説明

ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体

本発明は、(1)部分PPAR作用物質と結合し、及び
(2)完全PPAR作用物質と野生型受容体よりも低い程度に結合し、または完全PPAR作用物質により野生型受容体よりも低い程度に活性化される、PPARリガンド結合ドメインポリペプチドの変異体を特徴とする。変異されたリガンド結合ドメインは、完全PPAR作用物質と野生型PPARのAF−2ドメインの間で優先的に(好ましくは、単独に)起こる1つまたはそれ以上の相互作用が修飾されたアミノ酸配列を含有する。変異されたリガンド結合ドメインは、部分PPAR作用物質が選択的に結合し、又は部分PPAR作用物質によって選択的に活性化されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照により本明細書に組み込まれる、2003年1月22日に出願された米国仮出願第60/441,836号の利益を主張する。
【0002】
本願を通して引用する参考文献は、本発明の従来技術であることを認めるものではない。
【0003】
核内受容体は、標的遺伝子の発現を調節するリガンド誘発性転写因子として作用する。標的遺伝子発現の調節は、核内受容体と、作用物質又は拮抗物質リガンドと、1個以上のコレギュレーターとを含む複合体によって媒介される。この受容体は、核内受容体に応じて、モノマー、ホモ二量体又はヘテロ二量体として複合物中に存在することができる。(Aranda等、Physiological Reviews 81:1269−1304、2001)。
【0004】
異なる核内受容体は、異なるリガンドに応答し、異なる遺伝子を調節する。核内受容体の例としては、甲状腺ホルモン受容体、レチノイン酸受容体、ビタミンD受容体、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体、プレグナンX受容体、構成的アンドロスタン受容体、肝臓X受容体、ファルネソイドX受容体、リバースErbA、レチノイドZ受容体/レチノイン酸関連オーファン受容体、ユビキタス受容体、レチノイドX受容体、ニワトリ卵白アルブミン上流プロモーター転写因子、肝細胞核因子4、体長(tailles)関連受容体、光受容体特異的核内受容体、精巣受容体、グルココルチコイド受容体、アンドロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エストロゲン受容体、エストロゲン関連受容体、NGF誘導クローンB、ステロイド産生因子1、フシタラズ(fushi tarazu)因子1、胚細胞核因子及び用量感受性性転換(dosage−sensitive sex reversal)が挙げられる。(Aranda et al., Physiological Reviews 81:1269−1304,2001)。
【0005】
核内受容体は、関係する受容体間で交換可能である自律機能ドメイン(autonomous functional domain)に対応する異なる領域によるモジュラー構造を有する。(Aranda et al., Physiological Reviews 81:1269−1304,2001)。典型的な核内受容体は、以下の領域、すなわち、(A/B)リガンド非依存性AF−1ドメインを含有する可変アミノ末端領域、(C)保存されたDNA結合ドメイン、(D)可変リンカー領域、及び(E)リガンド依存性AF−2コアトランス活性化ドメインを含有するリガンド結合ドメイン領域を含む。(Aranda et al., Physiological Reviews 81:1269−1304,2001)。
【0006】
核内受容体の重要なサブファミリーは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)である。核内受容体のPPARサブファミリーとしては、PPARα、PPARγ及びPPARδ(PPARβとしても知られる。)などが挙げられ、これらの受容体は、レチノイドX受容体(RXR)とのヘテロ二量体として機能する。脂肪酸及びエイコサノイドは、天然のPPARリガンドであることが確認された。(Berger et al., Annu. Rev. Med. 53:409−435、2002、Berger et al., Diabetes Technology & Therapeutics 4:163−174、2002)。
【0007】
PPARに作用物質又は部分作用物質が結合することによって、構造の安定化、並びに転写コアクチベーターの動員をもたらす結合開裂を生成するコンホメーション変化が誘発される。PPAR活性化補助因子の例としては、CBP/p300、ステロイド受容体活性化補助因子(SRC−1)、DRIP/TRAP複合体のメンバー、PGC−1、RIP140及びARA70が挙げられる。活性なPPAR複合体は、遺伝子転写の開始速度を媒介する特異的DNA応答要素に結合する。(Berger et al., Annu. Rev. Med. 53:409−435, 2002, Berger et al., Diabetes Technology & Therapeutics 4:163−174、2002)。
【0008】
PPAR活性を調節する種々の合成化合物が特定されている。(例えば、Bergeret al., Annu. Rev. Med. 53:409−435,2002,Berger et al., Diabetes Technology & Therapeutics 4:163−174、2002、2002年1月31日に公開されたActonらの国際公開第02/08188号、2001年5月3日に公開されたBergerらの国際公開第01/30343号、2001年3月15日に公開されたCobbらの国際公開第01/17944号を参照されたい。)。
【0009】
部分作用物質(又は拮抗物質)は、PPARの「選択的調節物質」としても知られ、好ましい生物学的諸特性を有することを強く暗示している(2001年5月3日に公開されたBergerらの国際公開第01/30343号、Moller、Nature 414:821−827、2001、Berger et al., Annu. Rev. Med. 53:409−435, 2002)。これらには、効力を付与する特定の応答を保持することを含み得、毒低をもたらす特定の応答が弱められる場合がある。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、(1)部分PPAR作用物質に結合し、及び(2)完全PPAR作用物質と野生型受容体よりも低い程度に結合し、または完全PPAR作用物質により野生型受容体よりも低い程度に活性化される、PPARリガンド結合ドメインポリペプチドの変異体を特徴とする。この変異されたリガンド結合ドメインは、完全PPAR作用物質と野生型PPARのAF−2ドメインの間で優先的に(好ましくは、単独に)起こる1つまたはそれ以上の相互作用が修飾されるアミノ酸配列を含む。この変異されたリガンド結合ドメインは、部分PPAR作用物質と選択的に結合すること、又は部分PPAR作用物質によって選択的に活性化されることが好ましい。
