説明

ホウ素含有排水の処理方法

【課題】 ホウ素含有排水の処理方法に関し、良好なフロックを生成させて沈澱処理することが可能で、かかる処理により確実に排水中のホウ素濃度を低減させることが可能な排水処理方法を提供する。
【解決手段】 ホウ素を含有する排水と、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物を混合し、かつ高pH領域で処理した排水に特定の三元重合体を混合することで、良好なフロックを生成させ、ろ過性の良い沈澱として凝集沈降させてホウ素を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき工業や半導体工業、温泉排水などに高濃度に発生するホウ素を含有する排水処理において、高pH域で凝集可能な高分子重合体を用いた処理方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
ホウ素は、電気めっき業や半導体工業、ガラス工業、医薬品の原料等の製造に用いられ、その過程で生じる排水中にはホウ素を多く含んでいる。さらに石炭火力発電所等の排煙脱硫プラントや温泉からも多く排出されており、かかる現状から水質汚濁防止法に基づきホウ素の排水基準は海域以外で10mg/L以下と定められている。
【0003】
ホウ素含有排水の処理技術としては、例えば吸着処理としてホウ素選択性イオン交換樹脂と無機系吸着剤の併用による除去方法が用いられている(例えば、特許文献1)。しかしながら、ホウ素吸着に多量の樹脂を必要とするため、本方法による処理に際しては経済性の面で依然として課題が残る。またかかるイオン交換樹脂やキレート樹脂を用いた吸着方法は希薄ホウ素溶液に適用されることから、従来の方法と比較しても高濃度ホウ素含有排水処理には不向きであるという問題が存在する。
【0004】
また、上記方法に替わる処理方法としては凝集沈澱法が用いられており、従来の技術である硫酸アルミニウムと消石灰を用い、pHを高アルカリ側に調整して処理する凝集沈澱法が多く用いられている。この技術を応用してアルミニウム塩とカルシウム塩を用いた凝集処理工程に関する様々な技術が開示されており(例えば、特許文献2〜7)、排水中のホウ素除去のための処理工程技術として応用されている。
【0005】
しかし、従来の凝集沈澱法の技術では澱物処理について何ら解決ができていないのが現状である。ホウ素処理の際に用いるアルミニウム塩とカルシウム塩を用いる凝集沈澱法では、使用する薬剤量が非常に多く、さらにホウ酸のpKが9.18であるためpHを高アルカリ領域に調整する必要があり、多量の澱物を生じる。これらの澱物に対する効果的な処理方法に関しては何ら具体的に検討されていない。
【0006】
従来処理方法を用いた場合は一般的に澱物の処理に際して至適である高アルカリpH領域では凝集剤による凝集が難しいことが知られている。凝集沈澱処理における凝集剤は、澱物同士の荷電中和が比較的容易な中性〜弱アルカリ性域で良好なフロックを生成しやすく、そのpH領域での使用が好ましいとされている。一方で高アルカリpH領域では、一般的に高分子凝集剤による沈澱の凝集性に乏しいため、凝集沈澱法によるホウ素含有排水の沈澱処理は困難を極めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−263603号公報
【特許文献2】特開2010−269309号公報
【特許文献3】特開2010−269310号公報
【特許文献4】特開2009−233640号公報
【特許文献5】特開2009−233641号公報
【特許文献6】特開2004−000963号公報
【特許文献7】特許第3333483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のホウ素含有排水の凝集沈澱処理において生じる課題を解決し、良好なフロックを生成させて沈澱処理することが可能で、かかる処理により確実に排水中のホウ素濃度を低減させることが可能なホウ素含有排水の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ホウ素を含有する排水と、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物を混合し、かつ高pH領域で処理した排水に特定の三元重合体を混合することで、良好なフロックが生成し容易に排水中のホウ素を除去できることを見いだした。
【0010】
すなわち本発明は、以下の<1>〜<4>に示すホウ素含有排水の処理方法に関する。
<1> ホウ素含有排水の処理方法であって、下記の(a)および(b)工程からなるホウ素含有排水の処理方法。
(a)ホウ素含有排水に、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物を混合し、且つ該排水をpH10.5〜13で処理する工程。
