説明

ペン先用ナイロン捲縮糸とそれを用いたペン先

【課題】植物由来の繊維から構成され、耐摩耗性、耐溶剤性に優れ、かつ良好な筆感が期待できる新規なペン先用ナイロン捲縮糸と、それを用いたペン先とを提供すること。
【解決手段】ナイロン11繊維からなる捲縮糸であって、DIN法に基づいて測定されるクリンプ伸長率が30〜70%であるペン先用ナイロン捲縮糸であり、ヤング率20〜40であることを好ましい態様として含む。そして、もう一つの発明は、上記ペン先用ナイロン捲縮糸を使用してなるペン先である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン先用ナイロン捲縮糸とそれを用いたペン先に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ペン先を構成する部材として広く合成繊維が用いられている。合成繊維を用いる利点としては、例えば、ナイロン6繊維やナイロン66繊維の場合、繊維が柔軟であるため、ソフトな筆感を得る点で有利であり、さらに、耐摩耗性にも優れるため、耐久性あるペン先を構成するのに有利である。アクリル繊維の場合は、耐溶剤性に優れるため、油性ペンに好適であり、ポリエステル繊維の場合は、比較的安価であるため、コスト削減に効果的である。
【0003】
しかし一方で、ナイロン6繊維やナイロン66繊維は耐溶剤性、耐薬品性に劣るため、油性ペンには適用し難いという欠点がある。アクリル繊維の場合は、十分な耐久性や良好な筆感などが得られ難く、しかも筆記時に不快音を発し易いという欠点がある。さらに、ポリエステル繊維の場合は、耐久性、筆感の他、耐薬品性などに乏しいといった欠点がある。
【0004】
このように、合成繊維を使用したペン先は、様々な利点がある反面、解決すべき課題も多々あるのが実情であり、これまでに幾つかの改良策が提案されている。その一つとして、特許文献1に、2種の繊維を芯鞘状に一体化し、それぞれの繊維に機能分担させることで、ペン先全体としての性能向上を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−135887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献に記載された技術では、2種の繊維でペン先が構成されているため、ペン先全体としての性能向上は、一応認められる。しかしながら、当該ペン先では、個々の繊維が有する欠点は依然解消されておらず、しかも、繊維が芯鞘状に配されていることから、剥離を防ぐため繊維が樹脂を介して強固に一体化されており、結果、筆感が硬くなるという問題がある。さらに、繊維を芯鞘状に一体化させるための工程が複雑であるため、コストがかさみ、品質も安定しないなどの問題もある。
【0007】
また、近年、環境保護の観点から植物由来の繊維が脚光を浴びているが、上記文献にはこのような繊維を用いることについて一切の言及がなく、この点も含め改良の余地が残されている。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、植物由来の繊維から構成され、耐摩耗性、耐溶剤性に優れ、かつ良好な筆感が期待できる新規なペン先用ナイロン捲縮糸と、それを用いたペン先とを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、第一の発明は、ナイロン11繊維からなる捲縮糸であって、DIN法に基づいて測定されるクリンプ伸長率が30〜70%であることを特徴とするペン先用ナイロン捲縮糸を要旨とし、捲縮糸のヤング率が20〜40であることを好ましい態様として含むものである。
【0011】
そして、第二の発明は、上記ペン先用ナイロン捲縮糸を使用してなるペン先を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ナイロン11繊維からなる捲縮糸(以下、ナイロン11捲縮糸ということがある)を用いることにより、耐摩耗性、耐溶剤性に優れ、かつ良好な筆感が期待できる新規なペン先用ナイロン捲縮糸が提供できる。そして、ナイロン11は、植物由来の素材であるため、環境問題を配慮した捲縮糸と、それを用いたペン先が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のペン先用ナイロン捲縮糸は、ナイロン11繊維からなるものである。ナイロン11は、ヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたひまし油を元に生成される11−アミノウンデカン酸を重縮合することにより得られるものである。11−アミノウンデカン酸は、ため、植物由来成分であり、その結果、ナイロン11は環境問題に配慮した素材といえる。
