説明

ペースト状又はゲル状食品

【課題】保存性等の長期安定性を保ちつつ、保形性に優れ、且つざらつきや糊状感のない口溶けと風味に優れたペースト状又はゲル状食品を提供する。
【解決手段】アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、アセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉を含有するペースト状又はゲル状食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保形性に優れ、口溶けの良い食感と風味に優れたペースト状又はゲル状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
原料として水、澱粉、糖類、乳原料、乳化剤等を用い、これらを混合、乳化させた後、混練させながら加熱して製造される食品として、カレー、餡、チョコレートクリーム、生クリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、フィリング、スプレッド、グラタン、スープ類、御汁粉、ジャム、ゼリー、グミ、ムース、杏仁豆腐、ババロア、パンナコッタ、プリン、ヨーグルト等のゲル状又はペースト状食品がある。
【0003】
一方、食品を大量に生産し長期に保存する技術は、食品関連事業が近代工業化された頃より、該事業者の間において根強く存在するニーズである。更に1980年代からは、これらニーズに加え、流通過程において冷凍・チルド・冷蔵しても品質が劣化しない技術が求められてきた。これらのニーズへの対応策として、ペースト状又はゲル状食品に化工澱粉を使用する方法がある。
【0004】
下記特許文献1には、膨潤度が5〜25で且つアセチル基及び/又はヒドロキシプロピル基の平均置換度が0.02〜0.2である膨潤調節澱粉と、高温域では低粘性で冷却すると急激に増粘する特性を有する低温易粘性澱粉を、50:50〜90:10の重量割合で混合した澱粉質原料を用いてなるフラワーペーストが開示されている。
【0005】
下記特許文献2には、アミロース含量が20〜35重量%の加工穀物澱粉を、ペースト状食品中に1〜10%含有させることが開示されている。
【0006】
下記特許文献3には、エーテル化又はエステル化置換度が0.03〜0.2且つ膨潤度が2.0〜4.0である架橋ヒドロキシプロピル化米澱粉を、ペースト状食品中に2〜10質量%含有させることが開示されている。
【0007】
下記特許文献4には、(a)化工澱粉、好ましくはワキシーコーンスターチ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカ澱粉由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉等から選択される少なくとも1種と、(b)LMペクチン、(c)寒天の三成分を有する組成物を用いてヨーグルト等の乳製品を製造することが開示されている。
【0008】
また、下記特許文献5には、置換及び架橋されたアセチル化ジデンプンアジピン酸ワキシ小麦デンプンを、フルーツパイ、冷蔵されたすぐに食せるカスタード、及び低脂肪マヨネーズ等に用いることにより、質感特性及び風味特性を有意に改良できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−84874号公報
【特許文献2】特開2004−173541号公報
【特許文献3】特開2006−42739号公報
【特許文献4】特開2004−215563号公報
【特許文献5】特表2005−519170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ヒドロキシプロピル化澱粉、アセチル化澱粉、リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉では、保存性、保形性、口溶け及び風味の全てを満たすことはできなかった。また、ペースト食品やゲル状食品にアセチル化アジピン酸架橋ワキシ小麦澱粉やアセチル化アジピン酸架橋ワキシーコーンスターチを含有させても、このような問題を改善できず、保存性、保形性、口溶け及び風味の全てを満たすことはできなかった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、保存性等の長期安定性を保ちつつ、保形性に優れ、且つざらつきや糊状感のない口溶けと風味に優れたペースト状又はゲル状食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ペースト状又はゲル状食品中に、特定のアセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉を含有させることにより、保形性に優れながらも、ざらつきや糊状感のない口溶けと風味に優れたペースト状又はゲル状食品を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明のペースト状又はゲル状食品は、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、アセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明のペースト状又はゲル状食品は、カレー、餡、チョコレートクリーム、生クリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、フィリング、スプレッド、グラタン、スープ類、御汁粉、ジャム、ゼリー、グミ、ムース、杏仁豆腐、ババロア、パンナコッタ、プリン、ヨーグルトから選ばれる一種以上であることが好ましい。
【0015】
本発明のペースト状又はゲル状食品は、加熱殺菌が施されたものであることが好ましい。
【0016】
本発明のペースト状又はゲル状食品は、冷凍、チルド、冷蔵から選ばれる一種以上の温度で保存されるものであることが好ましい。
【0017】
本発明のペースト状又はゲル状食品は、焼成が施されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のペースト状又はゲル状食品は、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、アセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉を含有することにより、経時安定性に優れ、しかも、ざらつきや糊状感のない口溶けと風味に優れたペースト状又はゲル状食品とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のペースト状又はゲル状食品は、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、アセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉(以下、本アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉ともいう)を含有する。
