説明

ホウ素化合物の処理方法及びボラジン化合物の製造法

【課題】反応性の高い、ボラジン化合物製造工程から排出される廃棄物を、安全に無害化処理する。
【解決手段】ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において、排出されるボラジン化合物を含む廃棄物を、酸性条件下で水酸基含有化合物と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン化合物の製造法に関する。ボラジン化合物は、例えば半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層等を形成するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSIにおいては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因になる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられ得る、新たな低誘電材料の開発が所望されている。また層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
このような要望に対して、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。ボラジン環骨格を有するボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率である。その上、形成される被膜は、耐熱性や機械的強度に優れる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−340689号公報明細書
【特許文献2】特開2003−119289号公報明細書 また、ボラジン化合物は、水素化ホウ素アルカリとアミン塩から合成できることが知られている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献3】特開2006−213642号公報明細書ボラジン化合物を工業的に製造する際には廃棄物が生じる。廃棄物の中には例えば、未回収のボラジン化合物、未反応の水素化ホウ素アルカリや中間体等のB−H結合を有している化合物が含まれることがある。これらB−H結合を有する化合物は、反応性が高くそのまま廃棄することができないため、無害化処理が必要である。
【0007】
これまでに、ボラジン化合物を有機溶媒で処理する方法(特許文献4)が公開されている。
【0008】
【特許文献4】特開2008−24679号公報明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ボラジン化合物を工業的に製造する際には廃棄物が生じる。廃棄物の中には例えば、未回収のボラジン化合物、未反応の水素化ホウ素アルカリや中間体等のB−H結合を有している化合物が含まれることがある。これらB−H結合を有する化合物は、反応性が高くそのまま廃棄することができないため、無害化処理が必要である。
【0010】
発明者らはボラジン化合物等のB−H結合を有する化合物の安全な処理方法について検討した結果、上記方法ではボラジン化合物はある程度無害化できるものの、安定な形にまで分解することはできず、無害化処理後も条件によってはさらに水素を発生する危険性があることを見出した。
【0011】
そこで、本発明の目的は、ボラジン化合物を工業的に製造する際に生じる廃棄物を、水素が発生しないような安定な状態にまで効率よく分解する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
少なくともボラジン化合物を含むホウ素化合物含有混合物の処理方法において、酸性条件下で水酸基含有化合物と接触させる工程を含むホウ素化合物の処理方法である。
【0013】
また、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において、排出されるボラジン化合物を含む廃棄物を、酸性条件において水酸基含有化合物と接触させる工程を有するボラジン化合物の製造法でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、ボラジン化合物製造過程で排出される廃棄物などの前記ホウ素化合物を含む混合物を、安全にかつ効率的に無害化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において排出される、B−H結合を有するホウ素化合物を含む廃棄物を処理する方法において、該廃棄物中にボラジン化合物を含む場合について、以下に具体的に説明する。
【0016】
前記ボラジン化合物の製造方法において、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアミン塩とを原料とする反応であり、下記反応式に示すように、ボラジン化合物が生成すると同時に、AXで表される塩と水素が副生する。
【0017】
【化1】

【0018】

ABHで表される水素化ホウ素アルカリにおいて、Aはリチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素カリウムが挙げられる。
