塩として調合された場合にこれらは利用可能なペプチド活性物質であるからである。
【0075】
タンパク質合成に普通は使用されないアミノ酸誘導体及びアミノ酸がペプチドの末端において特に有用であり、ここで末端のアミノ基又はカルボン酸基は、ヒドロキシ、アルコキシ、エステル、アミド、チオ、アミノ、アルキルアミノ、ジ若しくはトリアルキルアミノ、アルキル(本明細書全体を通し、C1-12アルキル、好ましくはC1-6アルキル、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、及びイソ−、sec−、若しくはt−ブチルなどを意味する)、アリール(例えば、フェニル、ベンジル、ナフチルなど)、又は他の官能基(好ましくは少なくとも1種のヘテロ原子を有しかつ好ましくは合計で10個以下(より好ましくは6個以下)の原子を有する)などの任意の他の官能基で置換されていてもよい。
【0076】
特に好ましいソマトスタチン類似体は、6〜10個のα−アミノ酸からなる制約されたペプチドであり、その具体例としては、オクトレオチド、ランレオチド(配列がNH2−(D)Naph−Cys−Tyr−(D)Trp−Lys−Val−Cys−Thr−CONH2のもの、及び配列がNH2−(D)Naph−Cys−Tyr−(D)Phe−Lys−Val−Cys−Thr−CONH2のその環状誘導体、いずれもCys−Cys分子内ジスルフィド架橋を有する)、SOM230(構造は下記を参照のこと)、並びにバプレオチドが挙げられる。最も好ましいのは、オクトレオチドである。
【0077】
【化1】

【0078】
ソマトスタチン類似体は、一般的に、製剤全体の0.1〜10重量%となるように調合される。典型的な値は、1〜9%、好ましくは2〜9%、より好ましくは2.5〜8%である。6%前後のソマトスタチン類似体含有量が最も好ましい。
【0079】
製剤に含ませるのに適したソマトスタチン類似体の用量、したがって、使用される製剤の容量は、選択された特定の活性物質の放出速度(例えば、溶媒の種類及び使用量によって制御される放出速度)、放出持続期間、所望の治療レベル、活性、及びクリアランス速度に応じて異なる。通常、1用量当たり1〜500mgの量が、7〜90日間治療レベルを提供するのに適している。これは、5〜300mgであることが好ましい。オクトレオチドに関しては、このレベルは、通常、10〜180mg前後(例えば、30〜90日の持続期間)である。オクトレオチドの量は、注射と注射の間の期間において、0.2〜3mg/日前後であるのが好ましい。したがって、30日毎に投与されるデポーは、オクトレオチドを6〜90mg含有し、すなわち90日毎に投与されるデポーは、オクトレオチドを18〜270mg含有する。
【0080】
本明細書に記載の特定のペプチド塩の驚くべき利点の1つは、当該ペプチド塩が活性物質の非常に緩やかな放出を可能にし、したがって長期間にわたる放出を目的として多量の活性物質を含むデポー組成物を可能にするということである。したがって、例えば、最大で180日までの放出持続期間が本発明の組成物によって達成される範囲であり、最大で1gまでの活性物質用量がそのような長期作用性のデポーには必要となる可能性がある。
【0081】
参照しやすいよう、本明細書では、「ペプチド」、「ソマトスタチン類似体」、「オクトレオチド」、及び他のペプチドなどの語が使用及び言及される。本発明では、この言及は、文脈が遊離ペプチドに対するものでない場合は、ハロゲン化物(例えば、塩化物若しくは臭化物又はそれらの混合物)塩を意味し、1種又は複数のアニオン性対イオンが示されている場合は、ペプチドカチオンを意味する。
【0082】
本発明の前製剤は、非経口投与用に調製される。この投与は、一般的には、血管内へ投与する方法ではなく、皮下、腔内、又は筋肉内投与であることが好ましい。通常、投与は注射によって行われるが、注射なる語は、本明細書では、針、カテーテル、又は無針注射器などの、製剤が皮膚を通過するようにする任意の方法を意味するために使用される。
【0083】
好ましい非経口投与は、本発明で使用される特定の徐放性製剤に応じて異なる。好ましい脂質デポー系に関しては、例えば、前製剤を筋肉内注射又は皮下注射によって投与することが好ましく、深部皮下注射によって投与することが最も好ましい。これは、ポリマー型オクトレオチドデポーの投与に使用される(深部)筋肉内注射と比べると深度が浅くかつ対象が感じる痛みが少ないという利点を有し、また、注射の容易さと皮膚への副作用のリスクの低さを兼ね備えていることから本件に関しては技術的に最も適している。ポリマー型オクトレオチドデポー組成物には、筋肉内注射が好ましいことは明らかである。
【0084】
本発明の前製剤は、水性流体への曝露(特にインビボで)に際して非ラメラ液晶デポー組成物を提供する。本明細書では、「非ラメラ」なる語は、順相若しくは逆相の液晶相(立方相若しくは六方相など)又はL3相、或いはこれらの任意の組み合わせを意味するために使用される。液晶なる語は、あらゆる六方液晶相、あらゆる立方液晶相、及び/又はこれらのあらゆる混合物を意味する。本明細書では、特に記載のない限り、六方相は、「順相」又は「逆相」の六方相(好ましくは、逆相)を意味し、「立方相」は、任意の立方液晶相を意味する。
