説明

ホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル及びその製造方法

【課題】高い力学物性を有するだけでなく、親水性であり、且つ糖鎖認識性に優れている、ホウ酸塩基を導入した新規な有機無機複合ヒドロゲル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アミノ基を有する水溶性有機高分子(A)と、水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とにより形成されるアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルの三次元網目中に、ホウ酸塩基を含有するホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルであって、
該ホウ酸塩基が、該アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲル中のアミノ基の少なくとも一部とイオン結合していることを特徴とするホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、医薬、農業、化学、分析等の分野で機能性材料として有用である新規なホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミドヒドロゲルは、シリコンゲルやウレタンゲルに比べて良好な親水性を示すが、機械強度が脆弱で取り扱いにくいことが知られている。その機械強度を改良するため、様々な努力がなされていた。例えば、アクリルアミド誘導体と有機架橋剤を含む水溶液にポリビニルアルコール(PVA)を共存させて重合架橋してなる、PVAを保持した高分子マトリックスを形成することを特徴とするヒドロゲルが特許文献1に提案されている。この方法では、数十kPa程度の引張破断強度のヒドロゲルが得られる。また、アクリルアミドヒドロゲルの力学物性を大きく向上させる方法として、水に均一分散している粘土鉱物の共存下にアクリルアミド誘導体の重合を行わせることによって、数百kPa引張破断強度の有機無機複合ヒドロゲルが見出されている(特許文献2)。かかる機械強度の向上により、これらのゲルの実用性が現実的となってきている。一方、いろいろなニーズに対応するため、これらのヒドロゲルに機能性官能基を導入して、機能性を付与させることが望まれている。
【0003】
これまで、フェニルボロン酸基を不溶性ゲル担体に固定化したものが、糖や核酸、糖タンパクなどの分離、分析に用いられている。例えば、ポリアクリルアミドゲルの官能基にアミノフェニルボロン酸誘導体を反応させて得られるフェニルボロン酸基含有ゲルが非特許文献1に報告されている。しかし、得られたゲルは脆弱なだけでなく、合成ステップが多い課題を有していた。また、フェニルボロン酸基含有(メタ)アクリレートモノマーとアクリルアミド誘導体との共重合ポリマー、及びそのゲルを人工レクチンとした研究が報告されている(特許文献3)。しかし、フェニルボロン酸モノマーが疎水性であるため、親水性共重合ゲルの中でのフェニルボロン酸の比率を上げられず、糖鎖認識部位であるボロン酸基含有率が低い問題を有していた。また、用いるフェニルボロン酸モノマーが高価であることも実用上問題であった。
【特許文献1】特開2004-292592号公報
【特許文献2】特開2002-053629号公報
【特許文献3】特開平4-124144号公報
【非特許文献1】R.E.Duncan,et.al., Anal.Biochem. 66, 532 (1975)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、高い力学物性を有するだけでなく、親水性であり、且つ糖鎖認識性に優れている、ホウ酸塩基を導入した新規な有機無機複合ヒドロゲル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アミノ基を有する水溶性有機高分子と、水膨潤性粘土鉱物と、水とにより形成されるアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルの三次元網目中に、ホウ酸塩基を含有させたホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、アミノ基を有する水溶性有機高分子(A)と、水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とにより形成されるアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルの三次元網目中に、ホウ酸塩基を含有するホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルであって、該ホウ酸塩基が、該アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲル中のアミノ基の少なくとも一部とイオン結合していることを特徴とするホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルを提供するものである。
【0007】
また、本発明は、アミノ基を有する水溶性有機高分子(A)と、水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とにより形成されるアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルの三次元網目中に、ホウ酸塩基を含有するホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、該アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルを、無機ホウ酸化合物の水溶液に浸漬し、該アミノ基と無機ホウ酸化合物とを反応させることを特徴とするホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルの製造方法を提供するものである。
