説明

ペースト状カレーの製造方法

【課題】タマネギ、ニンジンなど野菜由来の旨味があり、滑らかな口当たりとすっきりした後味が特徴のペースト状カレーを得る。
【解決手段】小麦粉を含有し、レトルト加熱殺菌されたペースト状カレーの製造において、小麦粉、カレー粉、その他のカレー材料と、少なくともタマネギ及びニンジンを材料とする野菜スープとを混合し、加熱調理した後、レトルト処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カレーの製造方法に関し、さらに詳しくは、例えばカレーパン向けの、レトルト加熱調理されたペースト状カレーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カレー風味の食品(以下、カレー製品という。)は日本人の好むものであり、とりわけカレーパンやカレーライスは、幅広い年齢層に受け入れられている。近年、消費者の高級化志向がますます強くなる傾向にあり、そのことはカレーパンのようなベーカリー製品においても例外ではなく、肉、野菜などの具材を大きくしたり、量を多くしたり、各種スパイスの特徴を活かしたような本格的なカレー製品が製造されているのが現状である。カレー製品においては、通常、主原料として使用されているタマネギ、ニンジンがカレーの風味に大きな影響を及ぼしており、これまでにもタマネギ、ニンジンの調理方法などが種々検討されている。例えば、従来、レトルト加熱殺菌されたペースト状カレーの製造においては、原料となるタマネギ及びニンジンについては、通常、生のものをカットし、あるいはカットされた後、冷凍されたものを使用し、ソテーあるいは水煮等の加熱処理を経て使用されていた。上記のようにして製造されたペースト状カレー中のタマネギ及びニンジンは、加熱殺菌時、さらに殺菌後の保存時に独特の甘い風味に変化し、カレーの旨味を決定づける大きな要因となる。従来、カレーなどに使用するタマネギなどの処理方法については、予め水分含量が72〜89重量%になるように乾燥処理し次いで凍結処理を施すことを特徴とする冷凍タマネギの製造方法(特許文献1)や、同じくカレーなどに使用するタマネギ加工品の製造において、タマネギの表面をコラーゲン又はゼラチンのいずれか一方を必ず含む可食性素材でコーティングした後、冷凍することを特徴とするタマネギ加工品の製造法(特許文献2)等が報告されている。これらの方法ではタマネギ、ニンジン自体の品質は向上するので、これらを使用することで、ペースト状カレーの風味にある程度良い影響は与えるが、タマネギ、ニンジン由来の旨味を十分に生かし切れてはいない。
【特許文献1】特開平7−147892号公報
【特許文献2】特開平6−315345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題はこのような現状に鑑み、タマネギ、ニンジン由来の旨味があり、滑らかな口当たりとすっきりした後味が特徴の新規な風味のペースト状カレーを工業的に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ペースト状カレーにおいて大きなウェイトを占めている水分に着目し、タマネギとニンジンを必須成分とする野菜スープをあらかじめ作製しておき、ペースト状カレーの製造の際に使用することで、野菜由来の旨味だけでなく、野菜由来の繊維分がペースト状カレーのボディ形成を補足するため、滑らかな口当たりとすっきりした後味が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明の第一は、小麦粉を含有し、レトルト加熱殺菌されたペースト状カレーの製造において、小麦粉、カレー粉、その他の材料と、少なくともタマネギ及びニンジンを材料とする野菜スープとを混合し、加熱調理した後、レトルト処理してなることを特徴とするペースト状カレーの製造方法である。好ましい実施態様は、前記ペースト状カレー全体中の水分含量が50〜80重量%となるように、野菜スープや水の配合量を調整する。より好ましくは、野菜スープの配合量を、ペースト状カレー全体中10〜50重量%とする。さらに好ましくは、野菜スープとして、タマネギ2〜10重量%及びニンジン2〜10重量%を含有する材料を加熱調理したものを使用する。