説明

ペルフッ素化ポリエーテルによって変性されたモノフィラメント

【課題】抄紙機カバーリング、コンベヤーベルト、濾過スクリーンなどにおける耐加水分解性、並びに防汚性及び摩耗特性を向上させるモノフィラメント、それらの製造方法、及びそれらを用いた編織布を提供する。
【解決手段】1種類以上の溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマー及び0.001〜10重量%のペルフッ素化ポリエーテルの混合物を紡糸してモノフィラメントを形成することを含む、溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマー及び変性性の更なるポリマーの混合物からモノフィラメントを製造する。本モノフィラメントは、抄紙機クロージング、コンベヤーベルト、濾過スクリーン、及びシルクスクリーン印刷用のスクリーンにおいて用いる織布に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルフッ素化(ペルフルオロ)ポリエーテルによって変性された繊維形成性ポリマーからモノフィラメントを製造する方法、それらの製造方法、及び編織布、特に織布の製造のためのそれらの使用、並びに抄紙機カバーリング、コンベヤーベルト、濾過スクリーンなどにおけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の概要:
合成ポリマーから製造されるモノフィラメント、特にポリエステルから製造されるものを変性することは公知である。
【0003】
ポリエステルの特性はそれ自体非常に良好であるものの、未だ多少物足りないものであり、耐加水分解性、並びに防汚性及び摩耗特性を向上させることに特に興味が持たれているので、変性が行われる。かかるモノフィラメントは、また、可能な限り低い滑り摩擦係数も有していなければならない。
【0004】
特にポリエステルモノフィラメントの場合において、対応する所望の特性を得て、不利な特性を低減する多くの試みが既に行われている。而して、ポリテトラフルオロエチレンを加えることによって変性したポリエステルからモノフィラメントを製造することが公知である。
【0005】
ポリエステルから製造される同様のモノフィラメントがEP−0506983−A1に記載されており、これは、カルボジイミド、及びテトラフルオロポリエチレンタイプのフッ素化ポリマー、並びに対応するコポリマーを加えることによって変性されている。
【0006】
しかしながら、この参考文献はペルフルオロポリエーテルを加えることを開示しておらず、或いは明らかにしていない。
EP−0617743−B1においては、特別な共重合体を加えることによって変性したポリエステルから製造される抄紙機スクリーン用のモノフィラメントが記載されている。1.5〜5重量%の量で加えられる共重合体は、アルケン及びペルフルオロアルケン、特にエチレン及びテトラフルオロエチレンから得られる多元共重合体である。しかしながら、本発明によって開示されるようなペルフルオロポリエーテルを加えることは、この参考文献によっては開示されておらず、明らかにされてもいない。
【0007】
DE−69424510−T2においては、ポリマー鎖中にペルフルオロポリエーテルブロックを導入することによって変性したポリエステル樹脂が開示されている。この参考文献は、本発明によって開示されているようにペルフルオロポリエーテルを加えることには言及しておらず、またかかる添加を明らかにもしていない。
【0008】
更に、この公報は、繊維及びフィルム、特にブローン成形された物品及び栄養製品又は飲料用のボトルなどの成形体の製造に関する。モノフィラメントは言及又は考慮されておらず、これらのペルフルオロポリエーテルブロックによって変性されたポリエステルをモノフィラメントの製造のために用いることの示唆はない。
【0009】
最後に、US−3,847,978においては、ポリマー鎖の各端部に反応性末端基を示すペルフッ素化線状ポリエーテルが記載されている。これらの末端基は−COOH基である。本発明によって開示されているようなペルフルオロポリエーテルを用いることは、この米国特許からは誘導することができず、本発明で開示するようなペルフルオロポリエーテルを用いることは示唆されておらず、明らかにされてもいない。
【0010】
上記に記載のモノフィラメント及びその製造方法の全てにおいては、ある欠点を特に認めることができる。即ち、これらのポリマーを十分に混合することは困難であることが判明し、不適当であることを認めることができる。実際、フルオロポリマーはほぼ良好に分布する島部及び不均一に分布する粒子を形成し、このため好ましくない場合においてはモノフィラメント中において太くなった領域すら発生する。特に高圧洗浄機を用いて残留している汚れを洗浄及び除去する間に、モノフィラメント表面のほつれ、即ち所謂フィブリル化などの障害がモノフィラメントに起こり、その結果、織布が多かれ少なかれ使用できなくなってしまう。
【0011】
更に、フィブリル化の影響或いはフィブリル化のはじめの兆候ですら、汚れの残渣がモノフィラメントにより強固に接着したままになり、コスト及び労働集約型の洗浄をより長く行わなければならず、他方でフィブリル化が増大し、最終的に織布をより短い間隔で取り替えなければならなくなる。
【0012】
