説明

ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体δリガンドの製造方法及びこれを製造するための中間体

本発明は、ヒトのペルオキシソーム増殖因子活性化受容体δ(hPPARδ)に活性を有する、一般式(I)で表されるチアゾール誘導体を高収率で製造する新規な方法、及びこの方法を行うための中間体である一般式(II)、(IV)、(X)、(XI)及び(XII)と、これらの合成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトのペルオキシソーム増殖因子活性化受容体δ(hPPARδ)を活性化する、一般式(I)で表されるチアゾール誘導体の製造方法、及びこれを製造するための一般式(II)、(IV)、(X)、(XI)及び(XII)で表される中間体化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
上記化合物のうち、特に一般式(I)で表されるチアゾール誘導体中の[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,3−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸(以下、‘GW501516’という)は、マウスを対象とした動物実験で、肥満治療に卓越な効能を示し(Cell 2003, 113, 159)、霊長類を対象とした動物実験では、高密度脂肪蛋白質(HDL)を高めて、低密度脂肪蛋白質(LDL)を効果的に低下させ、心血管疾患における効果が立証された(Proc. Natl. Acad. USA 2001, 98, 5306)。また、特許公報と論文にて、上記物質及びその製造方法を開示している(PCT公開公報WO 01/00603 A1, Bioorg. Med. Chem. Lett 2003, 13, 1517, J.Chem. Org. 2003. 68. 9116)。その方法は、下記反応式(1)に示されたように、(4−ヒドロキシ−3−メチル)アセトフェノン(1)を出発物質として、6段階の反応を経て、メチル(4−メルカプト−2−メチルフェノキシ)アセテート(7)を合成し、これを、4−(トリフルオロメチル)チオベンズアミド(8)から3段階の反応を経て合成した5−クロロメチル−4−メチル−2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)チアゾール(11)と過量の炭酸セシウム下で反応し、GW501516のメチルエステル中間体(12)を合成して、次いで、1N−水酸化リチウムを利用したエステル脱保護反応により、GW501516(13)を合成することを開示している。
【0003】
【化1】

反応式(1)
【0004】
特許上の他の合成方法としては、o−クレゾール(14)からフェノールに酢酸エチルエステル基を導入した化学式(15)の化合物を合成し、これと塩化スルホニルとを反応して、化学式(16)の化合物を製造した。これを、錫粉(Sn)と酸の条件下で還元反応させることにより、エチル(4−メルカプト−2−メチルフェノキシ)アセテート(17)を合成した後、これを、反応式(1)と同様に、4−(トリフルオロメチル)チオベンズアミド(8)から3段階の反応を経て合成した5−クロロメチル−4−メチル−2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)チアゾール(11)と過量の炭酸セシウム下で反応し、GW501516のエチルエステル中間体(18)を合成して、次いで、1N−水酸化リチウムを利用したエステル脱保護反応により、GW501516(13)を合成することを開示している。
【0005】
【化2】

反応式(2)
【0006】
また他の論文上の製造方法としては、o−クレゾールとチオシアン酸ナトリウムとを臭素下で反応し、化合物(19)を得て、これを水素化アルミニウムリチウムで還元し、4−メルカプト−2−メチルフェノール20を得る。化合物20から、炭酸セシウム下で順次的に、5−クロロメチル−4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)−フェニル]チアゾール(11)と、メチルブロモアセテートを反応させて、GW501516のエチルエステル中間体(12)を合成し、次いで、2M−水酸化リチウムを利用したエステル脱保護反応により、GW501516(13)を合成した。
【0007】
【化3】