【0015】
ナイロン11繊維は、ナイロン特有の柔軟性を有しておりかつ耐摩耗性にも優れるため、ペン先となせばソフトな筆感が実現でき、筆記時に不快音を発し難い。また、ナイロン11繊維は、耐溶剤性にも優れるため、水性ペンはもちろん、油性ペンに用いるペン先にも適用することができる。
【0016】
本発明におけるナイロン11繊維には、効果を損なわない範囲で、ε−カプロラクタムやヘキサメチレンジアンモニウムアジペートなどの他のポリアミド形成単量体が共重合されていてもよく、ナイロン6やナイロン66など他のポリアミドがブレンドされていてもよい。具体的に、ナイロン11中におけるこれら第三成分の含有割合としては、40wt%以下とするのが好ましく、この範囲を超えてしまうと、本発明の効果を損ねることがある。
【0017】
また、本発明におけるナイロン11繊維には、耐熱剤が含有されていることが好ましい。繊維中に耐熱剤を含有させると、紡糸温度を低くすることができ、さらにナイロン11の増粘も抑えることができるので、紡糸時に析出されるモノマーの量を少なくすることができる。その結果、紡糸工程での糸切れを抑えることができ、紡糸の操業性を高めることができる。そして、続く延伸工程において品位、性能の優れた未延伸糸を供給できるようになる。
【0018】
本発明に用いうる耐熱剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適であり、一例として、IRGANOX(チバ・ジャパン社製)が好ましく使用される。さらに、上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤と共に、リン系加工熱安定剤を併用することも好ましく、一例としては、IRGAFOS(チバ・ジャパン社製)があげられる。
【0019】
ナイロン11繊維におけるこれら耐熱剤の含有量(複数種類用いる場合は合計量)としては、0.1〜1.0質量%が好ましく、0.2〜0.8質量%がより好ましく、0.2〜0.6質量%が特に好ましい。ナイロン11繊維における耐熱剤の含有量が、0.1質量%未満であると、上記した紡糸操業性の向上効果が乏しくなる。一方、1.0質量%を超えると、効果が飽和するのみならず、紡糸時に糸切れが生じる原因となる。
【0020】
また、ナイロン11繊維には、効果を損なわない限り、可塑剤、難燃剤、艶消剤、無機充填剤、補強剤、耐熱剤、着色剤、顔料などの各種添加剤が含有されていてもよい。また、ナイロン11繊維の断面形状としては、特に限定されず、丸断面の他、三角、四角、六角、中空など目的に応じて適宜選択できる。さらに、単糸繊度も特に限定されず、例えば、ペン先のインク保持性、筆感などを考慮すると、0.1〜10dtexが好ましく、0.5〜5dtexがより好ましい。
【0021】
このように本発明の捲縮糸は、ナイロン11繊維から構成されるものであるが、フラットヤーンではなく捲縮糸となすことで、筆感が良好で優れたインク保持性を有するペン先が提供できる。本発明をなす過程において、ナイロン11は、ナイロン6やナイロン66に比べ、水との親和性に劣り、繊維となしたとき液体を保持する能力に欠けることを本発明者らは確認したが、驚くべきことにナイロン11繊維に捲縮を与えると、液体保持性が向上するだけでなく、ペン先に適した弾力性をも発現することを見出し、これを利用すれば、筆感良好なペン先が提供できるであろうとの考えに至り、本発明をなすに至った。
【0022】
本発明では、捲縮の指標として、DIN法に基づいて測定されるクリンプ伸長率が30〜70%であることが必要であり、35〜65%が好ましく、40〜60%がより好ましい。DIN法で測定されるクリンプ伸長率が前記範囲内にあることで、ペン先に適度な弾力性が発現する。また、ペン先において、微細な隙間が多数形成されるため、インク保持性が向上し、優れた書き味が得られる。また、毛細管現象によりインクが常にペン先に集まることで、筆記角度に捉われることなく使用が可能となる。
【0023】
したがって、本発明では、クリンプ伸長率が30%未満になると、フラットヤーンに近い形状となるため、インク保持性が低下すると共に、毛細管現象が発現し難くなるため、筆記角度によりインクのかすれが生じたり、逆に過度のインクが出る場合がある。さらに、弾力性が低下し、筆感が硬くなる。一方、70%を超えると、捲縮が強くなり、隙間が増えてインク保持性が高く過ぎる結果、筆記時のかすれが生じたり、また、繊維の断面変形が大きくなって後述するヤング率が過度に低下することがあり、ペン先となしたとき、柔らかくなり過ぎて、良好な筆記ラインが得られないことがある。