【0011】
部分PPAR作用物質による選択的な結合又は活性化は、完全PPAR作用物質による活性化と対比される。完全PPAR作用物質は、強力な天然リガンドであるか、又はPPAR AF−2ドメインアミノ酸との相互作用のタイプが、強力な天然リガンドと同じである。これに対して、部分作用物質は、完全作用物質の結合又は活性化に重要な1種類以上のアミノ酸との相互作用がかなり弱い。
【0012】
「部分PPAR作用物質」は、野生型PPARに結合することができ、検出可能な受容体活性をもたらすが、生じる活性は、完全リガンドによってもたらされる活性よりも低い。部分作用物質と完全作用物質が生じる活性の差は、活性のタイプの場合もあれば、程度の場合もある。
【0013】
部分PPAR作用物質によってもたらされる活性化の程度に応じて、部分作用物質を作用物質として又は拮抗物質として使用することができる。部分作用物質は、例えば、天然の作用物質の効果と競合し、その効果を弱めることによって、拮抗物質的に使用することができる。
【0014】
変異されたPPARリガンド結合ドメインが部分作用物質に選択的に結合できることは、(1)部分作用物質が、野生型タンパク質に結合するのと同等又はそれ以上のレベルで変異されたリガンド結合ドメインに結合することができること、及び(2)完全作用物質が、所与の濃度において野生型タンパク質より低い程度で変異されたリガンド結合ドメインに結合すること、又はさらに高い濃度でなければ、野生型タンパク質に同程度に結合しないことを示している。
【0015】
突然変異PPARリガンド結合ドメインを部分作用物質によって選択的に活性化できることは、(1)部分作用物質が、野生型タンパク質におけるよりも、変異されたリガンド結合ドメインを含むPPARに同等又はそれ以上の応答を生じることができ、及び(2)完全作用物質が、所与の濃度において、野生型タンパク質に比べて低い程度で変異されたリガンド結合ドメインを含むPPARに応答を生させること、又はさらに高い濃度でなければ、野生型タンパク質に同程度の応答を生じないことを示している。
【0016】
「変異された」PPARリガンド結合ドメインという表記は、野生型PPARリガンドドメインとは異なるアミノ酸配列を示す。「変異された」という表記は、「変異された」ドメインが産生された方法を示すものではない。「変異された」PPARリガンド結合ドメインは、ヌクレオチド配列をコードするPPARリガンド結合ドメイン中に変異を導入する方法、「変異された」リガンド結合ドメインを発現するヌクレオチド配列をコードするPPARの段階的化学合成、及び特定のPPARリガンド結合ドメインアミノ酸配列の化学合成を含む、種々の方法によって得ることができる。
【0017】
したがって、本発明の第1の側面は、変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドを特徴とする。このポリペプチドは、
(a)部分PPAR作用物質と結合し、及び
(b)完全PPAR作用物質と野生型受容体よりも低い程度に結合し、または完全PPAR作用物質により野生型受容体よりも低い程度に活性化される、
変異されたPPARリガンド結合ドメインのアミノ酸配列を含む。
【0018】
変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドの活性化は、例えば、活性化補助因子タンパク質の動員又は結合を可能にするコンホメーションの変化であり得る。
【0019】
特定の用語が相容れない場合を除き、「又は」という表記は一方又は両方の可能性を示す。したがって、例えば、「結合又は活性化」という表記は、結合、活性化、及び結合と活性化の両方を含む。
【0020】
本発明の別の側面は、リガンド活性化転写因子である変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドである。このリガンド活性化転写因子は、変異されたPPARリガンド結合ドメイン及び転写因子DNA結合ドメインを含む。このリガンド活性化転写因子は、DNA結合ドメインの標的であるDNA応答要素に結合する。
【0021】
リガンド活性化転写因子は、特定のPPARサブタイプ由来の変異されたPPARリガンド結合ドメインと、そのサブタイプ由来の別のPPAR領域とを含むことができ、又は、キメラリガンド活性化転写因子とすることができる。本明細書に記載されているキメラリガンド活性化転写因子は、特定のサブタイプ由来の変異されたPPARリガンド結合ドメインと、異なる核内受容体由来の1個以上の領域とを含有する。
【0022】
本発明の別の側面は、変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドを作製する方法である。この方法は、完全作用物質と直接相互作用する野生型PPARリガンド結合ドメイン中に存在するアミノ酸が、完全作用物質と相互作用しない、又は実質的に異なる相互作用をするアミノ酸で置換されるようにPPARリガンド結合ドメインを変異させることを含む。必要ならば、さらに変更を加えることができる。
【0023】
本発明の別の側面は、変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸である。
【0024】
本発明の別の側面は、変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含有する核酸を含む組換え細胞である。この核酸は、この組換え細胞内で発現される。「発現される」という表記は、コードされたポリペプチドが産生されることを示す。
【0025】
本発明の別の側面は、部分的PPAR作用物質を評価する方法である。この方法は、試験化合物が、変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチド、又は変異されたPPARリガンド結合ドメインを含有する転写因子に結合し、又はそれを活性化することができるかどうかを測定する。この測定は、定性的又は定量的に実施することができる。
【0026】
