説明

ペプチド誘導体、およびコンジュゲートの形態での分子用ベクターとしてのそれらの使用

本発明は、ペプチド誘導体(ペプチドまたは擬似ペプチド)に、および興味の分子のためのベクターとしてのそれらの使用に関する。本発明は、対象の分子に結合した本発明のペプチド誘導体を含有するコンジュゲートにも関する。本発明のペプチドおよびプロドラッグコンジュゲートは、製薬上または診断上対象の分子、例えば治療用分子、イメージングもしくは診断剤または分子プローブなどを、細胞膜を横断してベクター化するために、およびとりわけ、血液脳関門(BBB)を横断するそれらの輸送を促進するために、使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド誘導体(ペプチドまたは擬似ペプチド)に、および対象の分子のためのベクターとしてのそれらの使用に関する。本発明は、対象の分子に結合した本発明のペプチド誘導体を含有するコンジュゲートにも関する。本発明のペプチドおよびプロドラッグコンジュゲートは、製薬上または診断上対象の分子、例えば治療用分子、イメージングもしくは診断剤または分子プローブなどを、細胞膜を横断してベクター化するために、およびとりわけ、それらの血液脳関門(BBB)を横断する輸送を促進するために、使用することができる。
【0002】
IMS Healthによると、中枢神経系(CNS、脳および脊髄)病態を治療するための薬物の世界市場は、2007年にはおおよそ700億ドルであり、この総額のうちの90億ドルが薬物送達技術から生まれた製品に相当した(Jain,2008,Jain PharmaBiotech Report,Drug Delivery in CNS disorders)。このように、今日、CNSは、心臓血管内科および腫瘍学と共に、三大治療領域の1つである。世界中のCNS障害および病態罹患者数は、心血管疾患または癌患者数より多いが、神経病学は、依然として未開拓市場である。これは、CNS病態を治療するための可能性のある治療薬の98%が、脳血液関門またはBBBを横断しないことによって説明される(Pardridge,2003,Mol.Interv.,3,90−105)。
【0003】
実際、脳は、2つの主要生理的バリアシステム:BBBおよび血液脳脊髄液関門(BCSFB)、の存在によって潜在的毒性物質から保護される。BBBは、血漿リガンドの取り込みの主要経路と考えられている。その表面積は、BCSFBのものよりおおよそ5000倍大きい。BBBの構成血管の全長は、おおよそ600kmである。大脳皮質各1cmが、血管1km相当を含有する。BBBの表面積は、20mと概算される(De Boer et al.,2007,Clin.Pharmacokinet.,46(7),553−576)。例えば、BBBを構成する脳内皮は、可能性のある薬物の多くのCNS障害に対する使用にとって大きな障害に相当するが、血液と神経組織の間の大きな潜在的交換面にも相当する。
【0004】
原則として、おおよそ450から600ダルトンの少数の小さな親油性分子しか(薬物候補の2%しか)BBBを横断できない、または、血液から脳に進むことができない。CNS障害の治療についての動物研究において有望な結果を示す多くの薬物候補の分子量およびサイズは、相当大きい。従って、治療用ペプチドまたはタンパク質などの大部分の分子は、これらの薬物候補についての脳毛細血管内皮細胞(BCEC)に対する低い透過性のため、血液から脳への通行/輸送から一般に排除される。血管内にて構成されるBCECは、基底板、星状膠細胞終足、周皮細胞、小膠細胞およびニューロン細胞に取り囲まれている。内皮細胞と星状膠細胞終足の緊密な会合が、大部分の分子に対するBBB不透過性の特性の発生および維持の原因であり、従って、脳の恒常性を維持するための血液と脳の間の分子交換の精密なおよび有効な制御を保証する。BCECは、有窓性である、他の器官の他の内皮細胞と比較して、タイト結合により密接に結合している。それ故、これらのタイト結合は、BBBを横断する一切の傍細胞輸送を防止する。
【0005】
BBBは、脳病態を治療するための、およびとりわけCNS障害を治療する可能性が高い分子の使用のための、新規療法の開発の際に克服する主な障害と考えられている(Neuwelt et al.,2008,Lancet Neurol.,7,84−96)。
【0006】
主要脳病態(脳癌、パーキンソンおよびアルツハイマー病、卒中/脳血管障害(CVA)など)のための有効な治療が現在なぜないのかを説明することができる理由の1つは、脳病態を治療するための薬物候補の開発者が、社内検索プログラム(脳創薬プログラム)を実行するが、BBB横断の問題には、およびCNSの優先的ターゲッティング、特に脳の優先的ターゲッティング(脳薬物ターゲッティングプログラム)には、殆ど努力を注ぎ込んでいないことである(Pardridge,2003,Mol.Interv.,3,90−105)。実際、薬物候補は、CNS病態または障害を治療するための薬物になる最高の機会を有するために一定の構造的、物理化学的、薬化学的および薬理学的規則に従わなければならない(Pajouhesh et al.,2005,NeuroRx,2(4),541−553)。薬物候補の開発の際、分子のそのターゲットに対する選択性および特異性(薬理学的プロファイリング)は、その治療活性(効力)に不可欠である。分子のバイオアベイラビリティーおよび潜在的毒性(製薬プロファイリング)は、薬物としてのその未来にとって重要である。言い換えると、CNS病態または障害を治療するための薬物になる可能性が高いいずれの分子も、BBBを横断して移動しなければならず、その生物活性を維持しなければならず、そして低い毒性(Tox)で、適する薬物動態(PK)特性、適する吸収・分布・代謝・排泄/排除(ADME)特性および適する薬力学(PD)特性を示さなければならない。例えば、CNS治療分野の医化学者には開発中の分子の親水性/親油性バランスを見つけることが特に難しい。
【0007】
従って、CNS障害および病態を治療する際の大きな問題は、投与する分子がBBBを横断せず、それ故、CNS内のそれらのターゲット(単数または複数)に到達できないことに存する。BBBを構成する、CNSの血管および毛細血管の内皮細胞は、血液から神経組織に進むことができない分子にとって障害物である。実際、これらの内皮細胞およびそれらを取り囲む神経膠細胞終足は、傍細胞経路による一切の通行/輸送を制限/防止する内皮細胞間のタイト結合の存在にとりわけ関係する物理的バリアを構成し、そしてこれらの細胞は有効な排出システムを有するので、経細胞経路による一切の通行/輸送を抑止する生理的バリアも構成する。従って、これらの特性は、血漿から脳細胞外空間に向かっての物質の通行を強く制限する。
【0008】
実際、BBBを横断することができる一部の分子は、多剤耐性(MDR)輸送タンパク質により脳から血流に向かって能動的に放出/排出される。これらの能動排出輸送(AET)系は、脳から血流に向かっての小分子の能動排出を一般に制御する。BBBにおけるモデルAET系は、ATP結合カセット(ABC)輸送体、またはP−糖タンパク質(P−gp)であるが、他のAET系、例えばMDR関連タンパク質1(MRP1)がBBBには存在する。脳毛細血管内皮細胞の管腔表面に主として位置するP−gpは、大部分の生体異物の脳への侵入を防止する、しかしCNSにおいて活性であることができる薬物候補および治療上対象の他の分子の脳への侵入も防止するBBBの生理的バリアの機能における必須要素である。
【0009】
従って、脳障害または病態を治療、診断またはイメージングするための分子の開発における研究の優先事項の1つは、活性物質のBBBを横断する通行の有効性を増すための手段を見つけることである。
【0010】
この点に関して、治療上対象の分子がCNSに到達できるようにするために薬物候補の開発者によって現在研究されており、そして用いられている、BBBを横断する分子のベクター化のための戦略を、3つの主な戦略に分けることができる(図1)(Pardridge,2007,Pharm.Res.,24(9),1733−1744;De Boer et al.,2007,Clin.Pharmacokinet.,46(7),553−576;De Boer et al.,2007,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.,47,327−355;Jones et al.,2007,Pharm.Res.,24(9),1759−1771)。
【0011】
脳神経外科的アプローチ
脳神経外科的アプローチは、活性物質の脳への直接脳室内注射、脳内注射もしくは髄腔内注射により、またはBBBの分解(BBBの完全性の一次的破壊)により遂行される。脳神経外科手順に関係する費用に加えて、脳室内注射による脳神経外科的アプローチの主な問題は、薬物が脳実質に直接送達されず、脳脊髄液に送達されることである。実際、脳室内注入は、脳室内へのカテーテルの留置を必要とする(Aird,1984,Exp. Neurol.,86,342−358)。この非常に侵襲的な技術は、脳実質における活性物質の輸送には有効でない。実際、脳は実質内体積流量を有さないので、脳室内注入による薬物送達中の脳脊髄液から脳実質への体積流は、その対流の異常に遅い拡散(輸送)によって支配される。
【0012】
類似して、脳内注射については、脳内での活性物質の拡散が注射部位から病変部位までに非常に急速に減少する。実際、活性物質の脳内濃度は、その注射部位から500μmの距離で90%減少する。
【0013】
髄腔内注入は、活性物質を既定流量で送達するポンプに接続されたカテーテルの脳内への留置を必要とする。脳は、細胞外液を全身循環に輸送する役割を通常果たすリンパ系を有さない唯一の器官であるという事実のため、脳内の髄腔内注入による活性物質の分布は、非常に遅い。これが、病変部位での活性物質の濃度を低下させる。
【0014】
さらに、そのような脳神経外科手順の間の、特にカテーテルの存在による、感染のリスクは、有意である。これらの条件下で患者の快適さは最適ではない。
【0015】
BBBの不透過性の一時的中断は、脳毛細血管内皮細胞の密な結合の一時的解放を伴う。これは、ロイコトリエンまたはブラジキニンなどの血管作用物質についてそうである(Baba et al.,1991,J.Cereb.Blood Flow Metab.,11,638−643)。この戦略は、同じく侵襲的であり、鎮静剤を飲ませた被験者/患者における頸動脈への動脈アクセスを必要とする。頸動脈へのアクセスのための放射線医学手順に関係する出費に加えて、BBBの完全性の一次的破壊により遭遇する主な問題は、BBBが短期間の間解放しままであるに過ぎず、従って、長期間にわたって薬物を送達する可能性を制限することである。さらに、BBBの一次的破壊は、血漿タンパク質を脳に進入させ(ところがこれらのタンパク質は脳にとって毒性であり得る)、そして感染性物質の進入も助長し得る。従って、BBBのこのタイプの破壊は、慢性神経病理学的破壊につながり、そして高い感染リスクを伴う(Salahuddin et al.,1988,Acta Neuropathol.,76,1−10)。
【0016】
ベクター化への薬理学的アプローチ
分子を輸送するための薬理学的戦略は、活性物質に脂質基を付加させることによってより親油性にした分子の経細胞拡散(経細胞親油性拡散またはTLD)またはリポソームの使用(Zhou et al.,1992,J.Control.Release,19,459−486)、および正電荷を有するベクター分子によるイオン吸着による輸送または活性分子のカチオン化(吸着媒介輸送またはAMT)による輸送を含む。
【0017】
脂質基を付加させることにより、とりわけプロドラッグアプローチによる親水性分子のより、親油性分子への化学的変換が可能となる。しかし、そのような化合物の合成は、BBBを横断するために最適な輸送閾値を超える、とりわけ分子量に関しては450ダルトンの至適限度より大きくなる、分子をもたらす(Pajouhesh et al.,2005,NeuroRx,2(4),541−553)。同じ理由で、リポソームは、または小さい小胞もしくはナノ粒子(ミセル、ナノスフェア、ナノカプセル)でさえ、一般には大きすぎ、BBBに対して十分特異的でなく、そしてその結果、治療上対象の分子(またはイメージングもしくは診断剤、または任意の他の分子、例えば分子プローブ)のBBBを横断する輸送に比較的効果がない(Levin,1980,J.Med.Chem.,23,682−684;Schackert et al.,1989,Selective Cancer Ther.,5,73−79)。従って、脂質化技術(TLD)によって遭遇する主な問題は、他の細胞膜と比較してBBBの特異的ターゲッティングおよび横断に関するそれらの低い特異性、薬物の曲線下面積(AUC)の血漿値の低下、ならびに小分子のベクター化のためのそれらの一般に制限される使用である。
【0018】
AMTアプローチの場合、遭遇する主な問題は、他の細胞膜と比較してBBBの特異的ターゲッティングおよび横断に関する低い特性である。実際、AMTは、膜が負の電荷を有する細胞(殆どの細胞がそうである)へのカチオン性分子吸着に基づく。薬物のAUCの血漿値の低下、小分子のベクター化のためのそれらの一般的に制限される使用、およびそれらの細胞毒性は、AMTベクター化アプローチを不利にするさらなる要因である。
【0019】
ベクター化への生理的アプローチ
ベクター化への生理的アプローチに基づく戦略は、BBBの様々な自然輸送メカニズムの活用に存する。分子のBBBを横断する能動輸送のこれらのメカニズムは、特異的受容体基質とのカップリングにより、または特異的受容体との分子的擬態(担体媒介輸送またはCMT)によって、または受容体を特異的にターゲッティングするリガンドとのカップリングもしくは融合(受容体媒介輸送またはRMT)により作用する。
【0020】
一例として、L−DOPA(パーキンソン病)、メルファラン(脳の癌)、α−メチル−DOPA(動脈性高血圧)およびガバペンチン(癲癇)などの分子は、大型中性アミノ酸輸送体(LAT1)によるCMTによって脳にアクセスする(Pardridge,2003,Mol.Interv.,3,90−105)。これらの分子は、フェニルアラニン、LAT1の天然基質の1つ、に近い化学構造を有する。しかし、CMTアプローチにより遭遇する主な問題は、内因性受容体/輸送体の基質を厳密に模倣する/擬態するコンジュゲートに対するそれらの広い選択性/特異性であり、そしてその結果として、小分子のベクター化に対して制限されたままであるそれらの使用である。
【0021】
RMTには、受容体依存性輸送系が求められる。ベクター化は、脳毛細血管内に存在する内因性受容体/輸送体をターゲッティングすることによるエンドサイトーシスのメカニズムによって遂行される。RMTに関与する様々なヒトBBB受容体の注目に値する例は、トランスフェリン受容体(TfR);インスリン受容体(IR);LDL受容体(LDLR)、および低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)ファミリーのメンバーをはじめとする、コレステロール輸送を可能にする低密度リポタンパク質(LDL)受容体;もしくはインスリン様成長因子受容体(IGFR);ジフテリア毒素受容体(DTR);またはヘパリン結合上皮成長因子様成長因子(HB−EGF);ならびにスカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR−BI)を含むスカベンジャー受容体(SCAV−Rs)を含む。RMTの場合、BBB内皮細胞の膜上の受容体は、それらのリガンドに結合し、該リガンドは、細胞表面で形成してBBB内皮細胞を透過する小胞体への、受容体/輸送体とそのリガンドから成る複合体のエンドサイトーシスをもたらす。前記リガンド/受容体複合体は、内皮細胞を通過すること(トランスサイトーシス)ができ、そしてそれ故、その結果として、BBBを横断して神経組織において作用することができる。このRMTプロセスは、エンドサイトーシスに関与する分子のサイズに依存しない。従って、RMTは、インスリン、鉄輸送タンパク質、コレステロール、様々なペプチド誘導体およびタンパク質などのような分子の血液から脳への輸送を可能にするメカニズムである。例えば、トランスフェリンをBBB上に存在するTfRのリガンドベクターとして使用し(Jefferies et al.,1984,Nature,312,162−163;Friden et al.,1983,Science,259,373−377;Friden,1994,Neurosurgery,35,294−298)、そして輸送すべき分子(活性物質)をトランスフェリン(リガンドベクター)とカップリングさせる。高分子を使用するこのベクター化戦略は、対象のコンジュゲート分子のBBBを横断する通行を増すことができるが、幾つかの不利な点を有する。第一に、一般に、前記分子を遺伝子発現法(融合)によって前記ベクターにカップリングさせるので、ポリペプチドまたはタンパク質のみに輸送される分子の数を限定する。第二に、前記分子と前記ベクターをカップリングさせるための系は、相当複雑である;従来の化学的または生化学的カップリングは、構造的および分子的観点から明確に定義された高分子系を生じさせない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、これらの不利な点を克服する。本発明は、細胞膜を横断して、さらに具体的にはBBB、高分子量および/または大容積の物質、を横断して輸送することができる低減サイズのペプチドまたは擬似ペプチドを設計できることを示す。従って、本発明は、興味の分子のバイオアベイラビリティーを向上させる、とりわけに、CNSへのそれらのアクセス(ターゲッティング)を向上させる、新規ペプチド、コンジュゲートおよび組成物を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
より詳細には、本発明者らは、ヒトLDLRを結合することができるペプチド誘導体を開発した。本発明者らは、これらの誘導体がBBBを横断することができることを証明した。本発明者らは、これらの誘導体が、治療上または診断上興味の分子をBBB細胞内で輸送することができることも証明した。さらに、本発明者らは、天然リガンドと競合することなく、従って、LDL輸送に干渉することなく、LDLRを結合することができるペプチドを開発した。従って、これらのペプチド誘導体は、とりわけCNSに到達するための、薬物または診断剤の設計およびベクター化に特に有利である新規産物(ベクター)の代表である。
【0024】
