説明

ホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法

【課題】 硬化後に耐熱性と難燃性を有し、且つ溶解性や成形性に優れたホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 フェノール類とアルデヒト類とを塩基性触媒存在下で反応して得られる固形レゾール型フェノール樹脂(A)と、一般式 B(OR)n(OH)3-n (式中、nは0〜3までの整数、RはCmH2m+1のアルキル基であり、mは1〜10の整数を表す。)で表されるホウ酸系化合物(B)とを、アミド系溶剤(C)に溶解させ、(A)と(B)とを(A)が硬化しない温度で反応させることを特徴とするホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物に優れた耐熱性や難燃性を与え、溶解性や成形性に優れたホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は各種の優れた特性を生かして主に成形材料、積層材料、摩擦材料、塗料などの用途に広く使用されている。しかし、近年、各用途での要求性能が高度化するにつれ、特に耐熱性及び難燃性において要求される高いレベルに対して十分に対応できなくなってきている。耐熱性、難燃性を向上させる手段としては、フェノール樹脂をホウ酸で変性することが有効であることは古くから知られている。例えば、レゾール型フェノール樹脂にホウ酸を添加し、溶融状態で反応させる方法が報告されている(特許文献1及び特許文献2参照)。しかし、この方法ではレゾール型フェノール樹脂とホウ酸とを、例えば110℃以上の高温で溶解させ、次いでこの加熱下で共縮合させるため、レゾール型フェノール樹脂の熱硬化が進行してしまい、得られたホウ素変性フェノール樹脂の溶剤溶解性が大きく低下するという欠点があった。
また、レゾール型フェノール樹脂とホウ酸とをメタノールに溶解して得られるワニスが報告されている(特許文献3参照)。しかし、メタノールを溶剤とした場合、メタノールとホウ素との反応により低沸点のホウ酸エステルを生成し気化するため、最終硬化物に含まれるホウ素含有量が低下したり、またワニスの保存安定性が悪く、商品としての実用性が乏しい。更に、メタノールに溶解できるホウ酸変性レゾール型フェノール樹脂は低分子量のレゾール型フェノール樹脂に限られており、このような低分子量の変性樹脂を用いて得られた硬化物は力学物性が低い欠点を有する。
【0003】
【特許文献1】特公昭40-13073
【特許文献2】特開昭59-179614
【特許文献3】特開平2-145627
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、硬化後に耐熱性と難燃性を有し、且つ溶解性や成形性に優れたホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、アミド系有機溶剤中においてレゾール型フェノール樹脂とホウ酸系化合物とを低温で反応させて得られたホウ素変性レゾール型フェノール樹脂溶液をそのままワニスとして用いることによりその硬化物に優れた耐熱性や難燃性を与え、溶解性や成形性を併せ持つフェノール樹脂組成物を得ることができ、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、フェノール類とアルデヒト類とを塩基性触媒存在下で反応して得られる固形レゾール型フェノール樹脂(A)と、ホウ酸系化合物(B)とを、アミド系溶剤(C)に溶解させ、(A)と(B)とを(A)が硬化しない温度で反応させることを特徴とするホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、従来の方法に比べてより優れた溶解性及び塗膜形成や製膜性などに優れた成形性を有するホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物を製造できる。即ち、熱硬化した成分を殆ど含まないで且つ高濃度のホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法を提供することができる。更に本発明は、レゾール型フェノール樹脂が硬化しない温度、即ち60℃未満、特に室温程度の反応温度で反応せしめることができるため、エネルギーコストが低減されるメリットを有する。更に、ホウ酸変性時に不均一な熱硬化反応が生じないため、耐熱性・難燃性の向上にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いるレゾール型フェノール樹脂(A)としては、フェノール類とアルデヒド類のモル比が好ましくは1:1〜1:2になるように配合し、アルカリ触媒、特に好ましくはアンモニア水溶液存在下で反応させ、減圧蒸留により水を除去して得られる高分子量のものが用いられる。得られたレゾール型フェノール樹脂のGPCの数平均分子量は250以上が好ましく、より好ましくは300〜800である。かかる分子量が上記範囲であれば、得られる変性樹脂の硬化物の力学物性が良好で、実用性が高い。又、得られる樹脂組成物の溶剤溶解性も充分で、ワニスとしての使用に適する。また、レゾール型フェノール樹脂に含まれる水の量は好ましくとしては4質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。水の含有量が4質量%を超えると、ホウ素変性レゾール型フェノール樹脂の合成において加水分解反応を生じる恐れがあるため、好ましくない。
【0008】
ここでフェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、m-クレゾール、m-エチルフェノール、レゾルシン、カテコール、ヒドロキノン及びビスフェノールAなどが挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて使用できる。また、アルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて使用できる。
【0009】
本発明で用いるホウ酸系化合物(B)としては、ホウ酸およびホウ酸エステル、ホウ酸エステルの部分重縮合物が用いられる。ホウ酸およびホウ酸エステルとしては、一般式(1)
B(OR)n(OH)3-n (1)
(式中、nは0〜3までの整数、RはCmH2m+1のアルキル基であり、mは1〜10の整数を表す。)で表わされるものが用いられる。ホウ酸としては、具体的には、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、およびそれらの混合物が挙げられ、また、ホウ酸エステルとしては、具体的には、例えばホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。これらのホウ酸及びホウ酸エステルは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。また、それらの部分加水分解物や部分重縮合物も単独又は併用して用いることができる。上記の中ではホウ酸が最も好ましく用いられる。なお、前記の部分重縮合物は、一般式(1)で表されるホウ酸エステルを、水、溶剤、及び必要により酸又は塩基触媒と共に混合攪拌する方法によって得ることができる。
【0010】
本発明で使用するホウ酸系化合物(B)の添加量は、ホウ酸系化合物中に含まれるホウ素量のレゾール型フェノール樹脂(A)に対する質量%で規定される。例えば、フェノール樹脂100gに対してホウ酸を10g用いた場合にはホウ素含有量は1.75質量%である。
即ち、レゾール型フェノール樹脂(A)に対するホウ酸系化合物(B)の量は、ホウ素の(A)に対する割合が好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.3〜4質量%、特に好ましくは0.5〜3質量%となるように用いられる。かかるホウ素含有量が0.1〜5質量%の場合、得られる硬化物の耐熱性や難燃性が向上し、且つ該樹脂組成物の粘度が低くて、含浸剤やコーディング材などとして好適に用いられる。
【0011】
本発明で用いるアミド系溶剤(C)としては、原料のレゾール型フェノール樹脂及びホウ酸系化合物及び反応生成物ホウ素変性レゾール型フェノール樹脂を溶解するようなものが用いられる。具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドが好ましく用いられ、最も好ましくはN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンである。尚、用いるアミド系溶剤(C)の量は原料であるレゾール型フェノール樹脂及びホウ酸系化合物を各々溶解できる量であれば良く、必ずしも限定されないが、得られるホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物溶液の適正粘度範囲から、レゾール型フェノール樹脂及びホウ酸系化合物の合計100質量部に対して溶剤が50〜500質量部となるように用いることが好ましい。
【0012】
本発明におけるホウ素変性レゾール型フェノール樹脂の製造は、例えば次のようにして行うことができる。まず、フェノール類1モルに対してアルデヒド類1〜2モルを塩基性触媒の存在下で反応させ、得られる初期縮合物を静置分離して、初期縮合物中の水分を2〜15質量%にし、しかる後脱水、脱フェノール及び縮合反応を行い、レゾール型固形フェノール樹脂を得る。次いで、得られたレゾール型フェノール樹脂にホウ酸のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を加え、両者を室温(25℃)で15時間反応させ、目的とするホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物を得ることができる。
本発明のホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造においては、レゾール型フェノール樹脂とホウ酸系化合物との反応温度が重要となる。反応温度としては、60℃未満の低温が好ましく、より好ましくは15〜50℃、更に好ましくは20〜40℃、特に好ましくは室温(20〜30℃)である。また、反応時間は反応温度により異なるが、通常1〜24時間である。60℃を超える温度ではホウ素変性時にフェノール樹脂の架橋反応が生じて好ましくない。
【0013】
上述の製造方法で得られたホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物は、そのままワニスとして耐熱性塗料、耐熱性結合材などとして有効に利用することができる。例えば、本発明のホウ素変性フェノール樹脂組成物からなる紙基材積層板を得るには、上述のホウ素変性樹脂ワニスを結合材としてクラフト紙、リンター紙、ガラス布、ガラス不織布、ポリエステル布、アラミド繊維布、帆布などの紙基材に塗布含浸させて、乾燥して得られた積層材料に銅箔を加えて熱プレスすることにより積層成形する方法が挙げられる。
