説明

ホイールハウスのエアガイド構造

【課題】ホイールハウス内でタイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流によって、ホイールハウス(車体)を上向きに押し上げる力を抑制すること。
【解決手段】タイヤ2の回転に引きずられてタイヤ2の周囲を回転方向に流れる気流の一部10をタイヤ2の後方から導入して、タイヤ2の前方から導出するよう、ホイールハウス3に沿って設けられた空気流路4と、空気流路4内に設けられ、同空気流路4内を流れる気流によって下向き又は斜め前方下向きの力を発生する断面翼形状の揚力発生部材5と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールハウス内を流れる空気によって車体が上向きに押し上げられることを抑制できるホイールハウスのエアガイド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている発明では、タイヤの前方にスパッツを設けて、車両走行時の走行風がタイヤに直接当たることや、走行風がホイールハウス内に流入することを抑制している。また、特許文献2に開示されている発明では、走行風を取り込む通風路をホイールハウスに沿って設けて、走行風がホイールハウス内に流入することを抑制している。これらの文献に開示された発明は、走行風がホイールハウス内に流入することを抑制することで車両の空力特性の向上を図っている。
【0003】
特許文献3には、ホイールハウス内でタイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流と、タイヤの前方からホイールハウス内に流入する走行風との合流ポイントの圧力を低減するための発明が開示されている。この発明では、当該合流ポイントに排気通路を設け、ホイールハウス内の圧力を低下させることにより、車両の空力特性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−278856号公報
【特許文献2】特開2010−47231号公報
【特許文献3】特開平6−227436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ホイールハウス内でタイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流は、ホイールハウス(車体)を上向きに押し上げる力を発生することが知られている。この押し上げ力は、タイヤの接地圧を減少させ、操舵感および操縦安定性を悪化させるので、できるだけ小さくすることが望ましい。しかし、特許文献1〜3などには、ホイールハウス内に入る走行風を抑制したり、ホイールハウス内の圧力を低下させる技術は開示されていても、ホイールハウスを上向きに押し上げる力を抑制する技術については、提案されていない。
【0006】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、ホイールハウス内でタイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流によって、ホイールハウス(車体)を上向きに押し上げる力を抑制できるホイールハウスのエアガイド構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のホイールハウスのエアガイド構造は、タイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流の一部をタイヤの後方から導入して、タイヤの前方から導出するよう、ホイールハウスに沿って設けられた空気流路と、前記空気流路内に設けられ、同空気流路内を流れる気流によって下向き又は斜め前方下向きの力を発生する断面翼形状の揚力発生部材と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
かかる構成を備えるホイールハウスのエアガイド構造によれば、タイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流の一部が空気流路内を流れ、空気流路内に設けられた揚力発生部材によって下向き又は斜め前方下向きの揚力を発生させる。そして、この揚力とホイールハウス(車体)を上向きに押し上げる力の一部または全部が相殺され、さらに走行時の空気抵抗も低減することができる。
【0009】
上記ホイールハウスのエアガイド構造は、前記空気流路の途中部とエンジンルーム内とを連通した連通路を備えたものであってもよい。
【0010】