本発明の他の特徴及び利点は、様々な実施例を含む、本明細書のさらなる説明から明らかである。提供する実施例は、本発明を実施するのに有用な様々な成分及び方法を例示するものである。これら実施例は、請求する本発明を限定するものではない。本開示に基づいて、当業者は、本発明を実施するのに有用な他の成分及び方法を特定し、使用することができる。
【0027】
本明細書に記載する変異されたPPARリガンド結合ドメインを含むポリペプチドは、部分作用物質の特定及び評価を容易にするために使用することができる。部分作用物質には、研究用途及び治療用途がある。研究用途としては、PPAR部分活性化又は拮抗作用の生物学的効果を研究し、部分作用物質の結合能力又はPPAR活性調整能力に影響を及ぼす重要な官能基を明らかにするための部分作用物質の使用が挙げられる。
【0028】
治療用途としては、患者において有益な効果を得るために、効力、及び許容されない毒性がないことなどの適切な薬理学的諸特性を有する部分作用物質を使用することが挙げられる。部分作用物質は、完全作用物質よりも副作用を抑えながら、PPAR調節(例えば、部分活性化又は拮抗作用)の有益な効果を提供するために使用することができる。
【0029】
「患者」とは、PPAR部分作用物質の投与によって有益な効果を受けることができる哺乳動物である。患者は、予防又は治療上の処置を受けることができる。患者の例としては、ヒト患者、並びに家畜、ペット、及びモデル系として使用することができる動物などの非ヒト患者が挙げられる。
【0030】
1種類以上のPPARを調節することによって得ることができる有益な効果としては、以下のもの、すなわち、アテローム性動脈硬化症、異脂肪血症、炎症、癌、不妊症、高血圧症、肥満症及び糖尿病の1種類以上の治療が挙げられる。(Berger et al., Annu. Rev. Med. 53:409−435, 2002, Bergeret al., Diabetes Technology & Therapeutics 4:163−174,2002、2001年5月3日に公開されたBergerらの国際公開第01/30343号)。
【0031】
PPARγ
モデルとしてPPARγリガンド結合ドメインを使用して、部分作用物質が選択的に結合し、又は部分作用物質によって活性化される変異されたリガンド結合ドメインを生じる変更を生成することが可能であることが見出された。以下の実施例に示す変異されたリガンド結合ドメインは、Tyr473Ala又はTyr473Phe置換を有する。
【0032】
完全作用物質ロシグリタゾンは、PPARγ Tyr473フェノールのヒドロキシルと水素結合し、一方、部分作用物質1−(p−クロロベンジル)−5−クロロ−3−フェニルチオベンジル−2−イルカルボン酸(化合物1)はTyr473と水素結合しない。ロシグリタゾンに水素結合しないアミノ酸でTry473を置換すると、ロシグリタゾンとAF−2ドメインの相互作用が減少する。
【0033】
化合物1及び部分作用物質としてのその使用は、2001年5月3日に公開されたBergerらの国際公開第01/30343号に記載されている。化合物1は、以下の構造を有する。
【0034】
【化4】

【0035】
Tyr473が非極性アミノ酸(例えば、アラニン又はフェニルアラニン)で置換されたPPARγリガンド結合ドメインポリペプチドは、部分作用物質に結合し、リガンド結合ドメイン活性を活性化することが見出された。変異されたリガンド結合ドメインを含有する転写因子の活性化は、野生型リガンド結合ドメインによるものよりも少なくとも良好(Tyr473Ala)か、又はかなり優れている(Tyr473Phe)。
【0036】
作用物質及び部分作用物質結合に関与するアミノ酸は、X線結晶学によって特定することができる。PPARγリガンド結合ドメインX線結晶学データ、及びこのようなデータを作成する技術は、例えば、「Nolte et al., Nature 395:137−143、1998 and Oberfield et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:6120−6106, 1999」に説明されている。
【0037】
Tyr473以外のアミノ酸も、変異されて、PPARγ AF−2ドメインに対する完全作用物質の結合を減少させ、部分作用物質結合又は活性を維持又は促進することができる。変異されたリガンド結合ドメインを含有するポリペプチドが、部分作用物質によって選択的に活性化されるかどうか、又は突然変異されたリガンド結合ドメインを含有するポリペプチドに部分作用物質が結合するかどうかは、例えば、完全作用物質及び部分作用物質がポリペプチドに結合するかどうか、又は完全作用物質及び部分作用物質によってポリペプチドが活性化されるかどうかを測定することによって評価することができる。
【0038】
Tyr473などの特定の場所にあるアミノ酸の表記は、基準アミノ酸配列に対するものである。PPARα、PPRδ、PPARγの基準アミノ酸配列は、配列番号1、2及び3で与えられる(図1〜3)。特定のPPARのアミノ酸の番号付けは、天然又は人工のPPARにおける差異のために異なり得る。天然の差異は、例えば、アイソフォーム及び多型などであり得る。
【0039】
基準アミノ酸に対応するポリペプチド中のアミノ酸は、基準配列との配列アラインメントを実施することによって容易に特定することができる。このアラインメントは、当該アミノ酸を含有する領域(例えば、15又は20アミノ酸)における同一アミノ酸の数を最大にするように実施すべきである。
【0040】
チロシン473を適切なアミノ酸で置換すると、核内受容体を活性化するために使用されるリガンドの種類を特定するために使用することができる独特の諸特性を有する変異されたヒトPPARγリガンド結合ドメインを産生することができる。異なる実施態様において、リガンド結合ドメインは変異されたヒトPPARγリガンド結合ドメインであり、チロシン473に対応する残基は、
(a)アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミン、
(b)アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン及びメチオニン、又は
(c)アラニン若しくはフェニルアラニン
からなる群から選択される。
【0041】
別の実施態様においては、リガンド結合ドメインは、配列番号4、又は構造的に類似の配列を含む。
【0042】
【化5】

【0043】
ここで、Xは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される。さらに別の実施態様において、Xは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンからなる群から選択され、Xは、アラニン又はフェニルアラニンである。
