説明

ホイップクリームの製造方法及び製造装置

【課題】所望の物性に制御することができるホイップクリームの製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質体の細孔を介して気体を原料クリーム中に注入することによりホイップクリームを製造する方法及びそれを実施するための製造装置に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚エマルション(クリーム)中に気泡を注入しながら濃厚エマルション(クリーム)を解乳化させ、ホイップクリームを生成させる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリーム(whipped cream)は、食品分野、化粧品分野等をはじめとして様々な分野に使用されている。このホイップクリームの製造においては、主として電動ミキサー、攪拌機等のホイップクリーム生成器が用いられている。ホイップクリーム生成器では、撹拌により濃厚エマルション(クリーム)に気泡を抱き込ませながら解乳化させることによりホイップクリームを得ることができる(特許文献1)。また、逆止弁を備えたエアー供給口から生クリームに空気を導入することにより、ホイップクリームを製造する方法も知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−253099号公報
【特許文献2】特開2002−101837
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の方法によりホイップクリームを製造する場合には、気泡層の最も多いオーバーランの時間位置と、ホイップクリームの保形性の最も高い時間位置とのずれがどうしても生じてしまう。このため、図2に示すように、ホイップクリームのオーバーランを高く保持すると硬度が低下し(図中3)、逆に硬度を高く保持するとオーバーランを高く設定できない(図中1,2)という問題が起こる。
【0004】
従って、本発明の主な目的は、所望の物性に制御することができるホイップクリームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の方法によりホイップクリームを製造することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記のホイップクリームの製造方法及び製造装置に係る。
【0007】
1. 多孔質体の細孔を介して気体を原料クリーム中に注入することによりホイップクリームを製造する方法。
【0008】
2. 多孔質体が0.05〜20μmの細孔径を有する、前記項1に記載の製造方法。
【0009】
3. 多孔質体が多孔質ガラスからなる、前記項1又は2に記載の製造方法。
【0010】
4. 原料クリームがエマルションである、前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
5. 原料クリームに気体を導入することによりホイップクリームを製造するための装置であって、容器が多孔質体を介して2室に区画されており、一方が原料クリームの収容部をなし、他方が気体の収容部をなしている気体導入手段を含むホイップクリーム製造装置。
【0012】
6. (1)気体導入手段における容器が管状多孔質体を介して2室に区画されており、管状多孔質体の内部が原料クリームの収容部又は気体の収容部をなし、管状多孔質体の外部が気体の収容部又は原料クリームの収容部をなしており、(2)前記容器に原料クリーム供給部が配管を介して連結され、(3)前記容器に気体供給部が配管を介して連結されていることを特徴とする、前記項5に記載の製造装置。
【0013】
7. 多孔質体が0.05〜20μmの細孔径を有する、前記項5又は6に記載の製造装置。
【0014】
8. 多孔質体が多孔質ガラスからなる、前記項5〜7のいずれかに記載の製造装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、均一な微細孔を有する膜状多孔質体の細孔を介して濃厚エマルション(クリーム)を解乳化させることなく均一に揃った微細気泡を濃厚エマルション(クリーム)中に注入することができる。また、気泡を多く抱き込んだ状態で濃厚エマルション(クリーム)を物理的に解乳化させることができる。
【0016】
このように膜状多孔質体を用いた本発明は、オーバーラン及び保形性の最も高い位置でホイップクリームを生成できる。