従って、本発明は、最大で30のアミノ酸残基を含有すること、そして細胞膜の表面でヒトLDLRを結合することを特徴とする、天然および/または非天然アミノ酸の配列を含むペプチドまたは擬似ペプチドに関する。前記ペプチドは、少なくとも5つのアミノ酸残基、好ましくは少なくとも6、7または8つのアミノ酸残基を含む。好ましい実施形態において、本発明のペプチドは、マウスLDLRも結合する。特に有利で好ましい点では、本発明のポリペプチドは、BBBを、およびことによると癌性または感染性細胞の膜を、横断する能力を有する。
【0025】
本発明は、興味の物質にカップリングさせた、上で定義したしたものなどのペプチドまたは擬似ペプチドを含むコンジュゲートにも関する。下で説明するように、カップリングは、有利には共有結合形であり、そして細胞膜を横断した後に解離して、対象の部位で興味の物質を遊離するように行うことができる。前記カップリングの性質によって、前記物質は、例えば、受動的に遊離されることもあり、または酵素のもしくは所与の生理条件の作用のもとで遊離されることもある。
【0026】
本発明は、上で定義したものなどのコンジュゲートを調製するための方法/工程にも関する。
【0027】
本発明は、本発明のコンジュゲートを含む医薬組成物または診断用組成物にも関する。
【0028】
本発明は、薬物または診断もしくはイメージング剤を調製するための、上で定義したものなどの、ペプチドもしくは擬似ペプチドまたはコンジュゲートの使用にも関する。
【0029】
本発明は、分子のBBBを横断する通行を改善するまたは可能にするための方法にも関し、この方法は、この分子をペプチドまたは擬似ペプチド、例えば上で定義したもの、にカップリングさせることを含む。
【0030】
本発明は、薬物により被験者における病態を治療するための改善された方法にも関し、前記改善は、この薬物をペプチドまたは擬似ペプチド、例えば上で定義したもの、とカップリングさせることに存する。
【0031】
本発明を任意の哺乳動物、特に、任意の人間において用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】Abbott and Romero,1996,Mol.Med.Today,2(3),106−113から改作した、天然または薬理学的分子のBBBを横断する通行の様々なモードを示す図。
【図2】治療上対象のコンジュゲートのベクター/分子の、タンデムでの合成とリンカーを介しての合成の比較図。
【図3】A−hLDLRおよびmLDLRをクローニングするために使用したプラスミドの図。 B−トランスフェクトされた細胞によって発現された融合タンパク質を表す図。
【図4】hLDLR−GFPまたはGFP(対照)融合タンパク質を構成的に発現するCHO細胞系統に対して行ったウエスタンブロット。抗hLDLR抗体で、hLDLR−GFP融合タンパク質のサイズに対応する190kDaバンドが検出される。
【図5】A−GFPのみ(対照)またはB−hLDLR−GFP構築物のいずれかを安定して発現する、透過処理されていないCHO細胞に関する免疫細胞化学。細胞核をHoechst(ブルー、A1およびB1)で染色する。GFP蛍光は、緑色に見え(A2およびB2)、抗hLDLR抗体によるhLDLRの細胞外ドメインの染色のものは、赤色に見え(A3およびB3)、そして赤色染色剤と緑色染色剤の重ね合わせは、黄色/オレンジ色に見える(A4およびB4)。hLDLR−GFP構築物で安定してトランスフェクトされた細胞のみが膜受容体(B3)を発現することに留意すること。
【図6】A−DiI−LDL(赤色)と共にインキュベートしたhLDLR−GFP(緑色)を発現するCHO−hLDLR−GFP細胞系統の細胞、赤色染色剤と緑色染色剤の重ね合わせは、黄色/オレンジ色に見える:細胞の強い染色に留意すること。 B−DiI−LDL(赤色)と共にインキュベートしたhTfR−GFP(緑色)を発現するCHO−TfR−GFP細胞系統の細胞:DiI−LDL結合およびエンドサイトーシスの不在。 C−Texas Red(赤色)にカップリングさせたトランスフェリンと共にインキュベートしたhLDLR−GFP(緑色)を発現するCHO−hLDLR−GFP細胞系統の細胞:Tfリガンド結合およびエンドサイトーシスの不在。 GFPと融合させたhTfrおよびhLDLR受容体の染色のみが検出される、一方Aと他方Bの間および一方Aと他方Cの間の染色の強度の差に留意すること。
【図7】A−GFPのみ(緑色)、およびB−hLDLR−GFP(緑色)を安定して発現するCHO細胞株、ならびにhLDLRに対して親和性を有するペプチド(配列番号:1)を発現する細菌ウイルスのクローンの抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体での免疫染色(赤色の点)。細胞核をHoechst(青色、A1およびB1)で染色する。GFP蛍光は、緑色に見え(A2およびB2)、ウイルス抗タンパク質抗体による細菌ウイルスのウイルスエンベロープの染色のものは、赤色に見え(A3およびB3)、そして赤色染色剤と緑色染色剤の重ね合わせは、黄色/オレンジ色に見える(A4およびB4)。AにおいてhLDLRを発現しない細胞のみが細菌ウイルスに結合しないことに留意すること。
【図8】ヒト線維芽細胞(A−B)に対するおよびブタ脳微小血管内皮細胞(C−D)に対する、対照細菌ウイルス(A−C)の結合と、hLDLRに対して親和性を有するペプチド(配列番号:1)を発現する細菌ウイルス(B、D)の結合との、免疫細胞化学による比較。抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体で細菌ウイルスを視覚化する。
【図9】CHO−hLDLR−GFP細胞と、hLDLRに対する親和性を有するペプチド配列番号:11を発現する細菌ウイルスのクローンの間の相互作用の、この受容体に対して親和性を有するペプチドを発現しない対照細菌ウイルスとの比較での、FACSによる評価。Q2におけるシグナルは、細胞上での2つのシグナルの組み合わせを示すものであり、該シグナルは、一方は、hLDLR−GFPが発現されると陽性であり(GPF蛍光、横軸)、そして他方は、この受容体に対する親和性を有する細菌ウイルスが、それらが発現するペプチドを介して細胞に結合していると陽性である(免疫細胞化学的染色、縦軸)。A−抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体およびその二次抗体APCと共にインキュベートしたCHO−hLDLR−GFP細胞。B−陰性対照細菌ウイルス、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体およびその二次抗体APCと共にインキュベートしたCHO−hLDLR−GFP細胞。C−hLDLRに対して親和性を有するペプチド(配列番号:11)を発現する細菌ウイルスのクローン、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体およびその二次抗体APCと共にインキュベートしたCHO−hLDLR−GFP細胞。シグナルの有意なシフトがQ2において観察される。
【図10】ヒト線維芽細胞と、hLDLRに対して親和性を有するペプチド配列番号:12を発現する細菌ウイルスのクローンの間の相互作用の、この受容体に対して親和性を有するペプチドを発現しない対照細菌ウイルスとの比較での、FACSによる評価。Q2におけるシグナルは、細胞上での2つのシグナルの組み合わせを示すものであり、該シグナルは、一方は、hLDLR−GFPが発現されると陽性であり(免疫細胞化学的染色、横軸)、そして他方は、この受容体に対する親和性を有する細菌ウイルスが、それらが発現するペプチドを介して細胞に結合していると陽性である(免疫細胞化学的染色、縦軸)。A−抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体およびその二次抗体APCと共にインキュベートしたヒト線維芽細胞。B−抗LDLR抗体およびその二次抗体Alexa488と共にインキュベートしたヒト線維芽細胞。C−陰性対照細菌ウイルス、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたヒト線維芽細胞。D−hLDLRに対して親和性を有するペプチド配列番号:12を発現する細菌ウイルスのクローン、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたヒト線維芽細胞。シグナルの有意なシフトがQ2において観察される。
【図11】HUVECと、hLDLRに対して親和性を有するペプチド、1つは環状(配列番号:11)、もう1つは線状(配列番号:21)、を発現する細菌ウイルスの2つのクローンの間の相互作用の、この受容体に対して親和性を有するペプチドを発現しない対照細菌ウイルスとの比較での、FACSによる評価。A−抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体およびその二次抗体APCと共にインキュベートしたHUVEC。B−抗LDLR抗体およびその二次抗体Alexa488と共にインキュベートしたHUVEC。C−陰性対照細菌ウイルス、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。D−hLDLRに対して親和性を有する環状ペプチド(配列番号:11)を発現する細菌ウイルスのクローン、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。シグナルの有意なシフトがQ2において観察される。E−hLDLRに対して親和性を有する線状ペプチド(配列番号:21)を発現する細菌ウイルスのクローン、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。シグナルの有意なシフトがQ2において観察される。
【図12−1】LDLRに対して親和性を有する細菌ウイルスによって発現されたペプチドとその天然リガンドLDLの間の競合についてのHUVECに関するFACSによる評価。A−抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体およびその二次抗体APCと共にインキュベートしたHUVEC。B−抗LDLR抗体およびその二次抗体Alexa488と共にインキュベートしたHUVEC。C−陰性対照細菌ウイルス、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。D−陰性対照細菌ウイルス、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体、LDL、ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。LDLの存在のため効果が観察されない。E−hLDLRに対して親和性を有する線状ペプチド(配列番号:21)を発現する細菌ウイルスのクローン、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。F−hLDLRに対して親和性を有する線状ペプチド(配列番号:21)を発現する細菌ウイルスのクローン、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体、LDL、ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。LDLは、細菌ウイルスによって発現された配列番号:21ペプチドの結合を強力に減少させる。G−hLDLRに対して親和性を有する環状ペプチド(配列番号:11)を発現する細菌ウイルスのクローン、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。H−hLDLRに対して親和性を有する環状ペプチド(配列番号:11)を発現する細菌ウイルスのクローン、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体、抗LDLR抗体、LDL、ならびに二次抗体APCおよびAlexa488と共にインキュベートしたHUVEC。LDLの存在のため効果が観察されない。
【図12−2】I−FACSによって得たグラフA−HのゾーンQ2における蛍光シグナルのシフトの百分率を表すグラフ。hLDLRに対して親和性を有するペプチドを発現しない対照細菌ウイルスについてはQ2においてシフトが観察されない。ペプチド配列番号:21を発現する細菌ウイルスについては、Q2においてシグナルが55.8%より大きくシフトし、これは、HUVEC hLDLRに対するこれらの細菌ウイルスによって発現されたペプチドの親和性を示す。LDLの付加は、対照細菌ウイルスにおいてQ2におけるシグナルの85%喪失をもたらし、これは、LDLがhLDLRに結合する部位での、配列番号:21のペプチド配列に対応する細菌ウイルスとLDLの間の競合を示す。ペプチド配列番号:11を発現する細菌ウイルスのQ2における同等に強いシグナル(対照細菌ウイルスと比較して70%より大きなシフト)は、LDLの付加により、ほんのわずかシフトされる(17%)。
【図13】対照細菌ウイルス(A−B)ならびにhLDLRおよびmLDLRに対して親和性を有するペプチド(配列番号:1)を発現する細菌ウイルス(C−D)のマウス尾静脈注射の2時間後の、C57BL6マウスの脳の凍結切片の二重免疫蛍光染色。脳血管は、抗マウスIgGで緑色に染色され(A−C);細菌ウイルスは、抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体で赤色に染色される(B−D)。
【図14】C末端(C−term)スペーサー/リンカーを用いて、ローダミンまたはS−Tagとコンジュゲートさせる合成ペプチドの一般スキーム。
【図15】(Bにおける)対照ペプチドとの比較での、CHO−hLDLR−GFP細胞系統の細胞に関するhLDLRに対して親和性を有するペプチド(Aでは配列番号:1/ローダミン、Cでは配列番号:2/S−Tag)の結合およびエンドサイトーシスの蛍光および免疫細胞化学による評価。GFP蛍光は、緑色に見え(A1、B1およびC1);ローダミンによってまたはAlexa594とカップリングしている抗S−Tag抗体の結合によって視覚化された、ペプチドに関するものは、赤色に見え(A2、B2およびC2)、そして赤色染色剤と緑色染色剤の重ね合わせは、黄色/オレンジ色に見える(A3、B3およびC3)。A2におけるペプチド配列番号:1/ローダミンおよびC2におけるペプチド配列番号:2/S−Tagに関する赤色での高い細胞内染色レベル、ならびに結合したまたはエンドサイトーシスにより内在化されたペプチド(A2、C2)に関するhLDLR−GFP染色(緑色、A1、C1)の重ね合わせに留意すること。
【図16】それぞれ、CHO−hLDLR−RFP細胞系統(A−B)およびヒト線維芽細胞(C−D)に関するペプチド配列番号:11および配列番号:2のならびに対照ペプチドの結合速度(A−C)およびエンドサイトーシス(B−D)の定量。
【図17】CHO−hLDLR−GFP細胞と、S−Tagとコンジュゲートしている、hLDLRに対して親和性を有する、ペプチド配列番号:11との相互作用の、同じくS−Tagとコンジュゲートしている対照ペプチドとの相互作用との比較での、免疫細胞化学的評価。Q2におけるシグナルは、細胞上での2つのシグナルの組み合わせを示すものであり、該シグナルは、一方は、hLDLR−GFPが発現されると陽性であり(GPF蛍光、横軸)、そして他方は、対照ペプチド、およびこの受容体に対する親和性を有するペプチド配列番号:11が、該細胞に結合していると陽性である(免疫細胞化学的染色、縦軸)。A−二次抗体APCと共にインキュベートした細胞。B−S−Tag、抗S−Tag抗体および二次抗体APCとコンジュゲートしている対照ペプチドと共にインキュベートした細胞。C−S−Tag、抗S−Tag抗体および二次抗体APCとコンジュゲートしている、LDLRに対して親和性を有する、ペプチド配列番号:11と共にインキュベートした細胞。シグナルの有意なシフトがQ2において観察される。
【図18】Lucifer Yellow(LY、蛍光定量分析)とのコインキュベーションによるインビトロBBBモデルにおける内皮細胞のバリアに対するペプチドの毒性の評価、ならびに時間の関数としての、ならびに対照ペプチドおよびペプチド配列番号:1(両方ともローダミンとコンジュゲートしている)の不在または存在下での、LYの通行速度の分析。
【図19】溶解後の細胞の評価、ならびにインビトロBBBモデルの内皮細胞への結合速度ならびに/またはこれらの細胞への対照ペプチドおよびペプチド配列番号:1(両方ともローダミンとコンジュゲートしている)の内在化速度の蛍光定量分析。
【図20】対照ペプチドおよびペプチド配列番号:1(両方ともローダミンとコンジュゲートしている)のインビトロBBBモデルの内皮細胞を横断する通行速度(透過率、Pe)の蛍光定量評価。LY Pe測定値を用いて、インビトロBBBモデルの完全性を検証する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、ヒトLDLRを結合することができるペプチド誘導体および製薬分野におけるそれらの使用、とりわけ、治療上または診断上興味の分子を、BBB細胞内で、輸送するための使用に関する。
【0034】
ヒトLDLRは、3つの領域:細胞外領域(1−768)、膜貫通領域(768−790)および細胞質領域(790−839)、を含む839アミノ酸の膜貫通型タンパク質である。前記細胞外領域は、2つの小領域:LDL結合領域(1−322)およびLDL結合領域外の領域(322−768)、に分けられる(WO2007/014992を参照のこと)。
【0035】
脳は、正しく機能するためにLDLを大いに必要とする。LDLRの天然リガンドは、LDL、ならびにより詳細には、LDL粒子のアポリポタンパク質B(ApoB)およびアポリポタンパク質E(ApoE)成分であり、従って、前記粒子は、これらの粒子内に含有されるコレステロールの細胞膜を横断するおよびより詳細にはBBBを横断する輸送を可能にする。
【0036】
例えば、LDLRが、リポソームとの融合を防止する特定のエンドソーム小胞において、RMTプロセスにより、BBBを横断するLDL粒子のトランスサイトーシスを可能にすることは証明されている(Dehouck et al.,1997,J.Cell Biol.,138(4),877−889)。トランスサイトーシスによってBBBを横断したこれらのリポタンパク質は、その後、ニューロンおよび/または星状膠細胞によって取り込まれる(Spencer et al.,2007,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,104(18),7594−7599)。この特性は、全アポリポタンパク質(LDL成分)とコンジュゲートしているナノ粒子により治療上対象の分子をベクター化するために用いられた(Kreuter et al.,2007,J.Control.Release,118,54−58)。しかし、この研究において、全アポリポタンパク質は、使用されたが、LDL粒子構造を擬態するためにナノ粒子にカップリングさせた形態で使用された。