かかる構成を備えるホイールハウスのエアガイド構造によれば、前記途中部より下流側で気流の流速を増加させることができ、当該下流側に設けられている揚力発生部材の揚力を増加させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のホイールハウスのエアガイド構造によれば、タイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流によってホイールハウスを上向きに押し上げる力と走行時の空気抵抗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るホイールハウスのエアガイド構造を示す図であって、タイヤ周囲を示す車両の左側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。但し、タイヤは断面図とせずに2点鎖線で外形のみを示している。
【図3】本発明の実施形態に係るホイールハウスのエアガイド構造を示す図であって、エアダクトを切断して表した部分断面図である。
【図4】揚力発生部材5の断面形状の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るホイールハウスのエアガイド構造について図面を参照しながら説明する。図1〜図3に示すように、本実施形態に係るホイールハウスのエアガイド構造1は、車両走行時のタイヤ2の回転に引きずられてタイヤ2の周囲を回転方向に流れる気流によって、ホイールハウス(車体)3を上向きに押し上げる力が発生することを抑制するためのものである。
【0014】
そのために、ホイールハウスのエアガイド構造1は、ホイールハウス3に沿って設けられた空気流路4と、この空気流路4内に設けられた複数の揚力発生部材5と、空気流路の途中部とエンジンルーム内とを連通した連通路6とを備えている。
【0015】
空気流路4は、ホイールハウスの内周面に沿って配設されたエアダクト41内に形成されている。エアダクト41の一端側の開口部41aは、タイヤ2の後方に配置され、回転に引きずられてタイヤ2の周囲を回転方向に流れる気流が導入されるように、略下向きに開口している。この開口部41aから導入された気流は、略円弧状に配設されたエアダクト41内をタイヤ2の回転方向と同じ方向に流れ、タイヤ2の前方に配置されたエアダクト41の他端側の開口部41bから導出される。この他端側の開口部41bも略下向きに開口しているため、導出される気流も略下向きに排出される。
【0016】
揚力発生部材5は、空気流路4内を流れる気流によって下向き又は斜め前方下向きの力を発生するように、その断面が形成されている。揚力発生部材5は、図3に示すように、断面が翼形状となっており、各揚力発生部材51〜57は、それぞれ同図の破線矢印LFが指す方向に揚力を発生させる。
【0017】
図4(a)は、揚力発生部材5の断面形状の一例を示している。この揚力発生部材5の断面形状は、一方の面5aが緩やかなカーブを形成し、他方の面5bが平らなラインを形成している。一方の面5aの方がカーブを形成している分だけ他方の面5bより流路が長く、一方の面5aに沿って流れる気流の速度は比較的速くなる。周知のとおり、比較的気流の速度が速い一方の面5aの方が比較的気流の速度が遅い他方の面5bより圧力が低くなるため、当該揚力発生部材5には、図中矢印8に示すように、他方の面5bから一方の面5aに向かう方向の力、いわゆる揚力、が発生する。
【0018】
図4(b)は、揚力発生部材5の断面形状の他の一例を示している。この揚力発生部材5の断面形状も、一方の面5aがカーブを形成し、他方の面5bが平らなラインを形成している。但し、一方の面5aは、気流の上流側(図中左側)で比較的緩やかなカーブを形成し、気流の下流側(図中右側)で比較的急なカーブを描いている。この場合、一方の面5aにおいては、気流の上流側よりも下流側の方が気流の速度が速くなり、より圧力が低くなるため、揚力発生部材5には、図中矢印9に示すように、他方の面5bから一方の面5aの下流側に向かう方向の力(揚力)が発生する。
【0019】
本実施形態では、上記した揚力発生部材5の断面形状と揚力発生方向との関係に基づき、空気流路4内の揚力発生部材51〜57が下向き又は斜め前方下向きの力を発生するように、それぞれ断面形状を設定している。例えば、ホイールハウス3の前後方向中央位置より後ろ側に配設された揚力発生部材51〜53は、斜め前方下向きの揚力を発生するように断面形状が設定されている。また例えば、ホイールハウス3の前後方向中央位置に配設された揚力発生部材54は真下向きの揚力を発生するように断面形状が設定されている。また例えば、ホイールハウス3の前後方向中央位置より後ろ側に配設された揚力発生部材55は、真下向きの揚力を発生するように断面形状が設定され、揚力発生部材56,57は、斜め前方下向きの揚力を発生するように断面形状が設定されている。
【0020】
