説明

ホイッスル

【課題】小型・軽量を維持したまま不快な高周波雑音を軽減し、吹鳴者の耳への負担軽減をさせるとともに、持ち易く且つくわえやすいホイッスルを提供することを目的とする。
【解決手段】第1共鳴室21、第2共鳴室22、オリフィス23を有し放音口24を開口させたボディ部11と、送気管28を有し送気口29を開口させたマウスピース部12とから構成する。第1共鳴室21と第2共鳴室22はオリフィス23を挟んで上下に配置して連通共鳴室20を構成し、この連通共鳴室20で共鳴音波を低周波側に移行させて放音口24から放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した2つの共鳴室を備えるホイッスルに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイッスルは音による簡便な伝達道具として、各種スポーツ競技における審判、人の多く集まる場所での警備、誘導、合図、或いはペットの指導等、様々な分野で広く使用されている。ホイッスルはそれぞれの使用環境に応じ、周囲の人や動物に速やかに音を届け、注意を喚起させる必要がある。それゆえ、ホイッスルの吹鳴者にとっては、必要なときに直ちに吹鳴できるように持ち易いこと、吹鳴し易いことが求められる。また、被聴者にとっては、聞き取りやすい音質、音量ですぐさま音を認識できる必要がある。現在におけるホイッスルは、主に、共鳴室内で回転する振動子を有する振動子型、振動子の無い非振動子型に大別されており、それを図9(A)に振動子型、図9(B)に非振動子型を示す。
【0003】
振動子型ホイッスル3は外形寸法で直径19〜20mm×長さ17〜20mmの円筒体に細長い直方体状のマウスピースが接続された形状(長さD50〜52mm、高さH20〜22mm、幅W17〜20mm)で、内部に直径15mmの円柱状の共鳴室がある。通常円筒体の側面を摘むようにして持って吹鳴する。一方の非振動子型ホイッスル4は細長い箱状(外形寸法、長さD51〜54mm、高さH10〜12mm、幅W20〜22mm)で、側壁を指で摘んで吹鳴する。
【0004】
その他、上記一般的なホイッスルに改良を加えたものとして以下の発明が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載のホイッスルでは、歌口(オリフィス)のマウスピース側端(歌口の開口後端)、或いは歌口の左右、或いは歌口のマウスピース側端と左右に逆コの字型に壁状の変流体を設けることによって、流れを変え、高次倍音を増加させたとするものである。変流体により変流体の共鳴室側下部に負圧領域を発生させて、エッジ11での空気流の振幅を大きくし、高次倍音を増加させている。
【0006】
特許文献2は、全天候型ホイッスルとして提案されたものであり、水中或いは雨天での使用を目的とするホイッスルである。この為オリフィス上部をその一端がマウスピース上部板から延びた半円状の蔽い(cowling)でひさしのように完全に覆う構造となしている。このようにひさし状の覆いでオリフィスを囲むことによって、水中でオリフィス近辺に空気が溜まることを可能にして、水がオリフィスを通って共鳴室に侵入することを防止している。またこのひさし状の覆いは雨の進入を防ぐ働きもある。そして、放音口を前面或いは、下面に向けている。
【0007】
特許文献3は、バレーボール用審判ホイッスルとして知られているものである。バレーボールでは審判はネット際のプレーを正確に見る為に、ネットに対して直角に設置された高さ約2mの審判台に座ってプレーを判定する。この為、ホイッスルの音は下方にいる選手に向けて放出する必要があるから、咥えた状態で放音口(オリフィス)が前面に向くべく、マウスピースが円弧状に下方に湾曲している。
【特許文献1】特開2002−108345号公報
【特許文献2】米国特許第5,329,872号
【特許文献3】実開昭39−21231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