反応式(3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記化合物(13)は、その有効性に優れているにもかかわらず、その製造方法が満足のいくものではなく、製造コストを節減できない欠点を内包している。即ち、1)反応式(1)の製造工程は、12段階からなっており、総製造収率が2%程度で非常に低く、工業化及び経済的な製造方法として適していない。2)反応式(1)の製造工程は、反応条件上で16時間加温還流を行わなければならない段階が3回も含まれており、製造時間が非常に長い。3)反応式(2)の製造工程中に使用される錫(Sn)粉末は、水分に不安定で、可燃性の金属であるため、これを工業化する場合、非常に危険である。 4)反応式(2)は、工程上、過量の錫が使用されるため、環境を汚染させる、好ましくない製造方法である。5)反応式(3)は、工程上、溶媒として臭素を使用するため、 環境を汚染させる、好ましくない製造方法である。6)反応式(1)、(2)、(3)の製造工程において、化学式(11)の化合物と、化学式(7)、(17)または(20)の化合物とを反応させるための別途の工程が必要であり、これに無機塩としては一般的ではない炭酸セシウムを過量使用して、反応時間も比較的長い。7)反応式(1)、(2)の製造工程において、メチルまたはエチルエステルの加水分解過程で1N水酸化リチウムを使用するが、反応時間が16時間とあまりにも長く、また収率も60%と低い。8)反応式(1)、(2)において、中間体として得られるメチルまたはエチル(4−メルカプト−2−メチルフェノキシ)−アセテート(7、17)と、4−メルカプト−2−メチルフェノール(20)は、不安定な化合物であって、ジスルフィド化合物を形成しやすく、全体的な反応収率を低める。
【0009】
そこで、前記化合物を容易且つ安価で、安全に製造する方法の開発が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の事情に鑑みて、鋭意研究した結果、一般式(II)の化合物を一般式(III)の酢酸ハロゲンアルキルと反応し、下記一般式(IV)の化合物を合成した後、これをエステル加水分解させることにより、一般式(I)の化合物を高収率、高純度で得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
【化4】


(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはCFを示し、Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオオキシ基または炭素数1〜4のジアルキルアミノ基を意味し、Rは、カルボン酸の保護基であって、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基を示し、Xは、ハロゲン原子を示して、mは、0〜4の整数を、nは、0〜5の整数を示す。)
【0012】
即ち、本発明の目的は、生成された不安定な中間体を、分離精製する過程を経ずに、反応上で直ちに利用することにより、短い反応時間に高収率で前記一般式(I)で表される化合物を製造する方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、下記一般式(V)とアルキル2−クロロアセト酢酸とを反応し、前記一般式(II)を製造するための下記一般式(VI)の化合物を製造する方法を提供することにある。
【0014】
さらに、本発明の目的は、下記一般式(VI)の化合物から、エステル部分の還元反応により前記一般式(II)を製造するための下記一般式(VII)の化合物を製造する方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明の目的は、下記一般式(VII)の化合物から、アルコールに反応性のよい離脱基を導入し、前記一般式(II)を製造するための下記一般式(VIII)の化合物を製造する方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明の目的は、下記一般式(IX)と、グリニャール試薬を使用してフェノール基を保護した一般式(X)の化合物を製造する方法を提供することにある。
【0017】
また、本発明の目的は、下記一般式(X)の化合物から、有機金属試薬と硫黄(S8)を反応し、下記一般式(XI)、(XII)を順に合成し、分離精製することなく、下記一般式(VIII)の化合物を別途の無機または有機塩基を使用せずに反応させ、本発明の出発物質の一般式(II)化合物を製造する方法を提供することにある。
【0018】
また、本発明の目的は、上記化合物(II)、(IV)、(X)、(XI)及び(XII)は、新規化合物であって、本発明の目的化合物の製造中間体として有用な新規化合物も提供することにある。
【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