【0085】
多数の脂質の組み合わせには、ある特定の非ラメラ相のみが存在するか、或いは任意の安定した状態で存在する。本明細書に記載の組成物が、多数の他の成分の組み合わせでは存在しない非ラメラ相を高い頻度で示すということは、本発明の驚くべき特徴である。したがって、特に有利な一実施形態では、本発明は、水性溶媒で希釈された場合にI2相及び/又はL2相領域を存在させる成分の組み合わせを有する組成物に関する。このような領域の有無は、どのような特定の組み合わせに関してであっても、単に組成物を水性溶媒で希釈し、得られる相構造を本明細書に記載の方法で調べることにより、容易に判断することができる。
【0086】
極めて有利な実施形態では、本発明の組成物は、水分との接触に際して、I2相、又はI2相を含む混合相を形成してもよい。I2相は、不連続な水性領域を有する逆立方液晶相である。この相は、活性物質の制御放出に、そして特に水溶性活性物質などの極性活性物質との併用に特に有利であり、これは、不連続な極性ドメインが、活性物質の迅速な拡散を妨げるからである。L2のデポー前駆体は、I2相デポー形成物(I2 phase depot formation)との併用が極めて効果的である。これは、L2相が、離散した極性のコアを取り囲む連続的な疎水性領域を有するいわゆる「逆ミセル」相であるからである。したがって、L2は、親水性の活性物質と同様の利点を有する。
【0087】
体液との接触後の過渡段階において、組成物は複数の相を含む可能性があり、これは、特にかなりの大きさの内部デポーを投与した場合、初期表面相の形成により、デポーコアへの溶媒の透過が遅延されるからである。理論に拘束されるものではないが、この表面相、特に液晶表面相の過渡形成は、組成物とその周囲との間の交換速度を即座に制限することにより、本発明の組成物の「バースト/遅延」プロファイルを劇的に低減させる働きをすると考えられる。遷移相は、(一般的には、デポーの外側から中心に向かって順に)HII若しくはLα、I2、L2、及び液体(溶液)を含む可能性がある。本発明の組成物は、生理的温度の水分との接触後に、これらの相の少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つを過渡段階で同時に形成可能であることが極めて好ましい。特に、少なくとも過渡的に形成される相の1つがI2相であることが極めて好ましい。
【0088】
本発明の前製剤は低粘度であることを理解することは重要である。その結果、当該前製剤は、バルク液晶相であってはならず、これは、液晶相はいずれも注射器又はスプレーディスペンサーで投与可能な粘度よりもはるかに高い粘度を有するからである。したがって、本発明の前製剤は、溶液、L2相、又はL3相(特に、溶液又はL2相)などの非液晶状態にある。本明細書全体を通してL2相は、粘度低下効果を有する10重量%を超える溶媒(成分c)を含有する「膨潤」L2相であることが好ましい。これは、溶媒を含有しないか、より少量の溶媒を含有するか、或いは本明細書中に明記する酸素含有低粘度溶媒に伴う粘度低下をもたらさない溶媒(又は混合物)を含有する、「濃縮」又は「非膨潤」L2相とは対照的である。
【0089】
本発明の前製剤は、投与されると、低粘度混合物から高粘度(一般的には、組織付着性)デポー組成物へと相構造転移する。一般的には、これは、分子混合物の、膨潤L2及び/又はL3相から、順相若しくは逆相の六方液晶相若しくは立方液晶相又はこれらの混合物などの1種又は複数の(高粘度)液晶相への転移である。上に示したように、投与後にさらなる相転移が起こる可能性がある。本発明が機能するためには、完全な相転移が必要ではないことは明らかであるが、投与された混合物の少なくとも表面層が液晶構造を形成する。一般的に、この転移は、投与された製剤の少なくとも表面領域(空気、体表面、及び/又は体液と直接接触している部分)については迅速である。これは、数秒又は数分(例えば、最大で30分、好ましくは最大で10分、より好ましくは5分以下)で起こることが最も好ましい。前記組成物の残部は、拡散によって、及び/又は表面領域が分散するにつれて、よりゆっくりと液晶相に相変化し得る。
【0090】
したがって、好ましい一実施形態では、本発明は、水性流体との接触に際して、少なくともその一部が六方液晶相を形成する、本明細書に記載の前製剤を提供する。このように形成された六方相は、徐々に分散及び/又は分解して活性物質を放出してもよいし、或いは続いて立方液晶相へと変化し、次いでこの立方液晶相が徐々に分散してもよい。六方相は、立方相構造(特に、I2相及びL2相)と比べ、活性物質(特に、親水性活性物質)をより迅速に放出すると考えられる。したがって、立方相の形成前に六方相が形成される場合、これは濃度が効果的なレベルにまで迅速に高まるような活性物質の初期放出を招き、その後、立方相が分解するにつれて、漸進的な「維持量」の放出が起こる。このようにして、放出プロファイルが制御されてもよい。
