説明

ホウ素含有重合体を含む機能性電子素子

【課題】有機EL素子の発光材料等として有用で新規な駆動安定性の高いホウ素含有重合体を含む機能性電子素子を提供する。
【解決手段】ホウ素原子及び二重結合を有し、ホウ素原子上に少なくとも1つの電子吸引性置換基を有するといったような特定の構造を有するホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られるホウ素含有重合体を含む機能性電子素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有重合体を含む機能性電子素子に関する。より詳しくは、有機EL素子等の発光デバイスや有機半導体として好適に用いることができるホウ素含有重合体を含む機能性電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素原子を構造中に有する有機ホウ素化合物は、ホウ素原子の分子軌道における電子状態に起因する電子的特性から機能性電子素子素材として注目されているものである。例えば、電子受容性などの特性が必要とされる有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の材料やN型半導体の材料として期待されている。特に有機EL素子は、ディスプレイとしての種々の優れた特性を有することから、よりいっそうの高性能化を実現できる材料の開発が盛んに進められている。また、活性層の一部に無機材料を用いたHOILED(ハイブリッド有機−無機発光ダイオード)素子の実用化開発が進められており、それに適した材料の開発が待たれるところでもあった。HOILED素子は、ハイブリッド化することによって、有機EL素子に比べて酸素や水に対する耐性が高いという有利性を有する。これにより、素子内部の各層を厳重に密閉する必要性を軽減させて製造時の手間を少なくし、生産コストを低くすることができる他、ディスプレイとしての種々の優れた特性を有するものである。
【0003】
有機EL素子の用途に利用が検討された有機ホウ素化合物としては、これまで数例が知られているが、それらのほとんどは3つのアリール基がホウ素原子上に結合したものに限られていた。有機ホウ素化合物は、その電子的な特性に起因して安定な構造とすることが困難であり、そのために電子素材用途に実際に用いることができるものが限られているというのが現状である。このような有機ホウ素化合物を次世代の機能性電子素子素材として活用するためには、ホウ素原子に起因する優れた特有の性質を発揮させつつ、安定的に取り扱える新規な化合物を種々開発することが望まれるところであった。
【0004】
従来の有機ホウ素含有化合物としては、ホウ素にビニル基が結合した構造を有する有機ホウ素化合物を有機EL素子用材料として用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、特定の構造を有する有機ホウ素π電子系化合物を電子輸送材料として用いることが開示され(例えば、特許文献2参照。)、有機ホウ素含有化合物であるジメシチルボリル置換チエニルトリアゾール等について、有機ホウ素π電子系化合物のLUMOのエネルギー準位が低いことが実際に示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
更には、有機EL素子用材料としての利用が検討されている有機ホウ素含有化合物としては、上述した構造のものの他に、分子内に配位結合を有するホウ素化合物が開発されており、例えば、不対電子を持ちホウ素と配位結合可能な元素を含み、特定の構造を有する有機ホウ素含有化合物である有機EL素子用材料が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、分子内においてホウ素原子に窒素原子が配位した構造を有する特定の構造の有機ホウ素含有化合物を含有する有機電界発光素子が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。その他、分子内にホウ素原子を3〜15個有する特定の構造の有機ホウ素含有化合物である有機EL素子用材料(例えば、特許文献5参照。)や、特定の構造を有する有機ホウ素含有化合物である有機EL素子用材料(例えば、特許文献6参照。)が開示されている。しかし通電により劣化する、光励起により劣化するというような、耐久性面での課題が残っている。
【0006】
ところで、HOILED素子については、これまで材料化学の分野において様々な誘導体が知られているフルオレン、ポリフルオレン誘導体が検討されている。例えば、発光層としてフルオレン誘導体を用いたHOILED素子や(例えば、非特許文献2参照。)、陽極および陰極と、陽極と陰極とに挟まれた1層または複数層の有機化合物層と、陽極と有機化合物層との間及び陰極と有機化合物層との間に、少なくとも1種類以上の金属酸化物薄膜を有し、その有機化合物層がポリフルオレン誘導体により構成される有機薄膜発光素子が開示されている(例えば、特許文献7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−155325号公報(第1−2、218−220頁)
【特許文献2】国際公開第2006/070817号公報(第1−2頁)
【特許文献3】国際公開第2005/062676号公報(第1−5頁)
【特許文献4】特開2007−35791号公報(第1−2頁)
【特許文献5】特開2000−290645号公報(第1−2頁)
【特許文献6】国際公開第2005/062675号公報(第36−37頁)
【特許文献7】特開2007−53286号公報(第1−2、13−14頁)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】アツシ・ワカミヤ(Atsushi Wakamiya)、外2名、「アンゲヴァンテ ケミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie International Edition)」、2006年、第45巻、p.3170−3173
【非特許文献2】カツユキ・モリイ(Katsuyuki Morii)、外6名、「アプライド フィジックス レターズ(Applied Physics Letters)」、2006年、第89巻、p.183510−1〜183510−3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有機ホウ素化合物は、ホウ素原子がその分子軌道に空軌道を有し、それによって最高被占軌道(HOMO)や最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位が低いという、ホウ素原子の電子状態に由来する特性を有する。特にLUMOのエネルギー準位が低いことに起因して、上記のように有機EL素子の材料やN型半導体の材料としての用途が期待されている。例えば、高分子有機ELの一般的な構成、すなわち、透明電極から形成される陽極、ホール(正孔)輸送層、発光兼電子輸送層、Ca、Ba等から形成される陰極といった構成において、発光兼電子輸送層にLUMOのエネルギー準位が低い材料を使用すれば、機能性電子素子としての性能が向上することになる。HOILED素子については、従来検討されてきたフルオレン、ポリフルオレン誘導体のLUMOが高く、実際にはHOILED素子には不向きであり安定した発光を得ることは出来ていない。これらに代わる材料として、LUMOが低く、更には、コストダウンの為に塗布可能な優れた材料の開発が期待されるところである。
一方で、有機ホウ素化合物における課題は、ホウ素原子が空軌道を有することに伴って、安定な化合物が少ないということである。安定な化合物でありながら、HOMO、LUMOのエネルギー準位を下げることができれば、機能性電子素子素材としての用途に有用である。そのような化合物のバリエーションを増やすことは、有機EL素子やHOILED素子等の分野で当該重合物を用いる場合において大きな技術的意義がある。
【0010】
一般的に、有機ホウ素化合物において大気安定な構造とするためには、いわゆる嵩高いバルキーな基をホウ素原子に結合させた構造とすればよいとされてきた。しかし、今後の有機EL素子やN型半導体、HOILED素子等の開発の中においては、化合物の大気安定性のみでなく素子駆動安定性が要求されることになる。ここで、上述した特許文献2〜6においては、それらに記載の有機ホウ素含有化合物を電子輸送材料や、正孔阻止材料、発光層中のホスト化合物として用いることが開示されているが、素子駆動安定性が充分ではなく、さらに低分子化合物であるがゆえに、塗布プロセスに利用するのは困難であった。更には、光励起による有機ホウ素化合物の劣化も懸念されるところであった。駆動安定性を保った新規有機ホウ素重合体が出来れば、有機EL素子やHOILED素子等の発光材料として好適に用いることが可能となる。
また、HOILED素子材料として検討されてきたフルオレン、ポリフルオレンに代わるLUMOの低い疑似フルオレン化合物群の合成ができれば、HOILED素子の実用化検討が大いに進む可能性がある。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、有機EL素子の発光材料等として有用で新規なホウ素含有重合体を含む駆動安定性の高い機能性電子素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、機能性電子素子について種々検討し、有機EL素子の発光材料等として好適に用いることができるホウ素含有重合体に着目した。そして、ホウ素含有重合体を素子駆動に対して安定な化合物とするためには、ホウ素原子に対して窒素原子が配位した構造を有するようにすればよいということに加えて、ホウ素のルイス酸性をさらに上昇させれば良いことに着目した。そして、ホウ素原子に少なくとも1つの電子吸引性置換基が結合し、ホウ素原子と窒素原子とを有する骨格中に二重結合を有し、その骨格が少なくとも2つの環構造の一部分を形成する特定構造のホウ素含有重合体が、HOMO、LUMOのエネルギー準位を下げることができ、更に素子駆動の安定性の高い有用な化合物であることを見出した。そして、このようなホウ素含有重合体を用いた機能性電子素子は、有機EL素子の発光材料等として高い性能を発揮するものとなり、特に、HOILED素子の発光層を構成する発光材料として好適に用いることができることを見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到した。
【0013】
すなわち本発明は、ホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られるホウ素含有重合体を含む機能性電子素子であって、上記ホウ素含有化合物は、下記式(1);
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていることを表す。ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における点線部分は、少なくとも1対の原子が二重結合で結ばれることを表し、該二重結合が環構造と共役していてもよい。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又は環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。R及びRは、同一若しくは異なって、1価の電子吸引性置換基又は1価の置換基を表す。)で表され、上記R及びRのうち少なくとも1つは1価の電子吸引性置換基であり、上記ホウ素含有化合物は、式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも1つが、反応性基を有する置換基であることを特徴とする機能性電子素子である。
以下に本発明を詳述する。
【0016】
本発明の機能性電子素子は、上記式(1)で表され、R及びRの少なくとも一方が電子吸引性置換基であり、X、X、R及びRの少なくとも1つが、反応性基を有する置換基であるホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られるホウ素含有重合体を含むものである。このホウ素含有重合体は、HOMO、LUMOのエネルギー準位を下げることができ、更に素子駆動の安定性の高い有用な化合物であることから、本発明の機能性電子素子は、有機EL、有機レーザー、有機太陽電池、有機受光素子、有機トランジスタ等として好適に用いることができる。これらの中でも、有機EL素子の発光材料等の発光デバイスとして用いることがより好ましい。このような本発明の機能性電子素子が発光デバイスであることは、本発明の好適な実施形態の1つである。また、該発光デバイスが有機エレクトロルミネッセンス素子であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、本発明の機能性電子素子は、このようなホウ素含有重合体を含む限り、その他の成分を含むものであってもよいが、その他の成分を含まないもの、すなわち、機能性電子素子がこのようなホウ素含有重合体からなるものであることが好ましい。
【0017】
以下においては、上記式(1)中の各部位、すなわち、1.[R及びRで表される1価の電子吸引性置換基又は1価の置換基]、2.[ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の構造]、及び、3.[X及びXの構造]について順に述べる。その後に、本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体について述べる。
【0018】
1.[1価の電子吸引性置換基、及び、1価の置換基]
以下においては、まず、上記式(1)のR及びRにおける1価の電子吸引性置換基、及び、1価の置換基について述べる。なお、ここで1価の置換基とは、1価の電子吸引性置換基には該当しない1価の置換基を意味する。
上記R及びRにおける1価の電子吸引性置換基とは、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のハロアリール基、炭素数1〜50のハロアルキル基置換のアリール基、置換若しくは無置換の炭素数1〜50のハロアルキル基、置換若しくは無置換の環形成原子数6〜60のアリールオキシカルボニル基、置換若しくは無置換の炭素数1〜50のアルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換のカルバモイル基、置換若しくは無置換の環形成原子数6〜60のアリールカルボニル基、置換若しくは無置換の炭素数1〜50のアルキルカルボニル基、置換若しくは無置換の環形成原子数6〜60のアリールスルホニル基、置換若しくは無置換の炭素数1〜50のアルキルスルホニル基、置換若しくは無置換の環形成原子数6〜60のアリールスルフィニル基、置換若しくは無置換の炭素数1〜50のアルキルスルフィニル基、シアノ基、ニトロ基である。
【0019】
上記R及びRにおける1価の電子吸引性置換基としては、上述したものの中でも好ましくは、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のハロアリール基、シアノ基、炭素数1〜30のハロアルキル基置換のアリール基、炭素数1〜30の直鎖状若しくは分岐状ハロアルキル基、炭素数3〜30の脂環式ハロアルキル基、ニトロ基、環形成原子数6〜30のアリールカルボニル基、炭素数1〜28のアルキルカルボニル基、炭素数1〜28のジアルキルカルバモイル基、ジアリールカルバモイル基、環形成原子数6〜30のアリールオキシカルボニル基、炭素数1〜28のアルコキシカルボニル基であり、より好ましくは、フッ素原子、臭素原子、シアノ基、フッ素置換された炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、フッ素置換された炭素数3〜10の脂環式アルキル基、フッ素置換されたアリール基、フッ素置換された炭素数1〜10のアルキル基を置換基として有するアリール基、環形成原子数6〜18のアリールカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルカルボニル基、炭素数1〜6のジアルキルカルバモイル基、環形成原子数6〜18のジアリールカルバモイル基、環形成原子数6〜18のアリールオキシカルボニル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0020】
上記式(1)において、R及びRの1価の置換基としては、特に制限されないが、例えば、置換基を有していてもよいアリール基、複素環基、アルキル基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、シリル基、ヒドロキシ基、ボリルオキシ基、アミノ基、RとRとが結合してなる2,2’−ビフェニル基、置換基を有していてもよいオリゴアリール基、1価のオリゴ複素環基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アゾ基、スタニル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基、メタンスルホネート基、エタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基等のアルキルスルホネート基;ベンゼンスルホネート基、p−トルエンスルホネート基等のアリールスルホネート基;ベンジルスルホネート基等のアリールアルキルスルホネート基、ボリル基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、アリールスルホネート基、アルデヒド基、アセトニトリル基等が挙げられる。
【0021】
上記アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、インデニル基、インダニル基等が挙げられる。これらの中でも、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基が好ましい。
上記複素環基としては、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、ピペリジニル基、ピペリジノ基、フリル基、チエニル基等が挙げられる。これらの中でも、ピリジル基、チエニル基が好ましい。
なお、上記1価の電子吸引性置換基、1価の置換基は、ハロゲン原子や芳香族等で置換されていてもよく、更に、これらの基がお互いに任意の場所で結合して環を形成していてもよい。
【0022】
上記R及びRとしては、共に上述したような1価の電子吸引性置換基であることが好ましい。上記式(1)においてR及びRが共に1価の電子吸引性置換基であることにより、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られるホウ素含有重合体は、更に素子駆動安定性の高い化合物となる。すなわち、上記式(1)におけるR及びRが共に1価の電子吸引性置換基である形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
更に、上記式(1)におけるR及びRが共に1価の電子吸引性置換基である場合、上述したように、上記式(1)におけるR及びRが共に炭素数1〜30の直鎖状若しくは分岐状ハロアルキル基、炭素数3〜30の脂環式ハロアルキル基、置換若しくは無置換のハロアリール基、又は、炭素数1〜30のハロアルキル基置換のアリール基のいずれかの1価の電子吸引性置換基である形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0023】
2.[ホウ素含有化合物のホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の構造]
上記式(1)において、点線の円弧と、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部とによって形成される環構造は、環状構造であれば特に制限されないが、式(1)においてXが結合している環としては、例えば、下記式(2−1)〜(2−10)のベンゼン環、チオフェン環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環等の1つの環から構成される環;
【0024】
【化2】