周知のようにホイッスルは共鳴現象を利用して吹鳴される道具である。共鳴現象において発生する音波は、共鳴室の大きさによって決定される基本共鳴周波数音波と基本共鳴周波数の倍数の倍周波数音波である。従って、基本共鳴周波数が高いほど倍数音の周波数も高くなり、高周波音となる。そしてその基本共鳴周波数は管楽器で公知のように、共鳴室の大きさに反比例して低くなる。即ち、共鳴室が大きくなるに従って基本共鳴周波数は低くなる。上記寸法に基づく従来のホイッスルの基本共鳴周波数は、振動子型で3.3乃至3.5KHz、非振動子型で3.5乃至3.7KHzであり、また、この基本共鳴周波数に基づく倍周波数を含んでいる。現状、これらの周波数は甲高く耳障りな音であり、改善が求められている。しかしながら、従来型では、基本共鳴周波数を下げるには共鳴室を大きくする必要があり、例えば振動子型では円筒直径が35乃至40mmとなってホイッスルの軽量小型と言う要望に合わなくなるばかりでなく、デザイン面でも貧弱なものになり、実用化されていない。更に以下のような人体障害の問題もある。
【0009】
図9(A)、(B)に示す従来のホイッスル3、4では、送気管28から送り込まれた空気がオリフィス24のエッジに衝突して音を発生させ、その音の一部が共鳴効果により共鳴室51で選択的に増幅され、生じた音波はオリフィス24からすぐさま外部に放出される。即ち従来ではオリフィス24が放音口を兼ねており、且つケーシングの厚みで構成されている。オリフィス(放音口)24は上方を向いているので、音波は図9(A)及び(B)の矢印に示すように、放射円弧状に放出されることとなる。一般人の口から耳までの距離は概略15cmであるから、放音口24を出た音波は、直接吹鳴者の耳52に達してしまい、吹鳴者は常時120dB/m前後の大音量でしかも耳障りな高周波音を耳の直近で聞かなければならない。これにより難聴を患うことや、或いは耳鳴りを覚えるといった問題が生じている。そこに至らなくとも、スポーツ審判等で長時間ホイッスルを吹いた後は、必ずと言ってよいほど、暫くの間、音が聞こえない状態が生じるという問題がある。
【0010】
また、振動子型ホイッスル3では、通常円筒体の側面を摘むようにして持つが、円形の為摘む角度が定まりにくく、且つ持つスペースが十分とは言えない。このため、持ち損ねたりし、吹鳴が遅れてしまうという問題がある。非振動子型ホイッスルにおいても、側壁の高さは大人の指先の半分程度であり、極めて持ち難いという課題を有する。
【0011】
この問題に対して、側板をマンドリン型にし、高さを21mmとしたものが提案されている(米国特許第5,086,726号)。全体の寸法を大きくすればこの問題は解決できるとも考えられるが、ホイッスルの小型軽量と言うニーズから逸脱するため、寸法を大きくすることはできず、依然として持ち難く吹鳴しにくいという課題を有する。
【0012】
特許文献1では、変流体と名付けられた壁による負圧効果によって高次倍音、即ち高周波音を増加させるものであり、オリフィス上部の変流体で囲まれた空間で共鳴現象を生じさせているものではない。
【0013】
また、特許文献1の図3、図8、図10から明らかなように、この発明はオリフィスを3面で囲って構成している。エッジ側、即ち送気管を通過した空気流が衝突する辺側を除いたマウスピース側の3面のみが変流体として扱っている。エッジは変流体として作用せず、単にエッジトーンを発生させる部材として作用している。エッジ側の厚み(共鳴室上部の厚み)はホイッスルの形状を構成するケーシングの厚みそのものであり、高さがない結果、一面が開口した状態のコの字型の変流体で囲まれた空間では、高周波音を和らげる共鳴現象が生じない。このため共鳴室で発生した甲高い高周波音がそのまま歌口から出ていき、更にその高次倍音即ち高周波音を増大させてより耳障りな音になるとともに、オリフィスは上方或いは下方を向いているので、吹鳴者に高周波音が直接耳に入るので、難聴を患うことや、或いは耳鳴りを感じるといった課題を有する。即ち、この点においてオリフィスが放音口を兼ねるという他の従来品と同一である。
【0014】
特許文献2は、半円状の蔽いでひさしのように完全に覆う構造であるから、オリフィスから流出した音波は全て蔽いに衝突し、更に進行方向を鋭角的に変えて放音口(large sound emitting)から放出される。その進行変化は下方へ90度または180度である。このような構造においては次の問題点が発生する。第1に、オリフィスから流出した音波は直近の蔽いに衝突、遮蔽され且つ鋭角的な進行方向の変化のためにエネルギーロスが大きく、音量低下が激しい。第2に、放音口が下面或いは前面に向いているため、放出音が吹鳴者の耳に直接入ることにはならないが、ホイッスルを使用する際に下方から手をあてがって指先で側面を摘むことになるが、指及び手が放音口を被う状態になって、音の放出が妨げられ、音量低下が激しいという欠点がある。更に、水や雨の侵入を防ぐ為に蔽いの高さが高いため、覆いによる音の吸収による音量低下も激しく遠くまで被聴者に音を届けるというホイッスル本来の役割を果たさないという問題がある。