【0091】
理論に拘束されるものではないが、本発明の前製剤は、曝露(例えば、体液への)に際して、含有する有機溶媒の一部又は全部を喪失(例えば、拡散によって)し、かつ身体的環境(例えば、インビボ環境で)から水性流体を取り込み、これにより、製剤の少なくとも一部が非ラメラ、特に液晶相構造を生成すると考えられる。ほとんどの場合、当該非ラメラ構造は高粘度であり、インビボ環境に容易に溶解又は分散されない。この結果、限られた領域のみが体液に曝露され、モノリシック「デポー」がインビボで生成される。さらに、非ラメラ構造は大きな極性、非極性、及び境界領域を有しているため、ペプチドなどの活性物質を可溶化及び安定化し、当該活性物質を劣化メカニズムから保護する上で極めて効果的である。前製剤から形成されたデポー組成物が数日間、数週間、又は数ヶ月間にわたって徐々に分解するにつれて、組成物から活性物質が徐々に放出及び/又は拡散される。デポー組成物内の環境は比較的保護されているため、本発明の前製剤は、比較的短い生物学的半減期を有する活性物質(上を参照のこと)に対して極めて好適である。
【0092】
本発明の製剤により形成されるデポー系は、活性物質を分解から保護する上で極めて効果的であり、したがって、放出期間を延ばすことができる。公知のPLGA徐放製品と、GDO、大豆PC、エタノール、及びオクトレオチドを含有する本発明の製剤との間で、比較試験を行った。当該試験は、本発明の製剤は、擬似インビボ条件下において、オクトレオチドとPLGAミクロスフェアからなる公知の組成物よりも、分解しにくいことを示した。したがって、本発明の製剤は、20〜90日、好ましくは30〜60日、より好ましくは35〜48日毎に1回のみ投与すればよいソマトスタチン類似体のインビボデポーを提供し得る。より長く安定した放出期間が、患者の快適さ及び服薬コンプライアンス、並びに医療従事者が要する時間を短縮する上で望ましいことは明らかである。
【0093】
本発明で好まれる脂質をベースとするデポー前駆体の相当な利点は、当該前駆体が安定で均一な相であるということである。すなわち、当該前駆体は、相分離を起こすことなく、かなりの期間(好ましくは、少なくとも6ヶ月間)保存可能である。これにより、保存に有利であるだけでなく、個々の対象の種、年齢、性別、体重、及び/又は身体状態を参照したソマトスタチン類似体の用量の選択が、選択した容量を注射することによって可能となる。さらに、本発明者らは、驚くべきことに、試料として用いた容量の注射では少なくとも10倍の範囲において、活性物質の用量は、注射された組成物の容量に比例することを見出した(下記実施例及び図を参照のこと)。これは非常に予想し得ないものである。なぜなら、デポー重量を10倍に増加させても、それに対応して表面積は増加せず(物体の面積は、容量の増加の3分の2乗まで増加する)、よって放出の増強は10倍未満の範囲までであると推測されるからである。しかしながら、投薬が注射容量に直接比例しない状況下においても、デポー前駆体の均一性により、事前測定用量の部分的な投与が可能であり、この投与は、関連する対象に関する変数のいずれか又は全てを考慮して作られる可能性のある投薬表、カルテ、ソフトウェアによる計算などを参照して行ってもよい。
【0094】
したがって、脂質−デポーの実施形態では、本発明は、個体に合わせた投薬量(特に、対象の体重に基づいて)を選択することを含む方法を提供する。この用量選択の手段は、投与容量によるものである。
【0095】
前製剤により、活性物質の放出プロファイルにおいて「バースト」効果がほとんど見られないデポー組成物が得られるということは、本発明者らによる予期せぬ知見である。このことが予期されなかったのは、前組成物(pre-composition)の低粘度混合物(特に、これが溶液の場合)は、水分に曝露された際に迅速に活性物質を喪失すると考えられていたからである。実際には、本発明の前製剤は、表面に結合した活性物質が初期に「洗い流される("wash off")」傾向を有する従来公知のポリマーをベースとするデポー組成物と比べて、著しく低い初期「バースト」を示す。これは、下記実施例及び本明細書に添付の図面に示されている。したがって、一実施形態では、本発明は、投与後における活性物質の最高血漿中濃度が、投与後24時間から5日の間における平均濃度の10倍以下となる注射用前製剤及びこの前製剤から得られるデポー組成物を提供する。この比率は、平均濃度の8倍以下であることが好ましく、5倍以下であることが最も好ましい。
【0096】
本発明の組成物(特に、好ましい脂質デポー系を使用するもの)はまた、投与後に「遅延」効果がほとんどないデポー組成物の生成を可能にする。したがって、別の実施形態では、本発明は、単回投与後7日目の活性物質の血漿中濃度が、投与後21日目の活性物質の血漿中濃度以上となる注射用前製剤及びこの前製剤から得られるデポー組成物を提供する。同様に、最初の21日間の活性物質の濃度は、投与後30日目以降におけるいずれの時点の濃度よりも常に高くなるはずである。この徐々に低下する放出プロファイルは、ソマトスタチン類似体製剤に関しては、これまでに実証されていなかった。