【0017】
本発明の装置では、膜乳化等のために多孔質体を用いるので、微細気泡生成ミキサーとしてのホイップクリーム生成装置を安価に提供することができる。特に、多孔質体として多孔質ガラス膜を利用した場合は、多孔質ガラス膜の気孔率の高さ等から、ある程度クリーム中に微細な気泡を封入させてから、濃厚エマルション(クリーム)の解乳化によるホイップ開始という一連のコントロールがより確実に行うことができる。一般にホイップクリームの製造においては、保形性、離水性が一番高くなるように設定する必要があるが、このような設定をするとオーバーランという気泡封入率が低い位置になってしまい、それだけ脂肪が多く含まれる状態となる。これに対し、多孔質ガラス膜を利用することにより、保形性、離水性が最も高い位置を維持しつつ、同時に気泡封入率も高い状態でホイップクリームを製造することができる。これにより単位体積当たりの脂肪量の低減を図ることができるので、低カロリーのホイップクリームを得ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.ホイップクリームの製造方法
本発明の製造方法は、多孔質体の細孔を介して気体を原料クリーム中に注入することによりホイップクリームを製造することを特徴とする。
【0019】
原料クリームは、ホイップ用であれば特に限定的でなく、食品、化粧品等のいずれであっても良い。例えば、生クリーム、合成クリーム等の食品、シェービング用クリーム、整髪用ムース等の化粧品等が挙げられる。特に、本発明では、原料クリームとしてエマルション等を用いることができる。エマルションは、W/Oエマルション、O/Wエマルション等のいずれであっても良い。
【0020】
多孔質体は、所定の細孔(好ましくは貫通孔)を有するものであれば良く、公知又は市販の多孔質体を用いることができる。貫通孔は、その断面形状が楕円状、長方形(スリット状)、正方形等のいずれであっても良い。また、貫通孔は、膜面に対して垂直に貫通していても良いし、斜めに貫通していても良い。貫通孔どうしが絡み合った状態になっても良い。
【0021】
多孔質体の細孔径は限定的でないが、特に0.05〜20μm(さらには0.05〜10μm)の細孔径を有することが望ましい。
【0022】
多孔質体の形状は、特に制限されないが、一般的には膜状であることが好ましい。膜状多孔質体は、板状(平膜状)、円筒状(管状)等のいずれの形状であっても良い。膜状多孔質体の厚みは、通常0.3〜1mm程度とすれば良い。
【0023】
多孔質体の材質としては、ガラス、セラミックス、金属、樹脂等のいずれであっても良い。特に、本発明では、ガラスを好適に用いることができる。すなわち、多孔質ガラスを好ましく使用することができる。
【0024】
多孔質ガラスとしては、例えばガラスのミクロ相分離を利用して製造される多孔質ガラス膜が好適である。具体的には、特許第1504002号に開示されたCaO−B23−SiO2−Al23系多孔質ガラス、特許第1518989号に開示されたCaO−B23−SiO2−Al23−Na2O系多孔質ガラス、CaO−B23−SiO2−Al23−Na2O−MgO系多孔質ガラス等が挙げられる。これらの多孔質ガラス膜としては、その相対累積細孔分布曲線において、細孔容積が全体の10%を占める時の細孔径が全体の90%を占める時の細孔径で除した値が実質的に1から1.5までの範囲内にあるミクロ多孔質ガラス膜が好ましい。
【0025】
多孔質体の気孔率も特に制限なく、所望のホイップクリームの特性等に応じて適宜設定することができる。通常は20〜70%、特に45〜60%とすることが望ましい。
【0026】
本発明の製造方法では、多孔質体を介して気体を原料クリーム中に圧入することによりホイップクリームを生成させることができる。
【0027】
用いる気体としては、原料クリームの変質をもたらさない気体であれば特に限定されない。例えば、空気、窒素ガス、炭酸ガス、酸素ガス等のほか、香気ガス(酢酸エチル等)のような常温で液体であっても気化しやすく、芳香性のある物質のガス)等を用いることができる。
【0028】
気体の導入量は、所望のホイップクリームの特性(特に所定のオーバーラン値)等に応じて適宜決定することができる。通常は原料クリームに対して体積比で50〜200%の範囲内で調節すれば良い。
【0029】
気体を導入する際の圧力は、原料クリームの性状等に応じて適宜設定できる。通常は0.1〜5MPaの範囲内とすれば良い。
【0030】
2.ホイップクリームの製造装置