本発明のホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物は、良溶剤の中、低温で均一に反応して得られるため、耐熱性、難燃性を有するだけでなく、優れた溶解性及び塗膜形成や製膜性などに優れた成形性をも有し、含浸剤やコーティング材などとして好適に用いられる。これに対して、従来の溶融法では、ホウ酸変性時に一般に樹脂の溶融温度以上に加熱するため、レゾール型フェノール樹脂の熱硬化が部分的に進行してしまい、溶剤溶解性が極端に低下し、実用性に乏しくなる。また、ホウ酸変性時の溶融粘度が高く、均一に反応しにくいため、耐熱性と難燃性の向上にも悪影響を与える。
【実施例】
【0014】
本発明を実施例によって更に具体的に説明する。また、以下の実施例において、ガラス転移温度及び貯蔵弾性率は、固体動的粘弾性測定装置(レオメトリックス・ファーイースト株式会社製RSA-2)を用い、測定周波数1Hz、昇温速度2℃/分で測定した。なお、ガラス転移温度(Tg)はtanδピーク温度とした。ホウ素含有量はPerkn Elmer社製 Optima 3300DVを用いて、プラズマ発光(ICP)の測定を行い、予めホウ酸を用いて作成しておいた検量線により定量した。組成物の溶液粘度は、山一電機株式会社製VM-100A振動式粘度計を用いて室温で測定した。
【0015】
(実施例1)
加熱冷却ジャケット、攪拌機及び減圧脱水装置を備えた反応釜にフェノール1000質量部、41.5%ホルマリン1072質量部を加え、攪拌を開始した。25%アンモニア水200質量部を加え、70℃まで昇温し、遊離ホルムアルデヒドが1%になるまで反応させた。そして、反応釜の温度を50℃以下に冷却し、30分間静置分離を行い、上層水750質量部を除去した。続いて、得られたこの初期縮合樹脂を95〜100℃、減圧度700〜750mmHgで脱水、脱フェノールを行い、融点71℃、150℃におけるゲルタイム110秒、水分1%の固形レゾール型フェノール樹脂Aを得た。
得られたレゾール型フェノール樹脂A 100質量部とホウ酸6.8質量部をDMFに溶解させ、室温で15時間攪拌して反応した。これにより得られたホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の粘度は1450cpであった。また、この変性樹脂組成物をガラス板上にキャストして80℃で乾燥した後、150℃、180℃各1時間熱硬化させて得られた硬化フィルムはクラック、気泡、しわなどもなく、良好な表面形態を示した。これに対して、下記の比較例1で得られたホウ素変性樹脂はDMFに溶解せず、キャスト膜を作れなかった。
更に、上記のホウ素変性樹脂組成物を型に注ぎ、乾燥、熱硬化させて、幅6mm、厚み1mm の注型板を作製し、動的粘弾性測定を行った。得られた貯蔵弾性率(E’)及びtanδピーク温度(Tg)を表2に示す。なお、表2には下記の比較例2の未変性のレゾール型フェノール樹脂の硬化物結果も併せて示す。比較例2では、貯蔵弾性率(E’)が270℃で大きく低下したのに対し、実施例1のE’では270℃まで殆ど低下しなかった。また、実施例1で得られた硬化物のガラス転移温度(Tg)も比較例2より高い。ホウ素変性レゾール型フェノール樹脂硬化物の耐熱性が大きく向上していることが明らかとなった。
【0016】
(比較例1)
実施例1で得られたレゾール型フェノール樹脂A 100質量部にホウ酸6.8質量部を加え、110℃に昇温した。窒素気流下、溶融状態で1時間20分攪拌して反応した。得られたホウ素変性樹脂はDMFに溶かしたところ、完全に溶解しなかった。また、X線回折を測定したところ、未反応のホウ酸が検出された。変性反応がまだ終わっていない内にレゾール型フェノール樹脂の熱硬化はすでに進行してしまったことが明かとなった。
【0017】
(比較例2)
実施例1で得られたレゾール型フェノール樹脂Aを熱プレスにより成形板を作製し、150℃、180℃各1時間熱処理して動的粘弾性測定を行った。その結果を表2に示す。
【0018】
(実施例2)
実施例1で得られた固形レゾールフェノール樹脂A 100質量部とホウ酸4.7質量部をDMFに溶解させ、実施例1と同様にしてホウ素変性フェノール樹脂組成物及びその硬化物を調製した。その結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とアルデヒト類とを塩基性触媒存在下で反応して得られる固形レゾール型フェノール樹脂(A)と、ホウ酸系化合物(B)とを、アミド系溶剤(C)に溶解させ、(A)と(B)とを(A)が硬化しない温度で反応させることを特徴とするホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記レゾール型フェノール樹脂(A)の数平均分子量が250〜800であることを特徴とする請求項1に記載のホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ホウ酸系化合物(B)が
B(OR)n(OH)3-n
(式中、nは0〜3までの整数、RはCmH2m+1のアルキル基であり、mは1〜10の整数を表す。)である請求項1叉は2に記載のホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記レゾール型フェノール樹脂(A)に対する、ホウ酸系化合物(B)に含まれるホウ素の量が0.1〜5質量%である請求項1〜3のいずれか1つに記載のホウ素変性レゾール型フェノール樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2006−89551(P2006−89551A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274910(P2004−274910)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】