(b)前記(a)工程の排水と、下記の(I)、(II)及び(III)で表される構成単位からなる三元重合体で、x:y:zが99.8:0.1:0.1〜75:15:10の範囲を有する水溶性重合体とを混合し処理する工程。
【化1】


但し、構成単位(I)、(II)及び(III)中のRは、それぞれ水素またはメチル基を示す。
<2> 三元重合体のx:y:zが99.8:0.1:0.1〜85:10:5であることを特徴とする上記<1>記載の処理方法。
<3> アルミニウム化合物が排水中のホウ素1モルに対してアルミニウムとして少なくとも2モル、カルシウム化合物が排水中のホウ素1モルに対してカルシウムとして少なくとも6モル、及び硫酸化合物が排水中のホウ素1モルに対して硫酸として少なくとも3モル混合されることを特徴とする上記<1>又は<2>に記載の処理方法。
<4> 前記(a)工程の排水を処理するpHが10.5〜12である上記<1>〜<3>のいずれかに記載の処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高アルカリ域におけるホウ素処理で生成する多量の澱物に対して、特定の三元重合体を用いてpHを高アルカリ域に維持したまま良好なフロックを生成させて凝集させることが可能である。よって、凝集沈澱法を用いてホウ素を含有する排水をより効率的に除去することができ、生じた澱物を簡便に処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いるアルミニウム化合物は特に制限されるものではないが、例えば、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等が挙げられる。また、本発明のカルシウム化合物は特に制限されるものではないが、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム(消石灰)、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。また、本発明の硫酸化合物は特に制限されるものではないが、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0013】
上記のアルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物の内、本発明の排水処理において好ましい組み合せとしては、塩化アルミニウム、塩化カルシウム及び硫酸ナトリウムが挙げられる。また、複数塩をひとつの化合物として使用しても良く、このような薬剤の例としては硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、アルミン酸カルシウム等が挙げられる。
【0014】
本発明の実施に際しては、ホウ酸イオンのpKが9.18であることから、高pH域側ほどホウ素がホウ酸イオンにイオン化し、混合薬剤との反応により確実にホウ素含有沈澱を生成してホウ素除去率が高くなると考えられる。一方、三元重合体による凝集効果としては処理pHが中性側ほど良好な凝集作用を発揮する。したがって、本発明の工程(a)では、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物を混合した排水を好ましくはpH10.5〜13、より好ましくはpH10.5〜12で処理する。前記のpH域で処理することによって、ホウ素含有化合物であるCharlesite及びその類似化合物を形成すると考えられ、さらに排水に混合された三元重合体の作用により固液分離が容易なフロックが形成される。これらのフロックは一般的な濾過方法により、排水中から容易に分離することができ、さらに、排水中のホウ素及びフッ素濃度を同時に低減することができる。これに対して、排水をpH10以下で処理した場合には、ホウ素含有沈殿の生成が不十分となり、かつ良好なフロックを生成することができないために、排水中のホウ素及びフッ素濃度を効果的に低減することができない。
【0015】
本発明の工程(a)において排水を処理する際のpH調整は、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物を混合した後に、公知のpH調整剤を用いて調整しても良いし、例えばカルシウム化合物として消石灰を用いて、ホウ素含有排水と、消石灰、アルミニウム化合物及び硫酸化合物との混合と同時にpHを10.5以上としても良い。pH調整剤としては特に限定されないが、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カリウム、消石灰などのアルカリや、塩酸、硫酸などの酸が挙げられる。
【0016】