本発明の製造装置は、原料クリームに気体を導入することによりホイップクリームを製造するための装置であって、容器が多孔質体を介して2室に区画されており、一方が原料クリームの収容部をなし、他方が気体の収容部をなしている気体導入手段を含むことを特徴とする。
【0031】
多孔質体は、前記で挙げたものを使用することができる。多孔質体の形状の限定的ない。例えば、平膜状多孔質体を用いる場合は、容器を1つの平膜状多孔質体で区切ることにより2室を設け、その一方を原料クリームの収容部とし、他方を気体の収容部とすれば良い。原料クリームの収容部にある原料クリームは、気体の収容部から平膜状多孔質体を介して気体が導入されることによって、ホイップクリームが製造される。
【0032】
また、例えば、多孔質体として管状多孔質体を用いる場合には、容器中に管状多孔質体を配置し、その多孔質体内部(内側)に気体又は原料クリームのいずかを導入する。一方、管状多孔質体の外部(外側)には原料クリーム又は気体を充填する。その上で気体を管状多孔質体から原料クリームに導入することによってホイップクリームを生成させることができる。管状多孔質体を用いる場合は、管状多孔質体中に気体又は原料クリーム(好ましくは原料クリーム)を流通させることができるので、ホイップクリームを連続的に製造することができる。
【0033】
本発明の装置では、上記の気体導入手段以外は公知のホイップクリームの製造装置の構成部材を採用することができる。例えば、圧入用ポンプ(循環用ポンプ)、配管、ガスボンベ、原料クリームの容器等が挙げられる。
【0034】
本発明の装置の好ましい態様の一例を図1に示す。図1は、気体導入手段における容器が管状多孔質体1を介して2室に区画されており、管状多孔質体の内部が原料クリームの収容部をなし、管状多孔質体の外部が気体の収容部の収容部をなしている。前記容器に原料クリーム供給部3が配管を介して連結されている。配管の途中には圧入用ポンプ4が設けられている。また、前記容器に気体供給部2が配管を介して連結されている。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0036】
実施例1
図1には、本実施例で使用する多孔質ガラス膜(SPGテクノ(株)製,膜厚0.5mm、平均細孔径83μm)を搭載した製造装置の概略図を示す。先ず微細気泡入りホイップクリームを試作するために図1に示すシステムでホイップクリームを生成した。連続相となる濃厚エマルション(原料クリーム)を圧入用ポンプで循環させながら多孔質ガラス膜モジュールで外圧により気体を通過させ、多孔質ガラス膜内腔を通過している原料クリーム中に微細気泡を注入した。
【0037】
なお、比較のため、一般に使われている業務用ミキサーでホイップクリームを生成した。
【0038】
生成したホイップクリームの評価として一般に評価指標とされている以下の方法を用いることとし、その計算値を表1に示す。
(1)ホイップテスト
ホイップクリームの評価は、十分にホイップするまでの時間、そのオーバーラン、組織、保形性、造花性(絞り出したときの花形のキレ、腰等)、離水性について評価した。一般にホイップ性に影響を及ぼす因子は、次のとおりである。
【0039】
a) 低温でホイップするとオーバーランが大となり、ホイップ時間が長くなる。保形成、クリーム肌とも良好になる。
【0040】
b) 高温でホイップするとホイップ時間は短くなるが、オーバーランは低く、腰が弱く肌荒れ傾向となる。
(2)オーバーラン(OR)の測定
ホイップしたクリームを容量200mLの容器に隙間のないように充填し、スリキリの重量を測定し、オーバーランを算出する。一般にオーバーランは90〜160%前後が適当である。
(3)保形性及び離水性の評価
ホイップクリームを絞り出し袋に入れ、アルミトレイ上に絞り出し、35℃の恒温器で15分間保持した後、頂点までの高さの変化を測定し、保形性とする。
【0041】
離水性は保形性と同時に、保持後のトッピング表面及び底部からの水のにじみ状態をみる。評点は離水がないもの(5点)から、非常にあるもの(1点)の5段階で評価した。
【0042】
【表1】

【0043】
実験例1
図1に示す多孔質ガラス膜搭載ホイッピング装置でホイップクリームを生成したときの条件を表2に示す。なお、注入用の気体としては、窒素ガスを用いた。
【0044】
【表2】

【0045】
