説明

ペロブスカイト型導電性酸化物材料及びそれを用いた電極

【課題】Coを含み、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料及びそれを用いた電極を提供する。
【解決手段】 (RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表され、XPSによるCo2pピークの半値全幅が2.967eV以上であるペロブスカイト型導電性酸化物材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Coを含むペロブスカイト型導電性酸化物材料、及びそれを用いた電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐熱性導電酸化物材料として、LaCo系ペロブスカイト型複合酸化物が知られている(特許文献1,2、非特許文献1)。例えば、特許文献1には、(La,Sr)CoO3の比抵抗の変化が室温から1000℃の温度域で少ないことが記載されている。又、非特許文献1には、(La,Sr)CoO3を大気中、1200℃で7日間焼成して製造し、300℃の比抵抗が0.1〜1/1000(Ω・cm)程度(導電率で1000 S/cm程度)となることが記載されている。
(La,Sr)CoO3が高い導電率を示す理由として、Coの異常原子価、酸素Oの欠損又は過剰が考えられている。つまり、Co3+の一部がCo4+となり、酸素が量論組成である3からずれ、伝導を司る電子、ホールに影響していることが考えられる。また、酸素量とCoの価数には相関があり、これらは連動して変化する。なお、高導電率の導電性酸化物材料は導電性材料として利用可能であり、例えば、アルミナ、ジルコニア等のセラミック体上に電極として形成し、物理量センサ、化学量センサ、ヒータ等に適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51-52409号公報
【特許文献2】特開2000-252104号公報
【非特許文献1】大谷ら、" Electrical resistivity and thermopower of (La1-xSrx)MnO3 and (La1-xSrx)CoO3 at elevated temperatures ",Journal of the European Ceramic Society 20, p2721-2726(2000),(Fig.5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、一般式(RE,AE)CoO3(RE:希土類元素,AE:アルカリ土類元素)で表されるペロブスカイト型酸化物の導電率は酸素量とCoの価数によって大きく変化するため、その作製(合成)条件の影響を受け、仮に同一の組成であっても作製条件が異なれば所望の導電率が得られないという問題がある。
又、このペロブスカイト型酸化物の組成や作製条件を調整して、1500 S/cm以上の高い導電率を得ようとする際には、条件変更の度に試料を作製して導電率を測定する必要があり、多大の労力及びコストを要している。従って、当該酸化物の導電率に影響を与えるCoの価数を直接見積もることが出来る指標があれば有利である。
そこで、本発明は、(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表され、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料及びそれを用いた電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のペロブスカイト型導電性酸化物材料は、(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表され、XPSによるCo2pピークの半値全幅が2.967eV以上であることを特徴とする。
このような酸化物材料によれば、Co2pピークの半値全幅によって導電率に影響を与えるCoの価数を直接見積もることができ、多大の試行錯誤を経なくとも高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料の組成や製造条件を見出すことができる。そして、Co2pピークの半値全幅を管理することにより、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料を容易かつ安定して得ることができる。
【0006】
本発明のペロブスカイト型導電性酸化物材料において、直流4端子法にて測定した20℃における導電率が1500 S/cm以上であることが好ましい。
このような酸化物材料によれば、より高い導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料が得られる。
【0007】
本発明のペロブスカイト型導電性酸化物材料は、大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で、1250〜1450℃で1〜5時間焼成してなることが好ましい。
このような酸化物材料によれば、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料を容易かつ安定して製造することができる。