【0008】
本発明で得られるホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルは、従来の有機無機複合ヒドロゲルの高い力学物性を保持しつつ、糖鎖認識性を有するホウ酸塩基を導入したことによって機能性材料としての用途展開が可能となった。
【発明の効果】
【0009】
本発明のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルは、親水性であり、且つ糖鎖認識性に優れている性質を有する。また、従来の糖鎖認識ヒドロゲルと比べて機械強度が格段に高い。更に、アミノ基一つに対して、1〜8個のホウ素原子を結合あるいは配位させることができるため、従来のフェニルボロン酸基を有するヒドロゲルの系よりホウ素含有率を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる水溶性有機高分子(A)は、アミノ基を有するラジカル重合性モノマーを含むモノマーを重合して得られる重合体であれば、公知の重合体を用いることができるが、アミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミド誘導体と、(メタ)アクリルアミド又はアミノ基を有しない(メタ)アクリルアミド誘導体との共重合によって得られるものが好ましい。水溶性有機高分子(A)は、水に分散した水膨潤性粘土鉱物(B)と水素結合やイオン結合等の非共有結合により三次元網目を形成する。
【0011】
水溶性有機高分子(A)を構成するアミノ基を有しない(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N-置換アクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換アクリルアミド誘導体、N-置換メタクリルアミド誘導体、N,N-ジ置換メタクリルアミド誘導体などが挙げられる。具体的には、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-アクリロイルピロリディン、N-アクリロイルピペリディン、N-アクリロイルメチルホモピペラディン、N-アクリロイルメチルピペラディンなどが例示される。その中に、水溶液中でのポリマー物性(親水性と疎水性)がLCST(下限臨界共溶温度)を持つN-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミドなどは機能性の観点から好ましく用いられる。
【0012】
また、有機高分子(A)を構成するアミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミド誘導体は反応性アミノ基を本有機無機複合ヒドロゲルに導入させるものである。アミノ基を有する(メタ)アクリレートの具体例としては、下記式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0013】
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、R及びRはそれぞれ独立的に炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0014】
中でも、式(1)中のRはエチレン基であることが好ましく、R及びRはメチル基又はエチル基であることが好ましい。その具体例としては、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートなどが挙げられる。これらの中から選ばれる少なくとも一つのモノマーを使用することが好ましい。
【0015】
アミノ基を有するアクリルアミド誘導体としては、例えば、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドを使用することが好ましい。
【0016】
本発明に用いる水膨潤性粘土鉱物(B)は、水に膨潤し均一分散可能なものであり、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な層状粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。これらの粘土鉱物は、水溶性有機高分子のモノマーが重合する前の水溶液中で微細、且つ均一に分散していることが必要であり、特に水溶液中に単位層レベルで分散していることが望ましい。ここで、水溶液中に粘土鉱物の沈殿となるような粘土鉱物凝集体がないことが必要であり、より好ましくは1〜10層程度のナノオーターの厚みで分散しているもの、特に好ましくは1又は2層程度の厚みで分散しているものである。
【0017】
本発明のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルにおける水溶性有機高分子(A)と水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物(B)との比率は、(A)と(B)とからなる三次元網目を有する有機無機ヒドロゲルが調製されれば良く、また用いる(A)や(B)の種類によっても異なり必ずしも限定されないが、ヒドロゲル合成の容易さや均一性の点からは、好ましくは前記水膨潤性粘土鉱物(B)と前記有機高分子(A)の質量比((B)/(A))は0.01〜10である。また、より好ましくは(B)/(A)の質量比が0.01〜5、特に好ましくは0.03〜2、最も好ましくは0.1〜1.0である。
【0018】
(B)/(A)の質量比が0.01未満では、本発明のヒドロゲルの伸縮性が十分でない場合が多く、10を越えては、得られたヒドロゲルが脆くなるなどの製造上の問題が生じる。一方、(A+B)に対する水(C)の比率は、重合過程での水量調整、もしくはその後の膨潤や乾燥により、目的に応じて広い範囲で任意に設定できる。
