説明

ペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法

【課題】均一な細孔径を有し、比表面積、細孔容積が大きいペロブスカイト型酸化物多孔質体、特に結晶性を有するペロブスカイト型酸化物多孔質体を安定的に製造する方法を提供する。
【解決手段】下記(a)、(b)及び(c)を含むペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。工程(a):特定の平均粒径のポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子の存在下で、ペロブスカイト型酸化物前駆体のゾル−ゲル反応を行う。工程(b):得られた反応溶液を乾燥し、ゾル−ゲル反応を完結し有機無機複合体を得る。工程(c):前記重合体粒子を除去するとともに細孔壁のペロブスカイト型酸化物前駆体を結晶化させ、細孔径が細孔壁のペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズより大きく、特定の非表面積、空孔率を有するペロブスカイト型酸化物多孔質体を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ある種の界面活性剤等が溶液中で自己組織的にミセル集合体を形成する性質を利用し、それを鋳型として孔径2〜50nmのメソ孔を有する多孔質材料(メソポーラス材料)がシリカ系材料から合成されてきた。1992年、界面活性剤を鋳型として、直径2nm以上のメソ孔を有するシリカ多孔体がMobil社によって開発された(非特許文献1)。非特許文献1には、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を鋳型とし、シリカ成分を反応させることにより直径2〜8nmの円筒状細孔が2次元−六方構造を形成したMCM−41型および細孔が3次元的に連結したMCM−48型の2種類のタイプのメソポーラスシリカを合成する方法が記載されている。
【0003】
さらに、界面活性剤として親水性のエチレンオキサイド(EO)と疎水性のプロピレンオキサイド(PO)からなるトリブロックコポリマーPluronic P123(EOmPOnEOm、m=17、n=56、BASF)を鋳型とする反応により、10nm以上の細孔径をもつ2次元−ヘキサゴナル構造メソポーラスシリカ(SBA−15)の製造方法が示されている。(非特許文献2)。
【0004】
ペロブスカイト型酸化物であるチタン酸バリウム(BaTiO)多孔質体を得る方法としては、界面活性剤Pluronic F127のミセル集合体をメソ孔中に存在させ、焼成することによりペロブスカイト型結晶相からなる多孔質体の製造方法が開示されている。(非特許文献3)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C.T.Kresge ほか4名、Nature、359、p.710〜712(1992)
【非特許文献2】D.Zhao ほか6名、Science、279、548(1998)
【非特許文献3】Chia−Kuang Tsungほか5名、Angew.Chem.Int Ed.47、p.8682〜8686(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、界面活性剤が自己組織的に形成するミセル構造を鋳型として形成するメソポーラス物質は広く検討されている。しかしながら、今日まで用いられてきた界面活性剤の場合、水中に於ける希釈濃度、pHや温度などの条件によりラメラ相から、2次元ヘキサゴナル相さらにはキュービック相へとダイナミックに相変化する特性があるため、均一な平均細孔径を有するキュービック相構造を有するメソポーラス材料を安定的に製造するのが難しいという問題があった。
【0007】
また、結晶性金属酸化物であるペロブスカイト型酸化物多孔質体は非晶質(アモルファス)で構成された材料を結晶構造のものへ転移させるために加熱などを行うと、細孔の小さなメソポーラス材料ではその壁膜が非常に薄いため、非晶質でのメソポーラスの形状を保持することができないという問題がある。非特許文献3における製造方法においては、結晶化後の細孔の分布は非常にブロードであり、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察像で
は明確な細孔構造を確認することができない。すなわち、メソポーラス材料の調製に通常用いられるチタンおよびバリウムのアルコキシドを用いて、低温で合成を行った場合にはその細孔壁は非晶質となり、結晶構造を持たせる為には高温での焼成処理が必要となるが、高温での焼成処理を行うと、その過程でメソポーラスの形状が破壊されてしまうため、結晶構造を持った金属酸化物多孔質体を形成するのが難しかった。あるいは、結晶成長等の手法を用い、直接結晶構造を有するメソポーラスペロブスカイト型酸化物を製造しようとする場合、ナノオーダーでの結晶の大きさの制御が難しく、3次元的に規則的に整列した構造を持たせることが非常に困難である点、さらに結晶性の低い材料しか得られないなど結晶性ペロブスカイト型酸化物が本来持つ特性を生かせないなどの課題が挙げられている。
【0008】
多孔質(メソポーラス)材料は表面積を大きくできることで、その材料の持つ特性を飛躍的に延ばせること見込まれている。
【0009】
本発明の目的は、均一な細孔径を有し、比表面積、細孔容積が大きいペロブスカイト型酸化物多孔質体、特に結晶性を有するペロブスカイト型酸化物多孔質体を安定的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]下記製造工程(a)、(b)及び(c)を含むペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
工程(a):動的光散乱式粒度分布系で測定した体積50%平均粒径(γ)が30nmを超え300nm以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子の存在下で、ペロブスカイト型酸化物前駆体のゾル−ゲル反応を行う。
工程(b):前記工程(a)において得られた反応溶液を乾燥し、ゾル−ゲル反応を完結し有機無機複合体を得る。
工程(c):ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を除去するとともに細孔壁のペロブスカイト型酸化物前駆体を結晶化させ、下記要件(i)、(ii)及び(iii)を満たすペロブスカイト型酸化物多孔質体を調製する。
