ペルフルオロオクタン酸含有量の測定方法

【課題】高マトリックス試料である撥水撥油剤水性分散液などの有機組成物中のペルフルオロオクタン酸を精密に定量する手法を提供する。
【解決手段】13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸を有機組成物に添加した後に含フッ素化合物を分離し、液相中の13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の存在比を質量分析計を用いて測定することを特徴とする有機組成物中に含まれるペルフルオロオクタン酸含有量の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フッ素樹脂、撥水撥油剤、消火剤、界面活性剤等の工業製品に意図して使用されている、あるいはこれらの工業製品自体および/またはこれらの工業製品の含有する化学物質の分解によって意図せず生成するペルフルオロオクタン酸の定量分析手法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルフルオロオクタン酸はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等フッ素樹脂合成時の添加剤、界面活性剤などに使用されている化合物であるが、河川水・地下水等の環境試料中にppt〜ppbの単位で検出されるなど環境に広く拡散していることが確認されている。また、生体蓄積性が確認されており健康被害の懸念があることから、2006年1月に米国環境保護局(US EPA)は主要なフッ素化学メーカー8社に自主取り組みとして2015年までの排出全廃を呼びかけ(PFOA 2010/2015スチュワードシップ・プログラム)、全8社が参加を表明している。
【0003】
また、ぺルフルオロオクタン酸の合成原料であるC8F17Iやその誘導体であるC8F17CH2CH2I、C8F17CH2CH2OH、C8F17CH=CH2、C8F17CH2CH2OCOCH=CH2は、含フッ素工業製品中に含有されていることがあるが、環境中で分解して意図せずペルフルオロオクタン酸を生成する可能性があり、環境へのペルフルオロオクタン酸の拡散原因となっている可能性も指摘されている。
【0004】
ペルフルオロオクタン酸の定量には液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC/MS/MS)が広く用いられているが、試料を溶液化する必要があり、さらにペルフルオロオクタン酸以外に含まれている試料中の夾雑物(マトリックス)を十分に低減しなければ測定値の精確度が不十分となりやすい。
【0005】
例えば、河川水・地下水等の環境水試料中に含まれるペルフルオロオクタン酸の定量法を定めたISO25101:2009の中には、マトリックス除去のための前処理操作として、固相抽出法を用いるよう定められている。その際に試料に13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸を混合し、13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸を加えた量と検出された量との比で計算される回収率が80〜120%の範囲内になければならない、とも定められている。
【0006】
環境水のような低マトリックス試料では前処理操作において試料中のペルフルオロオクタン酸をロスする可能性が低いため、上記のような高い回収率が得られる。一方、撥水撥油剤水性分散液のような高マトリックス試料では、前処理操作中に試料中のペルフルオロオクタン酸をロスすることなく回収することが困難であるのみならず、回収率の低下を避けるためマトリックスの除去が不十分なまま測定に供した場合にはイオン化抑制と呼ばれる現象を起こしLC/MS/MS装置に深刻な分析感度低下をもたらす、という問題があった。
【0007】
天然の同位体組成比と異なる同位体組成比を有する標準試料を試料に混合し、混合物の同位体組成比を質量分析計を用いて定量する手法は同位体希釈法と呼ばれ、放射化学や地球科学の分野では公知の方法である。同位体希釈法では定量計算に必要な値が試料の質量、天然の同位体組成比、標準試料の同位体組成比および濃度、混合物の同位体組成比のみであって、回収率が定量値に関与しないため精確な定量値を得られる手法として知られている。
【0008】
同位体希釈法を有機化合物に適用した例は多くないが、分析化学、第52巻、第11号、第1011〜1017頁(2003)にはPCBの定量に同位体希釈法を用いた例が示されており、13C同位体標識していないPCBと13C同位体標識をしたPCBの混合物を試料に添加し、GC/MSを用いて同位体ピーク強度比を測定することでPCBの定量に成功している。しかし、ペルフルオロオクタン酸の定量に同位体希釈法を適用した例は存在していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】分析化学、第52巻、第11号、第1011〜1017頁(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高マトリックス試料である撥水撥油剤水性分散液などの有機組成物中のペルフルオロオクタン酸を精密に定量する手法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、これらの課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の混合物の溶液(以下、「スパイク溶液」と呼ぶ)を用いた同位体希釈法を試料に適用することで、高い回収率を得ることが困難な高マトリックス試料中ペルフルオロオクタン酸の定量を回収率に依存することなく実施することが可能になることを見い出し、本発明をなすに至った。
