説明

ペロブスカイト型酸化物ナノシートおよびその製造方法

【課題】 改善した流動界面ゾル−ゲル法を利用し、膜厚が10〜1000nmのペロブスカイト型酸化物ナノシートを得る。
【構成】 ぺロブスカイト型酸化物の各構成成分の金属アルコキシドを化学修飾し、部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーをアルデヒド類を含む溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、精密にケミカルデザインされた流動界面ゾル−ゲル法で製造されるゲルナノシートを、二酸化炭素を除去した乾燥空気または酸素雰囲気中で焼成することにより、平均の厚みが10〜1000nmであるペロブスカイト型酸化物ナノシートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動界面ゾル−ゲル法による、化学式がABO3(ここでAは、Ba、Pb、Ca、Srなど2価元素、Bは、Ti、Zr、Sn、Hfなど4価元素であり、これらの固溶体であってもよい)であり、平均の厚みが10〜1000nmであるペロブスカイト型酸化物ナノシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式ABO3(ここでAは、Ba、Pb、Ca、Srなど2価元素、Bは、Ti、Zr、Sn、Hfなど4価元素であり、これらの固溶体であってもよい)のペロブスカイト型酸化物は、電子セラミックス材料として幅広く普及し、コンデンサ、マイクロ波誘電体、圧電体などとして多方面で利用されている。特に積層セラミックスコンデンサでは更なる高容量化かつ小型化のため、現在も研究が盛んに行われている。積層セラミックスコンデンサの容量Cは下式で示される。
C = ε0・εS・n・S/d
【0003】
ここで、ε0は真空の誘電率、εSは誘電体の比誘電率、nは積層数、Sは内部電極交差面積、dは誘電体層厚みであり、高容量化のためには誘電体層厚みを薄くして積層数を多くすることが有効である。大容量積層コンデンサなどを実現するための誘電体層の超薄層化が進む中で,原料であるペロブスカイト型酸化物の製造方法として、金属アルコキシドを原料とするナノ粒子合成法が特異的な重要性を持っていることが広く認められ始めている。例えば、実用的なペロブスカイト材料の多くが、複雑な多元固溶と微量添加物によって、高機能化、高性能化されており、金属アルコキシドを原料とするナノ粒子合成法のようないわゆる湿式法の他の乾式法に対する優位性が認められつつある。
【0004】
しかしながら、例えば、積層セラミックスコンデンサでこのまま薄層化が進むと,粒子径が数十nmであるナノ粒子の積層では対応できない厚みになってしまったり、あるいは,誘電体層の厚みがナノ粒子の大きさより薄くなってしまうという非現実的な事態まで予想されており、このような問題に対するブレークスルーが必要になってきた。さらに、このような従来技術のの発展に基づく製造技術からの具体的なプロセス要求と共に、近年の固体物性論の発達に基づくナノサイズ固体の示す特異な性質の理解や計測、そして実際の応用に対する期待から、チタン酸バリウムなどペロブスカイト型酸化物をナノシート化することが社会的要請になってきた。
【0005】
従来、セラミックスの薄膜は、一般的にゾル−ゲル法、CVD法、スパッター法、レーザーアブレーション法などによって作成されているが、そのほとんどが基材の上に作成された薄膜である。いわゆる基材のない自立した薄膜は何らかの方法で薄膜を基材から剥離させる必要があり、著しく生産性にかけるものであった。
【0006】
一方、基材を必要としない薄膜の製造方法としては、特開2001−261434号公報に記載された部分的に加水分解した高濃度の金属アルコキシド溶液を気−液界面でゲル化させチタン酸バリウム自立膜を作製する方法、特許第2592307号公報や特開昭63−166748号公報に記載された金属アルコキシド溶液を液−液界面で重合させ酸化物セラミックス薄膜を得る方法、特開昭51−34219号公報に記載された金属アルコキシド溶液を水面に滴下しガラス薄膜を得る方法が知られている。また、いわゆるこのようなゾル−ゲル法によらない方法として、層状チタン酸化物微結晶を剥離して得られる薄片粒子からなるチタニアナノシートとその製造方法が特開2002−265223号公報や特開2001−270022号公報に記載されている。
【0007】
しかしながら、前者の方法ではサブミクロン以上の膜厚の薄膜の作製が目的とされており、また加水分解によるゲル化の速度の制御が困難で、従って膜厚制御が困難であり、何よりも大量製造できない。後者の方法では、チタニアナノシートが得られるが、層状結晶性の原料にのみ有効な方法であり、また工程が複雑である。