要件(i):α>β
(αは窒素吸着法によるBJH解析から求められる平均細孔径であり、βは粉末X線解析のデバイ・シェラー法で求められる細孔壁のペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズである。)。
要件(ii)窒素吸着法によるBET比表面積が50m/g以上である。
要件(iii)空孔率が60体積%以上である。
【0011】
[2]β<γであることを特徴とする[1]に記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【0012】
[3]ペロブスカイト型酸化物多孔質体はメソ孔を有し、その細孔構造がキュービック相構造であることを特徴とする[1]又は[2]のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【0013】
[4]αが30nmを超え300nm以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【0014】
[5]前記工程(b)は、前記反応溶液をスプレードライヤー法により乾燥し、粒子状有機無機複合体を形成する工程である[1]〜[4]のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【0015】
[6]ペロブスカイト型酸化物がチタン酸バリウム(BaTiO)又はチタン酸ストロンチウム(SrTiO)であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば均一な細孔径を有し、比表面積、細孔容積が大きいペロブスカイト型酸化物多孔質体を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】平均細孔径(α)、ペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズ(β)の関係により得られる多孔質構造の規則性が変化することを示す模式図。
【図2】実施例1のXRDスペクトルを示す
【図3】実施例1のSEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明においては、水系媒体に分散可能で体積50%平均粒子径が30nmを超え300nm以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子とペロブスカイト型酸化物前駆体からなる有機無機複合体から重合体粒子を除去することにより、メソ孔がキュービック相を形成し、かつ平均細孔径(α)が30nmを超え300nm以下であるペロブスカイト型酸化物多孔質体を容易に製造することができる。このため平均細孔径(α)が、粉末X線解析のデバイ・シェラー法で計算されるペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズ(β)より大きな構造体が容易に得られやすくなり、均一な細孔径、高比表面積、高空孔率を有する多孔質材料を製造することが出来る。
【0019】
まず、平均細孔径(α)をペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズ(β)より大きくすることにより、均一な細孔径、高比表面積、高空孔率を有する多孔質材料を製造することが出来る理由について説明する。ペロブスカイト型酸化物多孔質体形成する際、まず非晶質(アモルファス)状態で鋳型となる有機材料との複合体を形成した後、鋳型材料を加熱により焼成除去し、さらに加熱処理を行うことにより多孔質体の壁部分を結晶化させる方法が取られる。その際、細孔の小さな多孔質材料ではその壁膜が非常に薄いため、非晶質での多孔質構造を保持することができないという問題がある。一般的に界面活性剤を鋳型材料として用いた多孔質材料は細孔径が4nm程度であるが、ペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズは、充分に結晶化された状態では5nm以上であり、細孔径とほぼ同じかそれ以上のサイズである。そのためアモルファスから結晶状態に転移する過程で構造変化が起き、細孔は潰され非晶質の状態での均一な細孔が得られなくなり、そのため比表面積、空孔率は非常に低いものとなる。平均細孔径(α)、ペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズ(β)の関係により得られる多孔質構造の規則性が変化することを図2の模式図で示す。非特許文献3においては、非晶質の状態では均一なヘキサゴナル構造体の二酸化チタン多孔質体が得られているが、細孔径が小さいため、結晶化させることにより細孔同士が結合し柱状構造の細孔へと変化している。細孔の崩壊を抑制するには、結晶に転移後の結晶子サイズが細孔より小さければ細孔の崩壊を抑制することが出来る。
【0020】
多孔質材料の平均細孔径(α)は窒素吸着によって求めることができる。粒子の窒素吸脱着測定から、比表面積をBET(Brunauer−Emmett−Teller)法で、全細孔容積をBJH(Barrett−Joyner−Halenda)法により算出することが出来る。さらに空孔率は全細孔容積から算出することが出来る。細孔壁の結晶子径は粉末X線解析のデバイ・シェラー法で算出することが出来る。
【0021】
30nmを超え300nm以下の平均細孔径(α)を持つキュービック相構造のペロブ
スカイト型酸化物多孔質粒子は、水系媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を用いることにより製造することが出来る。次に、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子について説明する。
【0022】
[(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子水分散液]
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、アクリル酸エステル及び/又はメタアクリル酸エステル由来の繰り返し単位を有する単独重合体または共重合体である。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子の水分散液は一般的にアクリルエマルジョンと呼ばれ、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0023】
