説明

ペースト加工用塩化ビニル系樹脂及びその製造方法、並びにその用途

【課題】 ペースト塩ビを発泡加工する際、白色度が高く、発泡性及びゾル粘度特性に優れ、かつ、常に安定した白色度を有する発泡体が得られるように経時変化が抑制されたペースト塩ビ、その製造方法、これを用いたペースト塩ビゾル及び発泡成形体を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を100〜3000ppm含有するペースト加工用塩化ビニル系樹脂、及びその製造方法。
SO (1)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
(2)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペースト加工用塩化ビニル系樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペースト加工用塩化ビニル系樹脂(以下、ペースト塩ビと略記する。)は、可塑剤、安定化剤、充填剤、及び発泡剤等の配合剤と混錬することにより、ペースト加工用塩化ビニル系ゾル組成物(以下、ペースト塩ビゾルと略記する。)として加工に供され、種々の加工法により発泡成形体などの様々な成形品が得られる。そして、その中でも発泡成形体は調色などが施され、壁紙や床材のような建築資材などの用途に使用される。調色前の発泡成形体は、調色がしやすい、または、発泡成形品ユーザーが白色製品を多く好むなどの理由から、白色度の高い発泡成形体を得ることが可能なペースト塩ビが望まれている。
【0003】
ペースト塩ビとは、塩化ビニル単量体単独、あるいは、塩化ビニル単量体と共重合可能なビニル単量体と塩化ビニル単量体との混合物(以下、塩化ビニル系単量体)を重合して製造するもので、一般に乳化剤と水溶性開始剤を使用する乳化重合法、または、乳化剤、高級アルコール等の分散補助剤と油溶性開始剤の存在下、均質化処理を行った後、緩やかな攪拌下で重合を行う微細懸濁重合法によってペースト塩ビラテックスを製造し、これを乾燥することによって、得られる。
【0004】
上記のような方法によって、ペースト塩ビは製造されるため、ペースト塩ビ中には塩化ビニル系樹脂成分以外に、重合に用いられた乳化剤、改質剤等の添加剤が多く含まれ、これらには副生物などの不純物が多く含まれる。これらペースト塩ビに含有される添加剤等は、粘度に代表されるペースト塩ビのゾル物性及び、成形加工品の物性、仕上がり等に大きく影響を及ぼす。
【0005】
たとえば、乳化重合もしくは微細懸濁重合過程で、乳化剤として使用されるアルキルベンゼンスルホン酸又はその塩にはアルキルテトラリン類及びアルキルインダン類のスルホン酸又はその塩が副生成物として含まれる。これらは重合過程において、ラジカル攻撃を受けて着色前駆体を生成し、樹脂製品の色安定性を悪化させる。そこで、良好な樹脂を得る方法として、乳化剤に含まれる上記副生成物が5重量%以下である乳化剤を使用すること(特許文献1)が提案されている。
【0006】
しかし、この方法では、使用する乳化剤に副生物として含まれるアルキルテトラリン類及びアルキルインダン類のスルホン酸又はその塩を5重量%以下としなければならず、着色前駆体を生成しうる物質及びその濃度の管理を常に行わなければならないという問題があるばかりではなく、原料由来の着色前駆体を精製除去することが必要であるため、コストが高くなることや、上記前駆体含有量が少ない乳化剤を使用して得られたペースト塩ビは、ゾル粘度が高くなるなどの問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−169910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解決するもので、ペースト塩ビを発泡加工する際、白色度が高く、発泡性及びゾル粘度特性に優れ、かつ、常に安定した白色度を有する発泡体が得られるように経時変化が抑制されたペースト塩ビ、その製造方法、これを用いたペースト塩ビゾル及び発泡成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、発泡加工する際、白色度が高く、発泡性及びゾル粘度特性に優れ、かつ、常に安定した白色度を有する発泡体が得られるように貯蔵時の樹脂の経時安定性に優れるペースト塩ビについて鋭意検討した結果、着色前駆体を含有するペースト塩ビであっても、ペースト塩ビ製造後、長期保存中に、着色前駆体の酸化反応による、着色原因物質を生成させないように、特定の還元物質を樹脂中に均一に存在させることで、前述の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を100〜3000ppm含有することを特徴とするペースト加工用塩化ビニル系樹脂、及びその製造方法である。
【0010】
SO (1)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
(2)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
以下に本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のペースト加工用塩化ビニル系樹脂は、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を100〜3000ppm含有するものである。
【0012】
SO (1)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
(2)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
ここに、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。
【0013】