【0044】
PPARα及びPPARδ
PPARα、PPARδ及びPPARγは、類似のリガンド結合ドメインを含み、AF−2ドメインはリガンド結合ポケットをもたらす。これらの受容体において、AF−2ドメインは、活性化補助因子結合ポケットの生成に関わるリガンド依存性活性化ドメインを与える。(Berger et al., Anne. Rev. Med. 53:409−435、2002)。
【0045】
異なるPPARリガンド結合ドメインと、変異されたPPARγリガンド結合ドメインを用いて得られた結果との類似性を、変異されたPPARα又はPPARδリガンド結合ドメインを含有するポリペプチドの設計に指針を与えるために使用することができる。変異されたリガンド結合ドメインを含有するポリペプチドが部分作用物質によって選択的に活性化されるかどうか、又は変異されたリガンド結合ドメインを含有するリペプチドに部分作用物質が結合するかどうかは、例えば、完全作用物質及び部分作用物質がポリペプチドに結合するかどうか、又は完全作用物質及び部分作用物質によってポリペプチドが活性化されるかどうかを測定することによって評価することができる。
【0046】
PPARα及びPPARδのX線結晶学データは、当分野で周知の技術を用いて作成することができる。PPARαリガンド結合ドメイン及びリガンド結合のX線結晶学データは、2002年8月22日に公開されたLambertらの国際公開第02/064632号に記載されている。PPARδリガンド結合ドメイン及びリガンド結合のX線結晶学データは、「Xu et al., Molecular Cell 3:397−403,1999」に記載されている。
【0047】
PPARα及びPPARδは、PPARγ中のTyr473と同様に機能するチロシン残基を含有する。この類似したPPARαチロシンは464位にある(図1)。類似したPPARδチロシンは437位にある(図2)。
【0048】
PPARαの部分作用物質は、例えば、Tyr464がアラニン又はフェニルアラニンなどのアミノ酸で置換されたPPARαを活性化する化合物をスクリーニングすることによって特定することができる。本明細書に記載する他の使用に加えて、このような部分作用物質は、突然変異PPARαリガンド結合ドメインポリペプチド及びリガンド活性化転写因子を得るため、又は評価するために使用することができる。
【0049】
同様に、PPARδの部分作用物質は、例えば、Tyr437がアラニン又はフェニルアラニンなどのアミノ酸で置換されたPPARδを活性化する化合物をスクリーニングすることによって特定することができる。本明細書に記載する他の使用に加えて、このような部分作用物質は、突然変異PPARδリガンド結合ドメインポリペプチド及びリガンド活性化転写因子を得るため、又は評価するために使用することができる。
【0050】
チロシン464が適切なアミノ酸で置換された変異されたヒトPPARαリガンド結合によって、核内受容体を活性化するために使用されるリガンドの種類を特定するために使用することができる独特の諸特性を有する変異されたヒトPPARαリガンド結合ドメインを産生することができる。同様に、チロシン437が適切なアミノ酸で置換された変異されたヒトPPARδリガンド結合によって、核内受容体を活性化するために使用されるリガンドの種類を特定するために使用することができる独特の諸特性を有する変異されたヒトPPARδリガンド結合ドメインを産生することができる。
【0051】
異なる実施態様において、変異されたリガンド結合ドメインは、チロシン464に対応する残基中に変異を含む変異されたヒトPPARαリガンド結合ドメイン、又はチロシン437に対応する残基中に変異されたを含有する変異ヒトPPARδリガンド結合ドメインであり、この変異は、(a)アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択されるアミノ酸である。さらに別の実施態様において、この変異は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸であり、又はアラニン若しくはフェニルアラニンである。
【0052】
リガンド活性化転写因子
リガンド活性化転写因子は、部分作用物質と結合し、部分作用物質の結合によって遺伝子発現を調整することができる。異なる核内受容体領域の互換性に基づいて、変異されたPPARリガンド結合ドメインを含有する種々のタイプの転写因子を生成することができる。
【0053】
核内受容体は、関係する受容体間で交換可能である自律機能ドメインに対応する異なる領域を含むモジュラー構造を有する。(Aranda et al., Physiological Reviews 81:1269−1304、2001)。異なる実施態様において、リガンド活性化転写因子は、変異されたPPARリガンド結合ドメインと、別の核内受容体に由来する1個以上の領域又は(GAL4などの)他の転写因子とを含有するキメラ受容体であり、又は突然変異されたリガンド結合ドメインを有する特定のPPARである。
【0054】
本明細書に記載する好ましいキメラ受容体は、変異されたPPARリガンド結合ドメインと、異なる核内受容体に由来するDNA結合ドメイン又は(GAL4などの)別の転写因子とを含有するキメラ受容体である。特定のDNA結合ドメインの選択は、受容体活性を測定するレポーター系を設計するのに有用である。PPARキメラ受容体に使用されるDNA結合ドメインの例は、酵母転写因子Gal4及びグルココルチコイド受容体である。(Lehman et al., The Journal of Biological Chemistry 270:12953−12956,1995,Schmidtet al., Molecular and Cellular Endocrinology 155:51−60、1999、Berger et al., The Journal of Biological Chemistry 274:6718−6725,1999)。
【0055】
PPARに基づくリガンド結合ドメイン領域は、公知のPPAR配列から出発して設計することができる。異なるPPARα、PPARδ、PPARγ配列は、異なるアイソフォーム及び多型を含む。PPARα配列情報を提供する参考文献としては、Sher等、Biochemistry 32:5598−5604、1993などがある(SWISS−PROT:QO7869も参照されたい。)。PPARγ配列情報を提供する参考文献としては、「Elbrecht et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 224:431−437、1996などがある(SWISS−PROT:P37231も参照されたい。)。PPARδ配列情報を提供する参考文献としては、「Schmidt et al., Mol. Endocrinol. 6:1634−1641、1993などがある(SWISS−PROT:QO3181も参照されたい。)。
