説明

ペースト系歯科用セメント

【課題】 仮着や仮封に適した歯科用セメントを得ることが可能なペースト系歯科用セメントントを提供する。
【解決手段】 リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体、該リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末、水から成る歯科用セメントにおいて、リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末とは反応しない液体を含むことを特徴とするペースト系歯科用セメントとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用補綴物の仮着や、歯牙に充填して仮封するために用いるペースト系歯科用セメントに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、数日〜数ヶ月間に渡って暫間的にクラウン,インレー等の歯科用補綴物を仮着する場合がある。このとき、従来の歯科用セメント(例えば、特許文献1〜3参照。)を用いることがあった。しかしながら、従来の歯科用セメントは、理想的には歯科用補綴物が歯牙から脱落しない永久修復での用途を想定しているので、歯科用セメントを暫間的に歯科用補綴物の仮着や仮封の用途に用いると歯科用セメントの物性、即ち、合着力や強度が強いことが歯科用補綴物を外す場合や仮封材を除去する場合に逆に障害となってしまうという問題があった
【0003】
【特許文献1】特開2000−53518号公報
【特許文献2】特開2008−19183号公報
【特許文献3】特開2008−19246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、仮着や仮封に適したペースト系歯科用セメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体、該リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末、水から成る歯科用セメントにおいて、リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末とは反応しない液体を含むペースト系歯科用セメントとすると前記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るペースト系歯科用セメントは、歯科用補綴物を簡単に撤去することが可能であり、自身を仮封材として使用しても除去時に歯面に残ってしまうことがない優れたペースト系歯科用セメントである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係るペースト系歯科用セメントは、反応機構的には、基本的にリン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体、該リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末、水から成るペースト系歯科用セメントである。従って、本発明に係るペースト系歯科用セメントは、リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と水から成る液成分にリン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末と反応しない液体を配合した第1ペーストと、該リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末に水及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末と反応しない液体を配合した第2ペーストから構成される。
【0008】
リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末とは反応しない液体としては、特に限定されないが、保存性及び操作性の面から、多価アルコール,アルコール,アセトンやジオキサン等の水溶性有機溶媒等、水に溶解性を有する物質であることが好ましい。中でも、安全性及び操作性の面からグリセリンやジグリセリン等のポリグリセリンや、プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ソルビトール,マンニトール,エチレングリコール,ジエチレングリコール,ポリエチレングリコール,モノメチルエーテル等の多価アルコールが最も好ましい。
【0009】
重量平均分子量5,000〜40,000であるα-β不飽和カルボン酸の重合体はα-β不飽和モノカルボン酸或いはα-β不飽和ジカルボン酸の重合体のことであり、例えばアクリル酸,メタクリル酸,2−クロロアクリル酸,アコニット酸,メサコン酸,マレイン酸,イタコン酸,フマール酸,グルタコン酸,シトラコン酸等の単独重合体或いは共重合体のことである。これ等共重合体はα-β不飽和カルボン酸同士の共重合体であってもよく、α-β不飽和カルボン酸と共重合可能な成分との共重合体でもよい。この場合α-β不飽和カルボン酸の割合は50%以上であることが好ましい。共重合可能な成分とは、例えばアクリルアミド,アクリロニトリル,メタクリル酸エステル,アクリル酸塩類,塩化ビニル,塩化アリル,酢酸ビニルがある。これ等のα-β不飽和カルボン酸の重合体の中で、特に好ましいものとしてはアクリル酸またはマレイン酸の単独重合体または共重合体である。
【0010】
これ等のα-β不飽和カルボン酸の重合体は、酸化物粉末と反応し硬化する成分であるが、5,000未満の重量平均分子量を有する重合体を使用した場合は硬化物の強度が低く耐久性に問題が残る。また、歯質への接着力も低下する。40,000を超える重量平均分子量を有する重合体を使用した場合は、セメント組成物の粘度が高過ぎて練和が極めて難しい。従って、本発明で使用されるα-β不飽和カルボン酸重合体の平均分子量は5,000〜40,000の範囲である。
【0011】
リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末は従来から歯科用セメントで用いられている物質が使用可能であり、例えばグラスアイオノマーセメントに用いるフルオロアルミノシリケート粉末を例示できる。フルオロアルミノシリケート粉末は、主要成分としてAl3+、Si4+、F、O2−を含み、更にSr2+及び/またはCa2+を含むアルミノシリケートガラス粉末が好ましく、特に主要成分の割合がガラスの総重量に対してAl3+:10〜21重量%、Si4+:9〜21重量%、F:1〜20重量%、Sr2+とCa2+の合計:10〜34重量%であることが望ましい。リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末はアルコキシシランによって表面を修飾されていてもよい。
【0012】
本発明に係るペースト系歯科用セメントにおいては、歯科医が仮封した場所を確認したり歯科補綴物と歯肉との間の余剰セメントを除去したり、或いは歯科用補綴物を撤去した後に残存の仮着材を除去する際に仮着や仮封材の存在場所を認識し易くするために蛍光剤を含んでいることが好ましい。
【0013】
蛍光剤は歯科用の光照射器で蛍光反応を示すものが使用可能であり、具体例としては、無機蛍光顔料、例えば、タングステン酸カルシウム,ヒ酸マグネシウムカルシウム,ケイ酸バリウム,リン酸カルシウム及びリン酸カルシウム亜鉛等のアルカリ土類金属の硫化物、ケイ酸塩,リン酸塩,タングステン酸塩,フタル酸誘導体(ジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレート、o−フタルアルデヒド)、チオフェン誘導体(2,5−ビス(5’−t−ブチルベンゾオキサゾリル−2’)チオフェン、2,5−ビス(6,6’−ビス(tert−ブチル)−ベンゾオキサゾール−2−イル)チオフェン)、クマリン誘導体(3−フェニル−7−(4−メチル−5−フェニル−1,2,3−トリアゾール−2−イル)クマリン、3−フェニル−7−(2H−ナフト〔1,2−d〕−トリアゾール−2−イル)クマリン)、ナフタールイミド誘導体(N−メチル−5−メトキシナフタールイミド)、スチルベン誘導体(4,4’−ビス(ジフェニルトリアジニル)スチルベン、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン)、ベンゾチアゾール誘導体等が挙げられ、これ等の中ではフタル誘導体及びチオフェン誘導体が好ましい。
【0014】
蛍光剤の波長ピークは420nm以下が好ましく、320〜400nmがより好ましい。蛍光剤の含有量は、ペースト系歯科用セメントの混合後の組成物中に0.1〜3重量%配合されていることが好ましく、0.5〜2重量%がより好ましい。
【0015】
本発明に係るペースト系歯科用セメントには、リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応しない粉末を含んでいてもよい。反応しないセメントとしては、例えば、石英,コロイダルシリカ,長石,アルミナ,ストロンチウムガラス,バリウムガラス,ホウケイ酸ガラス,カオリン,タルク,炭酸カルシウム,リン酸カルシウム,チタニア及び硫酸バリウム等が挙げられる。また、無機質充填材を含んだポリマーを粉砕した複合フィラーなどがある。勿論これ等を混合して使用しても差し支えない。
【0016】
本発明に係るペースト系歯科用セメントには、着色料,重合禁止剤,紫外線吸収剤,抗菌剤,香料等を便宜配合することもできる。
【実施例】
【0017】
<実施例>
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0018】
『酸化物粉末であるフルオロアルミノシリケートガラスの調整』
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I,II及びIIIの配合を表1に示す。
【0019】
【表1】

フルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIについては、原料を充分混合し1200℃の高温電気炉中で5時間保持しガラスを溶融させた。溶融後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させた後の粉末をフルオロアルミノシリケートガラス粉末とした。フルオロアルミノシリケートガラス粉末IIについては、1100℃で溶融したこと以外はフルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIと同様の操作を行った。
【0020】
『歯科用セメントのペースト調製』
各実施例及び比較に用いた第1ペーストと第2ペーストの配合を表2に示す。
【0021】
【表2】


【0022】
『圧縮強度』
歯科用セメントの合着力はセメント自体の強度に依存するため、圧縮強度を測定し合着力を評価した。JIS T6609-1:2005 8.4(圧縮強さ)に準拠して行った。練和した歯科用セメント組成物を内径4mm、長さ6mmの金属型に填入し、円柱型の硬化体を得た。得られた試験片を37℃の蒸留水中に24時間浸漬し、万能試験機(製品名:オートグラフ、島津製作所社製)にて、クロスヘッドスピード1.0mm/minにて圧縮試験を行った。
【0023】
<実施例1〜12>
それぞれの実施例において、第1ペーストと第2ペーストとを0.7g及び1.0gの割合で練和紙上に計り採り、スパチュラを用いて30秒間の練和操作を行うことで均一に混合した。この歯科用セメント硬化体の圧縮強度を表2に示す。
【0024】
<比較例1>
従来の歯科用グラスアイオノマーセメント(製品名 フジI;ジーシー社製)を使用した。セメント粉末1.8gとセメント液1.0gとを練和紙上に測り採り、スパチュラを用いて1分〜1分30秒の練和操作を行うことで、粉剤と液剤とを均一に混合した。実施例と同様の方法で圧縮強度を測定した。結果を表に示した。
【0025】
<比較例2>
従来のリン酸亜鉛セメントである歯科用仮封材(製品名 カッパーシールセメント;ジーシー社製)を使用した。セメント粉末1.5gとセメント液0.5mLとをガラス練板上に測り採り、ステンレス製スパチュラを用いて1分〜1分30秒の練和操作を行うことで、粉剤と液剤とを均一に混合した。実施例と同様の方法で圧縮強度を測定した。結果を表2に示した。
【0026】
表2から、実施例1〜12の歯科用セメントは、比較例1の歯科用セメントと比べて圧縮強度が小さく、比較例2の仮封または仮着用のセメントであるカッパーシールセメントと同様の圧縮強度を示しており、仮封または仮着の用途に好適であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体、該リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末、水から成る歯科用セメントにおいて、リン酸及び/またはα-β不飽和カルボン酸の重合体と反応し得る酸化物粉末とは反応しない液体を含むことを特徴とするペースト系歯科用セメント。
【請求項2】
蛍光剤を0.1〜3重量%含む請求項1に記載のペースト系歯科用セメント。

【公開番号】特開2010−64989(P2010−64989A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233701(P2008−233701)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】