【0019】
また、水溶性有機高分子(A)のモノマー組成において、アミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミド誘導体の共重合比率が高すぎると、得られたヒドロゲルの力学物性は低下する。一方、その共重合比率が低すぎると、本発明のヒドロゲルの機能性は発揮出来なくなる。従って、有機高分子(A)中のアミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミド誘導体の共重合比率としては、モノマー全体に対して0.1〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜40モル%であり、特に好ましくは0.5〜30モル%であり、1〜20モル%であることが最も好ましい。
【0020】
本発明で用いるアミノ基含有有機無機複合ヒドロゲルには、低温側で透明及び/又は体積膨潤状態にあり、且つ高温側で不透明及び/又は体積収縮状態となる臨界温度(Tc)を有し、Tcを境にした上下の温度変化により透明性や体積を可逆的に変化できる特徴を有するものが含まれる。このような有機無機複合ヒドロゲルは有機モノマーとして水溶液中でLCST(下限臨界共溶温度)を示す有機モノマーを用いて調製できる。
【0021】
上記のLCST(下限臨界共溶温度)を示す有機モノマーを用いて調製されるアミノ基含有有機無機複合ヒドロゲルは、アミノ基を含有するため、親水性が増し、臨界温度(Tc)を消失する傾向にある。従って、臨界温度(Tc)を保持するためには、有機高分子(A)の中に含まれるアミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミド誘導体モノマーの共重合比率は、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下である。
【0022】
本発明で用いるアミノ基含有有機無機複合ヒドロゲルは、有機無機ヒドロゲルの特徴を保持しており、従来の有機架橋ゲルと比べて、高い吸水率を有する他、優れた力学物性などを示している。例えば、強度、伸び、タフネスなどの力学物性において、本発明で用いるアミノ基含有有機無機複合ヒドロゲルは、有機架橋ゲルよりすべて優れていることが特徴である。
【0023】
有機無機複合ヒドロゲルの力学物性は、ヒドロゲルの水含有率及び形状により異なるため、本発明のアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルの力学物性は、一定範囲内の水含有率及び断面積を持つヒドロゲルを用いて試験した結果で表される。本明細書では、具体的には、試験開始時のヒドロゲルの断面積(初期断面積)を0.237cm2にしたものを試験材料として用い、アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲル中の前記水(C)の含有率(含水率)が90質量%のものについて力学物性の測定を行った。
【0024】
本発明のアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルは、上記の水含有率と初期断面積のヒドロゲルを用いて測定した場合、引張強度が10kPa以上、より好ましくは20kPa以上、特に好ましくは30kPa以上であること、更に引張破断伸びが100%以上、より好ましくは200%以上、特に好ましくは300%以上であるものが好ましい。
【0025】
本発明で用いるアミノ基含有有機無機複合ヒドロゲルは、以下の方法で製造できる。有機高分子(A)のモノマーと、水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とを含む均一溶液を調製後、層状剥離した(B)の共存下に(A)のモノマーの重合を行わせる。重合過程で(A)のモノマーと(B)粘土鉱物との相互作用により(B)がモノマーの架橋剤の働きをして、(A)と(B)との分子レベルでの複合化が達成され、三次元網目形成によりゲル化したアミノ基含有有機無機複合ヒドロゲルが得られる。
【0026】
具体的には、水中に微細分散した(B)の水溶液に、(メタ)アクリルアミド誘導体を加え、低温にてアミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミドとラジカル重合開始剤を添加させ、引き続き、所定温度で重合を行わせる。ここで、アミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミドの添加順序は重要である。先に(メタ)アクリルアミド誘導体と一緒に添加すると、粘土鉱物がアミノ基と強い相互作用により凝集を生じてしまう。このようにして得られたヒドロゲルは白濁するだけでなく、力学物性も大きく低下する傾向を示す。粘土鉱物の凝集を最小限に抑えるため、(メタ)アクリルアミド(誘導体)を先に粘土鉱物水分散液に加え、続いてアミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミドと重合開始剤を一度に添加させること又は重合開始剤を加えた直後にアミノ基含有(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミドを添加させることによって、モノマーの分散と共にラジカル重合を行わせ、系全体をゲル化させる方法が有効に用いられる。
【0027】
上記のラジカル重合反応は、ラジカル重合開始剤及び/又は放射線照射など公知の方法により行わせることができる。ラジカル重合開始剤及び触媒としては、公知慣用のラジカル重合開始剤及び触媒を適時選択して用いることができる。好ましくは水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが用いられる。
【0028】
