説明

ホウ化物粒子とその製造方法、および当該ホウ化物粒子を用いたホウ化物微粒子分散液並びに日射遮蔽体

【課題】日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液を製造する際、ホウ化物粒子と各種溶媒とを混合したスラリーをビーズとともに媒体攪拌ミルに投入して、分散処理するための分散時間を短縮することを可能にするホウ化物粒子と、その製造方法、および当該ホウ化物粒子を用いたホウ化物微粒子分散液並びに日射遮蔽体を提供する。
【解決手段】当該ホウ化物粒子を一般式XB(但し、Xは、アルカリ土類元素、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれた金属元素、4≦m≦6.3)で表現するとき、当該ホウ化物粒子中へ、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の金属元素)を含有させることで当該ホウ化物粒子を脆化させて、分散処理するための分散時間を短縮した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ化物粒子とその製造方法、および当該ホウ化物粒子を用いた日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液並びに日射遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光や電球などの外部光源から熱成分を除去・減少する方法として、従来、ガラス表面へ赤外線を反射する材料からなる被膜を形成して、当該ガラスを熱線反射ガラスとすることが行われていた。そして、当該赤外線を反射する材料には、FeOx、CoOx、CrOx、TiOx等の金属酸化物や、Ag、Au、Cu、Ni、Alなどの金属材料が選択されてきた。
【0003】
しかし、これらの材料には、熱効果に大きく寄与する赤外線以外に、可視光も同時に反射または吸収する性質がある。このため、当該ガラスを熱線反射ガラスとして窓材等に用いると、可視光透過率が低下してしまう問題があった。特に、建材、乗り物、電話ボックスなどに用いられる基材には、可視光領域において高い透過率が必要とされることから、熱成分を除去・減少する膜として上記金属酸化物等の材料を用いる場合、その膜厚を非常に薄くしなければならなかった。このため、スプレー焼付法、CVD法等の化学成膜法、または、スパッタ法、真空蒸着法等の物理成膜法を用いて、薄膜の膜厚を10nmレベルのとして成膜して用いる方法が採られている。
【0004】
しかし、これらの成膜方法は大がかりな装置や真空設備を必要とし、生産性や大面積化に難点があり、日射遮蔽膜の製造コストが高くなる欠点がある。また、これらの材料で日射遮蔽特性を高くしようとすると、可視光領域の反射率も同時に高くなってしまう傾向があり、鏡のようなギラギラした外観を与えて、美観を損ねてしまう欠点もあった。更に、これらの材料で成膜された膜は電気抵抗値が比較的低くなって、電波に対する反射が高くなり、例えば携帯電話やテレビ、ラジオなどの電波を反射して受信不能になったり、周辺地域に電波障害を引き起こすなどの欠点もあった。
【0005】
上述のような欠点を改善するため、日射遮蔽膜の物理特性として、可視光領域の光の反射率が低くて赤外線領域の反射率が高く、かつ膜の表面抵抗値が概ね10Ω/□以上に制御可能である必要があった。ここで、可視光透過率が高く、しかも優れた日射遮蔽機能を持つ材料として、アンチモン錫酸化物(以下、ATOと略す場合がある。)や、インジウム錫酸化物(以下、ITOと略す場合がある。)が知られている。これらの材料は、可視光反射率が比較的低いためギラギラした外観を与えることはない。しかし、これらの材料は、プラズマ周波数が近赤外線領域にあるために、当該近赤外域より可視光に近い領域にある熱線に対して反射・吸収効果が未だ十分でなかった。更に、これらの材料は、単位重量当たりの日射遮蔽力が低いため、高遮蔽機能を得るには、使用量を多くする必要があり原料コストが割高となるという問題を有していた。
【0006】
そこで、本出願人は、先に、日射遮蔽成分として六ホウ化物粒子を用いた日射遮蔽体用ホウ化物微粒子分散液、及びこれを用いた日射遮蔽体を発明し、特許文献1として開示した。
六ホウ化物粒子は、製造条件により灰黒色、茶黒色、緑黒色などに着色した粉体であるが、粉体の粒子径を可視光波長に比べて十分小さくし、中間膜中あるいは日射遮蔽体中に均一に分散すると、赤外光遮蔽能を十分強く保持させながら可視光透過性を確保することができる。
この理由は、詳細には判明していないが、これら六ホウ化物は、粒子中の自由電子の量が多く、微粒子内部および表面の自由電子によるバンド間間接遷移の吸収エネルギーが、丁度可視〜近赤外領域の付近にあるために、この波長領域の熱線が選択的に反射・吸収されるものと考えられる。
【0007】
実験によれば、六ホウ化物粒子の比表面積を10m/g以上とし、かつ溶媒中に均一に分散した膜は、光の透過率が波長400nm〜700nmの間に極大値を持ち、また波長700nm〜1800nmの間に極小値を持ち、さらにこれらの透過率の極大値と極小値の差が15ポイント以上であることが観察された。すなわち、可視光波長が380nm〜780nmであり、視感度が550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、当該膜において、可視光は有効に反射もしくは吸収される。
【0008】
さらに加えて、六ホウ化物粒子の単位重量当たりの日射遮蔽能力は非常に高く、例えば、ITO微粒子、ATO微粒子と比較して、10分の1以下の使用量でその効果を発揮する。また、六ホウ化物微粒子と、ITO微粒子および/またはATO微粒子とを併用することによって、一定の可視光透過率を保ちながら日射遮蔽特性のみをさらに向上させることができることも判明した。この結果、日射遮蔽体粒子の使用総量の削減、および生産コストの削減ができる。
さらに加えて、六ホウ化物粒子は可視光領域にも吸収を有するため、日射遮蔽体への添加量を制御することにより、その日射遮蔽体の可視光領域の吸収を自由に制御することができ、明るさ調整やプライバシー保護などの付加機能を持たせることも可能となる。
【0009】
ここでホウ化物粒子の製造法として、例えば、非特許文献1、非特許文献2が提案されている。これら文献には、LaのBC(ボロンカーバイト)還元法による、ホウ化物粒子の一種であるLaBの工業的製造方法について記載されている。これら文献に記載された方法は、LaBを安価に製造できる方法ではあるが、焼成温度が1600℃と高温であることから、得られるLaBは粒子が粗大化する。ところが、例えば日射遮蔽の分野に用いるためのホウ化物微粒子は、上述したように、その粒子径が可視光波長に比べて十分小さいことが求められるが、上記の粗大化したホウ化物粒子は、ジェットミル等を用いたメカニカル法による強力な粉砕を行っても微粒子化が非常に困難である。