アクリル酸エステルの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等が挙げられる。
【0024】
メタアクリル酸エステルの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0025】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル以外の不飽和単量体が共重合されていてもよい。
【0026】
併用できる不飽和単量体としては、酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0027】
また、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体も使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレー
ト、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0028】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0029】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子の粒径は水中での分散安定性の観点から、その体積50%平均粒子径(γ)が30を超え300nm以下が好ましく、40〜250nmがより好ましく、特に50〜200nmであることが好ましい。
また、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子としては、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものも使用できる。
【0030】
なお、「アクリルエマルジョン」というときは、ディスパージョン、ラテックス、サスペンジョンと呼ばれる固/液の分散体をも包含したものを意味するものとする。
アクリルエマルジョンは、例えば、次のようにして製造される。
【0031】
〔アクリルエマルジョンの製造方法例〕
滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー及び攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水100部を入れ、窒素雰囲気下、温度70℃で攪拌しながら、重合開始剤0.2部を添加する。これに、別途調製したモノマー溶液を滴下し重合反応させて、1次物質を調製する。その後、温度70℃で、該1次物質に、重合開始剤の10%水溶液2部を添加して攪拌し、更に別途調製した反応液を添加し攪拌して重合反応させ、重合反応物を得る。該重合反応物はそのまま用いても良いし、中和剤で中和してpHが8〜8.5になるように調整しても良い。その後フィルターでろ過し粗大粒子を除去して、樹脂粒子を分散質とするアクリルエマルジョンを得る。
【0032】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。特に、前述の如く、重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。
また、重合反応で用いられる乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤又は両性界面活性剤として用いられているもの等が挙げられる。
【0033】
また、重合反応で用いられる連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、キサントゲン類であるジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソブチルキサントゲンジスルフィド、ジペンテン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン、ジヒドロフラン、キサンテン等が挙げられる。
アクリルエマルジョンは、溶剤として、水以外に、有機溶剤を併用することもできる。このような有機溶剤としては、水と相溶性を有するものが好ましく、例えば、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、2−ピロリドン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
以下、前記に説明した非水溶性ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を用いたペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法について説明する。
【0035】
<ペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法>
本発明のペロブスカイト型酸化物多孔体は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子とペロブスカイト型酸化物の有機無機複合体を形成した後、鋳型であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を除去することにより製造される。
【0036】
具体的には、以下の工程を含む。
工程(a):体積50%平均粒径γが30nmを超え300nm以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体の存在下でペロブスカイト型酸化物前駆体のゾル−ゲル反応を行う。本発明において選ばれるペロブスカイト型酸化物は、ABOという3元系から成る遷移金属酸化物などペロブスカイト型の結晶構造を取る酸化物である。ペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO),チタン酸鉛(PbTiO),ジルコン酸バリウム(BaZrO),スズ酸 バリウム(BaSnO),ジルコン酸鉛(PbZrO)、ジルコン酸ストロンチウム (SrZrO)等が挙げられるが、誘電特性の点などからチタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)が特に好ましい。
工程(b):前記工程(a)において得られた反応溶液を乾燥し、ゾル−ゲル反応を完結し有機無機複合体を得る。