【0019】
RNHXで表されるアミン塩において、Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。アルキル基は直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよい。アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、更に好ましくは1個である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これら以外のアルキル基が用いられてもよい。アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)またはモノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)等が挙げられる。
【0020】
ボラジン化合物は、下記式で表される化合物である。
【0021】
【化2】

【0022】
式中、Rは、アミン塩について記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。ボラジン化合物の例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。
【0023】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0024】
用いられうる溶媒としては、特に制限されないが、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、テトラリン、デカリン等の脂環式炭化水素類などが挙げられる。中でも、エーテル類が好ましく用いられる。また上記の溶媒を混合して用いてもよい。
【0025】
反応原料である水素化ホウ素アルカリとアミン塩を溶媒中で反応させることで、ボラジン化合物を合成することができる。水素化ホウ素アルカリとアミン塩との比は、特に限定されないが、アミン塩に対して、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モル倍であることが好ましい。
【0026】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩の反応条件は特に限定されない。反応温度は好ましくは20℃〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100℃〜220℃である。
【0027】
また水素化ホウ素アルカリとアミン塩を一括で反応器に仕込んで反応しても良く、水素化ホウ素アルカリを仕込んだ反応器に、アミン塩を供給しながら反応しても良く、逆にアミン塩を仕込んだ反応器に、水素化ホウ素アルカリを供給しながら反応しても良い。本反応時には、水素が副生するため、水素発生量を制御するために、一方の原料を予め反応器に仕込んでおき、もう一方の原料を供給しながら反応することが好ましい。特にアミン塩を反応器に仕込んでおき、水素化ホウ素アルカリを供給しながら反応することがより好ましい。原料を供給しながら反応する場合には、連続的に供給しても、間欠的に供給しても良い。供給する速度を制御することで、反応温度や水素の発生速度を制御することができる。
【0028】
反応によって得られたボラジン化合物を含む反応液から、精製工程を経て高純度のボラジン化合物を得ることができる。精製工程は、濾過、蒸発、蒸留、再結晶、晶析等公知の方法で実施できる。
【0029】
得られた反応液から蒸留によりボラジン化合物を精製する蒸留装置は、多段式蒸留塔のような回分式(バッチ式)蒸留装置又は連続式蒸留装置が好適である。多段式蒸留塔である場合における蒸留塔の段数は、特に限定されるものではないが、塔頂(最上段)と塔底(最下段)とを除いた段数が2段以上であることが好ましい。このような蒸留塔としては、例えばラシヒリング、ポールリング、インタロックスサドル、ディクソンパッキング、マクマホンパッキング、スルーザーパッキング等の充填物が充填された充填塔;泡鐘トレイ、シーブトレイ、バルブトレイ、多孔板等のトレイ(棚段)を使用した棚段塔等、一般に用いられている蒸留塔が好適である。また、棚段と充填物層とを併せ持つ複合式の蒸留塔も採用することができる。上記の段数とは、棚段塔においては棚段の数を示し、充填塔においては理論段数を示す。上記段数は、好ましくは3〜100段であり、より好ましくは5〜50段である。
【0030】
蒸留塔の構成としては、リボイラ、コンデンサ等を備えた一般的な構成を採用できる。蒸留塔の本数は限定的でなく、1本又は2本以上の蒸留塔が使用できる。
【0031】
蒸留塔における操作圧力は、混合物の組成、加熱源・冷却源の温度等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、副反応の抑制という観点から減圧下で行うことが好ましい。具体的には60kpa以下が好ましく、30kPa以下がより好ましい。また、同様に塔底温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。蒸留塔の塔頂における還流比は限定的ではないが、好ましくは0.1〜50、より好ましくは0.3〜30とすれば良い。その他の操作条件は、公知の蒸留条件に従えば良い。