特に好ましくは、野菜スープとして、少なくともタマネギ及びニンジンを含む野菜と水とを、90〜98℃の温度域で0.5〜2時間加熱調理したものを使用する。また、本発明の第二は、前記のような本発明方法により製造されたペースト状カレーを用いたカレーパンである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、タマネギ、ニンジン由来の旨味が、野生スープとしてカレー材料に加えることで、その他の素材の風味も生かし、滑らかな口当たりでソフトな食感があり、すっきりした後味が得られるペースト状カレーを製造できる。従って、本発明の方法によって製造されたペースト状カレーを用いたカレーパンは、野菜由来の風味とこくがあり、滑らかな口当たりとすっきりした後味を有し、カレーパンとしての風味のバランスが良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のペースト状カレーとは、小麦粉を含有し、ある程度の粘度があり、例えば、カレーパンやカレーライスに用いられるカレーのことである。特に、水分含量が50〜80重量%であると、カレーフィリングとして用いられるペースト状カレーとして好ましい固さとなる。本発明のペースト状カレーは、小麦粉のほかに、少なくともタマネギ及びニンジンを含む野菜スープ、カレー粉を必須成分とし、その他、ラード中で炒めた肉類、野菜類等、さらに必要に応じて調味料、チャツネ、糖類、黒コショウ、アニス、ガーリック、ジンジャー等の香辛料、乳製品、食塩などを加えてもよい。
【0008】
本発明に用いる野菜スープとは、少なくともニンジン及びタマネギ、その他の香味野菜と水を主原料に、好みにより調味料(チキンブイヨン等)を加えたものを加熱調理したものである。この野菜スープの製造方法は特に限定するわけではなく、例えば以下のようにして作製する。まず、加熱用の釜に水を入れ、そこにあらかじめカットしたニンジン、タマネギ、その他の香味野菜を添加し、沸騰しないように適当な時間加熱する。香味野菜としてのタマネギ及びニンジンの使用量は、それぞれが野菜スープ材料全体中2〜10重量%であることが好ましい。このような使用量であると、本発明の効果を好適に得られる。また、加熱、条件は90〜98℃で0.5〜2時間が好ましい。90℃より低かったり、0.5時間より短いと、野菜の旨味が乏しく、すっきりした後味やソフトな食感が得られない場合がある。また98℃より高かったり、2時間より長いと、風味が低下する場合がある。
【0009】
本発明のペースト状カレーの製造例を以下に例示する。まず、加熱したラード等の油脂中に肉類、野菜類等を加えて十分に炒めた後、ルウ及び必要に応じて小麦粉などのデンプン質を加えて十分混合し、カレー粉および前記した方法によって得られた野菜スープ、水、さらに必要に応じて調味料、チャツネ、糖類、黒コショウ、アニス、ガーリック、ジンジャー等の香辛料、乳製品、食塩などを加えて、100℃以下の温度、好ましくは60℃〜80℃程度まで加熱して調理する。これをレトルトパウチに充填し、110〜120℃で、10〜30分間レトルト処理により加熱し、その後に冷却する。
【0010】
前記のようにして得られたペースト状カレーをパン生地にて包あんし、パン粉付けを行い油調することで、本発明のカレーパンを得ることができる。なお、本発明方法により製造されたペースト状カレーの用途はカレーパン用に限られるものではなく、そのままカレーライス用として用いてもよいし、他の用途に用いることもできる。
【実施例】
【0011】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」、「%」は、いずれも重量基準である。
【0012】
(製造例1) 野菜スープの作製
表1に示した配合に従って、以下のように作製した。5部のニンジン、タマネギをそれぞれ1cm程度の大きさにざっくり切り分けた。切り分けたニンジン及びタマネギを、89.4部の水及び0.6部のマギーブイヨン(ネスレ(株)製)とともに鍋に入れ、強火で加熱を開始した。沸騰直前の92℃〜95℃に達したら、90℃を下回らないように沸騰直前の92℃〜95℃で火加減を調整管理し、沸騰してから該温度に達した後、30分間煮込む。その後、火からおろし、翌日まで放置し、野菜スープを得た。
【0013】
【表1】

