説明

ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)活性化剤、ならびにそれを用いた医薬、サプリメント、機能性食品および食品添加物

【課題】副作用の問題がなく、長期間摂取可能であり、特有の風味がないペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)活性化剤を提供する。
【解決手段】β−クリプトキサンチンをPPAR活性化剤として使用する。β−クリプトキサンチンは、例えば、温州みかんなどの柑橘類(特にマンダリン系柑橘類)の果肉に多量に含まれており、長年食されてきたことから、安全性に問題がなく、しかもカロリーが低いので、長期間摂取可能である。また、β−クリプトキサンチンは、無味無臭なので、食品に添加しても、その食品特有の風味を害することがないため、食品に添加して摂取可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)活性化剤、ならびにそれを用いた医薬、サプリメント、機能性食品および食品添加物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の発症には、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性の二つが関与していると言われている。最近、日本人において、糖尿病患者が増えているが、インスリン分泌低下は遺伝的要素が大きいため、糖尿病患者増加の主原因ではなく、インスリン抵抗性が主原因と考えられている。これは、日本人の食生活が欧米化して脂肪摂取量が増えたことや、その他、運動不足、肥満、ストレスが原因であると言われている。インスリン抵抗性の発生のメカニズムは、脂肪細胞の肥大化に起因することが最近の研究で分かっている。すなわち、脂肪細胞が肥大化すると、TNF−αおよび遊離脂肪酸(FFA)が分泌され、これらが筋肉細胞や肝臓細胞での糖の取り込みを阻害すると共に、インスリンの働きを促進するアディポネクチンの分泌が抑制され、この結果、インスリン抵抗性が生じる。
【0003】
一方、インスリン抵抗性の研究において、核内受容体であるPPARを活性化すると、インスリン抵抗性の改善に効果があることが分かっている。PPARには、α、σ、γの3つのタイプと、いくつかのサブタイプが知られている。PPARαは、主として肝臓細胞に発現し、その他、心筋細胞や消化管細胞にも発現が認められ、脂肪酸酸化、ケトン体生成、アポリポタンパク質の生成などに関与している。PPARσは、組織特異性が認められず、体全体に発現しているが、大腸がん細胞での発現が顕著である。PPARγは、γ1型とγ2型の2つのサブタイプに分類でき、γ1型は、脂肪組織、免疫系組織、副腎、小腸で発現し、γ2型は、脂肪細胞で特異的に発現しており、脂肪細胞の分化誘導や脂肪合成に重要な役割を担っている。
【0004】
このように、PPARは、インスリン抵抗性の改善に大きく関わっており、加えて、高インスリン血症、2型糖尿病、その他、肥満、高血圧、高脂血症および動脈硬化の改善にも関わっていると言われている。このような観点から、PPARを活性化する物質について研究され、例えば、フィブラート系化合物、チアゾリジン誘導体、脂肪酸、ロイコトリエンB4、インドメタシン、イブプロフェン、フェノプロフェン、15−deoxy−Δ−12,14−PGJ2のような合成物質系のPPAR活性化剤が知られている。しかしながら、合成物質系のPPAR活性化剤は、長期摂取による副作用の問題があり、日常生活で摂取してインスリン抵抗性等の疾病を予防若しくは改善するのには不向きである。この他、天然成分由来のPPAR活性化剤として、ウコンに含まれるクルクミンや、油脂の一種であるモノアシルグリセロール、お茶などに含まれるカテキン類などの天然物質が、PPAR活性化剤として報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、天然成分由来のものであっても油脂などは、カロリーが高いため、継続的に摂取することには問題がある。また、日常的に摂取するためには、食品等に添加して摂取することが理想的であるが、天然成分由来のものは独特の風味を有するものも多く、このようなものは食品等に添加するには不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−80362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、副作用の問題がなく、長期摂取可能であり、しかも食品等に添加しても問題のないPPAR活性化剤の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のPPAR活性化剤は、β−クリプトキサンチンを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために、天然成分のPPAR活性化剤について一連の研究を重ねたところ、温州みかん等のマンダリン系柑橘類に多く含まれるβ−クリプトキサンチンが、PPAR活性化作用を有することを見出し、本発明に到達した。