粗さの理由により、かかるモノフィラメントの摩耗も比較的高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】EP−0506983−A1
【特許文献2】EP−0617743−B1
【特許文献3】DE−69424510−T2
【特許文献4】US−3,847,978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、例えば抄紙機カバーリング、コンベヤーベルト、及び濾過スクリーンにおいて織布及びスクリーンの形態で特に用いることのできる改良されたモノフィラメント及びかかるモノフィラメントを製造する方法に対する必要性が未だ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明の基礎をなす目的は、上記記載の欠点を示さないか、又は公知のモノフィラメントと比較して改良されており、特にフィブリル化傾向を有しないか又は減少された傾向しか有さず、減少された粗さを有し、したがって摩耗する傾向がより低く、汚れる傾向が小さく、均一な内部構造を有し、したがって特に抄紙機において織布の形態で用いる際に洗浄しなければならない頻度が少なく、また、より容易に洗浄することができる利用可能なモノフィラメントを製造することである。
【0016】
本発明によるモノフィラメントの更なる目的は、滑り摩擦抵抗を減少させることである。これは、抄紙機の駆動力におけるエネルギー消費を減少させることに関係する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この目的は、1種類以上の溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマー及び0.001〜10重量%のペルフッ素化ポリエーテルの混合物を紡糸してモノフィラメントを形成することを特徴とする、溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマー及び変性性の更なるポリマーの混合物からモノフィラメントを製造する方法によって達成される。
【0018】
これらのペルフルオロポリエーテルは、500〜6,000Daの分子量を有し、ポリエステル、ポリアミド、又はポリカーボネートポリマーと反応することができるであろう−COOH又は−OH末端基を有しない不活性液体である。ペルフルオロポリエーテルは、化学式:
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、nは500〜6,000Daの範囲のペルフルオロポリエーテルの平均分子量を与える数である)
によって表すことができる。
【0021】
好適なペルフルオロポリエーテルは商業的に入手できる。本発明において用いるのに特に好適なペルフルオロポリエーテルは、ポンプ移送可能な油状の不活性液体である。
Du PontによってFLUOROGUARDの商標で販売されているペルフルオロポリエーテルが、本発明において用いるのに非常に好適である。これらは、Du Pont de Nemours (Belgium) BVBA, DuPont Chemical Solution Enterprise, Ketenislaan 1, Haven 1548, B-9130 Kallo, Belgiumから入手できる。
【0022】
ポリエステル、ポリアミド、又はポリカーボネートは、溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマーとして好ましい。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリブチレンナフタレートを用いることが好ましい。
【0023】
ポリアミドとしては、PA6、PA4.6、PA6.6、PA6.10、PA6.12、PA11、又はPA12を用いることが好ましい。
上記記載のポリマーの混合物を用いることもできる。
【0024】
混合物が、加水分解安定剤、熱安定剤、及び/又はUV安定剤のような安定剤も含むと有利である。
染料、特に顔料色素を混合物中において用いることもできる。
【0025】
モノフィラメントの直径は、10μm〜2.00mm、好ましくは0.1mm〜1.00mmであってよい。
円形又は非円形の断面、特に楕円形の断面を有するモノフィラメント、並びにn面の断面(n=3)を有するモノフィラメントを製造することができる。
【0026】
対応する断面を図1に与える。
本発明の更なる対象は、0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜1重量%のペルフッ素化ポリエーテルを含む、1種類以上の溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマーの混合物によって構成されるモノフィラメントである。
【0027】
これらは、好ましくは上記記載の方法の1つにしたがって得られる。したがって、本発明の対象は、また、上記に記載の方法の1つにしたがって得られるモノフィラメントである。
【0028】
これらのモノフィラメントは、とりわけ次の特性:低い摩耗性及び低いフィブリル化傾向;を有することを特徴とする。
摩耗に関する指標の係数として、例えばナイフエッジ試験を用いることができる。