【0015】
特許文献3においても、オリフィス(放音口)が下前方に向いているので吹鳴者の耳への負担は軽減するが、細い円筒状であることから持ちにくく、また持った手で放出口を塞いでしまい音量が低下するという問題がある。また、オリフイスが放音口を兼ねるについても、他の従来品と同一である。
【0016】
本発明は、上記事項に鑑みてなされ、その目的とするところは、小型・軽量を維持したまま、共鳴周波数を低周波側に移行させて心地よい音色にするとともに、持ちやすくくわえやすいというホイッスルに求められる機能を総合的に向上させ、更に、耳への負担を軽減し、これまでになく斬新なデザインのホイッスルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、第1共鳴室、第2共鳴室、及びオリフィスを有し、前記第2共鳴室の一部を放音口として開口させたボディ部と、送気管を有し、送気口を開口させたマウスピース部と、を備え、前記第1共鳴室と前記第2共鳴室は前記オリフィスを挟み上下に配置されて連通共鳴室を構成し、前記連通共鳴室で共鳴音波を低周波側に移行させる、ことを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記ボディ部の側板を前記送気口側且つ上側に伸ばして前記第2共鳴室を形成している、ことを特徴とする。
【0019】
好ましくは、前記ボディ部の長手方向の軸が前記マウスピース部のマウスピース軸に対して傾斜している、ことを特徴とする。
【0020】
好ましくは、前記ボディ部の長手方向の軸が前記マウスピース軸に対して30°〜70°で交差している、ことを特徴とする。
【0021】
好ましくは、前記第2共鳴室における前記オリフィスから前記放音口までの高さが5mm〜15mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1共鳴室で共鳴して発生した音波は、オリフィスを介して連続して設けられている第2共鳴室に入り、第2共鳴室で更に音波が共鳴する。そして、この音波の一部は再度オリフィスを介して第1共鳴室へと向かい、第1共鳴室と第2共鳴室で相互に干渉した共鳴が生じる。この共鳴による音波の波長は長くなり、ホイッスルを肥大化することなく、共鳴周波数が低下することになる。この、周波数が低下した音波が放音口から放出されるため、甲高い耳障りな高周波音を抑え、吹鳴者が難聴或いは耳鳴りに患うことを抑えられる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(実施形態1)
図1及び図2を参照して、本発明の実施形態1に係るホイッスル1について説明する。ホイッスル1はいわゆる振動子型ホイッスルであり、図1はホイッスル1の外観を示す斜視図、図2はホイッスル1の断面図である。
【0024】
ホイッスル1は、内部に第1共鳴室21、第2共鳴室22、オリフィス23を有し、放音口24を開口させたボディ部11と、内部に送気管28を有し、送気口29を開口させたマウスピース部12から構成される。
【0025】
ボディ部11の両側面には、指の形状に合わせた球面状の凹部からなるグリップ32を設けており、吹鳴者が使用する際に持ち易くしている。また、ボディ部11先端には貫通孔を有するホルダー31を設け、貫通孔に紐を通して首から下げられるようにしている。
【0026】
マウスピース部12は吹鳴者が口にくわえる部分であり、内部に送気管28を有し、送気管の一端は送気口29として開口している。
【0027】
第1共鳴室21は、円柱状の空間をなし、一方の第2共鳴室22は、開口する放音口24に向けて末広がり状に形成された略台形体で構成されている。ここで第2共鳴室22は目的とする共鳴効果を得る為に、以下で述べるように4面がそれぞれ高さ5mm以上の壁で構成された部屋であることが望ましい。そして、第1共鳴室21と第2共鳴室22は、オリフィス23を介して連通している。ここで、オリフィス23とは、第1共鳴室21と第2共鳴室22とをつなぐ狭まった幅約5mm長さ約15mmのスリット状の箇所をいう。第1共鳴室21と第2共鳴室22はオリフィス23を挟み、上下に配置され、オリフィス23を通じて連通しており、後述のように第1共鳴室21と第2共鳴室22の両者が合わさって一つの共鳴室としても作用することから、以後これを連通共鳴室20と称する。
【0028】