【0056】
リガンド結合及び活性に対する様々なPPARアミノ酸残基の重要性を示すX線結晶学データを使用して、ポリペプチドの設計を容易にすることができる。X線結晶学データ及びこのようなデータを得る方法の例を提供する参考文献としては、2002年8月22日に公開されたLambertらの国際公開第02/064632号、Xu et al., Molecular Cell 3:397−403、1999、Nolte et al., Nature 395:137−143、1998、Oberfield et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:6120−6106,1999などがある。
【0057】
アミノ酸の変更は、種々のアミノ酸の構造及び性質を考慮してリガンド結合又は受容体活性を維持するように設計することができる。アミノ酸側鎖(「R」基)に応じて、アミノ酸は、サイズ、極性、水素結合能力、疎水性などの異なる諸特性を有するであろう。アミノ酸の諸特性に対する異なるアミノ酸側鎖の効果は、当分野で周知である(例えば、Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley、1987−2001、Appendix 1Cを参照されたい。)。
【0058】
活性を維持するためにアミノ酸を交換する場合には、置換アミノ酸は、類似の諸特性を有するべきである。例えば、ロイシンをバリンで、リジンをアルギニンで、及びグルタミンをアスパラギンで置換することは、ポリペプチド機能を変化させない優れた候補である。
【0059】
アミノ酸を交換して作用物質相互作用を減少させる場合には、置換アミノ酸は、置換されるアミノ酸と同じタイプの相互作用をすることができない側鎖を有するべきである。例えば、中性及び疎水性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン及びメチオニン)は、水素結合相互作用を減少させるの優れた候補である。プロリンは、主鎖コンホメーションセットがより制限されるので、一般に、好ましくない。
【0060】
異なる実施態様において、転写因子の一部であり得る変異されたリガンド結合ドメインは、配列番号1、2又は3中のリガンド結合ドメインに構造的に類似している。構造的に類似した配列は、少なくとも約90%が基準配列に同一か、又は類似している。異なる実施態様においては、構造上類似した配列は、少なくとも約95%、又は少なくとも約99%が基準配列に同一か、又は類似しており、或いは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20個の改変アミノ酸が基準配列と異なっている。
【0061】
同一パーセントは、基準配列を得るために必要なアミノ酸配列の最少アミノ酸変更数を基準配列のアミノ酸数で割って、100を掛け、次いで得られた数字を100から引いて計算することができる。アミノ酸の変更は、付加、欠失又は置換の任意の組み合わせとすることができる。基準配列と比較されるアミノ酸配列は、より大きな配列の一部とすることができる。
【0062】
ポリペプチドの配列類似度は、BLASTによって決定することができる。(参照により本明細書に組み込まれるAltschul et al., 1997. Nucleic Acids Res. 25、3389−3402)。一実施態様においては、配列類似度は、tBLASTnサーチプログラムによって、以下のパラメータ、すなわち、MATRIX:BLOSUM62、PER RESIDUE GAP COST:11、及びラムダ比:1を用いて決定される。
【0063】
異なる実施態様において、転写因子は、本明細書に記載する、PPARα、PPARδ又はPPARγに対する変異されたリガンド結合ドメインを含有する。好ましい実施態様において、転写因子は、配列番号5又は配列番号6のアミノ酸配列からなる。配列番号5はTyr473Alaの変更を含有し、配列番号6はTyr473Pheの変更を含有する。配列番号5及び6は、以下のとおりである。
【0064】
【化6】

【0065】
ポリペプチドの作製
ポリペプチドは、化学合成を含む標準技術、及び生化学合成を含む標準技術を含めた標準技術を使用して作製することができる。ポリペプチドの化学合成技術は当分野で周知である(例えば、Vincent ,in Peptide and Protein Drug Delivery、New York、N. Y.,Dekker、1990を参照されたい)。
【0066】
ポリペプチドの生化学合成技術も当分野で周知である。核酸を細胞に導入し、核酸を発現させてタンパク質を産生する技術の例は、「Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley、1987−1998」、及び「Sambrook et al., in Molecular Cloning, A Laboratory Manual、2nd Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989」などの参考文献に記載されている。
【0067】
特定のアミノ酸配列、及び遺伝コードの公知の縮重から出発して、多数の異なるコード用核酸配列を得ることができる。遺伝コードの縮重は、ほぼすべてのアミノ酸が、3個のヌクレオチド、すなわち「コドン」の異なる組み合わせによってコードされているために起こる。アミノ酸は、コドンによって以下のとおりコードされる。
【0068】
A=Ala=アラニン:コドンGCA、GCC、GCG、GCU
C=Cys=システイン:コドンUGC、UGU
D=Asp=アスパラギン酸:コドンGAC、GAU
E=Glu=グルタミン酸:コドンGAA、GAG
F=Phe=フェニルアラニン:コドンUUC、UUU
G=Gly=グリシン:コドンGGA、GGC、GGG、GGU
H=His=ヒスチジン:コドンCAC、CAU
I=Ile=イソロイシン:コドンAUA、AUC、AUU
K=Lys=リジン:コドンAAA、AAG
L=Leu=ロイシン:コドンUUA、UUG、CUA、CUC、CUG、CUU
M=Met=メチオニン:コドンAUG
N=Asn=アスパラギン:コドンAAC、AAU
P=Pro=プロリン:コドンCCA、CCC、CCG、CCU
Q=Gln=グルタミン:コドンCAA、CAG
R=Arg=アルギニン:コドンAGA、AGG、CGA、CGC、CGG、CGU
