説明

ペプチド

【課題】食品の風味や栄養価等を損ない、品質の劣化を引き起こすだけではなく、生体
において疾病や老化等の悪影響を及ぼす活性酸素やフリーラジカル等による生体の酸化的
障害を抑制する抗酸化剤及びこの抗酸化剤を配合した飲食品の提供。
【解決手段】Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln、Phe-Gln-Ser-Glu-Glu、Tyr-Leu-Lys-Thr-Val-Ty
r-Gln-His-Gln、Met-His-Gln-Pro-His-Gln、 Asp-Lys-Ile-His-Pro、Asp-Lys-His-Tyr
、あるいはIle-Hisで表されるアミノ酸配列からなるペプチドは抗酸化効果があり、しか
も低用量で効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗酸化作用を持つペプチドに関する。また、本発明は、乳タンパク質に由来す
る抗酸化作用を持つペプチドに関する。さらに、本発明は、該ペプチドを有効成分とする
抗酸化剤に関する。さらにまた、本発明は、該ペプチドを配合した飲食品または飼料に関
する。
【背景技術】
【0002】
不飽和脂肪酸の酸化によって生じる過酸化物やフリーラジカルは、食品の風味や栄養価
等を損ない、品質の劣化を引き起こすだけではなく、生体においては、その強い酸化力に
より細胞内のタンパク質や遺伝子DNAを傷つけるとともに、細胞膜を構成する脂質を攻撃
して、毒性の強いハイドロパーオキサイド等の過酸化脂質を作り、細胞損傷や組織障害を
引き起こすといわれている。こうした活性酸素やフリーラジカルによる生体への有害な作
用の蓄積が、老化を促進したり、ガンや動脈硬化、心臓病をはじめとする、いわゆる生活
習慣病の原因の一つとして関係があることが明らかとなってきた。そのため、食品成分に
よる酸化ストレスの防止や抑制の観点から、食品の抗酸化性と食品成分との関係に関する
研究や抗酸化性を持つ成分の検索が行われている。
【0003】
抗酸化性を持つ成分に関しては、植物由来のビタミンやポリフェノール等が以前から知
られている。ビタミンに関しては多くの報告があり、特にビタミンC、ビタミンE及びβ
-カロテン等に抗酸化性が認められている。また、ポリフェノールについては、カテキン
類やフラボノイド類等が強い抗酸化性をもつことが明らかにされている。 さらに、タン
パク質のプロテアーゼ加水分解物からも多種多様な抗酸化ペプチドが分離・同定されてお
り、卵白アルブミンの酵素分解物から3種類の抗酸化ペプチドを分離したという報告があ
る(例えば、非特許文献1参照。)。また、大豆タンパク質のβ-コングリシニンのプロ
テアーゼ加水分解物から、6種類の抗酸化ペプチドを分離・同定したという報告もある(
例えば、非特許文献2参照。)。
【0004】
一方、乳タンパク質の酵素分解物についてはオピオイド活性作用、カルシウム吸収促進
作用、細胞増殖作用、抗菌作用、アンジオテンシンI変換酵素阻害作用等、多くの生理作
用が明らかにされている。魚油等のエイコサペンタエン酸含有油脂を水溶性タンパク質溶
液により乳化して魚油臭を抑制する方法(例えば、特許文献1参照。)や、高度不飽和脂
肪酸含有油脂を乳の部分加水分解物により乳化し、酸化安定性の高い高度不飽和脂肪酸含
有油脂の粉末を得る方法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。また、高度不
飽和脂肪酸含有油脂、チーズ及び水を乳化させて抗酸化乳化物を調製して、高度不飽和脂
肪酸含有油脂の酸化を防止し、高度不飽和脂肪酸含有魚油由来の魚臭や保存中の異臭をマ
スキングするという方法(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。しかし、これ
らはいずれも高度不飽和脂肪酸含有油脂に、水溶性タンパク質溶液、乳の部分加水分解物
、またはチーズを加えてそれぞれ乳化させた高度不飽和脂肪酸含有油脂の乳化物であって
、主体となる高度不飽和脂肪酸含有油脂自体の魚臭や保存中の異臭を防止するものである
。しかしながら、高度不飽和脂肪酸含有油脂と混合し乳化させることなく、乳タンパク質
由来のペプチド単独で抗酸化性を持つという報告は見当たらない。また、乳から製造され
るチーズの生理機能に関しては、抗腫瘍作用、抗変異原作用等が報告されているものの、
抗酸化作用を持つことについては知られていない。本発明者らはチーズの水溶性ペプチド
画分が抗酸化作用を持つことを見出し、特許出願を行った(特許文献4参照。)。しかし
、特定のアミノ酸配列を有するペプチドが抗酸化作用を有することを見出したものではな