ボディ部11の側板13は送気口29側且つ上側へ伸ばすように形成しており、全体として略楕円形状としている。これによりボディ部11は細長い形状をなし、ボディ部11の長手方向の両端部を結ぶ線軸である長手方向の軸X−X’(以下、ボディ軸)と、送気管28内の空気の流れ方向に沿うマウスピース軸Y−Y’のなす角度αが30〜70°、好ましくは50〜70°になるように交差させている。30度以下だと放音口24が真上に向いた状態に近づき、従来のホイッスルと同様、吹鳴音波が回り込んで吹鳴者の耳へ直接届いてしまう。また、70度以上だと、放音口24が水平に近づき、体育館等の室内で使用する場合、天井での音波の反射が減少する。
【0029】
このように構成するより、交差点付近からX’方向に大きな容積をもつ第2共鳴室22が形成されるとともに、ボディ11部後部が突出し上唇のストッパー33を形成できる。斯くすることで各部材の効率の良い2次元的配置が可能となり、スペース効率が高まり、小型・軽量というホイッスルに要求されるサイズ内でより大きな第2共鳴室22、更には上唇ストッパー33が実現できる。従来では各部材が直線状に1次元的連続配置されている為、共鳴室を大きくして共鳴周波数を低下させるとホイッスル全体が大きくなるが、本発明のホイッスル1では上記のようにスペース効率の高い構造とすることで、この問題を解決している。
【0030】
ホイッスル1は、第1共鳴室21に振動子26を挿入しているので、第1共鳴室21に流入した空気の流れにより、振動子26が円柱状の第1共鳴室21内にて円運動を行い、周期的にオリフィス23を塞ぐことになるため、いわゆるビート音が発生する。
【0031】
続いて、ホイッスル1の作用について詳細に説明する。まず、一般的なホイッスルについて説明するが、ホイッスルはよく知られているように共鳴現象を利用した道具でその吹鳴原理は以下のように説明される。即ち、送気管から吹きこまれた空気流がオリフィスのエッジに当たって多様な渦を作り、その渦が空気を振動させて多様な周波数からなる音を発生させ、その中で共鳴室の大きさ及び形状で決定される共鳴周波数に一致する音が所謂定常波(即ち基本共鳴周波数音波及びその倍数音波)となって増幅され、大きな音となって放音口から放出される。ここで共鳴周波数(ホイッスルの吹鳴音)と共鳴室の大きさとの関係は反比例である。即ち、管楽器で公知のように共鳴室が大きくなるに従ってその共鳴周波数は低くなる。
【0032】
本発明のホイッスル1においては、送気管28を通過した空気流がエッジ25に当たって作られた音は第1共鳴室21及び第2共鳴室22の両方の作用を受ける。
【0033】
第1共鳴室21ではエッジ25で発生した多様な周波数の音の中で第1共鳴室21の大きさ及び形状で決定される共鳴周波数に一致する音のみが定常波となって選択、増幅される。ここで第1共鳴室21の大きさは直径15mm、長さ15の円柱状、即ち従来と同じ大きさである。一方、オリフィス23は幅約5mm、長さ15mmであるから、第1共鳴室21の共鳴作用に対して無視できるほど小さくない。従ってオリフィス23に連通する限定された空間(第2共鳴室22)が存在すると、その影響を受ける。その影響具合は共鳴空間が増加する方向であるから、第1共鳴室21の大きさから定まる共鳴周波数よりもさらに低下した音波となる。
【0034】
この共鳴音波は第2共鳴室22を通過して放音口24から放出されるが、第2共鳴室22は概略末広がり且つオリフィス23から放音口24までが5〜15mmの高さh、h’の略台形体状であるから、通過する音波は急激な方向転換が生じず、その音波エネルギーが壁に吸収されて減衰することはない。また、後部壁27は図示した程度の緩やかな曲面であるので、それによるエネルギーロスは無視できる程度に小さい。
【0035】
第2共鳴室22では二つの共鳴作用が生じる。その一つは両端が開口した(オリフィス23と放音口24)第2共鳴室22での共鳴作用、他の一つは一端が閉じ、他端(放音口24)が開口した連通共鳴室20での共鳴作用である。前者は開口端であるオリフィス23と放音口24の間で繰り返される反射によって作られる定常波(後述)であり、後者は放音口24で反射した音波がオリフィス23を通過して第1共鳴室21に達し、その壁で反射して作られる定常波である。第2共鳴室22の大きさは幅5mm、長さ15mm、高さ5〜15mmの台形体状であるから、その大きさは第1共鳴室21より小さい。従ってエッジ25で作られた多様な音の中で、第2共鳴室22の大きさに対応する音が選択増幅され、その共鳴周波数は第1共鳴室21で作られる共鳴周波数より高くなる。
