説明

ホイロ済み保存パン生地

【課題】冷蔵又は冷凍による保存を行っても、外観、食感、風味などの優れたパンに焼き上がるホイロ済み保存パン生地の提供を目的とする。
【解決手段】ホイロ済み保存パン生地の製造方法は、一次パン生地から成形された成形パン生地をホイロするホイロ工程と、ホイロを終了したホイロ済みパン生地を冷蔵又は冷凍により保存する保存工程とを含むホイロ済み保存パン生地の製造方法において、前記ホイロ工程前から前記保存工程前までに、液状タンパク質又は液状油脂中に前記成形パン生地を浸漬し取り出して成形パン生地の表面にタンパク質又は油脂の皮膜を形成させる皮膜形成工程を設けた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイロ後のパン生地を冷蔵又は冷凍して保存するホイロ済み保存パン生地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パンの製造は、焼き上がりまでに長時間にわたる連続的な作業を必要とし、店頭で焼き立てパンを供給するためには、早朝からの作業が欠かせない。これは製パン者にとっては大きな問題であった。そこでこの問題を解決する1つの手段として、パン生地を冷蔵又は冷凍して保存する技術が開発されている。かかる保存パン生地は製造工程の合理化を可能とし、焼き立てパンの提供に極めて有効な手段である。また、家庭において保存パン生地を冷蔵庫又は冷凍庫で保管することができれば、家庭用オーブンを用いて手軽に焼き立てパンを味わうことも可能となる。
【0003】
保存パン生地の製法には、玉生地冷凍法、成形冷凍法、板生地冷凍法又はホイロ済み冷凍法といったものがあるが、成形冷凍法及びホイロ済み冷凍法は近年特に注目されている。成形冷凍法はパン生地を解凍した後、ホイロをとるだけでパンを焼き上げることができるため作業性がよいからであり、また、ホイロ済み冷凍法は生地の解凍後ホイロすることも要せず、更に作業性がよくなるからである。
【0004】
しかし、このような保存パン生地は、冷蔵又は冷凍を行うことによる様々な問題が発生している。例えば、成形冷凍法により冷凍保存したパン生地を焼成すると、パン表面に白い水泡状の斑点(フィッシュアイ)が現れるといった問題や、ホイロ済み冷凍法により保存した生地は発酵が十分に進行しているため生地の状態が不安定となり、パンを焼成する際の膨らみ具合すなわち窯伸びが悪く、堅く重いパンが焼き上がるといった問題である。これらの問題を解決すべく、生地表面に何らかの処置を施すことで、問題解決を図ろうというという努力がなされている。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、成形冷凍法に関する技術として、前記フィッシュアイを防止する目的で、パン生地の表面に油脂などの皮膜を形成させ、成形パン生地を冷凍保存する製法が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、ホイロ済み保存パン生地に関し、ホイロ後のパン生地表面に含水液体を塗布した後、冷凍保存する技術が開示されている。これは、パン生地の表面に塗布した液体中の水分が、冷凍時、パン生地の内部より先に凍結して、生地の表面に一種の殻を形成するというもので、その後生地内部の炭酸ガスが温度の低下にともなって収縮しても、生地表面が陥没しにくくなるというものである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−75673号公報
【0008】
【特許文献2】特開昭61−205437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載のパン生地は、成形冷凍法であるためホイロ済み冷凍法と比較して作業性が悪い。
【0010】
また、特許文献2に記載のパン生地は、冷蔵や冷凍による保存を行わないでパンを焼き上げるパンの製法であるスクラッチ法により焼き上げたパンに比較すると、依然として、生地を焼成する際の窯伸びが悪く、固く重いパンが焼き上がるという問題が解消されていない。