工程(c):前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を除去するとともに細孔壁のペロブスカイト型酸化物前駆体を結晶化させペロブスカイト型酸化物多孔質体を調製する工程。
【0037】
以下、各工程を順に説明する。
[工程(a)]
工程(a)においては、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体(X)、ペロブスカイト型酸化物前駆体(Y)、水および/または水の一部または全部を任意の割合で溶
解する溶媒(Z)を混合して混合組成物を調製するとともに、前記ペロブスカイト型酸化物前駆体のゾル−ゲル反応を行う。なお、混合組成物には、前駆体の加水分解・重縮合反応を促進させる目的で、ゾルーゲル反応用触媒(W)を含んでいてもよい。
【0038】
混合組成物は、さらに具体的には、成分(Y)または成分(Y)を「水および/または水の一部または全部を任意の割合で溶解する溶媒(Z)」に溶解した溶液に、「ゾル−ゲル反応用触媒(W)」、さらに必要に応じて水を添加して攪拌混合して、成分(Y)のゾル−ゲル反応を行い、このゾル−ゲル反応を継続させながらポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(X)を添加することにより調製される。ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(X)は水性分散液として添加することができる。
【0039】
また、成分(Y)または成分(Y)を前記溶媒(Z)に溶解した溶液に、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(X)の水性分散液を添加して攪拌混合した後に、触媒(W)、さらに必要に応じて水を添加して攪拌混合することで調製することもできる。
[ペロブスカイト型酸化物前駆体(Y)]
ペロブスカイト型酸化物前駆体としては、チタン、ジルコニア、スズ、ストロンチウムおよびバリウムのアルコキシドおよび/またはその部分加水分解縮合物、ハロゲン化物、アセテート、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩を挙げることができる。
【0040】
本発明におけるアルコキシドは、下記式(12)で表されるものを指す。
(R)xM(OR)y (12)
式中、Rは、水素原子、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基など)、炭素−炭素二重結合含有有機基(アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基など)、ハロゲン含有基(クロロプロピル基、フルオロメチル基などのハロゲン化アルキル基など)などを表す。Rは、炭素数1以上6以下、好ましくは炭素数1以上4以下の低級アルキル基を表す。xおよびyは、x+y=4かつ、xは2以下となる整数を表す。Mは、Ti、Zr、Sn、Sr、Ba。その部分加水分解縮合物は、これらの1種以上のチタン、ジルコニウム、スズ、ストロンチウムおよびバリウムのアルコキシドにゾルーゲル反応用触媒(W)を用いて部分的に加水分解されたものが、重縮合することにより得られる化合物であり、たとえばチタン、ジルコニウム、スズ、ストロンチウムおよびバリウムのアルコキシドの部分加水分解重縮合化合物である。
【0041】
本発明におけるチタン、ジルコニウム、スズ、ストロンチウムおよびバリウムハロゲン化物としては、下記式(13)で表されるものを用いることができる。
(R1)xMZy (13)
式中、R1は、水素原子、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基など)、アリール基(フェニル基、トリル基など)、炭素−炭素二重結合含有有機基(アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基など)、ハロゲン含有基(クロロプロピル基、フルオロメチル基などのハロゲン化アルキル基など)などを表す。ZはF、Cl、Br、Iを表す。xおよびyは、x+y≦4かつ、xは2以下となる整数を表す。Mは、Ti、Zr、Sn、Sr、Baである。具体例を挙げると、ハロゲン化チタン、ハロゲン化ジルコニウム、ハロゲン化スズ、ハロゲン化ストロンチウム、ハロゲン化バリウムが挙げられる。
【0042】
アセテートとしては、酢酸チタン、酢酸ジルコニウム、酢酸スズ、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、あるいはそれらの水和物が挙げられる。
【0043】
硝酸塩としては、硝酸チタン、硝酸ジルコニウム、硝酸スズ、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、あるいはそれらの水和物が挙げられる。
【0044】
硫酸塩としては、硫酸チタン、硫酸ジルコニウム、硫酸スズ、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、あるいはそれらの水和物が挙げられる。
炭酸塩としては、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、あるいはそれらの水和物が挙げられる。
【0045】
[水および/または水の一部または全部を任意の割合で溶解する溶媒(Z)」
本発明の組成物において、成分(Z)は、成分(Y)を、さらに加水分解させる目的で添加される。
【0046】
また、成分(Z)は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体を用いて水性分散液を得るときに使用する溶媒と、水性分散液、成分(Y)および後述するゾルーゲル反応用触媒(W)(以下、「成分W」ということもある)を混合するときに使用する溶媒の両方を含む。
【0047】
水については特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などを使用可能であるが、蒸留水やイオン交換水を使用することが好ましい。
【0048】
水の一部または全部を任意の割合で溶解する溶媒としては、水と親和性を有する有機溶媒であって、非水溶性共重合体が分散可能なものであれば特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−メトキシエタノール(メチルセルソルブ)、2−エトキシエタノール(エチルセルソルブ)、酢酸エチルなどが挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサンは、水との親和性が高いため、好ましい。