(式中、R、R、R、n及びmは、上述と同様である。)
【0021】
は、離脱基を意味する。離脱基としては、通常使用されるものが好ましく、具体的には、ハロゲン原子、メタンスルホニルオキシ基(MsO-)、p−トルエンスルホニルオキシ基(TsO-)などが挙げられる。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子などが挙げられる。好ましくは、ハロゲン原子が好ましく、さらに好ましくは、塩素原子、臭素原子、ヨード原子である。
【0022】
は、ハロゲン原子を意味する。ハロゲン原子としては、フッ素原子F、塩素原子Cl、臭素原子Br、及びヨウ素原子Iなどが挙げられて、この中でも、特に臭素原子とヨウ素原子が好ましい。
【0023】
は、グリニャール試薬(Grignard reagent)を形成するハロゲン原子であって、塩素原子または臭素原子を意味する。
【0024】
本発明の方法において、出発物質(II)を製造するための原料として使用される一般式(V)及び(IX)の化合物は、公知の化合物として文献記載により容易に製造するか、市販のものを入手して使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の製造方法について、詳細に説明する。
【0026】
[工程A] 一般式(VI)で表される化合物の合成
一般式(VI)で表される化合物は、一般式(V)の化合物と、2−クロロアセト酢酸エチルまたはメチルとを反応して得られる。
【0027】
使用される溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられる。この中で、好ましくは、エタノールとテトラヒドロフランである。
【0028】
反応時間及び温度は、使用される溶媒によって異なるが、通常25〜150℃で6時間〜1日であり、好ましくは、60〜120℃で16時間以内で反応することが好ましい。
【0029】
[工程B] 一般式(VII)で表される化合物の合成
一般式(VII)で表される化合物は、無水溶媒中、一般式(VI)の化合物のエステル部分を還元することにより得られる。
【0030】
エステルの還元反応に使用される還元剤としては、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウムなどの水素化アルミニウム還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウムなどの水素化ホウ素還元剤などがある。この中でも、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウムが好ましい。
【0031】
この工程で使用する無水溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンなどが挙げられて、さらに好ましくは、ジクロロメタンである。
【0032】
反応時間及び温度は、使用される溶媒によって異なるが、通常は、−100〜60℃で、30分〜6時間であり、好ましくは、−78〜25℃で、2時間以内で反応することが好ましい。
【0033】
[工程C] 一般式(VIII)で表される化合物の合成
一般式(VIII)で表される化合物は、溶媒中、一般式(VII)の化合物から、アルコール基のハロゲン化反応またはメタンスルホニルクロライド、p−トルエンスルホニルクロライドとの反応で得られる。
【0034】
この反応に使用される溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ピリジンなどの溶媒を使用する。この中でも、最も好ましい溶媒は、ハロゲン化反応には、ジクロロメタンで、メタンスルホニルオキシ化、p−トルエンスルホニルオキシ化反応には、ピリジンである。
【0035】
アルコール部分のハロゲン化反応は、ハロゲンの種類によって、塩素原子導入反応は、トリフェニルホスフィン(TPP)とN−クロロコハク酸イミド(NCS)、トリフェニルホスフィンと塩素ガス、トリフェニルホスフィンと四塩化炭素(CCl4)、五塩化リン(PCl5)、チオニルクロライド(SOCl2)、メタンスルホニルクロライド(MeSO2Cl)などを使用して、臭素原子は、トリフェニルホスフィンとN−ブロモコハク酸イミド(NBS)、トリフェニルホスフィンと臭素ガス、トリフェニルホスフィンと四臭化炭素(CBr4)、五臭化リン(PBr5)、チオニルブロマイド(SOBr2)などを使用して合成し、ヨウ素原子は、トリフェニルホスフィンとN−ヨードコハク酸イミド(NIS)、トリフェニルホスフィンと固体ヨード、トリフェニルホスフィンと四ヨウ化炭素(CI4)などを使用して合成するか、一般式(VIII)の塩素または臭素化合物から、ヨウ化ナトリウム(NaI)をアセトンで反応し、ハロゲン−ヨード置換法を使用して合成する。メタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基の導入は、ピリジン溶媒下で、メタンスルホニルクロライドまたはp−トルエンスルホニルクロライドと反応して合成する。この中で、最も好ましい離脱基は、塩素原子と臭素原子であり、これに対する合成法のうち、最も好ましい方法は、トリフェニルホスフィンとN−クロロコハク酸イミド、N−ブロモコハク酸イミドを使用した合成方法である。
【0036】
この工程において、反応時間及び温度は、使用される溶媒によって異なるが、通常は、−10〜40℃で、30分〜1日であり、好ましくは、10〜25℃で、2時間以内で反応することが好ましい。
【0037】
[工程D] 一般式(VIII)と一般式(XII)から、一般式(II)で表される化合物の合成
一般式(II)で表される化合物は、一般式(IX)で表される化合物を、グリニャール試薬でフェノール基を保護し、単離過程無しに、有機金属試薬と硫黄を順次反応させた後、一般式(VIII)の化合物と反応して得る。本工程は、細部的に4段階の反応を一度に行う。
【0038】
[工程D−1] 一般式(IX)から一般式(X)の合成