すなわち、β−クリプトキサンチンを多く含む温州みかんは、長年食用されてきており、その安全性は確認されている。また、β−クリプトキサンチンは、カロリーが低く、この点で糖尿病患者や肥満患者等が長期摂取しても問題がない。そして、β−クリプトキサンチンは、無味無臭であるため、食品等に添加しても、その食品独特の風味を損なうことがないため、食品に添加して長期に渡って日常的に摂取することも可能となる。したがって、本発明によれば、β−クリプトキサンチンがPPARを活性化することにより、脂肪の燃焼を促進させ、TNF−αおよび遊離脂肪酸の分泌を抑制し、かつアディポネクチンの分泌を促進させるから、脂肪細胞の状態を正常化でき、インスリン抵抗性を改善でき、その他、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満などの症状を改善できる。なお、これらは、人に限られず、その他動物にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施例において、β−クリプトキサンチンのPPARγリガンド活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のPPAR活性化剤は、β−クリプトキサンチンを含んでいればよく、β−クリプトキサンチン以外に、例えば、その他のPPAR活性化剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0011】
本発明において、活性化されるPPARは、例えば、PPARαおよびPPARγのいずれかでもよいが、好ましくは双方である。
【0012】
前述のように、β−クリプトキサンチンは、PPAR活性化作用を有するため、本発明のPPAR活性化剤は、例えば、脂肪細胞におけるTNF−αおよび遊離脂肪酸の分泌抑制、脂肪細胞におけるアディポネクチンの分泌促進、および、肝臓細胞における脂肪のβ酸化促進等の作用を少なくとも一つ有する。また、本発明のPPAR活性化剤は、例えば、脂肪細胞のアポトーシス、分化および小型化等の少なくとも一つを誘導する作用を有する。
【0013】
本発明のPPAR活性化剤において、使用するβ−クリプトキサンチンは、特に制限されないが、例えば、柑橘類、柿、パパイヤ、ビワおよび赤ピーマン等由来のものである。中でも、柑橘類が好ましく、より好ましくはマンダリン系柑橘類由来のものであり、特に好ましくは温州みかん由来のものである。後述のように、柑橘類からのβ−クリプトキサンチンの工業的製造方法が確立されているため(例えば、特許第3359298号)、安価で安全なβ−クリプトキサンチンが入手できるからである。特に、温州みかんには、β−クリプトキサンチンが、約1.0〜2.9mg/100gの高濃度で含まれている。また、原料として使用できるのは、例えば、果実全体であり、特に果肉を使用することが好ましい。なお、本発明において、β−クリプトキサンチンは、例えば、前記柑橘類から単離精製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0014】
つぎに、本発明の医薬は、例えば、インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防若しくは治療のための医薬であって、前記本発明のPPAR活性化剤を含む医薬である。本発明の医薬は、本発明のPPAR活性化剤以外に、例えば、その他のPPAR活性剤および各種添加剤等を含んでいてもよい。本発明の医薬において、具体的な剤形としては、例えば、錠剤、細粒剤(散剤を含む)、カプセルおよび液剤(シロップ剤を含む)等があげられる。本発明の医薬は、各剤形に適した添加剤や基材等を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い製造できる。また、投与経路としては、特に制限されず、例えば、経口投与および非経口投与があげられ、前記非経口投与としては、例えば、口腔内投与、気道内投与、直腸内投与、皮下投与、筋肉内投与および静脈内投与等があげられる。
【0015】
つぎに、本発明のサプリメントは、例えば、インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防若しくは改善のためのサプリメントであって、前記本発明のPPAR活性化剤を含むサプリメントである。本発明のサプリメントは、本発明のPPAR活性化剤以外に、例えば、その他のPPAR活性剤、各種添加剤およびその他のサプリメント等を含んでいてもよく、前記その他のサプリメントとしては、例えば、ビタミンCなどの各種ビタミン類、アミノ酸およびオリゴ糖等があげられる。本発明のサプリメントの形態は、特に制限されず、例えば、錠剤、細粒剤(散剤を含む)、カプセルおよび液剤(シロップ剤を含む)等があげられる。
【0016】