具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えば、VA-044, V-50, V-501の他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性のラジカル開始剤などが挙げられる。一方、触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンやβ-ジメチルアミノプロピオ二トリルなどがもちろん用いられるが、本発明では、モノマーとして用いられているアミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有するアクリルアミドは触媒の働きをしているため、上述のラジカル重合触媒を添加しなくてもよい。
【0029】
重合温度は、開始剤や触媒の種類にあわせて0℃〜100℃の範囲で設定できる。重合時間も他の重合条件によって異なり、一般に数十秒〜数十時間の間で行われる。
【0030】
上記のアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルのアミノ基に無機ホウ酸化合物を反応させて、本発明のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルが得られる。例えば、アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルは、過剰のホウ酸水溶液に浸して、数日含浸して反応させる。次に、ゲルを水に浸して未反応のホウ酸を溶出させる。この操作は数回繰り返して目的のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルが合成される。
【0031】
無機ホウ酸化合物の具体的なものとしては、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、およびそれらの混合物である。上記の中ではホウ酸が最も好ましく用いられる。
【0032】
ホウ酸はアミン化合物と反応して、容易に多核縮合ホウ酸塩を形成することが古くから知られている。例えば、ホウ酸とピペリジンを反応して、ピペリジン五ホウ酸縮合塩が得られる。ピペリジン五ホウ酸縮合塩の結晶構造は、M.Wiebckeらによって解明された。即ち、1個のピペリジンに対して、五個のホウ酸分子が自己縮合した形でピペリジンとイオン結合している[Chem.Sci.,48(7),978-85(English) 1993]。 従って、本発明において、無機ホウ酸化合物は、そのままアミノ基とイオン的に結合していてもよいが、アミノ基の存在により無機ホウ酸化合物同士が縮合することができるため無機ホウ酸化合物が縮合した後に結合することもできる。この場合は、ヒドロゲルのアミノ基1つに対し、ホウ素原子を1〜8個結合あるいは配位させることができる。縮合する場合の縮合形態は特に制限されず、鎖状に縮合したものであっても環状に縮合したものであってもよい。
【0033】
LCST(下限臨界共溶温度)を示す有機モノマーを用いて調製されるホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルは、低温側で透明及び/又は体積膨潤状態にあり、且つ高温側で不透明及び/又は体積収縮状態となる臨界温度(Tc)が顕著に観測される。例えば、有機高分子(A)の中にジメチルアミノエチルアクリレートが4モル%含まれる場合、得られたアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルの臨界温度(Tc)はほぼ消失する。しかし、このゲルにホウ酸塩基を付けることで、臨界温度(Tc)が再び顕著に現れる。
【0034】
本発明のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルは、優れた力学物性を有するだけでなく、機能性、例えば糖応答性も発現される。即ち、グルコース存在の有無によってホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルが水溶液中膨潤と収縮を繰り返し、優れたグルコース応答性・認識性を示した。この性質を利用して、生体材料や糖センサなどとして用いることが期待される。
【0035】
本発明のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルは、ホウ素の含有量がホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルの全固形分に対して0.1〜15質量%、好ましくは0.2〜10質量%である。ホウ素含有量が0.1質量%未満であると、糖鎖の認識機能が現れない場合があり、又、15質量%を超えると、細胞凝集活性化剤として用いた場合は増殖抑制となりやすく、好ましくない。
【実施例】
【0036】
本発明は、次の合成例及び実施例によって更に具体的に説明する。
【0037】
(合成例1)
粘土鉱物として、[Mg5.34Li0.66Si8O20(OH)4]Na+0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)を真空乾燥して用いた。有機モノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA:和光純薬工業株式会社製)及びジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA: 和光純薬工業株式会社製)を用いた。なお、DMAA及びDMAEAは活性アルミナ(和光純薬工業株式会社製)を用いて重合禁止剤を取り除いてから使用した。重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS:関東化学株式会社製)をKPS/水=0.2/10(g/g)の割合で純水で希釈し、水溶液にして使用した。
【0038】
水はイオン交換水を蒸留した純水を用いた。水は全て高純度窒素を予め3時間以上バブリングさせ溶存酸素を除去してから使用した。
【0039】