い。このように、乳タンパク質由来のペプチド単独で抗酸化性を持つという報告は見当た
らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60‐102168号公報
【特許文献2】特開平2‐305898号公報
【特許文献3】特開平7‐274823号公報
【特許文献4】特開2004‐352958号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】拓殖信昭ら、日本農芸化学会誌、65号、p.1635、1991年
【非特許文献2】エッチ・エム・チェンら(Chen, H.M. et al.), ジャーナル・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー(J. Agric. Food Chem.), 43号, p.574, 1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食品の風味や栄養価等を損ない、品質の劣化を引き起こすだけではなく、生
体においては疾病や老化等に悪影響を及ぼす活性酸素やフリーラジカル等による生体の酸
化的障害を抑制するのに有効な抗酸化作用を有するペプチドを提供することを課題とする

【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、次の式(1)〜(7)で表
されるアミノ酸配列からなるペプチドに抗酸化効果があり、しかも低用量で効果を有する
ことを見出し、本発明を完成するに至った。
Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln 式(1)
ただし、セリン(Ser)についてはリン酸化されていても良い。
Phe-Gln-Ser-Glu-Glu 式(2)
ただし、セリン(Ser)についてはリン酸化されていても良い。
Tyr-Leu-Lys-Thr-Val-Tyr-Gln-His-Gln 式(3)
Met-His-Gln-Pro-His-Gln 式(4)
Asp-Lys-Ile-His-Pro 式(5)
Asp-Lys-His-Tyr 式(6)
Ile-His 式(7)
すなわち、本発明は、上記の式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用
を持つペプチドに関する。
また、本発明は、乳タンパク質に由来する式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列から
なる抗酸化作用を持つペプチドに関する。
さらに、本発明は、式(1)〜(7)で表されるペプチドを有効成分とする抗酸化剤に関
する。
さらにまた、本発明は、式(1)〜(7)で表されるペプチドを配合した抗酸化用飲食品
または飼料に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドは
、食品の風味や栄養価等を損ない品質の劣化を引き起こすだけではなく、生体においては
疾病や老化等に悪影響を及ぼす、活性酸素やフリーラジカル等による生体の酸化的障害を
抑制するのに有効であり、このペプチドを有効成分とする抗酸化剤として、また、このペ
プチドを配合した抗酸化用飲食品または飼料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】YMC-Pack ODS-Aカラムによる各種チーズを原料とする水溶性ペプチド画分の分離クロマトグラムを示す。
【図2】C18カラム(Cosmosil 40C18-PREP)によるブルーチーズ水溶性ペプチド精製画分の分離クロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いることができるPhe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln(ただし、セリン(Ser)につい
てはリン酸化されていても良い。)、Phe-Gln-Ser-Glu-Glu(ただし、セリン(Ser)につ
いてはリン酸化されていても良い。)、Tyr-Leu-Lys-Thr-Val-Tyr-Gln-His-Gln、Met-His
-Gln-Pro-His-Gln、 Asp-Lys-Ile-His-Pro、Asp-Lys-His-Tyr、あるいはIle-Hisで表され
るアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドは、例えばチーズを溶媒に懸濁した後
、脱脂、遠心分離によって不溶性物質の除去を行って得ることができる。さらにその得ら
れた画分からタンパク質を除去してもよい。本発明においてチーズを溶媒に懸濁するとい