つぎに、本発明の機能性食品は、インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防若しくは改善のための機能性食品であって、前記本発明のPPAR活性化剤を含む機能性食品である。本発明の機能性食品は、本発明のPPAR活性化剤以外に、例えば、その他のPPAR活性剤および各種添加剤等を含んでいてもよい。なお、本発明の機能性食品の形態は、特に制限されず、例えば、麺類、菓子類および機能性飲料等を含む。
【0017】
つぎに、本発明の食品添加剤は、インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防若しくは改善のための食品添加物であって、前記本発明のPPAR活性化剤を含む食品添加物である。本発明の食品添加剤は、本発明のPPAR活性化剤以外に、例えば、その他のPPAR活性剤および各種添加剤等を含んでいてもよい。本発明の食品添加剤の形態は、特に限定されないが、例えば、液状、ペースト状、粉末状、フレーク状および顆粒状等があげられる。また、本発明の食品添加剤は、例えば、飲料用を含む。
【0018】
つぎに、本発明のPPAR活性化方法は、例えば、脂肪細胞および肝臓細胞等に、β−クリプトキサンチンを接触させることを含む方法である。
【0019】
本発明のPPAR活性化方法は、例えば、脂肪細胞におけるTNF−αおよび遊離脂肪酸の分泌抑制、脂肪細胞におけるアディポネクチンの分泌促進、および、肝臓細胞における脂肪のβ酸化促進等の作用を少なくとも一つ誘導する方法である。また、本発明のPPAR活性化方法は、例えば、脂肪細胞のアポトーシス、分化および小型化等の少なくとも一つを誘導する方法である。
【0020】
本発明のPPAR活性化方法において、使用するβ−クリプトキサンチンは、前記本発明のPPAR活性化剤に使用するものと同様であり、例えば、柑橘類、柿、パパイヤ、ビワおよび赤ピーマン等由来のものである。中でも、柑橘類が好ましく、より好ましくはマンダリン系柑橘類由来のものであり、特に好ましくは温州みかん由来のものである。また、原料として使用できるのは、例えば、果実全体であり、特に果肉を使用することが好ましい。
【0021】
つぎに、本発明の疾病の予防、治療または改善方法は、哺乳動物におけるインスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、治療または改善方法であって、β−クリプトキサンチンを投与することを含む方法である。前記哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等があげられる。
【0022】
つぎに、本発明のキットは、インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防または治療のためのキットであって、
a)β−クリプトキサンチン、
b)インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防または治療に有用な第二の化合物を含む第二医薬組成物、および
c)前記β−クリプトキサンチンおよび前記第二医薬組成物を入れるための容器を含むキットである。
【0023】
つぎに、本発明の使用は、PPAR活性化剤の製造のためのβ−クリプトキサンチンの使用である。
【0024】
また、本発明の使用は、哺乳動物における本発明のインスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、治療または改善のためにβ−クリプトキサンチンを投与することを含む使用である。前記哺乳動物は、前述の通りである。
【0025】
本発明の使用において、使用するβ−クリプトキサンチンは、前記本発明のPPAR活性化剤に使用するものと同様であり、例えば、柑橘類、柿、パパイヤ、ビワおよび赤ピーマン等由来のものである。中でも、柑橘類が好ましく、より好ましくはマンダリン系柑橘類由来のものであり、特に好ましくは温州みかん由来のものである。また、原料として使用できるのは、例えば、果実全体であり、特に果肉を使用することが好ましい。
【0026】
本発明の使用において、β−クリプトキサンチンは、例えば、脂肪細胞におけるTNF−αおよび遊離脂肪酸の分泌抑制、脂肪細胞におけるアディポネクチンの分泌促進、肝臓細胞における脂肪のβ酸化促進等の作用を少なくとも一つを誘導する。また、本発明の使用において、β−クリプトキサンチンは、例えば、脂肪細胞のアポトーシス、分化および小型化等の少なくとも一つを誘導する。
【0027】
つぎに、本発明におけるβ−クリプトキサンチンは、前述のように柑橘類を原料として製造することが好ましい。この製造方法の一例(特許第3359298号)を、以下に示す。
【0028】
柑橘類からのβ−クリプトキサンチンの製造は、下記の(1)〜(4)の工程を含む方法により実施できる。
(1)柑橘類の果実を搾汁して、ろ過若しくは篩別する。
(2)軽遠心分離して得た上澄みを重遠心分離して沈殿物を得る。
(3)前記沈殿物を可溶化する酵素を添加して凍結する。
(4)解凍して固液分離した後の沈殿物を脱水して固形物を得る。