【0011】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、冷蔵又は冷凍による保存を行っても、外観、食感、風味などの優れたパンに焼き上がるホイロ済み保存パン生地の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るホイロ済み保存パン生地の製造方法は、一次パン生地から成形された成形パン生地をホイロするホイロ工程と、ホイロを終了したホイロ済みパン生地を冷蔵又は冷凍により保存する保存工程とを含むホイロ済み保存パン生地の製造方法において、前記ホイロ工程前から前記保存工程前までに、液状タンパク質又は液状油脂中に前記成形パン生地を浸漬し取り出して成形パン生地の表面にタンパク質又は油脂の皮膜を形成させる皮膜形成工程を設けた構成にしてある。
【0013】
また、前記構成において、液状油脂は、水分を除去された油脂としたものある。
【0014】
そして、一次パン生地から成形された成形パン生地をホイロするホイロ工程と、ホイロを終了したホイロ済みパン生地を冷蔵又は冷凍により保存する保存工程とを含むホイロ済み保存パン生地の製造方法において、前記ホイロ工程前から前記保存工程前までに、前記成形パン生地を、炭酸ガスを透過させない袋に収容し、該袋内に炭酸ガスを充填して密封する炭酸ガス充填工程を設けたものである。
【0015】
更に、本発明にかかるホイロ済み保存パン生地は、前記各構成の製法により製造されるパン生地である。
【0016】
更に、本発明にかかるパンは、前記ホイロ済み保存パン生地を焼成したパンである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るホイロ済み保存パン生地によれば、成形パン生地の表面にタンパク質又は油脂の皮膜を形成させる皮膜形成工程を、ホイロ工程前であって保存工程の前に設けたので、その後の保存期間中にパン生地表面から炭酸ガスが抜けることを抑止できる。よって、焼成の際、生地内部に閉じこめられたままの炭酸ガスが各々膨張することとなり、焼き上がったパンはキメが細かく、外観、食感、風味などが優れたものとなる。
【0018】
また、液状油脂として水分を除去された油脂を用いる場合は、皮膜が油脂のみにより構成されるので、炭酸ガスが抜け出す余地がなくなる。
【0019】
そして、ホイロ工程前から保存工程前までに、成形パン生地を炭酸ガスを透過させない袋に収容し、該袋内に炭酸ガスを充填して密封する炭酸ガス充填工程を設けたので、該袋内ではパン生地の外側にも炭酸ガスが多量に存在している。よって、発酵により生地内部に多量に発生した炭酸ガスが、その後のホイロ中や保存中に拡散によりパン生地表面から飛散するのを抑止することができる。これにより、本パン生地を解凍し、袋から出して焼成したパンはキメが非常に細かく、外観、食感、風味などが優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の最良の実施形態を以下に説明する。本実施形態に係るホイロ済み保存パン生地は、パン生地の原材料を混捏して一次パン生地を調整する混捏工程と、混捏された一次パン生地を分割し、成形パン生地を成形する成形工程と、この成形パン生地をホイロするホイロ工程と、ホイロを終了したホイロ済みパン生地を冷蔵又は冷凍により保存する保存工程とを含み、更に、前記ホイロ工程前から保存工程前までに、成形パン生地の表面にタンパク質又は油脂の皮膜を形成させる皮膜形成工程を有している。
【0021】
パン生地の調製に用いる原料の種類やその配合割合等は、特に制限されず、パンの種類などに応じて、従来と同様に、小麦粉、水、パン酵母、脱脂粉乳、砂糖、塩、バター、マーガリン、卵などからなるパン生地原料を適宜調製して使用することができる。
【0022】