【0012】
本発明は、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸を有機組成物に混合した後に含フッ素化合物を分離し、液相中の13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の存在比を質量分析計を用いて測定することを特徴とする有機組成物中に含まれるペルフルオロオクタン酸含有量の測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機組成物に含まれるペルフルオロオクタン酸を精密に定量することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の測定方法は、有機組成物に含まれるペルフルオロオクタン酸を定量する。
【0015】
有機組成物は、固体状または液状(特に、水性組成物)であってよく、一般に、少量のペルフルオロオクタン酸、および多量の他の成分(例えば、液状媒体(例えば、水または有機溶媒)および/または含フッ素化合物(特に、含フッ素重合体))を含んでなる。有機組成物に含まれ得る他の成分は、乳化剤、添加剤、助剤などである。
有機組成物は、含フッ素化合物の溶液(特に、有機溶媒溶液)または分散液(特に、水性分散液)であってよい。
含フッ素化合物は、含フッ素重合体または含フッ素低分子化合物である。
【0016】
含フッ素重合体は、例えば、撥水撥油剤の有効成分である。含フッ素重合体は、含フッ素単量体を含んでなる。含フッ素単量体は、ポリフルオロアルキル基またはポリフルオロアルケニル基(特に、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基)と重合性不飽和基を有する化合物、例えば、下記式(11)の化合物である。
(Rf-A)n-B 式(11)
Rf:C1〜C21のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基
A:二価の有機基、または単結合
B:重合性不飽和基
n:1または2
【0017】
Rf基は、炭素数3〜10、特に8であってよい。
二価の有機基は、エステル基(-C(=O)O-)、アミド基、アルキレン(炭素数1〜10)、エーテル基(-O-)、-CH2CH(OX)CH2-(Xは水素または(例えば、炭素数1〜5の)のアシル基)および、これらの組み合わせなどであってよい。
重合性不飽和基は、アクリレート基(-OC(=O)-CH=CH2)、メタクリレート基(-OC(=O)-C(CH3)=CH2)、ビニル基(-CH=CH2)、ビニレン基(-CH=CH-)、ビニリデン基(=C=CH2)、α置換アクリレート基(-OC(=O)-CX=CH2、Xはハロゲン、CF3、CN)などであってよい。
【0018】
含フッ素重合体の重量平均分子量は、例えば2000〜5000000、特に3000〜5000000、特別に10000〜1000000であってよい。
【0019】
含フッ素低分子化合物は、分子量2000未満、例えば500〜1500であってよく、フルオロアルキル基含有化合物であってよい。含フッ素低分子化合物は、例えばフルオロアルキル基含有ウレタン、フルオロアルキル基含有エステルであってよい。
【0020】
有機組成物が、分散液、特に水性分散液である場合には、有機組成物の乳化構造を破壊した後に、液相中に存在する含フッ素重合体中の可溶分(液相の液体媒体に溶解する成分)を含フッ素重合体から分離することが好ましい。有機組成物の乳化構造の破壊は、例えば、水と混合する有機溶媒を有機組成物に体積比で1から20倍量混合することによって行える。液相中に存在する含フッ素重合体中の可溶分を分離する方法は、固相抽出法であってよい。
【0021】
ペルフルオロオクタン酸はCF3CF2CF2CF2CF2CF2CF2COOHの化学構造を持つ化合物である。
試料中ペルフルオロオクタン酸は上記構造以外にイオン解離してCF3CF2CF2CF2CF2CF2CF2COO-、あるいは塩として(CF3CF2CF2CF2CF2CF2CF2COO)nM(Mは金属、NH4+などの陽イオン、nはMの価数)という化学形態をとりうる。本発明は上記何れの化学形態に対しても適用することが出来る。
【0022】
本発明においては、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸を有機組成物に添加する。13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の混合物を用いることが好ましく、混合物の溶液を用いることが特に好ましい。すなわち、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の混合物の溶液を有機組成物に添加することが好ましい。混合物の溶液に加えて、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸または13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の一方を、(実質的に含量100%の状態の液体で)有機組成物に(例えば、混合物のペルフルオロオクタン酸1モルに対して、0.01〜100モルの量で)添加してもよい。