【0029】
前記製造方法で使用する柑橘類としては、例えば、温州みかん、伊予柑、夏みかん、八朔、ボンカン、ネーブルオレンジ、レモン、バレンシアオレンジ、グレープフルーツなどがあるが、β−クリプトキサンチンの含有量が多いマンダリン系柑橘類が好ましく、より好ましくは温州みかんである。また、原料として使用できるのは、柑橘類の果実全体であるが、特に果肉を使用することが好ましい。
【0030】
前記柑橘類は、通常、選別、洗浄した後、搾汁される。搾汁機は、例えば、インライン搾汁機、チョッパーパルパー搾汁機、ブラウン搾汁機がある。得られた搾汁には、通常、じょうのう皮の小片や粗大なパルプが混入しているため、これらを除去するために、ろ過または篩別する。このろ過または篩別には、例えば、パドル型、スクリュー型のフィニッシャーが使用でき、そのスクリーン目の大きさは、例えば、0.3〜0.5mmである。
【0031】
つぎに、上記搾汁液を遠心分離で処理する。この遠心分離処理は、以下の条件の軽遠心分離と重遠心分離とから構成される。前記軽遠心分離とは、パルプの大きな粒子を分離できるレベルの遠心分離をいう。前記重遠心分離とは、パルプの小さな粒子を遠心分離できるレベルの遠心分離をいう。前記軽遠心分離の遠心強度は、例えば、3000×g・分以下であり、前記重遠心分離の遠心強度は、例えば、1500×g・分以上であり、軽遠心分離操作の遠心強度を重遠心分離の遠心強度よりも低く設定する。そして、前記搾汁を軽遠心分離し、その上澄みを、さらに重遠心分離して沈殿物を回収する。
【0032】
つぎに、前記重遠心分離の沈殿物に対し、可溶化酵素を添加する。前記可溶化酵素としては、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、マセレーションエンザイム、プロトペクチナーゼ等を使用することができる。これらの酵素は、単独で使用してもよいし、2種類以上で併用してもよい。前記可溶化酵素の添加割合は、前記沈殿物1kgに対し、0.5〜10gの範囲である。
【0033】
つぎに、前記可溶化酵素を添加した沈殿物を容器に充填して、加温化することなく凍結する。ついで、凍結させた沈殿物を解凍する。解凍は、室温に放置して行ってもよい。解凍した沈殿物は、固液分離し、遠心分離により脱水して固形分(沈殿部)を得る。この固形分は、β−クリプトキサンチンを高濃度で含有する。なお、精製水を前記固形分に加えて遠心分離するという操作を繰り返すことにより、前記固形分のβ−クリプトキサンチン濃度を更に向上させることが可能である。
【実施例1】
【0034】
本実施例は、β−クリプトキサンチンによるPPARγの活性化を確認した例である。
【0035】
まず、CV-1細胞(雄性アフリカミドリザル腎臓由来の培養細胞)を、24穴培養プレートに0.2μg/wellとなるように植え込み、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。培地には、10%FBS(ウシ胎仔血清)、10mg/mLペニシリン・ストレプトマイシン溶液を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium:GIBCO社)を用いた。つぎに、リポフェクトアミンシステム(Invitrogen社)を用いて、pM−hPPARγとp4×UASg−tk−lucとを、培養したCV−1細胞にトランスフェクションした。なお、前記pM−hPPARγは、GAL4結合ドメインである1〜147残基とヒトPPARγリガンド結合ドメインである204〜505残基とを含む融合タンパク質を発現するためのベクターであり、前記p4×UASg−tk−lucは、ルシフェラーゼ遺伝子上流に、4コピーのGAL4結合ドメインのための上流活性化配列(UAS)とチミジンキナーゼ遺伝子プロモータとを含むレポーター・プラスミドである。前記トランスフェクションを行った細胞を約24時間培養し、ついで、前記細胞の培地を、種々濃度(0.1、1.0、10および70μM)のβ−クリプトキサンチンを含む培地または無処置対照用の培地に変え、さらに24時間培養した。前記β−クリプトキサンチンを含む培地は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したβ−クリプトキサンチンを培地に加えることにより調製し、無処置対照用の培地は、DMSOのみを培地加えることにより調製した。培養後、前記細胞を溶解し、デュアル・ルシフェラーゼレポータージーンアッセイシステム(Promega社)を用いて、ルシフェラーゼ活性を測定した(測定群)。
【0036】
前記測定群と同様に、コントロール群としてpM−hPPARγの代わりにpM(pM−hPPARγにおいてGAL4結合ドメインである1〜147残基を含むが、PPARγリガンド結合ドメインである204〜505残基を含まないベクター)を用いて測定した。各サンプルについて、測定群及びコントロール群の発光強度の平均値(n=4)の比(測定群/コントロール群)を算出し、無処置対照に対する相対ルシフェラーゼ活性をサンプルのPPARγリガンド結合活性とした。この結果を下記表1および図1のグラフに示す。