上記一般式(1)、上記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種の含有量は、100〜3000ppmであることが必要である。含有量が100ppm未満の場合は、貯蔵時の樹脂の経時安定性が改善されず、一方、3000ppmを超える場合は、貯蔵時の樹脂の経時安定性が改善されるが、発泡性が悪化する。発泡加工する際、白色度が高く、発泡性及びゾル粘度特性に優れ、かつ、常に安定した白色度を有する発泡体が得られるように貯蔵時の樹脂の経時安定性に優れるペースト塩ビを得るためには、300〜1500ppmが好ましい。
【0014】
本発明のペースト塩ビの製造方法としては、重合により得られた塩化ビニル系樹脂ラテックスに下記一般式(1)、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0.01〜0.3重量部添加し、噴霧乾燥後、粉砕するものである。添加量が0.01重量部未満の場合は、貯蔵時の樹脂の経時安定性が改善されず、一方、0.3重量部を超える場合は、貯蔵時の樹脂の経時安定性が改善されるが、発泡性が悪化する。発泡加工する際、白色度が高く、発泡性及びゾル粘度特性に優れ、かつ、常に安定した白色度を有する発泡体が得られるように貯蔵時の樹脂の経時安定性に優れるペースト塩ビを得るためには、0.03〜0.15重量部が好ましい。
【0015】
SO (1)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
(2)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
上記一般式(1)、一般式(2)は、ラテックスに直接添加又は水溶液として添加してもラテックス中に均一に添加されれば、いずれの方法を用いても差し支えない。
【0016】
塩化ビニル系樹脂ラテックスを得る重合方法としては、いかなる重合方法を用いることも可能であり、最も一般的な方法としては、塩化ビニル系単量体を乳化剤、水溶性重合開始剤の存在下において水性媒体中で、緩やかな攪拌条件下、重合を行う乳化重合法、乳化重合法で得られた粒子をシードとして用い乳化重合を行うシード乳化重合法、塩化ビニル系単量体を乳化剤、油溶性重合開始剤、必要に応じて乳化補助剤の存在下において水性媒体中で、ホモジナイザー等で混合分散した後、緩やかな攪拌条件下、重合を行うミクロ懸濁重合法、ミクロ懸濁重合法で得られた油溶性重合開始剤を含有するシードを用い重合を行うシードミクロ懸濁重合法等により、重合温度30〜80℃にて重合し、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得ることが挙げられる。
【0017】
上記一般式(1)、上記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種は、重合後に得られたラテックスに添加し、十分攪拌後、乾燥することで、ペースト塩ビ樹脂表面に吸着している乳化剤に近接して存在することで、そのペースト塩ビからなるペースト塩ビゾルを発泡加工する際、白色度が高く、発泡性及びゾル粘度特性に優れ、かつ、ペースト塩ビの長期保存後においても品質が安定した発泡成形体を与えるペースト塩ビを得ることができる。
【0018】
本発明のペースト塩ビを製造する際に使用される塩化ビニル系単量体は、塩化ビニル単量体単独、又は、塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体と共重合可能なビニル単量体との混合物である。塩化ビニル単量体と共重合し得るビニル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物類;アクリル酸のメチル,エチル,ブチル等のエステル、メタクリル酸のメチル,エチル,ブチル等のエステル類、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、桂皮酸エステル等の不飽和カルボン酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルアミルエーテル、ビニルフェニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のモノオレフィン類;塩化ビニリデン、スチレン及びその誘導体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の塩化ビニルとラジカル共重合し得る通常のビニル化合物を挙げることができ、これらは2種以上でも用いることができる。
【0019】
本発明のペースト塩ビを製造する際に使用される乳化剤は、例えば、ラウリル硫酸エステルナトリウム、ミリスチル硫酸エステルの如きアルキル硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムの如きアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムの如きスルホコハク酸塩類、ラウリン酸アンモニウム、ステアリン酸カリウムの如き脂肪酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類などのアニオン系界面活性剤、ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートの如きソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類などのノニオン系界面活性剤などの従来より知られているものを1種類または2種類以上用いることができる。
【0020】
本発明のペースト塩ビを製造する際に使用される重合開始剤は、乳化重合系であれば、通常これらの重合に用いられる過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性開始剤、ミクロ懸濁重合法又はシード重合法であればアゾビスイソブチロニトリル、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルペルオキシピバレートに代表されるアゾ化合物、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等の油溶性開始剤等を挙げることができる。