【0010】
そこで、本出願人は先に、微細化した原料の粒子を焼成し、ホウ化物粒子を製造する際の焼成温度を制御することによって、ホウ化物粒子の粗大化を回避することにより、優れた日射遮蔽機能を発揮する粒子径を有するホウ化物粒子の製造方法を見出し、特許文献2として提示した。
【0011】
また、本出願人は、特許文献3に、日射遮蔽材に適した粒子径を有する一般式XB(但し、Xは、アルカリ土類元素、またはジルコニウム(Zr)、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれた金属元素)で表されるホウ化物微粒子を、低コストで製造する製造方法として、X化合物溶液としてLa(NO6HO水溶液を攪拌しながら、アルカリ溶液としてNHOH溶液を滴下して沈殿を生成させ、この沈殿を洗浄・乾燥してXの水酸化物であるLa水酸化物とし、ここへ、ホウ素を含む化合物としてBとカーボンブラックとを添加して均一混合物とした後に、1500℃未満の温度で焼成処理し、さらに解砕して、日射遮蔽に適したホウ化物微粒子とすることを提示した。
【0012】
【特許文献1】特開2000−169765号公報
【特許文献2】特開2004−277274号公報
【特許文献3】特開2005−1918号公報
【非特許文献1】土井,粉体と工業,21(5)1989.
【非特許文献2】機能材料,15(6)1995.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、本発明者らの検討によれば、上述の方法により得られたホウ化物粒子と各種溶媒とを混合したスラリーをビーズとともに媒体攪拌ミルに投入し、日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液を製造する場合、所望の分散粒子径にするまでに要する分散処理のために、長時間を要することに想到した。そして、当該分散処理に長時間を要するままでは、当該ホウ化物粒子を用いた日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液や日射遮蔽体の生産コストを下げることが困難であるという問題点にも想到した。
【0014】
本発明はこの様な問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、ホウ化物粒子が各種溶媒に分散処理するための分散時間を短縮することを可能にするホウ化物粒子と、その製造方法、および当該ホウ化物粒子を用いたホウ化物微粒子分散液並びに日射遮蔽体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を継続した結果、ホウ化物粒子の原料へ予め所定の元素を添加しておくことで、焼成して得られるホウ化物が脆化し、粉砕、分散処理されるときの処理時間が大幅に短縮されることに想到し、本発明を完成したものである。
【0016】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
一般式XB(但し、Xは、アルカリ土類元素、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれた金属元素、Bはホウ素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物粒子であって、
A(但し、Aは、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の金属元素)を含み、
当該ホウ化物粒子中におけるXの原子数をN、Aの原子数をNとしたとき、0.0001≦N/(N+N)≦0.5であることを特徴とするホウ化物粒子である。
【0017】
第2の発明は、
第1の発明に記載のホウ化物粒子の微粒子が溶媒中に分散していることを特徴とする日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液である。
【0018】
第3の発明は、
前記ホウ化物の微粒子の平均分散粒子径が800nm以下であることを特徴とする第2の発明に記載の日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液である。
【0019】
第4の発明は、
前記ホウ化物の微粒子の平均分散粒子径が100nm以下であることを特徴とする第2の発明に記載の日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液である。
【0020】
第5の発明は、
第1の発明に記載のホウ化物粒子を含み、当該ホウ化物粒子は平均分散粒子径が800nm以下のホウ化物微粒子であることを特徴とする日射遮蔽体である。
【0021】
第6の発明は、
A(但し、Aは、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の金属元素)を含み、一般式XB(但し、Xは、アルカリ土類元素、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれた金属元素、Bはホウ素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物粒子の製造方法であって、
Aを含む化合物とXを含む化合物との溶液と、アルカリ溶液とを、攪拌しながら反応させて沈殿物を得る工程と、
前記沈殿物を乾燥して、AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子を得る工程と、
前記AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子を熱処理して、前記AとXとの酸化物の粒子を得る工程と、
前記AとXとの酸化物の粒子と、B4C(但し、Cは炭素)の粒子とを混合し、前記AとXとの酸化物の粒子と、B4Cの粒子との混合物を得る工程と、
前記混合物を、真空または不活性ガス雰囲気下において1600℃未満で熱処理して、Aを含む一般式XBで表されるホウ化物粒子を得る工程と、を具備することを特徴とするホウ化物粒子の製造方法である。
【0022】
第7の発明は、
A(但し、Aは、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の金属元素)を含み、一般式XB(但し、Xは、アルカリ土類元素、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれた金属元素、Bはホウ素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物粒子の製造方法であって、
Aを含む化合物と、Xを含む化合物との溶液と、アルカリ溶液とを、攪拌しながら反応させて沈殿物を得る工程と、