本発明の工程(a)において、ホウ素含有排水に混合するアルミニウム化合物の混合量は、排水中のホウ素1モルに対してアルミニウムとしてモル比2以上が好ましく、モル比3以上がより好ましい。カルシウム化合物の混合量は、排水中のホウ素1モルに対してカルシウムとしてモル比6以上が好ましく、モル比9以上がより好ましい。硫酸化合物の混合量は、排水中のホウ素1モルに対して硫酸としてモル比3以上が好ましく、モル比4.5以上がより好ましい。
工程(a)の前記薬剤の混合量の上限は特に制限されるものではなく、多量に添加しても本発明の効果を得られるが、経済的な観点から排水中のホウ素1モルに対して、アルミニウム化合物はアルミニウムとしてモル比6以下、カルシウム化合物はカルシウムとしてモル比18以下、硫酸化合物は硫酸としてモル比9以下が好ましい。
【0017】
アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物をホウ素含有排水に混合する順序は特に制限されるものではなく、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物を排水に別々に混合しても良いし、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物の2種以上を予め混合してから排水と混合しても良い。また、薬剤の混合形態は固体状、液体状を問わず、あらかじめ上記薬剤の全てもしくは一部を水溶化して液体にしたものを添加しても良い。
【0018】
本発明の工程(a)において、薬剤投入後の混合時間としては好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上であり、薬剤が完全に溶解することが好ましい。またpH調整後の攪拌時間としては好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは30分以上である。混合方法は、特に制限されるものではなく、排水と薬剤とを不均一にならない程度に混合もしくは均一に混合できればよい。
【0019】
本発明では、ホウ素含有排水にアルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物を混合し、且つ該排水をpH10.5〜13で処理後、下記の構成単位で示される三元重合体を用いて処理することによって、良好なフロックを生成させて、排水中のホウ素を効率良く容易に除去することができる。
【化2】


但し、構成単位(I)、(II)及び(III)中のRは、それぞれ水素またはメチル基を示す。
【0020】
本発明で用いる三元重合体は、(I)アクリルアミド、又はメタクリルアミドを有する単位と、(II)アクリル酸、又はメタクリル酸を有する単位と、(III)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、又は2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を有する単位を構成単位とする水溶性重合体である。それぞれの構成単位の含有割合は、重合比として99.8:0.1:0.1〜75:15:10、好ましくは99.8:0.1:0.1〜80:15:5、より好ましくは99.8:0.1:0.1〜85:10:5である。それぞれの構成単位の含有割合が上記範囲内であれば、排水中に良好なフロックが生成できることから、特殊な分離装置を導入することなく固液分離を容易に短時間で行うことができ、さらに排水中のホウ素濃度を効率良く低減することができる。
【0021】
本発明の工程(b)に使用する三元重合体の添加形態は限定されるものではないが、水溶性状態で加えることが好ましい。水溶性状態の三元重合体を用いることで、少量添加で大きな凝集効果を得ることができる。また、三元重合体は1種類又は2種類以上の三元重合体を組み合わせて使用してもよい。例えば、同構造を有する本発明範囲内のノニオン系及びアニオン系の三元重合体を数種類使用しても良い。三元重合体を数種類使用する場合、数種類の三元重合体を排水に別々に添加してもよいし、あらかじめ三元重合体を混合してから排水に添加しても良い。このような三元重合体は市販品として入手可能であり、例えば、アコフロックA−243、N−225、A−95、A−245H(いずれもMTアクアポリマー(株)製)が挙げられる。本発明の三元重合体は良好なフロックが生成できればその分子量は特に制限されるものではなく、例えば、市販品として入手しやすい三元重合体の重量平均分子量は100万〜5000万程度である。
【0022】
本発明の工程(b)で用いる三元重合体の添加量は、少量の添加でも良好なフロックを生成するため特に限定されるものではないが、排水に対して好ましくは1〜100mg/L、より好ましくは1〜50mg/L、さらに好ましく3〜20mg/L、最も好ましくは5〜20mg/Lの範囲で添加することが望ましい。