この工程で使用される無水溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ヘプタンなどであり、これら溶媒は、単一溶媒として、あるいは2つ以上の溶媒を配合した混合溶媒として使用してもよい。この中で、好ましい溶媒は、ジエチルエーテルとテトラヒドロフランとの混合溶媒である。
【0039】
使用されるグリニャール試薬は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル及びイソブチルのマグネシウムクロライド(R2MgCl)またはマグネシウムブロマイド(R2MgBr)である。この中でも、最も好ましくは、イソプロピルマグネシウムクロライドやブロマイドである。
【0040】
反応時間及び温度は、使用される溶媒によって異なるが、通常20〜40℃、10〜60分であり、好ましくは、0℃〜25℃で、10〜30分間反応を行う。
【0041】
[工程D−2] 一般式(X)から一般式(XI)の合成 及び [工程D−3] 一般式(XI)から一般式(XII)の合成
このハロゲン−金属置換反応で使用される有機金属試薬としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどが挙げられる。この中でも、tert−ブチルリチウムが最も好ましい。
【0042】
硫黄は、粒子の細かい粉末状のものが適しており、これを溶媒に溶かすか混合して、徐々に加えることが好ましい。
【0043】
反応時間及び温度は、使用される溶媒によって異なるが、通常は、−78〜25℃であり、好ましくは、ハロゲン−金属置換反応は、−75℃で、10〜30分間行って、硫黄導入反応は、−75℃から出発し、30〜90分間で0℃まで上昇させで終了する。
【0044】
[工程D−4] 一般式(VIII)及び一般式(XII)から、一般式(II)の合成
この工程で使用される一般式(VIII)の5−ハロゲンメチル−4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]チアゾールのハロゲン原子は、塩素、臭素、ヨウ素原子であり、この中でも塩素原子が好ましい。
【0045】
反応時間及び温度は、使用される溶媒によって異なるが、通常は、−78〜25℃で10〜120分であり、好ましくは、0〜10℃で、10〜60分である。
【0046】
[工程E] 一般式(IV)で表される化合物の合成
一般式(IV)で表される化合物を得るためには、一般式(II)で表される化合物と一般式(III)の酢酸ハロゲンアルキルとを、溶媒中、塩基の存在下で反応することが好ましい。
【0047】
酢酸ハロゲンアルキル類は、公知の化合物であって、容易に入手可能なものであり、アルキルは、メチル、エチル、tert−ブチルなどであって、ハロゲンは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などである。使用された酢酸ハロゲンアルキル類の中で、最も好ましいものは、酢酸クロロ(又はブロモ)メチル(又はエチル)である。
【0048】
この工程で使用される溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、アセトンなどの水溶性単一溶媒を使用するか、1〜10%の水を混合した溶媒を使用する。この中でも、溶媒として最も好ましくは、5%水を混合したアセトンとジメチルスルホキシドである。
【0049】
使用される塩基としては、反応に悪影響を与えないものであれば、弱塩基でも強塩基でもよく、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物などの強塩基、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素化カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。使用される塩基としては、アルカリ金属水素化物またはアルカリ金属炭酸塩が好ましく、更に好ましくは、炭酸カリウムである。
【0050】
反応温度は、使用する溶媒の沸点までなら特に制限はなく、副反応を抑えるために、比較的高温の反応は好ましくない。通常は、0〜60℃で反応を行う。反応時間は、反応温度によって異なるが、通常30分〜1日、好ましくは、30〜90分程度である。
【0051】
[工程F] 一般式(I)で表される化合物の合成
一般式(IV)の化合物から、水溶性無機塩基とアルコール溶媒で、カルボン酸エステルの加水分解を通じて、一般式(I)で表される化合物を合成する方法である。
【0052】
この工程で使用される溶媒は、メタノール、エタノール及び水溶性有機溶媒を利用する。
【0053】
使用される塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を、0.1〜6N程度の水溶液を作って使用する。その中でも、使用される塩基性溶媒として最も好ましいのは、1〜3N水酸化ナトリウム溶液である。
【0054】
反応時間及び温度は、使用する溶媒によって異なるが、通常は、−10〜80℃で10分〜3時間であり、好ましくは、0〜25℃で、30分〜1時間以内で反応することが好ましい。
【0055】
こうして得られた一般式(I)の化合物は、ヒトのPPARδ型核受容体蛋白質に活性を持つリガンドとして重要な物質である。
【0056】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
実施例1:4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]チアゾール−5−カルボン酸メチルの合成[工程A]
4−(トリフルオロメチル)チオベンズアミド20.5g(0.1mol)をテトラヒドロフラン300mlに室温で溶かした後、2−クロロアセト酢酸メチル12.2ml(0.1mol、1.0当量)を20分間徐々に加える。その後、室温で30分間さらに攪拌し、反応物の温度を75〜80℃で12時間加温還流させる。反応終了後、室温に下げた後、50%水酸化ナトリウム水溶液を150ml加えて、20分間攪拌する。エチルアセテートと食塩水水溶液を利用して、有機層で生成物を抽出して、硫酸マグネシウムで水分を除去する。ろ過後、溶液を減圧蒸留し、標題化合物28.8g(収率:95.6%)を得た。