【0029】
モノフィラメントを一定の初期張力下においてナイフエッジ上で引く。フィラメントが破断するまでの前後移動のサイクル数を計数する。
フィブリル化傾向に関する指標の係数は、カム打撃試験であってよい。モノフィラメントの異なる点において1000回のハンマー打撃を行った後の大きく拡がった部分の数を計数する。フィブリル化傾向は、通常、高圧シャワー試験にしたがって視覚的に評価される。
【0030】
したがって、対象は、0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜1重量%のペルフッ素化ポリエーテルを含む、1種類以上の溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマーを含む混合物によって構成されるモノフィラメントである。
【0031】
ペルフッ素化ポリエーテルによって、汚れ傾向(おそらく疎水性表面のため)、滑り抵抗、及びしたがって摩耗性が減少する。滑り摩擦が減少する結果、抄紙機の駆動力、及びしたがってそのエネルギー消費も減少する。
【0032】
本発明の更なる対象は、編織布、特に編織布及び工業織布を製造するための上記記載のモノフィラメントの使用である。
本発明の更なる対象は、抄紙機カバーリング、コンベヤーベルト、濾過スクリーン、及びシルクスクリーン印刷用のスクリーンを製造するための編織布又は工業織布の使用である。
【0033】
溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマーは、長い間公知であり、それらの製造は平均的な当業者にはよく知られている。
原則として全ての通常のフィラメント形成性ポリマーを用いることができる。ポリエチレンナフタレートのようなポリエステルを特に強調することができる。
【0034】
また、ペルフッ素化ポリエーテルもそれ自体公知のポリマーである。これに関しては、ROMPP Lexikon Chemie 10の完全改訂版3181頁を参照されたい。ここで示されている開示事項を参照されたく、それは本明細書中に包含する。
【0035】
ペルフルオロポリエーテルは、好ましくはマスターバッチの形態で加える。好適なマスターバッチは、RTP Company, 580 East Front Street, Winona, MN 55987, USAという企業によって、例えばタイプ1099X99974の名称で販売されている。
【0036】
モノフィラメントの製造それ自体も長い間公知であり、平均的な当業者であれば創作能力がなくともポリマーの紡糸を行ってモノフィラメントを形成することができる。
一般に、紡糸する成分から溶融体を形成し、この溶融体をノズルを通して紡糸して、これにより好適な断面を有するモノフィラメントを出現させる。一般に、紡糸する混合物を押出機内で溶融し、次に溶融ポンプによってノズルを通して圧出する。ノズルから排出されたら、一般に、形成された生成物を、1:1.1〜1:5のドラフト比で、冷却媒体、好ましくは10℃〜90℃の温度の水を通して移送し、次に得られたフィラメントを、所望の寸法、即ち所望のタイターを有するようになるまで、1回又は繰り返し延伸し、熱固定(thermofix)する。
【0037】
得られるモノフィラメントが約100μm〜5mm、特に0.1〜2mmの直径に達するように、供出量、適当な場合にはドラフト量及び延伸量を互いに適合させる。ノズルとしては、単純な円形の断面又は楕円形の断面を有するノズルを用いることができる。しかしながら、輪郭を持った断面、例えば長方形又はn面(n=3)の断面を有するフィラメントを製造することもできる。
【0038】
安定剤、特に耐加水分解性、耐熱性、及びUV光耐性を向上させるためのものとしては、通常用いられる薬剤を用いることができる。特にモノマー及びポリマーカルボジイミドは、耐加水分解を向上させるために好適である。
【0039】
染料としては、特に顔料色素を用いる。
また、編織布、特に編織布及び工業織布の製造も平均的な当業者に公知である。
抄紙機においてクロージングとして用いる織布は、ウエットエンド及びそれに続く部品、特にドライエンドのいずれにおいても非常に適している。
【0040】
モノフィラメントは特定の均一な構造を有することを特徴とする。
以下の実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0041】
押出機の縦管中の主たるPET流中に、重量で計量することによって4%のマスターバッチRTP 1099 X 99974を加え、押出機内で溶融し、歯車ポンプによってスピンパック中に圧送し、ノズルプレートを通して紡糸して微細な円形のストランドを形成し、紡糸浴中でクエンチし、熱の影響下でガレット上で繰り返し延伸し、0.50mmの直径を有する個々のフィラメントとして巻き取った。押出の前に、完成モノフィラメント中において<1重量%のPFPEに相当する4%のマスターバッチを分割流中に計量添加した。以下の運転データにしたがって工程を行った。
【0042】
運転データ:
押出機:直径45mm、280℃〜290℃;
紡糸ポンプ:45cm、吐出量405g/分;
紡糸ノズル:16孔、直径1.6mm;
紡糸浴:60℃;
ドラフト装置1:27m/分;
ドラフト浴1:85℃;
ドラフト装置2:102m/分;
ドラフト浴2:90℃;