【0020】
アセチル化アジピン酸架橋澱粉は、リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシルプロピル化リン酸架橋澱粉等と比較して、保形性、口溶け、風味の改善に優れている。この理由としては、詳細は不明だが、これは架橋の分子構造の違い及びその大きさや強度によるものではないかと考えられる。
【0021】
また、アセチル化アジピン酸架橋澱粉であっても、ワキシーコーンスターチ、ウルチ種コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、緑豆澱粉、サゴ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉等のタピオカ澱粉以外の澱粉を原料とした場合、ペースト状又はゲル状食品の保存性、口溶け、風味を充分に改善出来ない。この理由としては、詳細は不明であるが、糊化後に澱粉粒子から溶出する成分の平均分子量の違いに起因すると推測される。つまり、ワキシーコーンスターチ、ウルチ種コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、緑豆澱粉、サゴ澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の地上穀物を原料澱粉としたアセチル化アジピン酸架橋澱粉では、溶出成分の平均分子量が比較的高いので、もったりとした口溶けの悪い性状となり、食品素材の風味をマスキングしてしまう。また、馬鈴薯澱粉や甘藷澱粉を原料とするアセチル化アジピン酸架橋澱粉は、溶出成分の平均分子量は比較的低いものの、由来する穀物の風味が強いため、食品に使用した際に食品素材の風味を邪魔してしまう場合がある。これに対し、アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉は、溶出成分の平均分子量が比較的低く、穀物由来の風味も弱いので、ざらつきや糊状感のない口溶けに優れる性状となり、更には、食品素材の風味を阻害し難いため、保存性等の長期安定性を保ちつつ、保形性に優れ、且つざらつきや糊状感のない口溶けと風味に優れたペースト状又はゲル状食品となるものと考えられる。
【0022】
このため、アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉を使用することで、保形性に優れ、且つざらつきや糊状感のない口溶けと風味に優れたペースト状又はゲル状食品が得られ易くなる。
【0023】
本発明において、アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉のアジピン酸基含量は、0.010〜0.135質量%であり、0.02〜0.11質量%が好ましい。アジピン酸基含量はアセチル化アジピン酸架橋における架橋の度合いを示すものであり、上記アジピン酸基含量であれば、耐熱性、耐酸性に優れたペースト状又はゲル状食品を得ることができる。アジピン酸基含量が0.010質量%より低いと、製造時の加熱、加熱殺菌等のレトルト処理、喫食時の加熱調理によって粘度低下が起こり易く、アジピン酸基含量が0.135質量%より高いと、澱粉が十分に糊化できずに目的とする粘度や保形性が得られない場合がある。
【0024】
なお、本発明において、澱粉中のアジピン酸基含量とは、以下の方法によって定量される値を意味する。すなわち、澱粉試料約1gを精密に量り、水50mlを加え、更に内標準物質液1mlを正確に加えた後、4mol/l水酸化ナトリウム溶液50mlを加え、5分間振とうする。更に、塩酸20mlを加え、室温まで冷却後、定量的に分液漏斗に移す。これを酢酸エチル100mlを用いて3回抽出し、酢酸エチル層を合わせ、無水硫酸ナトリウム20gを加えて10分間時々振り混ぜながら放置した後、ろ過する。ろ紙上の残留物を酢酸エチル50mlで2回洗い、洗液をろ紙に合わせ、減圧下、40℃以下で酢酸エチルを完全に除去する。残留物にピリジン2ml及びN,N−ビストリメチルシリルトリフルオロアセタミド1mlを加えて栓をし、1時間放置後、総アジピン酸測定用試料溶液とする。ただし、内標準物質液は、グルタール酸約100mgを精密に量り、水を加えて溶かし、正確に100mlとする。ガスクロマトグラフィーを行い、内標準物質のピーク面積に対するアジピン酸のピーク面積比を求め、検量線より澱粉試料中の総アジピン酸含量を求める。更に乾燥物換算を行う。次に、澱粉試料約5gを精密に量り、水100mlを加え、更に内標準物質液1mlを正確に加える。1時間振とう後、孔径0.45μmのミリポアフィルターでろ過し、ろ紙に塩酸1mlを加え、分液漏斗に移す。酢酸エチル100mlを用いて3回抽出し、以下、総アジピン酸測定用試料溶液と同様に操作し、遊離アジピン酸測定用試料溶液とする。ガスクロマトグラフィーを行い、内標準物質に対するアジピン酸のピーク面積比を求め、検量線より澱粉試料中の遊離アジピン酸量を求める。更に乾燥物換算を行う。別に4個のフラスコに未加工の原料澱粉1.0gをそれぞれ量り入れ、各フラスコに水50mlを加え、更に内標準物質液1mlを正確に加える。それぞれにアジピン酸試液0.25、0.50、0.75及び1.00mlを正確に加え、フラスコを揺り動かして澱粉と混和する。4mol/l水酸化ナトリウム溶液50mlを加え、5分間振とうする。各フラスコに塩酸20mlを加え、室温まで冷却後、定量的に分液漏斗に移す。酢酸エチル100mlを用いて3回抽出し、以下、総アジピン酸測定用試料溶液と同様に操作し、アジピン酸測定用標準溶液とし、ガスクロマトグラフィーを行い、内標準物質液のピーク面積に対するアジピン酸のピーク面積比を求め、検量線を作成する。そして、澱粉中のアジピン酸基含量を、次の計算式を用いて算出する。
アジピン酸基含量(質量%)=総アジピン酸量(質量%)− 遊離アジピン酸量(質量%)
以下にガスクロマトグラフィーの操作条件を示す。
【0025】
検出器:水素炎イオン化検出器
検出器温度:250℃
カラム:内径0.25mm、長さ15mのケイ酸ガラス製の細管に、ガスクロマトグラフィー用50%ジフェニル50%ジメチルポリシロキサンを0.25μmコーティングしたもの。
カラム温度:120℃で5分間保持、その後毎分5℃で150℃まで昇温する。
