説明

ホスフィン遷移金属錯体、その製造方法及び抗癌剤

【解決課題】新規な化学構造を有し、且つ抗癌活性が高い抗癌剤を提供することにある。
【解決手段】下記一般式(1):


で表されることを特徴とするホスフィン遷移金属錯体、及び前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体を含有することを特徴とする抗癌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホスフィン遷移金属錯体、その製造方法及び該ホスフィン遷移金属錯体を含有する抗癌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、癌細胞に対して高い抗癌活性を有する物質として、シスプラチンがよく知られており、現在、主要な抗癌剤となっている。また、他に高活性の抗癌剤としては、タキソールが知られている。
【0003】
また、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンを初めとする特定の構造を有するホスフィン遷移金属錯体は、シスプラチンに匹敵する抗癌活性を有する化合物であることが知られている(特許文献1〜2)。
【0004】
例えば、特許文献1又は特許文献2には、下記一般式(4)で表わされるホスフィン遷移金属錯体が提案されている。特許文献1では、R〜Rが同一又は異なる基のフェニル、置換フェニル、4−ピリジル、3−ピリジル、2―ピリジルから選択される基であり、Aが−(CH)n−又はcis−CH=CH−であり、M’が金、銀、銅であり、Bが塩素等のハロゲン原子であるホスフィン遷移金属錯体が提案されており、また、特許文献2では、R〜Rが同一の基のフェニル基、エチル基或いはモノ置換フェニル基であり、Aが(CH)n−又はcis−CH=CH−であり、M’が金、銀、銅であり、Bがハロゲン、PF、NOであるホスフィン遷移金属錯体が提案されている。
【0005】
【化1】

【0006】
【特許文献1】特表平10−509957号公報
【特許文献2】特開昭61−10594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、近年、シスプラチンより、更に高い抗癌活性を有する抗癌剤の開発が求められている。
【0008】
また、一般に化合物の抗癌活性と抗癌スペクトルは、化学構造に依存し、個人によっても、その効果に差があることが知られている。例えば、高活性を有する抗癌剤として知られているタキソールに至っても、有効率は30%程度である。そのため、化学構造が異なる種々の新規な抗癌剤の開発が望まれている。
【0009】
従って、本発明の課題は、新規な化学構造を有し、且つ抗癌活性が高い抗癌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる実情において抗癌作用を有する新規なホスフィン遷移金属錯体について鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するホスフィン遷移金属錯体が優れた抗癌活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、炭素数が1〜6であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、置換基を有していてもよい。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。Xは、アニオンを示す。)
で表されることを特徴とするホスフィン遷移金属錯体を提供するものである。
【0014】
また、本発明(2)は、下記一般式(2):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。Rは、一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。Xは、アニオンを示す。)
で表されることを特徴とする前記本発明(1)のホスフィン遷移金属錯体を提供するものである。
【0017】
また、本発明(3)は、Rがt−ブチル基又はアダマンチル基であり、Rがメチル基であることを特徴とする前記本発明(1)又は(2)いずれかのホスフィン遷移金属錯体を提供するものである。
【0018】
また、本発明(4)は、下記一般式(3):
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、炭素数が1〜6である。R及びRは、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、置換基を有していてもよい。)
で表されるホスフィン誘導体と、
金、銅又は銀の遷移金属塩と、
を反応させて、
下記一般式(1):
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、炭素数が1〜6であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、置換基を有していてもよい。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。Xは、アニオンを示す。)
で表されるホスフィン遷移金属錯体を得ることを特徴とするホスフィン遷移金属錯体の製造方法を提供するものである。
【0023】
また、本発明(5)は、前記本発明(1)〜(3)いずれかのホスフィン遷移金属錯体を含有することを特徴とする抗癌剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、新規な化学構造を有し、且つ抗癌活性が高い抗癌剤を提供することができる。また、本発明によれば、工業的に有利な前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のホスフィン遷移金属錯体は、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体である。
【0026】
前記一般式(1)中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示す。また、R及びRは、炭素数が1〜10である。また、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよい。
【0027】
及びRに係るアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、n−ヘプチル基、イソヘキシル基、n−ヘキシル基が挙げられる。また、R及びRに係るシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。また、R及びRが置換基を有するシクロアルキル基又は置換基を有するフェニル基場合、置換基を有するシクロアルキル基又は置換基を有するフェニル基に係る置換基としては、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。また、Rがt−ブチル基又はアダマンチル基であり、Rがメチル基であることが、抗癌活性が高くなる点で好ましい。
【0028】
前記一般式(1)中のR及びRは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示す。また、R及びRは、炭素数が1〜6である。また、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよい。また、R及びRは、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、R及びRが互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成する場合、飽和又は不飽和の環は、置換基を有していてもよい。
【0029】
及びRに係るアルキル基としては、例えば、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、n−ヘプチル基、イソヘキシル基、n−ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
また、R及びRが互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成している場合、R及びRが互いに結合して形成された環としては、飽和又は不飽和の五員環又は六員環が挙げられ、例えば、フェニル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。また、R及びRが互いに結合して形成された環は、一価の置換基を有してもよく、R及びRが互いに結合して形成された環が有する一価の置換基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状であり且つ炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。
【0031】
前記一般式(1)中、Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。そして、Mが金原子であることが抗癌活性が高くなる点で好ましい。
【0032】
前記一般式(1)中、Xは、アニオンを示し、例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、四フッ化ホウ素イオン、六フッ化リン酸イオン、過塩素酸イオン等が挙げられる。これらのうち、Xが、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンであることが、抗癌活性が高くなる点で好ましい。
【0033】
前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体において、R及びRが互いに結合してベンゼン環を形成していることが、抗癌活性が高くなる点で好ましい。
【0034】
及びRが互いに結合してベンゼン環を形成している場合のホスフィン遷移金属錯体とは、前記一般式(2)で表されるホスフィン遷移金属錯体である。
【0035】
前記一般式(2)中、R、R、M及びXは、前記一般式(1)中のR、R、M及びXと同義である。
【0036】
前記一般式(2)中、Rは、一価の置換基を示す。Rに係る置換基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状であり且つ炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。また、nは、0〜4の整数を示す。
【0037】
本発明において、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体は、式中のRとRが互いに異なる基の場合、下記一般式(5):
【0038】
【化6】