【0037】
本発明は、LDLRを結合することができ、そしてBBBを横断することができる小ペプチドの設計が可能であることを、初めて明らかにするものである。本発明は、先行技術の戦略と比較して多くの利点を提供し、これらの利点は、とりわけ、受容体および設計戦略およびペプチドの性質の選択の結果として得られる。本発明は、そのようなペプチドまたは擬似ペプチドが、一部の細胞膜に対して選択的であり、そして小化学分子(親水性であろうと、なかろうと)ならびに高分子、例えば治療上対象のタンパク質、を輸送するために使用できることを証明する。ペプチドまたは擬似ペプチドベクターは、容易に化学合成することができ、そして治療上対象の殆どの分子またはイメージングもしくは診断剤と前記ペプチドまたは擬似ペプチドとを、スペーサーを介してのプロドラッグ戦略(リンカー経由の合成)により、またはこれら2つの実体間の直接カップリング(タンデムでの合成)により、簡単におよび有効にカップリングさせることができる(図2)。本発明のペプチドおよび擬似ペプチドを、環状構造をとるように、従って、より耐タンパク質分解性に、設計することができる。さらに、本発明のペプチドおよび擬似ペプチドを、天然リガンドと競合することなくLDLRを結合するように設計することができる。実際、本発明は、LDL結合部位とは異なるLDLR上の新規結合部位の発見に至った。結果として、この部位をターゲットにする本発明のペプチドおよび擬似ペプチドの使用は、天然リガンドの結合の実質的破壊を伴わない、有効な輸送を可能にする。
【0038】
本発明の範囲内で行った研究により、本出願人は、本出願人が開発した線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドを、神経性病態ならびに脳または他の組織/器官の感染性または癌性病態の治療、イメージングおよび/または診断の際に、治療上興味の分子のための、またはイメージングもしくは診断剤のための、または分子プローブなどの任意の他の分子のためのベクターとして使用できることを証明することができた。
【0039】
本発明において説明する線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドは、細胞受容体/輸送体および特定の細胞タイプ、そして/または細胞膜、とりわけ脳の生理的バリアのものおよびより詳細にはBBBもしくは血液網膜関門(BRB)のもの、をターゲッティングする能力を有する。
【0040】
本発明において説明する線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドは、細胞受容体/輸送体および特定の細胞タイプ、とりわけ、癌細胞、神経もしくは非神経組織、そして/または細胞膜、特にCNSの生理的バリアのものおよびより詳細には神経組織腫瘍の血液腫瘍関門(BTB)のもの、をターゲッティングする能力を有する。
【0041】
本発明において説明する線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドは、より詳細には感染性脳病変または細菌、ウイルス、寄生虫もしくは真菌性の他の病変を治療するために、細胞受容体/輸送体および特定の細胞タイプ、そして/または細胞膜、とりわけCNSの生理的バリアのもの、をターゲッティングする能力を有する。
【0042】
本発明において説明する線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドは、細胞膜のマウスまたはヒトLDLRに結合する、そしてトランスサイトーシスによってこの受容体により前述の膜を横断する能力を有する。
【0043】
本発明において説明する線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドは、マウスおよびヒトの脳の生理的バリアの細胞膜の表面でLDLRに結合する、そしてRMTによってLDLRにより前述の生理的バリアを横断する能力を有する。
【0044】
従って、より詳細には、本発明は、LDLRに対して親和性を有するペプチドおよび擬似ペプチドに、ならびに治療上興味の分子のための、またはイメージングもしくは診断剤のための、または分子プローブなどの任意の他の分子のためのベクターとしてのそれらの使用に関する。そのようなペプチドは、多くの適応に、とりわけ、神経性病態のおよび脳または他の組織/器官の感染性または癌性病態の治療、イメージングおよび/または診断の際に、使用することができる。
【0045】
従って、本発明は、最大で30のアミノ酸残基、好ましくは最大で25のアミノ酸残基を含有すること、そして細胞膜の表面でヒトLDLRを結合することを特徴とする、天然および/または非天然アミノ酸の配列を含むペプチドまたは擬似ペプチドに関する。本発明に関連して、用語「ペプチド」または「擬似ペプチド」は、天然であることもあり、または非天然であることもある、場合により修飾されているまたは官能化されている、そしてペプチド、非ペプチドまたは修飾ペプチド結合によって一緒に結合されている、アミノ酸残基の鎖/配列を含む分子を示す。前記ペプチドは、環状であることもあり、または非環状である場合もあり、そして必要な場合には1つ以上の保護された端(Nおよび/またはC末端)を有することがある。
【0046】
さらに好ましくは、本発明は、BBBを横断する能力を有することを特徴とする、上で定義したものなどのペプチドまたは擬似ペプチドに関する。
【0047】
第一の実施形態において、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドは、下記のとおりの一般式(I)のもの:
X−M−P−R−Y (I)
であり、この式中、
−Xは、1から11の連続した天然および/または非天然アミノ酸を含む基であり、
−Yは、1から11の連続した天然および/または非天然アミノ酸を含む基であり、
−Xおよび/またはYは、該ペプチド内での環の形成を可能にする少なくとも1つのアミノ酸残基を含有し、
−Mは、メチオニンまたはその同配体もしくはその類似体を示し、
−Pは、プロリンまたはその同配体もしくはその類似体を示し、
−Rは、アルギニンまたはその同配体もしくはその類似体を示し、そして
−アミノ酸残基の総数は、25以下である。
【0048】
有利には、式(I)のペプチドまたは擬似ペプチドにおいて、Xは、式(Xaa)Z(Xaa)の基であり、そしてYが、式(Xaa)W(Xaa)の基であり、これらの式中、Xaaは、D構造のアミノ酸、コードされていないアミノ酸、またはペプチド様結合を含有するアミノ酸を含めて、天然または非天然アミノ酸を表し、ZおよびWは、該ペプチドの環化を可能にする2つの同一のまたは異なるアミノ酸を表し、そしてi、j、kおよびlは、0と5の間の、同一のまたは異なる、整数である。
【0049】
特に、本発明は、天然リガンドと競合することなくLDLR結合および輸送を確実にするモチーフの、ペプチドリガンド配列の比較戦略による、同定の結果として生ずる。天然リガンドとの競合の不在は、本発明者が発見した結合モチーフが、LDLR上の新規結合部位を含むことを示し、これは、インビボでの化合物のベクター化に関連しての予想外の特に有利な発見である。
【0050】
本発明のペプチドまたは擬似ペプチドのXおよびY基の構成要素である天然または非天然アミノ酸は、同一である場合もあり、または異なる場合もあり、そして
−グリシン(Gly、G)または2−アミノエタン酸、サルコシン(Sar)またはN−メチルグリシン(MeGly)、N−エチルグリシン(EtGly)、アリルグリシン(allylGly)または2−アミノペント−4−エン酸、2−シクロペンチルグリシン(Cpg)、2−シクロヘキシルグリシン(Chg)、2,2−ジプロピルグリシン(Dpg)、2−(3−インドリル)グリシン(IndGly)、2−インダニルグリシン(Igl)、2−ネオペンチルグリシン(NptGly)、2−オクチルグリシン(OctGly)、2−プロパルギルグリシン(Pra)または2−アミノペント−4−イン酸、2−フェニルグリシン(Phg)、2−(4−クロロフェニル)グリシン、アザグリシン(AzGly)、グリシノールまたは2−アミノエタノール、
−アラニン(Ala、A)または2−アミノプロパン酸、ベータ−アラニン(β−Ala)または3−アミノプロパン酸、デヒドロアラニン、N−メチルアラニン、3−シクロプロピルアラニン(Cpa)、3−シクロヘキシルアラニン(Cha)、3−シクロペンチルアラニン、3−(1−ナフチル)アラニン(1Nal)、3−(2−ナフチル)アラニン(2Nal)、3−(3−ピリジル)アラニン、3−(2−チアニル)アラニン(Thi)、アラニノールまたはアミノプロパノール、
−バリン(Val、V)または2−アミノ−3−メチルブタン酸、N−メチルバリン(MeVal)、ノルバリン(Nva)ならびにそのメチル化および/またはヒドロキシル化誘導体、5−ヒドロキシノルバリン(Hnv)およびその誘導体、3−メルカプトバリン(ペニシラミン、Pen)、バリノールまたは2−アミノ−3−メチルブタノール、
−ロイシン(Leu、L)または2−アミノ−4−メチルペンタン酸、ノルロイシン(Nle)または2−アミノヘキサン酸、3−ヒドロキシロイシン、6−ヒドロキシノルロイシン、t−ロイシン(Tle)または2−アミノ−3,3−ジメチルブタン酸、ホモロイシンまたは3−アミノ−5−メチルヘキサン酸、2,3−デヒドロロイシン、ロイシノオールまたは2−アミノ−4−メチルペンタノール、
−イソロイシン(Ile、I)または2−アミノ−3−メチルペンタン酸、アロ−イソロイシン(alleまたはAllo−Ile)、N−メチルイソロイシン(Melle)、イソロイシノールまたは2−アミノ−3−メチルペンタノール、
−アスパラギン酸(Asp、D)または2−アミノブタン二酸およびそのエステル化またはアミド化側鎖誘導体、3−メチルアスパラギン酸、アスパルチノール、
−アスパラギン(Asn、N)または2−アミノ−3−カルバモイルプロパン酸または2−アミノスクシンアミド酸およびそれらのN置換誘導体、N−エチルアスパラギン(EtAsn)、アスパラギノール、
−グルタミン酸(Glu、E)または2−アミノペンタン二酸およびそのエステル化またはアミド化側鎖誘導体、ピログルタミン酸(Pyr)またはピドール酸または5−オキシプロリン、ガンマ−カルボキシグルタミン酸または4−カルボキシグルタミン酸(Gla)、グルタリノール、
−グルタミン(Gln、Q)または2−アミノ−4−カルバモイルブタン酸およびそのN置換誘導体、グルタミノール、
−ジアミノエタン酸、2,3−ジアミノプロパン酸(DprまたはDap)、3−メルカプトプロパン酸(Mpa)、2−アミノ−3−グアニジノプロパン酸(Agp)、2−アミノブタン酸(Abu)、4−アミノブタン酸(4Abu)またはGABA、2−アミノイソブタン酸(Aib)、3−アミノイソブタン酸(bAib)、2,4−ジアミノブタン酸(Dab)、3,4−ジアミノブタン酸(Dbu)、2−アミノ−4−シアノブタン酸(Cba)、2−アミノ−4−グアニジノブタン酸(Agb)、5−アミノペンタン酸(Ava)、4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニルペンタン酸(AHPPA)、4−アミノ−5−シクロヘキシル−3−ヒドロキシペンタン酸(ACHPA)、6−アミノヘキサン酸(AcpまたはAhx)、パラ−アミノ安息香酸(PABA)、メタ−アミノメチル安息香酸または3−アミノメチル安息香酸、パラ−アミノメチル安息香酸(PAMBA)または4−アミノメチル安息香酸、2−アミノアジピン酸(Aad)または2−アミノヘキサン二酸、3−アミノアジピン酸(bAad)または3−アミノヘキサン二酸、2−アミノピメリン酸(Apm)または2−アミノ−ヘプタン二酸(Ahe)、4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチルヘプタン酸またはスタチン(Sta)、2,2−ジアミノピメリン酸(Dpm)または2,2−ジアミノ−ヘプタン二酸、デスモシン(Des)または2−アミノ−6−[4−(4−アミノ−4−カルボキシブチル)−3,5−ビス−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)−ピリジン−1−イル]ヘキサン酸、イソデスモシン(Ide)または2−アミノ−6−[2−(4−アミノ−4−カルボキシブチル)−3,5−ビス−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)−ピリジン−1−イル]ヘキサン酸、
−オルチニン(Orn)または2,5−ジアミノペンタン酸およびそのイプシロン−アミノ化またはアミド化誘導体、カナリンまたは2−アミノ−4−(アミノオキシ)ブタン酸、オルチノール、
−リシン(Lys、K)または2,6−ジアミノヘキサン酸およびそのイプシロン−アミノ化またはアミド化誘導体、ホモリシンまたは2,7−ジアミノヘプタン酸(hLys)、5−ヒドロキシリシン(Hyl)または2,6−ジアミノ−5−ヒドロキシヘキサン酸、アロ−ヒドロキシリシン(aHyl)、6−N−メチルリシン(MeLys)、S−アミノエチルシステインまたは2−アミノ−3−(2−アミノエチルチオ)プロパン酸、3−メチル−S−アミノエチルシステインまたは2−アミノ−3−(2−アミノエチルチオ)ブタン酸、リシノール、
−アルギニン(Arg、R)または2−アミノ−5−グアニジノペンタン酸または2−アミノ−5−(ジアミノメチリデンアミノ)ペンタン酸、ホモアルギニンまたは2−アミノ−6−グアニジノヘキサン酸、N−ヒドロキシアルギニン、シトルリン(Cit)または2−アミノ−5−(カルバモイルアミノ)ペンタン酸、2−アミノ−5−(4−カルバミミドイルフェニル)ペンタン酸、2−アミノ−5−(1H−イミダゾール−2−イルアミノ)ペンタン酸、カナバニンまたは2−アミノ−4−(グアニジノオキシ)ブタン酸、アルギニノール、
−ヒスチジン(His、H)または2−アミノ−3−(1H−イミダゾール−4−イル)プロパン酸およびそのN置換誘導体、ヒスチジノール、
−セリン(Ser、S)または2−アミノ−3−ヒドロキシプロパン酸およびそのO置換誘導体(エーテルなど)、2−アミノ−4−ヒドロキシブタン酸またはホモセリン(Hse)およびそのO置換誘導体(エーテルなど)、セリノールまたは2−アミノ−プロパン−1,3−ジオール、
−トレオニン(Thr、T)または2−アミノ−3−ヒドロキシブタン酸およびそのO置換誘導体(エーテルなど)、アロ−トレオニン(allo−Thr)およびそのO置換誘導体(エーテルなど)、トレオニノール(Thol)、
−フェニルアラニン(Phe、F)または2−アミノ−3−フェニルプロパン酸、2−フルオロフェニルアラニン、3−フルオロフェニルアラニン、4−フルオロフェニルアラニン、3,4−ジフルオロフェニルアラニン、ペンタフルオロフェニルアラニン、2−クロロフェニルアラニン、3−クロロフェニルアラニン、4−クロロフェニルアラニン、3,4−ジクロロフェニルアラニン、4−ブロモフェニルアラニン、3−ヨードフェニルアラニン、4−ヨードフェニルアラニン、4−ニトロフェニルアラニン、2−メトキシフェニルアラニン、3−メトキシフェニルアラニン、4−メチルフェニルアラニン、4−アミノフェニルアラニン、4−グアニジノフェニルアラニン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニンまたはDOPA、2−アミノ−4−フェニルブタン酸またはホモフェニルアラニン、4−ビフェニルアラニン(Bip)、4−ベンゾイルフェニルアラニン(Bpa)、フェニルアラニノール(Phol)、
−チロシン(Tyr、Y)または2−アミノ−3−(p−ヒドロキシフェニル)プロパン酸およびそのO置換誘導体(エーテルなど)、3−ヨードチロシン、3,5−ジヨードチロシン、2−ブロモチロシン、3,5−ジブロモチロシン、2,6−ジメチルチロシン、3−ニトロチロシン、3−スルホチロシン、チロシノールまたは2−アミノ−4−ヒドロキシベンゼンプロパノール、
−トリプトファン(Trp、W)または2−アミノ−3−(1H−インドール−3−イル)プロパン酸およびそのN置換誘導体、2−メチルトリプトファン、5−ヒドロキシトリプトファン(5−HTP)、トリプトファノール、
−システイン(Cys、C)または2−アミノ−3−メルカプトプロパン酸およびそのS置換誘導体、S−アセチルシステインまたは2−アミノ−3−(アセチルチオ)プロパン酸、セレノシステイン(Sec、U)または2−アミノ−3−(セレノ)プロパン酸、システイノール、
−メチオニン(MetまたはM)または2−アミノ−4−(メチルチオ)ブタン酸、ホモメチオニンまたは3−アミノ−5−(メチルチオ)ペンタン酸、メチオニノール、
−プロリン(Pro、P)またはピロリジン−2−カルボン酸、ホモプロリンまたは2−(2−ピロリジニル)エタン酸、3−ヒドロキシプロリン(3Hyp)、4−ヒドロキシプロリン(4Hyp)、3−メチルプロリン、3,4−デヒドロプロリン、3,4−メタノプロリン、4−アミノプロリン、4−オキソプロリン、チオプロリンまたはチアゾリジン−4−カルボン酸(Thz)、2−オキソチアゾリジン−4−カルボン酸、インドリン−2−カルボン酸(Idc)、ピペコリン酸(Pip)またはピペリジン−2−カルボン酸、ニペコチン酸(Nip)またはピペリジン−3−カルボン酸、4−オキソピペコリン酸、4−ヒドロキシピペコリン酸、アミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸、プロリノール
から選択することができる。
【0051】
示したように、ペプチドの環化を可能ならしめることができる少なくとも1つのアミノ酸残基、好ましくは2つのアミノ酸残基、を含むペプチドが好ましい。そのようなアミノ酸は、Cys、Mpa、Pen、デヒドロアラニン、またはallylGlyから概して選択される。
【0052】
環化は、2つのシステイン(またはPen)残基、1つは基Xにおけるもの、もう1つは基Yにおけるもの、の間のジスルフィド架橋の形成によって概して達成される。加えて、N末端(N−末)位置のシステインは、ジスルフィド架橋による環化のためにMpaによって置換されることがある。
【0053】
システイン残基は、ランチオニン架橋による環化のためにデヒドロアラニンによって置換されることもあり、またはジカルバ架橋によるメタセシスによる環化のためにallylGlyによって置換されることもある。
【0054】
Glu(またはAsp)残基の側鎖酸性官能基とLys上の側鎖アミン官能基またはN−末アミンとの間にラクタム架橋を作ることができる。類似に、N−末アミン官能基とC末端またはC−末酸性官能基(ヘッド/テール)の間の環化を、Lysの側鎖アミンン官能基とペプチドのC−末酸性官能基の間での環化とまさしく同じ様に、アミド結合によって行うことができる。