【0049】
水を用いる場合、添加する水の量は、通常は前記成分(Z)および前記成分(W)の混合物100重量部に対し、例えば1重量部以上1000000重量部以下の範囲であり、好ましくは10重量部以上10000重量部以下の範囲である。
【0050】
水の一部または全部を任意の割合で溶解する溶媒としては、添加する溶媒の量は、通常は前記成分(Z)および前記成分(W)の混合物100重量部に対し、例えば1重量部以上1000000重量部以下の範囲であり、好ましくは10重量部以上10000重量部以下の範囲である。
【0051】
また、金属アルコキシド類の加水分解重縮合時の好ましい反応温度は、1℃以上100℃以下であり、より好ましくは20℃以上60℃以下であり、反応時間は10分以上72時間以下であり、より好ましくは1時間以上24時間以下である。
【0052】
[ゾル−ゲル反応用触媒(W)]
本発明で用いる混合組成物において、金属アルコキシドの加水分解・重縮合反応における反応を促進させる目的で、以下に示すような加水分解・重縮合反応の触媒となりうるものを含んでいてもよい。
【0053】
金属アルコキシドの加水分解・重縮合反応の触媒として使用されるものは、「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作製技術」(平島碩著、株式会社総合技術センター、29頁)や「ゾル−ゲル法の科学」(作花済夫著、アグネ承風社、154頁)等に記載されている
一般的なゾル−ゲル反応で用いられる触媒である。
【0054】
触媒(W)としては、酸触媒、アルカリ触媒、有機スズ化合物、チタニウムテトライソプロポキシド、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトナート、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトナート、トリメトキシボランなどの金属アルコキシド等が挙げられる。
【0055】
これら触媒の中でも、酸触媒、アルカリ触媒が好適に使用される。具体的には、酸触媒では塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、蓚酸、酒石酸、トルエンスルホン酸等の無機および有機酸類、アルカリ触媒では、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン類などが挙げられる。
【0056】
反応性の観点から、比較的穏やかに反応が進行する塩酸、硝酸等、酸触媒を使用することが好ましい。好ましい触媒の使用量は、前記成分(Y)の金属アルコキシド1モルに対して0.001モル以上0.05モル以下、好ましくは0.001モル以上0.04モル以下、さらに好ましくは0.001モル以上0.03モル以下の程度である。
【0057】
工程(a)における混合組成物は、例えば、触媒(W)の存在下、溶媒(Z)を除去しないでゾル−ゲル反応させることによって得られるゾル−ゲル反応物の形態で使用することができる。
【0058】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル重合体粒子の使用量は特に制限されるものではないが、例えば重合体粒子/金属酸化物(重量比)を10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20とすることができる。
【0059】
[工程(b)]
工程(b)においては、前記工程(a)において得られた反応溶液を乾燥して有機無機複合体を得る。有機無機複合体は粒子状でも膜状でもよい。
【0060】
複合体粒子の製造方法としては、本発明の反応溶液、混合組成物を所定温度で加熱乾燥し水または溶媒を除去した後、得られた固体を粉砕や分級等の処理により成形する方法、あるいは凍結乾燥法のように低温度で水または溶媒除去して乾燥した後、さらに所定の温度で加熱乾燥させ、得られた固体を粉砕や分級の処理により成形する方法、さらにはスプレードライヤーにより、10μm以下の複合体微粒子を噴霧乾燥装置(スプレードライヤー)により噴霧し、溶媒を揮発させることにより粉体を得る方法などがある。
【0061】
膜状の複合体の製造方法は、目的とする用途、基材の種類さらに形状等に応じて、ディップコート、スピンコート、スプレーコート、流下塗布、ブレードコート、バーコート、ダイコート、その他の適宜な方法を用いることができる。基材は金属、ガラス、セラミックス、ポリマーなどの成形物、シート、フィルムなどの他、多孔質支持体を用いることができる。
【0062】
多孔質支持体と膜状の複合体の製造方法としては、多孔質支持体を混合組成物中に浸漬
し、多孔質支持体を所定温度で保持して乾燥する方法を例示することができる。
多孔質支持体としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等のセラミックス、ステンレス、アルミニウム等の金属、紙、樹脂等の多孔質体を挙げることができる。
【0063】
前記工程(a)で得られた反応溶液を用いる場合、加熱乾燥することによりゾル−ゲル反応が完結し、成分(Y)よりペロブスカイト型酸化物が得られ、このペロブスカイト型酸化物を主とするマトリックスが形成される。ゾル−ゲル反応を完結させるための加熱温度は室温以上300℃以下であり、より好ましくは80℃以上200℃以下である。有機無機複合体は、このマトリックス中に、前記共重合体微粒子が分散した構造となる。
【0064】
なお、ゾル-ゲル反応が完結した状態とは、理想的には全てがM−O−Mの結合を形成した状態であるが、一部アルコキシル基(M−OR)、M−OH基を残すものの、固体(ゲル)の状態に移行した状態を含むものである。
【0065】
[工程(c)]
工程(c)においては、工程(b)で得られた有機無機複合体からポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を除去し、ペロブスカイト型酸化物多孔質体を調製する。