【0036】
しかし、一方では、連通共鳴室20が第1共鳴室21及び第2共鳴室22が合わさったものであるから、その大きさは必然的に両者単独より大きくなる。従ってエッジ25で作られた多様な音の中で、この大きさに対応する音が選択増幅されるから、その共鳴周波数は両者単独の際に生じる共鳴周波数よりも明確に低いものとなる。したがって、連通共鳴室により共鳴音波を低周波側に移行させることになる。そして第2共鳴室22及び連通共鳴室20で作られた共鳴音波は減衰することなく放音口24から前方斜め上方に向かって放出される。
【0037】
なお、第2共鳴室22の高さは、四方が5〜15mmの高さの壁によって囲まれ、オリフィス25から上方に概略真っ直ぐ伸びたラッパ状若しくは末広がりの直方体状の部屋であることが望ましい。壁の高さが5mm以下では共鳴周波数が340m÷(5mm×2)=34KHz以上となって可聴周波数を超え、また15mm以上では後述する実施例で示されるように、それ以上共鳴周波数の低下が生じず、サイズのみ大きくなって、小型軽量というホイッスル本来の要望に合わないからである。また、鋭角的に曲がった部屋の場合、音波の衝突及び方向転換によるエネルギーロスが大きく、音量の低下が激しくなる。
【0038】
上記の構成からなる本発明のホイッスル1の外形寸法は、長さD47mm、高さH25mm、幅W19mmで従来のホイッスル3と概略同等である。大きな第2共鳴室22を加えたにも拘らず、外形寸法の肥大化を抑制できたのは、ボディ軸に対してマウスピース軸を角度αだけ傾け、スペース効率を高めた効果による。また、図1からわかるように、従来に無く斬新なデザインを実現している。
【0039】
上述した放音口24で音波が反射し、第2共鳴室22内、或いは第1共鳴室21に戻って共鳴する現象は理解し難い為、一般には知られていないが、簡単な実験でその存在を確認することができる。図3(A)に示したように、両端が開口したパイプ41の一つの開口端にハンマー43とマイクロフォン45を準備し、ハンマー43で固形物44を叩いて音を発生させ、その後の音波の時間的推移を測定することにより確認できる。
【0040】
図3(B)及び(C)は、長さ100mm、直径25mmのパイプ41を用いて実験した測定結果であり、図3(B)は、図3(A)の破線で示すように、遮蔽板42で他端を閉じて閉口端とした場合のマイクロフォンの出力波形、(C)は他端を遮蔽板42で塞ぐことなく、開放即ち開口端とした場合のマイクロフォンの出力波形である。
【0041】
いずれの場合も最初の波形(a)及び(a’)はハンマー43の打撃音そのものであり、2番目以降の波形が反射波を示している。(B)の2番目の波(b)は閉口端での反射波を示し、(C)の2番目の波(b’)は開口端での反射波を示している。この実験から明らかなように、開口端においても閉口端同様に音波は反射して戻ることがわかる。そして、それぞれの反射波の大きさは測定された波形から、閉口端での反射波は入力音波の約70%、開口端で約45%であり、開口端においても閉口端の約65%の反射が発生していることから、本ホイッスル1においても、第2共鳴室22に進んだ音波の一部が開口端である放音口24で反射して第2共鳴室22内に戻り、その一部がオリフィス23で反射して再び放音口24に向かい、更に残りの音波がオリフィス23を通過して第1共鳴室21に入り、更なる共鳴現象を生じさせ得ることがわかる。
【0042】
即ち、第2共鳴室22そのものの共鳴と、連通共鳴室20での共鳴現象の二つが同時に発生しているのである。従って、ホイッスル1全体として3つの共鳴現象が生じ、それらが混ざることによって、全体が低周波側に移行し更に従来に無くより豊かで心地よい音となり、不快な高調波を抑えている。ボディ軸をマウスピース軸に対し傾斜させて連通共鳴室20を形成したことにより、ホイッスルの外形寸法を目立って大きくなることも無い。従来と比べて低い周波数の吹鳴音を可能にし、不快な高調波の問題を解決している。
【0043】
また、第2共鳴室22を形成するボディ部11の後部壁27を湾曲させて、音波の放出方向を前方に向けてあるので、音波は前方に放出され、吹鳴者の耳に直接入ることもないとともに、吹鳴者の前方にいる被聴者へ直接音波が届き、被聴者は瞬時に吹鳴音を認知することができる。そして、音波は全体的に低周波側に移行しており、低周波音は減衰が小さく遠くまで届くものゆえ、遠方の被聴者にも吹鳴音を届けることができる。
【0044】