【0097】
ペプチド活性物質がハロゲン化物塩(例えば、塩化物又は臭化物)の形態である本発明の組成物は、酢酸塩などのより一般的な塩を使用する同様の製剤と比較して、驚くほど有利な放出プロファイルを示す。放出速度は、酢酸塩と比べて塩化物塩では最大で1/4前後まで遅い可能性があり(例えば、オクトレオチドに関して)、したがって、デポー組成物は、可能性として最大で4倍までの効果持続期間を有する。これは、対イオンのみが変化し、実際に機能するペプチドイオンがそのまま維持されることを考えると、明らかに相当に有益であり、非常に予想し得ないものである。除放性組成物においてそのような塩の潜在的な利点に対して過去に検討されたとは考えられない。
【0098】
理論に拘束されるものではないが、除放性組成物のマトリクスに対する対イオン透過性が、この違いの原因である可能性があると考えられる。これは、例えば、塩化物イオンは、酢酸イオンと比べて、デポー組成物をゆっくり透過することを示唆している。
【0099】
本発明の種々の態様において、下記の特徴が、個別であっても組み合わされても好ましい。
【0100】
徐放送達ベヒクルは、生分解性ポリマー(ポリ乳酸、ポリグリコール酸、又はPLGAなど)、又は本明細書に記載のものを含む脂質をベースとする徐放性製剤である。
【0101】
ペプチド活性物質は、本明細書に示すもののハロゲン化物から選ばれる少なくとも1種のソマトスタチン類似体塩、好ましくは、オクトレオチド、ランレオチド、SOM230、又はバプレオチドのものである。
【0102】
成分aは、GDOを含むか、実質的にGDOからなるか、又は好ましくはGDOからなる。
【0103】
成分bは、大豆PCを含むか、実質的に大豆PCからなるか、又は好ましくは大豆PCからなる。
【0104】
成分cは、1、2、3若しくは4個の炭素原子を有するアルコール、好ましくはイソプロパノール、又はより好ましくはエタノールを含むか、実質的に当該アルコールからなるか、又は好ましくは当該アルコールからなる。
【0105】
前製剤は、本明細書に示す低い粘度を有する。
【0106】
前製剤は、インビボ投与に際して、本明細書中に示す液晶相を形成する。
【0107】
前製剤は、インビボ投与後にデポーを生成し、このデポーは、少なくとも30日間、好ましくは少なくとも40日間、より好ましくは60日間にわたって少なくとも1種のソマトスタチン類似体を治療レベルで放出する。
【0108】
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴と組み合わせて、本発明の治療方法は、1つ若しくは複数の下記の好ましい特徴を個々に又は組み合わせて有する可能性がある。
【0109】
上記方法は、上に示す好ましい特徴を1つ若しくは複数有する少なくとも1種の製剤を投与することを含む。
【0110】
上記方法は、本明細書に示す少なくとも1種の製剤を、筋肉内、皮下、又は好ましくは深部皮下注射によって投与することを含む。
【0111】
上記方法は、本明細書に示す充填済み投与装置による投与を含む。
【0112】
上記方法は、19ゲージかそれより小さい、好ましくは19ゲージより小さい、より好ましくは23ゲージの針を介した投与を含む。
【0113】
上記方法は、20〜180日、好ましくは30〜60日、より好ましくは35〜48日毎の単回投与を含む。
【0114】
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴と組み合わせて、薬剤の製造における本明細書に示す前製剤の使用は、1つ若しくは複数の下記の好ましい特徴を個々に又は組み合わせて有する可能性がある。
【0115】
上記使用は、上に示す好ましい特徴を1つ若しくは複数有する少なくとも1種の製剤の使用を含む。
【0116】
上記使用は、本明細書に示す少なくとも1種の製剤を、筋肉内、皮下、又は好ましくは深部皮下注射によって投与するための薬剤の製造を含む。
【0117】
上記使用は、本明細書に示す充填済み投与装置による投与のための薬剤の製造を含む。
【0118】
上記使用は、19ゲージかそれより小さい、好ましくは19ゲージより小さい、より好ましくは23ゲージの針を介した投与のための薬剤の製造を含む。
【0119】
上記使用は、20〜180日、好ましくは30〜60日、より好ましくは35〜48日毎の単回投与のための薬剤の製造を含む。
【0120】
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴と組み合わせて、本発明の充填済み装置は、1つ若しくは複数の下記の好ましい特徴を個々に又は組み合わせて有する可能性がある。
【0121】
上記充填済み装置は、本明細書に示す好ましい製剤を含む。
【0122】
上記充填済み装置は、19ゲージより小さい、好ましくは23ゲージかそれより小さい針を含む。
【0123】