前記沈殿物を乾燥して、AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子を得る工程と、
前記AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子と、B4C(但し、Cは炭素)の粒子と、を混合し、前記AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子と、B4Cの粒子との混合物を得る工程と、
前記混合物を、真空または不活性ガス雰囲気下において1600℃未満で熱処理して、Aを含む一般式XBで表されるホウ化物粒子を得る工程と、を具備することを特徴とするホウ化物粒子の製造方法である。
【0023】
第8の発明は、
第6または第7の発明に記載のホウ化物粒子の製造方法であって、
前記Xの水酸化物粒子および/または水和物粒子、または、前記Xの酸化物の粒子と、B4Cの粒子とを混合し、当該混合物中のX元素の原子数をN、B元素の原子数をNとしたとき、4≦N/N≦6.3であることを特徴とするホウ化物粒子の製造方法である。
【0024】
第9の発明は、
第6または第7の発明に記載のホウ化物粒子の製造方法であって、
前記Xの水酸化物粒子および/または水和物粒子、または、前記Xの酸化物の粒子と、B4Cの粒子とを混合し、当該混合物中のX元素の原子数をN、B元素の原子数をNとしたとき、5.8<N/N<6.2であることを特徴とするホウ化物粒子の製造方法である。
【0025】
第10の発明は、
第6から第9の発明のいずれかに記載のホウ化物粒子の製造方法であって、
平均粒径が0.1μm以下である前記Xの水酸化物粒子および/または水和物粒子、または、平均粒子径が20μm以下である前記Xの酸化物の粒子と、平均粒子径が60μm以下である前記BCの粒子と、を混合することを特徴とするホウ化物粒子の製造方法である。
【0026】
第11の発明は、
第6から第10の発明のいずれかに記載のホウ化物粒子の製造方法で得られるホウ化物粒子を、ジェット気流中で相互に衝突させて粉砕することを特徴とするホウ化物粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
第1の発明に記載のホウ化物粒子は、A元素の効果によりホウ化物が脆化しているので、粉砕、分散処理するときの処理時間が大幅に短縮され、日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液を高い生産効率をもって製造できる。
【0028】
第2から第4の発明のいずれかに記載の日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液は、ホウ化物粒子の分散粒子径が800nm以下まで十分細かく、かつ均一に分散しているので、日射遮蔽特性に優れた日射遮蔽体を得ることができる。
【0029】
第5の発明に記載の日射遮蔽体は、含有するホウ化物粒子の平均分散粒子径が800nm以下であるので、光の透過率において波長400〜700nmに極大値を、波長700〜1800nmに極小値をもつ日射遮蔽体が得られる。
【0030】
第6から第11の発明のいずれかに記載のホウ化物粒子の製造方法は、日射遮蔽体として好個な粒子径を有したホウ化物粒子の分散時間が大幅に短縮でき、生産効率を高くできると共に、粗大粒子を低減できることから、ヘイズ値が低く、かつ日射遮蔽特性に優れた日射遮蔽体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
1.本発明に係るホウ化物粒子
本発明に係るホウ化物粒子は一般式XBで表され、例えば、XB、XB、XB12で表記されるホウ化物が挙げられる。そして、日射遮蔽体の材料として用いられるホウ化物粒子としては4≦m≦6.3であることが好ましい。すなわち、ホウ化物粒子としては、上記ホウ化物のうちXB、XBで表記されるホウ化物が主体となっていることが好ましく、さらに一部XB12を含んでいても良い。ここで、mとは、当該ホウ化物粒子を含む粉体を化学分析し、X元素の1原子に対するBの原子数比を示すものである。
【0032】
当該ホウ化物粒子はその表面が酸化していないことが好ましいが、通常得られるものは僅かに酸化していることが多く、また粒子の分散工程で表面の酸化が起こることは、ある程度避けられない。また、当該ホウ化物粒子は、結晶としての完全性が高いほど大きい日射遮蔽効果を発揮するが、結晶性が低くX線回折で極めてブロードな回折ピークを生じるようなものであっても、粒子内部の基本的な結合が、ランタンを初めとするX元素と、ホウ素との結合から成り立っていれば所望の日射遮蔽効果を発現する。
【0033】
後述する製造方法にて製造されたホウ化物粒子を含む粉体は、実際には、XB、XB、XB12等の混合物である。例えば、代表的なホウ化物粒子である六ホウ化物(XB)の場合、当該六ホウ化物試料のX線回折結果から単一相と判断できても、実際には5.8<m<6.2であり、微量ながら他相を含んでいると考えられる。
【0034】
一方、m>4となる場合は、製造されたホウ化物粒子を含む粉体においてXB、XBなどの生成が抑制されている場合である。そして、詳細な理由は不明であるが、当該XB、XBなどの生成が抑制されている場合は、当該ホウ化物粒子の日射遮蔽特性が向上する。一方、m≦6.3となる場合は、ホウ化物粒子以外の粒子である酸化ホウ素粒子が発生することが抑制されている状態である。ここで、酸化ホウ素粒子は吸湿性があるため、ホウ化物粉体中に酸化ホウ素粒子が混入していると、ホウ化物粉体の吸湿性が低下し、日射遮蔽特性の経時劣化が大きくなってしまう。従って、m≦6.3として、酸化ホウ素粒子の発生を抑制することが好ましい。ここで、5.8<m<6.2であると光学特性の観点から、さらに好ましい。
【0035】
さらに本発明に係るホウ化物粒子は、上述した一般式XBで表されるホウ化物粒子と、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種以上の元素であってその低酸化度の酸化物粒子とが混合物として存在していることが好ましい。さらに、当該低酸化度の酸化物粒子は、前記一般式XBで表されるホウ化物粒子の粒界に存在する形で混合されていることが好ましい。
【0036】
これは、低酸化度の酸化物粒子が、前記一般式XBで表されるホウ化物粒子の粒界に存在する形で混合されていることでホウ化物粒子が脆くなり、その結果、当該ホウ化物粒子の粉砕が容易になるからである。
【0037】
この結果、本発明に係るホウ化物粒子を粉砕するには、例えば、ジェット気流中で粒子同士を相互に衝突させて粉砕して、さらに微粒子化すれば良い。このときのジェットミルのタイプは特に限定されるものではなく、公知のものが使用できる。また、ジェットミル条件も特に限定されるものではない。
【0038】
2.本発明に係る日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液