内径25mm,長さ80mmの平底ガラス容器に、純水19gと0.66gのラポナイトXLGを攪拌して無色透明の溶液を調製した。これにDMAA 1.5gを加え、続いて、KPS水溶液1gとDMAEA 0.5gを攪拌して加え、均一溶液を得た。得られた均一溶液を底の閉じた内径5.5mm,長さ150mmのガラス管容器に酸素に触れないようにして移した後、上部を密栓し、20℃で静置重合を行った。15時間後にガラス管容器内に伸縮性、強靭性のある均一な棒状のヒドロゲルが生成された。ヒドロゲルは大量の水に浸して精製した。得られた精製ヒドロゲルを100℃、減圧下にて乾燥して水分を除いたヒドロゲル乾燥体を得た。ゲル乾燥体を20℃に水に浸漬することにより、乾燥前と同じ形状の伸縮性のあるヒドロゲルに戻ることが確認された。また、ゲル乾燥体の熱重量分析(セイコー電子工業株式会社製TG-DTA220:空気流通下、10℃/分で600℃まで昇温)を行い、B/A=0.33(重量比)を得た。以上から、本実施例で得られたゲルは、仕込み組成に沿った成分比を有する、有機高分子(N,N-ジメチルアクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリレートの共重合体)と粘土鉱物と水からなるヒドロゲルであること、有機高分子の合成において架橋剤を添加していないにもかかわらず、均一なヒドロゲルとなること、ヒドロゲルから水分を除いて得られるゲル乾燥体を水に浸漬することにより再びもとの形状のヒドロゲルに戻ることなどから、有機高分子と粘土鉱物が分子レベルで複合化した三次元網目が水中で形成されていると結論された。なお、粘土鉱物を共存させない以外は同様な条件で合成した有機高分子は高分子水溶液となりヒドロゲルとはならなかった。
【0040】
未精製の棒状のヒドロゲル(直径=5.5mm)をチャック部での滑りのないようにして引っ張り試験装置(島津製作所株式会社製、卓上型万能試験機AGS-H)に装着し、標点間距離=30mm、引っ張り速度=100mm/分にて引っ張り試験を行った結果、破断伸びが1866%、引っ張り強度が108kPaであった。
【0041】
(合成例2〜4)
有機モノマーとして、合成例2ではN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM: 興人株式会社製) 1.8gとDMAEA 0.2gを、合成例3ではNIPAM 1.9gとDMAEA 0.1gを、合成例4ではNIPAM 1.975gとDMAEA 0.025gを用いた。それ以外は、合成例1と同様にして重合を行い、アミノ基含有有機無機複合ヒドロゲルを調整した。引っ張り試験測定の結果は、破断伸びが1215%(合成例2)、876%(合成例3)、877%(合成例4)であり、引っ張り強度が88.6kPa(合成例2)、76.6kPa(合成例3)、88.8kPa(合成例4)であった。また、低温側で透明及び/又は体積膨潤状態にあり、且つ高温側で不透明及び/又は体積収縮状態となる臨界温度(Tc)を調べたところ、合成例4は臨界温度(Tc)を示した。なお、NIPAMは、トルエンとヘキサンの混合溶媒を用いて再結晶し無色針状結晶に精製してから用いた。
【0042】
(実施例1)
合成例1で得られたアミノ基含有有機無機複合ヒドロゲル20gを5%ホウ酸水溶液100mlに浸して、室温にて三日間含浸させた後、ゲルを取り出して精製を行う。精製は100ml純水に一日浸漬して取り出す操作を三回繰り返して、未反応のホウ酸を除いた。得られたホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルの一部を乾燥して、プラズマ発光分析により、そのホウ素含有率は5質量%であった。一方、ホウ酸塩基含有ヒドロゲルを純水又は10%グルコース水溶液に8時間浸漬させたところ、純水の中ではホウ酸塩基含有ヒドロゲルは317%大きく膨潤したことに対して、グルコース水溶液ではゲルの膨潤率は179%にとどまった。グルコースの存在によってホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルの水膨潤性が抑制されたことは明らかである。
【0043】
(実施例2〜4)
実施例2は合成例2で、実施例3は合成例3で、実施例4は合成例4で得られたアミノ基含有有機無機複合ヒドロゲルをそれぞれ20g取り、実施例1と同様にしてホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルを合成した。その乾燥体のプラズマ発光分析により、そのホウ素含有率はそれぞれ3.6質量%(実施例2)、1.9質量%(実施例3)、0.4質量%(実施例4)であった。また、低温側で透明及び/又は体積膨潤状態にあり、且つ高温側で不透明及び/又は体積収縮状態となる臨界温度(Tc)を調べたところ、実施例3と実施例4は明確な臨界温度(Tc)を示した。一方、ホウ酸塩基含有ヒドロゲルを水溶液に含浸させると、ゲルの体積がそれぞれ2.2倍(実施例2)、1.8倍(実施例3)、1.8倍(実施例4)に膨潤した。次に膨潤したゲルを10%グルコース水溶液に浸すと、ゲルが92%(実施例2)、72%(実施例3)、76%(実施例4)に収縮した。更にこれらのゲルを水溶液に含浸させると、ゲルが再び膨潤した。これに対して、合成例2で得られたホウ酸塩基含有しないヒドロゲルは、グルコース水溶液又は水に含浸させると、いずれも膨潤するだけであって、収縮は全くしなかった。このことから、上記の糖応答性は、ホウ酸塩基に由来することが明かである。
【0044】
(比較例1)