【0055】
好ましくは、式(I)のペプチドまたは擬似ペプチドにおいて、基XおよびYの少なくとも一方は、システイン残基を含有する。
【0056】
特に好ましい実施形態において、残基ZおよびWは、それぞれシステインを表す。
【0057】
示したように、Mは、メチオニン残基、またはその同配体もしくはその類似体を表す。前記メチオニン同配体または類似体は、好ましくは、Nle、ホモメチオニン、PenおよびMpaから選択される。
【0058】
示したように、Pは、プロリン残基、またはその同配体もしくはその類似体を表す。前記プロリン同配体または類似体は、好ましくは、シクロペンテン同配体、3,4−デヒドロプロリン、3,4−メタノプロリン、ホモプロリン、3Hyp、4Hyp、3−メチルプロリン、4−アミノプロリン、4−オキソプロリン、Thz、2−オキソチアゾリジン−4−カルボン酸、Idc、Pip、Nip、4−オキソピペコリン酸、4−ヒドロキシピペコリン酸およびアミノ−1−シクロヘキサンカルボン酸から選択される。
【0059】
示したように、Rは、アルギニン残基、またはその同配体もしくはその類似体を表す。前記アルギニン同配体または類似体は、好ましくは、ホモアルギニン、N−ヒドロキシアルギニン、Agp、Agb、Cit、2−アミノ−5−(4−カルバミミドイルフェニル)ペンタン酸、2−アミノ−5−(1H−イミダゾール−2−イルアミノ)ペンタン酸、Orn、Lysおよびその同配体/類似体、S−アミノエチルシステイン、3−メチル−S−アミノエチルシステイン、hLys、Hyl、aHyl、MeLys、Hisおよびその同配体/類似体、Nle、ジアミノエタン酸、DprおよびDbuから選択される。
【0060】
式(I)のペプチドまたは擬似ペプチドの中で、式中の
−iが、0、1、3もしくは4から選択される整数であり;そして/または
−jが、0、3もしくは4から選択される整数であり;そして/または
−kが、0、1もしくは3から選択される整数であり;そして/または
−lが、0、1もしくは3から選択される整数である
のものが、特に好ましい。
【0061】
本発明に関連して好ましいペプチドまたは擬似ペプチドは、一般式(Xaa)−Cys−(Xaa)−Met−Pro−Arg−(Xaa)−Cys−(Xaa)のものであり、この式中のXaaは、任意の天然または非天然アミノ酸残基を示し、そしてi、j、kおよびlは、0と5の間の、同一のまたは異なる、整数である。好ましくは、i=0、1、3もしくは4;j=0、3もしくは4;k=0、1もしくは3;そして/またはl=0、1もしくは3。
【0062】
式(I)の本発明のペプチドの特定の例を、下記のとおり配列、配列番号:1から配列番号:11および配列番号:30から配列番号:65、で記載する:
配列番号:1、HLDCMPRGCFRN;
配列番号:2、ACQVKSMPRC;
配列番号:3、ACTTPMPRLC;
配列番号:4、ACKAPQMPRC;
配列番号:5、ACLNPSMPRC;
配列番号:6、ACLVSSMPRC;
配列番号:7、ACLQPMPRLC;
配列番号:8、ACPVSSMPRC;
配列番号:9、ACQSPMPRLC;
配列番号:10、ACLTPMPRLC;
配列番号:11、DSGLCMPRLRGCDPR;
配列番号:30、ACMPRLRGCA;
配列番号:31、ASGLCMPRLRGCDPR;
配列番号:32、DAGLCMPRLRGCDPR;
配列番号:33、DSALCMPRLRGCDPR;
配列番号:34、DSGACMPRLRGCDPR;
配列番号:35、DSGLCMPRARGCDPR;
配列番号:36、DSGLCMPRLAGCDPR;
配列番号:37、DSGLCMPRLRACDPR;
配列番号:38、DSGLCMPRLRGCAPR;
配列番号:39、DSGLCMPRLRGCDAR;
配列番号:40、DSGLCMPRLRGCDPA;
配列番号:41、SGLCMPRLRGCDPR;
配列番号:42、GLCMPRLRGCDPR;
配列番号:43、CMPRLRGC;
配列番号:44、CMPRARGC;
配列番号:45、CMPRLAGC;
配列番号:46、CMPRLRAC;
配列番号:47、CMPRLKGC;
配列番号:48、(D)−CMPRLRGC;
配列番号:49、CMPR−(D)−LRGC;
配列番号:50、CMPRL−(D)−RGC;
配列番号:51、CMPRLRG−(D)−C;
配列番号:52、(D)−CMPRLRG−(D)−C;
配列番号:53、(D)−CMPRLRSarC;
配列番号:54、(D)−CMPRKRGC;
配列番号:55、(D)−CMPRLRCG;
配列番号:56、(D)−CMPRLCRG;
配列番号:57、(D)−CMPRCLRG;
配列番号:58、CMPRGC;
配列番号:59、PenMPRLRGC;
配列番号:60、(D)−PenMPRLRGC;
配列番号:61、(D)−CMPRLRGPen;
配列番号:62、PenMPRLRGPen;
配列番号:63、(D)−PenMPRLRGPen;
配列番号:64、(D)−PenMPRLRG−(D)−Pen;
配列番号:65、MpaMPRLRGC。
【0063】
実験セクションにおいて例証するように、これらのペプチドは、LDLと競合することなくLDLRを結合し、高い親和性を示し、そしてBBBを横断することおよび対象の分子を輸送することができる。
【0064】
特に好ましい実施形態では、環状構造を有する式(I)のペプチドが好ましい。配列 配列番号:11またはそれから誘導される配列、例えば配列番号:30もしくは配列番号:48、を含むペプチドが、特に好ましい。
【0065】
もう1つの実施形態によると、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドは、下記のとおりの配列、配列番号:12から配列番号:29、のペプチドから選択される:
配列番号:12、MTVMPTGLWNPLIPS;
配列番号:13、SASWFAVPIPPLRLE;
配列番号:14、MTPMSTPRMLPVYVA;
配列番号:15、MTATHLSTLFQPLTY;
配列番号:16、MSPIPPAASTWANTL;
配列番号:17、MTANPLQNAPGPLSL;
配列番号:18、MQTAPPPPLTRVQWS;
配列番号:19、GTPRMHIPLNVDHLP;
配列番号:20、LTLPPISGLSSYPLP;
配列番号:21、TPSAHAMALQSLSVG;
配列番号:22、LTLPPISGLSSYPLP;
配列番号:23、MGTLNAPTAYPQDSL;
配列番号:24、LTNPPAYLPQNTDPH;
配列番号:25、MGLPLPYIQTILHTP;
配列番号:26、SAALIAMSSFKSITA;
配列番号:27、SGFAFARSVPTESRR;
配列番号:28、MTSPYMSLPPSTDDM;
配列番号:29、LTNPPAYLPQNTDPH。
【0066】
上に示したように、本発明の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドは、ペプチド、非ペプチドおよび/または修飾ペプチド結合を含む場合がある。好ましい実施形態において、前記ペプチドまたは擬似ペプチドは、メチレン(−CH−)またはホスファート(−PO−)基、第二アミン(−NH−)または酸素(−O−)、アルファ−アザペプチド、アルファ−アルキルペプチド、N−アルキルペプチド、ホスホンアミダート、デプシペプチド、ヒドロキシメチレン、ヒドロキシエチレン、ジヒドロキシエチレン、ヒドロキシエチルアミン、レトロ−インバーソ(retro−inverso)ペプチド、メチレンオキシ、セトメチレン、エステル、ホスフィナート、ホスフィン酸、ホスホンアミドおよびカルバ類似体の挿入の中から好ましくは選択される少なくとも1つのペプチド様結合を含む。
【0067】
さらに、特定の実施形態において、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドは、例えばアシル化および/またはアミド化もしくはエステル化によってそれぞれ保護された、N−末および/またはC−末官能を含む。
【0068】
本発明のペプチドまたは擬似ペプチドは、当業者に公知の任意の技術(化学、生化学または遺伝子合成など)によって合成することができる。それらをそのまま保存することができ、または対象の物質もしくは任意の許容される賦形剤の存在下で調合することができる。
【0069】
化学合成については、天然ならびに非天然アミノ酸、例えば、それらの天然ホモログ(いわゆる外来、またはコードされていない、アミノ酸)のものとは異なる疎水性および立体障害を有する側鎖を有するD−エナンチオマーおよび残基、または1つ以上のペプチド様結合(これらは、とりわけ、メチレン(−CH−)もしくはホスファート(−PO−)基、第二アミン(−NH−)もしくは酸素(−O−)の挿入を含み得る)を含有するペプチド配列、を組み込むことができる市販の装置を使用する。
【0070】
合成中、例えば、N−末もしくはC−末位置においてまたは側鎖上で脂質(もしくはリン脂質)誘導体とまたはナノ粒子の成分とカップリングさせて、脂質膜、例えば1つ以上の脂質層もしくは二重層から成るリポソームの脂質膜またはナノ粒子の脂質膜、の中に本発明のペプチドまたは擬似ペプチドを組み込むことなどの、様々な化学的修飾を導入することができる。
【0071】
本発明のペプチドまたはそのタンパク質部分を、それらをコードする核酸配列から得ることもできる。本発明は、上で定義したものなどのペプチドをコードする核酸配列を含む、または該核酸配列によって構成される、核酸分子にも関する。より詳細には、本発明は、一般式(I)の化合物をコードするもしくは配列 配列番号:12から配列番号:29のうちの1つに対応する少なくとも1つの配列を含む核酸分子、またはそのタンパク質部分に関する。これらの核酸配列は、DNAであることもあり、またはRNAであることもあり、ならびにこれらの核酸配列を対照配列と組み合わせることができ、そして/または生物学的発現ベクターに挿入することができる。
【0072】
使用する生物学的発現ベクターは、それを移入する宿主に従って選択する。それは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルスなどであり得る。本発明は、特に、これらの核酸と、本発明のペプチド、またはそのタンパク質部分、を宿主細胞に導入するために使用することができる生物学的発現ベクターとに関する。当業者に周知の分子生物学および遺伝子工学技術によって、これらの生物学的発現ベクターを作製し、そして前記ペプチドを宿主に導入するまたは宿主において発現させることができる。
【0073】
示したように、本発明のペプチドは、治療上または診断上興味の物質を調合するために、そしてとりわけそれらの生体分布および/またはそれらのBBBを横断する通行を促進するために、特に有用である。
【0074】
この態様において、本発明は、治療上興味の分子、またはイメージングもしくは診断剤、または任意の他の分子の移入/輸送のためのベクターとしての、上で定義したものなどの線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドの使用に関する。
【0075】
本発明は、BBBを横断することができる薬物を調製するための、上で定義したものなどの線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドの使用にも関する。
【0076】
本発明は、分子のBBBを横断する通行を可能にするまたは増進するための方法にも関し、この方法は、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドに前記分子をカップリングさせることを含む。
【0077】
本発明の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドにより、BBBを、通常はこのバリアをほんの少ししかまたはまったく横断できない活性物質と共に、横断することが可能になる。従って、CNSを罹患させる任意の疾患の治療、予防または診断にそれらを使用することができるが、細胞膜モデルおよびより詳細にはBBBモデルを用いて分子の様々なファミリーに関して着手される研究に関連して生体物質の輸送体(バイオトランスポーター)として使用することもできる。
【0078】
この点に関して、本出願は、上で定義したものなどのペプチドまたは擬似ペプチドを含む様々なプロドラッグコンジュゲート化合物を記載する。用語「コンジュゲート」は、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドの1つ以上と興味の1つ以上の分子の間の組合せの結果として生ずる分子を示す。下でさらに詳細に説明するように、コンジュゲーションは、リンカーもしくはスペーサーによるような化学的性質のものである場合もあり、または遺伝的性質のもの、例えば、例えばマーカーもしくはトレーサー分子(例えば、GFP、β−ガラクトシダーゼなど)または治療用分子(例えば、成長因子、神経栄養因子など)との、融合タンパク質におけるものなどの、遺伝子組み換え技術などである場合もある。
【0079】
従って、本発明は、特に、下記のとおりの式(II)のコンジュゲート化合物:
VxDy (II)
に関し、この式中、Vは、本発明の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドを表し、Dは、活性物質または興味の物質を表し、そしてxおよびyは、1と5の間の整数である。特定の実施形態において、xおよびyは、1に等しく、またはxは、yより大きい。
【0080】
一例として、式V=cMPRLRGC、x=1、D=Y−(D)−AGFLRおよびy=1のコンジュゲートを合成した。この場合の活性物質は、鎮痛性治療用ペプチド、ダラルギンである。この治療用ペプチドの、ペプチドベクター配列番号:48のN−末での直接カップリング(タンデムでの合成)により、コンジュゲート配列番号:66、Y−(D)−AGFLR−(D)−CMPRLRGCが得られる。
【0081】
本発明は、下記のとりの式(III)のコンジュゲート化合物:
VxLzDy (III)
にも関し、この式中、Vは、本発明の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドを表し、Lは、スペーサー(またはリンカー)を表し、Dは、活性物質または興味の物質を表し、xおよびyは、1と5の間の整数であり、そしてzは、1と10の間の整数である。特定の実施形態において、x=z=y=1またはx=z>yまたはz>x>y。
【0082】
一例として、L=GGGまたはGFLGまたはALALまたはβ−AlaまたはAhxまたはGFAL(z=1で)のリンカーを介して、V=cMPRLRGC(x=1で)およびD=Y−(D)−AGFLR(y=1で)のコンジュゲートを合成した。
配列番号:67、Y−(D)−AGFLRGGG−(D)−CMPRLRGC
配列番号:68、Y−(D)−AGFLRGFLG−(D)−CMPRLRGC
配列番号:69、Y−(D)−AGFLRALAL−(D)−CMPRLRGC
配列番号:70、Y−(D)−AGFLR−β−Ala−(D)−CMPRLRGC
配列番号:71、Y−(D)−AGFLR−Ahx−(D)−CMPRLRGC
配列番号:72、Y−(D)−AGFLRGFAL−(D)−CMPRLRGC
【0083】
本出願が含有する実施例は、マウスにおける脳潅流実験において、本発明のペプチドベクターの作用メカニズムを例証しながら、これらのコンジュゲートがBBBを横断できることを証明する。
【0084】
前記活性物質または興味の物質は、製薬上、とりわけ治療上、興味の任意の分子、診断もしくは医療用イメージング剤、または分子プローブである場合がある。詳細には、それは、生物学上興味の化学的実体、例えば小化学分子(抗生物質、抗ウイルス薬、免疫修飾物質、抗腫瘍薬、抗炎症薬など)、ペプチドまたはポリペプチド、タンパク質(酵素、ホルモン、サイトカイン、アポリポタンパク質、成長因子、抗原、抗体または抗体の一部)、核酸(サイズが、単一オリゴヌクレオチドのサイズからゲノムまたはゲノムフラグメントのサイズにわたり得る、ヒト、ウイルス、動物、真核生物もしくは原核生物、植物または合成起源などのリボ核酸またはデオキシリボ核酸)、ウイルスゲノムもしくはプラスミド、リボザイム、マーカーまたはトレーサーであり得る。一般に、「興味の物質」は、化学的化合物であろうと、生化学的化合物であろうと、天然化合物であろうと、または合成化合物であろうと、任意の医薬品有効成分(API)であり得る。表現「小化学分子」は、1000ダルトン、概して300ダルトンと700ダルトンの間、の最大分子量を有する製薬上興味の分子を示す。
【0085】
本発明は、下記式(IV)の化合物:
VxLz (IV)
にも関し、この式中、Vは、本発明の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドを表し、Lは、スペーサー(またはリンカー)を表し、xは、1と5の間の整数であり、そしてzは、1と10の間の整数である。特定の実施形態において、x=z=1またはz>x。
【0086】
本発明のコンジュゲート化合物において、VとDの間の、または一方でVとLの間、および他方でLとDの間のカップリングは、会合させる活性物質およびペプチドまたは擬似ペプチドの化学的性質、障害および数を考慮に入れて任意の許容される結合手段により行うことができる。従って、生理的媒体中でまたは細胞内で開裂可能なまたは開裂不能な1つ以上の共有、疎水またはイオン結合によってカップリングを行うことができる。さらに、DをVと、必要な場合にはLを介して、様々な反応性基で、およびとりわけVのN−末および/もしくはC−末端でならびに/またはVの天然もしくは非天然アミノ酸側鎖によって担持されている1つ以上の反応性基で、カップリングさせることができる。
【0087】
−OH、−SH、−COH、−NH、−SOHまたは−POHなどの官能基が自然に存在するまたは導入された前記ペプチドまたは擬似ペプチドの任意の部位で、カップリングを行うことができる。従って、興味の治療用分子、または診断(もしくは医療用イメージング)剤または任意の他の分子、例えば分子プローブ、を、本発明の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドに、そのN−末もしくはC−末端で、またはこのペプチド配列の天然もしくは非天然アミノ酸側鎖により担持されている反応性基で、共有結合により連結させる(カップリングさせる)ことができる。
【0088】