本発明に係る日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液は、本発明に係るホウ化物粒子を溶媒中に混合して得たスラリーを、ビーズと伴に媒体攪拌ミルへ装填して攪拌してさらに粉砕した後、溶媒中に分散したものである。
【0039】
溶媒は、特に限定されるものではなく、日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液の、塗布条件、塗布環境、および、適宜添加される無機バインダーや樹脂バインダー等に合わせて選択すればよい。例えば、溶媒として、水やエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル,エチルエーテル,プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、イソブチルケトンなどのケトン類といった各種の有機溶媒が使用可能である。また、必要に応じて当該日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液へ、酸やアルカリを添加してpH調整を行ってもよい。さらに、当該日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液中におけるホウ化物粒子の分散安定性を一層向上させるためには、各種の界面活性剤、カップリング剤などの添加も勿論可能である。
【0040】
上述したようにホウ化物粒子は、前記低酸化度の酸化物粒子との混合物となっている効果により脆化している。このため、当該ホウ化物粒子をビーズとともに媒体攪拌ミルに投入して粉砕、分散処理するときの処理時間は大幅に短縮され、日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液を高い生産効率をもって製造できる。
【0041】
本発明に係る日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液は、ホウ化物粒子を溶媒中に分散した際のホウ化物粒子の分散状態に特徴がある。当該ホウ化物の粒子径は、日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液の使用目的によって決定することができるが、光学用途に応用する為、透明性を保持させる場合は、800nm以下の粒子径であることが好ましい。当該粒子径が800nmであれば、光を完全に遮蔽することがなく、可視光線領域の視認性を保持し、且つ、効率良く透明性を保持することが出来る。
【0042】
当該日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液において、特に、可視光領域の透明性を重視する場合は、ホウ化物粒子による光の散乱を考慮する必要がある。即ち、透明性を重視したときは、ホウ化物粒子の粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下が良い。粒子径が上記よりも大きいと幾何学散乱もしくはミー散乱によって、400nm〜780nmの可視光線領域の光を散乱し、曇りガラスのようになり、鮮明な透明性を発揮しない。しかし、粒子径が200nm以下であれば、上記散乱が低減しレイリー散乱領域になり、当該レイリー散乱領域においては、散乱光が粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が大きく低減し透明性が向上する。さらに、粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり透明性が増すのでより好ましい。
【0043】
3.本発明に係る日射遮蔽体
上記溶媒中に分散されるホウ化物の微粒子の分散粒子径が800nm以下で、且つ、均一に分散した日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液を用い、例えば、透明基材上に日射遮蔽膜を形成したり、透明基材内部にホウ化物の微粒子を含有させることにより、本発明に係る日射遮蔽体を得ることができる。
【0044】
ここで、分散粒子径とは、溶媒中のホウ化物粒子の凝集粒子径を意味するものであり、市販されている種々の粒度分布計で測定することができる。例えば、ホウ化物微粒子の凝集体の場合、ホウ化物微粒子が当該凝集体の形で、溶媒中に分散して存在する状態の分散液からサンプリングを行い、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS−800を用いて測定することができる。他には、レーザの光散乱を解析することによる装置などを用いることができる。そして、上記ホウ化物粒子の分散粒子径は800nm以下であることが望ましい。これは、 分散粒子径が800nm以下であれば、当該ホウ化物粒子が分散した日射遮蔽体が、単調に透過率の減少した灰色系の膜や成形体(板、シ−トなど)になってしまうのを回避できるからである。また、当該日射遮蔽体に凝集した粗大粒子が多く含まれなければ、当該粗大粒子が光散乱源となり、日射遮蔽体を膜や成形体(板、シ−トなど)としたときに曇り(ヘイズ)が大きくなり、可視光透過率が減少する原因となることを回避できるので好ましい。
【0045】
以上のことから、日射遮蔽体中に分散したホウ化物微粒子の分散粒径が800nm以下で十分細かく、かつ均一に分散していることで、光の透過率において、波長400〜700nmに極大値を、波長700〜1800nmに極小値をもつ日射遮蔽体が得られる。
【0046】
そして、該日射遮蔽体の光の透過率の極大値と極小値との比を(P/B)としたとき、当該(P/B)値が大きいほど日射遮蔽特性が優れている。これは、ホウ化物粒子の透過プロファイルが、波長400nm〜700nmに極大値を、波長700〜1800nmに極小値を持っており、可視光波長域が380nm〜780nmで、視感度が550nm付近をピ−クとする釣鐘型であることを考慮すれば明らかである。すなわち、この透過特性から、可視光は有効に透過し、それ以外の熱線は有効に反射・吸収することが理解される。
【0047】
本発明に係るホウ化物の微粒子、当該微粒子を溶媒中に分散させた日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液、当該日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液から形成される日射遮蔽体へ、さらに紫外線遮蔽機能を付与させるため、無機系の酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウム等の粒子の1種または2種以上や、有機系のベンゾフェノンやベンゾトリアゾール等の1種または2種以上を添加してもよい。
【0048】