【0023】
13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸は、ペルフルオロオクタン酸を構成する8つの炭素原子のうち、一部または全ての炭素原子を13C同位体で置換したものである。13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸としては、ペルフルオロオクタン酸を構成する8つの炭素のうち、2つ以上(すなわち2〜8、例えば3〜6)の炭素原子を13C同位体で置換したものを使用することが推奨される。13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸中に、ペルフルオロオクタン酸を構成する8つの炭素原子のうち1つの炭素原子が13C同位体で置換された分子は無視出来ない割合で存在するが、2つ以上の炭素原子が13C同位体で置換された分子は無視して差し支えないほど少ないためである。
具体的には、炭素原子の天然同位体存在比は12C/13C=98.9/1.1であるから、2つの炭素原子が13C同位体で置換された分子の存在比は以下の計算式で計算され、
(0.011)2×(0.989)6×8×7/2から
約0.3%となる。3つ以上の炭素が13C同位体で置換された分子はさらに少なくなる。
【0024】
添加するべき13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸(すなわち、通常のペルフルオロオクタン酸)と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸のモル比、特に、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸(すなわち、通常のペルフルオロオクタン酸)と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の混合物を含有する溶液(スパイク溶液)(特に、水溶液)の混合比は特に限定されるものではないが、同位体分別効果と呼ばれる13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の相対感度低下を勘案し、測定誤差を低減するためには、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸のモル比が10:1〜1:10、特に5:1〜1:5の範囲内にあるのが好ましい。
スパイク溶液中の13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の濃度は特に限定されず、測定試料中のペルフルオロオクタン酸濃度を勘案して適切に決定すべきだが、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の合計濃度が1ng/ml〜100μg/mlの範囲内にあるのが好ましい。
スパイク溶液の溶媒はペルフルオロオクタン酸を溶解することの出来る溶媒であれば使用可能であるが、水、メタノール、エタノール単独またはそれらの混合物が推奨される。
【0025】
13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸としてペルフルオロオクタン酸を構成する8つの炭素のうち、2つ以上の炭素原子を13C同位体で置換したものを使用した場合、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸中に含まれる2つ以上の炭素原子が13C同位体で置換された分子が無視して差し支えないほど少ない。
したがって、濃度A(ng/g)でペルフルオロオクタン酸を含む試料M1(g)に、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸濃度B(ng/g)および13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸濃度C(ng/g)のスパイク溶液M2(g)を混合した場合、スパイク溶液中の同位体組成比R0、混合後の同位体組成比Rはそれぞれ以下の式で表すことが出来る。
【0026】
R0=f×B/C
R=f×(A×M1+B×M2)/C×M2
【0027】
式中のfは、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の相対感度比を表す定数である。上二式よりfを消去すると

R=R0×(A×M1+B×M2)/B×M2 (式1)
【0028】
試料に既知量K(ng)のペルフルオロオクタン酸(特に、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸)を添加して測定を行うことも可能であり、その場合式(1)は以下のようになる。
【0029】
R=R0×(A×M1+K+B×M2)/B×M2 (式2)
【0030】