【0037】
【表1】

【0038】
前記表1および図1から分かるように、β−クリプトキサンチンによって、PPARγの活性が向上し、その活性は、β−クリプトキサンチンの濃度が高くなるにつれて、高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明のPPAR活性化剤は、優れたPPAR活性を有し、副作用の問題がなく長期間摂取することが可能であり、食品等に好ましく用いることができる。したがって、本発明のPPAR活性化剤は、例えば、インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満などの疾病の予防若しくは改善のための医薬、サプリメント、機能性食品および食品添加物として使用できる。なお、これらは、人に限られず、その他動物にも有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の活性化剤であって、β−クリプトキサンチンを含むPPAR活性化剤。
【請求項2】
脂肪細胞のアポトーシス、分化および小型化からなる群から選択される少なくとも一つを誘導する請求項1記載のPPAR活性化剤。
【請求項3】
前記β−クリプトキサンチンが、マンダリン系柑橘類の果実由来のものである請求項1記載のPPAR活性化剤。
【請求項4】
前記マンダリン系柑橘類が、温州みかんである請求項3記載のPPAR活性化剤。
【請求項5】
インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防若しくは治療のための医薬であって、請求項1記載のPPAR活性化剤を含む医薬。
【請求項6】
インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防若しくは改善のためのサプリメントであって、請求項1記載のPPAR活性化剤を含むサプリメント。
【請求項7】
インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防若しくは改善のための機能性食品であって、請求項1記載のPPAR活性化剤を含む機能性食品。
【請求項8】
インスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防若しくは改善のための食品添加物であって、請求項1記載のPPAR活性化剤を含む食品添加物。
【請求項9】
PPAR活性化方法であって、脂肪細胞および肝臓細胞の少なくとも一方に、β−クリプトキサンチンを接触させることを含む方法。
【請求項10】
脂肪細胞のアポトーシス、分化および小型化からなる群から選択される少なくとも一つを誘導する請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記β−クリプトキサンチンが、マンダリン系柑橘類の果実由来のものである請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記マンダリン系柑橘類が、温州みかんである請求項11記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物におけるインスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、治療または改善方法であって、β−クリプトキサンチンを投与することを含む方法。
【請求項14】
PPAR活性化剤の製造のためのβ−クリプトキサンチンの使用。
【請求項15】
前記β−クリプトキサンチンが、マンダリン系柑橘類の果実由来のものである請求項14記載の使用。
【請求項16】
前記マンダリン系柑橘類が、温州みかんである請求項15記載の使用。
【請求項17】
哺乳動物におけるインスリン抵抗性、高インスリン血症、2型糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化および肥満からなる群から選択される少なくとも一つの疾病の予防、治療または改善のためにβ−クリプトキサンチンを投与することを含む使用。
【請求項18】
脂肪細胞のアポトーシス、分化および小型化からなる群から選択される少なくとも一つを誘導する請求項17記載の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2012−214488(P2012−214488A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140693(P2012−140693)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【分割の表示】特願2006−513743(P2006−513743)の分割
【原出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】