【0008】
本発明者は、すでに、金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化する工程、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にする工程、この溶液を流動する水面上に精密に連続して滴下しゲルナノシートとする工程、これを回収する工程、および乾燥し焼成する工程を採用する酸化物セラミックスナノシートを製造する方法を見いだした。また、化学修飾して加水分解速度を調整した金属アルコキシドから得られたポリマーが、さらにポリマー溶液と水との界面で三次元網目構造のポリマーに転換し生成するゲルナノシートを酸化性雰囲気で焼成することにより酸化物セラミックスナノシート得られることを見いだした(特開2004−224623号公報)。
【0009】
しかしながら、化学式ABO3(ここでAは、Ba、Pb、Ca、Srなど2価元素、Bは、Ti、Zr、Sn、Hfなど4価元素であり、これらの固溶体であってもよい)のペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートを電子デバイス用などの材料として従来よりも高精度で膜厚を制御し、長時間安定して製造しようとすると、水に溶けやすい2価元素が流動界面を通して水側に溶解してシート組成が変化したり、2価元素の加水分解速度の制御ができず、ナノシートの膜厚が大きくばらついたり、さらには、ナノシート化しなかったり、場合によってはノズルから溶液が滴下できないなど問題点が明らかになった。
【0010】
【特許文献1】特開2001−261434号公報
【特許文献2】特許第2592307号公報
【特許文献3】特開昭63−166748号公報
【特許文献4】特開昭51−34219号公報
【特許文献5】特開2002−265223号公報
【特許文献6】特開2001−270022号公報
【特許文献7】特開2004−224623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来の酸化物セラミックスナノシートの製造方法における課題に鑑み、改善した流動界面ゾル−ゲル法を利用し、ペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートを、安定して長時間製造するための製造方法と、同方法により製造される、膜厚が10〜1000nmのペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、流動界面ゾル−ゲル法のプロセスを改善することにより、プロセスの制御を厳密に行い、ペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートを、安定して長時間製造するための製造方法を見出し、同方法により製造される、化学式ABO3(ここでAは、Ba、Pb、Ca、Srなど2価元素、Bは、Ti、Zr、Sn、Hfなど4価元素であり、これらの固溶体であってもよい)のペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートの膜厚を10〜1000nmで厳密に制御できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明によるペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートの製造方法は、前記の化学式がABO3のペロブスカイト型酸化物を出発原料として、各成分の金属アルコキシドを化学修飾し、部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、乾燥したゲルナノシートを空気または酸素雰囲気中で焼成するものである。
【0014】
この場合、前記A成分の金属アルコキシドをアルデヒド類で化学修飾し、部分加水分解によりポリマー化したB成分と混合した後、該混合物をアルデヒドで改質する。さらに、流動界面を形成する水が、Aイオンと必要により非イオン系界面活性剤を含む水であり、さらに必要により流動界面で展開したポリマーのナノシートを水中またはシート上部から過熱しゲル化を促進する工程を含む。
本発明では、これらの製造方法により、シートの平均の厚みが10〜1000nmであるペロブスカイト型酸化物ナノシートを得るものである。
【発明の効果】
【0015】