【0025】
下記式(3−1)〜(3−7)のベンゾチオフェン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、キノリン環、イソキノリン環等の複数の環から構成される環が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン環、ナフタレン環、ベンゾチオフェン環が好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
また、式(1)においてXが結合している環としては、例えば、下記式(4−1)〜(4−9)のピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピラジン環、ピリミジン環、チアゾール環、オキサゾール環等の1つの環から構成される環;
【0028】
【化4】

【0029】
下記式(5−1)〜(5−5)のインドール環、イソインドール環、キノリン環、イソキノリン環、フェナントリジン環等の複数の環から構成される環が挙げられる。これらの中でも、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、フェナントリジン環が好ましい。より好ましくは、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環である。
【0030】
【化5】

【0031】
3.[X及びXの構造]
上記式(1)において、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又は環構造の置換基となる1価の置換基を表す。該1価の置換基としては特に制限されないが、上記R及びRと同様のものが挙げられる。
【0032】
これらの中でも、X及びXとしては、水素原子;ハロゲン原子、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アゾ基、アシル基、アリル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、シリル基、スタニル基、ボリル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基等の反応性基;炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基又は該反応性基で置換された炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基又は該反応性基で置換された炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;アリール基又は該反応性基で置換されたアリール基;オリゴアリール基又は該反応性基で置換されたオリゴアリール基;1価の複素環基又は該反応性基で置換された1価の複素環基;1価のオリゴ複素環基又は該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基;アルキルチオ基;アリールオキシ基;アリールチオ基;アリールアルキル基;アリールアルコキシ基;アリールアルキルチオ基;アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基;アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基が好ましい。より好ましくは、水素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ボリル基、アルキニル基、アルケニル基、ホルミル基、スタニル基、ホスフィノ基、該反応性基で置換されたアリール基、該反応性基で置換されたオリゴアリール基、下記式(6)で表される基等の1価の複素環基又は該反応性基で置換された1価の複素環基、該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基、アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基、アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基である。
【0033】
【化6】