また、本発明に係る日射遮蔽体の光の透過率を向上させるため、さらに、ATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛等の透明粒子を混合してもよい。日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液への当該透明粒子の添加量を増すと、波長750nm付近の透過率が増加する一方、近赤外線を遮蔽するため、可視光透過率が高く、且つ、日射遮蔽特性もより高い日射遮蔽体が得られる。
【0049】
また、ATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛等の粒子を分散した分散液に、本発明に係る日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液を逆添加することも出来る。当該逆添加により、ATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛等を含有する膜に着色することができると同時に、その日射遮蔽効果を補助することもできる。例えば、上記LaB(ホウ化ランタン)の膜色は緑色のため、主体となるATOやITO等に対して、ほんの僅か添加するだけで、日射遮蔽効果を補助することができ、ATOやITOの配合量の大幅な減少が可能となり、当該分散液のコストを下げることができる。
【0050】
また、本発明に係る日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液は、当該日射遮蔽体形成の際、焼成等による熱を用いて液体成分を分解するものではなく、化学反応を用いて目的の日射遮蔽体を形成するものでもないため、日射遮蔽特性や機械的特性の安定した日射遮蔽体を形成することができる。さらに、このような優れた日射遮蔽効果を発揮するホウ化物粒子は、無機材料であるので、有機材料と比べて耐候性に優れており、例えば太陽光線(紫外線)の当たる部位に使用しても、色や諸機能の劣化はほとんど生じない。この結果、本発明に係る日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液や日射遮蔽体は、車両、ビル、事務所、一般住宅などの窓、電話ボックス、ショーウィンドー、照明用ランプ、透明ケースなど、単板ガラス、合わせガラス、プラスチックス、その他の日射遮蔽機能を必要とする透明基材などの広汎な分野に用いることができる。
【0051】
4.本発明に係るホウ化物粒子の製造方法
以下、本発明に係るホウ化物粒子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るZn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の元素を含有する一般式XBで表されるホウ化物粒子の製造工程を示すフロー図である。
【0052】
符号1で示されるX化合物とA化合物とを含む溶液において、Xとは、アルカリ土類元素、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれる金属元素である。中でも、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、BaまたはCaを好個に用いることができる。そしてX化合物としては、例えば、Xの硝酸塩、硫酸塩、塩化物等を好個に用いることができる。
【0053】
一方、X化合物とA化合物とを含む溶液において、Aとは、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の金属元素である。Aを含む化合物としては、前記X化合物と同様に、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等を用いることができる。Aを含む化合物の添加量は、特に限定されないが、Xの原子数をN、Aの原子数をNとしたとき、N/(N+N)で表されるX元素とA元素との原子比が0.001以上、0.5以下であることが、ホウ化物粒子の脆化の点から好ましい。
【0054】
符号2で示されるアルカリ溶液は、特に限定されないが、例えば、炭酸水素アンモニウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの各水溶液を好個に用いることができる。また、アルカリ溶液2の濃度は、X化合物の塩が水酸化物となるに必要な化学当量以上、好ましくは当量〜1.5倍過剰量である。この範囲であると、XとAとを含む化合物溶液1と、アルカリ溶液2とが十分に反応すると共に、後工程の洗浄に必要な時間が短時間で済むことから好ましい。
【0055】
ここで、XとAとを含む化合物溶液1と、アルカリ溶液2とを、混合し、継続的攪拌11を行って、両者を中和反応させ沈殿生成12を行う。このときの溶液温度の上限は、特に限定されないが、通常100℃以下とする。一方、溶液温度の下限も特に限定されないが、あまり低く設定すると新たに冷却装置などが必要になり、生産コストの上昇要因となるため、当該装置を要しない温度とすることが好ましい。中和反応の時間は特に限定されないが、生産性の観点から30分未満、好ましくは25分以下とする。中和反応完了後も、系内の均一化を図るために、攪拌を継続しながら沈殿の熟成を行うが、そのときの温度は中和温度と同温度とする。また、攪拌の継続時間は特に限定されないが、生産性の観点から30分以下、好ましくは15分程度、あるいはそれ以下でよい。
【0056】
沈殿生成12により生成した沈殿物を十分に洗浄13し、残余のアルカリ分等を除去する。洗浄方法は、純水によるデカンテ−ションを好個に用いることができる。
洗浄13の完了した沈殿物を乾燥14すると、XとAとを含む水酸化物および/または水和物3の粒子が得られる。乾燥14において、その温度や時間は、特に限定されるものではない。
得られたXとAとを含む水酸化物および/または水和物3の粒子を用いて、このまま後工程に進んでも良いが、このXとAとを含む水酸化物および/または水和物3の粒子を、さらに熱処理15して、XとAとを含む酸化物5としてから後工程に進んでも良い。XとAとを含む水酸化物および/または水和物3の粒子を熱処理15する場合は、生成するXとAとを含む酸化物5の粒子が粗大化するのを回避する観点より、熱処理温度を400℃〜1000℃とし、熱処理時間は30分以上あれば特に限定されないが、生産性の観点から30分〜4時間とすることが好ましい。
【0057】
当該熱処理15により、XとAとを含む水酸化物および/または水和物3は、XとAとを含む酸化物5の粒子と当該粒子が凝集した凝集体とになる。
上述の生産工程を採ることにより、得られたXとAとを含む水酸化物および/または水和物3の粒子径、および、XとAとを含む酸化物5の粒子径を、例えば優れた日射遮蔽機能を発揮するホウ化物微粒子を製造するために、必要とされる範囲のものとすることができる。