このようにして本発明によれば、化学修飾したペロブスカイト型酸化物セラミックス各成分の金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化した前駆体をアルデヒドで改質して、精密にケミカルデザインしたプロセスで流動する水面上に敵か展開する流動界面ゾル−ゲル法によりペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートが大量に製造できる。この方法によれば、従来技術では製造できなかった新規な二次元物質であるペロブスカイト型酸化物セラミックスを市場に供給できる。また本発明のナノシートは厚みが10〜1000nmの範囲で厳密に制御され、シート内のペロブスカイト型酸化物粒子は極めて微細であり、したがって、これを原料とすることで、超高容量積層セラミックスコンデンサの実現など、従来のナノ粒子では得られなかった高性能電子デバイスに応用できるという有利な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、流動界面ゾル−ゲル法のプロセスを改善することにより、ペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートの膜厚を10〜1000nmで厳密に制御し、ペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートを、安定して長時間製造するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、より具体的且つ詳細に説明する。
【0017】
本発明のペロブスカイト型酸化物セラミックスナノシートの製造方法は、本件特許出願人によりすでに特許出願されている流動界面ゾル−ゲル法(特開2004−224623号公報)を利用することができる。すなわち、化学修飾した原料金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化する工程、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にする工程、この溶液を流動する水面上に周囲の雰囲気を制御されたノズルから精密に連続して滴下しゲルナノシートとする工程、これを回収し乾燥する工程、さらに焼成する工程からなる製造方法である。
【0018】
この工程で使用する原料アルコキシドは、化学式ABO3(ここでAは、Ba、Pb、Ca、Srなど2価元素、Bは、Ti、Zr、Sn、Hfなど4価元素であり、これらの固溶体であってもよい)のペロブスカイト型酸化物を構成する各金属のアルコキシドであり、化学修飾された金属アルコキシドを用いることが好ましい。
【0019】
アルコキシ基は焼成により酸化物セラミックス中から除去されるため一般的には炭素数の少ないエチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル基などが好ましいが、加水分解速度を厳密に制御するために、適宜アルコキシ基を選択することにより加水分解速度を調整することもできる。その方法としては、原料アルコキシドをキレート化、エステル交換、アルコキシ交換、アシドリシス、酸無水物、二塩基酸との反応などにより化学修飾して加水分解速度を調整することが好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、オクタンジオール、ヘキサンジオールのようなグリコール類、アセチルアセトンのようなβ−ジケトン類、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸のようなヒドロキシカルボン酸類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルのようなケトエステル類、ジアセトンアルコールのようなケトアルコール類のO配位タイプの配位子、エチレンジアミン、アミノアルコール、オキシキノリン、シッフベースのようなN配位タイプの配位子、シクロペンタジエニル化合物のようなC配位タイプの配位子、P、B、S配位タイプの配位子によるキレート化、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルのような有機酸エステル類によるエステル交換反応、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノールのようなアルキル鎖長の長いアルコール類によるアルコキシ交換反応、酢酸、プロピオン酸、フェニル酢酸のようなカルボン酸類とのアシドリシス、無水酢酸、無水ヘプタン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸のような酸無水物との反応、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸のような二塩基酸との反応により金属アルコキシドの一部あるいは全部を加水分解速度の異なる置換機に置換することにより、さらには一部ポリマー化することにより化学修飾して加水分解速度を調整することが可能となる。置換されるアルコキシ基の割合はアルコキシ基の種類により異なるが、全アルコキシ基の5〜80%が置換されていることが好ましい。5%以下では効果が十分ではなく、80%を超えると以下の部分加水分解でポリマー化が不十分となり、ゲルナノシート化する次の工程においてゲル化しにくく好ましくない。