S=Ser=セリン:コドンAGC、AGU、UCA、UCC、UCG、UCU
T=Thr=トレオニン:コドンACA、ACC、ACG、ACU
V=Val=バリン:コドンGUA、GUC、GUG、GUU
W=Trp=トリプトファン:コドンUGG
Y=Tyr=チロシン:コドンUAC、UAU
【0069】
変異されたリガンド結合ドメインをコードする核酸は、化学合成技術を用いて核酸を生産することによって、又はあらかじめ合成された核酸を変異させることによって得ることができる。あらかじめ合成された核酸の変異は、特定のヌクレオチドを変えて所望のコドンを得るために使用することができる部位特異的変異誘発などの技術を用いて促進される。
【0070】
組換え発現
ポリペプチドは、適切な宿主又は発現系において、組換え核酸によって好ましくは発現される。組換え核酸は、その配列又は形のために天然には存在しない核酸である。考えられる組換え核酸の形としては、細胞中に存在する核酸からの単離、又は宿主ゲノム中若しくは宿主ゲノム外に存在し得る他の核酸と結び付いたポリペプチドコード領域などが挙げられる。
【0071】
より好ましくは、発現は、発現ベクターを用いて宿主細胞中で実施される。発現ベクターは、適切な転写及びプロセシングのための調節要素とともに、ポリペプチドをコードする領域を含む組換え核酸である。存在し得る調節要素としては、ポリペプチドコード領域に天然に付随する調節要素、及びポリペプチドコード領域に天然には随伴しない外来性調節要素などがある。
【0072】
外来プロモーターなどの外来性調節要素は、特定の宿主において組換え核酸を発現するのに有用になることがある。突然変異PPARリガンド結合ドメインを含有するポリペプチドの外来プロモーターは、PPARをコードする核酸に天然に随伴しないプロモーターである。
【0073】
一般に、発現ベクター中に存在する調節要素としては、転写プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーターが挙げられ、場合によってはオペレーターが存在してもよい。別の好ましい要素は、真核細胞におけるプロセシングをもたらすポリアデニレーションシグナルである。発現ベクターは、宿主細胞において自己複製するための複製開始点、選択マーカー、限定数の有用な制限酵素部位、及び高コピー数を与える可能性も含有することが好ましい。発現ベクターの例は、クローニングベクター、改変クローニングベクター、特異的に設計されたプラスミド及びウイルスなどである。
【0074】
特定の宿主における発現を促進するためには、特定のコード配列を改変して宿主のコドン使用を考慮することが有用となり得る。種々の生物のコドン使用頻度は当分野で周知である(Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley, 1987−2001, Supplement 33 Appendix 1Cを参照されたい。)。
【0075】
発現ベクターは、標準技術を用いて宿主細胞に導入することができる。このような技術の例としては、形質転換、形質移入、リポフェクション、原形質体融合及びエレクトロポレーションが挙げられる。
【0076】
ポリペプチドをコードする核酸は、細胞中で発現ベクターを使用せずに発現させることができる。例えば、mRNAは、コムギ胚芽抽出物、網状赤血球抽出物などの様々な無細胞系、並びにカエル卵母細胞などの細胞系中で翻訳することができる。細胞系へのmRNAの導入は、例えば、微量注入によって実施することができる。
【0077】
PPARアッセイは、変異されたリガンド結合ドメインポリペプチドを発現する宿主を用いて実施することができ、宿主又は発現系から精製される変異されたリガンド結合ドメインポリペプチドを用いて実施することができる。アッセイは、組換え細胞を用いて実施されることが好ましい。
【0078】
変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドをコードする組換え細胞は、このポリペプチドをコードする核酸を含むように改変された細胞である。この改変は、発現ベクターの導入及び宿主ゲノムの変異など様々な方法によることができる。
【0079】
PPARアッセイの様式
突然変異PPARリガンド結合ドメインを含有するポリペプチドは、部分作用物質を評価し、選択するために使用することができる。リガンド結合アッセイ、活性化補助因子親和性を測定するアッセイ、及び転写因子活性を測定するアッセイを含む、多種多様なアッセイ様式を使用することができる。種々のアッセイ様式の例としては、
1)シンチレーション近接アッセイ形式を用いたリガンド結合の測定(例えば、Elbrecht et al., The Journal of Biological Chemistry 12:7913−7922、1999)、
2)蛍光共鳴エネルギー移動を用いた補因子の核内受容体親和性の測定(例えば、Zhou et al., Molecular Endocrinology 12:1594−1604、1998)、及び
3)転写因子活性の測定(例えば、以下の実施例の項、Lehman et al., The Journal of Biological Chemistry 270:12953−12956, 1995, Schmidt et al., Molecular and Cellular Endocrinology 155:51−60,1999,Berger et al., The Journal of Biological Chemistry 274:6718−6725、1999)が挙げられる。
【0080】
完全作用物質及び部分作用物質は、例えば、一方は野生型受容体(未変性又はキメラ)を含み、他方は変異された受容体を含む2種類のトランス活性化アッセイを同時に行うことによって区別することができる。変異体アッセイの活性が野生型に対して極度に減少したリガンドは、完全作用物質に分類される。変異体アッセイの活性が野生型と同じか、又は増大したリガンドは、部分作用物質に分類することができる。
【0081】
(実施例)
本発明の様々な特徴をさらに説明するために以下に実施例を示す。これらの実施例は、本発明を実施するのに有用な方法も説明する。これらの実施例は、請求する本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0082】
変異されたリガンド結合ドメインの構築
変異されたPPARγリガンド結合ドメインポリペプチドは、コード核酸の部位特異的変異誘発と、その後の核酸発現によって産生された。変異誘発の出発構築体は、pcDNA3−hPPARγ/GAL4であった。pcDNA3−hPPARγ/GAL4は、ヒトhPPARγリガンド結合ドメインと酵母GAL4転写因子DNA結合ドメインとを含有するキメラ転写因子である。
