説明

ホイッスル

【課題】三つの共鳴室を備えつつも、三つの共鳴音波が互いに打ち消し合うことなく明確に発生され、且つ放出される音が吹鳴者の手や下あごによって遮られず、その結果、明確で心地よいビート音を発生させ得るホイッスルを提供する。
【解決手段】呼気が吹き込まれる送気口と、送気口から吹き込まれた呼気が共通送気路と共通送気路から分岐する第1送気路、第2の送気路及び第3送気路を介してそれぞれ流入する第1共鳴室、第2共鳴室及び第3共鳴室と、第1共鳴室、第2共鳴室及び第3共鳴室でそれぞれ生成される音を放出する第1放音口、第2放音口及び第3放音口と、を備える。そして、第1共鳴室と第2共鳴室とは平面視で並べて配置され、第1共鳴室及び第2共鳴室の間に、且つ、第1共鳴室及び第2共鳴室の上方に第3共鳴室が配置され、また、第1放音口、第2放音口及び第3放音口が上方に向けて開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイッスルに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイッスルは音による簡便な伝達道具として、各種スポーツ競技における審判、人の多く集まる場所での警備、誘導、合図、或いはペットの指導等、様々な分野で広く使用されている。ホイッスルはそれぞれの使用環境に応じ、周囲の人や動物に速やかに音を届け、注意を喚起させられることが要求される。それゆえ、ホイッスルの吹鳴者にとって、必要なときに直ちに吹鳴できること、吹鳴し易いことが求められる。一方、被聴者にとっては、聞き取りやすい音質、音量ですぐさま吹鳴された音を認識可能であることが求められる。
【0003】
非振動子型ホイッスルは共鳴室内部に振動子を内包する振動子型ホイッスルに比べて高い周波数の音を吹鳴することができ、また音の立ち上がりが早い特徴を有する。このため、素早い伝達、注意喚起を要する交通警備やスポーツ審判などの所謂プロフェッショナル分野で主に用いられている。この非振動子型ホイッスルではその特徴を活かすために、三つの異なる長さの共鳴室を有するホイッスルが主流になりつつある。その理由は、近似した異なる3つの音波を互いに干渉させてビート音を生じさせるためである。ビート音は2つの音波でも作ることは可能であるが、3つの方がより豊かで且つ明確なビート音を得ることができる。ビート音は回りの雑音からホイッスルの音を際立たせる重要な役目を担っている。効果的なビート音を発生させるためには、各音波が明確に発生し、その周波数が近似し、更にその振幅が近似することが重要である。また、共鳴音波の振幅は共鳴室の幅(断面積)で決まるから、各共鳴室断面積は同一であることが望まれる。
【0004】
このような三つの共鳴室を有する非振動子型ホイッスルとして、以下のホイッスルが開示されている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,086,726号明細書
【特許文献2】特開平1−65598号公報
【特許文献3】米国意匠特許第409,939号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示のホイッスルは、同一平面上に並列に配置された三つの共鳴室と、全て上方に向けて開口した三つの放音口を備えている。しかしながら、三つの放音口が隣接して配置されているため、一つの放音口から放出された気流の風圧が隣接する他の放音口から出た音波に影響を及ぼし、互いに打ち消し合う不具合が生じる。即ち、各共鳴室の独立性が確保できていない。この結果、三つの共鳴室及び三つの放音口を備えていても、それぞれの放音口からは期待される音波が明確に発生せず、明確なビート音を生じさせることができない。
【0007】
また、特許文献3は特許文献1と同一の発明者によって後日開示されたホイッスルであり、同一平面上に並列に配置された三つの共鳴室と、三つの放音口を備えており、三つの放音口の少なくとも1つが下方を向いて開口している。また、特許文献2は3つの共鳴室の内の2つが平面上に並列に配置され、残りの一つが前記2つの共鳴室の下部に配置されており、3つの放音口の少なくとも1つが下方に向いて開口している。これらの配置は、後で詳述するように技術進展の歴史から、特許文献1に基づく商品を詳細に検討した結果、当該配置は各共鳴室の独立性を損ない、明確な音波が発生できていないことを見出し、其の問題を解決する方策として考案されたことは明白である。しかしながら、各共鳴室の独立性は確保できたものの、特許文献2及び特許文献3の配置は新たな問題を作り出した。
【0008】