【実施例2】
【0058】
実施例2:[4−メチル−2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)チアゾール−5−イル]メタノールの合成[工程B]
窒素条件下で、実施例1から得た4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]チアゾール−5−カルボン酸メチル20.0g(66.4mmol)を無水ジクロロメタン500mlに完全に溶かした後、反応物を78℃に十分冷却させる。水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)166ml(1.0Mヘキサン溶液、2.5当量)を30分かけて徐々に加える。この温度で30分間反応した後、10℃に上げて、さらに30分間反応を行う。反応終了後、過量の水素化ジイソブチルアルミニウムをエチルアセテートで除去し、10%硫酸とエチルアセテートで抽出して、硫酸マグネシウムで水分を除去する。ろ過後、溶媒を減圧蒸留して、標題化合物17.5g(収率:96.4%)を得た。

【実施例3】
【0059】
実施例3:5−ブロモメチル−4−メチル−2−[(4−トリフルオロメチル)フェニル]チアゾールの合成[工程C]
実施例2から得た[4−メチル−2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)チアゾール−5−イル]メタノール15.0g(55.0mmol)を無水ジクロロメタン300mlに溶かした後、トリフェニルホスフィン(TPP)15.7g(60.0mmol、1.1当量)を加えて完全に溶かす。室温で四臭化炭素20.0g(60.0mmol、1.1当量)を徐々に加える。さらに1時間攪拌した後、溶媒を減圧蒸留して除去し、ヘキサン/エチルアセテート(v/v=5/1)溶媒でトリフェニルホスフィンオキシドを沈澱させて、ろ過後減圧蒸留し、標題化合物17.2g(収率:93%)を得た。

【実施例4】
【0060】
実施例4:5−ブロモメチル−4−メチル−2−[(4−トリフルオロメチル)フェニル]チアゾールの合成[工程C]
実施例2から得た[4−メチル−2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)チアゾール−5−イル]メタノール10.0g(36.6mmol)を無水ジクロロメタン300mlに溶かした後、トリフェニルホスフィン(TPP)10.6g(40.3mmol、1.1当量)を加えて完全に溶かす。室温でN−ブロモコハク酸イミド7.17g(40.3mmol、1.1当量)を徐々に加える。さらに1時間攪拌し、溶媒を減圧蒸留して除去し、ヘキサン/エチルアセテート(v/v=5/1)溶媒でトリフェニルホスフィンオキシドを沈澱させて、ろ過後減圧蒸留し、標題化合物11.1g(収率:90.5%)を得た。
【実施例5】
【0061】
実施例5:5−クロロメチル−4−メチル−2−[(4−トリフルオロメチル)フェニル]チアゾールの合成[工程C]
実施例2から得た[4−メチル−2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)チアゾール−5−イル]メタノール5.0g(18.3mmol)を四臭化炭素300mlに溶かした後、トリフェニルホスフィン(TPP)6.3g(23.8mmol、1.3当量)を加えた後、加温還流を10時間行う。反応終了後、温度を室温に下げて、ヘキサン/エチルアセテート(v/v=5/1)溶媒でトリフェニルホスフィンオキシドを沈澱させる。ろ過後減圧蒸留して、標題化合物8.4g(収率:78.4%)を得た。