うことは、チーズに溶媒を加えて均質化したり、または溶媒中で破砕したりして、水溶性
ペプチド画分を得やすい大きさにすることをいう。溶媒としては、水、リン酸緩衝液等の
水性溶媒を用いることができる。その後、透析膜やイオン交換樹脂等によって脱塩を行っ
てもよいし、さらに、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥させることにより粉末化しても
よい。
【0012】
また、式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドを得
るためのチーズ原料としては、パルメザンチーズ、グリュイエールチーズ、マリボーチー
ズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エメンタールチーズ、エダムチーズ、カマンベール
チーズ、ブリーチーズ、マンステールチーズ、ポン・レヴェックチーズ、スチルトンチー
ズ、ダナブルーチーズ、ブルーチーズ等のナチュラルチーズ、及びこれらのナチュラルチ
ーズを原料としたプロセスチーズ等を用いることができるが、熟成度の進んだナチュラル
チーズ、特にカビ熟成型ナチュラルチーズを用いることが望ましい。
【0013】
さらに、チーズを溶媒に懸濁した後、脱脂、不溶性物質の除去及びタンパク質の除去に
よって得られる式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む画分は、
C18カラムを用いた逆相クロマトグラフィーによりさらに精製することも可能である。本
ペプチドを含む画分をトリフルオロ酢酸(TFA)等の酸性条件下あるいは蒸留水等の中性
条件下でC18カラムに通した時に、抗酸化活性を有する画分は、カラムに吸着されない透
過画分と、カラムに吸着されて10%エタノールで溶出されてくる画分に主として分かれる
。これらの画分についてゲルろ過クロマトグラフィーによりさらに精製を行った場合の、
活性画分の分子量分布は、いずれの画分も400〜6,000の範囲である。
さらに、このペプチドを含む画分を0.05%TFAで溶解した後、YMC-Pack ODS-Aカラム(4.
6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供してペプチドを分画する。クロマトグラフィー
は、溶媒(A液:0.05%TFA;B液:100%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒45%B,125 mi
n)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行うことが望ましい。
【0014】
本発明の式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド及
び該ペプチドを含む画分は、飲食品に配合して飲食品の品質劣化防止に使用することがで
きる。飲食品に配合する場合は、チーズを水中で摩砕した後、脱脂、遠心分離によって不
溶性物質の除去を行って、さらにタンパク質を除去することにより得たチーズの水溶性
ペプチドをそのまま配合することができるし、透析膜やイオン交換樹脂等によって脱塩を
行ったもの、さらに、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥を行い粉末化したものも配合す
ることができる。また、合成して得られたペプチドについても利用可能である。
【0015】
本発明の式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド及
び該ペプチドを含む画分は、経口あるいは非経口的に投与して、生体において活性酸素や
フリーラジカル等を消去することにより疾病や老化等の進行を防止することができる。経
口あるいは非経口的に投与する場合、本発明の抗酸化作用を持つペプチドの剤形として
は、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、丸剤、トローチ、舌下剤または液剤等の経口投与
用の製剤、あるいは、注射剤、座剤等の非経口投与用の製剤を例示することができる。
【0016】
本発明の式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチドの
経口による投与量は、治療や予防の目的、症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜決定
すればよいが、通常、成人1日あたり式(1)〜(7)で表される抗酸化作用を持つアミノ