即ち、吹鳴者はホイッスルの両側面を一方の手で摘むようにして保持し吹鳴するが、この際にホイッスルの前方下側に手が位置することになる。このため、下方に位置する放音口から放出された音が手で遮られて減衰するという問題が新たに発生した。一方、手で保持せずに吹鳴する場合、吹鳴者はマウスピースを歯で噛み、ホイッスル下部を下あごに当てて固定し、吹鳴する。この場合も同様に、下あごが障壁となり、下方から放出した音が減衰するという問題が発生した。音の減衰は音波の振幅の減衰を意味するから、減衰した音では明確なビート音は得られない。その後、各共鳴室の独立性の確保と、放音口が手または下あごで遮られるという二つの問題を同時に解決したホイッスルは出現していない。
【0009】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、三つの共鳴室を備えつつも、三つの共鳴音波が互いに打ち消し合うことなく明確に発生され、且つ放出される音が吹鳴者の手や下あごによって遮られず、その結果、明確で心地よいビート音を発生させ得るホイッスルを提供することにある。更にそれぞれの共鳴室を無理に小型化せずとも扱いやすい幅に抑えられたホイッスルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るホイッスルは、
呼気が吹き込まれる送気口と、
前記送気口から吹き込まれた呼気が共通送気路と前記共通送気路から分岐した第1送気路、第2送気路及び第3送気路を介してそれぞれ流入する第1共鳴室、第2共鳴室及び第3共鳴室と、
前記第1共鳴室、前記第2共鳴室及び前記第3共鳴室でそれぞれ生成される音を放出する第1放音口、第2放音口及び第3放音口と、を備え、
前記第1共鳴室と前記第2共鳴室とは平面視で並べて配置され、
前記第1共鳴室及び前記第2共鳴室の間に、且つ、前記第1共鳴室及び前記第2共鳴室の上方に前記第3共鳴室が配置され、
前記第1放音口、前記第2放音口及び前記第3放音口が上方に向けて開口している、
ことを特徴とする。
【0011】
また、前記第1送気路の出口、前記第2送気路の出口、及び、前記第3送気路の出口の少なくとも一つが、前記ホイッスルの長手方向において相対的に異なる位置に配置されていることが好ましい。
【0012】
また、前記第3送気路の出口が、前記第1送気路の出口、及び前記第2送気路の出口より前方に配置されていることが好ましい。
【0013】
また、前記第1共鳴室、前記第2共鳴室及び前記第3共鳴室はそれぞれの長手方向における中心軸が略正立三角形を形成して配置されていることが好ましい。
【0014】
また、前記第1共鳴室、前記第2共鳴室及び前記第3共鳴室の長さがそれぞれ異なることが好ましい。
【0015】
また、前記第3の送気路は上方に向けて屈曲し、前記第3の送気路を形成する前記送気口側の壁面で上唇のストッパーが形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るホイッスルは、3つの共鳴室及びそれぞれの共鳴室で生成された音波を放出する3つの放音口を備え、3つの放音口は全て上方に向けて開口されており、この3つの共鳴室の独立性が確保されているため、3つの明確な音波が発生する。そして、3つの放音口が全て上方を向いて開口しているため、吹鳴時にホイッスルの両側面を摘むようにして持っても、手がいずれの放音口から放出される音の進行を遮ることもなく、明確で心地よいビート音を発生させることができる。
【0017】
また、3つの共鳴室が所謂俵積みに配置されているため、ホイッスルの幅は2つの共鳴室を有するホイッスルと同程度に抑えられており、扱いやすいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るホイッスルの外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るホイッスルの平面図である。
【図3】(A)は図2におけるX1−X1’断面図、(B)は図2におけるX2−X2’断面図、(C)は図2におけるX3−X3’断面図である。
【図4】図2におけるY1−Y1’断面図である。
【図5】図2におけるマウスピース側から本体側を見たY2−Y2’断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るホイッスルを吹鳴している状況を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を参照しつつ本実施の形態に係るホイッスルについて説明する。本実施の形態に係るホイッスル1は、図1〜図5に示すように、主として、共通送気路12及び共通送気路12から分岐する3つの送気路12a、12b、12cが内包されるマウスピース部2と、3つの共鳴室14a、14b、14cが内包され、それぞれの共鳴室14a、14b、14cの一部が開口した3つの放音口16a、16b、16cを有するボディ部3とから構成されている。また、ボディ部3にはホイッスル1を首等に掛けて保持するための紐を通せる孔が穿たれた下げ紐孔4が設けられている。更に、ボディ部3の両側面下部にホイッスルを保持するためのつまみ部5が下方に張り出している。