【0020】
このような原料アルコキシドの化学修飾は、化学式ABO3で明らかなように2価と4価で価数が異なるため、別々に行うことが好ましい。また、A成分がBa、Sr、Caなどで、原料アルコキシドの加水分解速度が極めて速い場合は、予め、アルデヒド類により改質することが好ましい場合がある。改質のメカニズムは必ずしも明確ではないが、置換や付加反応により加水分解に対して安定化させることができる。アルデヒドとしては、プロパナール、ブタナール、2−メチルプロパナール、ペンタナール、3−メチルブタナール、2−メチルブタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナールなどを用いることができるが、プロパナール、ブタナール、ペンタナールが適度な水への溶解性や前駆体の改質が良好、すなわちナノシート化しやすい点で好適である。また、後述する工程でポリマー化した4価金属アルコキシドと混合し、その後改質することが好ましい場合もある。
【0021】
こうして少なくともB成分の原料アルコキシド中には加水分解の速い置換基と遅い置換機が導入され、場合によっては加水分解によるポリマー化が部分的に達成されたのと同様の効果を期待できる。こうして化学修飾された金属アルコキシドはエタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、ジエチルエーテルのような水を溶解する溶媒で希釈され、これに同様の溶媒中に所望の量の水を溶解し、さらに必要に応じて塩酸などの酸触媒を加えたものを攪拌しながら加えることにより部分的に加水分解され、ポリマー化される。
【0022】
化学修飾された金属アルコキシドは必ずしも希釈する必要はないが、十分な流動性を確保するために、適宜溶媒で希釈することができる。この希釈用の溶媒は脱水されていることが望ましい。
【0023】
また混合する水の量は原料アルコキシドを部分的に加水分解する量であることが必要であり、一般的に、原料アルコキシドの0.5〜2倍モルの範囲で化学量論的に決定されなければならない。すなわち、本発明では、原料アルコキシドのポリマー化を、溶媒に可溶であることはもちろん、後述する流動する水面上に精密に連続して滴下しゲルナノシートとする工程において、ポリマー溶液と水との界面で三次元網目構造のポリマーに転換しゲルナノシートを生成するために鎖状ポリマーあるいは分岐構造を有する鎖状ポリマーとして得ることが必須である。水の量が原料アルコキシドの0.5倍モルより少ないと鎖状ポリマーを形成しないアルコキシドが残留し、2倍モルを超えるとゲル化するか一部無機微粒子を形成し前駆体溶液を形成しにくくなるので好ましくない。
【0024】
このように調製された原料アルコキシドポリマー溶液は、次の工程に用いることができるが、鎖状ポリマーあるいは分岐構造を有する鎖状ポリマーの十分な発達と溶液の組成および濃度を厳密に制御するために減圧下で熟成および濃縮しておくことが望ましい。熟成時間は濃縮に要する時間で十分である。濃縮温度は室温から100℃で十分であり、100℃以上では精製したポリマーがゲル化する場合があり好ましくない。
【0025】
濃縮されたポリマーが、前記4価金属アルコキシドのみを原料として調製された場合には、この濃縮されたポリマーに2価金属であるA成分の金属アルコキシドを適当な前記溶媒に溶解し化学量論組成で混合する。溶媒は均一な混合を目的として使用されるため、化学修飾する前の金属アルコキシドのアルコキシ基に相当するアルコールが好ましい。さらに、次の工程でアルデヒドにより前駆体を改質し、濃度を調整するために、必要に応じて減圧下で熟成および濃縮しておくことが望ましい。
【0026】
流動界面ゾル−ゲル法でペロブスカイト型酸化物前駆体を水面上滴下し均一に展開し加水分解させ均一なゲルナノシートにするためには、前記工程で得られた前駆体ポリマーあるいは前駆体混合物をアルデヒドを用いて改質することが極めて重要である。したがって、本発明においては、アルデヒドを用いて所望の濃度の溶液にする工程が必須である。
【0027】
前駆体を改質するアルデヒドとしては、プロパナール、ブタナール、2−メチルプロパナール、ペンタナール、3−メチルブタナール、2−メチルブタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナールなどを用いることができるが、プロパナール、ブタナール、ペンタナールが適度な水への溶解性や前駆体の改質が良好、すなわちナノシート化しやすい点で好適である。