【0024】
さらに、本発明では、DIN法に基づいて測定されるクリンプ弾性率が20〜40%であることが好ましい。
【0025】
また、本発明のナイロン捲縮糸では、ヤング率が20〜40であることが好ましく、22〜38がより好ましい。ヤング率が前記範囲内にあることで、ペン先に使用した場合に、容易にペン先が変形せず、良好な筆記ラインが得られると共に、柔らかさと腰のバランスが最適となり、良好な筆感も得られる。
【0026】
次に、本発明のペン先用ナイロン捲縮糸の製法例について、説明する。
【0027】
本発明のペン先に適したナイロン捲縮糸を得るには、仮撚加工法、押し込み加工法、加撚−熱固定−解撚法、擦過法など、いずれの加工法でも採用でき、繊維に対し捲縮を低コストで容易に与えうる仮撚加工法が好ましく採用できる。
【0028】
捲縮糸のクリンプ伸長率を30〜70%となすには、使用すべき仮撚機により製造条件が多少変動するが、例えば、一般に低速仮撚機と呼ばれるピン仮撚機を用いたときは、スピンドル回転数を250000〜450000rpm、仮撚係数を23000〜35000、延伸倍率を1.0〜1.7倍、ヒーター温度を140〜180℃に設定すればよい。
【0029】
高速仮撚機と呼ばれるウレタンディスク仮撚機を用いたときは、ディスク枚数を9mm圧ディスクで1−4−1〜1−7−1、ディスク回転数と糸速の比を1.4〜2.3、ヒーター温度を点接触ヒーターで200〜270℃に設定すればよい。なお、言うまでもないが、本発明の捲縮糸は、上記で例示した製法によるものに限定されるのではなく、結果としてクリンプ伸長率30〜70%を満足するもの全てを含む。
【0030】
なお、上記仮撚係数とは、K=T×D1/2(K:仮撚係数、T:仮撚数(T/M)、D:撚り掛け装置通過時の糸のトータル繊度(dtex))なる式で算出されるものである。
【0031】
そして、ペン先の製造方法としては、公知の手段を採用すればよく、得られるペン先の径を考慮しながら、上記ナイロン11捲縮糸を束にし、金型で加熱成型して棒状体となした後、これをウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの樹脂液に浸漬し、乾燥、硬化させ、カット、研磨することにより得られる。ただ、ナイロン11はナイロン6やナイロン66に比べて融点が低いため、上記加熱成型や硬化の際の熱処理温度としては、100〜180℃が好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例・比較例における物性評価は、以下の通りである。
【0033】
(DIN法に基づくクリンプ伸長率、クリンプ弾性率の測定方法)
DIN 53840Part1に記載の方法に従い、以下のように測定する。
【0034】
1.試料の準備
枠周1.125mの検尺機を用いて、捲縮糸を綛状に巻き取る。このとき、捲縮糸に0.1cN/dtexの張力を掛けながら、綛繊度が2500dtexになるまで巻き取る。綛繊度が2500dtexになるように巻き取るには、用いる捲縮糸の繊度により捲き数を異ならせればよい。例えば、捲縮糸が74〜78dtexのときは、16回の綛を作ればよいし、112.5〜117.5dtexであれば11回の綛を作ればよい。この点は、DIN53840Part1 Tabie1に記載されており、当業者であれば、任意の太さの綛を作ることができる。
なお、試料たる捲縮糸は、少なくとも24時間、20℃・65%の湿度の環境下に放置してから綛状に巻き取るものとする。綛とした後は、検尺機の枠から綛を取り出し、荷重を掛けないまま、24時間、20℃×65%の湿度の環境下に放置した後、各種測定に供するものとする。
【0035】
2.クリンプの発現
まず、綛に0.001cN/dtexの荷重を掛け、その後、荷重を掛けたままオーブンに導入し、120℃で10分間加熱する。加熱後、荷重をはずし、24時間以上、20℃×65%の湿度環境下に放置する。
【0036】
3.直線長さの決定
まず、綛に第1荷重(2.5g)及び第2荷重(497.5g)を負荷し、10秒後の綛の長さ(G)を計測する。次に、第2荷重を取り除き、第1荷重を掛けたまま、10分間後の綛の長さ(Z)を計測する。そして、第1荷重を負荷したまま、第3荷重(22.5g)を掛け、10秒後の綛の長さ(F)を計測する。
【0037】
4.クリンプ伸長率、クリンプ弾性率の算出
下記式に基づきクリンプ伸長率、クリンプ弾性率を算出する。
クリンプ伸長率(%)=〔(G−Z)/G〕×100