【0066】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を除去する方法としては、焼成により分解除去する方法、VUV光(真空紫外光)、遠赤外線、マイクロ波、プラズマを照射して分解除去する方法、溶剤や水を用いて抽出除去する方法などが挙げられる。焼成により分解除去する場合、好ましい温度は300℃〜2000℃、より好ましくは400℃〜1000℃、さらに好ましくは500℃〜800℃である。焼成温度が低すぎる場合、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子が除去されず、一方高すぎる場合、結晶子サイズが増大し、細孔径より大きくなるため構造の規則性が失われたり、ペロブスカイト型酸化物の融点に近くなるため細孔が崩れる場合がある。焼成は、一定温度で行っても良いし、室温から除々に昇温しても構わない。焼成の時間は、温度に応じて変えられるが、1時間から24時間の範囲で行うのが好ましい。焼成は空気中で行ってもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で行ってもよい。また、減圧下、または真空中で行っても構わない。VUV光を照射して分解除去する場合、VUVランプ、エキシマレーザー、エキシマランプを使用することが出来る。空気中でVUV光を照射する際に発生するオゾン(O)の酸化作用を併用しても構わない。マイクロ波としては、2.45GHzまたは28GHzの周波数いずれでも構わない。マイクロ波の出力は特に制限されずポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子が除去される条件が選ばれる。
【0067】
溶剤や水を用いて抽出を行う場合、例えば、溶剤としてはエチレングリコール、テトラエチレングリコール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、シクロヘキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、キシレン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタンなどを使用することができる。抽出の操作は、加温下で行っても良い。また超音波(US)処理を併用しても良い。なお、抽出操作を行った後は細孔に残存する水分、溶剤を取り除くため減圧下、熱処理を行うのが好ましい。
【0068】
本発明のペロブスカイト型酸化物多孔質体は、下記要件(i)、(ii)及び(iii)を満たす。
要件(i):α>β
(αは窒素吸着法によるBJH解析から求められる平均細孔径であり、βは粉末X線解析のデバイ・シェラー法で求められる細孔壁のペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズである。)。
αは30nmを超え300nm以下が好ましく、40〜250nmがより好ましく、特に50〜200nmが好ましい。
βはαより小さければよく、1〜50nmが好ましい。β/αは0.003〜0.99が好ましく、0.005〜0.9がより好ましい。なおβは前述のγより小さい。
要件(ii)窒素吸着法によるBET比表面積が50m/g以上である。
好ましくは50〜300m/gであり、50〜200m/gが特に好ましい。
要件(iii)空孔率が60体積%以上である。
好ましくは60〜95体積%であり、60〜90体積%が特に好ましい。
【0069】
工程(a)〜(c)により得られたペロブスカイト型酸化物多孔質体の細孔の規則性は透過型電子顕微鏡(TEM)により確認できる。窒素吸着法によるBJH解析により平均細孔径(α)、粉末X線解析のデバイ・シェラー法で求められる細孔壁のペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズ(β)の関係においてα>βの場合は規則的な構造が得られる。一方、α<βの場合は不規則な構造になる。前述のように特定の平均粒径のポリ(メタ)アクリル酸エステル重合体粒子を用いることによりα>βになるように容易に調整することができる。また工程(c)で原料に応じて焼成温度を調整することにより結晶子サイズ(β)をαより小さくすることができる。
【0070】
このようにして得られる本発明のペロブスカイト型酸化物多孔質粒子は均一な細孔を有しているので、例えば原料となる金属酸化物前駆体とポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子の重量比を変更するとか、ポリ(メタ)アクリル酸エステル重合体粒子の粒径を変更することにより、比表面積、空孔率を所望の範囲に制御することが可能である。
本発明のペロブスカイト型酸化物多孔質体はメソポーラス構造体であり、キュービック構造を有することが好ましい。
【0071】
なお、本発明におけるポリ(メタ)アクリル酸エステル重合体粒子を鋳型として用いることにより、細孔がキュービック相構造を形成しているペロブスカイト型酸化物多孔質体が得られる理由については明らかでないが、以下のように推察される。
【0072】
上述した「ペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法」の工程(a)において、金属酸化物前駆体のゾル−ゲル反応を行いながら、複数のポリ(メタ)アクリル酸エステル重合体粒子を添加すると、複数のポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子は所定の表面電荷により互いに反発し合い、所定の距離をおいた熱力学的に安定した状態、すなわちFm3mなどのキュービック構造に分散される。
【0073】
よって、このように分散されたポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を焼成により除去することで形成されるペロブスカイト型酸化物多孔質粒子の細孔は、キュービック相を形成する。
こうして得られた本発明のペロブスカイト型酸化物多孔質体は、例えば圧電材料、光触媒、色素増感太陽電池用電極材料、電気伝導性材料、超伝導性材料、イオン伝導性材料、焦電性材料、強磁性材料、エネルギー変換材料などに用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0075】
<非水溶性有機ポリマー粒子−1>
ポリメタアクリル酸エステル系共重合体の水性分散体(アクリルエマルジョン)として、三井化学社製PAN−6(動的光散乱式ナノトラック粒度分析計「マイクロトラックUPA-EX150(日機装株式会社製)」にて測定した体積50%平均粒子径:90−1
30nm、濃度:45.89重量%)を用いた。
【0076】
<非水溶性有機ポリマー粒子−2>