キャリヤーガス及び流量:ヘリウム又は窒素を用いる。アジピン酸のピークが約8分に、グルタール酸のピークが約5分に現れるように流量を調整する。
注入口温度:250℃
注入方式:スプリット(1:30)
注入量:1μl
【0026】
本発明において、アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉のアセチル基含量は、0.8〜2.5質量%であり、1.2〜2.5質量%が好ましい。アセチル基含量はアセチル化アジピン酸架橋におけるアセチル化の度合いを示すものであり、上記アセチル基含量であれば、長期保存安定性や冷蔵・冷凍耐性に優れたペースト状又はゲル状食品を得ることができる。アセチル基含量が0.8質量%より低いと、澱粉の老化による食感や粘度の変化が起こり易く、アセチル基含量が2.5質量%より高いと、澱粉の糊化性が高まり過ぎて前述したアジピン酸基による架橋で得られた効果が失われてしまう場合がある。
【0027】
なお、本発明において、澱粉中のアセチル基含量とは、以下の方法によって定量される値を意味する。すなわち、澱粉試料約5.0gを精密に量り、水50mlに懸濁し、フェノールフタレイン試液を数滴加え、液が微紅色を呈するまで0.1mol/l水酸化ナトリウム溶液を滴下後、0.45mol/l水酸化ナトリウム溶液25mlを正確に加え、温度が30℃以下にならないように注意しながら栓をして30分間激しく振り混ぜる。その後、0.2mol/l塩酸で過量の水酸化ナトリウムを滴定する。終点は液の微紅色が消えるときとする。別に空試験を行い補正する。次の計算式を用いてアセチル基含量を算出し、更に乾燥物換算を行う。計算式中のFは、0.2mol/l塩酸の力価をいう。
アセチル基含量(質量%)=(空試験滴定量(ml)−試料滴定量(ml))×0.2×F×0.043×100/試料質量(g)
【0028】
アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉は、無水酢酸にアジピン酸を溶解させて調製した反応液をタピオカ澱粉懸濁液にゆっくりと添加し、反応液添加中のタピオカ澱粉懸濁液のpHを弱アルカリ性に保つことで得ることができる。更に、α化、湿熱処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理、漂白処理、油脂加工、温水処理などから選ばれた少なくとも一種の加工方法と組み合わせることもできる。本反応によってタピオカ澱粉のアセチル化とアジピン酸架橋が同時に達せられるが、無水酢酸とアジピン酸の添加率をそれぞれ調整することで、それぞれの反応度を独立して調節することができる。
【0029】
本発明のペースト状又はゲル状食品の本アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉以外の基本配合原料は、和風ならば一般に醤油、みりん、酒、砂糖などが用いられるが、近年の食生活の多様化に伴い、洋風、中華風などのペースト状又はゲル状食品も多く存在し、用途に応じて食品の種類も様々であるため、原料の種類や添加量は特に限定されるものではない。
【0030】
具体的な食品の一例としては、カレー、餡、チョコレートクリーム、生クリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、フィリング、スプレッド、グラタン、スープ類、御汁粉、ジャム、ゼリー、グミ、ムース、杏仁豆腐、ババロア、パンナコッタ、プリン、ヨーグルト等が挙げられる。なかでも、デコレーションや包あんに用いられる食品は、その保形性が特に重要視されているものの、焼成や調理によって口溶けや風味が低下し易い。本発明においては、これらの食品においても優れた保存性、保形性、口溶け及び風味の全てを満たすという理由から、チョコレートクリーム、生クリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、フィリング、グラタンが特に好ましい。なお、これらの好ましい食品は、乳製品及び/又は卵製品を使用することを特徴としている。
【0031】
例えば、チョコレートクリーム、生クリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、フィリング、グラタン、ジャム、ゼリー、プリンの場合、本アセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉は、1.0〜7.0質量%含有させることが好ましい。
【0032】
本発明のペースト状又はゲル状食品は、加熱殺菌が施されてもよい。食品の加熱殺菌は、直接加熱殺菌と間接加熱殺菌が挙げられるが、食品の形態に合わせていずれを行ってもよい。直接加熱殺菌とは、食品そのものを直接加熱して殺菌することで、食品を容器に無菌充填する場合の前処理として広く用いられている。間接加熱殺菌とは、主に缶、瓶、レトルトパウチ等の容器に包装した食品を加熱殺菌する方法である。加熱殺菌の温度及び時間は特に限定されるものではないが、できるだけ食品成分を破壊せずに十分な殺菌効果を得るためには、高温で且つ短時間の加熱が有利である。そのため、近年では高温短時間法(HTST)や超高温殺菌法(UHT)による加熱殺菌、遠赤外線やマイクロ波を用いた加熱殺菌等が開発されているが、本発明においては、いずれを行ってもよい。例えば、直接加熱殺菌は60〜160℃で0.5秒〜30分間の条件で行うことが好ましい。また、間接加熱殺菌は80〜160℃で30秒〜60分間の条件で行うことが好ましい。
【0033】
また、本発明のペースト状又はゲル状食品は、一部又は全体を焼成して調理されたものであってもよい。焼成にあたっては、ペースト状又はゲル状食品を容器に充填したり、他の食品で包んだり、他の食品に塗布したりした後に行ってもよい。食品の形態によって必要とされる焼成条件は様々であるため、焼成に関わる器具、温度及び時間は特に限定されるものではない。
【0034】
また、本発明のペースト状又はゲル状食品は、冷凍、チルド、冷蔵から選ばれる一種以上の温度で保存されていてもよい。なお、本発明において、冷凍は約−18℃、チルドは約0℃、冷蔵は約3〜9℃を意味する。ペースト状又はゲル状食品を冷凍、チルド、冷蔵で保存するには、製造後のペースト状又はゲル状食品を加熱殺菌した後保存してもよく、更には、焼成調理した後保存してもよい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示すことで本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の各試験例で使用した澱粉試料は、下記表1に示した澱粉試料から選択して使用した。
【0036】
【表1】