酸配列からなるペプチドとして10μg〜500mg投与すれば、疾病や老化等に悪影響を及ぼす
活性酸素やフリーラジカル等による生体の酸化的障害を抑制する治療または予防効果が得
られる。このように本発明は低用量で効果がある。
【0017】
また、本発明の式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプ
チドは、それらを配合した飲食品または飼料を経口摂取することによって生体内で抗酸化
作用を発揮するだけでなく、飲食品または飼料に配合した飲食品または飼料自体の酸化に
よる劣化をも防ぐ。本発明の抗酸化用飲食品としては、チーズ、バター、乳飲料、ジュー
ス、ヨーグルト、ゼリー、パン、アイスクリーム、麺、ソーセージ、育児用調製乳や離乳
食等を挙げることができる。
【0018】
以下に実施例及び試験例を示し、本発明をより詳細に説明するが、これらは単に例示す
るのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
(ブルーチーズのペプチドの調製)
ブルーチーズ20gに蒸留水80mlを加え、ストマッカー(オルガノ社)で15分間摩砕した
後、水中においてウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX、T-25;IKAジャパン社)で30
秒間さらに破砕した。 破砕時に生じた乳脂肪を取り除き、得られたチーズスラリーを振
盪機で30分間振盪した後、遠心分離(6,000rpm、20min、4℃)で不溶物を除き、上清をろ
紙(No.113;ワットマン社)によりろ過した。 得られたろ過液にエタノールを70%濃度に
なるように加え、4℃で4時間静置した後、遠心分離(10,000rpm、20min、4℃)により不
溶物を除去し、エバポレーターでエタノールを除いた後、凍結乾燥してブルーチーズの水
溶性ペプチド画分を得た。
この水溶性ペプチド画分を0.05%TFAで溶解した後、YMC-Pack ODS-Aカラム(4.6mm x 15
0mm)を用いて逆相HPLCに供し、水溶性ペプチド精製画分に分画した。クロマトグラフィ
ーは、溶媒(A液:0.05%TFA;B液:100%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒45%B,125
min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行った。結果を図1(Blueと示したクロ
マトグラム)に示す。これら分画した画分の抗酸化活性を以下に示す試験例1の方法で測
定したところ、クロマトグラムの矢印の画分に強い抗酸化活性が確認された。
この強い抗酸化活性が確認された水溶性ペプチド精製画分をCosmosil 5C22-AR-II(4.6
mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供し、更に分画しペプチドを得た。クロマトグラフィー
は、溶媒(A液:0.1%TFA;B液:80%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒15%B,40 min)
、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件でおこなった。結果を図2に示す。これら分画し
たペプチドの抗酸化活性を測定したところ、クロマトグラムの5、6、8、9、10の画
分に強い抗酸化活性が確認された。
得られたブルーチーズのペプチドについて、ペプチドシークエンサー(アプライド・バ
イオシステムズ社)でアミノ酸配列を解析したところ、図2に示される5番がAsp-Lys-His
-TyrおよびIle-His、6番がPhe-Gln-Ser-Glu-Glu-GlnおよびPhe-Gln-Ser-Glu-Glu、8番がT
yr-Leu-Lys-Thr-Val-Tyr-Gln-His-Gln、9番がAsp-Lys-Ile-His-Pro、 10番がMet-His-Gln
-Pro-His-Glnなる配列であることが確認された。
このようにして得られた本発明のペプチドは、そのまま抗酸化剤として利用可能である

【実施例2】
【0020】
(各種チーズのペプチドの調製)
スターターとして乳酸菌を用いたボン・レヴェックチーズ及びミュンスターチーズ、乳
酸菌と青カビを用いたブルーチーズ及びダナブルーチーズ、乳酸菌と白カビを用いたブリ
ーチーズ及びカマンベールチーズについて、実施例1と同様にしてペプチドを調製した。
すなわち、前記の各種チーズ20gに蒸留水80mlを加え、ストマッカー(オルガノ社)で