原料のうち、パン酵母に関しては、通常使用されるパン酵母を用いることができるが、冷蔵又は冷凍による保存をしてもパン酵母が死滅しないという点で、冷蔵耐性又は冷凍耐性を有するパン酵母を用いることが好ましい。このようなパン酵母として例えば、白神こだま酵母(サッカロマイセス・セレビシェ)などが挙げられる。白神こだま酵母は、白神山地より分離された酵母であり、極めて優れた冷凍耐性を有する。
【0023】
冷蔵耐性又は冷凍耐性を有するパン酵母を用いることにより、冷蔵又は冷凍の際にパン酵母が死滅することがなく、焼き上げたパンは十分な窯伸びがある。即ち、例えば、パン生地の冷凍保存を1〜2年といった長期間を行った場合に、冷凍耐性を有するパン酵母は死滅することなく眠った状態にある。そして、保存後の解凍中や焼成中にも微量の発酵を行って炭酸ガスを増加させ、焼き上がったパンをより大きく膨らませ、外観はもとより食感、風味も優れたものとすることができる。これに対し、冷凍耐性を有しないパン酵母を用いた場合には冷凍後1,2日のうちにパン酵母が死滅してしまう。よって、窯伸びが悪くなってパンの体積が小さくなり、食感なども劣ることとなる。
【0024】
混捏工程は一次パン生地を調整できるものであれば特に限定されないが、例えば、全ての原材料を一度に混捏し、それにより得られたパン生地を発酵させる直捏法(ストレート法)、またはパン原材料の一部を混捏発酵させた後に残りの材料を加えて本捏ねする中種法等を用いることができる。
【0025】
通常の混捏時には発酵促進のため、原料として水を加える代わりに所定温度の湯を用いて30℃前後になるよう調節するが、本発明では湯ではなく水を使用して、22℃以上27℃以下で混捏を行うことが好ましい。
【0026】
混捏工程を22℃以下で行う場合には、小麦粉からのグルテンの生成が少量となり、まとまりのある生地に捏ね上げることが非常に困難となるため、混捏工程に長時間を要する。一方、混捏工程を27℃以上で行った場合には、酵母の活動が活発になるため、その後のベンチタイム、ホイロでの生地の発酵が短時間のうちに進行してガスの発生量が過多となり、各々の気泡が合体して気泡数が減少するとともにそれぞれの気泡の径は大きくなる。よって、径の小さな気泡が大量に生地内部に閉じ込められた状態とは異なり、保存パン生地を解凍、焼成する段階でもあまり膨らまず、すなわち窯伸びが悪く、焼きあがったパンはキメの粗い、外観、食感、風味などが劣るものとなる。
【0027】
成形工程では、まず、フロアタイムを温度22℃以上27℃以下、湿度50%以上70%以下の室内において20分以上30分以下にとる。次に生地を分割して丸め、さらにベンチタイムをフロアタイムと同じ範囲の温度及び湿度で40分以上60分以下とる。さらに、軽くガス抜きした生地を最終製品の形状に成形する。
【0028】
ここで、フロアタイムは比較的短時間としてある。これはフロアタイムでの発酵を通常の50%程度に抑え、生地体積の増大を抑えるためである。生地体積が増大すると、後の保存工程において多大な貯蔵及び輸送スペースを要することとなるので、生地体積の増大は少ない方がコスト等がかからない。
【0029】
また、ベンチタイムはフロアタイムとは逆に比較的長時間とした。これは、ベンチタイムが短時間では生地の状態が安定せず、その後に行われる成形の際に生地表面がかさつき、生地の伸びが悪くなり、成形が困難となるためである。
【0030】
ホイロ工程では、成形パン生地を温度22℃以上27℃以下、湿度50%以上70%以下の室内で30分以上60分以下発酵させる。ホイロ工程での発酵は上述のフロアタイムと同様に通常の発酵度合いの50%程度に抑える。フロアタイムでの発酵及び本ホイロ工程での発酵の全体を通して、未だ発酵の全く開始されていない混捏直後の一次パン生地からホイロ後までの体積膨張率は、通常で3倍乃至4倍であるところ、本発明においては約1.2倍以上2.5倍以下程度と低く抑えられる。これにより、保存パン生地の体積を格段に小さくすることができる。
【0031】
