説明

ホウ酸塩基含有ヒドロゲル及びその製造方法

【課題】 糖鎖認識部位を多く含有できる新規なホウ酸塩基含有ヒドロゲル及びホウ酸塩基含有ヒドロゲルを容易に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 水溶性有機モノマーの重合体と、水膨潤性粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ヒドロゲルを高圧蒸気処理により滅菌する滅菌方法により、含水物であるヒドロゲルに対して、放射線滅菌のように物性が低下したり、吸水性が低下したり、またエチレンオキサイドガス滅菌のように、毒性物質が残留したりすることなく、安全で元の物性を保った状態で滅菌することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、医薬、農業、化学、分析等の分野で機能性材料として有用である新規なホウ酸塩基含有ヒドロゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療、食品、発酵等の分野において糖の分子認識に関する研究が広くなされており、糖と容易且つ速やかに反応するホウ酸を有する化合物が注目されてきている。
【0003】
糖鎖認識機能を有するホウ酸系の化合物としては、フェニルボロン酸基を不溶性担体に固定化されたものが、糖や核酸、糖タンパクなどの分離、分析に用いられている。例えば、セルロースゲルやポリアクリルアミドゲルの官能基にアミノフェニルボロン酸又はその誘導体を反応させて得られるフェニルボロン酸基含有ゲルが報告されている(非特許文献1及び2参照)。しかし、これらの方法では、合成ステップが多く、反応率も低いため、実用性に乏しい。また、フェニルボロン酸基含有(メタ)アクリレートモノマーと他の親水性モノマーとの共重合ポリマーやゲルを人工レクチンとした研究が数多く報告されている(特許文献1参照)。しかし、フェニルボロン酸モノマーが疎水性であるため、親水性共重合ゲルの中でのフェニルボロン酸の比率を上げられず、糖鎖認識部位であるボロン酸基含有率が低い問題を有していた。また、用いるフェニルボロン酸モノマーが高価であることも実用上問題であった。
【0004】
【特許文献1】特開平4−124144号公報
【非特許文献1】H.L.Weith,et.al., Biochemistry 9, 4396 (1970)
【非特許文献2】R.E.Duncan,et.al., Anal.Biochem. 66, 532 (1975)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、糖鎖認識部位を多く含有できる新規なホウ酸塩基含有ヒドロゲル及びホウ酸塩基含有ヒドロゲルを容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、アミノ基含有(メタ)アクリレートと安価なホウ酸とを反応して得られるホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートと多官能モノマー及び水を必須成分として用い、必要に応じて他の単官能モノマーも加え、ラジカル重合により水を含んでなるホウ酸塩基含有ヒドロゲルを合成することができること、更に、得られたホウ酸塩基含有ポリマーが糖鎖認識性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、アミノ基含有(メタ)アクリレートホウ酸塩単位を含有するヒドロゲルであって、且つその有機架橋高分子中のホウ素含有量が0.1〜20質量%であるホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートゲルに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルは、ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート構造単位中のアミノ基1つに対し、1〜8個のホウ素原子を有することができるため、従来のフェニルボロン酸の親水性ゲルに比べて糖鎖認識部位の含有率を高くすることができる。また、該ヒドロゲル中のホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート単位の比率を変えることにより、該ヒドロゲルの糖鎖認識部位の割合を適宜調整できる。このため、該ヒドロゲルは優れた糖鎖認識機能を有する。また、該ヒドロゲルは親水性を有するために生体適合性が高いことから、生体材料をはじめとする医療材料等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルは、ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート構造単位を有する有機架橋高分子と、水性媒体とからなるものである。
【0009】
本発明におけるホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート構造単位とは、アミノ基を含有する基と、無機ホウ酸系化合物との反応により得られるホウ酸塩基を有する単位であり、具体的には、下記一般式(1)で表されるアミノ基含有(メタ)アクリレート構造単位のアミノ基の部分に無機ホウ酸系化合物が反応した構造単位である。
【0010】
【化1】

(式中、RはH又はCHを表し、Aは−(CH)−,−(CH−,−(CH−,−CHCH(CH)−、又は−CHCH(OH)CH−のいずれかであり、R及びRは各々独立してH又はC2m+1のアルキル基であり、mは1〜4の整数を表す。)
【0011】