【0021】
また、本発明のペースト塩ビを製造する際に必要に応じて使用される乳化補助剤の具体例としては、セチルアルコールおよびラウリルアルコール等の高級アルコール、ラウリン酸、パルミチン酸およびステアリン酸等の高級脂肪酸又はそのエステル、芳香族炭化水素、高級脂肪酸炭化水素、塩素化パラフィンのようなハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0022】
本発明で使用される水性媒体とは、水、界面活性剤、その他水溶性の重合助剤(緩衝剤等)のことで、塩化ビニル単量体などの有機層を分散させる媒体のことである。
【0023】
塩化ビニル系樹脂ラテックスからペースト塩ビを得る方法としては、いかなる方法を用いてもよいが、効率よく該ラテックスから水分を除去することができることから、噴霧乾燥による方法が好ましい。噴霧乾燥に使用する乾燥機は、一般的に使用されているものでよく、例えば「SPRAY DAYING HANDBOOK」(K.Masters著、3版、1979年、George godwin Limitedより出版)の121頁第4.10図に記載されている各種のスプレー乾燥機があげられる。乾燥温度は、乾燥機の入口で一般的に80〜200℃に、また出口では40〜70℃、好ましくは45℃〜65℃がよい。乾燥後、得られたペースト塩ビは、塩化ビニル系樹脂ラテックスを構成する粒子の凝集体であり、通常10〜150μmの顆粒状である。乾燥出口温度が52℃を超える場合には、得られた顆粒状ペースト塩ビを粉砕した方が可塑剤への分散性の点から好ましく、乾燥出口温度が52℃以下であれば、顆粒状のままでも粉砕して使用してもどちらでもよい。
【0024】
上記のような方法で得られたペースト塩ビは長期保存性に優れ、それに可塑剤、安定剤、充填剤、発泡剤などを配合してなるペースト塩ビゾルはゾル粘度特性に優れ、そのペースト塩ビゾルからなる発泡体は白色度が高く、発泡性に優れる。
【0025】
このようなペースト塩ビゾルを形成するために配合される可塑剤、安定剤、充填剤、及び発泡剤については、従来のペースト発泡配合に用いられるものであるならば、特に使用の制限はなく、好ましくはペースト塩ビ100重量部に対し、可塑剤30〜300重量部、安定剤1〜5重量部、充填剤10〜500重量部、発泡剤20重量部以下を配合してなる。
【0026】
使用される可塑剤については、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソデシル等のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ−n−オクチル、アジピン酸ジイソノニル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等の脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル、リン酸オクチルジフェニル等のリン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソデシルなどのトリメリット酸エステル系可塑剤、その他ポリエステル系、エポキシ系の可塑剤及びこれらの混合物を用いることができる。安定剤については、バリウム−亜鉛系、バリウム−亜鉛−錫系、亜鉛系、錫系、カルシウム−亜鉛系及びこれらの混合物を用いることができる。また、充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、ケイ酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ及びこれらの混合物を用いることができる。発泡剤についてもアゾジカルボンアミドを代表とするアゾ系やスルホニルヒドラジド系あるいはニトロソ系の発泡剤を好適に用いることができる。
【0027】
上記のペースト塩ビゾルを難燃紙上にコーティングし、加熱することにより、発泡成形体を得ることができる。この発泡成形体は、壁紙などの用途に使用できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のペースト塩ビは、ペースト加工用塩化ビニル系樹脂組成物を発泡加工する際、白色度が高く、発泡性及びゾル粘度特性に優れ、かつ、常に安定した白色度を有する発泡体が得られるように、ペースト塩ビの経時変化が抑制されていることから、その工業的価値は極めて高いものである。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
合成例1(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの製造例)
アルキル鎖長12のアルキルベンゼン(ドデシルベンゼン)を主成分とするアルキルベンゼン300gに無水硫酸101gを加え、フラスコ中で30℃にて攪拌しながらスルホン化を行った。その後、水酸化ナトリウム46g、脱イオン水405gを加え、中和することによりアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ABS1)を得た。
【0031】
得られたABS1中のアルキルテトラリン類及びアルキルインダン類のスルホン酸又はその塩の含有量を、リン酸で熱分解して脱スルホン化したのち、ガスクロマトグラフィー分析するリン酸分解法(北原他編「界面活性剤の分析と試験法」(講談社)P225)に基づいて、カラム温度:180℃、注入口、検出器温度:270℃、キャリアーガス:窒素1.8kg/cmの条件で測定したところ、11.4重量%であった。
【0032】
合成例2(精製アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの製造例)