【0039】
で表される、リン原子上に不斉中心を有するホスフィン遷移金属錯体となる。
【0040】
前記一般式(5)中、R、R、R、R、M及びXは前記一般式(1)中のR、R、R、R、M及びXと同義である。アスタリスク(*)は、不斉リン原子を示す。)
【0041】
前記一般式(5)で表されるホスフィン遷移金属錯体は、不斉なリン原子を4個有するため、数多くの異性体が存在するが、本発明においては、これらの異性体の種類については、特に制限されるものではない。具体的には、これらの異性体は、リン原子上の立体が、(R,R)(R,R)や、(S,S)(S,S)のように、単一のエナンチオマーから構成されていてもよく、また、(R,R)(S,S)のように、配位子のラセミ体から構成されていてもよく、また、(R,S)(S,R)のように、お互いにメソ体から構成されていてもよく、また、(R,R)(S,R)のように、1つのエナンチオマーとそのメソ体から構成されていてもよい。
【0042】
前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体は、前記一般式(3)で表されるホスフィン誘導体と、
金、銅又は銀の遷移金属塩と、
を反応させることにより製造される。
【0043】
すなわち、本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法は、前記一般式(3)で表されるホスフィン誘導体と、
金、銅又は銀の遷移金属塩と、
を反応させて、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体を得るホスフィン遷移金属錯体の製造方法である。
【0044】
前記一般式(3)中、R、R、R及びRは前記一般式(1)中のR、R、R及びRと同義である。すなわち、前記一般式(3)中のR、R、R及びRは、前記一般式(1)中のR、R、R及びRにそれぞれに相当する。
【0045】
前記一般式(3)で表されるホスフィン誘導体は、例えば、下記反応式(9)に示すように、2,3−ジクロロキノキサリン(6)と、ホスフィン―ボラン(7)とを反応させ、ビス(ホスフィン−ボラン)キノキサリン(8)を得、次いで、得られたビス(ホスフィン−ボラン)キノキサリン(8)の脱ボラン化反応を行うことにより製造される。
【0046】
【化7】