更に、ボディ部11の側板13が送気口29側、且つ上方に延長されているから、従来のホイッスルに比較して側板13の面積が大きい。このため、使用時に持つことのできる面積も従来と比べて概略倍増するので、グリップ32と相まって、極めて摘み易い構造である。
【0045】
更には、ボディ部11の後部のストッパー33は上唇が程良くフィットするから、急いで口にくわえても、いつも一定の状態にくわえることができ、動きの激しいスポーツ審判用としても適する。
【0046】
このように、不快な高周波雑音の軽減と言う機能的な改良と合わせ、耳への負担軽減、持ち易さといった人間工学的な改良、さらには斬新な意匠を実現し、総合的に優れたホイッスルを実現したといえる。
【0047】
(実施形態2)
図4及び図5を参照し、実施形態2に係るホイッスル2について説明する。図4はホイッスル2の外観を示す斜視図、図5はホイッスル2の断面図である。ホイッスル2は、いわゆる非振動子型ホイッスルである。
【0048】
第1共鳴室21は、通常の非振動子型ホイッスルの共鳴室と同様に、直方体状の空間をなしている。
【0049】
第2共鳴室22は放音口24に向けて末広がり状とし、放音口24が前方を向くようにしている。放音口24を前方に向けるには、送気管28の途中を下方に屈曲させるとよい。このような構成にするには、ボディ部11の軸X−X’とマウスピース部12の軸Y−Y’のなす角度βが、30〜75°、好ましくは50〜70°となるように交差させると良い。ボディ軸X−X’をマウスピース軸Y−Y’に対して傾斜させることにより、第1共鳴室21が傾斜されて配置されることになるので、ホイッスル2の全長が長くなることもなく、外形寸法の肥大化を抑えたまま大きな第2共鳴室22を形成することも成し得ている。その際に、不要な重量増加、及び樹脂成型不良を防止する目的で、第1共鳴室21下部の側面を残した不要部、及び第2共鳴室22前後の不要部を空洞とすることが望ましい。この対策は周知の技術であるから詳述は省略する。
【0050】
また、図4の破線にて示すように、第1共鳴室21及び第2共鳴室22を、横方向に2つ或いは3つ程度に仕切り板でそれぞれ区切って個別の小共鳴室を作り、第1共鳴室21と第2共鳴室22のそれぞれを複数の小共鳴室からなる複合共鳴室としてもよい。そして、それぞれの小共鳴室の長さを変えることにより、共鳴周波数が変わるので、複数の音色が重なった所謂ビート音を持ったホイッスル音とすることができる。なお、この第1共鳴室を構成する小共鳴室は縦横が共に6mmで、長さが20mm、19mm、17.5mmと異なる直方体が2乃至3個合わさった形状であり、従来の共鳴室と同形状としている。
【0051】
また、ホイッスル2の外形寸法は、長さD56mm、高さH26mm、幅W21mmであり側板を高くして持ちやすくした従来の改良型(米国特許第5,086,726号)と概略同一である。大きな第2共鳴室22を加えたにも拘らず、外形寸法の肥大化を抑制できたのは、ボディ軸X−X’に対してマウスピース軸Y−Y’を角度βだけ傾けスペース効率を高めた効果による。また、第5図から判るように従来に無く斬新なデザインを実現している。
【0052】
その他の構成及び作用については、前述の実施形態1のホイッスル1と同様であるため、説明を省略する。
【実施例1】
【0053】
本発明の実施形態1に係る振動子型ホイッスル、及び、参考例としてこれと同型のホイッスルで第2共鳴室を除去したもの、即ち図9(A)に示すホイッスル3と同様のもの(h=h’=2mm)を作成し、それぞれの周波数特性を測定し、本発明のホイッスルの音波が低周波側に移行し、更に共鳴音が増加して深みのある音になったことを検証した。なお、本発明のホイッスルの第2共鳴室の高さはh=14mm、h’=10mmである。
【0054】
無反響室内でそれぞれのホイッスルの前方1mに騒音計を設置し、送気口から人の呼気に対応する圧縮空気をコンプレッサーで供給して、第2共鳴室の有無による音質の違いを測定した。そして、その騒音計出力を周波数解析器にて解析を行った。尚、本試験では振動子を取り出したもの同士を比較測定した。理由は、振動子が存在するとその回転に伴ってオリフィスを揺動しつつ塞ぎ、ビート音が発生するからである。これから判るようにビート音は共鳴現象とは無関係であり且つその周波数分布は一様でない為に、下記パワースペクトルの分布波形を複雑化して理解の妨げとなるからである。
【0055】
その結果を図6に示す。図6(A)は本発明のホイッスル、(B)は参考例のパワースペクトルであり、それぞれのグラフの横軸は周波数(KHz)を表し、縦軸はパワースペクトル、即ち音波のエネルギーである。
