説明

ホスファゼン混合物およびその樹脂組成物

【課題】ハロゲン化合物、アンチモン化合物を含まず、環境への負荷が小さく、高度な難燃性を有し、樹脂に添加したとき耐熱性を低下させることがないホスファゼン混合物および樹脂組成物を提供する。
【解決手段】化学式(1)で示されるヘキサ2,6−キシレノキシ環状ホスファゼン(A)と化学式(2)で示されるヘキサフェノキシ環状ホスファゼン(B)との混合物であって、成分(A)および成分(B)の重量分率が(A)/(B)=1/99〜99/1であることを特徴とするホスファゼン化合物の混合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化合物、アンチモン化合物を含まないことにより、環境への負荷が小さく、高度な難燃性を有し、樹脂に添加したとき耐熱性を低下させることがないホスファゼン混合物および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、難燃剤としては、ハロゲン系、リン系、無機系、窒素系など周知の難燃剤が使われてきたが、中でも、リン系難燃剤は、環境負荷が小さい、難燃力に優れるといった理由で賞用されてきた。リン系難燃剤の中では、リン酸エステル、特に縮合リン酸エステルが熱的に安定なことを特長として、エンプラなどに使用されている。難燃力、熱安定性が、さらに優れるホスファゼン化合物が、最近注目されている(例えば、特許文献1参照。)。ホスファゼン化合物の中でも、2,6−キシレノキシホスファゼンおよび2,6−キシレノキシフェノキシホスファゼンが、誘電特性に優れることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、樹脂にこれらホスファゼンを添加した組成物は、2,6−キシレノキシホスファゼンでは、融点が高いため樹脂中で溶融せず粉末状となり易く、成形品外観、機械的特性に問題があり、フェノキシホスファゼンでは、樹脂のガラス転位点を低下させ、耐熱性が損なわれるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−181429号公報
【特許文献2】特開2004−107374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
樹脂に添加した場合、均一に混合可能で、成形品外観が良く、機械的物性も優れ、かつ耐熱性に優れる難燃性樹脂組成物を与えるホスファゼン化合物の混合物、および樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討した結果、
化学式(1)で示されるヘキサ−2,6−キシレノキシ環状ホスファゼン(A)と化学式(2)で示されるヘキサフェノキシ環状ホスファゼン(B)との混合物であって、成分(A)および成分(B)の重量分率が、(A)/(B)=1/99〜99/1であることを特徴とするホスファゼン化合物の混合物、
が目的を満足できることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0005】
本発明のホスファゼン化合物の混合物は、樹脂に添加した場合、樹脂組成物の成形品外観がよく、機械的特性に優れ、耐熱性に優れ、高度な難燃性を付与できる。該ホスファゼン化合物の混合物を添加した難燃性樹脂組成物は、これら特性のために、電子・電気分野、自動車分野工業用途分野などで有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明でいうホスファゼン化合物の混合物は、以下である。
化学式(1)で示されるヘキサ−2,6−キシレノキシ環状ホスファゼン(A)と化学式(2)で示されるヘキサフェノキシ環状ホスファゼン(B)との混合物であって、成分(A)および成分(B)の重量分率が(A)/(B)=1/99〜99/1であるようなホスファゼン化合物の混合物であり、好ましくは、(A)/(B)=10/90〜90/10であるようなホスファゼン化合物の混合物である。
(A)/(B)が、1/99より大きい方が、樹脂に添加した場合の樹脂組成物の耐熱が高くなり好ましい。a/bが99/1より小さい方が、樹脂に添加した場合の樹脂組成物の成形品外観が良好になり好ましい。
これらホスファゼン化合物を得るための参考文献および合成例は、特公平3−73590号公報、特開平9−71708号公報、特開平9−183864号公報、特開平11−181429号公報及び特許第3053617号等に開示されている。
環状ホスファゼン化合物は、通常、化学式(3)のn=3〜15の混合物として得られる。
【0007】
【化1】

【0008】
特に、実際には、n=3〜6の混合物で得られることが多い。本発明の効果が損なわれない限り、n=4〜15のホスファゼン化合物が存在していても構わない。n=3のホスファゼン化合物含有率が70%以上の混合物が好ましい。より好ましくは、n=3のホスファゼン化合物含有率が80%以上の混合物である。更に好ましくは、n=3のホスファゼン化合物含有率が90%以上の混合物である。
さらに、特開平11−181429号公報に開示されている技術により、下記化学式(4)に示す化合物からなる群より選ばれた化合物とホスファゼン化合物を加熱することによって架橋されていても良いが、架橋されていないものの方が、加工流動性などの点で好ましい。
【0009】
【化2】