【実施例6】
【0062】
実施例6:5−クロロメチル−4−メチル−2−[(4−トリフルオロメチル)フェニル]チアゾールの合成[工程C]
実施例2から得た[4−メチル−2−(4−トリフルオロメチル−フェニル)チアゾール−5−イル]メタノール10.0g(36.6mmol)を無水ジクロロメタン250mlに溶かした後、トリフェニルホスフィン(TPP)11.5g(44.0mmol、1.2当量)を加えて完全に溶かす。室温でN−クロロコハク酸イミド5.86g(44.0mmol、1.2当量)を徐々に加える。さらに2時間攪拌し、溶媒を減圧蒸留して除去し、ヘキサン/エチルアセテート(v/v=5/1)溶媒でトリフェニルホスフィンオキシドを沈澱させて、ろ過後減圧蒸留し、標題化合物10.5g(収率:98.5%)を得た。
【実施例7】
【0063】
実施例7:2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[(4−(トリフルオロメチル)フェニル]−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノールの合成[工程D]
窒素条件下で4−ヨード−2−メチルフェノール11.7g(50.0mmol)を無水テトラヒドロフラン400mlに溶かして、温度を0℃に維持する。イソプロピルマグネシウムクロライド27.5ml(2M-エーテル溶液、1.1当量)を徐々に加え、10分間反応させる。反応溶液を−78℃に十分冷却した後、tert−ブチルリチウム64.7ml(1.7M−ヘプタン溶液、2.2当量)を徐々に滴加し、さらに20分間反応する。硫黄1.60g(50mmol、1.0当量)を無水THF50mlに溶かした溶液を徐々に加えて、この反応物の温度が0℃になるまで反応を行う。60分後、反応物の温度を0℃に合わせて、一般式(VIII)の5−クロロメチル−4−メチル−2−[(4−トリフルオロメチル)フェニル]−チアゾール13.1g(45.0mmol、0.9当量)を無水THF40mlに溶かして、徐々に加える。さらに30分間反応し、塩化アンモニウム水溶液500mlを加えて、反応を終結する。有機層を層分離して、硫酸マグネシウムで水分を除去し、ろ過後、溶媒を減圧蒸留して除去する。残渣をヘキサン/エチルアセテート(v/v=3/1)でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題化合物16.2g(収率:91%)を得た。

【実施例8】
【0064】
実施例8:2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[(4−(トリフルオロメチル)フェニル]−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノールの合成[工程D]
窒素条件下で4−ブロモ−2−メチルフェノール4.7g(25.0mmol)を無水テトラヒドロフラン150mlに溶かして、温度を0℃に維持する。イソプロピルマグネシウムクロライド14.0ml(2M-エーテル溶液、1.1当量)を徐々に加え、10分間反応させる。反応溶液を−78℃に十分冷却した後、tert−ブチルリチウム32.0ml(1.7M−ヘプタン溶液、2.2当量)を徐々に滴加し、さらに20分間反応する。硫黄800mg(25.0mmol、1.0当量)を無水THF30mlに溶かした溶液を徐々に加えて、この反応物の温度が0℃になるまで反応を行う。40分後、反応物の温度を0℃に合わせて、一般式(VIII)の5−クロロメチル−4−メチル−2−[(4−トリフルオロメチル)フェニル]−チアゾール6.55mg(23.0mmol、0.9当量)を無水THF25mlに溶かして、徐々に加える。さらに30分間反応し、塩化アンモニウム水溶液200mlを加えて、反応を終結する。有機層を層分離して、硫酸マグネシウムで水分を除去し、ろ過後、溶媒を減圧蒸留して除去する。残渣をヘキサン/エチルアセテート(v/v=3/1)でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題化合物6.05g(収率:68%)を得た。
【実施例9】
【0065】
実施例9:2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[(4−(トリフルオロメチル)フェニル]−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノールの合成[工程D]
窒素条件下で4−ヨード−2−メチルフェノール3.90g(16.7mmol)を無水テトラヒドロフラン120mlに溶かして、温度を0℃に維持する。イソプロピルマグネシウムクロライド9.17ml(2M-エーテル溶液、1.1当量)を徐々に加え、10分間反応させる。反応溶液を−78℃に十分冷却した後、tert−ブチルリチウム21.6ml(1.7M−ヘプタン溶液、2.2当量)を徐々に滴加し、さらに20分間反応する。硫黄534mg(17.0mmol、1.0当量)を無水THF15mlに溶かした溶液を徐々に加えて、この反応物の温度が0℃になるまで反応を行う。60分後、反応物の温度を0℃に合わせて、一般式(VIII)の5−ブロモメチル−4−メチル−2−[(4−トリフルオロメチル)フェニル]−チアゾール5.14g(15.0mmol、0.9当量)を無水THF12mlに溶かして、徐々に加える。さらに30分間反応し、塩化アンモニウム水溶液150mlを加えて、反応を終結する。有機層を層分離して、硫酸マグネシウムで水分を除去し、ろ過後、溶媒を減圧蒸留して除去する。残渣をヘキサン/エチルアセテート(v/v=3/1)でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題化合物5.85g(収率:87%)を得た。
【実施例10】
【0066】
実施例10:[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)−フェニル)−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]アセト酸エチルエステルの合成[工程E]
実施例7から得た一般式(II)の2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノール10.0g(25.0mmol)と、5%水を含むアセトン300ml、炭酸カリウム8.0g(58.0mmol、2.3当量)を室温でよく混ぜる。ブロモ酢酸エチルエステル4.20ml(38.0mmol、1.5当量)を加え、4時間強烈に攪拌する。反応終結後、塩水溶液とエチルアセテートを使用し抽出して、硫酸マグネシウムで水分を除去する。ろ過後、溶媒を減圧蒸留して、残渣をヘキサン/エチルアセテート(v/v=5/1)溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題化合物11.8g(収率:98.5%)を得た。