ホイロ工程を22℃より低い温度行った場合には適切な程度まで発酵させるのに長時間要することとなり、27℃より高い温度で行った場合には甘み、旨みを引き出すことができず焼成後のパンは風味が劣るものとなる。また、上述した混捏工程と同様に、27℃以上では発酵が短時間のうちに進行するので、生地内部に生じる気泡は径の大きなものとなり、発生した気泡は各々合体して気泡数が減少するとともにそれぞれの気泡の径は大きくなる。よって、径の小さな気泡が大量に生地内部に閉じ込められた状態とは異なり、保存パン生地を解凍、焼成する段階でもあまり膨くらまず、窯伸びが悪く、焼きあがったパンはキメの粗い、外観、食感、風味などが劣るものとなる。
【0032】
保存工程においてはホイロの終了したホイロ済みパン生地を冷蔵又は冷凍して、保存する。冷蔵又は冷凍の速度及びこれらの温度範囲などの条件は特に制限されないが、冷凍を行う際は急速冷凍が好ましい。冷蔵又は冷凍後、冷蔵生地は冷蔵室で、冷凍生地は冷凍室で各々保存する。
【0033】
前記ホイロ工程前から保存工程前までに、皮膜形成工程を有する。本工程は、ホイロの前の工程である成形工程の直後から、保存工程の直前までの間であればいつ行ってもよく、成形工程と保存工程の間にあるホイロ工程の途中のどの段階であっても構わない。
【0034】
皮膜形成工程は、液状タンパク質又は液状油脂中に、成形パン生地を例えば1,2秒といった短時間浸漬して取り出し、生地全体に皮膜を形成した後、生地から滴り落ちる余分な液をペーパータオル等を用いて拭き取ることにより行う。
【0035】
液状タンパク質としては、パン生地の表面に皮膜を形成することができるタンパク質であれば特に限定されないが、例えば卵、ゼラチン、コラーゲン等が挙げられる。ゼラチン又はコラーゲン等の粉末や板状のタンパク質を用いる際は、これらのタンパク質を水等に溶解し液状にして用いる。
【0036】
液状油脂は、常温で液体の油脂であってもよく、常温で固体の油脂を融解したものであってもよい。常温で液体の油脂は例えば菜種油、大豆油、米油、コーン油、綿実油、ヒマワリ油、サフラワー油、ヤシ油、パーム核油、魚油等があげられる。常温で固体の油脂は、例えばパーム油、乳脂、牛脂、豚脂、マーガリン、ショートニング又は前記した常温で液体の油脂の硬化油等があげられる。常温で固体の油脂は、湯煎又電子レンジ加熱などにより融点以上の温度に温めて融解し、液状にした上で用いる。
【0037】
上記した常温で固体の油脂のうち、乳脂、マーガリン等は水分を含有する。このような水分を含有する油脂は水分を除去した後に使用する。水分の除去方法は、例えば、固体油脂を50℃程度といった融点以上の温度に湯煎又電子レンジ加熱などにより温めて融解し、油溶性成分の多い上層と水溶性成分の多い下層に分離した後、冷蔵庫等で10℃以下にて保存する。これらの油脂は融点が30℃〜45℃であるので、油溶性成分の多い上層のみ固化し、水溶性成分の多い下層は液体のまま残る。この固化した上層を取り出し、下層は廃棄する。その際、油溶性成分の多い上層の上面に気泡や比重の軽い不純物が浮かぶ場合があるが、これは除去してもよく、そのまま残して皮膜形成に使用しても構わない。
【0038】
常温で固体の油脂は、22℃以上27℃以下でホイロを行った場合、このような温度は固体油脂の融点より低いので、生地表面に皮膜した油脂が固化して生地の自由な膨張を阻害し、生地体積が大きくなるのを妨げる。これにより、皮膜形成後のパン生地はホイロの途中であっても膨らむことができず、ホイロ及びその後の工程である保存の際の保管スペースが少なくてすむ。このとき、生地内部ではホイロの進行により炭酸ガスが大量に発生し、炭酸ガスの内圧が生地表面にかかった状態となっている。特に、成形工程終了直後に融解固体油脂を用いて皮膜を形成すれば、未だホイロ開始前であるので、生地体積が成形直後からほとんど大きくならない。
【0039】
最後に、保存したパン生地を焼成するが、冷凍保存の場合の解凍方法は、電子レンジを用いるか、冷凍パン生地を室内に放置する等いずれの方法であっても構わない。電子レンジを使用する場合は、例えば、60gの菓子パン1個分で約20秒程度加熱し解凍する。電子レンジを使用することで、短時間のうちに、生地の中心部分まで均一に解凍することができる。焼成はパンの種類に応じた温度、時間で実施すればよいが、例えば、60gの菓子パン1個分の生地なら200℃に予熱したオーブンで約10分程度等を行う。