上記充填済み装置は、1〜1000mg、好ましくは5〜300mgの単回用量のソマトスタチン類似体塩を含む。
【0124】
上記充填済み装置は、塩化オクトレオチドを10〜180mg前後含む。
【0125】
上記充填済み装置は、予定された投与と投与の間の期間に塩化オクトレオチドを0.2〜3mg/日前後で含む。
【0126】
上記充填済み装置は、5ml以下、好ましくは3ml以下、より好ましくは2ml以下の総投与容量を含む。
【0127】
本明細書に示す特徴及び好ましい特徴と組み合わせて、本発明のキットは、1つ若しくは複数の下記の好ましい特徴を個々に又は組み合わせて有する可能性がある。
【0128】
上記キットは、本明細書に示す好ましい製剤を含む。
【0129】
上記キットは、本明細書に示す充填済み装置を含む。
【0130】
上記キットは、19ゲージかそれより小さい、好ましくは23ゲージかそれより小さい針を含む。
【0131】
上記キットは、1〜1000mg、好ましくは5〜300mgの単回用量のソマトスタチン類似体塩を含む。
【0132】
上記キットは、塩化オクトレオチドを10〜180mg前後含む。
【0133】
上記キットは、予定された投与と投与の間の期間に塩化オクトレオチドを0.2〜3mg/日前後で含む。
【0134】
上記キットは、5ml以下、好ましくは3ml以下、より好ましくは2ml以下の総投与容量を含む。
【0135】
上記キットは、本明細書に示す経路によるかつ/又は頻度での投与に関する説明書を含む。
【0136】
上記キットは、本明細書に記載の治療方法で使用する投与に関する説明書を含む。
【0137】
下記の非限定的な実施例及び添付の図面を参照して、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、N−メチルピロリジノン(NMP)及びEtOHの添加による、前製剤粘度の非線形な低下を示す。
【図2】図2は、酢酸オクトレオチド(OCT(Ac))を含む製剤及び塩化オクトレオチド(OCT(Cl))を含む製剤からのオクトレオチド(オクトレオチド塩基(OCT(0))のインビトロ放出を示す。
【図3】図3は、酢酸塩及び塩化物塩製剤の保存期間及び条件の関数としてのオクトレオチド含有量を示す(名目上の含有量に対する%として表す)。
【図4】図4は、酢酸オクトレオチド及び塩化オクトレオチドを含む製剤に関して、HPLCにより検出され、215nmにおける%面積として表される分解産物を示す。
【実施例】
【0139】
実施例
実施例1
組成物の選択によるデポー中の各種液晶相の利用可能性
ホスファチジルコリン(「PC」、エピクロン200)とジオレイン酸グリセロール(GDO)とを異なる割合で含み、EtOHを溶媒として含む注射製剤を調製し、デポー前駆体製剤を過剰量の水で平衡化した後、各種液晶相が得られることを例証した。
【0140】
適量のPC及びEtOHをガラスバイアルで計量し、得られた混合物を、PCが完全に溶解し透明な溶液となるまで振盪器にかけた。次いで、GDOを加えて、均一な注射溶液を作成した。
【0141】
各製剤をバイアルに注入し、過剰量の水で平衡化した。相挙動を、目視及び交差偏光子間で25℃にて評価した。結果を表1に示す。
【0142】
【表1】

【0143】
実施例2
溶媒(EtOH、PG、及びNMP)の添加によるPC/GDO(5:5)又はPC/GDO(4:6)の粘度
約25%EtOHを有するPC/GDO/EtOHの混合物を、実施例1の方法に従って製造した。回転蒸発器(真空、40℃で1時間、続いて50℃で2時間)を用いて混合物からEtOHを完全又はほぼ完全に除去し、得られた混合物をガラスバイアルで計量した後、1、3、5、10、又は20%の溶媒(EtOH、プロピレングリコール(PG)、又はn−メチルピロリドン(NMP))を加えた。試料を数日間平衡化させた後、自動間隔設定(automatic gap setting)を備えるキャリメド(CarriMed)CSL100レオメータを用いて粘度を測定した。
【0144】
この実施例は、ある種のデポー前駆体には、注射製剤を得るためには溶媒が必要であることを明確に示している(図1を参照のこと)。溶媒を含有しないPC/GDO混合物の粘度は、PCの比率の上昇と共に上昇する。PC/GDO比率の低い(GDOが多い)系は、より低い溶媒濃度で注射可能となる。
【0145】
実施例3
ペプチドであるオクトレオチドを含むデポー組成物の調製
酢酸オクトレオチド(24mg、60mg)を、0.1gのEtOHに溶解した。次に、0.36gのPC及び0.54gのGDOをこの溶液に溶解し、デポー製剤前駆体を得た。過剰量の水相に製剤前駆体を注入(注射器23G、0.6mm×30mm)したところ、モノリシック液晶相(I2構造)が得られた。すなわち、水性環境に曝露された後もオクトレオチド(2.4%又は6.0%)のモノリス形成及び相挙動に変化はなかった。
【0146】
この実施例のオクトレオチドデポー前駆体製剤に関し、保存期間中の結晶化に対する安定性を試験した。各製剤は、4〜8℃で少なくとも2週間安定していた。
