説明

ホイップ用クリーム、及び前記ホイップ用クリームを起泡させたホイップクリーム、並びにホイップクリーム用安定剤

【課題】食感に優れている上に、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いホイップクリームを得ることができるホイップ用クリーム、及び前記ホイップ用クリームを起泡させたホイップクリーム、並びにホイップクリーム用安定剤を提供する
【解決手段】ヒアルロン酸を利用することにより、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含むホイップ用クリーム、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含むホイップ用クリームを起泡させたホイップクリーム、ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分とするホイップクリーム用安定剤を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感に優れている上に、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いホイップクリームを得ることができるホイップ用クリーム、及び前記ホイップ用クリームを起泡させたホイップクリーム、並びにホイップクリーム用安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリームはケーキ、パフェ、クレープ、パンのフィリング等に広く用いられているものである。このようなホイップクリームを用いたデザート等は、近年、コンビニエンスストアー等で多様な製品が販売されている。こうした状況下、ホイップクリームとしては、安定性が高いもの、具体的には、造花性(形ノズル付絞り袋等から絞り出して花形等に美しく絞り出すことができ、型崩れしない性質)に優れたもの、及び製造から販売までの時間が経過しても離水が生じないものが要望されている。
【0003】
このようなホイップクリームの安定性に関して、例えば、特開平6−225720号公報(特許文献1)には、ホイップクリームの離水防止を目的としてキサンタンガム、グアーガム、CMC等を、更にクリームの硬さを維持する目的としてメチルセルロース、アラビアガム、λ−カラギナン等を添加することで、ホイップした状態で長期の保存に耐え、しかも良好な造花性を有するホイップクリームが得られることが記載されている。また、特開平9−37715号公報(特許文献2)には、低糖度での離水も少ないホイップクリームとして生クリームに安定剤としてアラビアガムを添加することが記載されている。しかしながら、これら文献に記載されている方法では、造花性や離水防止等の改良効果が充分とは言い難く、また、添加した増粘剤により口溶けが悪くなる傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−225720号公報
【特許文献2】特開平9−37715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、食感に優れている上に、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いホイップクリームを得ることができるホイップ用クリーム、及び前記ホイップ用クリームを起泡させたホイップクリーム、並びにホイップクリーム用安定剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく使用原料等、様々な諸条件について鋭意研究を重ねた結果、ヒアルロン酸及び/又はその塩を添加したホイップ用クリームを起泡させると、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いホイップクリームが得られること、更に、当該ホイップクリームは食感にも優れていることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含むホイップ用クリーム、
(2)、ヒアルロン酸及び/又はその塩の添加量がホイップ用クリームに対して0.001〜2%である(1)記載のホイップ用クリーム、
(3)、脂質含有量がホイップ用クリームに対して25〜35%である(1)又は(2)記載のホイップ用クリーム、
(4)、(1)乃至(3)のいずれかに記載のホイップ用クリームを起泡させたホイップクリーム、