【0056】
本発明の振動子型ホイッスルでは最大音量を示す第1大ピークは、2750Hz付近にあり、破線で示すように約2750Hz周期で大ピークが現れ、第1大ピークと第2大ピークとの間に第1小ピークが明確に現れている。また当該小ピークの倍数波と考えられる第2、3,4,5,6の小ピークが大ピークの倍数波の間に現れている。一方、参考例の第1大ピークは3313Hz付近にあり、また、破線で示すように約3310Hz周期で大ピークが現れる結果となった。
【0057】
この結果から、本発明のホイッスルは参考例に比べ、第1大ピークが560Hz程度低く、他のピークについてもそれぞれ低周波側に移行していることがわかる。この周波数の違いは人により明瞭に知覚されるものである。また、人の可聴周波数限界である20KHzまでの間に、本発明では7本の大ピークがあるのに対して、参考例では6本となっている。更に本発明にホイッスルでは10KHz近辺にも共鳴音波が存在しているのに対して、参考例では無く、また15KHz以上の耳障りな高調波については、本発明でほとんど生じず、参考例では多く生じることがわかる。従って、本発明の振動子型のホイッスルにおいて、第1共鳴室に連通する第2共鳴室を設け、この連通共鳴室によって、共鳴周波数を低周波側に移行させて不快で耳障りな高周波音を抑え、深みのある心地よいホイッスル音になることを実証した。
【実施例2】
【0058】
横に並列した3つの異なる長さの直方体状共鳴室(縦6mm、横6mm)を持った本発明の非振動子型のホイッスル2、及び、参考例としてこれと同型のホイッスルで第2共鳴室を除去したもの、即ち図9(B)に示すホイッスル4と同様のもの(h=h’=2mm)を作成し、それぞれの周波数特性を測定し、本発明のホイッスルの音波が低周波側に移行していることを検証した。なお、本発明のホイッスルの第2共鳴室の高さはh=12mm、h’=8.5mmである。
【0059】
実施例1と同様に、無反響室内でそれぞれのホイッスルの前方1mに騒音計を設置し、送気口から人の呼気に対応する圧縮空気をコンプレッサーで供給して、第2共鳴室の有無による音質の違いを測定した。そして、その騒音計出力を周波数解析器にて解析をおこなった。
【0060】
その結果を図7に示す。図7(A)は、本発明のホイッスル、(B)は、参考例のパワースペクトルであり、それぞれのグラフの横軸は周波数(KHz)を表し、縦軸はパワースペクトル、即ち音波のエネルギーである。
【0061】
測定の結果、前述のように、3個の並列共鳴室の為、スペクトル波形は複雑な分布となった。本発明の非振動子型ホイッスルでは最大音量を示す第1大ピークは、3225Hz付近にあり、第2大ピークは7038Hz付近に存在し、倍数波も含め、大ピークを中心としてその前後に次のピークが山を形成する形で分布している。一方、参考例の第1大ピークは3688Hz付近にあり、第2大ピークは7375Hz付近に存在し、倍数波も含め大ピークを中心としてその前後に次のピークが山を形成する形で分布している。
【0062】
しかしその分布は測定結果から判るように本発明の方がより複雑になっている。これは第2共鳴室の効果と考えられる。この結果から、本発明のホイッスルは参考例に比べ、最大音量を示す最初のピークが460Hz程度低く、他のピークについても全体的に低周波側に移行していることがわかる。この周波数の違いは人により明瞭に知覚されるものである。また複雑な共鳴音によって深みのある音となっている。
【0063】
従って、非振動子型のホイッスルにおいても、振動子型ホイッスルと同様に、第1共鳴室に連通する第2共鳴室を設けることによって、音波の共鳴周波数を低周波側に移行させ、深みのある音とし、不快で耳障りな高周波音を抑え心地よいホイッスル音になることが実証できた。
【実施例3】
【0064】
また、本発明の実施形態2に係る非振動子型ホイッスルの第2共鳴室の高さを変更し、周波数の低下に及ぼす高さの影響について検討した。h’をhの概略70%の高さとして、第2共鳴室の高さを(h+h’)÷2で表し、それを2mm、3mm、4mm、5mm、6.5mm、7mm、8mm、10mm、12mm、14mm、17mmとし、実施例1と同様に騒音計で測定し、最も低い周波数に現れる共鳴周波数をそれぞれ調べた。尚、ここで使用したホイッスルは実施例2で使用したホイッスルと異なる樹脂金型で製造されたものである。そのため若干の寸法差があり、得られた測定値は若干異なる結果となった。このことは、共鳴現象は空気流路の寸法、形状及び表面形態に敏感に影響される物理現象であることを意味している。