15分間摩砕した後、水中においてウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX、T-25;IKAジ
ャパン社)で30秒間さらに破砕した。 破砕時に生じた乳脂肪を取り除き、得られたチー
ズスラリーを振盪機で30分間振盪した後、遠心分離(6,000rpm、20min、4℃)で不溶物を
除き、上清をろ紙(No.113;ワットマン社)によりろ過した。得られたろ過液にエタノール
を70%濃度になるように加え、4℃で4時間静置した後、遠心分離(10,000rpm、20min、4
℃)により不溶物を除去し、エバポレーターでエタノールを除いた後、凍結乾燥して各水
溶性ペプチド画分を得た。
この各水溶性ペプチド画分を0.05%TFAで溶解した後、YMC-Pack ODS-Aカラム(4.6mm x
150mm)を用いて逆相HPLCに供し、各ペプチド精製画分にさらに分画した。クロマト
グラフィーは、溶媒(A液:0.05%TFA;B液:100%アセトニトリル)、濃度勾配(0%B⇒4
5%B,125 min)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行った。結果を図1に示す。こ
れら分画した画分の抗酸化活性を以下に示す試験例1の方法で測定したところ、クロマト
グラムの矢印の画分に強い抗酸化活性が確認された。
この強い抗酸化活性が確認された水溶性ペプチド精製画分を、Cosmosil 5C22-AR-II(4
.6mm x 150mm)を用いて逆相HPLCに供し、更に分画しペプチドを得た。クロマトグラフィ
ーは、溶媒(A液:0.1%TFA;B液:80%アセトニトリル)、濃度勾配(0% B⇒15%B,40 mi
n)、流速0.8ml/min、検出波長220nmの条件で行ったところ、図2に示したブルーチーズ
と同様のクロマトグラムが得られ、抗酸化活性が確認された画分について実施例1と同様
にしてアミノ酸配列を確認したところ、ブルーチーズの場合と同じペプチドであった。
このようにして得られた本発明のペプチドは、そのまま抗酸化剤として利用可能である

【試験例1】
【0021】
(各種チーズの水溶性ペプチド精製画分の抗酸化活性の測定)
実施例1及び実施例2で分画した水溶性ペプチド精製画分及びペプチドについて、リノ
ール酸の酸化物がβ-カロテンを退色させる作用を利用する方法で抗酸化活性を測定した
。すなわち、β-カロテン溶液(10mg/10mlクロロホルム) 0.5ml、リノール酸溶液(1g/10ml
クロロホルム) 0.2ml、ツイーン40溶液(2g/10mlクロロホルム) 1.0mlを200m1の三角フラ
スコに入れ、窒素ガスでクロロホルムを完全に除去した後、100mlの蒸留水を加えて溶解
した。さらに、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0) 8.9mlを添加して、リノール酸・β-カロテン溶
液を調製した。次に、あらかじめ水溶性ペプチド画分0.1mlを分注した分光光度計用試験
管セルに、上記のリノール酸・β-カロテン溶液4.9mlを加え、攪拌後直ちに470nmの吸光
度(S0)を測定した。なお、リノール酸・β-カロテン溶液の調製に際しては、S0が1.2程
度(1.1〜1.3)になるようにβ-カロテン溶液の添加量を適宜増減した。S0測定後、直ちに
試験管セルを50℃の恒温槽に入れ、30分間インキュベートした。インキュベート終了後、
直ちに吸光度(S30)を測定し、30分間における470nmの吸光度の低下量、ΔS=S0−S30を算
出した。ブランクには試料の代わりに70%エタノールを用い、同様の操作を行なった。す
なわち、リノール酸・β-カロテン溶液を加えた直後の吸光度(B0)、及び50℃、30分間
保持した後の吸光度(B30)を測定し、30分間における470nmの吸光度の低下量、ΔB=B0
−B30を求めた。抗酸化活性は次の式に代入し、抗酸化率(%)として表した。
【0022】
[数1]
抗酸化率(%)=〔(ΔB−ΔS)/(ΔB)〕×100
【0023】
なお、ポジティブコントロールとして合成抗酸化剤BHT(ブチルヒドロキシルトルエン
)を20μM、50μM、100μM、及び200μMに調製したものを用いた。また、対照としてカゼ
インについても同様に処理し、抗酸化活性を評価したところ、図1の矢印位置の画分に強
い抗酸化活性が確認された。また、図2の5、6、8、9、10の画分に強い抗酸化活性
が確認された。
【実施例3】
【0024】
(ペプチドの合成)
上記の式(1)〜(7)で表されるアミノ酸配列からなる7種類のペプチドについて、ペ
プチドシンセサイザーにて合成を行った。ペプチドシンセサイザー431A(アプライド