【0034】
また、本発明においては、上記式(1)におけるX及びXが、上述したものの中でも反応性基を有する置換基であることが好ましく、そのような置換基としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、ヒドロキシル基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アゾ基、アシル基、アリル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、シリル基、スタニル基、ボリル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基等の反応性基;該反応性基で置換された炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基;該反応性基で置換された炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状アルコキシ基;該反応性基で置換されたアリール基;該反応性基で置換されたオリゴアリール基;該反応性基で置換された1価の複素環基;該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基;アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基;アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基が好ましい。より好ましくは、臭素原子、ヨウ素原子、ボリル基、ホルミル基、スタニル基、ホスフィノ基、該反応性基で置換されたアリール基、該反応性基で置換されたオリゴアリール基、該反応性基で置換された1価の複素環基、該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基、アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基、アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基である。更に好ましくは、臭素原子、ボリル基、ホルミル基、スタニル基、ホスフィノ基、該反応性基で置換されたアリール基、該反応性基で置換されたオリゴアリール基、該反応性基で置換された1価の複素環基、該反応性基で置換された1価のオリゴ複素環基、アルケニル基又は該反応性基で置換されたアルケニル基、アルキニル基又は該反応性基で置換されたアルキニル基である。
上記X及びXが反応性基を有する置換基である場合には、X及びXの有する反応性基を異なるものとし、1種のホウ素含有化合物が単独で重縮合し得る反応性基の組み合わせとなるようにするか、式(1)で表されるホウ素含有化合物を2種以上含み、これらのホウ素含有化合物が共重合し得るような反応性基の組み合わせを有するものとなるようにするか、又は、式(1)で表されるホウ素含有化合物1種又は2種以上と反応性基を少なくとも1つ有する他の化合物とが共重合し得るような反応性基の組み合わせを有するものとなるようにすることにより、重合体の原料として好適に用いることができる。
【0035】
本発明におけるホウ素含有化合物が上記式(1)において、X及び/又はXが1価の置換基である場合、環構造に対するX及び/又はXの結合位置や結合する数は、特に制限されない。
また、Xとして環構造に少なくとも2つの1価の置換基が結合しており、該1価の置換基のうちの1つが置換基を有していてもよいボリル基であり、該1価の置換基のうちの他の1つが置換基を有していてもよいピリジル基であって、該ピリジル基の窒素原子が該ボリル基のホウ素原子に配位している形態もまた本発明の好適な実施形態の1つである。すなわち、本発明においてホウ素含有化合物が、窒素原子がホウ素原子に配位している部分を構造中に2つ以上有していることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0036】
上記式(1)で表されるホウ素含有化合物は、式(1)におけるX、X、R及びRのうち少なくとも1つが、反応性基を有する置換基である。
上記式(1)で表されるホウ素含有化合物が、X、X、R及びRの中に少なくとも1組の重縮合し得る反応性基の組み合わせを有するか、又は、X、X、R及びRの中に少なくとも1つ単独で重合し得る反応性基を有するものであると、重合体の原料として好適に用いることができる。このようなホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られる、本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体には、後述する式(7)で表される繰り返し単位を有するものと、式(16)で表される繰り返し単位を有するものとがある。以下においては、式(7)で表される繰り返し単位を有するホウ素含有重合体、及び、式(16)で表される繰り返し単位を有するホウ素含有重合体を総称して本発明におけるホウ素含有重合体という。
【0037】
4.[ホウ素含有重合体の構造]
上記ホウ素含有重合体は、式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも2つの基が重縮合するか、又は、少なくとも1つの基が重合して形成される繰り返し単位を有するものである。すなわち、下記式(7);
【0038】
【化7】

【0039】
(式中、点線の円弧、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印は、式(1)と同様である。X´、X´、R´及びR´は、それぞれ、式(1)のX、X、R及びRと同様の基、2価の基、3価の基、又は、直接結合を表す。)で表される繰り返し単位の構造を有するホウ素含有重合体である。
上記式(7)は、X´、X´、R´及びR´のうち、いずれか1つ以上が、重合体の主鎖の一部として結合を形成することを意味する。上記式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも2つの基が重縮合してホウ素含有重合体が形成された場合、上記式(7)におけるX´、X´、R´及びR´のうち少なくとも2つが2価の基、又は、直接結合である。上記式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも1つの基が単独で重合してホウ素含有重合体が形成された場合、上記式(7)におけるX´、X´、R´及びR´のうち少なくとも1つが3価の基、又は、直接結合である。
上記式(7)で表される繰り返し単位を有するホウ素含有重合体は、上記式(7)で表される構造の1種からなるものであってもよく、上記式(7)で表される2種以上の構造を含むものであってもよい。上記式(7)で表される2種以上の構造を含むものである場合、当該2種以上の構造は、ランダム重合体であっても、ブロック重合体でも、グラフト重合体等であってもよい。また、高分子主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある場合やデンドリマーでも良い。
【0040】
上記式(7)で表される繰り返し単位の構造を有するホウ素含有重合体の中でも、上記式(7)中のR´及びR´が、それぞれ式(1)中のR及びRと同様の基であることが好ましい。すなわち、上記式(7)中のR´及びR´が共に、1価の電子吸引性置換基である形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0041】
上記式(7)で表される繰り返し単位の構造の具体例のうち、重縮合によって得られる構造としては、例えば、以下の式(8−1)〜(8−6)のような構造がある。これらの中でも、(8−1)の構造であることが好ましい。すなわち、式(1)で表される構造を有し、式(1)におけるX及びXが、反応性基を有する置換基であるホウ素含有化合物から得られるホウ素含有重合体を含む機能性電子素子もまた、本発明の1つである。
【0042】
【化8−1】

【化8−2】

【0043】
上記重縮合し得る反応性基の組み合わせとしては、重合し得るものであれば特に制限されないが、例えば、カルボキシル基とヒドロキシ基、カルボキシル基とチオール基、カルボキシル基とアミノ基、カルボン酸エステルとアミノ基、カルボキシル基とエポキシ基、ヒドロキシ基とエポキシ基、チオール基とエポキシ基、アミノ基とエポキシ基、イソシアネート基とヒドロキシ基、イソシアネート基とチオール基、イソシアネート基とアミノ基、ヒドロキシ基とハロゲン原子、チオール基とハロゲン原子、ボリル基とハロゲン原子、スタニル基とハロゲン原子、アルデヒド基とホスホニウムメチル基、ビニル基とハロゲン原子、アルデヒド基とホスホネートメチル基、ハロアルキル基とハロアルキル基、スルホニウムメチル基とスルホニウムメチル基、アルデヒド基とアセトニトリル基、アルデヒド基とアルデヒド基、ハロゲン原子とボリル基、ハロゲン原子とハロゲン化マグネシウム、ハロゲン原子とハロゲン原子等が挙げられる。
これらの中でも、ハロゲン原子とボリル基との組み合わせ、ハロゲン原子とハロゲン原子との組み合わせが好ましい。
【0044】
上記式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも2つの基が重縮合してホウ素含有重合体が形成される場合、上記式(7)におけるX´、X´、R´及びR´のうち少なくとも2つが2価の基、又は、直接結合を表すが、該2価の基は、反応性基を有する置換基間の重縮合反応により脱離しない残基を表すこととなる。上記重縮合し得る反応性基の組み合わせとなるような反応性基を有する置換基が重縮合反応した場合には、残基が重合体中に残る場合と、残らない場合とがあり、前者の場合には、X´、X´、R´及びR´のうち少なくとも1つは、反応性基を有する置換基間の重縮合反応により脱離しない残基を表し、後者の場合には、X´、X´、R´及びR´のうち少なくとも1つは、直接結合を表すこととなる。
また、上記式(7)で表される繰り返し単位が2つ以上続く場合には、2つの繰り返し単位の間に、例えば、−X´−X´−のように、X´、X´、R´及びR´のうちの2つが連続する結合が形成されることになるが、この場合、当該2つのうちいずれか一方は、直接結合である。
【0045】
上記重縮合し得る反応性基の組み合わせとなるような反応性基を有する置換基が重縮合反応して残基が重合体中に残る場合の具体的としては、カルボキシル基を有する置換基とヒドロキシ基を有する置換基との組み合わせが挙げられる。例えば、−CHCOOH基と−CHCHOH基とが重縮合反応した場合、重合体中に残る残基は−CH(CO)−O−CHCH−基となる。また、例えば、−COOH基と−OH基との反応のように、反応性基を有する置換基が反応性基のみから構成される場合、重合体中に残る残基は−(CO)−O−基となる。
また、上記重縮合し得る反応性基の組み合わせが重縮合反応して残基が重合体中に残らない場合の具体例としては、ボリル基とハロゲン原子、ハロゲン原子とハロゲン原子との組み合わせが挙げられる。
【0046】
上記式(7)で表される繰り返し単位の構造の具体例のうち、上記式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも1つの基が単独で重合して得られる構造として、例えば、Xが重合して得られる構造は、下記式(9)のような構造である。このように、式(1)中のXが、構造中に単独で重合し得る反応性基を有する置換基である場合、X´が3価の基又は直接結合である構造の繰り返し単位となる。同様に、式(1)中のX、X、R又はRのいずれかが、構造中に単独で重合し得る反応性基を有する置換基である場合、それぞれ、X´、X´、R´、R´が3価の基又は直接結合である構造の繰り返し単位となる。
【0047】
【化9】

【0048】
上記単独で重合し得る反応性基としては、3,5−ジブロモフェニル基、アルケニル基、アルキニル基、エポキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。上記式(1)のホウ素含有化合物がこれらの基のいずれかを少なくとも1つ有することで、上記式(1)のホウ素含有化合物は単独で重合することができる。これらの中でも、アルケニル基、エポキシ基、3,5−ジブロモフェニル基が好ましい。
【0049】
上記式(1)中のX、X、R及びRの中で、重縮合する基は、上記重縮合し得る反応性基を構造中に有する置換基であればよい。同様に、単独重合する基は、上記単独で重合し得る反応性基を構造中に有する置換基であればよい。このような置換基としては、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数3〜7の環状アルキル基、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状アルコキシ基、アリール基や複素環基等のいずれかの基の水素原子が上記重縮合し得る反応性基や単独で重合し得る反応性基で置換された基が挙げられる。これらの中でも、スチリル基、3,5−ジブロモフェニル基が好ましい。
【0050】
本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体は、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物を含む単量体成分から得られるものである限り、単量体成分にその他の単量体が含まれていてもよい。
すなわち、式(1)で表されるホウ素含有化合物と、下記式(10);
【0051】
【化10】