【0037】
(試験例1)
表2の配合にてジャムを製造した。まず、予め混合しておいたペクチン、砂糖、澱粉試料を水に懸濁させ、溶液が沸騰を始めるまでゆっくり攪拌しながら加熱した。次いでイチゴ果肉水煮とグラニュー糖を混合し、収量が100部になるまで煮詰めた後、クエン酸溶液を混合し、ガラス瓶に充填した。これを沸騰水浴中で10分間の加熱殺菌を行った後、25℃で2週間保存した。
【0038】
【表2】

【0039】
得られたジャムについて、常温喫食時の官能検査による食感、風味の評価を実施した。保形性、口溶け、風味について、実施例1−1の評価点を基準の0として、評点法(−3〜+3)にて、8人のパネラーの平均により官能評価を実施した。総合評価は、保形性、口溶け、風味が総合的に優れていれば「○」、そうでなければ「×」を記載した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示すように、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、且つアセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸高架橋タピオカ澱粉を使用して得られた実施例1−1、1−2のジャムは、他の澱粉試料(澱粉試料3〜13)を使用したジャムと比較して、優れた保形性、口溶け及び風味を有していた。
【0042】
(試験例2)
表4の配合にてグラタンを製造した。まず、ルー、澱粉試料、溶き水以外の原料を混合した後、攪拌しながら加熱を行った。これにルーを加え、攪拌しながら加熱を行って溶解させた。その後、予め溶き水に懸濁した澱粉試料を混合し、90℃にて4分間、攪拌しながら加熱を維持した。その後、80℃の水を加えて混合物の歩留りが100質量%となるように調整した。さらに、TKホモミキサーを用いて、混合物に5000rpm・3分間の均一化処理を行って乳化させた。これをカップに充填し、−18℃で2週間保存した後、オーブンにて170℃で7分間焼成した。
【0043】
【表4】