【0020】
マウスピース部2には、唇が当てられ、呼気が吹き込まれる細長い矩形状の送気口11が開口している。そして、マウスピース部2には、送気口11から吹き込まれた呼気を通過させ、第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cへと導く共通送気路12、第1送気路12a、第2送気路12b及び第3送気路13cが内包されている。
【0021】
共通送気路12は途中から第1送気路12a、第2送気路12b及び第3送気路13cの3本に枝分かれしている。そして、第1送気路12a、第2送気路12b及び第3送気路13cに流入した呼気は、それぞれの第1送気路出口13a、第2送気路出口13b及び第3送気路出口13cから放出される。
【0022】
ボディ部3には、円柱形空間にて形成された第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cが内包されている。第1送気路出口13a、第2送気路出口13b及び第3送気路出口13cから放出された呼気は、それぞれ第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cに流入する。
【0023】
第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cは、それぞれの共鳴室の入り口の一部が共鳴室中心軸に対して斜めに切り欠かれており、第1放音口16a、第2放音口16b及び第3放音口16cとして開口している。
【0024】
吹き込まれる呼気がエッジ15a、15b及び15cに衝突してそれぞれ音を発生させ、その音の一部が共鳴効果により、第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cの長さで決まる周波数に従ってそれぞれ選択的に増幅され、生じた音波が第1放音口16a、第2放音口16b及び第3放音口16cからそれぞれ外部に放出される。
【0025】
そして全ての放音口16a、16b、16cは上方に向けて開口している。このため、放出されたそれぞれの音は吹鳴者の手でその進行を妨げられることがない。
【0026】
引き続き、ホイッスル1の構成並びに作用、効果について、より詳細に説明する。第1共鳴室14aと第2共鳴室14bとは平面視で略平行に配置されている。また、第3共鳴室14cは、第1共鳴室14aと第2共鳴室14bとの間で、且つ、第1共鳴室14aと第2共鳴室14bの上方に配置されている。
【0027】
図3(A)、図3(B)及び図3(C)に、図2のX1−X1’断面、X2−X2’断面及びX3−X3’断面をそれぞれ示しているが、第1共鳴室14a、第2共鳴室14b、第3共鳴室14cの長さL1、L2、L3はそれぞれ長さが異なっている。本実施の形態では、第1共鳴室14aの長さL1>第2共鳴室14bの長さL2>第3共鳴室14cの長さL3で構成されている。
【0028】
共鳴室で生成される音の音色は音波の周波数によって変わり、共鳴室の長さが短ければ生成される音波の周波数が高くなり、高音を発する。一方、共鳴室が長ければ生成される音波の周波数が低くなり、低音を発する。本実施の形態に係るホイッスルでは、それぞれの共鳴室で生成される音の高さは、第3共鳴室14c>第2共鳴室14b>第1共鳴室14aとなる。相対的に高音、中音、低音の3種の異なる音色が発せられるため、その音波が互いに干渉してビート音を奏でる。
【0029】
スポーツ競技における審判用として適する音が発せられる具体的な各共鳴室14a、14b、14cの長さの一例を挙げれば、各々、L1=22.7mm、L2=21.4mm、L3=20.0mmである。この場合、放出される音はそれぞれの共鳴室音に甲高いビート音が加わった音となり、騒々しい体育館でも被聴者にとって他の音と区別し易い音が発せられる。
【0030】
また、図4に、図2のY1−Y1’断面を示しているが、第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cの直径D1、D2、D3は全て等しく構成されている。音響理論から明らかなように、音の大きさは音波の振幅に依存する。管楽器の例からも判るように共鳴音波の振幅は共鳴室断面積で制約をうけるから、共鳴室の直径が大きければ大きい程、生成される音波の振幅が大きくなり、歪の無い伸びやかで大きな音が発せられる。ホイッスル1では、第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cの直径D1、D2、D3が全て等しいため、これらの共鳴室14a、14b、14cで生成されるそれぞれの音の大きさ、即ち振幅は概略同じものとなる。ここで直径は5乃至10mmとすることができる。