【0047】
前記反応式(9)において、2,3−ジクロロキノキサリン(6)と、ホスフィン−ボラン(7)との反応は、例えば、n−ブチルリチウム等の塩基の存在下、テトラヒドロフラン等の不活性溶媒中、−78〜30℃で、1〜24時間反応させることにより行なわれる。
【0048】
2,3−ジクロロキノキサリン(6)及びホスフィン−ボラン(7)は、公知の方法により製造される。なお、2,3−ジクロロキノキサリン(6)は、市販されており、また、ホスフィン−ボラン(7)は、例えば、特開2003−300988号公報、特開2001−253889号公報、J.Org.Chem, 2000, vol.65, P4185-4188等に記載されている方法を用いて製造される。
【0049】
また、ビス(ホスフィン−ボラン)キノキサリン(8)の脱ボラン化反応は、ビス(ホスフィン−ボラン)キノキサリン(8)を含有する反応系に、N,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)等の脱ボラン化剤を添加し、0〜100℃で、10分〜3時間反応させることにより行なわれる。
【0050】
本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法に係る遷移金属塩は、金イオン、銅イオン又は銀イオンと、アニオンとの塩であり、金、銅又は銀のハロゲン化物、硝酸塩、過塩素酸塩、四フッ化ホウ素酸塩、六フッ化リン酸塩等が挙げられる。また、金、銅又は銀の遷移金属塩中の遷移金属イオンの価数は、1価である。また、金、銅又は銀の遷移金属塩は、遷移金属種又はアニオンのいずれか一方又は両方が異なる2種以上の遷移金属塩であってもよい。
【0051】
好ましい金の遷移金属塩としては、例えば、塩化金(I)酸、塩化金(I)、あるいはテトラブチルアンモニウムクロリド・塩化金(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p366〜380、Aust. J. Chemm., 1997, 50, 775-778頁参照)が挙げられる。また、好ましい銅の遷移金属塩としては、例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p349〜361)が挙げられる。また、好ましい銀の遷移金属塩としては、例えば、塩化銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p361〜366)が挙げられる。なお、本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法に係る遷移金属塩は、無水物であっても含水物であってもよい。
【0052】
そして、金、銅又は銀の遷移金属塩に対する前記一般式(3)で表わされるホスフィン誘導体のモル比が、1〜5倍モル、好ましくは1.8〜2.2倍モル量で、前記一般式(3)で表わされるホスフィン誘導体と、金、銅又は銀の遷移金属塩とを、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール等の溶媒中で、反応温度−20〜60℃、好ましくは0〜25℃、反応時間0.5〜48時間、好ましくは1〜3時間で反応させることにより、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体が得られる。そして、反応終了後、必要に応じて、常法の精製を行うことができる。
【0053】
また、本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法により得られた前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体のアニオンを、他のアニオンに変換して、所望のアニオンを有する前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体を製造することができる。
【0054】
例えば、先ず、本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法により、前記一般式(1)中のXが、ハロゲンイオンであるホスフィン遷移金属錯体を合成し、次いで、前記一般式(1)中のXが、ハロゲンイオンであるホスフィン遷移金属錯体と、所望のアニオンを有する無機酸、有機酸又はそれらのアルカリ金属塩とを、適切な溶媒中で反応させることにより、前記一般式(1)中のXが、所望のアニオンであるホスフィン遷移金属錯体を得ることができる(特開平10−147590号公報、特開平10−114782号公報、特開昭61−10594号公報参照)。
【0055】
また、光学活性なホスフィン遷移金属錯体は、前記反応式(9)において、光学活性なホスフィン−ボラン(7)を出発原料として用いることにより、光学活性な前記一般式(3)で表されるホスフィン誘導体を得、次いで、得られた光学活性な前記一般式(3)で表されるホスフィン誘導体と、金、銅又は銀の遷移金属塩とを反応させることにより製造される。光学活性なホスフィン−ボラン(7)は、例えば特開2001−253889号公報、特開2003−300988号公報、J.Org.Chem, 2000, vol.65, P4185-4188等の方法を用いて製造される。また、式中のRとRが互いに異なるホスフィン−ボラン(7)を出発原料として用いることにより、前記一般式(5)で表されるホスフィン遷移金属錯体が製造される。
【0056】
本発明のホスフィン遷移金属錯体は、後述するように高い抗癌活性を有するので、抗癌剤として利用され得る。
【0057】
すなわち、本発明の抗癌剤は、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体の1種又は2種以上を含有する。
【0058】
また、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体のうち、リン原子上に不斉中心を有するホスフィン遷移金属錯体、すなわち、前記一般式(5)で表されるホスフィン遷移金属錯体の場合、前述したように、数多くの異性体が存在するが、本発明の抗癌剤は、それらの異性体のうちの1種又は2種以上のいずれでもよい。
【0059】
本発明の抗癌剤が適用される癌の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫等が挙げられ、さらに悪性腫瘍ばかりでなく良性腫瘍にも適用され得る。また、本発明の抗癌剤は、癌転移を抑制するために使用されることができ、特に、術後の癌転移抑制剤としても有用である。