【0040】
以上のように、前記ホイロ工程前から前記保存工程前までに、液状タンパク質又は液状油脂中に、前記成形パン生地を浸漬し取り出して成形パン生地の表面にタンパク質又は油脂の皮膜を形成させる皮膜形成工程を設けたので、ホイロ工程において大量に発生した炭酸ガスが保存工程で生地表面から抜け出すことを抑止することができる。
【0041】
これに対し、タンパク質又は油脂の皮膜を形成していないホイロ済みのパン生地を冷蔵又は冷凍により保存すると、ホイロ工程で生成した炭酸ガスが生地表面から抜けていき、かかる保存パンを解凍し、焼成したパンはもはや膨らまず、窯伸びもすることなく、固いパンとなる。特に、保存期間が長期に及ぶ程、生地表面から抜ける炭酸ガスの量が多くなり、窯のびしなくなる。
【0042】
また、水分を除去された液状油脂を用いる場合は、皮膜が油脂のみにより構成されるので、炭酸ガスが抜け出す余地がなくなる。これに対し、水分を含む油脂を用いると、このような油脂により形成された皮膜は部分的に水分により構成され、この水分が蒸発した場合にその部分は皮膜の穴となってしまう。よって、この皮膜の穴から炭酸ガスが抜けてしまうのである。
【0043】
さらに、通常よりも低い湿度50%以上70%以下の湿度でホイロするので、パン生地表面の伸びが妨げられ、いわば生地が鎧を着た状態となる。よって、径の小さな気泡が大量に生地内部に閉じ込められたままいわば圧力がかかった状態となるため、冷凍パン生地を解凍、焼成する段階で各々の気泡が短時間のうちに一気に膨らんで発酵が完了する。よって、窯伸びが良く、焼きあがったパンはキメが細かく、外観、食感、風味などが優れ、柔らかく軽いパンが焼きあがることとなる。
【0044】
また、フロアタイム及びホイロを22℃以上27℃以下という比較的低温で行うことで、甘み、旨みを引き出すとともに一次パン生地からホイロ後までの生地の発酵による体積膨張を、通常は3倍乃至4倍であるところ、本発明では約1.2倍以上2.5倍以下程度と低く抑え、保存パン生地体積を小さくできる。よって、ホイロ工程まで終了しているにもかかわらず生地体積は従来ほども大きくなく、保存パン生地体積は焼成後のパン生地の約1/3倍に抑えることが可能であり、貯蔵及び輸送のための多大なスペースは不要となる。
【0045】
当然ながら、ホイロ済み保存パン生地は焼成直前のホイロ済み生地を冷蔵又は冷凍しているので、保存後のホイロは必要でなくなり手間が省ける。よって、例えば冷凍の場合に電子レンジを使用して保存パン生地の解凍及び焼成をすれば、所要時間はわずか10数分から20分程度しかかからず、店舗での必要時に焼きたてパンを提供できる。また、家庭においても、保存パン生地を冷凍室に保管しておけば家庭のオーブンで焼成することで、いつでも手軽に焼き立てパンを味わうことができる。
【0046】
図1は、本実施形態及び従来の製法による成形パン生地をホイロし、冷凍保存する際の生地体積の経時変化の1例を示している。縦軸が成形後のパン生地の体積を示しており、成形直後のパン生地の体積を1としている。横軸は成形後の経過時間を示し、ホイロ、冷凍による保存、解凍、焼成の各工程を示している。尚、この例では、ホイロ時間を50分とし、解凍時間を1分程度、焼成時間を10分としている。
【0047】
実線は、成形直後に固体油脂を融解した液状油脂中に前記成形パン生地を浸漬して取り出したパン生地の例を示す。また、一点鎖線は、固体油脂を融解した液状油脂中にホイロが40%程度進行したところのパン生地を浸漬したパン生地の体積の例を示す。二点鎖線は、液状タンパク質若しくは常温で液体の油脂中に成形後保存前のパン生地を浸漬したパン生地、又は固体油脂を融解した液状油脂中にホイロ終了時点において生地を浸漬したパン生地の例を示す。更に、比較例として、従来の保存パン生地の製法により各工程を行ったパン生地の例を破線で示す。