【0052】
(式中、Aは、2価の基を表す。X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又は1価の置換基を表し、X及びXの少なくとも1つの基は、反応性基を有する置換基である。)で表されるその他の単量体とを重合して形成されるホウ素含有重合体もまた、本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体に含まれる。
【0053】
上記式(10)におけるAは、2価の基であれば、特に制限されないが、その構造を相当する化合物名として挙げると例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、クリセン、ルブレン、ピレン、ペリレン、インデン、アズレン、アダマンタン、フルオレン、フルオレノン、ジベンゾフラン、カルバゾール、ジベンゾチオフェン、フラン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、チオフェン、ジオキソラン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、ジオキサン、モルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、トリアジン、トリチアン、ノルボルネン、ベンゾフラン、インドール、ベンゾチオフェン、ベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾオキサジアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、クマリン、シノリン、キノキサリン、アクリジン、フェナントロリン、フェノチアジン、フラボン、トリフェニルアミン、アセチルアセトン、ジベンゾイルメタン、ピコリン酸、シロール、ポルフィリン、イリジウム等の金属配位化合物、又は、それらが置換基を有している誘導体、それら誘導体の構造を含むポリマー若しくはオリゴマー等が挙げられる。
なお、上記置換基としては、上記R及びRにおける置換基と同様のものを用いることができる。
【0054】
上記Aとしては、上述したものに加えて、例えば、下記式(11−1)〜(11−4)の構造が挙げられる。
【0055】
【化11】

【0056】
(式中、Ar1、Ar2、Ar3は、同一若しくは異なって、アリーレン基、2価の複素環基又は金属錯体構造を有する2価の基を表す。Z1は、−C≡C−、−N(Q3)−、−(SiQ4Q5)b−、又は、直接結合を示す。Z2は、−CQ1=CQ2−、−C≡C−、−N(Q3)−、−(SiQ4Q5)b−、又は、直接結合を表す。Q1及びQ2は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、又は、シアノ基を表す。Q3、Q4及びQ5は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、1価の複素環基、又は、アリールアルキル基を示す。aは0〜1の整数を表す。bは1〜12の整数を表す。)
【0057】
上記アリーレン基とは、芳香族炭化水素から、水素原子2個を除いた原子団であり、環を構成する炭素数は通常6〜60程度であり、好ましくは6〜20である。該芳香族炭化水素としては、縮合環をもつもの、独立したベンゼン環または縮合環2個以上が直接又はビニレン等の基を介して結合したものも含まれる。
上記アリーレン基としては、例えば、下記式(12−1)で表されるフェニレン基、下記式(12−2)〜(12−3)で表されるナフタレンジイル基、下記式(12−4)〜(12−7)で表されるアントラセンジイル基、下記式(12−8)で表されるビフェニル−ジイル基、下記式(12−9)で表されるフルオレン−ジイル基、下記式(12−10)で表されるターフェニル−ジイル基、下記式(12−11)〜(12−12)で表されるスチルベン−ジイル基,下記式(12−13)〜(12−14)で表されるジスチルベン−ジイル基、下記式(12−15)〜(12−20)で表される縮合環化合物基、下記式(12−21)〜(12−23)で表される基等が挙げられる。これらの中でもフェニレン基、ビフェニレン基、フルオレン−ジイル基、スチルベン−ジイル基が好ましい。
なお、式(12−1)〜(12−23)において、Rは、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルキルオキシ基、アリールアルキルチオ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、イミド基、イミン残基、アミノ基、置換アミノ基、置換シリル基、置換シリルオキシ基、置換シリルチオ基、置換シリルアミノ基、1価の複素環基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオ基、アリールアルケニル基、アリールエチニル基、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基またはシアノ基を表す。式(12−1)中においてx−yで示した線のように、環構造に交差して付された線は、環構造が被結合部分における原子と直接結合していることを意味する。すなわち、式(12−1)においては、x−yで示される線が付された環を構成する炭素原子のいずれかと直接結合することを意味し、その環構造における結合位置は限定されない。式(12−10)中においてz−で示した線のように、環構造の頂点に付された線は、その位置において環構造が被結合部分における原子と直接結合していることを意味する。また、環構造に交差して付されたRの付いた線は、Rが、その環構造に対して1つ結合していてもよく、複数結合していてもよいことを意味し、その結合位置も限定されない。
また、式(12−1)〜(12−10)及び(12−15)〜(12−20)において、炭素原子は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子と置き換えられていてもよく、水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
【0058】
【化12−1】

【化12−2】

【0059】
上記2価の複素環基とは、複素環化合物から水素原子2個を除いた残りの原子団をいい、環を構成する炭素数は通常3〜60程度である。該複素環化合物としては、環式構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する元素が炭素原子だけでなく、酸素、硫黄、窒素、リン、ホウ素、ヒ素などのヘテロ原子を環内に含むものも含まれる。
【0060】
上記2価の複素環基としては、例えば、下記式(13−1)で表されるピリジン−ジイル基、下記式(13−2)〜(13−3)で表されるジアザフェニレン基、下記式(13−4)〜(13−6)で表されるキノリンジイル基、下記式(13−7)〜(13−9)で表されるキノキサリンジイル基、下記式(13−10)〜(13−12)で表されるアクリジンジイル基、下記式(13−13)で表されるビピリジルジイル基、下記式(13−14)で表されるフェナントロリンジイル基等のヘテロ原子として、窒素を含む2価の複素環基;
下記式(13−15)〜(13−17)で表されるヘテロ原子としてけい素、窒素、硫黄、セレンなどを含みフルオレン構造を有する基;
下記式(13−18)〜(13−20)で表されるヘテロ原子としてけい素、窒素、硫黄、セレンなどを含む5員環複素環基;
下記式(13−21)〜(13−26)で表されるヘテロ原子としてけい素、窒素、硫黄、セレンなどを含む5員環縮合複素基;
下記式(13−27)〜(13−29)で表される、ヘテロ原子としてけい素、窒素、硫黄、セレンなどを含む5員環複素環基でそのヘテロ原子のα位で結合し2量体やオリゴマーになっている基;
下記式(13−30)〜(13−35)で表される、ヘテロ原子としてけい素、窒素、硫黄、セレンなどを含む5員環複素環基でそのヘテロ原子のα位でフェニル基に結合している基;
下記式(13−36)〜(13−38)で表される、ヘテロ原子として酸素、窒素、硫黄、などを含む5員環縮合複素環基にフェニル基やフリル基、チエニル基が置換した基;等が挙げられる。
なお、式(13−1)〜(13−38)において、Rは、上記アリーレン基の有するRと同様である。Yは、O、S、SO、SO、Se、又は、Teを表す。環構造に交差して付された線、環構造の頂点に付された線、環構造に交差して付されたRの付いた線については、式(12−1)〜(12−23)と同様である。
また、式(13−1)〜(13−38)において、炭素原子は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子と置き換えられていてもよく、水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
【0061】
【化13−1】

【化13−2】

【0062】
上記金属錯体構造を有する2価の基とは、有機配位子を有する金属錯体の有機配位子から水素原子を2個除いた残りの2価の基である。該有機配位子の炭素数は、通常4〜60程度であり、例えば、8−キノリノール及びその誘導体、ベンゾキノリノール及びその誘導体、2−フェニル−ピリジン及びその誘導体、2−フェニル−ベンゾチアゾール及びその誘導体、2−フェニル−ベンゾキサゾール及びその誘導体、ポルフィリン及びその誘導体等が挙げられる。
【0063】
上記金属錯体の中心金属としては、例えば、アルミニウム、亜鉛、ベリリウム、イリジウム、白金、金、ユーロピウム、テルビウムなどが挙げられ、上記有機配位子を有する金属錯体としては、低分子の蛍光材料、燐光材料として公知の金属錯体、三重項発光錯体などが挙げられる。
【0064】
上記金属錯体構造を有する2価の基としては、具体的には、例えば下記式(14−1)〜(14−7)で表される基が挙げられる。
なお、式(14−1)〜(14−7)において、Rは、上記アリーレン基の有するRと同様である。環構造の頂点に付された線については、式(12−1)〜(12−23)と同様、直接結合を意味する。
また、式(14−1)〜(14−7)において、炭素原子は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子と置き換えられていてもよく、水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
【0065】
【化14−1】

【化14−2】

【0066】
また、Aの構造としては、下記式(11−5)のような構造も挙げられる。
【0067】
【化15】

【0068】
(式中、Ar4、Ar5、Ar6及びAr7は、同一又は異なって、アリーレン基又は2価の複素環基を表す。Ar8、Ar9及びAr10は、同一又は異なって、アリール基又は1価の複素環基を表す。o及びpは、同一又は異なって、0又は1を表し、0≦o+p≦1である。)
【0069】
上記式(11−5)で表される構造の具体例としては、下記式(15−1)〜(15−8)で表される構造が挙げられる。
【0070】
【化16−1】