【0147】
実施例4
塩化オクトレオチドの調製
イオン交換カラムに酢酸オクトレオチド(OCT(Ac))の水溶液を流して、OCT(Ac)から塩化オクトレオチド(OCT(Cl))を調製し、陰イオン交換樹脂ダウエックス1×2(フルカ)でプレパックし、注射用水(WFI)で前平衡させた。採取した画分の導電率を測定して、WFI中の適正なOCT(Cl)の画分を確認した。当該画分を貯留し、試料を一晩フリーズドライして凍結乾燥させて、OCT(Cl)を白色の粉末として得た。
【0148】
実施例5
酢酸オクトレオチド及び塩化オクトレオチド組成物
OCT(Ac)及びOCT(Cl)の液晶製剤を次の方法で調製した。大豆ホスファチジルコリン(SPC:リポイドS100、ドイツのリポイド社より)、ジオレイン酸グリセロール(GDO:デンマークのダニスコ社より)、エタノール(EtOH、99.5%)、及びOCT(Ac)(米国カリフォルニア州のポリペプチドラブス社)若しくはOCT(Cl)(実施例4と同様に調製)を、均一な液体混合物が得られるまで、過剰量のEtOH中で混合した。その後、過剰の溶媒を回転蒸発器で蒸発させてEtOH含有量を5重量%まで調整した。試料の組成を下記表に示す。
製剤組成(重量%)
【0149】
【表2】

【0150】
インビトロ放出は、まず、96ディープウェルプレートのウェルにそれぞれの製剤の試料(0.1〜0.4g)を配置することにより測定された。液体のオクトレオチド製剤を数分間ウェルの底に沈降させた後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を、製剤対水性媒体の重量比に関する必要条件(製剤が過剰になる量からPBSが過剰になる量まで)を満たすように、様々な量(0.2〜1mL)で加えた。96ウェルプレートをその後37℃及び低回転速度(150rpm)に維持した揺動テーブル上に置いた。24時間後、各ウェルからPBS試料を取り除き、離型剤水溶液中のオクトレオチド含有量(オクトレオチド塩基=OCT(0)換算で)をHPLCにより分析した。各製剤対PBS比率及び各製剤に関して少なくとも2つの複製物(ウェル)を分析した。
【0151】
結果を、製剤対PBSの重量比の関数としての、各製剤から放出された%オクトレオチド(オクトレオチド塩基:OCT(0))として図2に示す。製剤対PBSの重量比の観点から調査した全ての条件において、OCT(Ac)を含む製剤からのオクトレオチドの放出は、対応するOCT(Cl)製剤に関するものよりも著しく高いことが図2から明らかである。ペプチドの対イオン(酢酸塩対塩化物塩)のみが製剤間で異なるということを考えればこの事実は非常に驚くべきことである。観察された効果は、PBS対製剤の割合には本質的には無関係であり、ペプチド活性物質の持続放出が必要な条件である場合には、オクトレオチドの持続的作用型徐放デポー製品(例えば、1か月又はより長い持続期間)に関して特に興味深いものである。
【0152】
実施例6
LCデポー製剤中のオクトレオチドの安定性:酢酸オクトレオチド(OCT(Ac))と塩化オクトレオチド(OCT(Cl))の比較
実験の詳細
OCT(Ac)及びOCT(Cl)のLC製剤を、実施例5で上に記載のように調製した(OCT(Cl)は、イオン交換カラムクロマトグラフィーによりOCT(Ac)から調製された。実施例4を参照のこと)。製剤の組成を下記表に示す。製剤を、40℃/75%相対湿度の人工気候室(ターマック)で、テフロン(登録商標)コーティングされたゴム栓を備えたガラスバイアル中で保存した。オクトレオチド含有量(名目上の含有量の%として表す)、ID、及び関連物質を、215nmでUV検出するHPLCにより測定した。
【0153】
【表3】

【0154】
結果
保存期間及び条件の関数としてのオクトレオチド含有量(名目上の濃度の%として示す)を図3に示す(表2を参照のこと)。対イオンを酢酸塩から塩化物塩に変更する効果は予想外に高い。40℃にて4週間後のOCT(Cl)製剤(#192)にはほとんど変化が起こっていないが、OCT(Ac)製剤(#174)中のオクトレオチドには著しい分解が起きる。これは、分解産物の量(215nmのUV検出でのピーク面積全体の%として表す)が保存期間及び条件の関数として示されている図4でさらにはっきりと分かる。結論として、塩化物塩である対イオンの安定性増強効果は驚くほどに高く、これはオクトレオチドのデポー製剤製品の貯蔵安定性の観点から非常に有益である。
【0155】
実施例7
共溶媒添加によるPC/GDO混合物の粘度の別の例
PC/GDO及び共溶媒の混合物を、下記表に示す割合で、実施例1及び2に記載の方法に従って調製した。試料を数日間平衡化させた後、フィジカUDS200レオメータを使用して25℃で粘度測定を行った。
【0156】
【表4】

【0157】