類似して、例えば−OH、−SH、−COH、−NH、−SOHまたは−POHなどの官能基が自然に存在するまたは導入された活性物質または興味の物質(治療上興味の分子、診断または医療用イメージング剤、任意の他の分子、例えば分子プローブ)の任意の位置で、カップリングを行うことができる。
【0089】
前記相互作用は、前記ペプチドが、その作用部位に到達してしまう前に活性物質から解離されないために十分に強いことが好ましい。この理由のため、本発明の好ましいカップリングは共有結合性カップリングであるが、とはいえ非共有結合性カップリングを用いてもよい。興味の物質を、前記ペプチドと、これらの末端(N−末もしくはC−末)の一方で、またはその配列の構成的アミノ酸の1つについての側鎖で、直接カップリングさせること(タンデムでの合成)ができる(図2)。興味の物質を、前記ペプチドの末端の一方で、またはその配列の構成的アミノ酸の1つについての側鎖で、リンカーまたはスペーサーにより間接的にカップリングさせることもできる(図2)。スペーサーを要するまたは要さない、共有結合性化学的カップリングの手段は、エステル、アルデヒドまたはアルキルもしくはアリール酸によるアルキル、アリールまたはペプチド基、無水物、スルフヒドリルまたはカルボキシル基、臭化もしくは塩化シアン、カルボニルジイミダゾール、スクシンイミドエステルまたはスルホン酸ハリドから誘導される基を含有する二または多官能性薬剤から選択されるものを含む。
【0090】
この点に関して、本発明は、ペプチドまたは擬似ペプチドVと物質Dの間の、必要な場合にはLを介しての、好ましくは化学的、生化学的もしくは酵素的経路によるまたは遺伝子工学による、カップリングの段階を含むことを特徴とする、上で定義したものなどのコンジュゲート化合物を調製するための方法にも関する。
【0091】
本発明は、上で定義したものなどの少なくとも1つのコンジュゲート化合物および1つ以上の医薬的に許容される賦形剤を含むことを特徴とする医薬組成物にも関する。
【0092】
本発明は、上で定義したものなどのコンジュゲート化合物から成る診断または医療用イメージング剤を含むことを特徴とする、診断用組成物にも関する。
【0093】
前記コンジュゲートを任意の医薬的に許容される塩の形態で使用することができる。表現「医薬的に許容される塩」は、例えばおよび非限定的に、医薬的に許容される塩基または酸付加塩、水和物、エステル、溶媒和物、前駆体、代謝産物または立体異性体、対象の少なくとも1つの物質が負荷された前記ベクターまたはコンジュゲートを指す。
【0094】
表現「医薬的に許容される塩」は、遊離塩基と適する有機または無機酸とを反応させることによって一般に調製することができる非毒性塩を指す。これらの塩は、遊離塩基の生物学的効力および特性を保持する。そのような塩の代表的な例は、水溶性および水不溶性塩、例えば、酢酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム、アムソナート(4,4−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸塩)、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化水素酸塩、ブロミド、酪酸塩(buryrates)、カムシラート、炭酸塩、塩酸塩、クロリド、クエン酸塩、クラブラン酸塩、ジクロルヒドラート、二リン酸塩、エデト酸塩、エデト酸カルシウム、エジシラート、エストラート、エシラート、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩(glycolylarsanylates)、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン、ヒドロキシハフトエ酸塩、ヨージド、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシラート、メチルブロミド、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、粘液酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(1,1−メチレン−ビス−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸塩、またはエンボナート(emboate))、パントテン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリチル酸塩、スラマート(suramates)、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシラート、トリエチオジド、トリフルオロ酢酸塩および吉草酸塩を含む。
【0095】
本発明の組成物は、有利には、医薬的に許容されるビヒクルまたは賦形剤を含む。前記医薬的に許容されるビヒクルは、それぞれの投与方式に従って伝統的に用いられているビヒクルから選択することができる。考えられる投与方式に従って、前記化合物は、固体形態である場合もあり、半固体形態である場合もあり、または液体形態である場合もある。束縛されていないまたはゼラチンカプセルに含められる固体組成物、例えば錠剤、ピル、粉末または顆粒については、活性物質を、a)希釈剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン;b)滑沢剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムもしくはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコール;c)結合剤、例えば、ケイ酸マグネシウムおよびアルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン;d)崩壊剤、例えば、デンプン、寒天、アルギン酸もしくはそのナトリウム塩、または発泡性混合物;ならびに/あるいはd)吸着剤、色素、着香剤および甘味料と併せることがある。賦形剤は、例えば、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムおよび医薬品質の類似体であり得る。坐剤などの半固体組成物については、賦形剤は、例えば、エマルジョンもしくは油性懸濁液、またはポリアルキレングリコール、例えばポリプロピレングリコール、に基づくものであり得る。液体組成物、特に、注射剤またはソフトカプセルの中に含めるものは、例えば、医薬的に純粋な溶媒、例えば水、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール、エタノール、油およびそれらの類似体など、への活性物質の溶解、分散などによって、調製することができる。
【0096】
本発明の組成物またはコンジュゲートは、任意の適する経路によって投与することができ、そして非限定的に、非経口経路によって、例えば皮下、静脈内または筋肉内経路によって注射することができる製剤の形態などで;経口経路(またはper os)によって、例えばコーティング錠もしくは素錠、ゼラチンカプセル、粉末、ペレット、懸濁液または経口溶液の形態(1つのそのような経口投与形態は、即時放出を伴う場合もあり、または長期もしくは遅延放出を伴う場合もある)などで;直腸内経路によって、例えば坐剤の形態などで;局所経路によって、特に経皮経路によって、例えばパッチ、ポマードまたはゲルの形態などで;鼻腔内経路によって、例えばエーロゾルおよびスプレー形態などで;経下経路によって;あるいは眼内経路によって投与することができる。
【0097】
前記医薬組成物は、概して、本発明のペプチドまたは擬似ペプチドまたはコンジュゲートの有効用量を含む。本明細書に記載する場合の「治療有効用量」は、所与の条件および投与スケジュールについての治療効果をもたらす用量を指す。概して、それは、疾病または病的状態に随伴する症状の一部を明らかに改善するために投与する、活性物質の平均用量である。例えば、脳のまたは他の組織/器官の癌、CNSの病態、病変または障害を治療する際、前記疾患または障害の原因または症状の1つを減少させる、予防する、遅延させる、排除するまたは停止させる活性物質の用量は、治療に有効であるだろう。
【0098】
活性物質の「治療有効用量」は、必ずしも疾患または障害を治癒するとは限らないが、その出現が遅延される、妨げられるもしくは予防される、またはその症状が減弱される、またはその期間が変更されるもしくは例えばあまり重症でなくなる、または患者の回復が加速されるようにこの疾患または障害ための治療をもたらすであろう。
【0099】
人に対する「治療有効用量」が、詳細には、活性物質の活性/効力、その投与回数、その投与経路、その排泄および代謝率、薬の組み合わせ/相互作用、ならびに予防または治癒ベースで治療する疾患(または障害)の重症度、ならびに患者の年齢、体重、総合的健康状態、性別および/または食事をはじめとする様々な要因に依存することとなることは、理解される。
【0100】
カップリングさせる物質に依存して、本発明のコンジュゲートおよび組成物を、非常に多数の病態、とりわけ、CNSを罹患させる病態、感染性病態または癌、の治療、予防、診断またはイメージングに使用することができる。
【0101】
この点に関して、本発明は、CNS病態または障害、脳腫瘍または他の癌細胞、および脳または他の組織/器官の細菌、ウイルス、寄生虫または真菌感染性病態を予防または治療するための、上で説明したような医薬コンジュゲートまたは組成物の使用に関する。
【0102】
本発明は、CNS病態または障害、脳腫瘍または他の癌細胞、および脳または他の組織/器官の細菌、ウイルス、寄生虫または真菌感染性病態を診断またはイメージングするための、上で説明したような医薬コンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。
【0103】
本発明は、脳腫瘍または他のタイプ癌細胞を治療、イメージングおよび/または診断するための、上で定義したものなどのコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。実際、研究により、幾つかの癌を有する患者は、低コレステロール血症を有することが証明された。この低コレステロール血症は、癌細胞によるコレステロールの過剰使用の結果である。残存する癌細胞は、腫瘍を有する器官内でのLDLR発現レベルの増加を誘導する(Henricksson et al.,1989,Lancet,2(8673),1178−1180)。従って、細胞によるLDLR発現レベルの増加と幾つかの癌の間には相関関係が存在する。LDLR数が癌細胞などの幾つかの病的細胞の表面に非常に多いことも、最近証明された。1,000から3,000のLDLRが非病的細胞の表面に存在することは、一般に認められている。類似して、非病的ニューロンは、ほんの少数のLDLRしか有さない(Pitas et al.,1987,J.Biol.Chem.,262,14352−14360)。膠芽腫の症例において、LDLR過発現が証明された。例えば、脳腫瘍細胞の表面で、125,000(U−251細胞について)から900,000(SF−767細胞について)のLDLRがカウントされた(Malentiska et al.,2000,Cancer Res.,60,2300−2303;Nikanjam et al.,2007,Int.J.Pharm.,328,86−94)。多くの腫瘍細胞、例えば、前立腺癌(Chen et al.,2001,Int.J.Cancer,91,41−45)、大腸癌(Niendorf et al.,1995,Int.J.Cancer,61,461−464)、白血病(Tatidis et al.,2002,Biochem.Pharmacol.,63,2169−2180)、結腸直腸癌(Caruso et al.,2001,Anticancer Res.,21,429−433)、乳癌(Graziani et al.,2002,Gynecol.Oncol.,85,493−497)、ならびに肝臓、膵臓、卵巣、肺および胃などの癌のものが、LDLRを過発現することにも留意しなければならない。
【0104】
本発明は、脳または他の組織/器官の細菌、ウイルス、寄生虫または真菌感染性病態、例えば、および非限定的に、AIDSまたは髄膜炎など、を治療、イメージングおよび/または診断するための、上で定義したものなどのコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。LDLRは、肝臓細胞上にも存在する。C型肝炎ウイルス(HCV)のエンドサイトーシスが、LDLRにより発生し得ることは今では公知である。LDLRは、HCVによるヒト肝細胞の感染の早期にウイルス受容体としての役割を果たす(Molina et al.,2007,J.Hepatol.,46(3),411−419)。従って、本発明のコンジュゲートは、LDLRを発現するウイルス、例えばB型肝炎およびC型肝炎ウイルス、によって感染された病的細胞を特異的にターゲッティングするために、ならびに/または健常細胞のウイルス感染プロセスをLDLRにより調節するために、使用することができる。
【0105】
本発明は、神経変性病態、例えば、非限定的に、アルツハイマー病、パーキンソン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、卒中/脳血管障害(CVA)、牛海綿状脳症、多発性硬化症、筋委縮性側索硬化症など、を治療、イメージングおよび/または診断するための、上で定義したものなどのコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。
【0106】
本発明は、神経性病態、例えば、非限定的に、癲癇、偏頭痛、脳炎、CNS疼痛など、を治療、イメージングおよび/または診断するための、上で定義したものなどのコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。
【0107】
本発明は、神経精神性病態、例えば、非限定的に、うつ病、自閉症、不安、統合失調症など、を治療、イメージングおよび/または診断するための、上で定義したものなどのコンジュゲートまたは組成物の使用にも関する。
【0108】
用語「治療」、「治療すること」、「治療する」および他の類似した表現は、薬理および/または生理的効果、例えば癌細胞成長の阻害、癌細胞死、または疾患もしくは神経障害の改善、を得ることを指す。この効果は、病人における、疾患もしくはそのような疾患の症状の悪化または健常被験者におけるその伝播を完全にもしくはある程度予防するために予防的(prophylactic)効果もしくは予防(preventive)効果である場合もあり、そして/または疾患および/もしくはその関連有害作用を完全にもしくはある程度治療するために、治療的効果である場合もある。本書類において用いる場合の用語「治療」は、哺乳動物における、およびより詳細には人間における、疾患の任意の治療を包含し、そして(a)疾患の予防(例えば、癌の予防)またはこの病態もしくは障害の素因を有するが陽性診断をまだ受けていない人において生じ得る状態の予防、(b)疾患の遅速(例えば、その進行を止めることによる)、あるいは(c)疾患からの寛解(例えば、疾患に随伴する症状を低減させることによる)を含む。用語「治療」は、その必要がある人への本書類に記載するようなベクターまたはコンジュゲートから成る薬物の投与を含む(しかし、これに限定されない)、個体または患者における状態を介護、治癒、寛解、改善、減少または抑制するための活性物質の任意の投与も包含する。
【0109】
本発明は、本発明の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドの、それをカップリングさせる活性物質または興味の物質(対象の治療用分子、診断もしくは医療用イメージング剤、または任意の他の分子、例えば分子プローブ)の生物活性を増加させるための、使用にも関する。
【0110】
本発明は、本発明の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドの、それをカップリングさせる活性物質または興味の物質(対象の治療用分子、診断もしくは医療用イメージング剤、または任意の他の分子、例えば分子プローブ)の毒性を減少させるための、使用にも関する。
【0111】
本発明の他の態様および利点は、下記実施例の考慮により明らかになるだろう。下記実施例は、本質的に例証的なものでしかなく、本出願の範囲を限定しない。
実施例
【0112】
実施例I
発現ベクターにおけるヒトおよびマウスLDLRのクローニング
ペプチドを、とりわけコレステロールのエンドサイトーシスおよびトランスサイトーシス(経細胞輸送、とりわけBBBを横断して)に関与するヒトおよびマウス低密度リポタンパク質受容体(hLDLRおよびmLDLR)とのそれらの相互作用および該受容体に対するそれらの親和性に基づいて、同定した。これらのペプチドの特性づけの前提条件は、hLDLRおよびmLDLRを構成的におよび高率で発現する安定な細胞系統の真核細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞、CHO)における樹立であった。これらの細胞系統を、i)細胞表面で発現されるhLDLRに結合する、その天然構造での、ペプチドの特性づけのために;ii)hLDLRおよびmLDLRが選択ペプチドをエンドサイトーシスにより内在化できることを検証するために、使用する。
【0113】
これらの細胞系統の構築物を簡単に説明する。
hLDLRおよびmLDLRをコードするメッセンジャーRNA配列は、データベースから入手できる(アクセッション番号:それぞれ、NM_000527およびNM_010700)。PCRによるcDNA増幅に必要なプライマーであって、pEGFP−N1発現ベクター(Clontech)においてクローニングするために必要な制限部位(ヒトLDLRについてはHindIIIおよびSalI、ならびにマウスLDLRについてはHindIIIおよびKpnI)をそれらの端(太字)に含むものであるプライマーを選択した。
【表4】

【0114】
ヒトおよびマウスの脳から調製した全RNAを、hLDLRおよびmLDLRをコードするDNAフラグメントのPCR増幅のために、逆転写によってcDNAに転換した。増幅後、それらのPCR産物を、それぞれ、HindIII−ShalIおよびHindIII−KpnI制限酵素によって消化し、そしてpEGFP−N1発現ベクター(Clontech)内にライゲートし、同制限酵素によって消化した。真核細胞におけるトランスフェクションの後、このベクターは、GFPと融合したLDLRであって、それらのC−末端で、またはそれらの細胞内ドメインの端で、融合したものの、CMVプロモータの制御下での、発現を可能にする(図3)。コンピテント大腸菌(E.coli)DH5α菌を形質転換し、単離されたクローンを得、そしてプラスミドDNAを調製した後、それらの構築物の両鎖を、検証のためにそっくりそのままシークエンシングした。