【0031】
上述したが、ビート音は周波数が異なる複数の音波が互いに干渉し合い、合成波形を歪ませることによって作られる。仮に、異なる音色でそれぞれ音の大きさが異なり、これらの音が同時に発せられた場合では、小さい音は音波の振幅が小さく、また、大きい音は音波の振幅が大きいものとなる。このように、一方の音波の振幅に比べて、他方の音波の振幅が小さいと、これらの音波の干渉効果は小さくなる。即ち、これら振幅の異なる音波が干渉して作られる合成音波波形の歪は小さいことから、明確なビート音を生じさせることができない。
【0032】
しかし、本実施の形態に係るホイッスル1では、第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cの直径が等しい。したがって、それぞれの共鳴室14a、14b、14cでは振幅がほぼ同じで、且つ、周波数が異なる音波が生成される。このため、ほぼ同じ音量で、かつ、異なる音色の音が発せられる。このため、それぞれの放音口16a、16b、16cから発せられる音が効果的に干渉し合い、合成音波波形の歪みが大きくなるので、明確で心地よいビート音が発生する。
【0033】
また、図5に図2のY2−Y2’断面を示しているが、第1放音口16aは、左側方斜め上方に向けて(図5において、Z1−Z1’軸に対し、角度θほど側面側に傾斜した方向に向けて)開口している。また、第2放音口16bも同様に、右側方斜め上方に向けて(図5において、Z2−Z2’軸に対し、角度θほど側面側に傾斜した方向に向けて)開口している。θは30〜60°が望ましく、より望ましくは40〜50°である。θが30°に満たない場合は第3共鳴室14cを構成する壁に当たって音が減衰し、また60°を超える場合ではつまみ部5を指で持って吹鳴すると、指が第1放音口16a、第2放音口16bを指で塞ぐ危険性が生じる。この構成によれば、3つの放音口16a、16b、16cからは断面で考えると放射状に音が発せられる。
【0034】
このように第1放音口16a、第2放音口16b、第3放音口16cがそれぞれの共鳴室の中心軸P1、P2及びP3に対してそれぞれ斜め上方に傾斜して開口していると、第1エッジ15a、第2エッジ15b、第3エッジ15cを大きく形成することができる。エッジ15a、15b、15cが大きいほど、吹き込まれた呼気によって渦が生じやすく、音波が生成されやすい。
【0035】
図3(A)、図3(B)及び図3(C)の断面図に戻り、第3送気路出口13cは第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bよりもQだけ前方、即ち下げ紐孔4側に位置している。この距離Qは2乃至10mm、望ましくは3〜7mmである。なお、本明細書における前方とは、ホイッスル1を吹鳴する際に被聴者側を向く方向、即ち、ホイッスル1の長手方向において送気口11の反対方向をいう。
【0036】
もし、第3送気路出口13cが第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bと同一平面上にあった場合、第1放音口16a及び第2放音口16bは第3放音口16cの左右の同一位置に扇状に立体配置される結果となる。このような立体配置においては、各放音口16a、16b、16cは繋がった空間となって独立性が保てなくなる。このことは、各放音口の独立性を消失させるばかりでなく、それぞれの共鳴室での音の発生の独立性にも大きな影響を与え、正常な音の発生が不可能になる。其の原因は一つの送気路出口から出た風が隣接した放音口を介して隣接する共鳴室に流れ込むためであり、また、一つの放音口から出た気流が隣接する放音口を介して隣接する共鳴室から出た音波を打ち消すように作用するからである。
【0037】
