説明

ペースト形成用ゼラチン、これを用いてなるペースト状食材および食品

【課題】食品を得る際に、加熱することなく容易にペースト状を形成するものであって、かつ、形成されるペーストが、オーブンなどで加熱しても保形性を損なうことも離水を生じさせることもないとともに、その本来の食感を損なうことなく発揮させることのできる、ペースト形成用ゼラチン、これを用いてなるペースト状食材および食品を提供する。
【解決手段】本発明にかかるペースト形成用ゼラチンは、不溶化率50〜95重量%の架橋ゼラチンである、ことを特徴とし、本発明にかかるペースト状食材は、前記ペースト形成用ゼラチンが用いられてなる、ことを特徴とし、本発明にかかる食品は、前記ペースト状食材が用いられてなる、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト形成用ゼラチンと、これを用いてなる、パン、菓子などに使われるフィリングやスプレッドなどのペースト状食材および食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の大量生産、大量消費の時代においては、消費材の製造の簡便化が重要である。ペースト状食材においても同様のことが言え、ペースト状食材を得る際、加熱工程などはできるだけ不要であることが求められる。加熱工程がなければ、その分だけ、エネルギーを削減することができるので、生産に必要なコストを削減できるとともに、環境にも配慮することができる。特に、パン屋や洋菓子屋など、従来、液体を加熱する設備を持たないところでは、新規に加熱設備を設けるのは、コスト、場所、手間において大いに負担となる。
例えば、澱粉、ローカストビンガム、タラガム、カラギーナン、寒天、HMペクチン、ジェランガム、アラビアガム、カードラン、ゼラチン(本発明のごとき工夫がなされたものではなく、通常の調製方法によるゼラチンのことである)、卵白、大豆タンパクなどは、ペースト状とするために加熱工程が必要であり、上に述べた難点がある。
【0003】
また、パンなどの生地の上にペースト状食材を乗せてオーブンで加熱すると、生地からペーストが流れ出して見た目が悪くなるとともに、ペーストから離水が生じて、生地へ染み込み、生地の膨らみが悪くなるおそれがあった。さらに、パン生地の中にペースト状食材を詰めて加熱すると、保形性がないために、ペーストが溶けて下側に溜まり、上側は空洞となるため、見た目が悪く、商品価値が下がるという問題があった。上に例示した素材は、この耐熱性の問題も有している。
そこで、加熱することなく容易にペースト状食材を調製することができ、しかも、オーブンなどによる加熱(例えば180℃で10分以上)によっても保形性を失うことなく、かつ、離水を防止することのできる素材が求められるが、従来、このような素材として適切なものは存在しなかった。
【0004】
加熱することなく容易にペースト状を形成する素材として従来知られているものとしては、例えば、冷水可溶のα化澱粉や増粘多糖類などが挙げられるが、これらは、以下のような問題を有していた。
すなわち、α化澱粉は低温下において容易に溶解し、ペースト状になるが、180℃程度のオーブン加熱に耐えられるような耐熱性はなく、加熱によって粘度が低下し、液ダレすると言う問題がある。
また、加熱することなく容易にペースト状を形成する増粘多糖類として、キサンタンガムやグアガムなどが知られているが、これらも、やはり耐熱性がなく、さらには、分散時にダマになりやすく、高速の撹拌やホモジナイザーによる分散などが必要となるといった欠点もあった。
【0005】
上記以外に従来知られている技術としては、例えば、LMペクチンとカルシウムイオンとのイオン反応ゲルがある(特許文献1参照)。この技術は、LMペクチンを含む溶液と、果汁や牛乳などのカルシウムイオンを含む溶液を混合することでゲルを形成するものであり、LMペクチンは冷水可溶であり、また形成されるゲルは、耐熱性を有するものである。
しかし、この技術では、カルシウムイオンの量によって食感が変わってしまうという問題があり、果汁や牛乳に含まれるカルシウムの量によって反応が変化するため、食感の微妙な調整が難しい。また、果汁などに含まれるナトリウムやカリウムなどの1価のイオンが共存する場合にも、LMペクチンとカルシウムとの反応が阻害され、やはり、食感が変化する可能性があった。
【0006】
また、耐熱性、冷解凍時の耐性の両方を考慮した技術として、微細繊維状セルロースと水溶性高分子と親水性物質とを含む微細繊維状セルロース複合体と多糖類とからなるゲル状組成物を、冷凍後に加熱処理する、耐熱性ゲル状組成物の製造方法も知られている(特許文献2参照)。