【0115】
実施例II
ヒトおよびマウスLDLRを安定して発現するCHO細胞系統の樹立
様々な細胞系統(CHO、COS、N2AおよびHEK293)における一過的トランスフェクションを行って、生細胞または固定細胞に関してhLDLRおよびmLDLRの発現レベルおよび膜位置を判定した。生細胞上の受容体は、これらの受容体のC−末に融合したGFPによって放射される緑色蛍光により、免疫染色の必要なく、蛍光顕微鏡下で直接見える。制限希釈により、および発現ベクターによって担持されているゲネチシン耐性遺伝子(G418)により、安定な形質転換体を選択した。これらの細胞系統を、選択圧を維持しながら増幅した。ここで述べる実施例では、ヒトLDLRに対するおよびGFPに対する抗体での細胞溶解産物のウエスタンブロットによって、予想サイズのhLDLR−GFPの発現を検証した。GFPおよびhLDLRの総合サイズ(190kDa)に相当するタンパク質は、安定した細胞系統から調製した細胞抽出物において抗hLDLR(図4)および抗GFP抗体によって認識される。GFPを構成的に発現するCHO細胞系統を陰性対照として使用した。抗hLDLR抗体は、GFP細胞系統ではタンパク質を検出しない。
【0116】
CHO−GFP(対照)およびCHO−hLDLR−GFP細胞系統の固定(PFA)細胞に対する抗hLDLR抗体での免疫細胞化学は、hLDLR−GFP融合体が、トランスフェクトされた細胞において十分に発現されることを示す。透過処理されていない細胞に対するTriton X100での免疫細胞化学実験は、LDLRの細胞外ドメインが、細胞外レベルで十分に検出されることを示す(図5)。
【0117】
hLDLRとその天然リガンドLDL(DiI、経口マーカー、の吸着により蛍光性にしたもの)の間で共局在が示される。この天然蛍光リガンド(DiI−LDL)は、固定細胞を用いて蛍光顕微鏡のもとで視覚化すると、急速に内在化(エンドサイトーシス)される(図6−A)。対照的に、DiI−LDLは、対照CHO−GFP細胞系統による、または例えばヒトトランスフェリン受容体(hTfR、図6−B)、トランスライト−シスに関与する別の受容体、を過発現する別の対照CHO細胞系統による、エンドサイトーシスによって組み込まれない。さらに、CHO−LDLR−GFP細胞系統のエンドサイトーシス活性は、この細胞系統においてリガンドのエンドサイトーシスがそれに対して特異的でないので、LDLRリガンドに特異的でなく、例えば、赤色蛍光色素(Texas Red、図6−C)で染色されたトランスフェリン(Tf)は観察されない。
【0118】
受容体機能性(エンドサイトーシス能力)は、DiIで染色されたLDL、hLDLRの天然リガンド、が、GFPのみを発現する細胞またはエンドサイトーシスに関与する別の受容体、例えばhTfR、を発現する細胞(陰性対照)と比較してhLDLR−GFPを発現する細胞において、実際に迅速におよび非常に有効に輸送されることを示す、ビデオ蛍光顕微鏡下でのリアルタイム実験によって確証される。逆に、hTfR−GFPを発現する細胞によるエンドサイトーシスによって非常に有効に組み込まれるTexas Redで染色されたTfを用いて行ったビデオ顕微鏡実験により、トランスフェリンが、対照GFP細胞系統の細胞によるまたはhLDLR細胞系統の細胞によるエンドサイトーシスによって組み込まれないことが確証される。
【0119】
CHO−hLDLR−GFP細胞系統における高いhLDLR発現レベルにもかかわらず、エンドサイトーシスシステムは有効であるばかりでなく、その選択性も保つ。GFP融合の存在は、hLDLRの膜挿入特性も改変せず、hLDLR細胞外ドメインの細胞外部への露出も改変せず、エンドサイトーシスプロセスにおける該受容体の機能性も改変しない。
【0120】
実施例III
CHO−hLDLR−GFP細胞系統に関する細菌ウイルスによって発現される数十億のランダムペプチド配列のデータベースのスクリーニングならびにhLDLRに対して親和性を示す細菌ウイルスおよび従ってペプチド配列の同定
GFPのみを発現する対照CHO−GFP細胞系統に関する細菌ウイルスデータベースの徹底的究明後、細菌ウイルスによって発現されるランダムペプチド配列のデータベースでのスクリーニングをCHO−hLDLR−GFP細胞系統に関して用いた。十分な洗浄およびその後の酸での溶出後、前記細胞系統上に固定された細菌ウイルスを、液体培地中でまたはペトリ皿上で大腸菌ER2738菌の感染により増幅した。溶出された細菌ウイルスの細胞系統を繰り返しスクリーニングし、その後、増幅させることによって、細胞表面で発現されるhLDLRに対して強い親和性を示す細菌ウイルスを特性づけすることができた。これらの細菌ウイルスの中で、マウス細胞系統にも結合するもの(CHO−mLDLR−GFP)だけを選択した。
【0121】
細菌ウイルスによって発現されたペプチドをコードする細菌ウイルスゲノム領域のPCR増幅後、5回の独立したスクリーニングを行い、そして合計でおおよそ200の細菌ウイルスクローン(後発プラーク)をシークエンシングした。非常に多数の細菌ウイルスが同一の配列を有した。2つのペプチド配列ファミリーを得た:保存モチーフ環状ペプチド、配列番号:1から配列番号:11および配列番号:30から配列番号:65と、保存モチーフを有さない線状ペプチド、配列番号:12から配列番号:29(本書類の配列リストを参照のこと)。
【0122】
ペプチドの結合に従って同定された細菌ウイルスクローン(それらが前記ペプチドを発現し、そして該ペプチドが、安定なCHO−hLDLR−GFP細胞系統によって発現されたhLDLR−GFPに結合)をLDLR細胞と一緒にし、そして入念な洗浄後、細菌ウイルスのウイルスエンベロープタンパク質に対する抗体を用いて検出し、その後、Alexa 594とカップリングさせた二次抗体を用いて検出した(図7)。これらの細菌ウイルスは、GFPのみを発現する対照CHO−GFP細胞系統の細胞には結合しない。
【0123】
同一力価を有する精製細菌ウイルスのバッチを、細胞系統で競合させ、そして入念な洗浄および酸での溶出、おおよそ50の細菌ウイルスのクローニングおよびシーケンシングの後、それらの環状および線状ペプチドの中で最高の親和性を有するものを同定した。
【0124】
他の実験のために選択しなかったまたは保持しなかったものは、役に立たないとは決して考えられない;それらを非機能的とみなすことはできない。これらのペプチドは、ベクター候補として大きな可能性を保持し、そしてその結果として、それらも本発明の特許請求の対象である。
【0125】
実施例IV
細菌ウイルスによって発現されたペプチドとCHO−LDLR−GFP細胞系統のhLDLRとのおよび非遺伝子修飾細胞のhLDLRとの相互作用
hLDLRに対して親和性を有するペプチドを発現する細菌ウイルスを、hLDLRを構成的にまたは誘導可能に発現することが知られている、遺伝子修飾されていない付着細胞、とりわけヒト線維芽細胞、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)またはブタ脳微小血管内皮細胞、と共に、インキュベートした。細菌ウイルスのウイルスエンベロープタンパク質に対する抗体での免疫細胞化学は、細菌ウイルスによって発現された、hLDLRに対して親和性を有するペプチドが、遺伝子修飾されていない初代細胞、例えばヒト線維芽細胞およびブタ脳微小血管内皮細胞、上に存在するLDLRにも結合することを示す(図8)。
【0126】
定量的免疫細胞化学に、浮遊細胞(GFP細胞系統、CHO−hLDLR−GFP系統、ヒト線維芽細胞、HUVEC)での定量的フローサイトメトリー(FACS)を追加した。これらの細胞を培養基中で成長させ、(トリプシンを用いずに)機械的に結合解除および解離させ、遠心分離し、再び浮遊させ、そして一切のエンドサイトーシスプロセスを回避するために4℃で20分間、様々な細菌ウイルスクローンおよび抗LDLR抗体の存在下でインキュベートした。洗浄後、細胞に結合した細菌ウイルスを抗ウイルスエンベロープタンパク質で視覚化した。BD FACSDivaソフトウェアを使用してFACSCantoシステム(Becton Dickinson)でFACS分析を行った。陽性細胞の数をそれぞれの検定について5,000事象で標準化した。結果を蛍光の任意単位で表示した。
【0127】
これらのアプローチは、様々な細胞タイプ(図9−11)に関する二次抗体Alexa 488により視覚化された抗hLDLR抗体(横軸)、およびAlexa647抗体またはアロフィコシアニン(APC)抗体により視覚化された細菌ウイルスエンベロープタンパク質に対する抗体(縦軸)によって決定されるhLDLR発現速度間の相関関係を明らかにした。図9、10、11は、CHO−hLDLR−GFP細胞系統(図9)、ヒト線維芽細胞(図10)およびHUVEC(図11)の細胞に関してペプチド配列番号:11、配列番号:12および配列番号:21について得た結果に対応する。
【0128】
hLDLRに対して親和性を有する細菌ウイルスによって発現されたペプチドが、LDL結合ドメイン、hLDLRの天然リガンド、と相互作用し得るという仮説を、様々な細胞タイプを用いて、とりわけHUVECを用いて、例えばここに示すような、上に提示したものに類似した、FACS実験によって評価した(図12)。第一に、hLDLRに対して親和性を有するペプチド(ここでは配列番号:21および配列番号:11を例として使用する)を発現する細菌ウイルスの結合速度が、HUVECによるLDLR発現レベルに比例することが証明される。LDLの存在下で行ったFACS実験により、線状ペプチド(例えば、配列番号:21)によるLDLの強いシフト(85%)、しかし環状ペプチド(例えば、配列番号:11)による小さいシフト(17%)を明らかにすることおよび定量することができた。
【0129】
実施例V
hLDLRに対して親和性を有する細菌ウイルスによって発現されるペプチドとマウス脳血管内皮細胞とのインビボでの相互作用
hLDLRに対して親和性を有するペプチド(ここでは例えば配列番号:1を説明する)を発現する細菌ウイルスおよび(hLDLRに対して親和性を有するペプチドを発現しない)対照細菌ウイルスを、ハトタンで麻酔したC57BL6マウスの尾静脈に注射した。注射後15分および2時間の後、マウスを犠牲にし、0.9%NaClで潅流した。脳、肝臓および腎臓をイソペンタン中で凍結させ、そして抗マウスIgGおよび抗ウイルスエンベロープタンパク質抗体で血管を視覚化する二重免疫組織化学的染色用の凍結切片を作製して、インビボで内皮細胞に結合した細菌ウイルスを視覚化した。これらの実験は、hLDLRおよびmLDLRに対して親和性を有するペプチド配列番号:1を発現する細菌ウイルスが、血管壁内皮細胞に結合し、対照細菌ウイルスについてはそうでないことを示す(図13)。
【0130】
実施例VI
hLDLRに対して親和性を有する細菌ウイルスに対応し、そしてトレーサー分子(ビオチン、フルオレセイン、または酵素活性を有するS−Tag)とカップリングしているペプチドの合成
ポリスチレン−1%DVB上のRink Amide AM樹脂、ポリスチレン−1%DVB上のWang、ポリスチレン−1%DVB上のBarlos(2−クロロトリチルクロリド)、またはポリスチレン−1%DVB上のSieber Amideを用いるFmoc/tBu戦略を用いて、Advanced ChemTech Apex396(AAPPTec)合成装置、またはLiberty(商標)(CEM)マイクロ波合成装置で、固相ペプチド合成(SPPS)法によりペプチドを合成した。負荷(または置換)は、使用する樹脂に従って0.25mmol/gと1.6mmol/gの間である。Fmoc(もしくは幾つかのN−末端についてはBoc)によってN保護された、そして/または直交性官能基(とりわけ酸不安定性官能基)によってそれらの側鎖が保護されたアミノ酸、化学的カップリングおよび脱保護試薬、ならびに溶媒を専門の会社から購入し、そしてそのまま使用した。
【0131】
Rink AmideおよびWang樹脂は、それらの側鎖およびそれらのC−末端が完全に保護されたペプチド配列の合成を可能にする。従って、これは、二次元(Fmoc/tBu)直交型SPPSである。
【0132】
BarlosおよびSieber超高感度酸不安定性(HAL)樹脂は、合成されたペプチドの様々なアミノ酸の直交型側鎖保護ならびにその最後のアミノ酸のアミン官能基の末端(N−末)アミン保護(例えば、新たに合成したペプチド配列の安定性の問題のためにN−アセチル化)を保ちながら、末端(C−末)酸またはアミド官能基の遊離を可能にする。Fmoc(Prot)合成戦略による、これらのタイプの樹脂は、強酸媒体中でのみ開裂可能な酸不安定性直交型側鎖保護(Prot:Boc、tBu、OtBu、Trt、Mmt、Acmなど)の使用を可能にするが、保護されたペプチドは、非常に弱い酸性条件下ではカップリングしない。このタイプの開裂は、対象の治療用分子とそのペプチドのカップリングのためにその側鎖官能基が完全に保護された(Prot)ペプチド配列の回収を可能にする。従って、これは、三次元(BarlosまたはSieber/Fmoc/tBu)直交型SPPSである。
【0133】
ペプチド合成中のそれぞれのアミノ酸について使用した標準的な交側型側鎖保護(Prot)は、Arg(N−Pbf)、Arg(N−Pmc)、Asn(N−Trt)、Asp(O−tBu)、Cys(S−Acm)、Cys(S−Mmt)、Cys(S−4MeBn)、Cys(S−tBu)、Cys(S−Tmob)、Cys(S−Trt)、Glu(O−tBu)、Gln(N−Trt)、His(N−Trt)、Lys(N−Boc)、Ser(O−tBu)、Thr(O−tBu)、Trp(N−Boc)、Tyr(O−tBu)である(Applied Biosystems、1998、Cleavage、Deprotection、and Isolation of Peptides after Fmoc Synthesis.Technical Bulletin)。Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Phe、MetおよびProは、それらのそれぞれの化学構造がそれを必要としないので、側鎖保護を有さない。DMF中のDIEA/HBTU/HOBtまたはDIPC/HOBtを使用してn+1アミノ酸の酸性官能基の活性化によりアミノ酸をカップリングさせた。
【0134】
このようにしてカップリングさせた新たなアミノ酸のFmoc(Prot)基の保護を、DMF中の20%ピペリジンを使用して行った。
【0135】
ペプチドシークエンシング中にカップリングさせた最後のアミノ酸は、Boc官能基によって(合成の最後にその遊離末端アミン官能基を遊離させるために)、またはアセチル化によって(合成された新たなペプチドを安定させるためにだが、例えばC−末位置での対象の治療用分子の共有結合性カップリング中の二次反応のリスクを低下させるためにも)、保護されることとなる。
【0136】
合成されたペプチドに従って、当業者により伝統的に使用されている試薬:I/DMF、I/HFIP/DCM、TFA/DMSO/アニソール、I/DCM/MeOH/HOなど、を使用して、溶液中または樹脂上のいずれかで、2つの適切に保護されたCys(Acm、Trt、tBuなど)の2つのチオール官能基からの分子内環化により、ジスルフィド架橋を得た。有利には、N−末位置のCysを、ジスルフィド架橋による環化のためにMpaにより置換することができる。当業者に公知の合成経路によってランチオニン架橋(デヒドロアラニンによる環化によって)またはジカルバ(allylGlyによる環化によって)も得ることができる。Glu(またはAsp)残基の側鎖酸性官能基とLys上の側鎖アミン官能基またはN−末アミンの間にラクタム架橋を作ることができる。類似して、Lysの側鎖アミン官能基とそのペプチドのC−末酸性官能基の間の環化とまさしく同じように、N−末アミン官能基とC−末酸官能基(ヘッド/テール)の間の環化をアミド結合によって行うことができる。
【0137】
DCM中の0.5%TFA(v/v)を用いて、またはAcOH/TFE/DCM(1/1/3)を用いて、またはDCM中のHFIP(30%)を用いて、またはDCM中のTFE(30%)を用いてなど、当業者により伝統的に用いられている方法によって、BarlosまたはSieber樹脂からペプチドを開裂させた。
【0138】
TFA/HO/TISもしくはTIPS(95/2.5/2.5)を用いて、またはTFA/HO/EDT/TISもしくはTIPS(94/2.5/2.5/1)を用いて、またはTFA/チオアニソール/HO(94/5/1)を用いて、またはTFA/TIS/HO/チオアニソール(90/5/3/2)を用いて、またはTFA/HO/フェノール/チオアニソール/EDT(82.5/5/5/5/2.5)を用いてなど、当業者により伝統的に用いられている方法によって、側鎖の脱保護、およびRin AmideまたはWang樹脂からのペプチドの開裂を行った。
【0139】
当業者に公知の伝統的な合成およびカップリング方法に従って、ビオチン、フルオレセイン、またはS−Tag(下の実施例VIIを参照のこと)をC−末位置に導入した。
【0140】
ペプチドを単離し、そしてBeckman System Gold 126装置と、Chromolith C18(4.6mm×50mm)もしくはNucleosil C18(10mm×250mm)カラムと、例えば3.5分間、水性相(HO+0.1%TFA)中0%から100%へのアセトニトリル勾配、その後、1.5分間、100%から0%へ(流量:1mL/分から5mL/分)を用いて、またはWaters 1525システムと、Chromolith Speed ROD RP−18(4.6mm×50mm)カラム(固定相)と、Waters 996PDA検出器(190nm−400nm)による検出を用いて、またはWaters Alliance 2690システムと、Chromolith Performance RP−18(3mm×100mm)カラム(固定相)と、Waters 996PDA検出器(190nm−400nm)による検出を用いて、HPLCによりそのペプチドを精製した。214nmおよび254nmでUV検出を行った。
【0141】
分取精製は、Waters Prep LC 4000システムと、Guard−Pak(商標)カラム(固定層)と、Delta−Pak(商標)C18カートリッジ(25mm×10mm)と、Waters 2487 Dual Wavelength Absorbance Detectorによる検出とを用いて行った。