クリンプ弾性率(%)=〔(G−F)/G〕×100
【0038】
(ヤング率)
JIS L1013化学繊維フィラメント糸試験方法7.10「初期引張抵抗度」に基づき、試料長200mm、引張速度200mm/分にて測定したものをヤング率とする。
【0039】
(耐摩耗性、筆記感、筆記性、筆記時の不快音)
まず、得られた捲縮糸からペン先を作製した後、このペン先を油性マーカーの先端に装着し、ペンを得る。次に、このペンを用いて、壁面に設置した模造紙に縦横約2cm×約4cmの螺旋模様を繰り返し10分間書き続け、その結果から、下記4項目を評価する。
【0040】
1.耐摩耗性
筆記前後のペン先の写真から投影面積を算出し、その比率から下記3段階で耐摩耗性を評価する。
○・・・筆記前後の投影面積比が0.9以上
△・・・筆記前後の投影面積比が0.8以上0.9未満
×・・・筆記前後の投影面積比が0.8未満
ここで、筆記前後の投影面積比とは、筆記後の投影面積を筆記前の投影面積で除した値である。
【0041】
2.筆記感
パネラー10人による官能検査に基づき、筆記感を下記3段階で評価する。
○・・・筆記感良好と判断したパネラーが8人以上
△・・・筆記感良好と判断したパネラーが5〜7人
×・・・筆記感良好と判断したパネラーが4人以下
【0042】
3.筆記性
パネラー10人による官能検査に基づき、筆記性を下記3段階で評価する。
○・・・筆記性良好(かすれ、インク過多がない)と判断したパネラーが8人以上
△・・・筆記性良好(かすれ、インク過多がない)と判断したパネラーが5〜7人
×・・・筆記性良好(かすれ、インク過多がない)と判断したパネラーが4人以下
【0043】
4.筆記時の不快音
パネラー10人による官能検査に基づき、筆記時の不快音について下記3段階で評価する。
○・・・不快音がしないと判断したパネラーが8人以上
△・・・不快音がしないと判断したパネラーが5〜7人
×・・・不快音がしないと判断したパネラーが4人以下
【0044】
(実施例1)
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.01のナイロン11チップを用い、Irganox1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤:チバジャパン社製)を0.05質量%、Irgafos168(リン系加工熱安定剤:チバジャパン社製)を0.1質量%添加し、水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度250℃で溶融し、孔径が0.3mmの紡糸孔を34個有する紡糸口金より吐出させた。そして、溶融紡糸した糸条に15℃の冷却風を吹付けて冷却し、油剤を付与した後、3000m/分の第一ローラ(引取ローラ:表面温度50℃)で引き取った。続いて、第一ローラで引き取った糸条を表面温度130℃の第二ローラ(加熱ローラ)で引き取ることにより、ローラ間で延伸倍率1.5倍に延伸し、巻取速度4400m/分で巻き取り、90dtex34fのナイロン11糸条を得た。
【0045】
上記ナイロン11糸条を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z3570T/M、延伸倍率1.20倍、ヒーター温度160℃の条件で仮撚加工し、78dtex34fの本発明の捲縮糸を得た。
【0046】
次に、上記捲縮糸を648本集束し、175℃の金型で加熱成型し、4.1mmの棒状体を作製した。その後、これを固形分15%のポリウレタン樹脂液に浸漬し、乾燥、硬化し、カット、研磨することにより、ペン先を得た。そして、得られたペン先を油性マーカーの先端に装着し、各種性能を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
実施例1における90dtex34fのナイロン11糸条を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z3200T/M、延伸倍率1.20倍、ヒーター温度150℃の条件で仮撚加工し、78dtex34fの本発明の捲縮糸を得た。
【0048】
次に、得られた捲縮糸を使用して、実施例1と同様の手段でペン先を作製し、各種性能を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例3)
第一ローラの引取速度を3100m/分、ローラ間の延伸倍率を1.02倍、及び巻取速度を3200m/分にそれぞれ変更する以外、実施例1と同様に行い、110dtex24fのナイロン11糸条を得た。
【0050】