この問題を具体的に示す判り易い例を特許文献1に基づいて製品化された商品(商品名:ACME TORNADE)に見ることができる。同商品では、3つの共鳴室が平面視で並べて配置され、且つ、3つの送気路出口及び3つの放音口が平面視で並べて配置されている。このような配置では、各々の放音口が1列に繋がった空間となって、各々の放音口の独立性の保持が困難となり、各共鳴室で作られた共鳴音波を互いに影響させずに放出することができない。特に中央の共鳴室で作られた共鳴音波は左右の放音口から放出される気流の風圧の影響を受けて打ち消され、正常な音波を発生し得ていない。このことは、中央の放音口を遮蔽物で塞いだ場合と、塞がない場合とで、吹鳴音が殆ど変わらないことで証明される。即ち、共鳴室は3つ存在しているが、少なくともそのうちの一つは正常に機能していない。したがって、明確で心地良いビート音を発生できていない。この問題を解決するため、特許文献2及び特許文献3では、中央の送気路出口及び放音口を下向きに配置したとことは明白である。しかしながら、各共鳴室の独立性は確保されたものの、前述のように、下向きに配置された放音口がホイッスルを保持した手で塞がれ、音が減衰するという新たな問題が生じている。更に、手で塞がれて減衰した音波は其の振幅が小さくなり、明確なビート音を奏でることができない。
【0038】
上記の3つの共鳴室の独立性問題を解決する為に、本実施の形態では、第3送気路出口13cを第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bに対して前方(下げ紐孔4側)にずらす配置としている。この配置によって、第3送気路12cを構成するマウスピース部2の一部が前方に張出して、第3放音口16cと第1放音口16a及び第2放音口16bを隔離する隔離壁となり、且つ第3放音口16cも前方に位置するために、それぞれの共鳴室14a、14b、14c及び放音口16a、16b、16cの独立性が確保され、3つの異なる音色の音波の発生を確実なものにしている。なお、各共鳴室14a、14b、14cのこのような立体配置が実現されたことは、後で述べる各共鳴室14a、14b、14cの中心軸を略正立三角形に配置した効果の一つである。
【0039】
以上のように、ホイッスル1では、第1放音口16a、第2放音口16bは第3放音口16cよりも送気口11側に位置し、全ての放音口16a、16b、16cが離間しているため、更には、3つの放音口16a、16b、16cがそれぞれ異なる角度で開口しているため、それぞれの共鳴室の独立性が確保され、3つの明確な共鳴音波が発生され、更に明確で心地よいビート音を奏で、被聴者に聞き取りやすい音量、音色となる。
【0040】
なお、上記では、第3送気路出口13cを第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bに対して下げ紐孔4側に配置した形態について説明したが、上記に限定されることはない。例えば、第3送気路出口13cを第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bに対して送気口11側に配置した形態であってもよい。また、送気口11側から第1送気路出口13a、第2送気路出口13b、第3送気路出口13cの順に配置されていても、第3送気路出口13c、第2送気路出口13b、第1送気路出口13aの順に配置されていてもよい。
【0041】
第3送気路出口13cを第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bに対して下げ紐孔4側に配置した場合の更なる利点について述べる。もし、第3送気路出口13cが、第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bと同じ位置にあったならば、ホイッスル1の全長を短くして小型化すると、上方に張り出した第3送気路出口13cが送気口11側に位置し、口でくわえることのできるマウスピース部2の長さが短くなり、口にくわえがたく、扱いにくくなってしまう。一方で、マウスピース部2の長さをくわえやすいよう確保すれば、ホイッスル1の全長が長くなり、小型化できない。
【0042】
しかしながら、本実施の形態に係るホイッスル1では、上記のように第3送気路出口13cを第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bよりもQだけ下げ紐孔4側に位置している。言い換えれば、第3送気路出口13cを第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bよりも前側(下げ紐孔4側)に張り出させることで、吹鳴者が口にくわえやすい長さのマウスピース部2を確保している。
【0043】
また、第3送気路12cが上方に向けて屈曲していることから、第3送気路12cを形成する壁面が上唇のストッパーとして形成されている。
【0044】
図4の断面図に戻り、本実施の形態に係るホイッスル1では、第1共鳴室14aと第2共鳴室14bが平行配置され、第1共鳴室14aと第2共鳴室14bの間、且つ、上方に第3共鳴室14cが配置されており、所謂俵積みに配置されている。このため、3つの共鳴室が内包されていてもホイッスル1の幅Dwは短く抑えられている。