【0028】
アルデヒドと前駆体ポリマーあるいは前駆体混合物との反応の詳細は不明であるが、アルデヒドはカルボニル化合物のうちでも極めて反応性に富む活性な化合物であり、例えば、金属アルコキシドとの反応ではメールワイン−ポンドルフ反応が知られており、前駆体中の特にA成分の2価の金属アルコキシドに作用し、アルコキシ基の交換反応や、付加或いは配置化合物などの反応中間体を形成し、アルコキシドの加水分解速度を遅くしたり、4価の金属アルコキシドから生成したポリマーとの反応を促進し、前駆体をより安定で均一な加水分解速度を有するポリマーへと転換すると推定される。
【0029】
前駆体の濃度はナノシートの厚みを制御するために厳密に制御しなければならず、1〜98%の濃度が好適である。1%以下ではではゲルナノシートの厚みが実質的に制御できなくなり、98%以上ではポリマーに起因する溶液の粘度の上昇が支配的になり、溶液が次の前駆体溶液を展開するための工程でノズルからの滴下が困難になったり、流動する界面に滴下された際に水面上に広がりにくくなるためナノシートが得られない。濃度を調整するための溶媒はアルデヒドでよいが、他の溶媒を混合して調整することもできる。混合する溶媒としては、前駆体にさらに反応を起こさせないために化学修飾する前の金属アルコキシドのアルコキシ基に相当するアルコールが好ましい。
【0030】
調整した前駆体溶液を流動する水面上に周囲の雰囲気を制御されたノズルから精密に連続して滴下しゲルナノシートとする工程では、流動する水面上に前駆体溶液を精密に連続して滴下しゲルナノシートとする。
この工程においては、流動する界面を形成する水の温度の制御、流動する界面を形成する水の表面張力やpHの制御、ゲルナノシートからの成分元素の溶出を制御する物質の溶解、流動する界面上の雰囲気の制御などによって前駆体溶液の展開面積を制御し、ゲルナノシートの膜厚を制御しなければならないが、従来の方法では一般的な情報しか得られておらず、本発明の方法では、以下の点が特に重要である。
【0031】
流動界面ゾル−ゲル法において、水面上で生成するペロブスカイト型酸化物セラミックスゲルナノシートから2価イオンが水中に溶出し、ペロブスカイト型酸化物セラミックスゲルナノシートから2価イオンが欠損するのを防ぐために、流動界面を形成する水にAイオンを予め溶かしておくことができる。Aイオンの濃度はできるだけ高い方がよく、飽和水溶液であることが好ましい。Aイオンを飽和する方法は、Aイオンを含む水溶性の無機化合物を用いることができ、一般的に水酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、酢酸塩などを用いることができるが水酸化物など焼成後に残留成分の少ないものが好ましい。
【0032】
流動界面ゾル−ゲル法において、流動界面を形成する水が、さらに非イオン系界面活性剤を含む水であることはゲルナノシートの膜厚を厳密に制御する上で好ましい。流動界面を形成する水に界面活性剤を添加し、その表面張力を制御し、結果として前駆体液滴に作用する表面張力及び界面張力を制御することにより水面上に展開する前駆体のシート面積を厳密に制御することができる。用いる界面活性剤としては金属イオンを含まない非イオン系界面活性剤が好ましく、例えばポリオキシオクチルフェニルエーテルなどが好適である。また、界面活性剤の濃度は特に制限はないが、あまり高い濃度は現実的でなく、水10Lに対して0.1〜2g程度で、前駆体の種類に応じて決めるのが好ましい。
【0033】
流動界面ゾル−ゲル法において、流動界面で展開したポリマーのナノシートを水中またはシート上部から過熱しゲル化を促進することは、回収したゲルナノシート間の溶着を防ぎ、結果としてナノシート製造装置を小型化できる。加熱はゲルナノシートが所望の面積に広がったところで、水中あるいは上空に設置したヒーターにより行うことができる。加熱する温度は流動している水の温度より高く100℃以下であればよいが、ゲル化を有効に促進するために水温より5℃程度以上高ければよい。
【0034】
前記の工程で得られたゲルナノシートを回収し乾燥する。乾燥する温度は、室温から100℃の温度範囲でよく、乾燥する雰囲気は大気あるいは酸素雰囲気でよいが、ゲルナノシート中にバリウムなどが含まれていて炭酸塩を生成する場合には、二酸化炭素を除去した雰囲気を使用することが好ましい。
【0035】
こうして得られたゲルナノシートを焼成して、本発明の製造方法におけるペロブスカイト型酸化物ナノシートを得る。この時の焼成温度は、得られたゲルナノシート中にはポリマー由来の有機物が含有されているので、炭素含有量の低い酸化物を得るために所定の温度まで残留有機物が徐々に熱分解し酸化する5〜200℃/時間で昇温する。焼成温度は化合物の種類により異なるが、一般的には残留する炭素が酸化により十分除去される500℃以上が好ましい。