得られたホイップクリームの粒度分布を図3の(5)に示す。図3には、原料クリームの粒度分布を(6)に示す。粒度の測定は、レーザ回折/散乱法により行った。図3に示すように、生クリームのホイップ化により、上記6の2μmより大きくなり、粒子径が2〜30μmのピークと100μmのピークが認められた。これは、脂肪球粒子どうしが凝集したもの、脂肪球粒子と微細気泡(ナノバブル)が凝集したもの、凝集した脂肪球と微細気泡(ナノバブル)がさらに凝集したもののいずれかによるものと推察される。また、粒径が0.7〜0.8μm付近のピークは、これに相当する粒径の微細気泡(ナノバブル)と推察される。
【0046】

実験例2
実験例1における業務用ミキサーによるホイップクリーム(条件1)と多孔質ガラス膜でホイッピングして得られたホイップクリーム(条件2)のオーバーラン(OR)物性を評価した。その結果を表3に示す。ここでアルミカップ(容量200mL)のスリキリ重量からオーバーランを計算した。
【0047】
【表3】

【0048】
表3の結果より、氷冷させながらホイッピングした条件2(多孔質ガラス膜による微細気泡注入)のホイップクリームのオーバーランは、従来法の業務用ミキサーよりも高い位置を示していることがわかる。
【0049】
実験例3
実験例1における業務用ミキサーによるホイップクリーム(条件1)と多孔質ガラス膜でホイッピングして得られたホイップクリーム(条件2)をそれぞれ絞り出し袋でカップに造形し、35℃の恒温器に15分間投入する前後の高さを測定した保形性について表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4に示すように、条件2(多孔質ガラス膜による微細気泡注入)で生成したホイップクリームが保形性及び離水性ともに優れた効果が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のホイップクリームの製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】一般のミキサーによるホイップ中のクリーム物性変化を示す図である。
【図3】原料クリーム(生クリーム)の粒度分布(6)と多孔質ガラス膜を用いて製造されたホイップクリームの粒度分布(5)を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 多孔質ガラス膜
2 窒素ガス
3 濃厚エマルション(クリーム)
4 循環ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体の細孔を介して気体を原料クリーム中に注入することによりホイップクリームを製造する方法。
【請求項2】
多孔質体が0.05〜20μmの細孔径を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
多孔質体が多孔質ガラスからなる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
原料クリームがエマルションである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
原料クリームに気体を導入することによりホイップクリームを製造するための装置であって、容器が多孔質体を介して2室に区画されており、一方が原料クリームの収容部をなし、他方が気体の収容部をなしている気体導入手段を含むホイップクリーム製造装置。
【請求項6】
(1)気体導入手段における容器が管状多孔質体を介して2室に区画されており、管状多孔質体の内部が原料クリームの収容部又は気体の収容部をなし、管状多孔質体の外部が気体の収容部又は原料クリームの収容部をなしており、(2)前記容器に原料クリーム供給部が配管を介して連結され、(3)前記容器に気体供給部が配管を介して連結されていることを特徴とする、請求項5に記載の製造装置。
【請求項7】
多孔質体が0.05〜20μmの細孔径を有する、請求項5又は6に記載の製造装置。
【請求項8】
多孔質体が多孔質ガラスからなる、請求項5〜7のいずれかに記載の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−191869(P2006−191869A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7536(P2005−7536)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発委託事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【Fターム(参考)】