【0045】
例えば、共鳴室の直径を8mm、共鳴室の境界壁及びホイッスルの側壁の厚みをそれぞれ2mmとした場合、ホイッスル1の幅Dwは22mmである。一方、同じ8mmの直径を有する3つの共鳴室を同一平面上に平行配置した場合では、ホイッスルの幅は30mmとなる。ホイッスル1では3つの共鳴室が俵積みに配置されていることにより、3つの共鳴室を同一平面上に平行配置されている場合に比べ、8mmも幅を抑えることができる。このことは、ホイッスルの軽量化にもつながる。バスケットボールやサッカーなどの運動の激しいスポーツ審判にとってホイッスルの小型軽量化の要求は大きい。
【0046】
更には、第1共鳴室14a、第2共鳴室14b及び第3共鳴室14cは、それぞれの共鳴室14a、14b、14cの長手方向の中心軸P1、P2、P3が略正立三角形を形成するよう配置されている。この俵積み配置は体積効率に優れ、無理に3つの共鳴室14a、14b、14cを小さくしなくても小型のホイッスル1を実現している。
【0047】
なお、これまでに流通している一般的なホイッスルの本体幅、及びマウスピース幅が18〜23mmであるのに対して、特許文献3に基づいて製造市販された商品(商品名:ACME TORNADE2000)の本体幅は28mm、マウスピース幅は22mmであり、一般的なホイッスルより幅広で持ちにくく、また、口にくわえがたいことから、流布していないのが実情である。このことは、ホイッスルの利用者が小型のホイッスルを求めていることを示唆している。
【0048】
更に、ホイッスルにとって、本体幅を小型化することが重要であることは、特許文献1及びそれに基づく商品から具体的に説明することができる。特許文献1に開示のホイッスルでは、3つの共鳴室が同一平面上に並列配置されており、特許文献1の主な説明図面(FIG.2、FIG.7、FIG.8)では、各共鳴室の幅は同一寸法で図示されている。しかしながら、実際の製品(商品名:ACME TORNADE)では、FIG.12に示されている他の実施例、即ち、中央の共鳴室の大きさを左右に比べて削減した形態で商品化されている。具体的な商品の寸法は、左右の共鳴室の幅は6mm、中央の共鳴室の幅は3mm、本体幅は20mmである。これは、中央の共鳴室の幅を左右の共鳴室の幅と同じ6mmにすると本体幅が24mmとなって、ホイッスルの小型化の要望に反することを物語っている。このことからも、ミリ単位の小型化がホイッスルにとって重要であることがわかる。
【0049】
一方で、音響工学理論から明白なように、共鳴音の大きさは音波の振幅に比例し、振幅は共鳴室の大きさに比例することから、同一平面上に平行配置された3つの共鳴室断面を小さくし、幅を抑えたホイッスルにした場合においては、共鳴室で生成される音波の振幅が小さくなるため、放出される音が小さくなってしまう。上記のように中央の共鳴室の幅を左右の共鳴室の幅よりも狭め、特許文献1に基づいて商品化された上記製品(商品名:ACME TORNADO)では、幅の縮小は実現された一方で、中央の共鳴室の幅が縮小されているため、中央の共鳴室で作られた共鳴音波の振幅は左右の共鳴室で作られた共鳴音波の振幅に比べて小さくなり、必然的に干渉効果も小さくなるので、明確なビート音を発生させることができない。
【0050】
上記の例からも、明確なビート音を発生させ、且つ、小型であるホイッスルが要望されつつも、両者はトレードオフの関係を有することから、その実現は困難であったことがわかる。
【0051】
しかし、本実施の形態に係るホイッスル1では、上記のようにほぼ同じ断面積でそれぞれ長さが異なる3つの共鳴室14a、14b、14cが俵積みに構成されている。このため、各共鳴室は同じ断面積で、いずれの断面積も無理に縮小させることなく、ホイッスル1の幅が抑えられている。そして、第3送気路出口13cを第1送気路出口13a及び第2送気路出口13bよりも前方に位置させ、各共鳴室14a、14b、14cの独立性が確保されている。更に全ての放音口は上向きに配置され、且つホイッスルを保持した手で放音口が遮られ、音波が減衰する不具合がないから、全ての放音口から明確な音波が放出され、その結果明確なビート音を発生させることができる。以上のように、明確なビート音を発生できること及び小型のホイッスルであることのいずれをも犠牲にすることなく、吹鳴者にとって口にくわえやすく、また、吹鳴時に掴みやすく、更には、明確なビート音によって被聴者にとっても聞き取りやすいホイッスル1を実現している。
【0052】
図6にホイッスル1を吹鳴している状況を示すが、通常、吹鳴者はホイッスル1のつまみ部5の両側面を親指と人差し指で摘むようにして保持し、マウスピース部2を口にくわえ吹鳴する。