【0023】
本発明の工程(b)における混合容器や混合装置は、工程(a)と同様のものを用いることができる。工程(b)において、混合時間としては好ましくは30秒以上、さらに好ましくは1分以上であり、所要量を添加して数秒〜数十秒で良好なフロックを生成し始める。混合方法は、特に制限されるものではなく、排水と薬剤とを不均一にならない程度に混合もしくは均一に混合できればよい。
【0024】
さらに、工程(b)で使用する本発明の三元重合体の添加量のうち一定量を、予め工程(a)で薬剤とともに添加しておくことも可能である。その場合、工程(a)と工程(b)で使用する三元重合体の合計添加量は、排水に対して好ましくは1〜100mg/L、より好ましくは1〜50mg/L、さらに好ましく3〜20mg/L、最も好ましくは5〜20mg/Lの範囲であることが望ましい。
【0025】
本発明では、工程(b)の後、生成したフロックを排水から分離することで、排水中のホウ素を確実に排水基準値である10mg/L以下に低減した排水を得ることが可能であるため、二段処理等の処理工程を施すことなく安価に処理することができる。本発明の処理方法によれば、固液分離可能なフロックが生成できるため、フロックを排水から分離する方法は特に限定されることはなく、例えば、一般的なろ紙を用いたろ過や、沈降槽下部の汚泥排出孔から排出させることによりフロックを分離除去することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例を具体的に示して説明する。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0027】
本試験で用いた薬剤及び薬剤量を表1に、実施例に用いた三元重合体の各構成単位の重合比を表2に、比較例に用いた三元重合体の各構成単位の重合比を表3に示した。三元重合体の添加形態としては、各重合体を0.1gはかり取り、純水100mLに徐々に撹拌しながら溶解して0.1%(w/w)溶液としたものを用いた。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
実施例1
ホウ酸(和光純薬、試薬特級)0.572gを正確に採取し、1NのHCl・NaOH電解質溶液1Lに溶解し、100mg/Lホウ素模擬排水とした。これに表1の薬剤添加量(1)に示すように、アルミニウム化合物としてホウ素に対してモル比3に相当するアルミニウム塩(塩化アルミニウム)を添加し、カルシウム化合物としてホウ素に対してモル比9に相当するカルシウム塩(塩化カルシウム)、硫酸化合物としてホウ素に対してモル比4.5に相当する硫酸塩(硫酸ナトリウム)を添加し、10分間攪拌(=添加した薬剤が完全に溶解)した後に、水酸化ナトリウムでpH12に調整して30分間撹拌した。この溶液をメスシリンダーで40mLずつ分取後、50mLスクリュー管瓶に移し、表2に示す三元重合体(A)(各構成単位は(I)アクリルアミド/(II)アクリル酸/(III)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である)を添加して1分間攪拌し30秒静置後、生じたフロックの生成状態を確認した。また、本フロック(重合体添加量:10.0mg/L)を再び1分間撹拌して分散後、40mLメスシリンダーに移し、5分静置後の沈澱の界面高さを確認した。その後、No.2定性ろ紙(ADVANTEC製)にてろ過を行い、メスシリンダー目盛にて10分後のろ液量を確認した。さらにろ紙上の残渣を回収し、ハロゲン含水率計(METTLER TOLEDO製 HR73)を用いて含水率を測定した。結果を表4に示した。
【0032】
実施例2〜4
実施例1の三元重合体(A)のかわりに、表2の三元重合体(B)〜(D)(各構成単位は(I)アクリルアミド/(II)アクリル酸/(III)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である)を使用した以外は実施例1と同様に処理を行いフロックの生成状態を確認した。また、実施例1と同様に各重合体10.0mg/L添加時における沈澱の界面高さを測定し、No.2定性ろ紙(ADVANTEC製)にてろ過を行い、メスシリンダー目盛にて10分後のろ液量を確認した。そして、ろ紙上の残渣を回収し、ハロゲン含水率計(METTLER TOLEDO製 HR73)を用いて含水率を測定した。結果を表4に示した。
【0033】
比較例1〜5