上記ホイールハウスのエアガイド構造1を備える車両が走行しているとき、図1および図3の矢印10に示すように、タイヤ2の回転に引きずられてタイヤ2の周囲を回転方向に流れる気流の一部がエアダクト41の開口部41aからエアダクト41内の空気流路4に導入される。導入された気流は空気流路4内に設けられた揚力発生部材51〜57を通過し、各揚力発生部材51〜57において、破線矢印LFに示す方向への揚力が発生する。これらの揚力は車両に対して前方および下方への力を与える。タイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流のうち、エアダクト41内に導入されなかった気流は、図3の矢印11に示すように、ホイールハウス3内を流れてホイールハウス(車体)に上向きの押し上げ力を発生させるが、この押し上げ力の一部又は全部は、揚力発生部材5において発生する下向きの揚力および斜め前方下向きの揚力の下向き成分と相殺されて抑制される。その結果、走行風によるタイヤの接地圧の減少を抑制でき、操舵感および操縦安定性の悪化も抑制できる。
【0021】
空気流路4の途中部とエンジンルーム内とが連通路6によって連通されているため、空気流路4内に気流が流れると、エンジンルームからエンジンルーム内よりも低圧となる空気流路4へ空気が流れる。これにより、エンジンルーム内の熱気が連通路6および空気流路4を通じて外に排出され、エンジンルーム内の温度を低下させることができる。
【0022】
また、エンジンルーム内の空気が連通路6を通じて空気流路4内に流れ込むことで、空気流路4では、上記途中部より下流側で気流の流速が増加し、当該下流側に設けられている揚力発生部材54〜57の揚力を増加させることができる。
【0023】
また、本実施形態に係るホイールハウスのエアガイド構造1によれば、揚力発生部材5に発生する斜め前方下向きの力の分力が車両を前方に押すため、走行風による車両の走行抵抗(車両を後ろ向きに押す力)を低減させることができる。
【0024】
また、本実施形態に係るホイールハウスのエアガイド構造1によれば、エアダクトの開口部41bから略下向きに空気が排出されるが、この排出される空気が車両の床下に入り込んだ走行風Wと衝突し、当該走行風Wを下または車幅方向に押し避け、ホイールハウス内に入り込むことを抑制する。つまり、エアダクトの開口部41bから略下向きに排出される空気が従来例に挙げたスパッツとして機能し、車両全体の空力特性を向上させることができる。
【0025】
既述の実施形態では、空気流路4内に揚力発生部材5を7カ所に設けていたが、揚力発生部材5を設ける箇所はこれより多くても少なくてもよい。例えば、揚力発生部材5は、頂部に設けた揚力発生部材54のみであってもよい。
【0026】
既述の実施形態では、連通路6が空気流路4と合流する位置は、頂部に設けた揚力発生部材54の上流側で、かつ、この揚力発生部材54の上流側隣に設けられた揚力発生部53の下流側に設定されているが、合流位置はこの位置に限定されない。例えば、連通路6が空気流路4と合流する位置は、全ての揚力発生部材5よりも上流側としてもよい。この場合、既述の流速増加効果によって、全ての揚力発生部材5が発生する揚力を増加させることができる。また例えば、連通路6が空気流路4と合流する位置は、全ての揚力発生部材5よりも下流側に設けてもよい。この場合、揚力発生部材5が発生する揚力を増加させることはできないものの、エアダクトの開口部41bから略下向きに排出する空気の流速を増すことができ、排出気流をより効率的にスパッツとして機能させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、例えば、自動車のホイールハウス内の構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 ホイールハウスのエアガイド構造
2 タイヤ
3 ホイールハウス
4 空気流路
5 揚力発生部材
6 連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの回転に引きずられてタイヤの周囲を回転方向に流れる気流の一部をタイヤの後方から導入して、タイヤの前方から導出するよう、ホイールハウスに沿って設けられた空気流路と、
前記空気流路内に設けられ、同空気流路内を流れる気流によって下向き又は斜め前方下向きの力を発生する断面翼形状の揚力発生部材と、
を備えたことを特徴とするホイールハウスのエアガイド構造。
【請求項2】
請求項1に記載のホイールハウスのエアガイド構造において、
前記空気流路の途中部とエンジンルーム内とを連通した連通路を備えたことを特徴とするホイールハウスのエアガイド構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112145(P2013−112145A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259746(P2011−259746)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】