(5)、ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分とするホイップクリーム用安定剤、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、食感に優れている上に、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いホイップクリームを提供することができる。したがって、ホイップクリームを用いた食品、特に、コンビニエンスストアー等で製造後、数時間から数日間保管されるホイップクリームを用いたデザート類の需要拡大に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のホイップ用クリーム、及び前記ホイップ用クリームを起泡させたホイップクリーム、並びにホイップクリーム用安定剤について詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
本発明において、ホイップ用クリームとは、一般的なホイップ用のクリームであればいずれのものでもよく、例えば、生乳のみから作られる生クリーム、植物油脂を主体としそれに粉乳、乳化剤、香料等の副材料を加えて作られる合成クリーム、動植物油脂を混合して作られるコンパウンドクリーム等が挙げられる。
【0011】
本発明のホイップ用クリームは、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含むことを特徴とする。このような本発明のホイップ用クリームは、起泡させることにより、食感に優れ、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いホイップクリームを得ることができる。
【0012】
ここで、前記ヒアルロン酸とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。本発明で使用するヒアルロン酸及び/又はその塩は、特に限定されるものではないが、例えば鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生体組織、あるいはストレプトコッカス属等のヒアルロン酸産生微生物を培養して得られる培養液等を原料として、抽出(更に必要に応じて精製)して得られるものである。
【0013】
ヒアルロン酸及び/又はその塩は、当該粗抽出物あるいは精製物の何れを用いても良いが、精製物、具体的にはヒアルロン酸及び/又はその塩の純度が90%以上のものが好ましい。純度が90%未満の場合は、異味を呈する場合があり、ホイップクリームの風味を損なう恐れがあり好ましくない。
【0014】
ホイップ用クリームへのヒアルロン酸及び/又はその塩の添加量は、0.001〜2%が好ましく、0.005〜1%がより好ましい。ヒアルロン酸及び/又はその塩の添加量が、前記範囲より少ないと、起泡させたホイップクリームにおいて、造花性を改良し離水を低減する本発明の安定性改良効果が得られ難く、一方、添加量が前記範囲より多いと起泡させ難くなる傾向がある。
【0015】
また、本発明の前記ホイップ用クリームは、脂質含有量がホイップ用クリームに対して25〜35%であることが好ましい。脂質含有量が前記範囲であることにより、当該ホイップ用クリームを起泡させた際により造花性に優れ、離水が低減したホイップクリームを得ることができる。なお、脂質含有量が前記範囲よりも低いと起泡させ難くなる。
【0016】
脂質含有量を前記範囲に調整するには、ホイップ用クリームで使用する油脂原料の配合量を増減することにより調整すればよい。なお、油脂原料としては、具体的には、例えば、全乳、生クリーム、バター等の動物油脂原料、菜種油、大豆油、コーン油、パーム油等の植物油脂、あるいは、これらの分別油脂、硬化油脂、エステル交換油脂等であり、これら油脂原料の配合量を増減することによりホイップ用クリームの脂質含有量を前記特定範囲に調整することができる。ここで、脂質含有量は、栄養表示基準(平成15年4月24日厚生省告示第176号)別表第2の第3欄記載の方法に準じて測定することができる。
【0017】
なお、本発明の前記ホイップ用クリームには、上述したヒアルロン酸及び/又はその塩及び油脂原料の他に、従来のホイップ用クリームに使用されている種々の原料を本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して配合することができる。このような原料としては、例えば、脱脂乳等の乳原料、異性化液糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖、水飴、蜂蜜、乳糖、シロップ、オリゴ糖、糖アルコール、デキストリン、サイクロデキストリン、スクラロース、ステビア、アスパルテーム等の甘味料あるいは糖類、乾燥卵黄、乾燥卵白、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン、ポリソルベート等の乳化剤、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、クエン酸、フマル酸、コハク酸等のpH調整剤、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類、鉄、カルシウム、マグネシウム等の各種ミネラル類、香料、着色料及び保存料等が挙げられる。