上記構造式(1)で表されるアミノ基含有(メタ)アクリレート構造単位は、具体的には、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチルアクリレートなどからなる構造単位が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」の表示は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
【0012】
上記(メタ)アクリレート構造単位のアミノ基と反応する無機ホウ酸系化合物としては、下記一般式(2)、
B(OR(OH)3−n (2)
(式中、nは0〜3の整数、RはC2p+1のアルキル基であり、pは1〜10の整数を表す。)で表わされるホウ酸およびホウ酸エステルが用いられる。
【0013】
無機ホウ酸系化合物の具体的なものとしては、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、およびそれらの混合物であり、また、ホウ酸エステルの具体的なものとしては、例えばホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。これらのホウ酸及びホウ酸エステルは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。上記の中ではホウ酸が最も好ましく用いられる。
【0014】
無機ホウ酸系化合物は、上記構造のままアミノ基とイオン的に結合していてもよいが、アミノ基の存在により無機ホウ酸系化合物同士が縮合することができるため無機ホウ酸系化合物が縮合した後に結合することもできる。これにより、ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート構造単位アミノ基1つに対し、ホウ素原子を1〜8個含有することができる。縮合する場合の縮合形態は特に制限されず、鎖状に縮合したものであっても環状に縮合したものであってもよい。
【0015】
本発明における有機架橋高分子の架橋は、多官能モノマーの使用、γ線照射、電子線照射などの公知慣用による架橋がいずれも用いられるが、多官能モノマーによる架橋であることが好ましい。
【0016】
上記多官能性モノマーとしては、例えば、メチレンビス(アクリルアミド)、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼンなどが使用できる。
【0017】
本発明における有機架橋高分子が、これら多官能性モノマー単位を有する場合には、これら多官能モノマー単位が、全モノマー単位中の30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。これらの多官能モノマーの種類や使用量などを変えることによって、ヒドロゲルの強度や膨潤性などを調製することができる。
【0018】
本発明における有機架橋高分子は、ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートと、他の単官能モノマーとを共重合させたものであってもよい。
【0019】
上記単官能モノマーとしては、以下のような水溶性モノマーと疎水性モノマーが例として挙げられる。
【0020】
水溶性モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリル酸、2−ヒトロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリトン、N−ビニルラクトン、無水マレイン酸などが挙げられ、こちらは一種ないし二種以上の混合で使用することができる。また、この中に下限臨界共溶温度(LCST)を示すようなモノマー、例えばN−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドは特に好ましく用いられる。
【0021】
疎水性モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、クロルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルバレート、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、イソブチレン、アクリロニトリルなどの一種ないし二種以上の混合物が挙げられる。
【0022】
本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルは上記有機架橋高分子と水性媒体とからなる。水性媒体とは、水又は水と水溶性溶媒との混合溶媒をいい、該水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ピリジン、ジメチルホルムアミドなどの溶媒を使用できる。好ましくは水である。
【0023】
本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲル中のホウ素含有量は、有機架橋高分子全体の0.1質量%以上であり、好ましくは0.1〜20質量%、特に好ましくは0.3〜16質量%である。かかる有機架橋高分子のホウ素含有量が0.1質量%以上であると、糖鎖の認識機能を好適に発揮でき、20質量%以下であれば、細胞凝集活性化剤として用いた場合は増殖抑制が生じないため好ましい。
【0024】
本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルは、親水性を有することから、生体適合性が高く、糖鎖認識性に優れる。また、上記のとおり多くのホウ酸塩基を含有することができるため、生体適合性の機能性材料として有用である。例えば、本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルは、グルコース存在下で水溶液中大きく膨潤し、優れた糖応答性を有することから、生体材料や糖センサなどへの適用が期待される。