【0008】
本発明の電極は、前記ペロブスカイト型導電性酸化物材料が用いられ、セラミック体上に形成されたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表され、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の試料のXPSによるCo2pピークを示す図である。
【図2】各実施例の試料のCo2pピークの半値全幅と導電率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係るペロブスカイト型導電性酸化物材料は、(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表される基本組成を有している。(RE1-xAEx)CoO3は、Coの異常原子価、酸素Oの欠損又は過剰により、高い導電率を示す組成(材料)である。つまり、Co3+の一部がCo4+となり、酸素が量論組成である3からずれ、伝導を司る電子、ホールに影響していることが考えられる。また、酸素量とCoの価数には相関があり、これらは連動して変化する。つまり、上記ペロブスカイト型酸化物の導電率は酸素量とCoの価数によって大きく変化するため、その作製(合成)条件の影響を受け、仮に同一の組成であっても作製条件が異なれば所望の導電率が得られない。
このようなことから、本発明者は、上記ペロブスカイト型酸化物の導電率に影響を与えるCoの価数を直接見積もることが出来る指標として、XPSによる電子状態解析によって得られたCo2pピークの半値全幅を見出した。ここで、Co2pピークは、Coの2p電子軌道に由来するXPSのピークである。
【0012】
上記したCo2pピークの半値全幅(FWHM)が広いほどCo4+が多く、狭いほどCo3+が多くなるため、Coの価数を反映し、Co価数の変化挙動を直接評価することができる。そして、上記ペロブスカイト型酸化物のCo2pピークの半値全幅が2.967eV以上となると、直流4端子法にて測定した20℃における導電率1500 S/cm以上となり、導電率に優れる。
【0013】
なお、実際のCo2pピークの半値全幅の測定は次のようにして行うことができる。まず、試料のXPS(X線光電子分光)を測定する。XPSでは、構成元素の価数を結合エネルギーのシフトにより評価することができる。Co2pピークの3+/4+の結合エネルギー差は、構成元素に関わらず一定値をとる。従って、Coの価数がホールドープにより3+(3価)→4+(4価)と変化すれば、Co2pピークは、それぞれの価数に帰属される複数の異なる結合エネルギーのピークが複合したブロードなピークとして観察される。又、Co2pピークは、2つの分光学的準位(2p3/2,2p1/2)とそれに付随するサテライトピークを有している(図1参照、2つのピークA,Bのうち、ピークAがCo2p3/2に由来するピーク、ピークBがCo2p1/2に由来するピークであり、ピークC,Dがそれに付随するサテライトピークに該当)。なお、図1は、後述する実施例1の試料のXPSによるCo2pピークである。
従って、サテライトピークを含むCo2pピーク領域(結合エネルギー)として、775eV〜810eVの範囲のXPSスペクトルを、公知のShirley法によってバックグランド補正した後、Co2p3/2の半値全幅(FWHM)を求めてCo2pピークの半値全幅とする。なお、Co2p1/2ピークは、ピーク強度が小さく(Co3/2の1/2)、精度に欠けるため、半値全幅の測定に用いない。半値全幅の値は小数点以下3桁まで有効である。
なお、結合エネルギー補正(図1の横軸の補正)はC1s C-C結合 284.8eVで補正を行う。XPSの測定条件は、試料の100μmφの破断面を測定エリアとし、X線源をモノクロAlKα線 25W 15KV、光電子取り出し角度45°とする。XPS装置としては、アルバック・ファイ(ULVAC-PHI)社製の型番PHI Quantera SXMTMが例示される。
【0014】
このように、ペロブスカイト型導電性酸化物材料のCo2pピークの半値全幅を2.967eV以上とすることにより、1500 S/cm以上の高い導電率が得られる。
特に、Co2pピークの半値全幅を3.412eV以上とすると、2500 S/cm以上の高い導電率が得られる。
【0015】
本発明の実施形態に係るペロブスカイト型導電性酸化物材料において、RE(希土類元素)としては、La,Pr,Ce及びGdから選ばれる1種以上が挙げられ、AE(アルカリ土類元素)としては、Sr,Caから選ばれる1種以上が挙げられる。又、xは0<x<1であればよいが、0.20≦x≦0.80の範囲内とすることが好ましい。
又、本発明のペロブスカイト型導電性酸化物材料は、大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で、1250〜1450℃で1〜5時間焼成して製造することが好ましい。焼成温度が1250℃未満であると、緻密化しないことがあるため、1500 S/cm以上の導電率が得られないことがある。焼成温度が1450℃を超えると、過焼結となり緻密性が低下するため、1500 S/m以上の導電率が得られないことがある。