しかし、上記特許文献2に記載の耐熱性ゲル状組成物を製造するには、冷凍後、60℃以上で解凍する設備が必要であり、このように冷凍後加熱する工程がないと所望の効果が得られない。したがって、加熱することなく容易にペースト状を形成することができない。また、前記解凍のための加熱と調理のための加熱の2回の加熱工程が必要である。
【0007】
さらに、架橋エーテル化または架橋エステル化した澱粉を使用したペースト状食品が知られている(特許文献3参照)。この技術によれば、ぼそつきやもたつきがなく、滑らかで、口溶けの良い優れた食感を有する、耐熱性および冷凍・冷蔵保存時の食感持続性の高いペースト状食品を提供することができるとされている。
しかし、澱粉は曳糸性や糊状感を有していて、その改良技術である上記特許文献3の技術であっても、澱粉を用いる限り、その影響を完全に排することはできず、特にその配合量が増えると食感への影響が強くなる。また、α化処理をしていない加工澱粉は加熱しないと糊化せず、ペースト状にならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−509946号公報
【特許文献2】特開2009−261293号公報
【特許文献3】特開2006−42739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、食品を得る際に、加熱することなく容易にペースト状を形成するものであって、かつ、形成されるペーストが、オーブンなどで加熱しても保形性を損なうことも離水を生じさせることもないとともに、その本来の食感を損なうことなく発揮させることのできる、ペースト形成用ゼラチン、これを用いてなるペースト状食材および食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ペースト形成用の素材としてゼラチンを用いることとし、ただし、該ゼラチンとしては、不溶化率50〜95重量%の架橋ゼラチンを用いるようにすることで、加熱することなく容易にペースト状を形成するものとなることを見出し、さらに、形成されるペーストが、オーブンなどで加熱しても溶解することなく、保形性の維持、離水の抑制が可能となることを見出した。また、冷たいあるいは熱い液状物に未架橋のゼラチンや増粘多糖類を入れると、それらは粒の周りから溶解しながら分散しようとするため、溶解した粒同士がくっつきあってダマになりやすいのに対して、上記架橋ゼラチンは溶解するのではなく、分散して膨潤するだけなのでダマになりにくく、これによって、容易にペースト状を形成することが分かった。このとき、架橋ゼラチンは、例えば、増粘剤として一般的に用いられる多糖類のように、ペーストの全体にわたって網目構造を形成するのではなく、1つ1つが吸水し、その集合体でペーストを形成するため、べたつきがなく、口溶けの良い食感となり、ペースト状食材本来の食感を損ねないことも分かった。
【0011】
本発明は上記知見に基づき完成されたものである。
すなわち、本発明にかかるペースト形成用ゼラチンは、不溶化率50〜95重量%の架橋ゼラチンである、ことを特徴とする。
本発明にかかるペースト状食材は、上記ペースト形成用ゼラチンが用いられてなる、ことを特徴とする。
本発明にかかる食品は、上記ペースト状食材が用いられてなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかるペースト形成用ゼラチンは加熱することなく容易にペースト状を形成するものであって、かつ、形成されるペーストが、オーブンなどで加熱しても保形性を損なうことも離水を生じさせることもないとともに、その本来の食感を損なうことなく発揮させるものである。本発明にかかるペースト状食材および食品は、前記ペースト状食材が用いられているので、同様の利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔ペースト形成用ゼラチン〕
本発明にかかるペースト形成用ゼラチンは、牛や豚などの哺乳動物の骨、皮部分や、サメやティラピアなどの魚類の骨、皮、鱗部分などのコラーゲンを含有する材料から従来公知の方法で得ることができる。アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチンのいずれでも良い。
【0014】
本発明においては、上記ゼラチンとして、不溶化率50〜95重量%の架橋ゼラチンが用いられていることが必要である。
ここで、本発明において、架橋ゼラチンの不溶化率の測定は、後述の実施例に記載の方法によるものとし、「溶解」あるいは「不溶解」といった溶解性に関する語も、該実施例に記載の方法において所定条件下の熱水に溶解することあるいは溶解しないことを意味するものである。