【化16−2】

【0071】
なお、式(15−1)〜(15−8)において、Rは、上記アリーレン基の有するRと同様である。環構造の頂点に付された線については、式(12−1)〜(12−23)と同様、直接結合を意味する。上記式(15−1)〜(15−8)において、1つの構造式中に複数のRを有しているが、それらは同一であってもよいし、異なる基であってもよい。溶媒への溶解性を高めるためには、水素原子以外を1つ以上有していることが好ましく、また置換基を含めた構造の形状の対称性が少ないことが好ましい。更に、上記式(15−1)〜(15−8)において、Rがアリール基や複素環基をその一部に含む場合は、それらが更に1つ以上の置換基を有していてもよい。また、Rがアルキル鎖を含む置換基においては、それらは直鎖、分岐若しくは環状のいずれか又はそれらの組み合わせであってもよく、直鎖でない場合としては、例えば、イソアミル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロヘキシル基、4−C1〜C12アルキルシクロヘキシル基等が挙げられる。本発明のホウ素含有共重合体の溶媒への溶解性を高めるためには、1つ以上に環状または分岐のあるアルキル鎖が含まれることが好ましい。
また、複数のRが連結して環を形成していてもよい。更に、Rがアルキル鎖を含む基の場合は、該アルキル鎖は、ヘテロ原子を含む基で中断されていてもよい。該ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。
【0072】
上記Aの構造としては、上述したものの中でも、式(11−5)、式(12−9)、式(13−16)、式(13−28)であることが好ましい。ただし、上記Aの構造が式(12−9)で表される場合には、式(12−9)中の五員環部分に結合する置換基Rが炭素数8のアルキル基である形態を除く形態が好ましく、式(12−9)中の五員環部分に結合する置換基Rが炭素数1〜6のアルキル基である形態が特に好ましい。
【0073】
上記ホウ素含有重合体は、式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも1つの基と式(10)中のX及びXの少なくとも1つの基とが重合して形成される繰り返し単位を有するものである。すなわち、下記式(16);
【0074】
【化17】

【0075】
(式中、点線の円弧、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における点線部分、窒素原子からホウ素原子への矢印は、式(1)と同様である。X´、X´、R´及びR´は、式(7)と同様である。Aは、同一若しくは異なって、2価の基を表す。X´及びX´は、それぞれ式(10)のX及びXと同様の基、2価の基、3価の基、又は、直接結合を表す。)で表される繰り返し単位の構造を有するホウ素含有重合体もまた本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体に含まれる。
上記式(16)は、X´、X´、R´及びR´のうち、いずれか1つ以上、かつ、X´及びX´のうち、いずれか1つ以上が、重合体の主鎖の一部として結合を形成することを意味する。
上記式(16)で表される繰り返し単位を有するホウ素含有重合体において、上記式(1)由来の繰り返し単位、上記式(10)由来の繰り返し単位は、ランダム重合体であっても、ブロック重合体でも、グラフト重合体であってもよい。また、高分子主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある場合やデンドリマーでも良い。
また、上記式(16)で表される繰り返し単位を有するホウ素含有重合体は、上記式(1)由来の繰り返し単位、上記式(10)由来の繰り返し単位をそれぞれ1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。繰り返し単位を2種以上含むものである場合、当該2種以上の構造は、ランダム重合体であっても、ブロック重合体でも、グラフト重合体であってもよい。また、高分子主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある場合やデンドリマーでも良い。
【0076】
上記式(16)で表されるホウ素含有重合体としては、(i)上記式(1)中のX、X、R及びRのうち、いずれか2つと、上記式(10)中のX及びXとが、重合体の主鎖の一部として結合を形成する場合、(ii)上記式(1)中のX、X、R及びRのうち、いずれか1つと、上記式(10)中のX及びXのいずれか1つの基とが、重合体の主鎖の一部として結合を形成する場合がある。これらの場合の繰り返し単位の構造の具体例として、例えば、下記式(17)、(18)のような構造がある。
【0077】
【化18】