【0060】
本発明の抗癌剤の使用においては、種々の形態でヒトまたは動物に、本発明の抗癌剤を投与することができ、本発明の抗癌剤の投与形態としては、経口投与でもよいし、静脈内、筋肉内、皮下または皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与等の非経口投与でもよい。経口投与に適する製剤形態としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などを挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、点鼻剤、噴霧剤、吸入剤、坐剤、あるいは、軟膏、クリーム、粉状塗布剤、液状塗布剤、貼付剤等の経皮吸収剤等が挙げられる。さらに、本発明の抗癌剤の製剤形態としては、埋め込み用ペレットや公知の技術により持続性製剤が挙げられる。
【0061】
上述したうち、好ましい投与形態や製剤形態等は、患者の年齢、性別、体質、症状、処置時期等に応じて、医師によって適宜選択される。
【0062】
本発明の抗癌剤が、錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤等の固形製剤の場合、これらの固形製剤は、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体を、常法に従って適当な添加剤、例えば、乳糖、ショ糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、合成もしくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルーロースカルシウム、カルボシキメチルセルーロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤又は希釈剤等と適宜混合して製造される。錠剤等は、必要に応じて、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、酸化チタン等のコーティング剤を用いて、糖衣、ゼラチン、腸溶被覆、フイルムコーティング等が施されても良い。
【0063】
本発明の抗癌剤が、注射剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、噴霧剤、ローション剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤である場合、これらの液状製剤は、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体を、精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンゲル溶液、ロック溶液等の生理的塩類溶液、カカオバター、ゴマ油、オリーブ油等の植物油、鉱油、高級アルコール、高級脂肪酸、エタノール等の有機溶媒等に溶解して、必要に応じてコレステロール等の乳化剤、アラビアゴム等の懸濁剤、分散助剤、浸潤剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ポリエチレングリコール系等の界面活性剤、リン酸ナトリウム等の溶解補助剤、糖、糖アルコール、アルブミン等の安定化剤、パラベン等の保存剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリン等の等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸着防止剤、保湿剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、滅菌された水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソームまたはエマルジョン等として調整される。この際、注射剤は、生理学的なpHを有することが好ましく、6〜8の範囲内のpHを有することが特に好ましい。
【0064】
本発明の抗癌剤が、ローション剤、クリーム剤、軟膏等の半固形製剤の場合、これらの半固形製剤は、前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体を脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤、懸濁化剤等と適宜混和することにより製造される。
【0065】
本発明の抗癌剤中の前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体の含有量は、投与形態、重篤度や目的とする投与量などによって様々であるが、一般的には、本発明の抗癌剤の全質量に対して0.001〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%である。
【0066】
本発明の抗癌剤の投与量は、例えば患者の年齢、性別、体重、症状、および投与経路などの条件に応じて適宜医師により決定されるものであるが、一般的には、成人一日あたりの有効成分の量として1μg/kgから1,000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは10μg/kgから10mg/kg程度の範囲である。上記投与量の抗癌剤は、一日一回で投与されてもよいし、数回(例えば、2〜4回程度)に分けて投与されてもよい。
【0067】
本発明の抗癌剤の使用においては、既知の化学療法、外科的治療法、放射線療法、温熱療法や免疫療法などと組み合わせて、本発明の抗癌剤を用いることもできる。
【0068】
前記一般式(1)で表されるホスフィン遷移金属錯体は、特許文献1又は特許文献2で提案されているホスフィン遷移金属錯体に比べ、水溶性が高いので、抗癌剤にした場合、投与形態や製剤形態を選ぶことなく、少量で、患部に効果的に作用するため、用量を少なくすることができるという利点を有する。
【0069】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
(合成例1)
<tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(7a)の合成>
下記反応式(11)に従って、tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(7a)の合成を行なった。
【0071】
【化8】