この実施例は、注射製剤を得るためには、粘度低下特性を有する溶媒が必要である事をさらに例証するものである。グリセロールを含有する混合物(試料19)又は水を含有する混合物(試料20及び21)は、EtOHを含有する試料(試料13、14、及び17と比較して)と同等の溶媒濃度で注射可能とするには粘度が高過ぎる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド活性物質の遅延送達用組成物であって、前記組成物は、
i)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む前記ペプチド活性物質の塩、
ii)徐放送達ベヒクル、
を含み、前記少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン、好ましくは、塩化物又は臭化物イオンであるである、組成物。
【請求項2】
前記送達ベヒクルが、生物学的に許容されるポリマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記生物学的に許容されるポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及び乳酸グリコール酸共重合体から選ばれる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記送達ベヒクルが、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
水性流体をさらに含む請求項4に記載の組成物であって、前記組成物は少なくとも1つの液晶相構造を含む、組成物。
【請求項6】
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む前製剤であって、
前記前製剤は、水性流体との接触に際して、少なくとも1つの液晶相構造を形成するか又は形成することができ、前記少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン、好ましくは、塩化物又は臭化物イオンである、前製剤。
【請求項7】
成分a)がGDOを含む、請求項6に記載の前製剤。
【請求項8】
成分b)が大豆PCを含む、請求項6又は7のいずれか1項に記載の前製剤。
【請求項9】
成分c)がエタノールを含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の前製剤。
【請求項10】
オクトレオチド、ランレオチド、SOM230、及びバプレオチドから選ばれる少なくとも1種のソマトスタチン類似体の少なくとも1種のハロゲン化物塩を含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の前製剤。
【請求項11】
治療を必要とするヒト又は非ヒト哺乳類対象のソマトスタチン類似体を用いた治療方法であって、前記方法は、前記対象に、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む前製剤を投与することを含み、
前記少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン、好ましくは、塩化物又は臭化物イオンである、方法。
【請求項12】
先端巨大症、癌、癌腫、メラノーマ、少なくとも1種のソマトスタチン受容体を発現する腫瘍、ソマトスタチン受容体−2−陽性腫瘍、ソマトスタチン受容体−5−陽性腫瘍、前立腺癌、胃腸膵神経内分泌腫瘍、カルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管作動性腸管ペプチドを産生する腫瘍及びグルカゴノーマ、成長ホルモン上昇、インスリン様成長因子−I上昇、静脈瘤出血(特に、食道の)、化学療法誘発性胃腸疾患(下痢など)、リンパ漏、糖尿病性網膜症、甲状腺眼症、肥満、膵炎、並びに関連する疾患から選ばれる少なくとも1種の疾患の治療方法である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種の組成物の投与を含む、請求項11又は12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1種の前製剤の投与を含む、請求項11又は12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
筋肉内、皮下、又は好ましくは深部皮下注射による投与を含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
本明細書に示す充填済み投与装置による投与を含む、請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
20〜180日、好ましくは30〜60日、より好ましくは35〜48日毎の単回投与を含む、請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