【0078】
上記(i)の構造の場合、上記式(16)で表される繰り返し単位のうち、上記式(1)由来の構造部分の具体例としては、上記式(8−1)〜(8−6)のような構造がある。これらの中でも、(8−1)の構造であることが好ましい。
【0079】
上記式(1)中のX、X、R及びRのいずれかの基と、上記式(10)中のX及びXのいずれかの基とが重縮合する場合の反応性基の組み合わせとしては、上述したものと同様のものが挙げられる。すなわち、上記式(1)中のX、X、R及びRのいずれかの基と、上記式(10)中のX及びXのいずれかの基とが重縮合する場合、上記式(10)中のX及びXのうち、当該重縮合する基としては、上述した重縮合し得る反応性基を構造中に有する置換基のいずれかであることが好ましい。
また、上記式(10)中のX及びXのいずれかが、単独で重合し得る反応性基を構造中に有する置換基である場合、当該置換基は、上述した単独で重合し得る反応性基を構造中に有する置換基のいずれかであることが好ましい。
【0080】
本発明のホウ素含有重合体の両末端に結合している基は、特に制限されず、また、同一であっても良く、異なっていてもよい。上記両末端に結合している基としては、例えば、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアリール基、オリゴアリール基、1価の複素環基、1価のオリゴ複素環基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アルケニル基、アルキニル基、アリル基、アミノ基、アゾ基、カルボキシル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、ニトロ基、シアノ基、シリル基、スタニル基、ボリル基、ホスフィノ基、シリルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基等が挙げられる。
【0081】
本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体は、LUMOのエネルギー準位が低いために、有機EL素子の材料として好適に用いることができるものであるが、そのような用途として用いられるホウ素含有重合体のLUMOのエネルギー準位としては、例えば、3.0eV〜5.2eVであることが好ましい。そのような範囲であると、有機EL素子の材料として用いた場合に、充分に性能を発揮することができる。LUMOのエネルギー準位としてより好ましくは、3.2eV〜5.1eVであり、更に好ましくは、3.4eV〜5.0eVである。特に好ましくは、3.6eV〜5.0eVである。
なお、LUMOのエネルギー準位は、例えば、後述する本願明細書の実施例及び比較例において行っているようにして求めることが好適である。
【0082】
本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体は、重量平均分子量が10〜10であることが好ましい。重量平均分子量がこのような範囲であると、良好に薄膜化できる。より好ましくは、10〜10であり、更に好ましくは10〜10である。
上記重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;クロロホルム)によって以下の装置、及び、測定条件で測定することができる。
高速GPC装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)
測定条件:
展開溶媒 クロロホルム
カラム TSK−gel GMHXL ×2本
溶離液流量 1ml/min
カラム温度 40℃
【0083】
本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体を製造する場合、式(1)で表されるホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合する方法が挙げられる。該単量体成分は、式(1)で表されるホウ素含有化合物を含む限り、その他の単量体を含んでいてもよいが、単量体成分全体100質量%に対して、式(1)で表されるホウ素含有化合物を0.1〜99.9質量%含んでいることが好ましい。より好ましくは、10〜90質量%である。
また、重合反応の際には、単量体成分の固形分濃度は、0.01質量%〜溶解する最大濃度の範囲で適宜設定することができるが、希薄すぎると反応の効率が悪く、濃すぎると反応の制御が難しくなる恐れがあることから、好ましくは、0.1〜20質量%である。
【0084】
上記その他の単量体としては、上記式(10)で表される構造を有するものであることが好ましい。なお、上記単量体成分は、式(1)で表されるホウ素含有化合物、式(10)で表される化合物とも、1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0085】
上記式(10)で表される化合物において、X及びXは、上述したX及びXにおける反応性基を有する置換基と同様のものを用いることができる。
【0086】
上記ホウ素含有重合体が重縮合反応により形成される場合、上記反応性基の組み合わせが、アルデヒド基とホスホニウムメチル基との組み合わせである場合にはWittig反応により、ビニル基とハロゲン原子との組み合わせである場合にはHeck反応により、アルデヒド基とホスホネートメチル基との組み合わせである場合にはHorner反応により、ハロアルキル基とハロアルキル基との組み合わせである場合には脱ハロゲン化水素法により、スルホニウムメチル基とスルホニウムメチル基との組み合わせである場合にはスルホニウム塩分解法により重合を行うことができる。また、上記反応性基の組み合わせが、アルデヒド基とアセトニトリル基との組み合わせである場合にはKnoevengel反応により、アルデヒド基とアルデヒド基との組み合わせである場合にはMcMurry反応により、ハロゲン原子とボリル基との組み合わせである場合にはSuzukiカップリング反応により、ハロゲン原子とハロゲン化マグネシウムとの組み合わせである場合にはGrignard反応により、ハロゲン原子とハロゲン原子との組み合わせである場合には0価のニッケル触媒を用いた山本重合反応により重合することができる。その他、重合方法としては、塩化鉄(III)等の酸化剤により重合する方法、電気化学的に酸化重合する方法等が挙げられる。
これらの重合方法のうちでも、Suzukiカップリング反応、山本重合反応により重合を行うことが好ましい。
【0087】
上記重合工程において用いる溶媒としては、当該反応が進行するものである限り特に制限されないが、水;N、N−ジメチルホルムアミド;N−メチルピロリドン;ジメトキシエタン;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル等のエステル類;ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルフェニルエーテル(アニソール)等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)等のグリコールエーテル(セロソルブ)類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類等の1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、トルエン、テトラヒドロフラン、キシレンが好ましい。溶媒は、1種又は2種以上を用いることができる。
中でも、上記Wittig反応、Horner反応、Knoevengel反応の場合には、N、N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエンが好適に用いられる。また、上記Heck反応の場合には、N、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の比較的沸点の高い溶媒が好適に用いられる。上記Suzukiカップリング反応の場合には、N、N−ジメチルホルムアミド、トルエン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランが好適に用いられる。上記Grignard反応の場合には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒が好適に用いられ、該溶媒中でハロゲン化物と金属マグネシウムとを反応させてGrignard試薬溶液とし、該試薬溶液とは別に用意した単量体成分を含む溶液とを混合して後述する触媒を用いて重合反応を行うこととなる。なお、この際には、触媒を過剰反応に注意しながら添加した後、昇温して還流させながら反応させることが好ましい。
また、上記溶媒を用いる際には、副反応を抑制するために、充分に脱酸素処理を行い、不活性雰囲気下で反応が進行するようにすることが好ましい。また、同様の理由から、脱水処理を行うことが好ましい場合もある。ただし、Suzukiカップリング反応のように、水との二相系で反応を行う場合にはその限りではない。
【0088】
上記重合工程においては、触媒を用いてもよく、特に、上記Heck反応、Suzukiカップリング反応、上記重縮合し得る反応性基の組み合わせがスタニル基とハロゲン原子のようなStille重合反応、Grignard反応、山本重合反応により重合を行う場合には、触媒が用いられる。
Heck反応、Suzukiカップリング反応、Stille重合する際の触媒としては、0価のパラジウム触媒、2価のパラジウム塩触媒等が挙げられ、具体的には、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)クロライド、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(II),ビス(トリ−o−トリルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)パラジウム、ビス(1,1’−(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム、テトラキス(トリエチルホスファイト)パラジウム、パラジウム(II)アセテート類等を挙げることができる。これらの触媒は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。これらの中でも、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(II)が好ましい。
Grignard反応をする際の触媒としては、上記0価のパラジウム触媒、2価のパラジウム塩触媒やニッケル触媒が好適に挙げられる。
また、上記触媒を用いる際には、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフリルホスフィン等の配位子を添加剤として加えてもよい。
なお、触媒を反応液に混合する方法としては、反応液をアルゴンや窒素等の不活性雰囲気下で攪拌しながら、ゆっくりと触媒を含む溶液を添加する方法、触媒を含む溶液に反応液をゆっくりと添加する方法等が挙げられる。
【0089】
上記触媒を用いる場合、触媒の使用量としては、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物1モルに対して、0.001〜0.2モルであることが好ましい。触媒の使用量が0.001モルより少ないと、触媒の機能が充分に発揮されず、0.2モルより多くしても、それ以上の効果の向上は期待できないため、製造コストの点から好ましくない。より好ましくは、0.005〜0.15モルであり、更に好ましくは、0.01〜0.1モルである。
【0090】
上記重合工程においては、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2メチルプロピオンアミジン塩酸塩、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド等を用いることができる。
また、促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、アスコルビン酸等の還元剤;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン等のアミン化合物を併用することもできる。
これらの重合開始剤や促進剤は、それぞれ1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
上記重合開始剤を用いる場合、重合開始剤の使用量としては、単量体成分100質量%に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
上記促進剤を使用する場合の使用量としては、単量体成分100質量%に対して、例えば0.05質量%以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0092】
重合に際し、安定した分子量の制御には連鎖移動剤の使用が好ましく、モノマーとの相溶性、溶媒への溶解性から、必要に応じて1種又は2種以上の連鎖移動剤を使用することができる。このような連鎖移動剤としては、炭素数3以上の炭化水素基をもつチオール化合物又は25℃の水に対する溶解度が10%以下の化合物が好適であり、上述した連鎖移動剤や、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2−メルカプトプロピオン酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロパノール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなど)や亜硫酸が好適である。
【0093】
上記連鎖移動剤の使用量は、単量体成分100質量%に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、10質量%以下であることが好ましい。0.5質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0094】
上記重合工程においては、アルカリ成分を添加し、アルカリ存在下に反応を行ってもよい。特に、上記Wittig反応、Heck反応、Horner反応、脱ハロゲン化水素法、Knoevengel反応、Suzukiカップリング反応の場合には、アルカリ存在下に反応を行うことが好ましい。上記アルカリ成分としては、特に制限されないが、例えば、Wittig反応、Horner反応、Knoevengel反応の場合には、カリウム−t−ブトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、ナトリウムエチラート、リチウムメチラート等の金属アルコラート;水素化ナトリウム等のハイドライド試薬;ナトリウムアミド等のアミド類等を用いることができる。Heck反応の場合には、トリエチルアミン等を用いることができる。Suzukiカップリング反応の場合には、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化バリウム等の無機塩基;炭酸テトラエチルアンモニウム等の炭酸アンモニウム塩、トリエチルアミン、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩基;フッ化セシウム等の無機塩等を用いることができ、無機塩を用いる場合には、無機塩を水溶液として、二相系で反応させてもよい。
なお、アルカリ成分を反応液に混合する方法としては、反応液をアルゴンや窒素等の不活性雰囲気下で攪拌しながら、ゆっくりとアルカリ成分を含む溶液を添加する方法、アルカリ成分を含む溶液に反応液をゆっくりと添加する方法等が挙げられる。
【0095】
上記アルカリ成分の使用量としては、単量体成分の有する官能基に対して当量以上であることが好ましい。特に、Wittig反応、Horner反応、Knoevengel反応の場合には、1〜3当量であることがより好ましく、Suzukiカップリング反応の場合には、1〜10当量であることがより好ましい。
【0096】
上記重合工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、特に制限されず、窒素、アルゴン、ヘリウム等のいずれを用いてもよいが、窒素、アルゴンが好ましい。不活性ガスは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0097】
上記重合工程の反応温度は、50℃〜200℃であることが好ましい。特に、上記Wittig反応、Horner反応、Knoevengel反応の場合には、通常室温から150℃程度で反応を進行させることができる。Heck反応の場合には、80℃から160℃程度で反応を進行させることができる。また、Suzukiカップリング反応の場合には、溶媒に応じて設定することができるが、50〜160℃で反応を行うことが好適である。
反応圧力は、加圧、常圧、減圧のいずれであってもよいが、常圧であることが好ましい。
また、反応時間は、5時間以上であることが好ましい。
特に、上記Wittig反応、Horner反応、Knoevengel反応の場合には、通常5分〜40時間であればよいが、好ましくは、10分〜24時間である。Heck反応の場合には、1〜100時間程度であればよい。また、Suzukiカップリング反応の場合には、1〜200時間程度であればよい。
上記重合反応は、回分式でも連続式でも行うことができる。
【0098】
上記Grignard反応の場合における、上記Grignard試薬の使用量としては、単量体成分に対して当量以上であることが好ましい。より好ましくは、1〜1.5当量であり、更に好ましくは、1〜1.2当量である。
【0099】
なお、上記式(1)で表されるホウ素含有化合物は、通常用いられる種々の手法により合成することができ、例えば、ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、2010年、第75巻、第24号、8709−8712頁に記載の手法により合成可能である。
【0100】
本発明の機能性電子素子は、上記式(1)で表され、R及びRの少なくとも一方が電子吸引性置換基であり、X、X、R及びRの少なくとも1つが、反応性基を有する置換基であるホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られるホウ素含有重合体を含むものであるが、このようなホウ素含有重合体もまた、本発明の1つである。
すなわち、ホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られるホウ素含有重合体であって、上記ホウ素含有化合物は、下記式(1);
【0101】
【化19】