実施例1の三元重合体(A)のかわりに、表3に示す三元重合体(E)〜(H)(各構成単位は(I)アクリルアミド/(II)アクリル酸/(III)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である)を使用、又は三元重合体を添加しなかった以外は実施例1と同様に処理を行いフロックの生成状態を確認した。また、実施例1と同様に各重合体10.0mg/L添加時における沈澱の界面高さを測定し、No.2定性ろ紙(ADVANTEC製)にてろ過を行い、メスシリンダー目盛にて10分後のろ液量を確認した。そして、ろ紙上の残渣を回収し、ハロゲン含水率計(METTLER TOLEDO製 HR73)を用いて含水率を測定した。結果を表4に示した。
【0034】
【表4】

※フロック生成状態の評価
◎:大型で沈降性の良いフロックが生成し、清澄な上澄みが存在する。
○:中型程度のフロックが生成しており固液分離可能。
△:微細なフロックが生成しているが固液分離ができていない、もしくは不十分である。
×:フロックが形成されていない。
【0035】
表4の結果より、本発明に使用した三元重合体(A)〜(D)は、ホウ素単独模擬排水に対して明らかに良好なフロックを形成し、凝集性及びろ過性が良好であることが明らかとなった。またろ過後の残渣含水率についても、本発明に用いた三元重合体により、他の重合体と比較して含水率は低下していることが明らかとなった。
【0036】
実施例5〜6
ホウ酸試薬を0.572g採取し、1Lの1NHCl・NaOH電解質溶液に溶解し、100mg/Lホウ素模擬排水とした。これに表1の薬剤添加量(2)に示すように、アルミニウム化合物としてホウ素に対してモル比4に相当するアルミニウム塩(塩化アルミニウム)を添加し、カルシウム化合物としてホウ素に対してモル比12に相当するカルシウム塩(塩化カルシウム)、硫酸化合物としてホウ素に対してモル比6に相当する硫酸塩(硫酸ナトリウム)を添加し、10分間攪拌(=添加した薬剤が完全に溶解)した後に、水酸化ナトリウムでpH12に調整して30分間撹拌した。この溶液をメスシリンダーで40mLずつ分取後、50mLスクリュー管瓶に移し、表2に示す三元重合体(A)または(C)(各構成単位は(I)アクリルアミド/(II)アクリル酸/(III)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である)を添加して1分間攪拌し30秒静置後、フロック生成状態を確認した。さらに上澄みを一定量採取し、0.22μm孔径メンブレンフィルターでろ過後、ICP発光分光分析(ICP-7500 島津製作所製)にて残存ホウ素濃度を測定した。結果を表5に示した。
【0037】
比較例6〜8
実施例5の三元重合体(A)のかわりに、表3に示す三元重合体(E)または(G)を添加、あるいは三元重合体を添加しなかった以外は、実施例5と同様にしてフロック生成状態を確認した。さらに上澄みを一定量採取し、0.22μm孔径メンブレンフィルターでろ過後、ICP発光分光分析(ICP-7500 島津製作所製)にて残存ホウ素濃度を測定した。結果を表5に示した。
【0038】
【表5】

※フロック生成状態の評価
◎:大型で沈降性の良いフロックが生成し、清澄な上澄みが存在する。
○:中型程度のフロックが生成しており固液分離可能。
△:微細なフロックが生成しているが固液分離ができていない、もしくは不十分である。
×:フロックが形成されていない。
【0039】
表5の結果より、薬剤添加量を変化させても本発明の処理方法で使用する三元重合体を添加することで良好なフロックを形成し、比較例に示した重合体と比較して上澄みホウ素も除去されていることが明らかとなった。
【0040】
実施例7〜12
ホウ酸(和光純薬、試薬特級)0.572gを正確に採取し、1NのHCl・NaOH電解質溶液1Lに溶解し、100mg/Lホウ素模擬排水とした。これに表1の薬剤添加量(1)に示すように、アルミニウム化合物としてホウ素に対してモル比3に相当するアルミニウム塩(塩化アルミニウム)を添加し、カルシウム化合物としてホウ素に対してモル比9に相当するカルシウム塩(塩化カルシウム)、硫酸化合物としてホウ素に対してモル比4.5に相当する硫酸塩(硫酸ナトリウム)を添加し、10分間攪拌(=添加した薬剤が完全に溶解)した。その後、水酸化ナトリウムでpH12.0、11.0または10.5に調整して30分間撹拌した。この溶液をメスシリンダーで40mLずつ分取後、50mLスクリュー管瓶に移し、表2に示す三元重合体(A)または(C)(各構成単位は(I)アクリルアミド/(II)アクリル酸/(III)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である)を添加して1分間攪拌し30秒静置後、生じたフロックの生成状態を確認した。また、本フロック(重合体添加量:10.0mg/L)を再び1分間撹拌して分散後、40mLメスシリンダーに移し、5分静置後の沈澱の界面高さを確認した。その後、No.2定性ろ紙(ADVANTEC製)にてろ過を行い、メスシリンダー目盛にて10分後のろ液量を確認した。さらにろ紙上の残渣を回収し、ハロゲン含水率計(METTLER TOLEDO製 HR73)を用いて含水率を測定した。結果を表6に示した。