【0032】
また、回分式の蒸留を行う際に、除去したい軽沸点成分の濃度が低い場合には、蒸留塔を全還流で保持して還流槽に軽沸点成分を濃縮し、還流槽の組成が安定したところで、槽内の液を短時間で抜き出す方式で軽沸点成分を除去してもよい。この操作を複数回繰り返すことで、軽沸点成分をさらに除去することができる。全還流にて保持する時間は、装置によって異なるが、還流槽の液量に対して、2倍の液が塔頂より留出する時間以上に保持することが望ましい。本操作の終了後に、塔底から残存する液を抜き出すか、塔頂から留出させることで、軽沸点成分を低減した液を得ることができる。
【0033】
前述した方法で、ボラジン化合物を製造することができるが、その際に各工程から廃棄物が出ることがある。例えば、反応で生成した固体を分別したもの、蒸留時の初留や後留、蒸留後の塔底液あるいは、ボラジン化合物の製造設備(反応器、蒸留塔、タンク、配管等)や保管設備(容器、タンク、コンテナ等)の洗浄液等が挙げられる。これら廃棄物はホウ素化合物を含む場合があり、ホウ素化合物として、例えばボラジン化合物、原料の水素化ホウ素アルカリ、反応中間体のシクロボラザン類、アミンボラン類等が挙げられる。また前記廃棄物中には、ホウ素化合物以外にも、溶媒や副生成物、あるいは設備の洗浄に使用する溶剤等が含まれていることがある。中でもボラジン化合物を含む廃棄物は、反応性が高く、有害性もあるため、そのまま廃棄することができない。これらの廃棄物は、各種類ごとあるいは各廃棄物を混合してから無害化処理を行う必要がある。
【0034】
以下、本発明にかかる無害化処理について説明する。
本発明は、ボラジン化合物製造過程で排出される少なくともボラジン化合物を含むホウ素化合物含有廃棄物(以下、単に廃棄物と称することがある)を、酸性条件下で水酸基含有化合物と接触させる工程を有する無害化処理を行うものである。
【0035】
ボラジン化合物は、水やアルコール等の水酸基含有化合物と接触すると反応し、水素を発生することが知られている。ボラジン化合物は分子中にB−H結合を3つ有しており、水やアルコール等と接触して分解する場合、ボラジン化合物の最大3モル倍の水素を発生しうる。
【0036】
またボラジン化合物を、水やアルコール類で分解する場合、同時にアミン類をも生じる。生成したアミン類は、一部は水素と共に系外へ除去されるが、一部は液中に残存するため、処理液は塩基性を示す。そのまま水やアルコール等と反応を続けた場合、発生する水素の量は、理論量の6〜7割程度にとどまる。これは、分解生成物中にB−H結合がまだ残存していることを示唆しており、このまま廃棄した場合、他の化合物との接触や加熱等によって、さらに水素を発生させる危険がある。
【0037】
本発明者らは、上記のような問題に対して、ボラジン化合物やその分解生成物を含む廃棄物を酸性条件で水酸基含有化合物と接触させる工程を加えることで、ボラジン化合物の分解を促進し、所定の水素を発生するまで分解を進行させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0038】
本発明における処理の対象は、ボラジン化合物を含むホウ素化合物含有混合物であるが、特にボラジン製造工程から排出される廃棄物の処理に有用である。また特にボラジン化合物は、水やアルコール等の処理では完全分解しないことから、本発明はボラジン化合物が多く含まれる混合物に特に有効であり、ボラジン化合物中のホウ素原子が、該混合物中に含まれる全てのホウ素原子に対して、20%以上の場合に特に効果的である。
【0039】
処理条件を酸性にするためには、処理液に酸性化合物を添加すればよい。酸性化合物としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸のような鉱酸、ギ酸、酢酸等のカルボン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸、イオン交換樹脂やゼオライトのような固体酸が挙げられる。処理液のpHは7未満が好ましく、より好ましくは6.5以下であり、更に好ましくは6.0以下である。
【0040】
水酸基含有化合物とボラジン化合物を接触させた場合、水素と共にアミン類が発生する。一部のアミン類は処理液に溶解しているため、液を酸性とするためには、系内のアミン類を中和する必要がある。従って、処理液を酸性条件にするには、系中のアミン類及び添加する酸性化合物の種類により異なるが、通常0.8当量以上であり、好ましくは0.9当量以上であり、より好ましくは1当量以上である。
【0041】
水酸基含有化合物としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、水が挙げられる。使用する水酸基含有化合物の量は、ボラジン化合物に対して、3モル倍以上が好ましく、より好ましくは4モル倍以上、より一層好ましくは5モル倍以上である。
【0042】
本発明においては、酸性化合物を添加して、液性を酸性にした状態で水酸基含有化合物とボラジン化合物を含む廃棄物を接触させる工程が含まれていれば良い。例えば、廃棄物にまず水酸基含有化合物を接触させて、ボラジン化合物の分解をある程度進行させた後、酸性条件にて水酸基含有化合物と接触させても良く、ボラジン化合物を含む廃棄物を最初から酸性条件にて水酸基含有化合物と接触させてもよい。