【0102】
(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていることを表す。ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における点線部分は、少なくとも1対の原子が二重結合で結ばれることを表し、該二重結合が環構造と共役していてもよい。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又は環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。R及びRは、同一若しくは異なって、1価の電子吸引性置換基又は1価の置換基を表す。)で表され、上記R及びRのうち少なくとも1つは1価の電子吸引性置換基であり、上記ホウ素含有化合物は、式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも1つが、反応性基を有する置換基であることを特徴とするホウ素含有重合体もまた、本発明の1つである。
本発明のホウ素含有重合体における好ましい構造等は、上述したとおりである。
【0103】
本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体は、有機EL素子等の材料として好適に用いることができるものである。有機EL素子は、陽極、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を順に積層させた構造のもの、又は、更にホール注入層、電子注入層を有する構造のもの等がある。これらの素子においては、陰極から注入された電子が電子輸送層を通過して発光層に到達することになるが、エネルギー効率の点から、発光層や電子輸送層の材料の最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位は、電子注入層の材料の有するLUMOのエネルギー準位及び陰極の価電子帯との間でエネルギーギャップが小さいことが好ましい。陰極としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム等の金属やこれらの合金等が用いられるが、これらのうち価電子帯のエネルギーが高いものは、酸化されやすい性質を有するため、エネルギーの低いものを用いることが好ましい。最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位の低いホウ素含有重合体を用いることで、陰極として価電子帯のエネルギーが低く、酸化されにくい物質を陰極に用いることが可能となるため、陰極の選択の自由度を広げることができる。
したがって、このような点から、本発明の機能性電子素子が含むホウ素含有重合体、及び、その一形態である本発明のホウ素含有重合体は、有機EL素子の材料として好適に用いることができるものである。このように、本発明のホウ素含有重合体を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料、有機エレクトロルミネッセンス素子用電子注入材料若しくは電子輸送材料、有機エレクトロルミネッセンス素子用正孔注入材料若しくは正孔輸送材料もまた、本発明の1つである。そしてそのような有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた表示装置、又は、照明装置もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0104】
本発明の機能性電子素子は、上述の構成よりなり、高い駆動安定性を有し、更に、LUMOのエネルギー準位が低く、良好な製膜性を示すホウ素含有重合体を含むものであり、該ホウ素含有重合体は有機EL素子やHOILED素子等の材料として好適に用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、実施例1〜2及び比較例1において作製されたHOILED素子の、定電流(100mA/cm)駆動下でのEL相対輝度の時間変化を表したグラフである。
【図2】図2は、実施例3〜4及び比較例2において作製された標準OLED素子の、定電流(100mA/cm)駆動下でのEL相対輝度の時間変化を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0106】
以下の実施例及び比較例において、各種物性は以下のようにして測定した。
【0107】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC装置、展開溶媒;クロロホルム)によって以下の装置、及び、測定条件で測定した。
高速GPC装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)
測定条件:
展開溶媒 クロロホルム
カラム TSK−gel GMHXL ×2本
溶離液流量 1ml/min
カラム温度 40℃
【0108】
<LUMOのエネルギー準位>
pドープシリコン基板(フルウチ化学社製)を25mm角に切断し、アセトン中、及び、イソプロピルアルコール中でそれぞれ10分間超音波洗浄した後、UVオゾン処理を20分間施した。この基板に0.5〜2重量%の濃度に調整した試料溶液を垂らし、毎分1000〜3000回転の速度でスピンコートして測定サンプルとした。作成した測定サンプルについて、紫外光電子分光装置(コベルコ科研社製)を用いて、イオン化ポテンシャルを測定した。測定値を試料の最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位とした。
同時に、上記同様に作成した別の試料薄膜について、紫外可視分光光度計(製品名「Agilent 8453」、アジレント・テクノロジー社製)を用いて、吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルから吸収ピークの長波長側吸収端λ(単位:nm)を読み取り、下記数式(1)により、HOMO−LUMOギャップ(B.G.)を求めた。
B.G.=1240/λ (1)
【0109】
更に、上記のように複合電子分光分析装置を用いて求めたHOMOのエネルギー準位と、上記数式(1)から求めたHOMO−LUMOギャップ(B.G.)とから、下記数式(2)により、LUMOのエネルギー準位を求めた。
(LUMOのエネルギー準位)=(HOMOのエネルギー準位)−(B.G.) (2)
【0110】
(合成例1)
<ホウ素含有化合物BC6F5ジブロミドの合成>
窒素雰囲気下、ペンタフルオロフェニルマグネシウムブロミドのジエチルエーテル溶液(1M、61.2ml、70.4mmol)を0℃まで冷却し、ここへ塩化亜鉛のジエチルエーテル溶液(1M、17ml、17mmol)を攪拌しながら滴下していく。滴下終了後、室温で1時間攪拌する。そこへ5−ブロモ−2−(4−ブロモ−2−ジブロモボリルフェニル)ピリジン(3.8g、8mmol)を含むトルエン溶液(80ml)を加え、80℃で15時間加熱攪拌した。室温まで冷却し、反応溶液を氷水に加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:1)で精製することにより、下記式(19);
【0111】
【化20】

【0112】
で表されるホウ素含有化合物BC6F5ジブロミド(2.2g、4.61mmol)を収率58%で得た。
【0113】
(合成例2)
<ホウ素含有重合体F6B(C)の合成>
合成例1で得られたBC6F5ジブロミド(337mg、0.51mmol)、下記式(20);
【0114】
【化21】

【0115】
で表されるF6ボロン酸ジエステル(292mg、0.52mmol)をトルエン(3ml)とTHF(3ml)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、室温で10分間攪拌した。ここへ、Aliquat336(21mg)、25質量%EtNOH水溶液(0.86ml)と蒸留水(0.75ml)との混合水溶液を加え、アルゴン雰囲気下、室温でさらに20分間攪拌し脱気を完了させた。ここにテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(8.9mg、0.007mmol)を加えた後、115℃で還流させながら48時間加熱攪拌した。末端封止のため、ブロモベンゼン(105mg、0.67mmol)を加え5時間攪拌し、さらにフェニルボロン酸(294mg、2.41mmol)を加え5時間攪拌した。室温まで放冷し、トルエンで希釈した反応溶液を塩酸で1回、純水で2回分液洗浄し、有機層を数ml程度まで濃縮した。濃縮液を300mlのメタノール中へ滴下させそのまま10分攪拌し、得られた沈殿を濾取した。同様の精製過程を合計3回繰り返し、固体を減圧乾燥させることで、下記式(21);
【0116】
【化22】

【0117】
で表されるホウ素含有重合体F6B(C)を得た。ホウ素含有重合体F6B(C)の重量平均分子量は、140000であった。
【0118】
(合成例3)
<ホウ素含有化合物B(m−diCFPh)ジブロミドの合成>
窒素雰囲気下、1−ブロモ−3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(14.8g、 50.3mmol)にジエチルエーテル200mlを加え−78℃に冷却し、ここへノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(1.65M、 30.9ml、 50.9mmol)を滴下し、−78℃で1時間攪拌する。ここへ塩化亜鉛のジエチルエーテル溶液(1M、24.3ml、24.3mmol)を攪拌しながら滴下していく。滴下終了後、室温で1時間攪拌する。そこへ5−ブロモ−2−(4−ブロモ−2−ジブロモボリルフェニル)ピリジン(5.6g、11.6mmol)を含むトルエン溶液(200ml)を加え、85℃で15時間加熱攪拌した。室温まで冷却し、反応溶液を氷水に加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=1:2)で精製することにより、下記式(22);
【0119】
【化23】

【0120】
で表されるホウ素含有化合物B(m−diCFPh)ジブロミド(6.0g、8.0mmol)を収率69%で得た。
【0121】
(合成例4)
<ホウ素含有重合体B(m−diCFPh)の合成>
窒素雰囲気下、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(90mg、 0.3mmol)、1、5シクロオクタジエン(97mg、 0.9mmol)、2,2’−ビピリジル(70.3mg、0.45mmol)、N,N’−ジメチルホルムアミド2.1mlを加え、75℃で1時間加熱攪拌した。ここへ合成例3で得られたB(m−diCFPh)ジブロミド(224.7mg、0.3mmol)をトルエン3。6mlに溶解させた溶液を投入し、窒素フロー下、75℃で24時間加熱撹拌した。ここへ、ブロモベンゼン1mlを加え、75℃でさらに12時間加熱攪拌した。溶液を塩酸で1回、純水で2回分液洗浄し、有機層を数ml程度まで濃縮した。濃縮液を300mlのメタノール中へ滴下させそのまま10分撹拌し、得られた沈殿を濾取した。同様の精製過程を合計3回繰り返し、固体を減圧乾燥させることで、下記式(23);
【0122】
【化24】

【0123】
で表されるホウ素含有重合体B(m−diCFPh)を得た。ホウ素含有重合体B(m−diCFPh)の重量平均分子量は、100000であった。
【0124】
(合成例5)
<ホウ素含有化合物B8ジブロミドの合成>
アルゴン雰囲気下、5−ブロモ−2−(4−ブロモ−2−ジブロモボリルフェニル)ピリジン(400mg、0.83mmol)を含むトルエン溶液(5.0ml)とジクロロメタン(5.0ml)の混合溶媒に、トリオクチルアルミニウム(1.4M、3.6ml、1.7mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。反応溶液を0℃まで冷却した後、水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、分取薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製することにより、下記式(24);
【0125】
【化25】

【0126】
で表されるホウ素含有化合物B8ジブロミド(400mg、0.73mmol)を収率88%で得た。
【0127】
(合成例6)
<ホウ素含有重合体F6B(C)の合成>
合成例5で得られたB8ジブロミド(137.3mg、0.25mmol)、上記式(20)で表されるF6ボロン酸ジエステル(140.3mg、0.251mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(2.9mg、0.0025mmol)をトルエン3mlに溶解させ、窒素フロー下、室温で10分間撹拌した。ここへ、炭酸アンモニウム塩(240.4mg、0.8mmol)を蒸留水0.75mlに溶解させて調製した水溶液を加え、窒素フロー下、室温でさらに20分間撹拌し、脱気を完了させた。これを115℃で17時間還流加熱撹拌し、末端封止のため、ブロモベンゼン(39.3mg、0.25mmol)を加え1時間撹拌し、さらにフェニルボロン酸(30.5mg、0.25mmol)を加えた。室温まで放冷し、トルエン溶液を塩酸で1回、純水で2回分液洗浄し、有機層を数ml程度まで濃縮した。濃縮液を300mlのメタノール中へ滴下させそのまま10分撹拌し、得られた沈殿を濾取した。同様の精製過程を合計3回繰り返し、固体を減圧乾燥させることで、下記式(25);
【0128】
【化26】