ポリメタアクリル酸エステル系共重合体の水性分散体(アクリルエマルジョン)として、三井化学社製PAN−9(動的光散乱式ナノトラック粒度分析計「マイクロトラックUPA-EX150(日機装株式会社製)」にて測定した体積50%平均粒子径:50nm、濃度:45.35重量%)を用いた。
【0077】
(実施例1)
(ポリメタアクリル酸エステル共重合体/Ba(CHCOO)/TTIP脱水縮合物溶液の調製)
酢酸20.8重量部に酢酸バリウム8.09重量部を加え、60℃で攪拌し溶解させた。さらに、チタンテトライソプロポキシド(TTIP)9.1重量部を加え室温で攪拌し、ポリメタアクリル酸エステル系共重合体(アクリルエマルション)PAN−6を10.24重量部(固形分:4.7重量部)、さらに水83.76重量部で希釈し、ポリメタアクリル酸エステル系共重合体/Ba(CHCOO)/TTIP脱水縮合物溶液を調製した。(ポリメタアクリル酸エステル系共重合体/BaTiO=30/70 重量比)
【0078】
(ポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸バリウム複合粒子の形成)
この組成物をスプレードライヤー装置に流し込み、ノズル出口温度190℃で加圧(0.2MPa)し、噴霧することで、ポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸バリウムの複合微粒子を得た。
【0079】
(チタン酸バリウム多孔質粒子の形成)
得られたポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸バリウム複合粒子を、電気炉を用いて、室温から600℃まで毎分5℃の速度で昇温し、さらに600℃で2時間焼成することによってポリメタアクリル酸エステル共重合体を除去してチタン酸バリウム多孔質粒子を得た。
【0080】
(実施例2)
ポリメタアクリル酸エステル系共重合体(アクリルエマルション)PAN−6を9.50重量部(固形分:2.0重量部)にする(ポリメタアクリル酸エステル系共重合体/BaTiO3=50/50 重量比)以外は実施例1同様にチタン酸バリウム多孔質粒子を得た。
【0081】
(実施例3)
(ポリメタアクリル酸エステル共重合体/WBAT脱水縮合物溶液の調製)
(バリウム・チタン)-ダブルーアルコキシド(WBAT150:n―ブタノール/1−メトキシ−2−プロパノール溶液、GELEST社製品)25重量部(固形分2.9重量部)をエタノール43.3重量部で希釈し、ポリメタアクリル酸エステル系共重合体(アクリルエマルション)PAN−9を1.78重量部(固形分:0.81重量部)、触媒の酢酸0.75gを加え、ポリメタアクリル酸エステル共重合体/Ba−Tiダブル−アルコキシド脱水縮合物溶液を調製した。(ポリメタアクリル酸エステル系共重合体/BaTiO3=30/70 重量比)
【0082】
(ポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸バリウム複合粒子の形成)
この組成物をスプレードライヤー装置に流し込み、ノズル出口温度190℃で加圧(0.2MPa)し、噴霧することで、ポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸バリウムの複合微粒子を得た。
【0083】
(チタン酸バリウム多孔質粒子の形成)
得られたポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸バリウム複合粒子を、電気炉を用いて、室温から600℃まで毎分5℃の速度で昇温し、さらに600℃で2時間焼成することによってポリメタアクリル酸エステル共重合体を除去してチタン酸バリウム多孔質粒子を得た。
【0084】
(実施例4)
(ポリメタアクリル酸エステル共重合体/SrCO/TTIP脱水縮合物溶液の調製)酢酸20.8重量部に炭酸ストロンチウム4.68重量部を加え、60℃で攪拌し溶解させた。
【0085】
さらに、チタンテトライソプロポキシド(TTIP)9.1重量部を加え室温で攪拌し、ポリメタアクリル酸エステル系共重合体(アクリルエマルション)PAN−6を10.24重量部(固形分:4.7重量部)、さらに水83.76重量部で希釈し、ポリメタアクリル酸エステル系共重合体/SrCO/TTIP脱水縮合物溶液を調製した。(ポリメタアクリル酸エステル系共重合体/SrTiO=30/70 重量比)
(ポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸ストロンチウム複合粒子の形成)
この組成物をスプレードライヤー装置に流し込み、ノズル出口温度190℃で加圧(0.2MPa)し、噴霧することで、ポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸ストロンチウムの複合微粒子を得た。
【0086】
(チタン酸ストロンチウム多孔質粒子の形成)
得られたポリメタアクリル酸エステル共重合体/チタン酸ストロンチウム複合粒子を、電気炉を用いて、室温から600℃まで毎分5℃の速度で昇温し、さらに600℃で2時間焼成することによってポリメタアクリル酸エステル共重合体を除去してチタン酸ストロンチウム多孔質粒子を得た。
【0087】
(比較例1)
(界面活性剤Pluronic-F127/Ba(CHCOO)/TTIP脱水縮合物溶液の調製)
酢酸20.8重量部に酢酸バリウム8.09重量部を加え、60℃で攪拌し溶解させた。さらに、チタン-i-プロポキシド(TTIP)9.1重量部を加え室温で攪拌し、F127の水性分散体(固形分10重量%)を47g(固形分4.7g)、さらに水83.76重量部で希釈し、F127/Ba(CHCOO)/TTIP脱水縮合物溶液を調製した。(F127/BaTiO=30/70 重量比)
【0088】
(F127/チタン酸バリウム複合粒子の形成)
この組成物をスプレードライヤー装置に流し込み、ノズル出口温度190℃で加圧(0.2MPa)し、噴霧することで、F127/チタン酸バリウムの複合微粒子を得た。
【0089】
(チタン酸バリウム多孔質粒子の形成)
F127/チタン酸バリウム複合粒子を、電気炉を用いて、室温から600℃まで毎分5℃の速度で昇温し、さらに600℃で2時間焼成することによってF127を除去してチタン酸バリウム多孔質粒子を得た。
【0090】
(比較例2)
(界面活性剤Pluronic-F127/WBAT脱水縮合物溶液の調製)