【0041】
比較例9〜14
実施例7または実施例8における水酸化ナトリウムで調整したpHを10.0、9.5、または9.0とした以外は、実施例7または実施例8と同様にしてフロック生成状態、ろ液高さ、ろ過残渣の含水率を測定した。結果を表6に示した。
【0042】
【表6】

※フロック生成状態の評価
◎:大型で沈降性の良いフロックが生成し、清澄な上澄みが存在する。
○:中型程度のフロックが生成しており固液分離可能。
△:微細なフロックが生成しているが固液分離ができていない、もしくは不十分である。
×:フロックが形成されていない。
【0043】
表6の結果より、本発明の処理方法においてはpH10.5以上において良好なフロックを形成し、沈殿界面高さ、ろ液高さ、残渣含水率が良好な値を示すことが確認された。
【0044】
実施例13〜15
ホウ酸(和光純薬、試薬特級)0.572gを正確に採取し、1NのHCl・NaOH電解質溶液1Lに溶解し、100mg/Lホウ素模擬排水とした。これに表1の薬剤添加量(2)に示すように、アルミニウム化合物としてホウ素に対してモル比4に相当するアルミニウム塩(塩化アルミニウム)を添加し、カルシウム化合物としてホウ素に対してモル比12に相当するカルシウム塩(塩化カルシウム)、硫酸化合物としてホウ素に対してモル比6に相当する硫酸塩(硫酸ナトリウム)を添加し、10分間攪拌(=添加した薬剤が完全に溶解)した。その後、水酸化ナトリウムでpH12.0、11.0または10.5に調整して30分間撹拌した。この溶液をメスシリンダーで40mLずつ分取後、50mLスクリュー管瓶に移し、表2に示す三元重合体(A)(各構成単位は(I)アクリルアミド/(II)アクリル酸/(III)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である)を添加して1分間攪拌し30秒静置後、上澄みを一定量採取し、0.22μm孔径メンブレンフィルターでろ過後、ICP発光分光分析(ICP-7500 島津製作所製)にて残存ホウ素濃度をそれぞれ測定した。結果を表7に示した。
【0045】
比較例15〜17
実施例13における水酸化ナトリウムによる調整pHを10.0、9.5、または9.0とした以外は実施例13と同様にして、上澄みの残存ホウ素濃度をそれぞれ測定した。結果を表7に示した。
【0046】
【表7】

【0047】
表7の結果より、本発明の処理方法ではpH10.5以上において排水中のホウ素除去率が大きく向上し、ホウ素排水基準(10mg/L以下)を下回ることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素含有排水の処理方法であって、下記の(a)および(b)工程からなるホウ素含有排水の処理方法。
(a)ホウ素含有排水に、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及び硫酸化合物を混合し、且つ該排水をpH10.5〜13で処理する工程。
(b)前記(a)工程で処理した排水と、下記の(I)、(II)及び(III)で表される構成単位からなる三元重合体で、x:y:zが99.8:0.1:0.1〜75:15:10の範囲を有する水溶性重合体とを混合し処理する工程。
【化1】


但し、構成単位(I)、(II)及び(III)中のRは、それぞれ水素またはメチル基を示す。
【請求項2】
三元重合体のx:y:zが99.8:0.1:0.1〜85:10:5であることを特徴とする請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
アルミニウム化合物が排水中のホウ素1モルに対してアルミニウムとして少なくとも2モル、カルシウム化合物が排水中のホウ素1モルに対してカルシウムとして少なくとも6モル、及び硫酸化合物が排水中のホウ素1モルに対して硫酸として少なくとも3モル混合されることを特徴とする請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記(a)工程の排水を処理するpHが10.5〜12である請求項1〜3のいずれかに記載の処理方法。

【公開番号】特開2013−17906(P2013−17906A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150586(P2011−150586)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(504313228)ダイヤアクアソリューションズ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】