得られたXとAとを含む水酸化物および/または水和物3の粒子、または、XとAとを含む酸化物5の粒子と、BCの粒子4とを混合16する。この混合16の際、当該混合物中のX元素の原子数をN、B元素の原子数をNとしたとき、4≦N/N≦6.3、さらに好ましくは、5.8<N/N<6.2、となるように均一に混合する。このとき、BCの粒子4の平均粒子径は、XB、XB等の微粒子生成の観点から、60μm以下、好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下となっていることが好ましい。これは、各原料粉体の粒子径を特定することで、溶媒中での分散粒子径が800nm以下のホウ化物微粒子6を低コストで、容易に製造できるからである。
【0058】
そして、得られた均一混合物を、真空または不活性ガス雰囲気下1600℃未満で熱処理17してAを含有する一般式XB(但し、4≦m≦6.3とする、以下同じ。)で表されるホウ化物粒子6を得る。
XとAとを含む水酸化物および/または水和物3の粒子、または、XとAとを含む酸化物5の粒子と、BCの粒子4との均一混合物を、熱処理17する際の雰囲気は、真空または不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。雰囲気を真空とするなら、真空度はホウ化物微粒子の安定性の観点から高い方が好ましい。また、雰囲気を不活性ガスとするなら、ホウ素の窒化物の生成を回避する観点から窒素以外のガスを用いることが好ましい。
熱処理の温度は1600℃未満とすることが好ましい。1600℃未満であればホウ化物粒子6の粗大化を回避できるからである。また、焼成時間は、ホウ化物微粒子6において、所望の平均粒子径等が得られるよう適宜選択すれば良い。
このようにして本発明に係るホウ化物粒子を得ることが出来る。
【0059】
5.本発明に係るホウ化物粒子分散液の製造方法
上述のようにして得られたホウ化物粒子を用いてホウ化物粒子分散液を製造する方法について説明する。
まず、当該ホウ化物粒子分散液を製造する際に用いる媒体攪拌ミルについて説明する。
媒体攪拌ミルは、球状のビーズと被粉砕物となる粉体のスラリーを粉砕容器に投入し強制的に攪拌させ主にビーズのせん断応力を利用してスラリー中の粒子を粉砕、分散するミルである。尤も、媒体攪拌ミルの攪拌機構は、ビーズのせん断応力がスラリーに効率よく伝達されれば良く、その機構、形状は特に限定されない。
【0060】
当該媒体攪拌ミルに用いるビーズの径は、目的とするスラリーの最終粒子径によって選択することが一般的であるが、好ましくは直径1mm以下のものが良い。直径が1mm以下であると粒子を微細に砕く効率が高いからである。さらに、ビーズの径は小さいほど、粉砕スピードが速く、粉砕されるホウ化物の粒子径も小さくなる。特に、ホウ化物の粒子径を、800nm以下、さらには100nm以下として、微細なホウ化物粒子になるまで粉砕、分散する場合は、直径0.3mm以下のビーズを用いることが好ましい。
【0061】
ビーズ材質は、ホウ化物のように高い硬度を有した被粉砕物を含むスラリーに対しては、不純物の混入を防ぐために、スラリーと同質の材質のビーズを使用することが好ましい。また、一般に市販されているビーズでは、セラミックスビーズが好ましい。具体的には、ZrOビーズや、YSZビーズが挙げられる。これらは、比重が大きく粉砕効率が高く、摩耗が少なく、摩耗した成分も透明であるので粉砕物を光学的用途に使用するのに好ましい。ガラスビーズのように比重の軽いビーズは、ホウ化物のような高硬度材料の粉砕には適さない。
【0062】
また、粉砕、分散する過程で、再凝集等による分散阻害を防止するため、各種分散剤を使用することが好ましい。分散剤は、分子構造中にアルコキシド基を持つ化合物や、アミノ基を持つ化合物や、各種界面活性剤等が用いられる。これらは、粉砕、分散されたホウ化物表面に吸着し、構造障害、もしくは静電気的な反発力を利用して、再凝集を防止するものである。
【0063】
媒体攪拌ミルは、ホウ化物粒子を分散液中に均一に分散する方法であれば特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどが挙げられる。これ等器材を用いた分散処理条件によって、ホウ化物粒子の溶媒中への分散と同時にホウ化物粒子同士の衝突等による微粒子化も進行し、ホウ化物粒子をより微粒子化して分散させることができる(すなわち、粉砕・分散処理される)。
【0064】
6.本発明に係るホウ化物粒子分散体の製造方法
本発明の日射遮蔽体はホウ化物粒子分散体で、上述したように日射遮蔽体形成用分散液を、適宜透明基板上に塗布したり、または、上記日射遮蔽体形成用分散液を樹脂バインダーなどに練り込み、これを板、シ−ト、フィルムに成形することで製造される。
【0065】
ここで、上記日射遮蔽体が、透明基材とこの上に形成された被膜とで構成される場合、日射遮蔽体形成用分散液に含まれる樹脂バインダーまたは無機バインダーは、塗布、硬化後に上記ホウ化物微粒子の基材への密着性を向上させ、さらに膜の硬度を向上させる効果がある。また、このようにして得られた被膜を第1層とし、当該第1層上へ、さらに珪素、ジルコニウム、チタン、またはアルミニウムのいずれか1種以上を含む金属アルコキシド、これら金属アルコキシドの部分加水分解縮重合物を含む被膜を、第2層として被着し、珪素、ジルコニウム、チタン、もしくはアルミニウムのいずれか1種以上を含む酸化物膜を形成することで、ホウ化物粒子を主成分とする被膜の基材に対する結着力や膜の硬度、耐候性を一層向上させることができる。
【0066】
一方、日射遮蔽体形成用分散液が、樹脂バインダーまたは無機バインダーを含まない場合に得られる被膜は、基材上に上記ホウ化物粒子のみが堆積した膜構造になる。当該堆積した膜構造は、このままでも日射遮蔽効果を示すが、この膜上へ、さらに珪素、ジルコニウム、チタン、若しくはアルミニウムのいずれか1種以上を含む金属アルコキシドや、これらの部分加水分解縮重合物などの無機バインダーまたは樹脂バインダーを含む塗布液を塗布し、被膜を形成して多層膜とするとよい。当該構成をとることにより、上記第2層の塗布液成分が、第1層のホウ化物粒子の堆積した間隙を埋めるかたちで成膜されるため、膜のヘイズが低減して可視光透過率が向上し、また微粒子の基材への結着性が向上する。
【0067】
ここで、上記日射遮蔽体形成用分散液を、適宜透明基材上へ塗布して被膜を形成する場合の塗布方法は特に限定されない。例えば、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、ロールコート法、流し塗り法など、分散液を平坦かつ薄く均一に塗布できる方法であればいずれの方法でもよい。
【0068】