分留管を備えた1Lクライゼン型フラスコに、アルキル鎖長12のアルキルベンゼン(ドデシルベンゼン)を主成分とするアルキルベンゼン500gを入れ、1mmHgまで真空ポンプで減圧した。次に約80℃のオイルバスにてクライゼン型フラスコを加熱し、60〜65℃を留分として回収することによりアルキルベンゼンの減圧蒸留精製を行った。
【0033】
蒸留精製によって得られたアルキルベンゼンを合成例1と同様の方法でスルホン化、中和し、精製アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ABS2)を得た。
【0034】
得られたABS2中のアルキルテトラリン類及びアルキルインダン類のスルホン酸又はその塩の含有量を合成例1と同様の方法で測定したところ、1.8重量%であった。
【0035】
合成例3(開始剤等含有シードの製造例)
2.5Lオートクレーブ中に脱イオン水900g、塩化ビニル単量体750g、過酸化ラウロイル15g及び15重量%ABS1水溶液75gを仕込み、該重合液をホモジナイザーを用いて2時間循環し、均質化処理後、温度を45℃に上げて、重合を進めた。45℃における塩化ビニルの飽和蒸気圧より0.2MPa圧力が低下した後、未反応の塩化ビニル単量体を回収した。得られた開始剤等含有シードラテックス(以下、シード1と略記する)の平均粒子径は0.60μm、固形分濃度は32%であった。
【0036】
合成例4(開始剤等含有シードの製造例)
ABS1をABS2とした以外は、合成例3と同様の方法によって開始剤等含有シードラテックス(以下、シード2と略記する)を得た。
【0037】
合成例5(単量体可溶重合開始剤を含有しないシードの製造例)
2.5Lオートクレーブ中に脱イオン水800g、塩化ビニル単量体700g、16重量%ラウリン酸カリウム水溶液4g及び16重量%ABS1水溶液10gを仕込み、温度を54℃に上げて重合を進めた。54℃における塩化ビニルの飽和蒸気圧より0.3MPa圧力が低下した後、未反応塩化ビニル単量体を回収した。得られた単量体可溶重合開始剤を含有しないシードラテックス(以下、シード3と略記する)は平均粒子径0.15μm、固形分濃度は35%であった。
【0038】
合成例6(単量体可溶重合開始剤を含有しないシードの製造例)
ABS1をABS2とした以外は、合成例5と同様の方法によって単量体可溶重合開始剤を含有しないシードラテックス(以下、シード4と略記する)を得た。
【0039】
実施例1
2.5Lオートクレーブ中に脱イオン水650g、塩化ビニル単量体750g、20重量%ABS1水溶液4g、シード1を29.3g(塩化ビニル単量体に対して3.9重量%)、シード3を27.0g(塩化ビニル単量体に対して3.6重量%)仕込み、この反応混合物の温度を64℃に上げて重合を開始した。重合開始してから重合終了までの間、塩化ビニル単量体に対して、20重量%ABS1水溶液26.3g(塩化ビニル単量体に対して0.7重量%)を連続的に添加した。重合圧が64℃における塩化ビニル単量体の飽和蒸気圧から0.6MPa降下した時に重合を停止した。その後、未反応塩化ビニル単量体を回収して固形分濃度43%の塩化ビニル樹脂ラテックスを得た。得られた塩化ビニル樹脂ラテックスの固形分100重量部に対し、NaSOを0.015重量部添加し、塩化ビニルラテックス中にNaSOが均一になるように十分攪拌後、スプレードライヤーにて、熱風入口190℃、出口温度63℃で噴霧乾燥を行った。その後、粉砕してペースト塩ビを得た(NaSO含有量:150ppm)。
【0040】
得られたペースト塩ビは以下の測定方法によってゾル粘度を評価した。また、得られたペースト塩ビは、ペースト塩ビ100重量部に対して、可塑剤としてフタル酸ジ−2−エチルへキシル(ジェイプラス製)を55重量部、CaCO55重量部(白石工業製、ホワイトンH)、安定剤(共同薬品製、商品名KF65−J2)3重量部、発泡剤(永和化成製、商品名AC1C)5重量部、顔料(テイカ製、JR−600A)12重量部、希釈剤(エクソンモービル製、エクソールD40)5重量部を配合してゾルを調製し、調製されたペースト塩ビゾルを難燃紙上に0.25mmの厚みでコーティングし、140℃に加熱されたオーブン中で40秒加熱することにより半ゲル状のシートを作製し、このシートを室温まで冷却した後、210℃に加熱したオーブン中で60秒加熱することにより発泡体を得た。得られた発泡体は以下の測定方法によってゾル粘度、発泡色相、及び発泡セル構造を評価した。その評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

<ゾル粘度>
ペースト塩ビ150重量部に対し、可塑剤としてジオクチルフタレート90重量部をT.K.ホモディスパー(プライミクス製)を用い、25℃、800rpmで1.5分混練しペースト塩ビゾルを調製した。該ゾルを25℃で3時間放置した後、B8H型粘度計(ローターNo.5、20rpm、東京計器製)を用い、測定した。ゾル粘度値が低いほどゾル粘度特性が優れることを示す。
【0042】
<発泡色相測定>
色差計(日本電色製、商品名MODEL−9463)にて、イエローインデックスの値(YI)の測定を行った。YIは、黄味を表す指標で、YIの値が小さいほど発泡成形体は白色であることを示す。YI値の差が、0.5以上あれば肉眼による観察により発泡色相変化の差を判断することが可能である。
【0043】
<発泡セル構造>
発泡セル構造を目視にて下記の内容で評価を行った。発泡セル構造が緻密であるほど発泡性が優れることを示す。
【0044】
(◎):セルが非常に緻密 (○):セルが緻密 (×):セルが粗い
<ペースト塩ビの貯蔵時の経時安定性>
上記方法によって製造されたペースト塩ビを製造直後、製造の1ヶ月後、3ヵ月後、6ヶ月後のそれぞれの日に上記方法にて発泡成形体を作成し、上記方法で得られたYI値の製造直後から6ヶ月後の変化を算出し、その値(ΔYI)を用いてペースト塩ビの貯蔵時の経時安定性を評価した。すなわち、ΔYIの値が小さいほどペースト塩ビの貯蔵時の経時安定性が優れていることを示す。
【0045】
実施例2