ドラフト装置3:143m/分;
固定チャンネル:230℃;
ドラフト装置4:120m/分。
【0043】
参照として、PET中に15%の従来のフルオロポリマーを含むモノフィラメントタイプの0.50mmの910 CK whiteを用いた。編織データを表中に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
フィブリル化傾向を試験するために、モノフィラメントを金属プレート上に平行に横たえて巻き付け、300barの高圧ウォータージェットを吹き付けた。その結果、本発明のモノフィラメントはフィブリル化を示さず、それに対して同じ条件下で処理した参照試料は著しいフィブリル化を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1種類以上の溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマー及び(b)0.001〜10重量%のペルフッ素化ポリエーテルの混合物を紡糸してモノフィラメントを形成することを含む、溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマー及び変性性の更なるポリマーの混合物からモノフィラメントを製造する方法。
【請求項2】
ペルフッ素化ポリエーテルが500〜6,000Daの平均分子量の不活性液体ペルフッ素化ポリエーテルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマーが、ポリエステル、ポリアミド、又はポリカーボネートである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリブチレンナフタレートから選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ポリアミドが、PA6、PA4.6、PA6.6、PA6.10、PA6.12、PA11、又はPA12である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
混合物が1種類より多い溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
混合物が安定剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
混合物が染料を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
モノフィラメントの直径が10μm〜2.00mmである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
円形、非円形、楕円形、又はn面の断面(n=3)を有するモノフィラメントを紡糸することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマー及び変性性の更なるポリマーの混合物から製造されるモノフィラメントであって、該混合物が1種類以上の溶融紡糸可能なフィラメント形成性ポリマー及び0.001〜10重量%のペルフッ素化ポリエーテルを含む、上記モノフィラメント。
【請求項12】
請求項1に記載の方法によって製造されるモノフィラメント。
【請求項13】
請求項11に記載のモノフィラメントから編織布を形成することを含む、編織布の製造方法。
【請求項14】
請求項11に記載のモノフィラメントから編織布又は工業織布を形成することを含む、編織布又は工業織布の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法によって製造される編織布又は工業織布を用いて、抄紙機クロージング、コンベヤーベルト、濾過スクリーン、又はシルク印刷用のスクリーンを形成することを含む、抄紙機クロージング、コンベヤーベルト、濾過スクリーン、又はシルクスクリーン印刷用のスクリーンの製造方法。
【請求項16】
混合物が、加水分解安定剤、熱安定剤、及び/又はUV安定剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
混合物が顔料色素を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
モノフィラメントの直径が0.1〜1.00mmである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
請求項12に記載のモノフィラメントを含む編織布。
【請求項20】
請求項12に記載のモノフィラメントを含む編織布又は工業織布。
【請求項21】
請求項20に記載の編織布又は工業織布を含む、抄紙機クロージング、コンベヤーベルト、濾過スクリーン、又はシルクスクリーン印刷用のスクリーン。

【公開番号】特開2010−1596(P2010−1596A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−144846(P2009−144846)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(501078281)テイジン モノフィラメント ジャーマニイ ゲー・エム・ベー・ハー (11)
【Fターム(参考)】