【0083】
pcDNA3−hPPARγ/GAL4は、ヒトPPARγのリガンド結合ドメインに隣接する酵母GAL4転写因子DNA結合ドメインを哺乳動物の発現ベクターpcDNA3.1(+)に挿入することによって調製された。構築は、「Elbrecht et al., J. Biol. Chem. 274:7913−7922、1999」に記載された技術を用いて実施された。
【0084】
pcDNA3−hPPARγ/GAL4から出発して、ヒトPPARγのTyr473残基が、Quikchange Site−Directed Mutagenesis Kitを用いて製造者(Stratagene、La Jolla、CA)の手順に従ってAla又はPheに変異された。Tyr473Alaの変異は、順方向オリゴヌクレオチド
【0085】
【化7】

及び逆方向オリゴヌクレオチド
【0086】
【化8】

を用いて実施された。Tyr473Pheの変異は、順方向オリゴヌクレオチド
【0087】
【化9】

及び逆方向オリゴヌクレオチド
【0088】
【化10】

を用いて実施された。
【0089】
Tyr473中にPPARγリガンド結合の変更を含有する変異構築体は、pcDNA3−PPARγ(473Ala)/GAL4、又はpcDNA3−PPARγ(473Phe)/GAL4と命名された。GAL4/PPARγ(473Ala)構築体をコードする核酸配列を配列番号7で示す。GAL4/PPARγ(473Phe)構築体をコードする核酸配列を配列番号8で示す。
【実施例2】
【0090】
トランス活性化アッセイ
変異されたPPAR、すなわちPPARγリガンド結合ドメインを評価するためにトランス活性化アッセイを実施した。転写アッセイには、実施例1に記載の転写因子、及びレポータープラスミドが使用された。レポータープラスミドの発現は、転写因子の活性化によって誘導される。
【0091】
GAL4キメラ受容体に使用されたレポータープラスミド(pUAS(5X)−tk−luc)は、ルシフェラーゼ遺伝子に隣接する最小チミジンキナーゼプロモーターの上流に5個のGAL4応答要素(UAS)の反復を含有する。(Berger et al., J. Biol. Chem. 274:6718−6725、1999)。対照ベクターpCMV−lacZは、ガラクトシダーゼZ遺伝子に隣接するCMVプロモーターを含有する。(Berger et al., J. Biol. Chem. 274:6718−6725、1999)。
【0092】
ロシグリタゾン((+/−)−5−(4−(2−(メチル−2−ピリジニルアミノ)エトキシ)フェニル)メチル)−2,4−チアゾリジンジオン)及び化合物1が評価された。細胞培養試薬は、Gibco(Gaithersburg、MD)から得られた。他に断らない限り、他のすべての試薬は、Sigma Chemicals(St. Louis、MO)から得られた。
【0093】
COS−1細胞が培養され、発現ベクターpcDNA3−PPARγ/GAL4、pcDNA3−PPARγ(473Ala)/GAL4又はpcDNA3−PPARγ(473Phe)/GAL4を用いて、「Berger et al., J. Biol. Chem. 274:6718−6725, 1999」に記載されている技術を用いてトランス活性化アッセイが実施された。手短に述べると、細胞に、転写因子発現ベクター、pUAS(5X)−tk−lucレポーターベクター、及びトランス活性化効率の内部標準としてpCMV−lacZを、Lipofectamine(Invitrogen、Carlsburg、CA)を用いて形質移入した。化合物に48時間暴露した後、細胞可溶化物が生成し、細胞抽出物中のルシフェラーゼ及びβ−ガラクトシダーゼ活性が測定された。(Berger et al., J. Biol. Chem. 274:6718−6725,1999)。
【0094】
PPARγ完全作用物質ロシグリタゾンは、PPARγ Tyr473Ala変異体を活性化させる効力が野生型PPARγと比較して劇的に減少した(図4)。これに対して、PPARγ Tyr473Ala変異体を活性化させる化合物1の効力は本質的に変わらず、その効力(最大応答)は野生型PPARγと比較して増大した(図4)。PPARγ Tyr473Phe変異体を活性化させるロシグリタゾンの効力も、野生型PPARγと比較して大きく減少した(図5)。PPARγ Tyr473Pheを活性化させる化合物1の効力はほぼ同じであり、その効力は野生型PPARγと比較してかなり増大した(図5)。
【0095】
他の実施態様は、以下の特許請求の範囲内にある。いくつかの実施態様を示し、説明したが、様々な改変態様が、本発明の精神及び範囲から逸脱することなくなされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】野生型PPARα(配列番号1)のアミノ酸配列を示す図である。Tyr464を太字で示す。リガンド結合ドメインは、アミノ酸約281〜468である。DNA結合ドメインは、アミノ酸約102〜166である。
【図2】野生型PPARδ(配列番号2)のアミノ酸配列を示す図である。Tyr437を太字で示す。リガンド結合ドメインは、アミノ酸約254〜441である。DNA結合ドメインは、アミノ酸約74〜138である。
【図3】野生型PPARγ(配列番号3)のアミノ酸配列を示す図である。Tyr473を太字で示す。リガンド結合ドメインは、アミノ酸約203〜477である。DNA結合ドメインは、アミノ酸約81〜145である。
【図4】化合物1及びロシグリタゾンによって誘導されるPPARγ Tyr473Ala変異体のトランス活性化を野生型PPARγ応答と比較して示したグラフである。
【図5】化合物1及びロシグリタゾンによって誘導されるPPARγ Tyr473Phe変異体のトランス活性化を野生型PPARγ応答と比較して示したグラフである。
【配列表】











【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異されたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)リガンド結合ドメインのアミノ酸配列を含み、
前記変異したPPARリガンド結合ドメインは、
(a)部分PPAR作用物質と結合し、及び
(b)完全PPAR作用物質と野生型受容体よりも低い程度に結合し、または完全PPAR作用物質により野生型受容体よりも低い程度に活性化される、
変異されたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体リガンド結合ドメインポリペプチド。