架橋ゼラチンを得るための処理としては、伝導熱や輻射熱などの外部加熱やマイクロ波加熱などの内部加熱により約50〜200℃で加熱硬化させる方法、紫外線照射や遠赤外線照射する方法などの物理的方法と、グルタールアルデヒド、タンニン、明バン、硫酸アルミニウムなどで処理する方法などの化学的方法が採用できる。中でも、外部加熱によることが好ましく、140〜170℃で45〜60分加熱することが好ましい。温度が低すぎたり時間が短すぎたりするとゼラチンを十分に架橋させることが困難となり、温度が高すぎたり時間が長すぎたりすると焦げや褐変を生じるおそれがある。
【0015】
加熱時の水分揮散によるゼラチンの膨化を抑えるため、予めゼラチンを乾燥させる目的で、50〜150℃で5〜60分予備加熱しておくこともできる。
不溶化率50重量%以上の架橋ゼラチンを用いることとすれば、充分な耐熱性を発揮するので、加熱しても保形性が維持され、離水が生じることもない。好ましくは、不溶化率60重量%以上の架橋ゼラチンを用いる。
ただし、架橋ゼラチンの不溶化率は95重量%以下であることが必要である。85重量%以下であることが好ましい。架橋ゼラチンの不溶化率が95重量%を超えると、粒々感や異物感を与えて、ペースト状食材本来の食感が損なわれるおそれがあり、また、吸水性が低下するので、離水を防止するためにゼラチンを多量に用いなければならなくなるおそれがある。
【0016】
架橋ゼラチンの膨潤度は6〜25であることが好ましく、10〜20であることがより好ましい。膨潤度が6未満ではペースト状になり難く、形成されるペーストの食感も悪くなるおそれがあり、25を超えると形成されるペーストの食感がべたつくおそれがある。なお、本発明において、「膨潤度」は、後述の実施例に記載の方法で測定される値とする。
架橋ゼラチンが40メッシュJIS標準篩を通過するものであることが好ましい。架橋ゼラチンは、ペースト状食材に熱をかけても溶解しないので、粒子が大きすぎると、粒々感や異物感を与えて、ペースト状食材本来の食感が損なわれるおそれがある。
【0017】
ゼラチンの微細化方法としては、特に限定されないが、例えば、ピンミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、カッターミルなどが挙げられる。架橋ゼラチンを粉砕する場合、架橋処理の前および後のいずれで行っても良い。
〔ペースト状食材〕
本発明にかかるペースト状食材は、本発明にかかる上記ペースト形成用ゼラチンが用いられてなる。
上記ペースト形成用ゼラチンは、加熱することなく容易にペースト状を形成するので、そのための加熱設備を設ける必要がなく、コスト、場所、手間といった負担が非常に少なくて済む。また、通常のゼラチンと同様、凍結解凍時の離水を抑えるので、これを用いた本発明にかかるペースト状食材は、冷凍保存が可能である。もちろん、冷蔵保存や常温保存も可能である。加えて、通常のゼラチンが備えていない耐熱性という性質を有しているので、加熱調理をしても、保形性があり、離水が少なく、本来の食感が損なわれることもないという利点がある。
【0018】
ペースト形成用ゼラチンは液状物に分散させることでペースト状とすることができる。この液状物としては、通常、水性液が適用されるが、架橋ゼラチンのもつ極性官能基に基づき分散性を発揮させることができるのであれば、水性液以外の液状物を用いることもできる。
液状物に対するゼラチンの添加量としては、特に限定するわけではないが、例えば、ペースト状食材全量に対し、0.1〜10.0重量%が好ましく、0.5〜5.0重量%がより好ましい。0.1重量%未満では本発明の効果が充分に得られないおそれがあり、10.0重量%を超えると食感が硬くなって、ペースト状食材本来の食感を損なうおそれがある。
【0019】
液状物には、粘度付けなどのために、タンパク質や増粘多糖類を加えても良い。
前記タンパク質としては、例えば、カゼインナトリウム、卵白、卵黄、大豆タンパク質などが挙げられる。
前記増粘多糖類としては、例えば、澱粉、グアガム、キサンタンガム、ローカストビンガム、タラガム、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、寒天、アラビアガム、グルコマンナン、アルギン酸やその塩、カラヤガム、カードラン、セルロース、メチルセルロースなどが挙げられる。
また、架橋ゼラチンの分散性をさらに向上させるために、分散剤を使用してもよい。前記分散剤としては、デキストリン、ブドウ糖、砂糖、オリゴ糖などが挙げられる。
【0020】
液状物としては、例えば、ジュース、ピューレ、ソース、スープなどが挙げられ、より詳しくは、例えば、野菜ジュース、トマトピューレ、デミグラスソース、コンソメスープなどが挙げられる。このように、液状物として、食材や食品として食されるものをそのまま用いてもよいのである。