粘土鉱物を用いないで、DMAA及びDMAEAモノマーを添加した後、有機架橋剤をモノマーの1mol%添加して用いること以外は合成例1と同様にして、20℃で15時間重合を行い、無色透明ゲルが得られた。有機架橋剤としては、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(BIS)(関東化学株式会社製)をそのまま使用した。得られたヒドロゲルを直径5.5mm、長さ50mmに注意深く切り出し、傷つけず、且つ滑らぬようにサンドペーパーで挟み、合成例1と同じ引っ張り試験装置を用いて、標点間=30mm、引っ張り速度=100mm/分にて引っ張り試験を行おうとしたが、サンプルが脆くチャックに装着前に殆どのサンプルが壊れた。また、チャックに軽く装着したものでも試験直後に破断し、物性値は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有する水溶性有機高分子(A)と、水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とにより形成されるアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルの三次元網目中に、ホウ酸塩基を含有するホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルであって、
該ホウ酸塩基が、該アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲル中のアミノ基の少なくとも一部とイオン結合していることを特徴とするホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項2】
全固形分に対するホウ素の含有比率が0.1〜15質量%である請求項1記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項3】
前記有機無機複合ヒドロゲル中のアミノ基の少なくとも一部と、無機ホウ酸化合物(D)とが反応して得られる請求項1記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項4】
前記無機ホウ酸化合物(D)が、オルトホウ酸、メタホウ酸及び四ホウ酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項5】
前記水溶性有機高分子(A)が、アミノ基を有するラジカル重合性モノマーを50モル%以下の割合で反応させた共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項6】
前記水溶性有機高分子(A)が、アミノ基を有する(メタ)アクリレート又はアミノ基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体から選ばれる少なくとも一種と、(メタ)アクリルアミド及びアミノ基を有しない(メタ)アクリルアミド誘導体から選ばれる少なくとも一種との共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項7】
前記アミノ基を有する(メタ)アクリレートが、下記式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、R及びRはそれぞれ独立的に炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で表される化合物である請求項6記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項8】
前記アミノ基を有する(メタ)アクリレートが、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート及びジエチルアミノエチルアクリレートから選ばれる少なくとも一つである請求項6記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項9】
前記アミノ基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体が、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドである請求項6記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項10】
前記水膨潤性粘土鉱物(B)と前記有機高分子(A)の質量比((B)/(A))が0.01〜10である請求項1〜9のいずれかに記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項11】
前記アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲル中の前記水(C)の含有率(含水率)が90質量%の時点における、引っ張り強度が10kPa以上であり、且つ破断伸びが100%以上である請求項1〜10のいずれかに記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項12】
体積膨潤状態と体積収縮状態とが可逆的に変化する下限臨界共溶温度を有する請求項1〜12のいずれかに記載のホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲル。
【請求項13】
アミノ基を有する水溶性有機高分子(A)と、水膨潤性粘土鉱物(B)と、水(C)とにより形成されるアミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルの三次元網目中に、ホウ酸塩基を含有するホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルの製造方法であって、該アミノ基を有する有機無機複合ヒドロゲルを、無機ホウ酸化合物の水溶液に浸漬し、該アミノ基と無機ホウ酸化合物とを反応させることを特徴とするホウ酸塩基含有有機無機複合ヒドロゲルの製造方法。

【公開番号】特開2008−74925(P2008−74925A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254179(P2006−254179)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】