【0048】
同図により、実線で示すパン生地は、生地表面に形成した、固体油脂を融解した液状油脂による皮膜により、生地の膨張が妨げられて、ホイロ工程、その後の保存工程を通して生地体積が全く大きくならず(図中A〜B)、解凍及び焼成の際一気に体積が膨張し(図中B〜C)、成形直後の生地体積に対して約3倍に膨らむことを示している。また、一点鎖線で示すパン生地は、ホイロが40%程度進行した時点で、固体油脂を融解した液状油脂の皮膜を形成したので(図中D)、かかる皮膜形成後はホイロ工程中であっても生地体積が大きくならず、その後の保存工程中も生地体積が大きくならない(図中D〜E)。そして、解凍、及び焼成の際一気に体積が膨張し(図中E〜C)、実線で示す生地と同じ大きさまで膨らんでいる。
【0049】
更に、2点鎖線は、上記したいずれかの方法によりタンパク質又は油脂の皮膜を形成し、生地体積が成形直後の約2倍程度に大きくなった時点でホイロを完了し(図中F)、その後生地を冷凍保存する。この生地を解凍して焼成すると、焼き上がったパン生地は実線で示す生地と同程度まで膨らむことを示す。
【0050】
これに対し、破線で示す従来の保存パン生地の製法では、窯伸びの不足を補うため、パンの冷蔵又は冷凍による保存を全く行わないスクラッチ法によりパンを焼き上げた時のパンの大きさとなるまで過剰にホイロをする。そして、ホイロ後の冷凍保存中に生地表面から炭酸ガスが抜けてしまうので、解凍、焼成時には、パン生地の体積が解凍前より小さくなっている。よって、重く固いパンとなる。
【0051】
尚、上記の実施形態では、前記成形工程後で前記冷凍工程前に、皮膜形成工程を設けたが、本発明のホイロ済み保存パン生地はそれに限定されるものでなく、成形パン生地を、炭酸ガスを透過させない袋に収容し、該袋内に炭酸ガスを充填して密封する炭酸ガス充填工程を設けてもよい。この場合、該袋内ではパン生地の外側に炭酸ガスが多量に存在しているために、ホイロ中に生地内部に多量に発生した炭酸ガスが、その後の保存期間中に、拡散によりパン生地内部から生地の外側に抜けていくのを抑止することができる。よって、このパン生地を解凍し、袋から出して焼成したパンはキメが非常に細かく、外観、食感、風味などが優れたものとなる。
【0052】
また、パン生地の原材料を混捏し、分割し、成形し、ホイロし、冷蔵又は冷凍により保存するという保存パン生地製造の一連の工程を連続的に行ったが、本発明のホイロ済み保存パン生地はそれに限定されるものでなく、前記一連の工程のいずれかの段階で、既に少なくとも一度、冷蔵又は冷凍を行って、作業を中断したものでもよい。即ち、玉生地の状態、成形の際、板状に伸ばした状態、又は成形後ホイロ前などといったパン製造のいずれかの段階で既に少なくとも1回目の冷蔵又は冷凍を行うことで、パンの製造作業を一時中断し、その後、冷凍保存した場合には解凍し、成形、ホイロ等といった残りの工程を行ったものであってもよい。
【0053】
また、上記では、成形工程により一次パン生地から成形パン生地を得るようにしているが、この成形工程を省略し、外部から入手した出来合いの成形パン生地をホイロ工程に供することも可能である。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例を示す。
強力小麦粉100重量部、砂糖6重量部、塩2重量部、白神こだま酵母5重量部、脱脂粉乳3重量部、油脂6重量部、水66重量部を、表1の実施例欄に示すようにストレート法で23℃で混捏して一次パン生地を得た。得られた一次パン生地は、温度24℃、湿度60%において20分間フロアタイムを行い、生地を分割し、丸め、温度24℃、湿度60%において60分間ベンチタイムを行い、軽くガス抜きして成形した。バターを融解して液状とし、水分を除去した液状油脂中に浸漬し、温度25℃、湿度60%において55分間ホイロし、急速冷凍して保存することにより、ホイロ済み保存パン生地を得た。冷凍庫に一週間保管した後、保存パン生地を電子レンジで1個あたり(約60g)20秒かけて解凍した後200℃のオーブンで10分焼成してパンを製造した。