【0142】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)質量分析装置をポジティブモードで使用して分子量を決定した。LC−MSカップリングを可能にするWaters Alliance 2690 HPLCシステムを装備したWater Micromass Quattro Micro(四重極分析装置)を使用することによりスペクトルを得た。
【0143】
用いたLC−MS分析条件は、下記のとおりであった:
−Chromalith Flash C18カラム(4.6mm×25mm)、
−3mL/分 流量、
−2.5分間、B 0%から100%への線形勾配(A:0.1%HO/HCOH;B:0.1%ACN/HCOH)。
【0144】
ポジティブ・エレクトロスプレー・モードでの質量スペクトルを100−200μL/分の流量で獲得した。0.1秒間隔での200−1700m/zのスキャンモードでデータを得た。
【0145】
実施例VII
CHO−LDLR−GFP細胞系統におけるhLDLRに対して親和性を有する合成ペプチドの結合およびエンドサイトーシス。
hLDLR−GFPに対して親和性を有するペプチド、および対照ペプチド(ランダムペプチド、特定の順序でではないがhLDLR−GFPに対して親和性を有するペプチドと同一の残基)を合成し、そしてC−末位置で、3つのGly残基から成るスペーサーによって隔てて、様々なトレーサー分子、ローダミンまたはS−Tagのいずれか、とカップリング/コンジュゲートさせた(図14)。S−Tag(ウシ膵臓リボヌクレアーゼAの配列1−15から誘導された15アミノ酸ペプチド)は、一方では、免疫細胞化学またはFACSアプローチのために抗S−Tag抗体が認識できるものであり、そして他方では、FRETWorks S−Tagアッセイキット(Novagen 70724−3)を使用するインビトロでの活性の検定においてリボヌクレアーゼSタンパク質(C−末部分、アミノ酸21−124)との結合により酵素的活性を再構成することができる。このように活性化されたリボヌクレアーゼは、RNA基質を消化して、マスクされた蛍光剤を遊離させ、それをFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)によって視覚化し、そして96ウエルプレートにおいてBeckman分光蛍光計で定量する。これらのFRET実験のために、FRETに用いる波長で強いバックグラウンドノイズを生じさせるhLDLRおよびmLDLRとそのC−末位置で融合させた対照CHO細胞およびGFPを、赤色蛍光タンパク質(RFP)によって置換した。従って、前記FRET実験のために生じさせた安定な細胞系統は、CHO−RFPおよびCHO−hLDLR−RFPである。
【0146】
前記FRETアプローチのために、細胞を2mL PBSで2回洗浄し、その後、1時間、37℃で250μLペプチド溶液と共にインキュベートした。それらを再び2mL PBSで2回、その後、1mL PBSで2回洗浄し、そしてその後、1mL PBS中で剥離させ、5分間、1,250rpmで遠心分離した。その後、上清を吸引し、その細胞ペレットを80μL PBS+0.1%Triton X100に溶解した。それぞれの細胞溶解産物20μLを、FRET反応後の蛍光放出を測定することによって分析した。
【0147】
hLDLRを発現する様々な細胞を用いるペプチドのインキュベーションを含む実験を行った。ローダミンとコンジュゲートしているペプチド配列番号:1またはS−Tagとコンジュゲートしているペプチド配列番号:2を用いて得た結果を例として示す。これらの結果は、それらのペプチドがCHO−LDLR−GFP細胞に十分に結合すること、そしてそれらが、hLDLRを発現する細胞系統の細胞内にエンドサイトーシスによって組み込まれて蓄積され、対照ペプチドについてはそうではないことを示している(図15)。これらの実験において、S−Tagとコンジュゲートしているペプチドと、S−Tagに対する一次抗体(一次Ab)、およびその一次抗体に対する二次抗体(二次Ab)との予備インキュベーションは、配列番号:2/S−Tag/一次Ab/二次Ab複合体が、hLDLRを発現する細胞に結合し、そしてエンドサイトーシスによって内在化されることを示す。これらの結果は、配列番号:2ファミリーのペプチドが、hLDLを発現する細胞に結合することができ、そして大きな負荷物(2つの抗体)をベクター化することができる、または、これらの負荷物がエンドサイトーシスによって内在化されることを示している。
【0148】
hLDLRに対する親和性を有するペプチドのエンドサイトーシスを定量した。このために、配列番号:11/S−Tagおよび対照(ランダム)ペプチドをCHO−hLDLR−RFP細胞と共に1時間、37℃でインキュベートした。それらの細胞を洗浄して、非固定ペプチドの一切の痕跡を除去した。細胞膜に結合したペプチドであって、エンドサイトーシスによって内在化されたペプチドをFRETにより定量できるようにする、PBSでの洗浄、ならびに細胞膜におけるhLDLRに結合したペプチドを解離できるようにする、酸溶液(0.2Mグリシン、0.15M NaCl、pH3)での洗浄を行った。そういうわけで、細胞によるエンドサイトーシスによって組み込まれたペプチドのみがFRETによって検出される(図16−B)。同じことが、ヒト線維芽細胞での配列番号:2/S−Tagに関してもあてはまる(図16−C−D)。
【0149】
これらの観察をFACSによって非付着細胞でも確認した。対照ペプチドとは逆にペプチド配列番号:11(両方とも、S−Tagにコンジュゲートしている)のCHO−hLDLR−GFP細胞系統の細胞に対する結合の例を与える(図17)。
【0150】
実施例VIII
インビトロBBBモデルでの内皮細胞に関するhLDLRに対して親和性を有する合成ペプチドの毒性、エンドサイトーシスおよびトランスサイトーシス。
内皮細胞に対するペプチドの潜在的毒性作用、これらの細胞におけるペプチドの結合/蓄積、およびペプチドのトランスサイトーシスによる通行を、インビトロBBBモデルを用いて評価した。このモデル(脳微小血管および星状膠細胞からの内皮細胞の共培養)を準備するために必要な細胞は、Cellial Technology(フランス、Lens)によって販売されているウシ細胞(ウシ脳微小血管内皮細胞、BBMEC)であった。このインビトロBBBモデルを、非常の多数の分子、とりわけ医薬製剤、のBBBを横断する受動通行/拡散または能動輸送および従ってCNS組織に到達するそれらの能力を評価するために使用した。このモデルは、脳内皮、とりわけ密な結合、に特徴的な超微細構造特性、細孔の不在、経内皮チャネルの不在、親水性分子に対する低い透過率および高い電気抵抗を有する。さらに、このモデルは、BBBを横断して通行するそれらの特性についてインビトロおよびインビボで評価した様々なモデルに対して行った測定の結果の間に確固たる相関関係を示した。今日までに、得られたすべてのデータは、このBBBモデルが、組織培養実験に関連した利点を保ち、その上、インビボで存在する細胞環境の複雑さの一部を再現することによりインビボでの状況を厳密に模倣することを示す。非常に多数の研究により、最も再現性の高いインビトロBBBモデルとしてこの細胞共培養が検証された。
【0151】
前記インビトロBBBモデルは、BBMECと星状膠細胞の共培養を利用する。細胞培養の前に、BBMECの最適な付着を可能にするために、および基底板の状態を作るために、膜挿入物(Millicell−PC3.0μm;直径30mm)の上部をラット尾コラーゲンで処理した。混合星状膠細胞の一次培養物を新生児ラット大脳皮質から樹立した(Dehouck et al.,1990,J.Neurochem.,54,1798−1801)。簡単に言うと、髄膜を除去した後、脳組織を82μmナイロンシーブに通した。10%熱不活性化胎仔ウシ血清を補足した2mL最適培養基(DMEM)を用いて星状膠細胞を1.2×10細胞/mLの濃度でマイクロプレートに分配した。培地を週に2回交換した。2日ごとに添加した、10%(v/v)ウマ血清および10%熱不活性化ウシ血清、2mMグルタミン、50μg/mLゲンタマイシンおよび1ng/mL塩基性線維芽細胞成長因子を補足したDMEM培地の存在下で、Cellial Technologiesから入手したBBMECを成長させた。その後、そのBBMECを、2mL共培養でフィルターの上面に分散させた。このBBMEC培地を週3回交換した。これらの条件下、分化したBBMECが、7日後に集密細胞の単層を形成した。集密に達してから5日後と7日後の間に、下に報告する実験を行った。
【0152】
ペプチド配列番号:1および対照ペプチド(両方とも、ローダミンにコンジュゲートしている)を培養システムの上のほうのチャンバにおいて、内皮細胞と接触した状態で、1時間、5時間および24時間インキュベートした。下のほうのチャンバの培養基を様々な時点で回収し、蛍光定量分析によって蛍光を定量した。それらの結果を、内皮表面透過率(Pe)として10−3cm/分の単位で表示した。Lucifer Yellow(LY)、BBBをほとんど横断しない小蛍光分子、を、分析したすべてのウエルに関してBBBの完全性をインビトロで評価するために先ず使用し、そして次に、ペプチドコインキュベーションのために使用して、このBBBを構成する内皮細胞に対するそのペプチドの毒性の不在を評価した。このインビトロバリアは、LYのPe値が1×10−3cm/分より大きい場合、「透過性」または「開いている」と考えられる。オームメーターで測定され、そしてオーム・cmで表示される、経内皮電気抵抗(TEER)も、BBBを横断する通行の検定中のBBB完全性についてのインビトロ測定を可能にする。品質閾値を>500オーム・cmに設定する。
【0153】
前記ペプチドを用いて行った分析は、使用した対照ペプチドについてばかりでなく、ペプチド配列番号:1についても、毒性の不在、およびBBBの透過特性に対する有害作用の不在を示す。LYを用いて測定したPe値が、24時間にわたるインキュベーションの後でさえ、それらのペプチドの存在および不在下で増加しないからである(図18)。
【0154】
対照ペプチドおよびペプチド配列番号:1(両方とも、ローダミンとコンジュゲートしている)の結合および/または内在化速度を、上で説明したインビトロBBBモデルを用いて判定した。この分析を、様々な時点(2時間、5時間、24時間)での内皮細胞の溶解によって、および細胞(溶解後にこれらの細胞の遠心分離によって得られた膜および細胞質区画)と会合している蛍光(ローダミン)の量についての蛍光定量測定によって行った。測定値は、ローダミンとコンジュゲートしているペプチド配列番号:1が、分析したすべての時点で、インビトロBBBモデルにおいて内皮細胞に対して対照ペプチドより大きい親和性を有することを示している(図19)。
【0155】
対照ペプチドおよびペプチド配列番号:1(両方とも、ローダミンとコンジュゲートしている)の通行を、上で説明したインビトロBBBモデルにおいて立証した。この分析は、様々な時点(1時間、4時間、24時間)でレシーバーウェル内に堆積した蛍光の量を蛍光定量法により測定することによって行った。分析した様々なウエルにおけるBBBの完全性を、1つの区画から他の区画に進むLYのレベルの同時測定により時間の関数として評価した。測定したPe値は、対照ペプチドについて測定したとき、短期間(1時間および4時間)では、トランスサイトーシスによる通行が、非特異的または傍細胞通行と区別できないことを示す。一方、ローダミンとコンジュゲートしているペプチド配列番号:1の通行は、24時間の時点で、対照ペプチドのものよりかなり有意に高い。LYの測定値も、1時間、4時間および24時間の時点でBBBの完全性が保たれていることを示す(図20)。他の測定値は、ローダミンとコンジュゲートしているペプチド配列番号:1の濃度が、24時間の時点で、レシーバー区画において、ドナー区画のものと比較してはるかに高いことを示し、これは、前記2区画間で達成された濃度が平衡を伴わない、間違いなく受容体による、前記ペプチドの能動輸送を示唆している。
【0156】
実施例IX
ペプチドベクター配列番号:11の化学的最適化
構造/活性(親和性)関係の研究を、ペプチドベクター配列番号:11を用いてアラニンスキャニング(Ala−スキャン)技術によってならびにN−およびC−末トランケーションによって行って、このペプチドの15の連続アミノ酸のそれぞれについての重要性を判定した。化学的最適化の結果として得られた新たに合成したそれぞれのペプチドのhLDLRに対する親和性を、蛍光定量法により、C−末が3つのGlyスペーサーを介してS−Tagペプチドにコンジュゲートしているペプチド配列番号:11(配列番号:11/S−Tag)の置換速度を測定することによって判定した(実施例VIIを参照のこと)。
【0157】
簡単に言うと、使用したCHO−hLDLR−RFP細胞は、付着性であり、そして集密であった。
【0158】
それらを6ウエルプレートで成長させた。1条件につき細胞の3つのウエルを使用した。
【0159】
10μMペプチド配列番号:11/S−Tagを含有する溶液を、HamF12−1%BSA培養培地において調製した。この溶液に、Ala−スキャンの結果として得られた10μMペプチドを添加して評価した(競合)。
【0160】
幾つかの対照溶液も調製した:
(i)HamF12−1%BSA培地。
(ii)HamF12−1%BSA培地+10μm対照ペプチドCTRL−S−Tag(S−Tagを含む任意のペプチドの非特異的結合の評価)。
(iii)HamF12−1%BSA培地+10μmペプチド配列番号:11/S−Tag+10μm対照ペプチドCTRL(対象のペプチドと対照ペプチドCTRLの間の「非特異的」競合の評価)。
【0161】
用いたFRETアプローチは、実施例VIIにおいて説明したものである。
【0162】
おおよそ60のペプチドをこのアプローチによって検定した。これらのペプチドのうちの36(配列番号:30から配列番号:65)は、インビトロでLDLRに対する親和性を示す。
【0163】
この研究は、システインの、ならびに従って、環化のおよびMPRトリペプチドモチーフの重要性をさらに確証した。
【0164】
この研究は、ペプチドベクターのサイズの低下も可能にした。D−構造のアミノ酸を少なくとも1つは含む、8アミノ酸の環状ペプチド(配列番号:48)が、LDLRに対して卓越した親和性を示すからである。
【0165】
同じプロトコルに従って、配列番号:48/S−Tagは、ペプチドベクター配列番号:48の化学的最適化(環のサイズ、非天然アミノ酸の導入についての研究)およびLDLRに対するコンジュゲートの親和性の測定のための基準として役立つ。
【0166】
例えば、本出願に記載するコンジュゲート配列番号:66から配列番号:72も、インビトロでLDLRに対する親和性を示す。
【0167】
実施例X
ベクターと対象の治療用分子またはイメージング(または診断)剤または任意の他の分子、例えば分子プローブとから成るコンジュゲートの化学合成のための戦略。
対象の治療用分子またはイメージングまたは診断剤または任意の他の分子、例えば分子プローブを、細胞膜、より詳細にはBBB、を横断する輸送および通行後、ベクターから、例えば、該ベクターと該活性物質の間の化学結合の加水分解または酵素的開裂によるプロドラッグ戦略により、遊離/開裂させることができる。
【0168】
その反応性側鎖官能基が完全に保護された(C−末およびN−末でのカップリング)またはある程度保護された(側鎖の反応性官能基でのカップリング)ペプチドベクターと、対象の治療用分子との共有結合性カップリングを2つの一般戦略によって行う(図2):
−タンデムでの合成(または、介在物を伴わない2つの実体間の直接カップリング)、
−リンカーを介しての合成(Temsamani et al.,2004,Drug Discov.Today,23,1012−1019)。
【0169】
一例として、鎮痛性治療用ペプチド、ダラルギン、とペプチドベクター配列番号:48とのペプチドコンジュゲート配列番号:66の、タンデムでの合成を、実施例VIにおいてペプチドの合成について説明したように行った。
【0170】
一例として、鎮痛性治療用ペプチド、ダラルギン、とペプチドベクター配列番号:48とのペプチドコンジュゲート配列番号:67から配列番号:72の、ペプチドリンカー(GGG、GFLG、ALAL、β−Ala、Ahx、GFAL)を介しての合成を、実施例VIにおいてペプチドの合成について説明したように行った。
【0171】
選択されるペプチドベクターおよび治療上対象の分子によって、様々な戦略のうちの1つまたはその他を、C−末に対して、またはN−末に対して、または側鎖反応性官能基に対して適用する。理想的には、選択されるスペーサーは、前記活性物質の適切な遊離および前記コンジュゲートの溶解度の向上を可能にするはずである(Molema et al.,2001,Vectorisation,organ−specific strategies.In:Methods and principles in medicinal chemistry,vol.12)。従って、様々な不安定性共有化学結合を、スペーサー:アミド、カルバマート、エステル、チオエステル、ジスルフィドなど、を介してまたは介さずに、2つの実体(ベクターと活性物質)間に生じさせることができる。例えば、血漿中で比較的安定なジスルフィド結合を、脳内区画内で開裂させて、遊離チオール官能基を回復させることができることが文献に示されている(Saito et al.,2003,Adv.Drug Deliv.Rev.,55,199−215)。
【0172】
対象の他の化合物は、スペーサーがポリエチレングリコール(PEG)などのポリマーであるものである。実際、生物学上対象の有機分子のPEGとのコンジュゲーションが、この分子の血漿半減期の増加を可能にすること(Greenwald et al.,2003,Adv.Drug Deliv.Rev.,55,217−250)およびその開裂の減少を可能にすることは、文献に示されている。
【0173】
ベクターと活性物質または興味の物質とのコンジュゲーションは、CNSの病態、病変もしくは障害の、診断、イメージングもしくは治療において、BBBを横断できる薬物を調製するために使用することができ、脳腫瘍もしくは別のタイプの癌細胞の診断、イメージングもしくは治療において、癌細胞膜を横断することができる薬物を調製するために使用することができ、そして/または感染性病態の診断、イメージングもしくは治療において、細胞膜を横断することができる薬物であって、脳もしくは他の組織/器官の細菌、ウイルス、寄生虫もしくは真菌感染性病態の感染細胞をターゲッティングできる薬物を調製するために使用することができる。
【0174】
実施例XI
ベクターのみについてのおよびにベクターと対象の治療分子またはイメージング(もしくは診断)剤または任意の他の分子、例えば分子プローブ、とのコンジュゲートについてのインサイチュー脳潅流、ならびにそれらのBBBを横断する輸送動態およびマウス脳におけるそれらの蓄積についての研究。