【0065】
その結果を図8に示す。第2共鳴室の高さが4mmまでは、いずれも共鳴周波数は3500Hz付近にあり変化がない。これは、従来のケーシングの厚みからなるオリフィスで放音口を兼ねたホイッスルでは、周波数の低下が起こらないことを示している。即ちこの範囲では第2共鳴室として作用していないと言える。
【0066】
しかし、高さが5mmでは3420Hzと、4mmまでのものと比較して70〜80Hzもの周波数の低下が見られる。そして、5mmから高くなるに従い、更なる周波数の低下がみられる。そして、14mmでおよそ3150Hzと、4mmまでのものに比べ、350Hzも周波数が低くなっている。
【0067】
この結果から、周波数を低下させ、深みのある音とし、更に耳障りな高周波ノイズを抑制するには、第2共鳴室の高さを5mm以上にすればよいことがわかる。なお、15mm以上高くしても、それ以上の周波数の低下はさほど見られないから、ホイッスルに望まれる機能の一つである小型、軽量の観点から、第2共鳴室の高さは5mm〜15mmが好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による実施形態1のホイッスルの外観を示す斜視図である。
【図2】本発明による実施形態1のホイッスルの断面図である。
【図3】(A)は音波の反射実験の様子を示す概略図、(B)は開口端における出力波形、(C)は閉口端における出力波形である。
【図4】本発明による実施形態2のホイッスルの概略図である。
【図5】本発明による実施形態2のホイッスルの外観を示す斜視図である。
【図6】(A)は本発明の実施形態1のホイッスルのパワースペクトル、(B)は従来のホイッスルのパワースペクトルである。
【図7】(A)は本発明の実施形態2のホイッスルのパワースペクトル、(B)は従来のホイッスルのパワースペクトルである。
【図8】本発明の第2共鳴室の高さと周波数の低下の関係を示すグラフである。
【図9】(A)は従来の振動子型ホイッスル、(B)は従来の非振動子型ホイッスルの断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ホイッスル
2 ホイッスル
3 ホイッスル
4 ホイッスル
11 ボディ部
12 マウスピース部
13 側板
20 連通共鳴室
21 第1共鳴室
22 第2共鳴室
23 オリフィス
24 放音口
25 エッジ
26 振動子
27 後部壁
28 送気管
29 送気口
31 ホルダー
32 グリップ
33 上唇ストッパー
41 パイプ
42 遮蔽板
43 ハンマー
44 固形物
45 マイクロフォン
51 共鳴室
52 耳

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1共鳴室、第2共鳴室、及びオリフィスを有し、前記第2共鳴室の一部を放音口として開口させたボディ部と、送気管を有し、送気口を開口させたマウスピース部と、を備え、
前記第1共鳴室と前記第2共鳴室は前記オリフィスを挟み上下に配置されて連通共鳴室を構成し、前記連通共鳴室で共鳴音波を低周波側に移行させる、
ことを特徴とするホイッスル。
【請求項2】
前記ボディ部の側板を前記送気口側且つ上側に伸ばして前記第2共鳴室を形成している、ことを特徴とする請求項1に記載のホイッスル。
【請求項3】
前記ボディ部の長手方向の軸が前記マウスピース部のマウスピース軸に対して傾斜している、ことを特徴とする請求項2に記載のホイッスル。
【請求項4】
前記ボディ部の長手方向の軸が前記マウスピース軸に対して30°〜70°で交差している、ことを特徴とする請求項3に記載のホイッスル。
【請求項5】
前記第2共鳴室における前記オリフィスから前記放音口までの高さが5mm〜15mmである、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のホイッスル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−271214(P2009−271214A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119972(P2008−119972)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(307009300)