先端巨大症、癌、(癌腫及びメラノーマ、少なくとも1種のソマトスタチン受容体を発現する腫瘍、ソマトスタチン受容体−2−陽性腫瘍、ソマトスタチン受容体−5−陽性腫瘍、前立腺癌、胃腸膵神経内分泌腫瘍、カルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管作動性腸管ペプチドを産生する腫瘍及びグルカゴノーマなど)、成長ホルモン上昇、インスリン様成長因子−I上昇、静脈瘤出血(特に食道の)、化学療法誘発性胃腸疾患(下痢など)、リンパ漏、糖尿病性網膜症、甲状腺眼症、肥満、膵炎、並びに/或いは関連する疾患の治療のためのデポーのインビボ形成に用いる低粘度前製剤薬剤の製造における、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の使用であって、
前記少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン、好ましくは、塩化物又は臭化物イオンである、使用。
【請求項19】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種の組成物の使用を含む、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1種の前製剤の使用を含む、請求項18に記載の使用。
【請求項21】
本明細書に記載の充填済み投与装置による投与のための薬剤の製造を含む、請求項18〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
20〜180日、好ましくは30〜60日、より好ましくは35〜48日毎の投与のための薬剤の製造を含む、請求項18〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む測定された用量の前製剤を予め装填した使い捨て投与装置であって、
前記少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン、好ましくは、塩化物又は臭化物イオンである、装置。
【請求項24】
注射器又は注射筒である、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
請求項1〜5に記載の組成物を含む、請求項23又は24のいずれか1項に記載の装置。
【請求項26】
請求項6〜10に記載の前製剤を含む、請求項23又は24のいずれか1項に記載の装置。
【請求項27】
1〜1000mgの単回用量のソマトスタチン類似体ハロゲン化物塩を含む、請求項23〜26のいずれか1項に記載の装置。
【請求項28】
塩化オクトレオチドを10〜360mg前後で含む、請求項23〜27のいずれか1項に記載の装置。
【請求項29】
予定された投与と投与の間の期間に塩化オクトレオチドを0.2〜3mg/日前後で含む、請求項23〜28のいずれか1項に記載の装置。
【請求項30】
5ml以下の総投与容量を含む、請求項23〜29のいずれか1項に記載の装置。
【請求項31】
少なくとも1種のソマトスタチン類似体の投与用キットであって、前記キットは、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、並びに
d)少なくとも1つの正電荷を持つペプチドイオンと少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンとを含む少なくとも1種のソマトスタチン類似体の塩、
の低粘度混合物を含む測定された用量の製剤を含み、
前記少なくとも1つの負電荷を持つ対イオンは、ハロゲン化物イオン、好ましくは、塩化物又は臭化物イオンである、キット。
【請求項32】
投与装置を含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物を含む、請求項31又は32に記載のキット。
【請求項34】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の前製剤を含む、請求項31又は32に記載のキット。
【請求項35】
請求項23〜30のいずれか1項に記載の充填済み装置を含む、請求項31〜34のいずれか1項に記載のキット。
【請求項36】
筋肉内、皮下、又は好ましくは深部皮下注射による投与に関する説明書を含む、請求項31〜34のいずれか1項に記載のキット。
【請求項37】
請求項11〜17のいずれか1項に記載の治療方法で使用するための投与に関する説明書を含む、請求項31〜36のいずれか1項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−529982(P2010−529982A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511723(P2010−511723)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002035
【国際公開番号】WO2008/152401
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(505345749)カムルス エービー (17)
【Fターム(参考)】