【0036】
焼成する雰囲気は大気でよいが、酸化物ナノシートの緻密化を促進し、窒素含有量を低くするために、水蒸気圧を制御したり、酸素分圧を高めた雰囲気を使用することが好ましく、例えば水蒸気圧を制御した酸素雰囲気が好ましい。また、二酸化炭素が存在する雰囲気で炭酸塩を生成する場合には、二酸化炭素を除去した雰囲気を使用することが好ましい。
【0037】
以上の製造方法により製造される、化学式がABO3(ここでAは、Ba、Pb、Ca、Srなど2価元素、Bは、Ti、Zr、Sn、Hfなど4価元素であり、これらの固溶体であってもよい)であるぺロブスカイト型酸化物ナノシートは、平均の厚みが10〜1000nmで厳密に制御されたペロブスカイト型酸化物ナノシートである。
図1に、本製造方法により厳密に膜厚制御されたゲルナノシートを二酸化炭素を含まない酸素中で1000℃で1時間焼成して得られたチタン酸バリウムナノシートのSEM写真を示す。また図2にX線回折の結果を示す。
【0038】
本製造方法では、厚みが10〜1000nmで厳密に制御されたペロブスカイト型酸化物ナノシートが得られるが、その厚みだけではなく、ペロブスカイト型酸化物ナノシート中のペロブスカイト型酸化物粒子の大きさが、焼成温度に依存するけれども一般的にシートの厚みの1/5以下のナノ結晶粒として得られるため、従来のナノ粒子とは全く異なる機能の発現や高機能化が期待でき、例えば、積層セラミックスコンデンサでは、飛躍的に誘電体層の厚みを小さくでき、超高容量次世代コンデンサを実現する原料として期待される。
次に、本発明の具体例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
1モルのテトライソプロポキシチタンを0.6モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1モルの水を加え1時間かけて部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これに、過剰のイソプロパノールに溶解したジイソプロポキシバリウムを添加した。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮することにより、次の工程でブタナールを添加して所定の濃度になるようにイソプロパノールを残留させた。この粘稠な生成物に、イソプロパノールとブタナールが3:2になるようにブタナールを添加し、50wt%の前駆体溶液を調整した。この時発熱反応が起こることを確認した。
【0040】
ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気とし、水酸化バリウムを飽和させ、界面活性剤として0.85g/10Lの割合でポリオキシオクチルフェニルエーテルを溶解した水を用いて、流動界面ゾル−ゲル法で、水面上の雰囲気を窒素雰囲気としてゲルナノシートを作製した。水の温度は、27、32、35℃とした。得られたゲルナノシートを二酸化炭素を除去した空気中、80℃で3時間乾燥し、その後酸素雰囲気中で1000℃まで100℃/時で加熱し、1時間保持して焼成した。得られたナノシートはSEMで観察した結果、粗大化した粒子が観測されず、厚みは上記水の温度に対してそれぞれ約80、200、500nmで、非常に均一な厚みを有していた。シートのX線回折測定の結果から、テトラゴナルBaTiO3であることが確認され、元素分析の結果、化学量論組成であることが確認された。
【0041】
得られた200nmの厚みのチタン酸バリウムナノシートを、大気中でさらに1300℃あるいは1400℃で焼成して得られたナノシートの誘電率の周波数分散評価を行った結果を図3に示す。1000kHzまで誘電損失が小さく、高誘電率であることが確認された。
【実施例2】
【0042】
実施例1と同様に、1モルのテトライソプロポキシチタンを0.6モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、部分加水分解を行った後濃縮して粘稠な生成物を得た。これに、所定量のブタナールに溶解したジイソプロポキシストロンチウムを添加した。この時発熱反応が起こり長時間安定なブタナールで化学修飾されたジイソプロポキシストロンチウム溶液が得られた。この溶液とテトライソプロポキシチタンから得られた粘稠な生成物と混合し、イソプロパノールとブタナールが3:2になるようにブタナールを添加し、45wt%の前駆体溶液を調整した。
【0043】
ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気とし、水酸化ストロンチウムを飽和させ、界面活性剤として1g/10Lの割合でポリオキシオクチルフェニルエーテルを溶解した水を用いて、流動界面ゾル−ゲル法で、水面上の雰囲気を窒素雰囲気としてゲルナノシートを作製した。水の温度は35℃とし、所定の面積に展開する位置で上部ヒーターにより50℃で加熱してゲル化を促進した。得られたゲルナノシートを二酸化炭素を除去した空気中、80℃で5時間乾燥し、その後酸素雰囲気中で800℃まで100℃/時で加熱し、1時間保持して焼成した。得られたナノシートはSEMで観察した結果、粗大化した粒子が観測されず、厚みは約70nmで、均一な厚みを有していた。シートのX線回折測定の結果からSrTiO3であることが確認され、元素分析の結果、化学量論組成であることが確認された。
【実施例3】
【0044】
1モルのテトライソプロポキシジルコニウムを3モルのアセチルアセトンでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1モルの水を加え1時間かけて部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これに、過剰のイソプロパノールに溶解したジイソプロポキシ鉛を添加した。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮することにより、次の工程でペンタナールを添加して所定の濃度になるようにイソプロパノールを残留させた。この粘稠な生成物に、イソプロパノールとペンタナールが3:1になるようにペンタナールを添加し、50wt%の前駆体溶液を調整した。この時発熱反応が起こることを確認した。
【0045】
ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気とし、水酸化鉛を飽和させ、界面活性剤として0.85g/10Lの割合でポリオキシオクチルフェニルエーテルを溶解した水を用いて、流動界面ゾル−ゲル法で、水面上の雰囲気を窒素雰囲気としてゲルナノシートを作製した。水の温度は、27℃とした。所定の面積に展開する位置で上部ヒーターにより60℃で加熱してゲル化を促進した。得られたゲルナノシートを二酸化炭素を除去した空気中、80℃で5時間乾燥し、その後酸素雰囲気中で1100℃まで100℃/時で加熱し、1時間保持して焼成した。得られたナノシートはSEMで観察した結果、粗大化した粒子が観測されず、厚みは上記水の温度に対してそれぞれ約100nmで、均一な厚みを有していた。シートのX線回折測定の結果から、PbZrO3であることが確認され、元素分析の結果、化学量論組成であることが確認された。
【実施例4】
【0046】
実施例1と同様に、1モルのテトライソプロポキシチタンを0.6モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、部分加水分解を行った後濃縮して粘稠な生成物を得た。これに、所定量のブタナールに3:1のモル比で溶解したジイソプロポキシバリウムとジイソプロポキシカルシウムを添加した。ブタナールに溶解した際発熱反応が起こり長時間安定なブタナールで化学修飾されたジイソプロポキシスバリウム及びジイソプロポキシカルシウム混合溶液が得られた。この溶液とテトライソプロポキシチタンから得られた粘稠な生成物と混合し、イソプロパノールとブタナールが3:2になるように調整し、35wt%の前駆体溶液を調整した。
【0047】
ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気とし、水酸化バリウムと水酸化カルシウムを飽和させ、界面活性剤として1.5g/10Lの割合でポリオキシオクチルフェニルエーテルを溶解した水を用いて、流動界面ゾル−ゲル法で、水面上の雰囲気を窒素雰囲気としてゲルナノシートを作製した。水の温度は35℃とし、所定の面積に展開する位置で上部ヒーターにより50℃で加熱してゲル化を促進した。得られたゲルナノシートを二酸化炭素を除去した空気中、80℃で5時間乾燥し、その後酸素雰囲気中で900℃まで100℃/時で加熱し、1時間保持して焼成した。得られたナノシートはSEMで観察した結果、粗大化した粒子が観測されず、厚みは約150nmで、均一な厚みを有していた。シートのX線回折測定の結果からペロブスカイト構造であることが確認され、元素分析の結果、化学量論組成であることが確認された。
【実施例5】
【0048】