【0129】
で表されるホウ素含有重合体F6B(C)を得た。ホウ素含有重合体F6B(C)の重量平均分子量は、144000であった。
【0130】
(実施例1)
[1] まず、市販されている平均厚さ2.3mmのFTO付き透明ガラス基板を用意した。
[2] 次に、FTO電極(陰極)を亜鉛粉末と4N塩酸によりエッチングし、パターン形成を行った。
[3] 次に、該FTO電極上に、スプレイ熱分解法により、平均厚さ100nmの酸化チタン(TiO)層(電子注入性金属酸化物層)を形成した。具体的には、ジャーナル・オブ・ヨーロピアン・セラミック・ソサイエティ(Journal of European Ceramic Society)、1999年、第19巻、p.903又はセラミック・トランスアクションズ(Ceramic Transactions)、2000年、第109巻、p.473等を参照して、ジイソプロポキシ・ビスアセチルアセトナトチタニウム溶液とエタノールを質量比1:10で混合し、450℃で加熱された上記[2]記載のFTO基板上にスプレイ塗布した。
[4] 次に、合成例2で得られたホウ素含有重合体F6B(C)を0.5質量%でキシレンに溶解させ、上記TiO層(電子注入性金属酸化物層)上に、スピンコート法(2000rpm)により塗布した後、乾燥させた。なお、液状材料の乾燥条件は、大気下、室温とした。これにより発光層が得られた。
[5] 上記発光層上に、真空蒸着装置を用いて、平均厚さ10nmで酸化モリブテン(MoO)を蒸着し、正孔注入性金属酸化物層を作製した。
[6] 上記[5]の連続工程で、平均厚さ30nmで金(Au)(陽極)を蒸着し、素子を得た。
[7] [6]までで得られたHOILED素子について、定電流(100mA/cm)下での輝度測定を行った。
【0131】
(実施例2)
ホウ素含有重合体F6B(C)を0.5質量%でキシレンに溶解させる代わりに、合成例4で得られたホウ素含有重合体B(m−diCFPh)を1.0質量%でキシレンに溶解させた以外は、実施例1と同様にして、HOILED素子を作製し、定電流(100mA/cm)下での輝度測定を行った。
【0132】
(比較例1)
ホウ素含有重合体F6B(C)の代わりに、合成例6で得られたホウ素含有重合体F6B8を用いた以外は、実施例1と同様にして、HOILED素子を作製し、定電流(100mA/cm)下での輝度測定を行った。
【0133】
(実施例3)
[1] 市販されているシート抵抗14ΩmITO付き透明ガラス基板を用意した。
[2] 透明電極の膜について酸素プラズマ処理を、電流10mA、5分の条件で行った。具体的には、サンユー電子製VPS020を用い、2〜3回酸素にてパージした後処理を行った。
[3] 上記プラズマ処理された透明電極上に正孔注入/輸送材料として、ポリチオフェン誘導体であるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)とPSS(ポリスチレンスルフォン酸)の混合物をスピンコートにより成膜を行った。条件はスロープ1秒3000回転45秒で膜厚600オングストロームを得た。これを、200℃、10分間の焼成により、膜化を行い正孔注入/輸送層を形成した。
[4] 次に、合成例2で得られたホウ素含有重合体F6B(C)を0.5質量%でキシレンに溶解させ、上記正孔注入/輸送層上に、スピンコート法(2000rpm)により塗布した後、乾燥させた。なお、液状材料の乾燥条件は、大気下、室温とした。これにより発光層が得られた。
[5] 上記発光層上に、真空蒸着装置を用いて、平均厚さ10nmでカルシウム(Ca)そして平均厚さ200nmでアルミニウム(Al)を蒸着し、陰極を作製した。
[6] 上記[5]までで得られた有機EL素子(標準OLED素子)について、定電流(100mA/cm)下での輝度測定を行った。
【0134】
(実施例4)
ホウ素含有重合体F6B(C)を0.5質量%でキシレンに溶解させる代わりに、合成例4で得られたホウ素含有重合体B(m−diCFPh)を1.0質量%でキシレンに溶解させた以外は、実施例3と同様にして、有機EL素子(標準OLED素子)を作製し、定電流(100mA/cm)下での輝度測定を行った。
【0135】
(比較例2)
ホウ素含有重合体F6B(C)の代わりに、合成例6で得られたホウ素含有重合体F6B8を用いた以外は、実施例3と同様にして、有機EL素子(標準OLED素子)を作製し、定電流(100mA/cm)下での輝度測定を行った。
【0136】
実施例1〜2及び比較例1について、HOILED素子における、初期輝度を1とした時のEL輝度の時間変化を示した図が図1である。実施例3〜4及び比較例2について、標準OLED素子における、初期輝度を1とした時のEL輝度の時間変化を示した図が図2である。同条件下の素子において、ホウ素原子上に電子吸引性基であるペンタフルオロフェニル基(C)を有し、正孔に対して(酸化に対して)耐性のある9,9´−ジノルマルヘキシルフルオレン(F6)とのコポリマーであるホウ素含有重合体F6B(C)は、HOILED構造、標準OLED構造問わず概ね安定であることがわかった(実施例1及び3)。
一方、同様に電子吸引性基であるジトリフルオロメチルフェニル基(m−diCFPh)を有するホウ素含有化合物のホモポリマーであるホウ素含有重合体B(m−diCFPh)は、わずかではあるが、二つの素子構造の間で差が生じている(実施例2及び4)。これは、電子律速の素子である標準OLED構造と正孔律速の素子であるHOILED構造の差であると考えている。元来、正孔に対してはそれほど耐性のないホウ素含有化合物のみで形成されているホウ素含有重合体B(m−diCFPh)では、正孔を中心に動かす本HOILED構造では若干の劣化が見られたと考えている。一方、標準OLED構造では電子が中心に動くためその差はほとんどないと言える。
しかしながら、比較例であるホウ素含有重合体F6B8の結果(比較例1及び2)を見ると、本発明で掲げるホウ素原子上の置換基を電子吸引性基に置き換える効果は十分に見られていると言える。ホウ素原子上の置換基を電子吸引性でない置換基とした場合には、例えば図2で示す元来耐性のある電子中心の素子においても大きな劣化が観測されている。正孔中心の素子である図1は言わずもがなである。これらの結果から、電子吸引性置換基をホウ素原子上に配することは安定性向上に大きく寄与し、さらに、正孔に対して耐性のあるものとのコポリマーはさらに安定性向上に寄与することがわかる。
なお、上記実施例においては、ホウ素含有重合体として特定の構造を有するものが用いられているが、本発明のホウ素含有重合体が、LUMOのエネルギー準位が低く、駆動安定性が高いものとなる機構は、上述したようにホウ素原子上の電子吸引性置換基による効果であることから、本発明のホウ素含有重合体であれば全て同様である。従って、上記実施例、比較例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られるホウ素含有重合体を含む機能性電子素子であって、
該ホウ素含有化合物は、下記式(1);
【化1】

(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていることを表す。ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における点線部分は、少なくとも1対の原子が二重結合で結ばれることを表し、該二重結合が環構造と共役していてもよい。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又は環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。R及びRは、同一若しくは異なって、1価の電子吸引性置換基又は1価の置換基を表す。)で表され、該R及びRのうち少なくとも1つは1価の電子吸引性置換基であり、該ホウ素含有化合物は、式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも1つが、反応性基を有する置換基であることを特徴とする機能性電子素子。
【請求項2】
前記機能性電子素子は、前記式(1)におけるR及びRが共に1価の電子吸引性置換基であることを特徴とする請求項1に記載の機能性電子素子。
【請求項3】
前記機能性電子素子は、前記式(1)におけるR及びRが共に、炭素数1〜30の直鎖状若しくは分岐状ハロアルキル基、炭素数3〜30の脂環式ハロアルキル基、置換若しくは無置換のハロアリール基、又は、炭素数1〜30のハロアルキル基置換のアリール基のいずれかの1価の電子吸引性置換基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機能性電子素子。
【請求項4】
前記機能性電子素子は、発光デバイスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機能性電子素子。
【請求項5】
前記発光デバイスは、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項4に記載の機能性電子素子。
【請求項6】
ホウ素含有化合物を含む単量体成分を重合して得られるホウ素含有重合体であって、
該ホウ素含有化合物は、下記式(1);
【化2】

(式中、点線の円弧は、ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分の一部と共に環構造が形成されていることを表す。ホウ素原子と窒素原子とを繋ぐ骨格部分における点線部分は、少なくとも1対の原子が二重結合で結ばれることを表し、該二重結合が環構造と共役していてもよい。窒素原子からホウ素原子への矢印は、窒素原子がホウ素原子へ配位していることを表す。X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又は環構造の置換基となる1価の置換基を表し、点線の円弧部分を形成する環構造に複数個結合していてもよい。R及びRは、同一若しくは異なって、1価の電子吸引性置換基又は1価の置換基を表す。)で表され、該R及びRのうち少なくとも1つは1価の電子吸引性置換基であり、該ホウ素含有化合物は、式(1)中のX、X、R及びRの少なくとも1つが、反応性基を有する置換基であることを特徴とするホウ素含有重合体。
【請求項7】
請求項6に記載のホウ素含有重合体を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料。
【請求項8】
請求項6に記載のホウ素含有重合体を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用電子注入材料。
【請求項9】
請求項6に記載のホウ素含有重合体を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用電子輸送材料。
【請求項10】
請求項6に記載のホウ素含有重合体を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用正孔注入材料。
【請求項11】
請求項6に記載のホウ素含有重合体を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用正孔輸送材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−151148(P2012−151148A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6457(P2011−6457)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】