【実施例11】
【0067】
実施例11:[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)−フェニル)−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸エチルエステルの合成[工程E]
実施例7から得た一般式(II)の2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[(4−(トリフルオロメチル)フェニル]−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノール6.0g(15.0mmol)と、5%水を含むジメチルスルホキシド100ml、炭酸カリウム4.80g(34.8mmol、2.3当量)を室温でよく混ぜる。ブロモ酢酸エチルエステル2.52ml(22.8mmol、1.5当量)を加え、50℃で1時間強烈に攪拌する。反応終結後、塩水溶液とエチルアセテートを使用し抽出して、硫酸マグネシウムで水分を除去する。ろ過後、溶媒を減圧蒸留して、残渣をヘキサン/エチルアセテート(v/v=5/1)溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標題化合物7.02g(収率:98%)を得た。
【実施例12】
【0068】
実施例12:[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,3−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸の合成[工程F]
実施例10から得た[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)−フェニル]−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸エチルエステル5.0g(10.5mmol)をエタノール200mlによく溶かした後、3N−水酸化ナトリウム水溶液35.0mlを加える。室温で30分間攪拌した後、反応が終結すると、2N−HClでpHを2.0に合わせる。エタノールを減圧蒸留して除去し、塩水溶液とエチルアセテートを利用して抽出した後、ろ過し、溶媒を減圧蒸留して、LH−20カラムクロマトグラフィで精製し、標題化合物4.71g(収率:98.8%)を得た。


[発明の効果]
【0069】
上述のように、本発明の方法によると、前記一般式(I)のチアゾール誘導体を、簡単で、且つ高い収率で製造することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(II)の化合物を、下記一般式(III)の酢酸ハロゲンアルキルと反応し、下記一般式(IV)の化合物を合成した後、これをエステル加水分解させることを特徴とする一般式(I)のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体δリガンドの製造方法。
【化1】


(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはCFを示し、Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオオキシ基または炭素数1〜4のジアルキルアミノ基を意味し、Rは、保護基であって、炭素数1〜4のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基を示し、Xは、ハロゲン原子を示して、mは、0〜4の整数を、nは、0〜5の整数を示す。)

【請求項2】
請求項1に記載の一般式(I)中の[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,3−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸を製造するための下記一般式(X)のフェノール誘導体。
【化2】


(式中、Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオオキシ基または炭素数1〜4のジアルキルアミノ基を意味し、Xは、ハロゲン原子を意味して、Xは、グリニャール試薬を形成するハロゲン原子を意味する。)

【請求項3】
請求項1に記載の一般式(I)中の[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,3−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸を製造するための下記一般式(XI)のフェノール誘導体。
【化3】


(式中、Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオオキシ基または炭素数1〜4のジアルキルアミノ基を意味し、Xは、グリニャール試薬を形成するハロゲン原子を意味する。)

【請求項4】
請求項1に記載の一般式(I)中の[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,3−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸を製造するための下記一般式(XII)のフェノール誘導体。
【化4】


(式中、Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオオキシ基または炭素数1〜4のジアルキルアミノ基を意味し、Xは、グリニャール試薬を形成するハロゲン原子を意味する。)

【請求項5】
請求項1に記載の一般式(I)中の[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,3−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸を製造するための上記一般式(II)のチアゾール誘導体。

【請求項6】
請求項1に記載の一般式(I)中の[2−メチル−4−[[[4−メチル−2−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1,3−チアゾール−5−イル]メチル]スルファニル]フェノキシ]酢酸を製造するための上記一般式(IV)のチアゾール誘導体。



【公表番号】特表2008−542207(P2008−542207A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511034(P2008−511034)
【出願日】平成17年5月7日(2005.5.7)
【国際出願番号】PCT/KR2005/001341
【国際公開番号】WO2006/121223
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(507171856)ソウル ナショナル ユニバーシティー インダストリー ファンデーション (14)
【Fターム(参考)】