式1および式2より試料中ペルフルオロオクタン酸濃度Aは、スパイク溶液調製時に決定されるBとR0の他には試料やスパイクの質量と混合後の同位体組成比Rのみで計算され、回収率に依存しないことがわかる。
【実施例】
【0031】
(スパイク溶液の調製)
13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸および全ての炭素原子を13C同位体で置換したペルフルオロオクタン酸の濃度測定、および同位体組成比測定はウォーターズ社製LC/MS/MS QuattroMicro型を用いた。測定はMRM法を用い、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸ではm/z=413より生成するm/z=369を、全ての炭素原子を13C同位体で置換したペルフルオロオクタン酸ではm/z=421より生成するm/z=376を測定した。同位体組成比の計算には面積法を用いた。すなわち、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸の測定された面積値をS1、全ての炭素原子を13C同位体で置換したペルフルオロオクタン酸の測定された面積値をS2とすれば同位体組成比Rは以下の式で表される。
【0032】
R=S1/S2
ペルフルオロオクタン酸アンモニウム水溶液(ダイキン工業製DS101)を蒸発乾固して得られたペルフルオロオクタン酸アンモニウム1.0gを1000mlの水に溶解した。これを1.0ml採取し、100mlの水で希釈したものをa溶液とする。
全ての炭素原子を13C同位体で置換したペルフルオロオクタン酸(CIL社製)50μg/mlメタノール溶液をb溶液とする。
【0033】
a溶液2.0mlとb溶液1.2mlと水100mlを混合してスパイク溶液を調製した。
スパイク溶液中ペルフルオロオクタン酸濃度を外部標準法によって定量したところ、1.9×10E2ng/gであった。また、同位体組成比R0は0.6704であった。
【0034】
(参考例1)
市販の撥水撥油剤水性分散液(デュポン社製TFL10716)0.980gを秤取し、43ngの13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸とスパイク溶液0.134gを加えて均一に攪拌した後、1時間静置した。この試料より限外ろ過法によって固形分を除去したものを予めメタノールと水を通液してコンディショニングした固相抽出カートリッジ(ウォーターズ社製OasisHLB Plus)に通液した。10mlの水を通液して洗浄した後、2mlのメタノールを通液した。得られた溶液をLC/MS/MS測定に供したところペルフルオロオクタン酸も全ての炭素原子を13C同位体で置換したペルフルオロオクタン酸も検出されなかった。
【0035】
以上より、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸や全ての炭素原子を13C同位体で置換したペルフルオロオクタン酸は撥水撥油剤水性分散液中では液相に分配せず、固形分に吸着した形で存在していることがわかる。
【0036】
実施例1
市販の撥水撥油剤水性分散液(デュポン社製TFL10716) 0.990gを遠沈管に秤取し、129ngの13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸とスパイク溶液0.238gを加えて均一に攪拌した後、1時間静置した。これに5mlのメタノールを加えた後、回転数3000rpmで3分間遠心分離を行った。上清3mlを採取し、水30mlを加えたものを予めメタノールと水を通液してコンディショニングした固相抽出カートリッジ(ウォーターズ社製OasisHLB Plus)に通液した。10mlの水を通液して洗浄した後、2mlのメタノールを通液した。得られた溶液の同位体組成比Rは3.745であった。
【0037】
撥水撥油剤水性分散液中のペルフルオロオクタン酸濃度A (ng/g)には式(2)が成り立つから、
3.745 = 0.6704×(0.990×A+129+0.238×190) / (0.238×190)
【0038】
計算してAの値は79ng/gとなった。
【0039】
比較例1
実施例1で得られた上清を、固相抽出操作を行わずそのままLC/MS/MS測定に供したところ、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸も全ての炭素原子を13C同位体で置換したペルフルオロオクタン酸も検出されなかった。マトリックス除去が不十分であり、イオン化抑制によってLC/MS/MS装置の感度が低下したものと考えられる。
【0040】
実施例2
試料として撥水撥油剤水性分散液(ダイキン工業製TG581)を用いて実施例1と同様の操作をして、ペルフルオロオクタン酸濃度を測定した。
TG581のペルフルオロオクタン酸濃度は76ng/gであった。
【0041】
実施例3
試料として撥水撥油剤水性分散液(ダイキン工業製TG5601)を用いて実施例1と同様の操作をして、ペルフルオロオクタン酸濃度を測定した。
TG5601においては、ペルフルオロオクタン酸は検出されなかった。
【0042】
実施例4