(バリウム・チタン)-ダブルーアルコキシド(WBAT150:n―ブタノール/1−メトキシ−2−プロパノール溶液、GELEST社製品)25重量部(固形分2.9g)に、エタノール43.3重量部を混合し、F127のエタノール分散体(固形分10重量%
)8.1重量部、触媒の酢酸0.75重量部を順に滴下し、室温で攪拌し、F127/WBAT脱水縮合物溶液を調製した。(F127/BaTiO=30/70 重量比)
【0091】
(F127/チタン酸バリウム複合粒子の形成)
この組成物をスプレードライヤー装置に流し込み、ノズル出口温度190℃で加圧(0.2MPa)し、噴霧することで、F127/チタン酸バリウムの複合微粒子を得た。
【0092】
(チタン酸バリウム多孔質粒子の形成)
得られたF127/チタン酸バリウム複合粒子を、電気炉を用いて、室温から600℃まで毎分5℃の速度で昇温し、さらに600℃で2時間焼成することによってF127を除去してチタン酸バリウム多孔質粒子を得た。
【0093】
(比較例3)
(界面活性剤Pluronic-P123/SrCO/TTIP脱水縮合物溶液の調製)酢酸20.8重量部に炭酸ストロンチウム4.68重量を加え、60℃で攪拌し溶解させた。さらに、チタン-i-プロポキシド(TTIP)9.1重量部を加え室温で攪拌し、P123の水性分散体(固形分10重量%)を47g(固形分4.7g)、さらに水83.76重量部で希釈し、P123/SrCO/TTIP脱水縮合物溶液を調製した。(P123/SrTiO=30/70 重量比)
【0094】
(P123/チタン酸ストロンチウム複合粒子の形成)
この組成物をスプレードライヤー装置に流し込み、ノズル出口温度190℃で加圧(0.2MPa)し、噴霧することで、P123/チタン酸ストロンチウムの複合微粒子を得た。
【0095】
(チタン酸ストロンチウム多孔質粒子の形成)
P123/チタン酸ストロンチウム複合粒子を、電気炉を用いて、室温から600℃まで毎分5℃の速度で昇温し、さらに600℃で2時間焼成することによってP123を除去してチタン酸ストロンチウム多孔質粒子を得た。
以上のように実施例、比較例で得られた多孔質体について、以下の評価を行った。
【0096】
(1.粒径)
走査型電子顕微鏡(SEM/JEOL社製JSM−6701F型)を用い、1.5kVの条件で観察した。
【0097】
(2.細孔構造)
収束イオンビーム(FIB)加工によって粒子の断面切片を切り出し、その断面の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM/日立製作所製H−7650)を用い200kVの条件にて観察した。評価基準は以下の通りである。
◎ 細孔が規則構造(キュービック相構造)を呈し配列している。
○ 細孔は確認されるが不規則
× 細孔が結晶子により判別不可能
【0098】
(3.比表面積、細孔容積、平均細孔径分布)
オートソーブ3(カンタクローム社製)を使用し、液体窒素温度下(77K)における窒素ガス吸着法にて、比表面積(m2/g)(BET法)、細孔容積(ml/g)及び、平均細孔径分布(nm)(α)(BJH 法)の測定を行った。また、空孔率(体積%)は[細孔容積値/(細孔容積値+1/チタン酸バリウムの密度)×100]により求めた。
【0099】
(4.結晶子構造)
粉末X線解析装置(Rigaku MultiFrex、CuKα線:1.5418Å)により測定し結晶構造を確認した。
【0100】
(5.結晶子サイズ)
粉末X線解析装置(Rigaku MultiFrex、CuKα線:1.5418Å)により測定し、デバイ・シェラー法(Debye−Scherrer法)により結晶子サイズ(β)を計算した。
【0101】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記製造工程(a)、(b)及び(c)を含むペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
工程(a):動的光散乱式粒度分布系で測定した体積50%平均粒径(γ)が30nmを超え300nm以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子の存在下で、ペロブスカイト型酸化物前駆体のゾル−ゲル反応を行う。
工程(b):前記工程(a)において得られた反応溶液を乾燥し、ゾル−ゲル反応を完結し有機無機複合体を得る。
工程(c):ポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子を除去するとともに細孔壁のペロブスカイト型酸化物前駆体を結晶化させ、下記要件(i)、(ii)及び(iii)を満たすペロブスカイト型酸化物多孔質体を調製する。
要件(i):α>β
(αは窒素吸着法によるBJH解析から求められる平均細孔径であり、βは粉末X線解析のデバイ・シェラー法で求められる細孔壁のペロブスカイト型酸化物の結晶子サイズである。)。
要件(ii)窒素吸着法によるBET比表面積が50m/g以上である。
要件(iii)空孔率が60体積%以上である。
【請求項2】
β<γであることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【請求項3】
ペロブスカイト型酸化物多孔質体はメソ孔を有し、その細孔構造がキュービック相構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【請求項4】
αが30nmを超え300nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)は、前記反応溶液をスプレードライヤー法により乾燥し、粒子状有機無機複合体を形成する工程である請求項1〜4のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。
【請求項6】
ペロブスカイト型酸化物がチタン酸バリウム(BaTiO)又はチタン酸ストロンチウム(SrTiO)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のペロブスカイト型酸化物多孔質体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224508(P2012−224508A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93838(P2011−93838)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】