【0044】
得られたグラタンについて、焼成後の常温喫食時の官能検査による食感、風味の評価を実施した。保形性、口溶け、風味について、実施例2−1の評価点を基準の0として、評点法(−3〜+3)にて、10人のパネラーの平均により官能評価を実施した。総合評価は、保形性、口溶け、風味が総合的に優れていれば「○」、そうでなければ「×」を記載した。結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
表5に示すように、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、且つアセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸高架橋タピオカ澱粉を使用して得られた実施例2−1、2−2のグラタンは、他の澱粉試料(澱粉試料3〜8)を使用したグラタンと比較して、優れた保形性、口溶け及び風味を有していた。
【0047】
(試験例3)
表6の配合にてフラワーペーストを製造した。まず、水飴に牛乳を加えて溶解させておき、α化澱粉、澱粉試料、脱脂粉乳、グラニュー糖を混合し、更にグルコマンナン、ショートニング、加糖卵黄、卵白、水飴を溶解した牛乳の順番にそれぞれを加えて混合した。その後、混合物の歩留りが90質量%となるまで加熱混合した。これをレトルトパウチに充填し、真空包装した後、沸騰水浴中で10分間の加熱殺菌を行った。実施例3及び比較例3−1〜3−3では、これを6℃で2週間冷蔵保存した。また、実施例4及び比較例4−1〜4−3では、これを0℃で2週間チルド保存した。さらに、実施例5及び比較例5−1〜5−3では、これを−18℃で2週間冷凍保存した。
【0048】
【表6】

【0049】
得られたフラワーペーストについて、それぞれの常温喫食時の官能検査による食感、風味の評価を実施した。保形性、口溶け、風味について、実施例3の評価点を基準の0として、評点法(−3〜+3)にて、12人のパネラーの平均により官能評価を実施した。総合評価は、保形性、口溶け、風味が総合的に優れていれば「○」、そうでなければ「×」を記載した。結果を表7に示す。
【0050】
【表7】

【0051】
表7に示すように、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、且つアセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸高架橋タピオカ澱粉を使用して得られた実施例3〜5のフラワーペーストは、他の澱粉試料(澱粉試料7,10,13)を使用したフラワーペーストと比較して、優れた保形性、口溶け及び風味を有していた。
【0052】
(試験例4)
表8の配合にてフルーツフィリングを製造した。まず、溶き水に澱粉試料を懸濁させた後、リンゴのシラップ煮、砂糖、水を加えた。次いで、ゆっくり攪拌しながら加熱し、90℃で10分間保持した後、65℃〜70℃になるまで冷却し、クエン酸を加えて均一になるまで混合した。これを容器に充填し、沸騰水浴中で30分間の加熱殺菌を行った後、25℃で2週間保存した。これをパイ生地に塗布し、180℃で12分間焼成した。
【0053】
【表8】

【0054】
焼成したフルーツフィリングについて、常温喫食時の官能検査による食感、風味の評価を実施した。保形性、口溶け、風味について、実施例6−1の評価点を基準の0として、評点法(−3〜+3)にて、8人のパネラーの平均により官能評価を実施した。総合評価は、保形性、口溶け、風味が総合的に優れていれば「○」、そうでなければ「×」を記載した。結果を表9に示す。
【0055】
【表9】