実施例1で用いたものと同じ撥水撥油剤水性分散液試料2.113gを秤取し、41ngの13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸とスパイク溶液0.127gを加えて均一に攪拌した後、1時間静置した。この試料をドライアイス/メタノール浴に10分間浸漬して完全に凍結させた後、室温で静置して融解させたところ、乳化が破壊されて固液分離した。分離した液相を採取し、予めメタノールと水を通液してコンディショニングした固相抽出カートリッジ(ウォーターズ社製OasisHLB Plus)に通液した。10mlの水を通液して洗浄した後、2mlのメタノールを通液した。得られた溶液の同位体組成比Rは6.694であり、PFOA濃度を計算すると83ng/gとなった。
【0043】
比較例2
試料として撥水撥油剤水性分散液(ダイキン工業製TG581)を用いて実施例4と同様の操作を試みたところ、融解時に固液分離せず、測定することが出来なかった。
【0044】
比較例3
試料として撥水撥油剤水性分散液(ダイキン工業製TG5601)を用いて実施例4と同様の操作を試みたところ、融解時に固液分離せず、測定することが出来なかった。
【0045】
実施例5
ペルフルオロアルキルリン酸エステル系撥水撥油剤溶液(デュポン製ZonylRP)2.041gを秤取し、スパイク溶液0.539gを加えて均一に攪拌した後、1時間静置した。この試料に1規定希塩酸を滴下すると固形分が沈降した。分離した液相を採取し、予めメタノールと水を通液してコンディショニングした固相抽出カートリッジ(ウォーターズ社製OasisHLB Plus)に通液した。10mlの水を通液して洗浄した後、2mlのメタノールを通液した。得られた溶液の同位体組成比Rは80.244であり、ペルフルオロオクタン酸濃度を計算すると6μg/gであった。
【0046】
実施例6
試料としてダイキン工業製ME313を用いて実施例5と同様に操作したところ、ペルフルオロオクタン酸濃度は11μg/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、フッ素樹脂、撥水撥油剤、消火剤、界面活性剤等の工業製品に意図して使用されている、あるいはこれらの工業製品自体および/またはこれらの工業製品の含有する化学物質の分解によって意図せず生成するペルフルオロオクタン酸を定量できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸を有機組成物に添加した後に含フッ素化合物を分離し、液相中の13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の存在比を質量分析計を用いて測定することを特徴とする有機組成物中に含まれるペルフルオロオクタン酸含有量の測定方法。
【請求項2】
含フッ素化合物が含フッ素重合体または含フッ素低分子化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機組成物が含フッ素重合体の水性分散液または含フッ素低分子化合物の溶液または分散液である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
有機組成物が撥水撥油剤水性分散液である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の混合物の溶液を有機組成物に添加する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の混合物の溶液および13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸を有機組成物に添加する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
添加すべき13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸のモル比が10:1〜1:10の範囲内である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の混合物を含有する溶液において、13C同位体標識していないペルフルオロオクタン酸と13C同位体標識をしたペルフルオロオクタン酸の合計濃度が1ng/ml〜100μg/mlの範囲内である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
含フッ素化合物の分離は、有機組成物の乳化構造を破壊した後に、液相中に存在する含フッ素化合物中の可溶分を含フッ素化合物から分離することによって行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
有機組成物の乳化構造の破壊は、水と混合する有機溶媒を有機組成物に体積比で1から20倍量混合することによって行うことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
液相中に存在する含フッ素化合物中の可溶分を分離する方法が、固相抽出法であることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2011−237385(P2011−237385A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111325(P2010−111325)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】