【0025】
本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルの製造法は以下の二つのいずれかを用いることが好ましい。一つはアミノ基含有(メタ)アクリレートと無機ホウ酸系化合物とを反応させた(メタ)アクリレートホウ酸塩と、多官能モノマーとを含有する組成物を、水性媒体の存在下で重合する方法である。もう一つはアミノ基含有(メタ)アクリレートと多官能モノマーとを含有する組成物を、水性媒体の存在下で重合してヒドロゲルを得た後、該ヒドロゲルに無機ホウ酸系化合物を反応させる方法である。いずれの場合においても、組成物中に他の単官能モノマーを含有させることにより、ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートと、他の単官能モノマーとを共重合させることができる。
【0026】
上記(メタ)アクリレートホウ酸塩(ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート)の具体例としては、ジメチルアミノエチルメタクリレートホウ酸塩、ジエチルアミノエチルメタクリレートホウ酸塩、ジメチルアミノエチルアクリレートホウ酸塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドホウ酸塩などが挙げられる。N−アルキル置換アミノ(メタ)アクリレートの場合、結晶性の(メタ)アクリレートホウ酸塩が得られる。これに対して、N−アルキル置換アクリルアミド、例えばジメチルアミノプロピルアクリルアミドの場合、非結晶性のアクリレートホウ酸塩が得られる。これらの結晶性と非結晶の(メタ)アクリレートホウ酸塩のいずれも、ホウ素含有量の測定値が単核ホウ酸塩のホウ素含有量の計算値より高いことから、得られる(メタ)アクリレートホウ酸塩は多核縮合ホウ酸塩又は多核縮合ホウ酸塩を含有するものであると推定される。
【0027】
かかる(メタ)アクリレートホウ酸塩の合成は、例えば次のようにして行うことができる。例えば、溶媒にホウ酸を溶解させて攪拌しながら、アミノ基含有(メタ)アクリレートを滴下する。場合によっては、添加順序を逆にしてアミノ基含有(メタ)アクリレート溶液を攪拌しながら、それにホウ酸溶液を滴下する場合も可能である。続いて、室温または加熱下、一定時間保持又は攪拌して、アミノ基含有(メタ)アクリレートとホウ酸の反応を行う。これにより(メタ)アクリレートホウ酸塩が析出し、吸引濾過により沈殿物((メタ)アクリレートホウ酸塩)を回収する。一方、反応生成物が反応溶媒に溶けている場合があり、その場合はエパポレーターにより溶媒を留去して(メタ)アクリレートホウ酸塩を回収する。以上のようにして得られた反応生成物をN,N−ジメチルホルムアミド、アセトンなどを用いて数回繰り返し洗浄した後、真空乾燥することにより白色粉末の(メタ)アクリレートホウ酸塩が得られる。
【0028】
上記アミノ基含有(メタ)アクリレートホウ酸塩の合成時の溶媒としては、ホウ酸系化合物またはアミノ基含有(メタ)アクリレートの少なくとも一種を溶解するものであることが必要である。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、水などが挙げられ、これらは単独又は二種以上の混合で使用できる。その中では、特にN,N−ジメチルホルムアミドを用いることが好ましい。溶媒の使用量は、ホウ酸系化合物およびアミノ基含有(メタ)アクリレートの合計100質量部に対して溶媒が300〜1500質量部となるように用いることが好ましい。
【0029】
また、(メタ)アクリレートホウ酸塩の合成条件として、アミノ基含有(メタ)アクリレートの中のアミノ基とホウ酸系化合物のホウ素とのモル比が重要である。ホウ酸系化合物の比率を増やすと、多核縮合ホウ酸塩が形成しやすく、高い収率で(メタ)アクリレートホウ酸塩が得られる。一般的にアミノ基含有(メタ)アクリレートの中のアミノ基1モルに対して、ホウ素が0.1〜10モルが好ましく、より好ましくは0.5〜8モル、特に好ましくは1〜6モルである。0.1モル未満又は10モルを超える場合、(メタ)アクリレートホウ酸塩の収率が低くなり、得られる効果が小さくなる。また、反応温度について、用いるアミノ基含有(メタ)アクリレートの種類によっては異なるが、一般的に15℃〜150℃が好ましく、より好ましくは20℃〜120℃であり、特に好ましくは25℃〜100℃である。反応時間は反応温度にもよるが、通常1〜15時間が好ましく採用される。
【0030】
本発明で用いられる(メタ)アクリレートホウ酸塩はアミン特有の刺激臭が殆どない固形状粉末であり、水またはメタノールなどの低級アルコールによく溶ける性質を持っており、ヒドロゲルの合成用モノマーとして好適に用いることができる。
【0031】
本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルは上記の(メタ)アクリレートホウ酸塩と多官能モノマーとを含有する組成物を水性媒体の存在下で重合して得ることができる。この際、該組成物中に他の単官能モノマーを含有していてもよい。他の単官能モノマー、多官能モノマーは上記例示したものを使用できる。
【0032】
また、これらの単官能モノマーや多官能性モノマーの種類や使用量などを変えることによって、ヒドロゲルの強度や膨潤性などを調製することができる。多官能性モノマーの使用量は、好ましくは全モノマー100質量部に対して30質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0033】