【0043】
例えば、まずボラジン化合物を含む廃棄物と水酸基含有化合物を接触させ、水素が発生しなくなるまで処理を実施する。その場合、水素の発生量はボラジン化合物の3モル倍に対して6〜7割程度に留まる。また処理の際に生成するアミン類によって液性は塩基性となる。そこへ、酸性化合物を添加することでさらなる分解を促進することができる。酸性化合物を添加すると、処理液中にはアミン類が存在するため、まずアミン類の中和が起こり、中和が完了した時点で液性が酸性となる。その後、更なる分解が進行して水素が発生し、最終的にはボラジン化合物の3モル倍の水素が発生する。最終的にボラジン化合物はホウ酸とアミン類に分解される。
【0044】
また、ボラジン化合物を含む廃棄物をカルボニル化合物とプロトン性溶媒の混合物と接触させて、カルボニル化合物を還元させながら処理を行った後、酸性条件下で水酸基含有化合物と接触させても良い。
【0045】
処理の方法としては、廃棄物、酸性化合物及び水酸基含有化合物を一度に混合しても良いし、水素の発生速度を制御するために、廃棄物に酸性化合物や水酸基含有化合物を添加しても良いし、酸性化合物や水酸基含有化合物に廃棄物を添加しても良い。
【0046】
酸性化合物が塩酸や硝酸等の場合、水溶液やアルコール溶液の形で、酸性化合物と水酸基含有化合物を同時に接触させることができる。
【0047】
ボラジン化合物を含む廃棄物を酸性条件下で水酸基含有化合物と接触させる際の処理条件は特に限定されない。処理を行う際の液温は0〜200℃が好ましく、10〜150℃がより好ましく、10〜100℃が更に好ましい。0℃以下では、反応速度が遅く、処理が完結しない場合や、完結に時間がかかる場合がある。また200℃以上では、処理液が沸騰したり、発熱や水素の発生が急激に起こったりする恐れがある。処理時には、反応熱による液温の上昇があるため、必要に応じて、液を冷却する操作をしても良い。
【0048】
また、処理により発生する熱を安全に除去するためには、装置の除熱能力に見合った時間当たりの発熱量とするように、廃棄物もしくは水酸基含有化合物を他方へ供給しながら処理すればよい。
【0049】
上記のような条件で無害化処理を行うことで、ボラジン化合物をホウ酸、アミン類、水素に完全に分解することができ、更なる水素の発生が起こらないため、安全に貯蔵や移送が可能となる。
【0050】
製造されたボラジン化合物は、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層などの形成に用いられうる。その際にはボラジン化合物がそのまま用いられてもよいし、ボラジン化合物に改変を加えた化合物が用いられてもよい。ボラジン化合物またはボラジン化合物の誘導体を重合させた重合体を、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層の原料として用いてもよい。以下、「ボラジン化合物」、「ボラジン化合物の誘導体」および「これらに起因する重合体」をまとめて、「ボラジン環含有化合物」と称する。
【0051】
ボラジン環含有化合物を用いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層やハードマスク層を形成する手法としては、例えば、ボラジン環含有化合物を含む溶液状またはスラリー状の組成物を調製し、これを所望の部位に塗布することによって、塗膜を形成する手法や化学気相成長製膜法(CVD法)等が用いられうる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
<参考例1>ボラジン化合物の製造
1.反応
冷却管を備えた反応器を窒素置換した後、アミン塩として乾燥したメチルアミン塩酸塩8.38kg、トリグライム30.0kgを仕込み、150℃まで昇温した。その後、水素化ホウ素アルカリである水素化ホウ素ナトリウム5.25kgとトリグライム22.2kgとの混合物を、7.5時間かけて反応器に供給した。その後、170℃に昇温し2時間保持して反応を完結させた。反応中に生成した水素は還流管にて冷却した後、系外へ除去した。
【0054】
反応液を分析したところ、生成したN,N’,N”−トリメチルボラジンのメチルアミン塩酸塩に対する収率は89モル%であった。
【0055】
2.単蒸留
次にこの反応液を圧力13kPaで単蒸留し、N,N’,N”−トリメチルボラジンが濃縮された留分を得た。反応器に残った蒸留残渣中には、未反応の水素化ホウ素ナトリウム0.54kg、N,N’,N”−トリメチルボラジン0.19kg、シクロボラザン0.09kg、メチルアミンボラン0.07kgが含まれていた他、溶媒のトリグライム54.7kg、副生した塩化ナトリウム7.3kgが含まれていた。
【0056】
3.精製
上記単蒸留で得られたN,N’,N”−トリメチルボラジンが濃縮された留分を精留して、高純度のボラジン化合物を得た。上記留分を、20段のオルダーショウを有する蒸留装置に仕込み、塔頂圧力50mmHg、還流比5で精留を実施した。本留として、N,N’,N”−トリメチルボラジンが99.9%の留分を得た。
<実施例1>