・バイオシステムズ社)により、パラヒドロキシメチルフェノキシメチルポリスチレン(
HMP)樹脂を用い、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基をアミノ
末端の保護基としてC末端側からペプチド鎖を順次延長することにより0.25mmolスケ
ールで直鎖保護ペプチドを合成した。得られたHMP樹脂結合保護ペプチドをフェノール
、1,2−エタンジチオール、チオアニソール存在下、トリフルオロ酢酸(TFA)によ
りペプチドのHMP樹脂からの切り離しと保護基の除去を同時に行った。減圧濃縮により
TFAを除去した後、エチルエーテルで粗ペプチドを結晶化させ、これを5%酢酸に溶解
し凍結乾燥を行った。得られた直鎖粗ペプチドを、HPLC〔カラム:オクタデシル4P
W(21.5×150mm,東ソー社),溶出:0.1%TFAを含む水−アセトニトリルにてグラ
ジエント溶出〕により精製し、直鎖精製ペプチド(Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln)を得た。
得られた精製ペプチドの純度は、HPLCによる分析の結果98%であった。
なお、その他の6種類のペプチドについても同様にして合成した。純度は全て98%であ
った。このようにして得られたペプチドについて以下に示す試験例2の方法で抗酸化活性
を測定したところ、全てのペプチドに強い抗酸化活性が確認された。
このようにして得られた抗酸化作用を持つペプチドは、そのまま抗酸化剤として利用可
能である。
【試験例2】
【0025】
(ペプチドの抗酸化活性)
実施例3で得られた各種ペプチドの抗酸化活性を、大澤らの方法(J. Agric.Food Chem.
, Vol.35, No.5, p.809-812, 1987) により測定した。すなわち、ウサギ保存血液と等張
液(10mMリン酸緩衝液/152mM NaCl, pH7.4)とを等量混和し、4℃、1,500×g(3,500rpm)
、20分間の遠心分離を3回行って洗浄した。洗浄された血球に低張液(10mMリン酸緩衝
液, pH7.4)をよく混和し、4℃、20,000×g(11,000rpm)、40分間の遠心分離を4回行った
。得られた緩い沈澱部分 (ゴースト) を用いてペプチドの抗酸化活性を検討した。実施例
3で得られた各ペプチドを初濃度で0、0.01、0.1 、1 、10mMとなるように調製し、上記
の赤血球膜ゴーストと混合し、酸化剤を加えて酸化反応を行った。対照としては、既知の
抗酸化剤であるビタミンEを用いて同様の処理を行った。次いで TBA反応を行い、532nm
で吸光度を測定して酸化生成物を定量した。抗酸化活性の評価は、サンプル無添加での吸
光度を100%として、各サンプルを添加したときの吸光度から次式で定義されるゴースト
酸化率を算出することで行った。なお、このゴースト酸化率が低いものほどゴーストの酸
化が抑制されており、抗酸化活性が高いことを示している。また、吸光度測定に当たって
は、対照としてゴースト無添加で TBA反応を行って得られた吸光度をブランク値として吸
光度から差し引いた。結果を表1に示す。
【0026】
[数2]
ゴースト酸化率(%) =(吸光度/サンプル無添加での吸光度)×100
【0027】
表1に見られるように、各ペプチドを添加すると、濃度依存的な抗酸化活性を示した。
以上、本試験例の結果により、Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln(ただし、セリン(Ser)につい
てはリン酸化されていても良い。)、Phe-Gln-Ser-Glu-Glu(ただし、セリン(Ser)につ
いてはリン酸化されていても良い。)、Tyr-Leu-Lys-Thr-Val-Tyr-Gln-His-Gln、Met-His
-Gln-Pro-His-Gln、Asp-Lys-Ile-His-Pro、Asp-Lys-His-Tyr、あるいはIle-Hisで表され
るアミノ酸配列からなるペプチドには抗酸化活性(ラジカルスカベンジャー活性)が認め
られ、活性酸素や過酸化脂質による酸化的細胞障害の予防・改善に有用であることがわか
った。
【0028】
[表1]
ゴースト酸化率(%)
──────────────────────────────────
サンプル濃度(mM) 0 0.01 0.1 1 10
──────────────────────────────────
ビタミンE 100 93 88 74 59
Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln 100 82 67 32 15
Phe-Gln-Ser-Glu-Glu 100 80 68 40 20