また、無機バインダーとして、珪素、ジルコニウム、チタン、または、アルミニウムの金属アルコキシドおよびその加水分解重合物を含む分散液を塗布した後の基材加熱温度は、100℃以上が好ましく、さらに好ましくは分散液中の溶媒の沸点以上で加熱を行うことが望ましい。これは、当該基板加熱温度が100℃以上であれば、100℃未満では塗膜中に含まれるアルコキシドまたはその加水分解重合物の重合反応が完結するので、重合反応の未完物、水および有機溶媒が膜中に残留して、加熱後の膜の可視光透過率が低減するのを回避出来るからである。
【0069】
また、樹脂バインダーを使用した場合は、それぞれの樹脂の硬化方法に従って硬化させればよい。例えば、紫外線硬化樹脂であれば紫外線を適宜照射すればよく、また常温硬化樹脂であれば塗布後そのまま放置しておけばよい。このため、既存の窓ガラスなどへの現場での塗布が可能である。
【0070】
この結果、例えば、透明基材とこの上に形成された被膜とで構成される本発明に係る日射遮蔽体は、ホウ化物粒子が上記被膜内に適度に分散している。この膜内にホウ化物粒子が適度に分散している本発明に係る日射遮蔽体は、膜内を結晶が緻密に埋めた鏡面状表面をもつ物理成膜法による酸化物薄膜に較べて、可視光領域での反射が少なく、ギラギラした外観を呈することが回避できる。さらに本発明に係る日射遮蔽体は、可視域から近赤外域にプラズマ周波数をもつため、これに伴うプラズマ反射が近赤外域で大きくなる。一方、可視光領域の反射をさらに抑制したい場合には、ホウ化物粒子が分散された被膜の上に、SiOやMgF2のような低屈折率の膜を成膜することにより容易に視感反射率1%以下の多層膜を得ることができる。
【0071】
一方、本発明に係るホウ化物粒子を樹脂に練り込む場合、必要に応じて、当該ホウ化物粒子を表面処理剤で被覆し、かつ目的に応じて制御された粒子径を有するホウ化物粒子を、直接樹脂に練り込むことが可能である。また、本発明に係るホウ化物粒子を液体媒質に分散した分散液とし、当該分散液と樹脂とを混合することも可能である。
【0072】
一般的に、本発明に係るホウ化物粒子を樹脂に練り込むとき、当該樹脂を、当該樹脂の融点付近の温度(200〜300℃前後)に加熱し混合する。次に、当該混合後の樹脂をペレット化し、各種の方式でファイルやボードを形成することが可能である。例えば、押し出し成形法、インフレーション成形法、溶液流延法、キャスティング法などにより形成可能である。このときのフィルムやボードの厚さは、使用目的に応じて適宜選定すればよく、樹脂に対するホウ化物の粒子の添加量は、基材の厚さや必要とされる光学特性、機械特性に応じて可変であるが、一般的に樹脂に対して50重量%以下が好ましい。また、練り込む樹脂は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であるが、例えば、PET樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、などが挙げられる。
【0073】
また、本発明に係る日射遮蔽体形成用分散液は、焼成時の熱による液体成分の分解または化学反応を利用して、目的の日射遮蔽体を形成するものではないため、特性の安定した日射遮蔽体を形成することができる。
さらに、本発明に係る日射遮蔽効果を発揮するホウ化物粒子は無機材料であるので、有機材料と比べて耐候性に優れており、例えば、太陽光線(紫外線)の当たる部位に使用しても色や諸機能の劣化はほとんど生じない。
【実施例】
【0074】
以下、本発明について、その実施例を挙げさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
尚、当該実施例および比較例において得られる粒子の分散粒子径は、大塚電子株式会社製のELS−800を用いて測定した。
【0075】
[実施例1]
10%La(NO3)36H2O水溶液12.33kgと10%Zn(NO)6HO水溶液1.01kgとの混合溶液へ、室温で攪拌しながら15%NHOH溶液4.91kgを20分間かけて滴下して沈殿を生成させ、当該滴下完了後さらに10分間攪拌を継続した。
生成した沈殿を収集し、純水を用いたデカンテーションにて洗浄を行い、当該デカンテーションにおける上澄み液の電導度が1mS/cm以下になるまで、これを繰り返した。洗浄後の沈殿を105℃で乾燥した後、大気中にて600℃で1時間焼成し、LaおよびZnの酸化物を得た。当該LaおよびZnの酸化物と、平均粒子径が約22μmのBC粒子とを、La元素とB元素との原子数比が1:6となるよう混合して均一混合物とした。そして、当該均一混合物を、真空雰囲気下(約0.02Pa)1500℃で3時間焼成してZn含有LaB粒子を得た。
得られたZn含有LaB微粒子2重量%と、高分子系分散剤4重量%と、トルエン94重量%とを混合して混合物とし、当該混合物と、0.3mmφZrO2ビ−ズとを、ペイントシェーカーへ装填し、24時間まで粉砕と分散処理を継続して、Zn含有LaB分散液Aを調製した。
【0076】
[実施例2]
La(NO)6HOの替わりにCe(NO)6HOを用い、10%Ce(NO)6HO水溶液12.36kgと、10%Zn(NO)6HO水溶液1.02kgとの混合溶液へ、15%NHOH溶液4.91kgを滴下した以外は、実施例1と同様にしてZn含有CeB分散液Bを得た。
【0077】
[実施例3]
La(NO)6HOの替わりにNd(NO)6HOを用い、10%Nd(NO)6HO水溶液12.47kgと、10%Zn(NO)6HO水溶液1.05kgとの混合溶液へ、15%NHOH溶液4.92kgを滴下した以外は、実施例1と同様にしてZn含有NdB6分散液Cを得た。
【0078】
[実施例4]
Zn(NO)6HOの替わりにIn(NO)6HOを用い、10%In(NO)6HO水溶液0.69kgと、10%La(NO)6HO水溶液12.33kgとの混合溶液へ、15%NHOH溶液4.85kgを滴下した以外は、実施例1と同様にしてIn含有LaB分散液Dを得た。
【0079】
[実施例5]
1500℃で3時間焼成して得られたZn含有LaB粒子を、ジェットミルを使用し、ガス圧0.6MPa/cm、使用空気量0.8m/minの条件で粉砕した以外は、実施例1と同様にしてZn含有LaB分散液Eを調製した。
【0080】
[比較例1]
10%La(NO)6HO水溶液12.32kgに、室温で攪拌しながら15%NHOH溶液4.50kgを20分間かけて滴下して沈殿を生成させた以外は、実施例1と同様にしてLaB分散液Fを調製した。
【0081】
[実施例1〜5、および、比較例1の評価]
実施例1〜5、および、比較例1にて得られた分散液A〜Fにおいて、分散処理時間毎のホウ化物粒子の分散粒径変化の状態を測定し、当該測定結果を表1および図2に示した。
図2は、縦軸にホウ化物粒子の分散粒径を採り、横軸に分散処理時間を採り、実施例1を□でプロットし2点鎖線で結び、実施例2を▽でプロットし太破線で結び、実施例3を+でプロットし1点鎖線で結び、実施例4を△でプロットし細実線で結び、比較例1を●でプロットし太実線で結んだグラフである。