【0055】
【表1】

【0056】
[比較例1]
比較例1として、皮膜形成工程を行わなかった以外は上記実施例と同様の条件でホイロ済み保存パン生地を得てパンを製造した。
【0057】
[比較例2]
比較例2として、パン生地の冷凍を全く行わず、混捏から焼成までの各工程を連続して行う汎用製法によるパンを得るため、上記実施例と同じ原材料を使用し、表1の比較例2欄に示す各工程、すなわち、29℃で混捏し、フロアタイムを30分とし、ベンチタイムを35分とし、温度35℃、湿度85%において80分ホイロし、ホイロ後に卵を生地表面に塗布し、冷凍を行わなかったこと以外は、実施例と同じ条件でパンを製造した。
【0058】
実施例、比較例1及び比較例2の混捏後、ホイロ後、解凍後、焼成後のパン生地体積及びパン体積を測定した。パン生地体積及びパン体積の測定は、各状態のパン生地又はパンを水を通さないフィルムで包み、浴槽内の水中に細い棒材で押し沈め、沈めた直後の水位の上昇高さを測定し、この高さと浴槽の底面積からパン生地が押しのけた水の体積を算出することにより行った。ホイロ後生地の混捏後生地に対する体積膨張率、及び焼成後のパンのホイロ後生地に対する体積膨張率を算出した。測定結果及び各膨張率を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2より、実施例はホイロ後から焼成後の間の生地体積の膨張率が2.4倍であり、比較例1に示す1.2倍よりもかなり高い膨張率を示した。また、実施例はホイロ後よりも解凍後の方が生地体積が大きくなっているが、比較例1ではホイロ後と解凍後の体積が変化しておらず、焼成後も体積があまり増加していない。即ち、本実施例は成形後パン生地表面に皮膜を形成したために、この皮膜成形後のホイロ工程及び保存工程で生地表面からガスが抜けることがなく、焼成の際の窯伸びが良好であった。
【0061】
また、実施例はホイロ後の体積が、比較例2より小さく抑えられていることがわかる。生地体積の膨張率に関しては、比較例2では混捏後からホイロ後までに3.5倍に膨張したが、実施例では2.1倍と低い膨張率に抑えることができている。一方で、焼成の際に実施例は比較例2よりかなり高い膨張率を示した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態及び従来技術の成形パン生地の生地体積の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次パン生地から成形された成形パン生地をホイロするホイロ工程と、ホイロを終了したホイロ済みパン生地を冷蔵又は冷凍により保存する保存工程とを含むホイロ済み保存パン生地の製造方法において、前記ホイロ工程前から前記保存工程前までに、液状タンパク質又は液状油脂中に前記成形パン生地を浸漬し取り出して成形パン生地の表面にタンパク質又は油脂の皮膜を形成させる皮膜形成工程を設けたことを特徴とするホイロ済み保存パン生地の製造方法。
【請求項2】
液状油脂は、水分を除去された油脂であることを特徴とする請求項1に記載のホイロ済み保存パン生地の製造方法。
【請求項3】
一次パン生地から成形された成形パン生地をホイロするホイロ工程と、ホイロを終了したホイロ済みパン生地を冷蔵又は冷凍により保存する保存工程とを含むホイロ済み保存パン生地の製造方法において、前記ホイロ工程前から前記保存工程前までに、前記成形パン生地を、炭酸ガスを透過させない袋に収容し、該袋内に炭酸ガスを充填して密封する炭酸ガス充填工程を設けたことを特徴とするホイロ済み保存パン生地の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の製法により製造されるホイロ済み保存パン生地。
【請求項5】
請求項4に記載のホイロ済み保存パン生地を焼成したパン。

【図1】
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