【請求項2】
前記変異されたPPARリガンド結合ドメインが、前記部分作用物質に選択的に結合するものである、請求項1に記載の変異PPARリガンド結合ドメインポリペプチド。
【請求項3】
前記変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドが、前記部分作用物質によって選択的に活性化されるものである、請求項1に記載の突然変異PPARリガンド結合ドメインポリペプチド。
【請求項4】
前記変異されたリガンド結合ドメインが、
チロシン464に対応する残基がアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される変異されたヒトPPARαリガンド結合ドメイン;
チロシン437に対応する残基がアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される変異されたヒトPPARδリガンド結合ドメイン;又は
チロシン473に対応する残基がアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される変異されたヒトPPARγリガンド結合ドメイン
のいずれかである、請求項1に記載の変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドが、配列番号4
【化1】

(ここで、Xは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される。)のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチド。
【請求項6】
Xがフェニルアラニン又はアラニンである、請求項5に記載の変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチド。
【請求項7】
請求項1に記載の変異されたPPARリガンド結合ドメインとDNA結合ドメインとを含むリガンド活性化転写因子。
【請求項8】
前記転写因子が、部分作用物質の結合によって選択的に活性化されることができる、請求項7に記載のリガンド活性化転写因子。
【請求項9】
前記変異されたリガンド結合ドメインが、
チロシン464に対応する残基がアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される変異されたヒトPPARαリガンド結合ドメイン;
チロシン437に対応する残基がアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される変異されたヒトPPARδリガンド結合ドメイン;又は
チロシン473に対応する残基がアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される変異されたヒトPPARγリガンド結合ドメイン
のいずれかである、請求項8に記載のリガンド活性化転写因子。
【請求項10】
前記突然変異されたリガンド結合ドメインが、配列番号4
【化2】

(ここで、Xは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、ヒスチジン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選択される。)のアミノ酸配列からなる、請求項7に記載のリガンド活性化転写因子。
【請求項11】
Xがフェニルアラニン又はアラニンである、請求項10に記載のリガンド活性化転写因子。
【請求項12】
前記転写因子がキメラ受容体である、請求項11に記載のリガンド活性化転写因子。
【請求項13】
前記転写因子が、配列番号5又は配列番号6のアミノ酸配列からなる、請求項12に記載のリガンド活性化転写因子。
【請求項14】
PPARリガンド結合ドメインポリペプチドを、完全作用物質と直接相互作用する野生型PPARリガンド結合ドメイン中に存在するアミノ酸が前記完全作用物質と相互作用しないか又は異なる相互作用をするように、変異させる段階を含む、変異されたPPARリガンド結合ドメインを作製する方法。
【請求項15】
前記変異させる段階が、変異されたPPARリガンド結合領域が部分PPAR作用物質と選択的に結合するような又は部分PPAR作用物質により選択的に活性化されるような、変異されたPPARリガンド結合ドメインポリペプチドを産生する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記変異させる段階が、完全作用物質と直接相互作用するアミノ酸を完全作用物質と相互作用しないアミノ酸に又は完全作用物質と実質的に異なる相互作用をするアミノ酸に変更することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
変異された前記PPARリガンド結合ドメインが、配列番号3
【化3】

を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1から6のいずれか一項に記載のポリペプチド又は請求項7から13のいずれか一項に記載の転写因子をコードするヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項19】
前記ヌクレオチド配列が、外来プロモーターに転写可能に連結されている、請求項18に記載の核酸。
【請求項20】
前記核酸が発現ベクターである、請求項19に記載の核酸。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸を含み、該核酸が細胞中で発現される組換え細胞。
【請求項22】
試験化合物の、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリペプチドもしくは請求項7から13に記載の転写因子に結合する能力をまたは請求項1から6のいずれか一項に記載のポリペプチドもしくは請求項7から13に記載の転写因子を活性化する能力を測定する段階を含む、部分PPAR作用物質を評価する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−518215(P2006−518215A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502870(P2006−502870)
【出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/001221
【国際公開番号】WO2004/067711
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】