【0018】
本発明のホイップクリームは、上述したヒアルロン酸及び/又はその塩を含むホイップ用クリームを起泡させたものであり、食感に優れている上に、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いものとなる。このようなホイップクリームは、常法により前記ホイップ用クリームを起泡させることにより得ることができ、具体的には、例えば、ホイッパーや撹拌機等でオーバーランが100〜300%となるように起泡することにより得ることができる。
【0019】
本発明のホイップクリームはケーキ、パフェ、クレープ、パンのフィリング等の種々の食品に使用することができる。特に、チルド保管温度(0〜15℃)に冷却されるチルド品や、フリーザーで急速に冷却される冷凍品等で長期保管される食品に使用した場合であっても食感に優れている上に、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いものとなる。
【0020】
また、本発明のホイップクリーム用安定剤は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分として含有したものである。ヒアルロン酸及び/又はその塩は、上述したように、食感を損なうことなく、ホイップクリームの造花性を改良し離水を低減して安定性を改良する性質を有することから、本発明のホイップクリーム用安定剤をホイップクリームに添加することで、食感に優れ、造花性が良好で離水が低減した安定性の高いホイップクリームを得ることができる。
【0021】
このような本発明のホイップクリーム用安定剤は、有効成分である前述したヒアルロン酸及び/又はその塩を含有したものであればよく、ヒアルロン酸及び/又はその塩の他に本発明の効果を損なわない範囲で、デキストリン、デキストリンアルコール、澱粉等の賦形材や他の品質改良剤等を含有させたものであってもよい。
【0022】
ホイップクリームに対するホイップクリーム用安定剤の添加量は、有効成分であるヒアルロン酸及び/又はその塩の添加量が、ホイップクリームに対して、0.001〜2%であること好ましく、0.005〜1%であることがより好ましい。ヒアルロン酸及び/又はその塩の添加量が、前記範囲より少ないと、造花性を改良し離水を低減する本発明の安定性改良効果が得られ難く、一方、添加量が前記範囲より多いと起泡させ難くなる傾向がある。
【0023】
以下、本発明について、実施例、比較例、並びに試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
ホイップクリーム用安定剤としてヒアルロン酸を添加した下記配合割合のホイップ用クリームを製造した。つまり、ヒアルロン酸、生クリーム及び清水を混合して本発明のホイップ用クリームを製造した。なお、得られたホイップ用クリームは、ホイップ用クリームに対して、ヒアルロン酸添加量が0.8%、脂質含有量が38%である。
【0025】
<配合割合>
ヒアルロン酸 0.8%
生クリーム(脂質含有量45%) 83.5%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0026】
[実施例2]
実施例1において、生クリームを植物性クリーム(脂質含有量40%)に代えた以外は同様にしてヒアルロン酸を含むホイップ用クリームを製造した。なお、得られたホイップ用クリームは、ホイップ用クリームに対して、ヒアルロン酸添加量が0.8%、脂質含有量が33%である。
【0027】
[比較例1]
実施例1において、ヒアルロン酸を配合しない他は同様にしてホイップ用クリームを製造した。
【0028】
[比較例2]
実施例2において、ヒアルロン酸を配合しない他は同様にしてホイップ用クリームを製造した。
【0029】
[試験例1]
実施例1及び2、並びに比較例1及び2のホイップ用クリームを電動ホイッパーでそれぞれオーバーランが200%となるように起泡してホイップクリームを製造した。得られたそれぞれのホイップクリームを形ノズル付絞り袋に入れ、ろ紙上に花形に絞り出し、絞り出してから室温(20℃)で15分保管後及び10℃で24時間保管後の各ホイップクリームの形状、離水及び食感について下記評価基準で評価した。結果を表1に示す。
【0030】
<形状>
A:花形がはっきりしており、大変美しい。
B:花形がややはっきりしており、美しい。
C:花形がややはっきりしていない。
D:花形がはっきりしていない。
<食感>
A:非常になめらかで大変好ましい。
B:なめらかで好ましい。
C:ややなめらかさに欠ける。
D:なめらかさに欠ける。
<離水>
A:ろ紙上に離水が確認できない。
B:ろ紙上に離水が確認できるがわずかである。
C:ろ紙上にはっきりと離水が確認できる。