Tyr-Leu-Lys-Thr-Val-Tyr-Gln-His-Gln 100 90 81 43 18
Met-His-Gln-Pro-His-Gln 100 89 77 61 15
Asp-Lys-Ile-His-Pro 100 82 57 42 25
Asp-Lys-His-Tyr 100 80 62 40 14
Ile-His 100 80 71 43 12
───────────────────────────────────
【実施例4】
【0029】
表2に示した組成で各成分を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の抗酸
化ペプチドを配合した抗酸化用飲料を製造した。
【0030】
[表2]
──────────────────────────────
混合異性化糖 15.4 (重量%)
果汁 10.0
クエン酸 0.5
Phe-Gln-Ser-Glu-Glu (実施例1) 0.1
香料 0.2
水 73.8
──────────────────────────────
【実施例5】
【0031】
表3に示す組成のドウを作成し、成形した後、焙焼して本発明の抗酸化ペプチドを配合
した抗酸化用ビスケットを製造した。
【0032】
[表3]
────────────────────────────────
小麦粉 51.0 (重量%)
砂糖 20.0
食塩 0.5
マーガリン 12.5
卵 12.5
水 2.5
ミネラル混合物 0.8
Phe-Gln-Ser-Glu-Glu-Gln (実施例1) 0.2
────────────────────────────────
【実施例6】
【0033】
表4に示す組成で各成分を混合し、本発明の抗酸化ペプチドを配合したイヌ飼育用飼料
を製造した。
【0034】
[表4]
─────────────────────────────────
大豆粕 12.0 (重量%)
脱脂粉乳 14.9
大豆油 4.0
コーン油 2.0
パーム油 28.0
とうもろこし澱粉 15.0
小麦粉 8.0
ふすま 2.0
ビタミン混合物 9.0
ミネラル混合物 2.0
セルロース 3.0
Met-His-Gln-Pro-His-Gln (実施例1) 0.1
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(3)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド。
Tyr-Leu-Lys-Thr-Val-Tyr-Gln-His-Gln 式(3)
【請求項2】
次の式(4)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド。
Met-His-Gln-Pro-His-Gln 式(4)
【請求項3】
次の式(5)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド。
Asp-Lys-Ile-His-Pro 式(5)
【請求項4】
次の式(6)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド。
Asp-Lys-His-Tyr 式(6)
【請求項5】
次の式(7)で表されるアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド。
Ile-His 式(7)
【請求項6】
乳タンパク質に由来する請求項1〜5のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる抗酸化作用を持つペプチド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のペプチドを有効成分とする抗酸化剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のペプチドを配合した抗酸化用飲食品または飼料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−36209(P2012−36209A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218853(P2011−218853)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【分割の表示】特願2005−294358(P2005−294358)の分割
【原出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】