【0053】
この際、ホイッスル1の前方下側に手22が位置することになる。この様な通常の吹鳴の仕方であると、特許文献2及び特許文献3のように、放音口が下方に向けて開口している場合では、その放音口から発せられる音は進行を手で遮られてしまい、被聴者に音を届けられない。
【0054】
しかし、本実施の形態に係るホイッスル1では、全ての放音口16a、16b、16cが上方に向けて開口しているため、それぞれの放音口16a、16b、16cから放出される音は、矢印にて示すように手で音の進行が遮られることなく、被聴者へと届けることができる。
【0055】
また、素早い動作が求められるスポーツ審判による使用においては咄嗟にホイッスルを口にくわえて吹鳴する必要がある。そのような場合、特許文献2及び特許文献3のホイッスルでは、上面が平面或いは若干の突起がある程度なので、深く口にくわえ込んで放音口を塞いでしまい、必要なときに吹鳴できないおそれがある。
【0056】
一方、本実施の形態に係るホイッスル1では第3送気路12cが上方へ屈曲しているため、第3送気路12cを覆うマウスピース部2の壁面も上方へ向けて延びている。この壁面が上唇21のストッパーとして機能するため、ホイッスルを咄嗟に口にくわえて吹鳴しなければならない場合でも、放音口16a、16b、16cが口で塞がれることなく安定して吹鳴することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 ホイッスル
2 マウスピース部
3 ボディ部
4 下げ紐孔
5 つまみ部
11 送気口
12 共通送気路
12a 第1送気路
12b 第2送気路
12c 第3送気路
13a 第1送気路出口
13b 第2送気路出口
13c 第3送気路出口
14a 第1共鳴室
14b 第2共鳴室
14c 第3共鳴室
15a 第1エッジ
15b 第2エッジ
15c 第3エッジ
16a 第1放音口
16b 第2放音口
16c 第3放音口
21 上唇
22 手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気が吹き込まれる送気口と、
前記送気口から吹き込まれた呼気が共通送気路と前記共通送気路から分岐した第1送気路、第2送気路及び第3送気路を介してそれぞれ流入する第1共鳴室、第2共鳴室及び第3共鳴室と、
前記第1共鳴室、前記第2共鳴室及び前記第3共鳴室でそれぞれ生成される音を放出する第1放音口、第2放音口及び第3放音口と、を備え、
前記第1共鳴室と前記第2共鳴室とは平面視で並べて配置され、
前記第1共鳴室及び前記第2共鳴室の間に、且つ、前記第1共鳴室及び前記第2共鳴室の上方に前記第3共鳴室が配置され、
前記第1放音口、前記第2放音口及び前記第3放音口が上方に向けて開口している、
ことを特徴とするホイッスル。
【請求項2】
前記第1送気路の出口、前記第2送気路の出口、及び、前記第3送気路の出口の少なくとも一つが、前記ホイッスルの長手方向において相対的に異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のホイッスル。
【請求項3】
前記第3送気路の出口が、前記第1送気路の出口、及び、前記第2送気路の出口より前方に配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のホイッスル。
【請求項4】
前記第1共鳴室、前記第2共鳴室及び前記第3共鳴室はそれぞれの長手方向における中心軸が略正立三角形を形成して配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のホイッスル。
【請求項5】
前記第1共鳴室、前記第2共鳴室及び前記第3共鳴室の長さがそれぞれ異なることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のホイッスル。
【請求項6】
前記第3送気路は上方に向けて屈曲し、前記第3送気路を形成する前記送気口側の壁面で上唇のストッパーが形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のホイッスル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−8481(P2012−8481A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146635(P2010−146635)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(307009300)