D:多量の離水がろ紙全体に広がっている。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より、ホイップクリーム用安定剤としてヒアルロン酸を添加した実施例1及び2のホイップクリームは、ヒアルロン酸を添加していない比較例1及び2に比べて食感がなめらかで大変好ましいこと、保管後の花形の形状が美しく造花性が良好であること、保管後の離水が低減されていることが理解される。特に、ヒアルロン酸を添加し、更に、脂質含有量をホイップ用クリームに対して25〜35%とした実施例2のホイップクリームは、花形の形状が大変美しくより造花性が良好であり、また、保管期間が長い場合に離水低減効果が高くより好ましかった。
【0033】
[比較例3]
実施例1において、ヒアルロン酸をキサンタンガムに代えた以外は同様にしてヒアルロン酸を含むホイップ用クリームを製造した。得られたホイップ用クリームを試験例1と同様にして起泡し、形ノズル付絞り袋に入れてろ紙上に花形に絞り出し、15分間室温で保管したところ、やや花形がはっきりしておらず、また、食感がべたついて口溶けが悪く、離水も生じていた。
【0034】
[実施例3]
ホイップクリーム用安定剤としてヒアルロン酸を添加した下記配合割合のホイップ用クリームを製造した。つまり、ヒアルロン酸、砂糖、植物性クリーム及び清水を混合して本発明のホイップ用クリームを製造した。なお、得られたホイップ用クリームは、ホイップ用クリームに対して、ヒアルロン酸添加量が0.05%、脂質含有量が29%である。
【0035】
<配合割合>
ヒアルロン酸 0.05%
砂糖 8%
植物性クリーム(脂質含有量40%) 72%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0036】
[実施例4]
実施例3のホイップ用クリームを電動ホイッパーでオーバーランが200%となるように起泡してホイップクリームを製造した。得られたホイップクリームを、形ノズル付絞り袋に入れてスポンジケーキの上に花形に絞り出した。このケーキを10℃で24時間保管したところ、ホイップクリームは、花形がはっきりして大変美しく、離水も認められず好ましかった。また、食感も大変なめらかで好ましい食感であった。
【0037】
[実施例5]
ホイップクリーム用安定剤としてヒアルロン酸を添加した下記配合割合のホイップ用クリームを製造した。つまり、ヒアルロン酸、チョコレート(加温して溶解したもの)、植物性クリーム及び清水を混合して本発明のホイップ用クリームを製造した。なお、得られたホイップ用クリームは、ホイップ用クリームに対して、ヒアルロン酸添加量が0.01%、脂質含有量が30%である。
【0038】
<配合割合>
ヒアルロン酸 0.01%
チョコレート(脂質含有量34%) 5%
植物性クリーム(脂質含有量40%) 72%
清水 残余
―――――――――――――――――――――――
合計 100%
【0039】
[実施例6]
実施例5のホイップ用クリームを電動ホイッパーでオーバーランが200%となるように起泡してホイップクリームを製造した。得られたホイップクリームを、形ノズル付絞り袋に入れてチョコレートムースケーキの上に花形に絞り出した。このケーキを10℃で24時間保管したところ、ホイップクリームは、花形がはっきりして大変美しく、離水も認められず好ましかった。また、食感も大変なめらかで好ましい食感であった。
【0040】
[実施例7]
実施例2のホイップ用クリームを電動ホイッパーでオーバーランが200%となるように起泡してホイップクリームを製造した。得られたホイップクリームを、形ノズル付絞り袋に入れてスポンジケーキの上に花形に絞り出した。このケーキを急速冷凍し−18℃で30日保管した後10℃の冷蔵庫で1日保管して解凍した。解凍後のホイップクリームは、花形がはっきりして大変美しく、離水も認められず好ましかった。また、食感もなめらかで問題のない程度であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸及び/又はその塩を含むことを特徴とするホイップ用クリーム。
【請求項2】
ヒアルロン酸及び/又はその塩の添加量がホイップ用クリームに対して0.001〜2%である請求項1記載のホイップ用クリーム。
【請求項3】
脂質含有量がホイップ用クリームに対して25〜35%である請求項1又は2記載のホイップ用クリーム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のホイップ用クリームを起泡させたことを特徴とするホイップクリーム。
【請求項5】
ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分とすることを特徴とするホイップクリーム用安定剤。


【公開番号】特開2011−103851(P2011−103851A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265073(P2009−265073)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】