参考例1の精留の際に得られた初留の一部(N,N’,N”−トリメチルボラジンを96質量%含有)15.7gにトリグライム285.1gを混ぜた混合物を調製し、N,N’,N”−トリメチルボラジンの処理を行った。
【0057】
2Lのフラスコに上記混合物を入れ、撹拌しながら50℃に加熱した。そこへ、0.7g/分の速度で水を供給した。供給開始後、すぐに水素が発生した。118gの水を供給した時点で、水素の発生が停止していた。その時点での水素の発生量は5.8L、液のpHは9であった。この液をガスクロマトグラフィーで分析したが、N,N’,N”−トリメチルボラジンは検出されなかった。
【0058】
その後、さらに0.5Nの塩酸水溶液を供給したところ、液のpHが6.5になった時点から、再度水素が発生した。塩酸水溶液を578g供給し水素の発生が停止するまで50℃で保持した。水素の総発生量は9.0Lであり、仕込んだN,N’,N”−トリメチルボラジンのほぼ3モル倍の量であった。終了時の液のpHは1.5であった。
【0059】
処理液を分析すると、ホウ酸とメチルアミン塩酸塩が検出された。
<実施例2>
上記<参考例1>2.単蒸留にて得られた蒸留残渣1kgに、上記の精留の際に得られた初留の一部(N,N’,N”−トリメチルボラジンを96質量%含有)21gを混合して廃棄物とし、無害化処理を行った。
【0060】
2Lのフラスコに上記廃棄物を入れ、撹拌しながら50℃に加熱した。そこへ水とアセトンの混合物(水/アセトン=0.62 重量比)を供給しながら処理を行った。混合物の供給によって水素が発生した。混合物を208g供給した時点では、水素の発生が停止していた。それまでに発生した水素は8.3Lであった。
【0061】
その後、2N塩酸水溶液を供給したところ再度水素が発生した。塩酸水溶液を250g供給後、水素の発生が停止するまで50℃で保持した。総水素発生量は13.7Lであった。終了時の液のpHは2であった。
<参考例2>
上記実施例2で用いた蒸留残渣に含まれる水素化ホウ素ナトリウムを用いたモデル実験を行った。水素化ホウ素ナトリウム7.0g、トリグライム280.0gを1Lのフラスコに入れ、撹拌しながら50℃に加熱した。そこへ水とアセトンの混合物(水/アセトン=0.62 重量比)178gを3時間かけて供給した。水素はほとんど発生せず、反応後、アセトンが還元されたイソプロパノールが、水素化ホウ素ナトリウムの約4モル倍検出され、またホウ酸の生成が確認された。
【0062】
処理中、液のpHは、7.5〜9であり、水素化ホウ素ナトリウムの分解は、酸性条件でなくても進行することがわかった。
<実施例3>
N,N’,N”−トリメチルボラジン15.0gにトリグライム289.1gを混ぜた混合物を調製し、N,N’,N”−トリメチルボラジンの処理を行った。
【0063】
1Lのフラスコに上記混合物を入れ、撹拌しながら50℃に加熱した。そこへ、1.0g/分の速度で2N塩酸水溶液を供給した。供給開始後、すぐに水素が発生した。20gの塩酸水溶液を供給した時点で、水素の発生が停止した。その時点での水素の発生量は5.5L、液のpHは9であった。この液をガスクロマトグラフィーで分析したが、N,N’,N”−トリメチルボラジンは検出されなかった。
【0064】
その後、さらに塩酸水溶液を供給したところ、液のpHが6.5になった時点から、再度水素が発生した。塩酸水溶液を合計で150g供給し水素の発生が停止するまで50℃で保持した。水素の総発生量は9.5Lであり、仕込んだN,N’,N”−トリメチルボラジンのほぼ3モル倍の量であった。終了時の液のpHは1.5であった。
【0065】
処理液を分析すると、ホウ酸とメチルアミン塩酸塩が検出された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の方法によりボラジン化合物を製造する工程より排出される廃棄物を処理することにより、安全にかつ効率的に廃棄物の処理を実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともボラジン化合物を含むホウ素化合物含有混合物の処理方法において、酸性条件下で水酸基含有化合物と接触させる工程を含むホウ素化合物の処理方法。
【請求項2】
該混合物中に含まれるボラジン化合物中のホウ素原子が、該混合物中に含まれる全てのホウ素原子に対して、20%以上であることを特徴とする請求項1記載のホウ素化合物の処理方法。
【請求項3】
酸性条件がpHで7未満である請求項1または2記載のホウ素化合物の処理方法。
【請求項4】
ホウ素化合物ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rは水素原子またはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアミン塩とを溶媒中で反応させてボラジン化合物を製造する方法において、ボラジン化合物を含む廃棄物を、請求項1から3記載のホウ素化合物の処理方法を用いて処理することを特徴とするボラジン化合物の製造法。

【公開番号】特開2009−215249(P2009−215249A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61935(P2008−61935)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】