【0016】
本発明の電極は、上記したペロブスカイト型導電性酸化物材料を用い、アルミナ、ジルコニア等のセラミック体上に形成させることができる。具体的には、電極としては、物理量センサ、化学量センサ、ヒータ等に適用することができる。
【0017】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【実施例1】
【0018】
まず、原料粉末として、RE2O3、AECO3、Co3O4(全て純度99%以上の市販品を用いた。)を用い、表1に示す組成の(RE1-xAEx)CoO3となるように、これら原料粉末をそれぞれ秤量した後、湿式混合して乾燥することにより、原料粉末混合物を調整した。次いで、この原料粉末混合物を大気雰囲気下、1000〜1200℃で1〜5時間仮焼して仮焼粉末を得た。次に、この仮焼粉末と適量の有機バインダとを加え、これを分散媒のエタノールと共に樹脂ポットに投入し、ジルコニア玉石を用いて湿式混合粉砕してスラリーを得た。得られたスラリーを80℃で2時間ほど乾燥し、さらに、250μmメッシュの篩を通して造粒し、造粒粉末を得た。
次いで、得られた造粒粉末をプレス機(成形圧力;98MPa)によって、4.0mm×4.0mm×高さ20mmの角柱状の成形体に成形し、その後、大気雰囲気下または酸素雰囲気下(酸素100%の雰囲気下)で、1250〜1450℃の温度で1〜5時間焼成した。さらに得られた焼結体を平面研磨し、3.0mm×3.0mm×高さ15mmのペロブスカイト型導電性酸化物焼結体を得た。
【0019】
得られたペロブスカイト型導電性酸化物焼結体について、直流4端子法により導電率を測定した。測定に用いる電極及び電極線にはPtを用いた。また導電率測定は、電圧・電流発生器(エーディーシー社製のモニタ6242型)を用いた。
又、得られたペロブスカイト型導電性酸化物焼結体を破断し、破断面の100μmφを測定エリアとして光電子分光(XPS)測定を行った。XPS装置としては、アルバック・ファイ(ULVAC-PHI)社製の型番PHI Quantera SXMTMを用い、X線源をモノクロAlKα線 25W 15KV、光電子取り出し角度45°とした。775eV〜810eVの範囲のXPSスペクトルを測定し、公知のShirley法によってバックグランド補正した後、Co2p3/2の半値全幅(FWHM)を求めてCo2pピークの半値全幅とした。半値全幅の値は小数点以下3桁まで有効である。なお、結合エネルギー補正はC1s C-C結合 284.8eVで補正を行った。
【0020】
得られた結果を表1、図1、図2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1、図1、図2から明らかなように、Co2pピークの半値全幅が2.967eV以上である各実施例の場合、1500 S/cm以上の高い導電率が得られた。特に、Co2pピークの半値全幅が3.412eV以上である実施例1〜15の場合、2500 S/cm以上の高い導電率が得られた。
一方、導電性酸化物中にドーパントとなるSrを含まない比較例1の場合、及び導電性酸化物中のSrドーピング量(x)が0.2mol%未満である比較例2,3の場合、半値全幅が2.967eV未満となり、導電率が著しく低下した。これは、キャリア濃度が低い(伝導の媒体であるホールの生成量が少ない)ため、半値全幅が狭くなり、導電率の低下を招いたものと考えられる。
導電性酸化物中のAE(ドーパント)元素としてSrの代わりにCaを用いた比較例4の場合、ドーピング量(x)が0.2mol%であるにも関わらず、半値全幅が2.967eV未満となり、導電率が著しく低下した。これは、CaがSrに比べて高導電率化に対する効果が小さいためと考えられる。
なお、表1の参考例1は、特許文献1の実施例3の試料((La0.6Sr0.4)CoO3の室温における導電率である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表されるペロブスカイト型導電性酸化物材料であって、
XPSによるCo2pピークの半値全幅が2.967eV以上であることを特徴とするペロブスカイト型導電性酸化物材料。
【請求項2】
直流4端子法にて測定した20℃における導電率が1500 S/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト型導電性酸化物材料。
【請求項3】
大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で、1250〜1450℃で1〜5時間焼成してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のペロブスカイト型導電性酸化物材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のペロブスカイト型導電性酸化物材料が用いられ、セラミック体上に形成された電極。

【図2】
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【図1】
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