前記ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートの重合又は共重合は、公知のラジカル重合によって行うことができる。重合開始剤としては、アゾ化合物、例えば2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソブチルアミド二水和物、また、レドックス開始剤、例えばペルオキソ二流酸カリウムなどを用いることができる。重合開始剤の使用量は全モノマーに対して0.01〜10モル%、更に好ましくは0.1〜5モル%である。
上記の重合又は共重合の条件としては、重合系を不活性ガス例えば、窒素、アルゴンで置換ないし雰囲気下にし、重合温度0〜130℃の範囲で、重合時間0.5〜48時間程度で行うことができる。
【0034】
また、本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルは、アミノ基含有(メタ)アクリレートに無機ホウ酸系化合物を反応させずに、アミノ基含有(メタ)アクリレートと多官能モノマーとを有する組成物を水性媒体の存在下で重合して得られるヒドロゲルに、無機ホウ酸系化合物を反応させることによっても製造することができる。この際、該組成物中に他の単官能モノマーを含有していてもよい。
【0035】
具体的には、上記のアミノ基含有(メタ)アクリレートの重合又共重合は、公知のラジカル重合によって行うことができる。重合開始剤としては、アゾ化合物、例えば2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソブチルアミド二水和物、また、レドックス開始剤、例えばペルオキソ二流酸カリウムなどを用いることができる。重合開始剤の使用量は全モノマーに対して0.01〜10モル%、更に好ましくは0.1〜5モル%である。
【0036】
重合又は共重合の条件としては、重合系を不活性ガス例えば、窒素、アルゴンで置換ないし雰囲気下にし、重合温度0〜130℃の範囲で、重合時間0.5〜48時間程度で行うことができる。
【0037】
上述のラジカル重合で得られたアミノ基含有ヒドロゲルに適量のホウ酸水溶液を加えて反応させることによって、本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルを得ることができる。反応温度としては、好ましくは0℃〜80℃であり、より好ましくは15℃〜50℃であり、特に好ましくは室温である。また、反応時間については、反応温度にもよるが、通常1〜24時間である。
【実施例】
【0038】
本発明は、次の実施例によって更に具体的に説明する。
【0039】
(合成例1)
[ジメチルアミノエチルメタクリレート縮合ホウ酸塩の合成]
ホウ酸20g(0.324mol)をDMF100gに溶かした溶液を攪拌しながら、ジメチルアミノエチルメタクリレート50.9g(0.324mol)を滴下した。白色沈殿が徐々に析出した。室温で15時間攪拌して、吸引濾過により沈殿物を回収した。続いて、得た沈殿物をアセトンで二回洗浄し、50℃、2時間真空乾燥したところ、原料に対して23.9%の収率で反応生成物の白色粉末(1a)16.9gを得た。また、濾液をエパポレーターでDMFを留去し、得た白色固体をアセトンで二回洗った。50℃、2時間真空乾燥により、原料に対して9.4%の収率で(1a)と同一の反応生成物の白色粉末6.7gを得た。分析結果は表1〜3に示す。
【0040】
(合成例2) [ジメチルアミノプロピルアクリルアミド縮合ホウ酸塩の合成]
ホウ酸20g(0.324mol)をDMF100gに溶かした溶液を攪拌しながら、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド25.3g(0.162mol)を滴下し、室温で15時間攪拌した。少量の白色沈殿を生じた溶液をエパポレーターでDMFを留去した後、アセトンで3回洗浄した。引き続き、70℃、2時間真空乾燥することにより原料に対して58.4%の収率で反応生成物の白色粉末(1b)26.5gを得た。分析結果は表1〜3に示す。
【0041】
(合成例3) [ジメチルアミノエチルアクリレート縮合ホウ酸塩の合成]
ホウ酸20g(0.324mol)をDMF 100gに溶かした溶液を攪拌しながら、ジメチルアミノエチルアクリレート23.2g(0.162mol)を滴下した。白色沈殿が析出した。室温で15時間攪拌して、吸引濾過により沈殿物を回収した。続いて、得た沈殿物をアセトンで二回洗浄し、50℃、4時間真空乾燥したところ、原料に対して49.1%の収率で反応生成物の白色粉末(1c)21.2gを得た。その分析結果を表1〜3に示す。
【0042】
尚、表中及び本文中の略号は次の化合物を示す。
DMAEM: N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート
DMAPAA: N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAEA: N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート
DMAA: N,N−ジメチルアクリルアミド
NIPAM: N−イソプロピルアクリルアミド
KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム
TEMED:N,N,N',N’-テトラメチルエチレンジアミン
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
(実施例1〜4、比較例1)