【0014】
(実施例1) ペースト状カレーの作製
表2に示した配合に従って、以下のようにペースト状カレーを製造した。即ち、加熱したラード中に肉類、野菜類等を加えて十分に炒めた後、ルウ及び小麦粉を加えて十分混合し、カレー粉および製造例1で得た野菜スープ、水、調味料、チャツネ、糖類、黒コショウ、スターアニス、ガーリック、ジンジャー等の香辛料、乳製品、食塩などを加えて、60℃の温度まで加熱して調理した。これをレトルトパウチに充填し、120℃で、30分間レトルト処理により加熱し、その後に冷却することによって、カレーペーストを得た。得られたカレーペーストの水分含量を常圧乾燥法で測定したところ60%であった。ここで常圧乾燥法とは、直径5cmの時計皿にカレーペーストサンプルを約10g入れ、常圧下、105℃のオーブンで5時間乾燥し、乾燥前後の重量差で水分を定量する方法である。
【0015】
【表2】

【0016】
(比較例1) ペースト状カレーの作製
表2に示した配合に従って、野菜スープを添加せず、その分水を増量した以外は、実施例1と同様にしてカレーペーストを得た。
【0017】
(実施例2) カレーパンの作製
表3の配合に従って、以下のようにパン生地を作製した。常法に従い70%中種法にてドーナッツ生地を作成し、この生地50gに実施例2で得たペースト状カレー40gを包餡機(レオン自動機(株)製CN−200型)により包餡成型した後、ホイロに入れ、40℃、50分間醗酵させ、これを菜種白絞油にて、180℃で3分間油調してカレーパンを得た。
【0018】
【表3】

【0019】
(比較例2) カレーパンの作製
ペースト状カレーとして比較例1で得たものを用いた以外は、実施例2と同様にしてカレーパンを得た。
【0020】
実施例2及び比較例2で得られたカレーパンを、以下のようにして官能評価し、その結果を表4に示した。
【0021】
<カレーパンの官能評価>
実施例及び比較例で作製したカレーパンに対し、熟練した10名のパネラーにより官能評価(3点満点)を行った。そして10名のパネラーの平均値を算出し、評価点とした。その際の評価基準は次の通りである。
3点:野菜由来の旨味、甘味が特徴となっており、滑らかな口当たりとすっきりした後味のためカレーパンとして美味しい。
2点:野菜由来の旨味、甘味に特徴があまりなく、口当たりや後味も普通でカレーパンとして美味しいとも美味しくないともいえない。
1点:野菜由来の旨味、甘味が殆ど無く、口当たりや後味も良くないためカレーパンとして特徴がなく全く美味しくない。
【0022】
【表4】

【0023】
表4に示すように、野菜スープを使用した本発明のカレーペーストで作製したカレーパンは、野菜由来の風味とこくがあり、滑らかな口当たりとすっきりした後味のため、カレーパンとしての風味のバランスも良いと評価された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉、カレー粉、その他の材料と、少なくともタマネギ及びニンジンを材料とする野菜スープとを混合し、加熱調理した後、レトルト処理してなることを特徴とするペースト状カレーの製造方法。
【請求項2】
ペースト状カレー全体中の水分含量が、50〜80重量%であることを特徴とする請求項1記載のペースト状カレーの製造方法。
【請求項3】
野菜スープの配合量が、ペースト状カレー全体中10〜50重量%である請求項1又は2記載のペースト状カレーの製造方法。
【請求項4】
野菜スープが、タマネギ2〜10重量%及びニンジン2〜10重量%を含有する材料を加熱調理したものである請求項1〜3のいずれかに記載のペースト状カレーの製造方法。
【請求項5】
野菜スープが、少なくともタマネギ及びニンジンを含む野菜と水とを、90〜98℃の温度域で0.5〜2時間加熱調理したものである請求項1〜4のいずれかに記載のペースト状カレーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のペースト状カレーを用いたカレーパン。


【公開番号】特開2007−259780(P2007−259780A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90244(P2006−90244)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】