次に、このナイロン11糸条を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z3570T/M、延伸倍率1.45倍、ヒーター温度160℃の条件で仮撚加工し、78dtex34fの本発明の捲縮糸を得た。
【0051】
そして、得られた捲縮糸を用いて、実施例1と同様にペン先を作製し、各種性能を評価した。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.41のナイロン6チップを用い、Irganox1010及びIrgafos168を添加しないで水分率0.05質量%に調整し、これをエクストルーダー型溶融押出機に供給した後、紡糸温度255℃で溶融し、孔径が0.3mmの紡糸孔を34個有する紡糸口金より吐出させた。そして、溶融紡糸した糸条に15℃の冷却風を吹付けて冷却し、油剤を付与した後、3200m/分の第一ローラ(引取ローラ:表面温度50℃)で引き取った。続いて、第一ローラで引き取った糸条を表面温度140℃の第二ローラ(加熱ローラ)で引き取ることにより、ローラ間で延伸倍率1.3倍に延伸し、巻取速度4200m/分で巻き取り、78dtex34fのナイロン6糸条を得た。
【0053】
次に、上記ナイロン6糸条を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z3570T/M、延伸倍率1.06倍、ヒーター温度180℃の条件で仮撚加工し、78dtex34fの捲縮糸を得た。
【0054】
そして、得られた捲縮糸を用いて、実施例1と同様にペン先を作製し、各種性能を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例2、3)
実施例1における90dtex34fのナイロン11糸条を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z2850T/M、延伸倍率1.20倍、ヒーター温度140℃の条件で(比較例2)、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z4080T/M、延伸倍率1.20倍、ヒーター温度175℃の条件で(比較例3)それぞれ仮撚加工し、78dtex34fの捲縮糸を得た。
【0056】
次に、得られた捲縮糸を使用して、実施例1と同様の手段でペン先を作製し、各種性能を評価した。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例4)
4.6g/mのアクリル繊維スライバーを210℃の金型で加熱成型し、4.1mmの棒状体を作製した後、固形分15%のメラミン樹脂液に浸漬し、乾燥、硬化させて、カット、研磨し、ペン先を得た。このペン先を油性マーカーの先端に装着し、実施例1と同一の手段で各種性能を評価した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
本発明の捲縮糸(実施例1〜3)を用いたペン先は、耐摩耗性が良好で、筆記感も良く、インクのかすれや過多、不快音もなかった。
【0060】
これに対し、比較例1のペン先は、筆記感は良好であったが、耐摩耗性、不快音の点で満足する結果が得られず、捲縮が強過ぎることから筆記時にかすれが生じた。比較例2のペン先は、耐摩耗性が良好で、不快音もなかったものの、捲縮が弱過ぎることから弾力性に乏しく、筆記感にやや劣り、しかもインクの保持性が悪く、筆記性に劣っていた。比較例3のペン先は、耐摩耗性と筆記感は良好であり、不快音もなかったものの、筆記時にかすれが生じ、また、筆記ラインがやや太くなる現象が見られた。さらに、比較例4のペン先は、筆記性こそ良好であったものの、筆記感が硬く、耐摩耗性も悪かった。加えて、筆記時に不快音の発生があった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン11繊維からなる捲縮糸であって、DIN法に基づいて測定されるクリンプ伸長率が30〜70%であることを特徴とするペン先用ナイロン捲縮糸。
【請求項2】
ヤング率が20〜40であることを特徴とする請求項1記載のペン先用ナイロン捲縮糸。
【請求項3】
請求項1又は2記載のペン先用ナイロン捲縮糸を使用してなるペン先。


【公開番号】特開2011−161811(P2011−161811A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27704(P2010−27704)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】