本発明にかかるペースト状食材は、耐熱性に優れているので、調理時などにおいて、例えば、オーブンなどによって100℃以上の温度で処理されても、その本来の食感をそこなうことはない。
このような高温での処理には、単純に加熱すること以外に、蒸したり、焼いたりといった処理も含まれる。
【0021】
本発明にかかるペースト状食材は、前記のごとき液状物に、本発明にかかるペースト形成用ゼラチンを添加して、適度な粘性を付与したものである。
〔食品〕
本発明にかかる食品は、上記本発明にかかるペースト状食材が用いられてなるものであり、ペースト状食材をそのまま食品とする場合を含むが、それ以外に、例えば、ペースト状食材をフィリングやスプレッドなどとして適用した、パン、菓子、ピザなどが挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例において、架橋ゼラチンの不溶化率、膨潤度の測定は、以下のようにして行った。
<架橋ゼラチンの不溶化率および膨潤度の測定>
対象となるゼラチン6gを水300mlに投入し、室温で1時間静置したのち、湯煎により液温90℃で10分間維持する。その後、直ちに、遠心分離機で遠心分離(13000rpm、15分)し、沈降した不溶性物を回収し、その重量を測定する(膨潤後重量)。これをろ紙上に置いて、105℃で12時間以上加熱乾燥して、沈降乾燥物重量を測定する。
【0023】
このようにして測定された不溶性物量と試験前の試料の絶乾重量とから、下式より不溶化率(重量%)を求める。
架橋ゼラチンの不溶化率(重量%)
=(不溶性物量(g)/試験前の試料の絶乾重量(g))×100
また、上記膨潤後重量と試験前の試料の絶乾重量とから、下式より膨潤度を求める。
膨潤度=膨潤後重量(g)/試験前の試料の絶乾重量(g)

〔ペースト形成用ゼラチン〕
<実施例1>
牛骨アルカリ処理ゼラチン「NC」(新田ゼラチン社製、150g品)70kgを加熱ニーダーに投入し、130℃で30分間予備加熱し、さらに200℃まで昇温し30分間加熱することでゼラチンを熱架橋させることにより、実施例1にかかる架橋ゼラチンを得た。
【0024】
得られた架橋ゼラチンは、48メッシュJIS標準篩を通過するものであり、また、膨潤度は15であった。
<実施例2〜5、比較例1〜3>
実施例1において、熱架橋させるゼラチンの種類および熱架橋条件を変更したこと以外は同様にして、実施例2〜5にかかる架橋ゼラチンおよび比較例2,3にかかる架橋ゼラチンを得た。
変更内容は表1に示した。
比較例1では、架橋のための加熱を行わず、したがって、比較例1のゼラチンは未架橋ゼラチンである。
【0025】
【表1】

【0026】
表1において、「SRC」は新田ゼラチン社製の牛骨アルカリ処理ゼラチン(250g品)、「R微粉」は新田ゼラチン社製の牛骨アルカリ処理ゼラチン(100g品)、「AP−250Y」は新田ゼラチン社製の豚皮酸処理ゼラチン(250g品)であり、熱架橋後の架橋ゼラチンは、全て、48メッシュJIS標準篩を通過するものであった。各ゼラチンの膨潤度は表1に併せて示した。
<比較例4>
α化澱粉「スウェリージェル700」(王子コーンスターチ社製)を比較例4とした。
<比較例5>
架橋澱粉「SBK−1」(日澱化学社製)を比較例5とした。
【0027】

〔ペースト状食材:トマトペースト〕
<実施例6〜10、比較例6〜10>
上記各実施例、比較例にかかるゼラチンまたは澱粉、すなわち、上記実施例1〜5にかかる各架橋ゼラチン、比較例1にかかる未架橋ゼラチン、比較例1〜3にかかる各架橋ゼラチン、比較例4にかかるα化澱粉または比較例5にかかる架橋澱粉を用いて、各トマトペーストを得た。
すなわち、25℃の室温下、市販のトマトピューレ950gに、上記のゼラチンまたは澱粉30g、グアガム1g、デキストリン9gを撹拌分散させ、30分静置後、トマトペーストを得た。
【0028】
〔トマトペーストの評価〕
得られた各トマトペーストについて、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
なお、以下の評価は、任意に選ばれた10人のパネラーで行い、各項目の平均点を算出し、評点とした。評価3以上を合格点とする。以下において、4点は5点と3点の中間的評価、2点は3点と1点の中間的評価という意味である。
<常温放冷時食感評価>
トマトペーストを常温で放冷した後、下記評価基準により、5段階で食感を評価した。
5:口溶けがよく滑らかである。
【0029】
→3:ややべたつく、もしくは、少しザラザラした食感である。
→1:口溶けが悪くべたつく、もしくは、ザラザラした食感で異物感がある。
<加熱時評価(耐熱性)>
上記トマトペースト10gをアルミ箔に乗せ、オーブンを用いて180℃で10分加熱したのち、下記評価基準により、5段階で離水と保形性と食感とを評価した。
(離水)
5:まったく離水がない。