表4に示した配合量で(メタ)アクリレートホウ酸塩及びこれらと共重合するモノマー及び有機架橋剤メチレンビスアクリルアミドを脱酸素水19gに溶かした。次に20分窒素バブリングして、モノマー合計に対して0.5mol%の開始剤KPS水溶液1g及び触媒TEMED 16μlを加え、窒素雰囲気下、20℃、24時間で静置重合を行った。得られたヒドロゲルのポリマー収率及びホウ素含有率を表4に示す。また、得られたヒドロゲルを10%グルコース水溶液に含浸させると、ヒドロゲルの体積がそれぞれ2.1倍(実施例1)、2.8倍(実施例2)、2.1倍(実施例3)、1.9倍(実施例4)に膨潤した。次に膨潤したヒドロゲルを水に浸すと、実施例1〜4のいずれのヒドロゲルも収縮が見られ、実施例1、3、4のヒドロゲルは、ほぼ元の体積に戻り、膨潤しやすい実施例2のヒドロゲルにおいても体積が73%まで収縮した。更にこれらのヒドロゲルをグルコース水溶液に含浸させると、ヒドロゲルが再び膨潤した。これに対して、実施例と同様にして得られた比較例1のホウ酸塩基含有しないヒドロゲルは、グルコース水溶液又は水に含浸させても、膨潤及び収縮のいずれも見られなかった。
【0047】
以上のとおり、本発明のヒドロゲルは糖鎖認識部位であるホウ酸塩基を多く含有できるため、糖鎖認識部位の含有量を、必要な用途に応じて少ない量から多い量まで任意に調整することができる。さらにホウ酸塩基を含有する構造単位との共重合成分を適宜調整することが可能であり必要な特性に応じて容易にヒドロゲルの設計が可能である。
【0048】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のホウ酸塩基含有ヒドロゲルは、グルコース認識性を示し、糖応答性をはじめ、生体における種々の機能性を有するため、人工臓器や生体機能性材料として有用なものである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート構造単位を有する有機架橋高分子と、水性媒体とからなることを特徴とするホウ酸塩基含有ヒドロゲル。
【請求項2】
前記ホウ酸塩基が、アミノ基と、無機ホウ酸系化合物との反応により得られる基である請求項1に記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲル。
【請求項3】
前記ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート構造単位において、アミノ基一個に対するホウ素原子の数が1〜8個である請求項2に記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲル。
【請求項4】
前記有機架橋高分子中のホウ素含有量が、0.5〜20質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲル。
【請求項5】
前記有機架橋高分子が、多官能モノマーにより架橋されたものである請求項1〜4のいずれかに記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲル。
【請求項6】
前記有機架橋高分子中の多官能モノマーの割合が、0.1〜30質量%の範囲にある請求項1〜5のいずれかに記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲル。
【請求項7】
前記有機架橋高分子が、ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート単位を有するモノマーとそれ以外の単官能モノマーとの共重合体である請求項1〜6のいずれかに記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲル。
【請求項8】
前記(メタ)アクリレートが、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチルアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜7のいずれかに記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲル。
【請求項9】
アミノ基含有(メタ)アクリレートと無機ホウ酸系化合物とを反応させた(メタ)アクリレートホウ酸塩と、多官能モノマーとを含有する組成物を、水性媒体の存在下で重合することを特徴とするホウ酸塩基含有ヒドロゲルの製造方法。
【請求項10】
前記組成物が、(メタ)アクリレートホウ酸塩以外の単官能モノマーをも含有するものである請求項9に記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲルの製造方法。
【請求項11】
アミノ基含有(メタ)アクリレートと多官能モノマーとを含有する組成物を、水性媒体の存在下で重合してヒドロゲルを得た後、該ヒドロゲルに無機ホウ酸系化合物を反応させることを特徴とするホウ酸塩基含有ヒドロゲルの製造方法。
【請求項12】
前記組成物が、アミノ基含有(メタ)アクリレート以外の単官能モノマーを含有するものである請求項11に記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲルの製造方法。
【請求項13】
前記(メタ)アクリレートが、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチルアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項9〜12のいずれかに記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲルの製造方法。
【請求項14】
前記無機ホウ酸系化合物が、ホウ酸又はホウ酸エステルである請求項9〜13のいずれかに記載のホウ酸塩基含有ヒドロゲルの製造方法。

【公開番号】特開2007−70473(P2007−70473A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259153(P2005−259153)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】