【0056】
表9に示すように、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、且つアセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸高架橋タピオカ澱粉を使用して得られた実施例6−1,6−2のフルーツフィリングは、他の澱粉試料(澱粉試料7,11)を使用したフルーツフィリングと比較して、優れた保形性、口溶け及び風味を有していた。
【0057】
(試験例5)
表10の配合にてプリンを製造した。まず、砂糖、脱脂粉乳、食塩、ゲル化剤、乳化剤、澱粉試料を水に加えて混合した後、これに牛乳、加糖卵黄、生クリームを加え、攪拌しながら加熱を行った。その後、80℃に到達してから10分間、攪拌しながら80℃を維持した。その後、混合物にプリンフレーバー及びオレンジカラーを加えて攪拌し、80℃の水を加えて混合物の歩留りが100質量%となるように調整した。さらに、TKホモミキサーを用いて、混合物に5000rpm・3分間の均一化処理を行って乳化させた。これをカップに充填し、0℃で2週間保存した。
【0058】
【表10】

【0059】
得られたプリンについて、常温喫食時の官能検査による食感、風味の評価を実施した。保形性、口溶け、風味について、実施例7−1の評価点を基準の0として、評点法(−3〜+3)にて、8人のパネラーの平均により官能評価を実施した。総合評価は、保形性、口溶け、風味が総合的に優れていれば「○」、そうでなければ「×」を記載した。結果を表11に示す。
【0060】
【表11】

【0061】
表11に示すように、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、且つアセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸高架橋タピオカ澱粉を使用して得られた実施例7−1,7−2のプリンは、他の澱粉試料(澱粉試料7,13)を使用したプリンと比較して、優れた保形性、口溶け及び風味を有していた。
【0062】
(試験例6)
表12の配合にてゼリーを製造した。まず、澱粉試料、ゲル化剤、グラニュー糖、クエン酸ナトリウムを水に加えて混合した後、80℃に到達するまで攪拌した。その混合物にりんご濃縮果汁、フレーバー、10%(w/w)クエン酸水溶液を加えて混合した後、80℃の水を加えて混合物の歩留りが100質量%となるように調整した。これをカップに充填し、85℃で20分間の加熱殺菌を行った後、6℃で2週間冷蔵保存した。
【0063】
【表12】

【0064】
得られたゼリーについて、常温喫食時の官能検査による食感、風味の評価を実施した。保形性、口溶け、風味について、実施例8−1の評価点を基準の0として、評点法(−3〜+3)にて、8人のパネラーの平均により官能評価を実施した。総合評価は、保形性、口溶け、風味が総合的に優れていれば「○」、そうでなければ「×」を記載した。結果を表13に示す。
【0065】
【表13】

【0066】
表13に示すように、アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、且つアセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸高架橋タピオカ澱粉を使用して得られた実施例8−1,8−2のゼリーは、他の澱粉試料(澱粉試料8,13)を使用したゼリーと比較して、優れた保形性、口溶け及び風味を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジピン酸基含量が0.010〜0.135質量%であり、アセチル基含量が0.8〜2.5質量%であるアセチル化アジピン酸架橋タピオカ澱粉を含有することを特徴とする、ペースト状又はゲル状食品。
【請求項2】
前記食品がカレー、餡、チョコレートクリーム、生クリーム、カスタードクリーム、フラワーペースト、フィリング、スプレッド、グラタン、スープ類、御汁粉、ジャム、ゼリー、グミ、ムース、杏仁豆腐、ババロア、パンナコッタ、プリン、ヨーグルトから選ばれる一種以上である請求項1に記載のペースト状又はゲル状食品。
【請求項3】
前記食品が、加熱殺菌が施されたものである請求項1又は2に記載のペースト状又はゲル状食品。
【請求項4】
前記食品が、冷凍、チルド、冷蔵から選ばれる一種以上の温度で保存されるものである請求項1〜3のいずれか一つに記載のペースト状又はゲル状食品。
【請求項5】
前記食品が、焼成が施されたものである請求項1〜4のいずれか一つに記載のペースト状又はゲル状食品。

【公開番号】特開2011−92087(P2011−92087A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249040(P2009−249040)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【特許番号】特許第4523668号(P4523668)
【特許公報発行日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】