0.5モルのテトライソプロポキシチタンと0.5モルのテトライソプロポキシジルコニウムを混合し、エタノールで希釈した0.8モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1モルの水を加え1時間かけて部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これに、過剰のイソプロパノールに溶解したジイソプロポキシバリウムを添加した。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮することにより、次の工程でブタナールを添加して所定の濃度になるようにイソプロパノールを残留させた。この粘稠な生成物に、イソプロパノールとブタナールが3:2になるようにブタナールを添加し、70wt%の前駆体溶液を調整した。この時発熱反応が起こることを確認した。
【0049】
ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気とし、水酸化バリウムを飽和させ、界面活性剤として0.5g/10Lの割合でポリオキシオクチルフェニルエーテルを溶解した水を用いて、流動界面ゾル−ゲル法で、水面上の雰囲気を窒素雰囲気としてゲルナノシートを作製した。水の温度は、25℃とした。得られたゲルナノシートを二酸化炭素を除去した空気中、80℃で6時間乾燥し、その後酸素雰囲気中で900℃まで100℃/時で加熱し、1時間保持して焼成した。得られたナノシートはSEMで観察した結果、粗大化した粒子が観測されず、厚みは約150nmで、非常に均一な厚みを有していた。シートのX線回折測定の結果から、ペロブスカイト構造であることが確認され、元素分析の結果から、原料混合比で各元素が存在していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施例によるペロブスカイト型酸化物ナノシートの製造方法において、膜厚を制御されて得られたチタン酸バリウムナノシートのSEM写真である。
【図2】本発明の一実施例によるペロブスカイト型酸化物ナノシートの製造方法において、1000℃で熱処理されたチタン酸バリウムナノシートのX線回折チャートである。
【図3】本発明の実施例1で得られた200nmの厚みのチタン酸バリウムナノシートを、大気中でさらに1300℃あるいは1400℃で焼成して得られたナノシートの誘電率の周波数分散評価結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式がABO3(ここでAは、Ba、Pb、Ca、Srなど2価元素、Bは、Ti、Zr、Sn、Hfなど4価元素であり、これらの固溶体であってもよい)であるぺロブスカイト型酸化物の出発原料として、各成分の金属アルコキシドを化学修飾し、部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、乾燥したゲルナノシートを空気または酸素雰囲気中で焼成することにより、平均の厚みが10〜1000nmであるペロブスカイト型酸化物ナノシートの製造方法。
【請求項2】
A成分の金属アルコキシドをアルデヒド類で化学修飾し、部分加水分解によりポリマー化したB成分と混合した後、該混合物をアルデヒドで改質することを特徴とする請求項1に記載したペロブスカイト型酸化物ナノシートの製造方法。
【請求項3】
流動界面ゾル−ゲル法において、流動界面を形成する水が、Aイオンを含む水であることを特徴とする請求項1または2に記載したペロブスカイト型酸化物ナノシートの製造方法。
【請求項4】
流動界面ゾル−ゲル法において、流動界面を形成する水が、Aイオンと非イオン系界面活性剤を含む水であることを特徴とする請求項1または2に記載したペロブスカイト型酸化物ナノシートの製造方法。
【請求項5】
流動界面ゾル−ゲル法において、流動界面で展開したポリマーのナノシートを水中またはシート上部から過熱しゲル化を促進することを特徴とする請求項1または2に記載したペロブスカイト型酸化物ナノシートの製造方法。
【請求項6】
ゲルナノシートの乾燥及び焼成を二酸化炭素の非存在下で行うことを特徴とする請求項1または2に記載したペロブスカイト型酸化物ナノシートの製造方法。
【請求項7】
平均の厚みが10〜1000nmであることを特徴とする請求項1〜4記載の製造方法により製造される化学式がABO3(ここでAは、Ba、Pb、Ca、Srなど2価元素、Bは、Ti、Zr、Sn、Hfなど4価元素であり、これらの固溶体であってもよい)であるペロブスカイト型酸化物ナノシート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−256875(P2006−256875A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72479(P2005−72479)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(503032588)株式会社アート科学 (12)
【出願人】(504106505)財団法人日立地区産業支援センター (3)
【Fターム(参考)】