→3:ペーストの周りから若干水が染み出している。
【0030】
→1:ペーストの周りから水が染み出してアルミ箔へ流れ出している。
(保形性)
5:加熱前と形状がほぼ変わらない。
→3:ペーストが溶け出し、アルミ箔に流れている。
→1:ペーストが溶解して、原形をとどめていない。
(食感)
5:滑らかで口溶けがよい。
→3:ややべたつく、もしくは、少しザラザラした食感である。
【0031】
→1:口溶けが悪くべたつく、もしくは、ザラザラした食感で異物感がある。
【0032】
【表2】

【0033】
<結果の考察>
実施例1〜5の架橋ゼラチンを用いた実施例6〜10にかかるトマトペーストでは、トマトピューレが、架橋ゼラチンを分散撹拌することにより増粘し、かつ、静置後にペースト状となって得られたものであり、ペースト化は極めて容易であった。また、出来上がり後の食感が良好であるとともに、オーブン加熱を行っても、トマトペーストが溶解することもなく、離水も抑えられており、かつ、トマトペースト本来の食感も損なわれていなかった。
比較例1の未架橋ゼラチン、比較例2の架橋ゼラチンは、ゼラチンの不溶化率が0重量%もしくは50重量%未満と低いため、これを用いた比較例6,7にかかるトマトペーストは、オーブン加熱により溶解して液状になり、離水が生じてしまい、かつ、トマトペースト本来の食感が損なわれていた。
【0034】
比較例3の架橋ゼラチンは、架橋ゼラチンの不溶化率が95重量%を超えているため、これを用いた比較例8にかかるトマトペーストは、食感がザラザラしていて、滑らかさがなかった。
比較例4にかかるα化澱粉を用いた比較例9にかかるトマトペーストは、撹拌分散によりペースト状になるものの、口中でべたつく食感であるとともに、オーブン加熱によって溶解してしまった。
比較例5にかかる架橋澱粉を用いた比較例10にかかるトマトペーストは、撹拌分散してもペースト状にならなかった。
【0035】

〔ペースト状食材:グレープフルーツペースト〕
〔実施例11〜15、比較例11〜15〕
上記各実施例、比較例にかかるゼラチンまたは澱粉、すなわち、上記実施例1〜5にかかる各架橋ゼラチン、比較例1にかかる未架橋ゼラチン、比較例1〜3にかかる各架橋ゼラチン、比較例4にかかるα化澱粉または比較例5にかかる架橋澱粉を用いて、各グレープフルーツペーストを得た。
すなわち、市販のグレープフルーツジュース950gに、上記のゼラチンまたは澱粉40g、デキストリン9g、グアガム1gを分散させ、グレープフルーツペーストを得た。
【0036】
〔グレープフルーツペーストの評価〕
得られた各グレープフルーツペーストについて、上記トマトペーストでの評価と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
<結果の考察>
グレープフルーツジュースは、トマトピューレよりも水分が高く、繊維質も少ないため、グレープフルーツペーストでの評価は、トマトペーストでの評価と比べると全体的に評価が低下したが、実施例11〜15にかかるグレープフルーツペーストは充分に合格点に達していた。
一方、比較例11〜15のグレープフルーツペーストは、比較例6〜10のトマトペーストでの評価以上に、耐熱性の低さが顕著に表れた。
また、比較例13のグレープフルーツペーストは、比較例8同様、食感がザラザラしていた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明にかかるペースト形成用ゼラチンは、トマトペースト、果汁ペースト、ミルクペースト、各種ソースペースト、各種スープペーストなどのペースト状食材を得させる素材として、また、このようなペースト状食材は、そのまま、あるいは、パン、菓子などにフィリングやスプレッドなどとして用いた食品として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶化率50〜95重量%の架橋ゼラチンである、ペースト形成用ゼラチン。
【請求項2】
膨潤度が6〜20である、請求項1に記載のペースト形成用ゼラチン。
【請求項3】
40メッシュJIS標準篩を通過するものである、請求項1または2に記載のペースト形成用ゼラチン。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載のペースト形成用ゼラチンが用いられてなる、ペースト状食材。
【請求項5】
前記ペースト形成用ゼラチンがペースト食材全量に対して0.1〜10.0重量%の割合で用いられている、請求項4に記載のペースト状食材。
【請求項6】
原料として増粘多糖類および/またはタンパク質も用いられている、請求項4または5に記載のペースト状食材。
【請求項7】
請求項4から6までのいずれかに記載のペースト状食材が用いられてなる、食品。