【0010】
(式中Xは、−C(CH−、−SO−、−S−、または−O−を、yは0又は1を表す。R1、R2、R3、R4は独立に、炭素数1〜4のアルキル基、アリ−ル基、水素を表す。)
【0011】
ホスファゼン化合物が含有する可能性がある不純物としては、未反応原料のフェノール、2,6−キシレノール、これらのアルカリ金属塩、化学式(3)において、Rの内1〜6個がOH基であるホスファゼン化合物、化学式(3)においてRのうち1〜6個が塩素であるホスファゼン化合物、触媒残渣、残溶媒、アルカリ金属の塩素化合物などが考えられるが、これら不純物はできる限り少ないことが望ましい。反応条件による不純物の生成抑制、反応生成物の精製による不純物の除去などでホスファゼン化合物中の不純物量をコントロールできる。
【0012】
本発明のホスファゼン化合物の混合物は、樹脂に添加して難燃性樹脂組成物として有用に用いることができる。
ここでいう樹脂は、特に限定されない。一般に、工業的に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂として使用される樹脂であればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ABS、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、変性ポリフェニレンエーテル、PC/ABS、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂及びこれらの混合物などが挙げられる。これらの中で、エポキシ樹脂は特に好ましい。
【0013】
ホスファゼン化合物の樹脂への添加量は、樹脂100重量部に対して、1〜40重量部、好ましくは3〜30重量部、さらに好ましくは、5〜20重量部である。
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、一般に樹脂に添加される添加剤を添加することができる。例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、カオリンクレー、タルク、マイカ等の無機充填剤やその他の繊維状、非繊維状補強剤。また、耐衝撃付与剤としてゴム状重合体、例えばスチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびそれらの水素添加物などの熱可塑性エラストマー。更に他の特性を付与するため、本発明の効果を損なわない範囲で他の添加剤、例えば可塑剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの安定剤、帯電防止剤、離型剤、染顔料、あるいはその他の樹脂を添加することができる。樹脂の例としては、エンジニアリング樹脂であるポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、汎用樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン、スーパーエンプラである液晶ポリエステルなどが挙げられるがこれらに限定されない。また、従来から知られた各種難燃剤および難燃助剤、例えば結晶水を含有する水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物、ホウ酸亜鉛化合物、スズ酸亜鉛化合物、メラミン、メラミンシアヌレート、メラム、メロンなどの窒素系難燃剤さらにはシリカ、カオリンクレー、タルクなどの無機ケイ素化合物を添加して更なる難燃性の向上も可能である。
【0014】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定するものではない。熱可塑性樹脂においては、2軸押出機、1軸押出機、加熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造することができる。その中でも押出機による混合が、生産性の面で好ましい。混合温度は、ベース樹脂の好ましい加工温度に従えばよい。
本発明組成物の用途は、難燃性を要求される電子・電気部品、OA機器部品、自動車部品などであり、具体的には、プリント配線板、半導体用封止剤、アンテナ材、筐体、構造体、電線被覆、プリンター、FAX、CD−ROM、DVD−ROM、テレビ、デジタル録画機器などの部品に使用される。また、情報通信関係では、携帯電話、ETC、ナビゲーションシステム、家電・OA無線システムなど、情報処理関係では、高速演算するコンピュータ、パソコンの部品などがある。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
実施例、比較例で使用した原料
(1)エポキシ樹脂
AER250(旭化成エポキシ(株)製);エポキシ当量184〜186
(2)硬化剤
m−キシリレン−α,α‘−ジアミン(和光純薬工業(株)製)
(3)ポリフェニレンエーテル(PPE)
GPC測定によるポリスチレン換算数平均分子量2600のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル
【0016】
実施例、比較例における評価は以下の通り行った。
(1)難燃性
UL−94垂直燃焼試験に基づき、2mm厚みの短冊試験片を用いて測定し、10回接炎時の平均燃焼時間を測定した。
(2)耐熱性
ASTMD648に準じて、2mm厚みの短冊試験片を用いて測定した。
(3)成形品外観
平板から切り出したUL用短冊試験片の側面を目視観察した。結果は下記記号で表示した。
○:良好な外観を示した
×:成形品表面に白い粒が見られ、外観が悪かった
【0017】
[実施例1,2、比較例1〜3]
(1)ホスファゼン化合物の合成
環状クロロホスファゼン、2,6−キシレノールのカリュウム塩を原料として、反応を行い、洗浄、精製して、化学式(1)の2,6−キシレノキシホスファゼンを得た。NMRで確認した結果、化学式(1)の化合物が99%以上存在していた。
(2)環状クロロホスファゼン、フェノールのナトリュウム塩を原料として、反応を行い、洗浄、精製して、化学式(2)のフェノキシホスファゼンを得た。NMRで確認した結果、化学式(2)の化合物が、99%以上存在していた。
エポキシ樹脂組成物の調整
(3)エポキシ樹脂75重量部に、ホスファゼン化合物を21重量部、120℃で添加し、PPE25重量部をさらに添加して混合し、90℃で、硬化剤メタキシリレンジアミン13重量部を添加して混合、型に流し入れた。100℃で、0kg/cm×2分、10kg/cm×2分および40kg/cm×10分、熱プレスして硬化し、平板状の成形品を得た。これから、必要な形状の試験片を切り出して評価した。ホスファゼン化合物は、2,6−キシレノキシホスファゼンとフェノキシホスファゼンとを表1に示す割合で混合したものを用いた。評価結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、ハロゲン化合物、アンチモン化合物を含まないことにより、環境への負荷が小さく、高度な難燃性を有し、樹脂に添加したとき耐熱性を低下させることがないホスファゼン混合物および樹脂組成物に関する。難燃性を要求される用途、例えば、電子・電気部品、自動車部品などに、環境対応難燃材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)で示されるヘキサ−2,6−キシレノキシ環状ホスファゼン(A)と化学式(2)で示されるヘキサフェノキシ環状ホスファゼン(B)との混合物であって、成分(A)および成分(B)の重量分率が(A)/(B)=1/99〜99/1であることを特徴とするホスファゼン化合物の混合物。
【化1】

【化2】

【請求項2】
成分(A)および成分(B)の重量分率が、(A)/(B)=10/90〜90/10であることを特徴とする請求項1に記載のホスファゼン化合物の混合物。
【請求項3】
樹脂に請求項1または請求項2の環状ホスファゼン化合物の混合物を添加してなる難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂が、エポキシ樹脂であることを特徴とする難燃性エポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−117723(P2006−117723A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304334(P2004−304334)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】