NaSOの添加量を0.04重量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:400ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0046】
実施例3
NaSOの添加量を0.13重量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:1300ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0047】
実施例4
NaSOの添加量を0.28重量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:2800ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0048】
実施例5
実施例1のNaSOをKSOとした以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(KSO含有量:150ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例6
SOの添加量を0.28重量部とした以外は、実施例5と同様の方法によりペースト塩ビを得て(KSO含有量:2800ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0050】
実施例7
実施例1のNaSOをNaとした以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(Na含有量:150ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例8
Naの添加量を0.28重量部とした以外は、実施例7と同様の方法によりペースト塩ビを得て(Na含有量:2800ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例9
実施例1のNaSOをKとした以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(K含有量:150ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0053】
実施例10
の添加量を0.28重量部とした以外は、実施例9と同様の方法によりペースト塩ビを得て(K含有量:2800ppm)、評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0054】
実施例11
実施例1のNaSOをNaSO0.0075重量部、Na0.0075重量部とした以外は実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:75ppm,Na含有量:75ppm)、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

実施例12
実施例1のNaSOをNaSO0.14重量部、Na0.14重量部とした以外は実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:1400ppm,Na含有量:1400ppm)、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0056】
実施例13
実施例1のNaSOをKSO0.0075重量部、K0.0075重量部とした以外は実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(KSO含有量:75ppm,K含有量:75ppm)、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0057】
実施例14
実施例1のNaSOをKSO0.14重量部、K0.14重量部とした以外は実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(KSO含有量:1400ppm,K含有量:1400ppm)、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0058】
実施例15
実施例1のNaSOをNaSO0.0075重量部、KSO0.0075重量部とした以外は実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(KSO含有量:75ppm,K含有量:75ppm)、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
実施例16
実施例1のNaSOをNaSO0.14重量部、KSO0.14重量部とした以外は実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(KSO含有量:1400ppm,K含有量:1400ppm)、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0060】
比較例1
NaSOの仕込みを行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て、評価を行った。その評価結果を表3に示す。ΔYI=3.3となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性が悪化した。
【0061】
【表3】

比較例2
シード1をシード2に、シード3をシード4に、ABS1をABS2に変更し、NaSOの仕込みを行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て、評価を行った。その評価結果を表3に示す。ΔYI=0.6となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性は改善したが、ゾル粘度=6000mPa・sとなり、ゾル粘度特性が悪化した。
【0062】
比較例3