最良のベクターを選択するために、およびBBBを横断しての脳内へのそれらの通行についてのそれらの作用メカニズムの証拠を提供するために、ここでは(成体オスOF1マウスにおける)インサイチュー脳潅流技術を用いる。
【0175】
事前に、ペプチドベクターを、とりわけ組織切片で、放射性化合物の検出に最高の感度を提示するトリチウム(H)で放射標識した。高い比放射能(SRA、100Ci/mmol以下)を有する放射性ペプチドを、トリチウム標識無水プロピオン酸(またはプロパン酸)またはトリチウム標識N−プロピオニル−スクシンイミド(NPS)によるN−末アミン官能基のアシル化の戦略によって調製した。このトリチウム標識法をすべてのペプチドに適用できるが、但し、N−末の修飾が、ターゲットとなる受容体(または、LDLR)に対するペプチドの親和性にまたは治療用ペプチドの場合にはそれらの生物活性に影響を及ぼさないことを条件とする。
【0176】
プロピオニル化によるペプチドベクター配列番号:11および配列番号:48のN−末位置でのトリチウム標識反応を、DMF中(溶解度に応じて100μL中1mgのペプチドから450μL中1mgのペプチド)で、5分間、室温でトリチウム標識NPS 0.1当量を添加し、その後、1時間、冷NPS(トリチウム標識していないもの)0.9当量を添加し、そしてその後、5時間、冷NPSの新たな当量を添加することによって行った。その後、反応媒体を一晩、4℃で放置し、そして翌日、HPLCによって精製した。それぞれのトリチウム標識ペプチドについてのSRAは、5Ci/mmolと10Ci/mmol(理論的には、ほぼ7.7Ci/mmol)であった。合成により調製した放射能の総量は、600μCiと950μCiの間であった。
【0177】
ベクターと活性物質とのコンジュゲートの場合、長く費用のかかる新たな合成経路の開発を必要とする放射標識化学合成を避けて、炭素−14(14C)を有する既に市販されているモデル活性物質を選ぶことが重要である。放射標識ペプチド(例えば、Hで放射標識されたもの)を、放射標識活性物質(例えば、14Cで放射標識されたもの)と、実施例Xにおいて説明したように、共有結合的にカップリングさせる。前に述べたように、この共有結合性カップリングは、活性物質の構造および物理化学的特性、特に、この物質の生物活性を減少させることなく修飾することができる官能性化学基の存在、に従って行う。放射標識コンジュゲートは、非放射標識コンジュゲートについて開発された合成経路からの推定によって合成する。
【0178】
もう1つの戦略は、本出願に記載するコンジュゲート配列番号:66から配列番号:72の場合のような、(ペプチドもしくは有機性の)リンカーを介するまたはリンカーを介さない治療用ペプチドとペプチドベクターとのコンジュゲートの合成に存する。例えば、N−末トリチウム標識コンジュゲート配列番号:72を、上で説明したように調製した。
【0179】
活性物質の脳内での分布ならびに、特に、脳内へのこれらの分子の浸透の際のBBBのおよび、さらに特に、LDLRの役割を研究するために、下に簡単に要約する技術を開発した。インサイチュー脳潅流技術は、マウスにおいて行うには最も技術的に骨の折れるおよび最も難しいものの1つである。しかし、(インビトロモデルのような)インサイチュー脳潅流は、全身分布の破壊要因を伴わずに、動物体内の正常な生理的および解剖学的条件下で脳の細胞および血管新生を維持するために人工潅流液の組成を完全制御することができる。
【0180】
ラットにおいて通常行われるこのインサイチュー脳潅流戦略(Dagenais et al.,2000,J Cereb Blood Flow Metab.,20(2),381−6)をマウスに適応させて、トランスジェニックおよびKO突然変異体マウスにおける受容体、酵素、または活性物質の輸送体についてのBBBおよび血液網膜関門での輸送動態のパラメータの評価のためにその適用を広げた。それは、ベクターおよびコンジュゲートの脳への取り込みを評価するために用いる、内頸動脈および翼口蓋動脈を特異的に再灌流するために、麻酔したOF1マウスにおける頸動脈(外、甲状腺、後頭動脈)のカテーテル留置およびこの頸動脈の幾つかの枝の結紮を包含する。このカテーテルは、頸動脈を通ることにより十分に制御された潅流液(重炭酸塩緩衝液、血漿または血液)での潅流による全身循環の置換を可能にする。先ず、酸化Krebs重炭酸塩緩衝液を使用して、脳にアクセスするベクターおよびコンジュゲートの能力を評価した。頸動脈のカテーテル留置後、心室を切り出すことによって内因性血流を停止させて、緩衝液と血液の混合および血圧の上昇を避ける。固定流量潅流期間をモニターした。緩衝液潅流を20分まで、または受容体媒介輸送(RMT)の研究については酸素輸送体(洗浄した赤血球)の存在下で1時間まで延長した。
【0181】
ペプチドベクター配列番号:11の研究により、その脳輸送または輸送係数(Kin)の決定を可能になった。これらの実験のための脳潅流期間は、2mL/分の潅流液流量で5分であった。例えば、ペプチドベクター配列番号:11のKin(脳潅流時間にわたっての分布容積)の計算により、3.5±0.2×10−4mL/秒/gの値が得られる。
【0182】
トランスフェリン(Tf)が、3.0×10−4mL/秒/gのKinを有することに留意しなければならない(Demeule et al.,2008,J.Neurochem.,106(4),1534−1544)。RAPタンパク質のKinは、1.0×10−5mL/秒/gである(Pan et al.,2004,J Cell Sci.,117,5071−5078)。
【0183】
最適化ペプチドベクター配列番号:48におけるペプチドベクター配列番号:11の化学的最適化は、このペプチドベクターの脳内の通行の1.37倍の増進を可能にした。ペプチド配列番号:73、CMPRCをこの脳潅流研究のための対照として使用した。
配列番号:48のKin=4.8±0.4×10−4mL/秒/g
配列番号:73のKin=1.5±0.2×10−4mL/秒/g
【0184】
前に説明したように、ペプチドベクター配列番号:48のN−末リンカーを介してのダラルギン(配列番号:74、Y−(D)−AGFLR)の化学的コンジュゲーションにより、コンジュゲート配列番号:72を得ることができた。
【0185】
ベクター化されていない遊離ダラルギン(配列番号:74)をこの脳潅流研究のための対照として使用した。
【0186】
従って、ベクター化されたダラルギン(配列番号:72)の脳内の通行は、そのベクター化されていない遊離形(配列番号:74)と比較すると、21.78倍である。
配列番号:72のKin=19.6±3.9×10−4mL/秒/g
配列番号:74のKin=0.9±0.1×10−4mL/秒/g
【0187】
加えて、このタイプのインサイチュー脳潅流実験により、脳血管区画に残存する化合物と、反管腔側内皮膜を横断して脳実質に進入したものとの区別を確証することも可能になる。実際、潅流後毛細血管枯渇技術は、分子が実際に内皮を横断して脳実質に進入するかどうかの測定を可能にする。この技術の使用により、特定のペプチドベクター(またはコンジュゲート)に脳実質に蓄積する傾向があることを証明することが可能になる。この技術(Triguero et al.,1990,J Neurochem.,54(6),1882−8)を用いて、内皮を通過し、そして細胞外空間または脳細胞経由で脳に進入したベクター(またはコンジュゲート)の画分と、内皮細胞と会合している残存画分とを区別する。
【0188】
従って、マウスにおけるインサイチュー脳潅流研究の重要な段階を、研究したベクターおよびコンジュゲートについて、次のように要約することができる:
i)BBBでのベクターおよびコンジュゲートの許容性(非毒性)ならびにこの生理的バリアの完全性の保存の評価。
ii)LDLRによるRMTによっての脳取り込みの動態および線形性の研究。
iii)ベクターまたはコンジュゲート濃度の関数としての脳取り込み率の研究(Tmax、K)。
iv)LDLRを阻害するまたは調節する基質を使用する輸送メカニズムの研究。
v)脳の区画内での分布:毛細血管枯渇(Triguero et al.,1990,J Neurochem.,54(6),1882−8)。
vi)ベクターおよびコンジュゲートと血漿タンパク質(アルブミンなど)の結合速度の評価、ならびにこれらの分子の脳取り込みに対するそれらの影響についての研究。
vii)静脈内投与、ならびに時間の関数としての組織分布(脳および他の器官)の評価。
【0189】
加えて、血液網膜関門(BRB)を横断しての、これらの様々なペプチドのKinも決定した。
配列番号:11のKin=1.2±0.2×10−4mL/秒/g
配列番号:48のKin=2.4±0.3×10−4mL/秒/g
配列番号:73のKin=0.0±0.0×10−4mL/秒/g
配列番号:72のKin=11.5±3.3×10−4mL/秒/g
配列番号:74のKin=1.8±0.2×10−4mL/秒/g
【0190】
例えば、ベクター化されたダラルギン(配列番号:72)によるBBB横断は、そのベクター化されていない遊離形(配列番号:74)と比較すると、6.39倍である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大で30のアミノ酸残基を含有すること、そして細胞膜の表面でヒト低密度リポタンパク質受容体(hLDLR)を結合することを特徴とする、天然および/または非天然アミノ酸の配列を含むペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項2】
血液脳関門(BBB)および/または癌性もしくは感染性細胞の膜を横断する能力を有することを特徴とする、請求項1に記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項3】
下記:
X−M−P−R−Y (I)
(式中、Xは、1から11の連続した天然および/または非天然アミノ酸を含む基であり、Yは、1から11の連続した天然および/または非天然アミノ酸を含む基であり、XまたはYは、該ペプチド内での環の形成を可能にする少なくとも1つのアミノ酸残基を含有し、Mは、メチオニンまたはその同配体もしくはその類似体を示し、Pは、プロリンまたはその同配体もしくはその類似体を示し、Rは、アルギニンまたはその同配体もしくはその類似体を示し、そしてアミノ酸残基の総数は、25以下である)のとおりの一般式のものであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項4】
Xが、式(Xaa)Z(Xaa)の基であり、そしてYが、式(Xaa)W(Xaa)の基であり、ここでこれらの式中、Xaaは、D構造のアミノ酸、コードされていないアミノ酸、またはペプチド様結合を含有するアミノ酸を含めて、天然または非天然アミノ酸を表し、ZおよびWは、該ペプチドの環化を可能にする2つの同一のまたは異なるアミノ酸を表し、そしてi、j、kおよびlは、0と5の間の、同一のまたは異なる、整数である、ことを特徴とする、請求項3に記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項5】
iが、0、1、3もしくは4から選択される整数であり;jが、0、3もしくは4から選択される整数であり;kが、0、1もしくは3から選択される整数であり;そして/またはlが、0、1もしくは3から選択される整数であることを特徴とする、請求項4に記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項6】
該ペプチドの環化を可能にするアミノ酸が、システイン(Cys)、3−メルカプトプロパン酸(Mpa)、ペニシラミン(Pen)、デヒドロアラニン、アリルグリシン(allylGly)、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはリシンから選択され、好ましくは、ZおよびWが、システインを表すことを特徴とする、請求項3から5のいずれか一項に記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項7】
配列番号:1から配列番号:11または配列番号:30から配列番号:65の配列のペプチドから選択されることを特徴とする、請求項3から6のいずれか一項に記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項8】
環状構造のものであることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項9】
配列番号:12から配列番号:29のペプチドの配列から選択されることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項10】
メチレン(−CH−)またはホスファート(−PO−)基、第二アミン(−NH−)または酸素(−O−)、アルファ−アザペプチド、アルファ−アルキルペプチド、N−アルキルペプチド、ホスホンアミダート、デプシペプチド、ヒドロキシメチレン、ヒドロキシエチレン、ジヒドロキシエチレン、ヒドロキシエチルアミン、レトロ−インバーソペプチド、メチレンオキシ、セトメチレン、エステル、ホスフィナート、ホスフィン酸、ホスホンアミドおよびカルバ類似体の挿入の中から好ましくは選択される少なくとも1つのペプチド様結合を含むことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項11】
N末端(N−末)および/またはC末端(C−末)官能基が、アシル化、および/またはアミド化もしくはエステル化によってそれぞれ保護されることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のペプチドまたは擬似ペプチド。
【請求項12】
活性物質または診断、イメージングもしくは療法に関して興味の物質をベクター化するための医薬組成物または診断用組成物を調製するための、前記請求項のいずれかに記載の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドの使用。
【請求項13】
カップリングされる活性物質または興味の物質の、生物活性を増加させるまたは毒性を減少させるための、前記請求項のいずれかに記載の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドの使用。
【請求項14】
下記:
VxDy (II)
(式中、Vは、請求項1から11のいずれかに記載の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドを表し、Dは、活性物質または興味の物質を表し、そしてxおよびyは、1と5の間の整数である)のとおりの式(II)のコンジュゲート化合物。
【請求項15】
xおよびyが1であること、またはxがyより大きいことを特徴とする、請求項14に記載のコンジュゲート化合物。
【請求項16】
配列番号:66のペプチドの配列によって表されることを特徴とする、請求項14または15のいずれか一項に記載のコンジュゲート化合物。
【請求項17】
下記:
VxLzDy (III)
(式中、Vは、請求項1から11のいずれかに記載の線状または環状ペプチドまたは擬似ペプチドを表し、Lは、スペーサー(またはリンカー)を表し、Dは、活性物質または興味の物質を表し、xおよびyは、1と5の間の整数であり、そしてzは、1と10の間の整数である)のとおりの式(III)のコンジュゲート化合物。
【請求項18】
x=z=y=1またはx=z>yまたはz>x>yを特徴とする、請求項16に記載のコンジュゲート化合物。
【請求項19】
配列番号:67から配列番号:72のペプチドの配列によって表されることを特徴とする、請求項17または18のいずれか一項に記載のコンジュゲート化合物。
【請求項20】
前記活性物質または興味の物質が、好ましくは小化学分子、ペプチドもしくはポリペプチド、タンパク質、抗原、抗体もしくは抗体の一部、核酸もしくはオレゴヌクレオチド、リボザイム、マーカーまたはトレーサーから選択される、治療上興味の分子、診断用もしくは医療用イメージング剤、または分子プローブであることを特徴とする、請求項14〜19のいずれか一項に記載のコンジュゲート化合物。
【請求項21】
VとDの間のカップリング、または一方でVとLの間および他方でLとDの間のカップリングが、生理的媒体中でまたは細胞内で開裂可能なまたは開裂不能な1つ以上の共有、疎水性またはイオン結合によって行われることを特徴とする、請求項14から20のいずれか一項に記載のコンジュゲート化合物。
【請求項22】
Dが、Vと、必要な場合にはLを介して、VのN−末および/もしくはC−末端で、ならびに/またはVの天然もしくは非天然アミノ酸側鎖によって担持されている1つ以上の反応性基で、カップリングしていることを特徴とする、請求項14から21のいずれかに記載のコンジュゲート化合物。
【請求項23】
ペプチドまたは擬似ペプチドVと物質Dの間の、必要な場合にはLを介しての、好ましくは化学的、生化学的もしくは酵素的経路によるまたは遺伝子工学による、カップリングの工程を含むことを特徴とする、請求項14から22のいずれか一項に記載のコンジュゲート化合物を調製する方法。
【請求項24】
請求項14から22のいずれか一項に記載の少なくとも1つのコンジュゲート化合物および1つ以上の医薬的に許容される賦形剤を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項25】
請求項14から22のいずれか一項に記載のコンジュゲート化合物から成る診断または医療用イメージング剤を含むことを特徴とする、診断用組成物。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2012−506407(P2012−506407A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532687(P2011−532687)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051991
【国際公開番号】WO2010/046588
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(511102284)
【氏名又は名称原語表記】VECT−HORUS
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(503285612)ユニヴェルシテ・ドゥ・ラ・メディテラネ (15)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA MEDITERRANEE
【Fターム(参考)】