表1および図2の結果から明らかなように、例えば、ホウ化物粒子の分散粒径を100nm以下とするのに要する時間は、実施例1〜5が17時間以内であるのに対して、比較例1は20時間を越える。さらに、ジェットミルを併用した実施例5では、分散処理時間13時間で分散粒子径が100nmとなった。
以上のことから、実施例1〜5に係るホウ化物粒子の分散粒子径は、比較例1に比べ、より短時間の分散処理で微粒子化されることが判明した。
【0082】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係るホウ化物微粒子の製造工程を示すフロ−図である。
【図2】本発明に係るホウ化物における分散処理時間毎の分散粒径変化の状態を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式XB(但し、Xは、アルカリ土類元素、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれた金属元素、Bはホウ素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物粒子であって、
A(但し、Aは、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の金属元素)を含み、
当該ホウ化物粒子中におけるXの原子数をN、Aの原子数をNとしたとき、0.0001≦N/(N+N)≦0.5であることを特徴とするホウ化物粒子。
【請求項2】
請求項1に記載のホウ化物粒子の微粒子が溶媒中に分散していることを特徴とする日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液。
【請求項3】
前記ホウ化物の微粒子の平均分散粒子径が800nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液。
【請求項4】
前記ホウ化物の微粒子の平均分散粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の日射遮蔽体形成用ホウ化物微粒子分散液。
【請求項5】
請求項1に記載のホウ化物粒子を含み、当該ホウ化物粒子は平均分散粒子径が800nm以下のホウ化物微粒子であることを特徴とする日射遮蔽体。
【請求項6】
A(但し、Aは、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の金属元素)を含み、一般式XB(但し、Xは、アルカリ土類元素、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれた金属元素、Bはホウ素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物粒子の製造方法であって、
Aを含む化合物とXを含む化合物との溶液と、アルカリ溶液とを、攪拌しながら反応させて沈殿物を得る工程と、
前記沈殿物を乾燥して、AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子を得る工程と、
前記AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子を熱処理して、前記AとXとの酸化物の粒子を得る工程と、
前記AとXとの酸化物の粒子と、B4C(但し、Cは炭素)の粒子とを混合し、前記AとXとの酸化物の粒子と、B4Cの粒子との混合物を得る工程と、
前記混合物を、真空または不活性ガス雰囲気下において1600℃未満で熱処理して、Aを含む一般式XBで表されるホウ化物粒子を得る工程と、を具備することを特徴とするホウ化物粒子の製造方法。
【請求項7】
A(但し、Aは、Zn、In、Sn、Ga、Ge、Cd、Tl、PbおよびBiから選択される少なくとも1種の金属元素)を含み、一般式XB(但し、Xは、アルカリ土類元素、またはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれた金属元素、Bはホウ素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物粒子の製造方法であって、
Aを含む化合物と、Xを含む化合物との溶液と、アルカリ溶液とを、攪拌しながら反応させて沈殿物を得る工程と、
前記沈殿物を乾燥して、AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子を得る工程と、
前記AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子と、B4C(但し、Cは炭素)の粒子と、を混合し、前記AとXとの、水酸化物粒子および/または水和物粒子と、B4Cの粒子との混合物を得る工程と、
前記混合物を、真空または不活性ガス雰囲気下において1600℃未満で熱処理して、Aを含む一般式XBで表されるホウ化物粒子を得る工程と、を具備することを特徴とするホウ化物粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のホウ化物粒子の製造方法であって、
前記Xの水酸化物粒子および/または水和物粒子、または、前記Xの酸化物の粒子と、B4Cの粒子とを混合し、当該混合物中のX元素の原子数をN、B元素の原子数をNとしたとき、4≦N/N≦6.3であることを特徴とするホウ化物粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項6または7に記載のホウ化物粒子の製造方法であって、
前記Xの水酸化物粒子および/または水和物粒子、または、前記Xの酸化物の粒子と、B4Cの粒子とを混合し、当該混合物中のX元素の原子数をN、B元素の原子数をNとしたとき、5.8<N/N<6.2であることを特徴とするホウ化物粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかに記載のホウ化物粒子の製造方法であって、
平均粒径が0.1μm以下である前記Xの水酸化物粒子および/または水和物粒子、または、平均粒子径が20μm以下である前記Xの酸化物の粒子と、平均粒子径が60μm以下である前記BCの粒子と、を混合することを特徴とするホウ化物粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項6から10のいずれかに記載のホウ化物粒子の製造方法で得られるホウ化物粒子を、ジェット気流中で相互に衝突させて粉砕することを特徴とするホウ化物粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−191368(P2007−191368A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12678(P2006−12678)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】