NaSOの添加量を0.005重量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:50ppm)、評価を行った。その評価結果を表3に示す。ΔYI=3.3となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性が悪化した。
【0063】
比較例4
NaSOの添加量を0.5重量部とした以外は、実施例1と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:5000ppm)、評価を行った。その評価結果を表3に示す。ΔYI=0.2となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性は改善したが、発泡セル構造が悪化した。
【0064】
比較例5
NaSOをNaとした以外は、比較例3と同様の方法によりペースト塩ビを得て(Na含有量:50ppm)、評価を行った。その評価結果を表3に示す。ΔYI=3.2となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性が悪化した。
【0065】
比較例6
NaSOをNaとした以外は、比較例4と同様の方法によりペースト塩ビを得て(Na含有量:5000ppm)、評価を行った。その評価結果を表3に示す。ΔYI=0.3となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性は改善したが、発泡セル構造が悪化した。
【0066】
比較例7
NaSOをNaSOとした以外は、実施例2と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:400ppm)、評価を行った。その評価結果を表3に示す。ΔYI=3.3となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性が悪化した。
【0067】
比較例8
NaSOをNaとした以外は、実施例2と同様の方法によりペースト塩ビを得て(Na含有量:400ppm)、評価を行った。その評価結果を表3に示す。ΔYI=3.3となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性が悪化した。
【0068】
比較例9
NaSOをKとした以外は、実施例2と同様の方法によりペースト塩ビを得て(K含有量:400ppm)、評価を行った。その評価結果を表3に示す。製造直後の発泡色相がYI=12.5となり、悪化した。また、ΔYI=3.3となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性が悪化した。
【0069】
比較例10
NaSOをアスコルビン酸とした以外は、実施例2と同様の方法によりペースト塩ビを得て(アスコルビン酸含有量:400ppm)、評価を行った。その評価結果を表3に示す。製造直後の発泡色相がYI=12.5となり、悪化した。
【0070】
比較例11
NaSOをNaSO0.0025重量部、KSO0.0025重量部とした以外は、比較例3と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:25ppm,Na含有量:25ppm)、評価を行った。その結果を表3に示す。ΔYI=3.3となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性が悪化した。
【0071】
比較例12
NaSOをNaSO0.25重量部、KSO0.25重量部とした以外は、比較例3と同様の方法によりペースト塩ビを得て(NaSO含有量:2500ppm,Na含有量:2500ppm)、評価を行った。その結果を表3に示す。ΔYI=0.2となり、貯蔵時に樹脂の経時安定性は改善したが、発泡セル構造が悪化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を100〜3000ppm含有することを特徴とするペースト加工用塩化ビニル系樹脂。
SO (1)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
(2)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
【請求項2】
塩化ビニル単量体単独、又は、塩化ビニル単量体と塩化ビニル単量体と共重合可能なビニル単量体との混合物を、乳化剤、重合開始剤の存在下において水性媒体中で重合して得られた塩化ビニル系樹脂ラテックスに、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0.01〜0.3重量部添加し、乾燥することを特徴とする請求項1記載のペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。
SO (1)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
(2)
(但し、Mはアルカリ金属から選ばれた一種以上を表す。)
【請求項3】
乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩を使用することを特徴とする請求項2記載のペースト加工用塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のペースト加工用塩化ビニル系樹脂を含有することを特徴とするペースト加工用塩化ビニル系ゾル組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のペースト加工用塩化ビニル系ゾル組成物からなることを特徴とする発泡成形体。

【公開番号】特開2009−57486(P2009−57486A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226777(P2007−226777)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】