【0072】
tert−ブチル(ヒドロキシメチル)メチルホスフィン−ボラン(10)(1.78g、12.0mmol)を72mLのアセトンに溶解し、アセトン溶液を得た。次いで、水酸化カリウム(13.5g、240mmol)、過硫酸カリウム(19.4g、72.0mmol)及び三塩化ルテニウム三水和物(624mg、2.4mmol)を150mLの水に溶解した水溶液を調製し、該水溶液を激しく撹拌した状態で、0℃で、前記アセトン溶液を徐々に添加した。2時間経過後、反応混合液を3Mの塩酸で中和し、エーテルで3回抽出した。有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。ロータリーエバポレータで溶媒を室温下で除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ペンタン/エーテル=8/1)で残渣を精製して、tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(7a)を得た。収量は2.27g、収率は80%であった。
【0073】
<2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)の合成>
下記反応式(12)に従って、2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)を合成した。
【0074】
【化9】

【0075】
236mg(2.0mmol)のtert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(7a)を4mLのテトラヒドロフランに溶解して溶液を得た。この溶液を液体窒素で−78℃に冷却し、そこに、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)を1.25mL滴下した。15分経過後、133mg(0.67mmol)の2,3−ジクロロキノキサリン(6a)(関東化学社製)を4mLのテトラヒドロフランに溶解させ、得られた溶液を、激しく撹拌しながら滴下した。1時間かけて液温を室温(25℃)にした後、3時間撹拌を行った。次いで、1mLのTMEDAを添加して、更に2時間撹拌を継続した。1Mの塩酸を添加して反応を終了させ、反応液をヘキサンで抽出した。有機相を1Mの塩酸及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を真空吸引で除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=30/1)で残渣を精製し、橙色の固体物を得た。この固体物を、熱メタノール(1.7mL)で再結晶した。これにより、2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)の橙色結晶を得た。このときの収率は80%であった。得られた2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)の物性値は以下の通りであった。
【0076】
(同定データ)
H NMR(395.75MHz,CDCl):β 1.00−1.03(m,18H)、1.42−1.44(m,6H)、7.70−7.74(m,2H)、8.08−8.12(m,2H);
13C NMR(99.45MHz,CDCl):β 4.77(t,J=4.1Hz)、27.59(t,J=7.4Hz)、31.90(t,J=7.4Hz)、129.50,129.60,141.63,165.12(dd,J=5.7,2.4Hz);
31P NMR(202.35MHz,CDCl):β −17.7(s);
IR(KBR)2950,1470,780cm−1
HRMS(FAB)計算値(C1829(M+H))335.1809、実測値335.1826
【0077】
(実施例1)
<ビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)の合成>
窒素ガスで置換した25ml二口フラスコに、前記合成例1で調製した2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(3a)1.33g(3.98mmol)と脱気したTHFを加えた。ここにテトラブチルアンモニウム金(I)ジクロリド1.02mg(1.99mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。沈殿をろ別し、ろ液を乾固した。得られた褐色固体を減圧下で乾燥し、1.46gの下記式(1a)で表されるビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)を得た。この時の収率は82%であった。
【0078】
【化10】

【0079】
(同定データ)
31P NMR(121.55MHz,CDCl):8.8(s)
MS(ESI、POS)m/z 866 (M−Cl)
【0080】
<抗癌活性の評価>
上記のようにして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)の腫瘍細胞に対する活性評価試験を下記のように実施した。また、比較対象としてシスプラチン(比較例1)についても同様な試験を実施した。
【0081】
癌細胞としてHL−60(ヒト急性骨髄性白血病細胞)を使用し、10%ウシ胎児血清および1%抗生物質、抗真菌剤を補足したRosewell Park Memorial Institute培地(RPMI1640)中で、5%二酸化炭素雰囲気下、湿潤インキュベーター中、37℃で培養した。
【0082】
細胞はPBSで洗浄し、細胞数を算定後、同じ培地を用いて1×10細胞/ml懸濁液を調製した。滅菌96ウエルのマイクロプレートに前記の懸濁液を50000細胞/ウエルの密度となるように加えた。
【0083】
次いで、水に完全に溶解させたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)溶液(実施例1)又はジメチルスルホキシドに完全に溶解させたシスプラチン溶液(比較例1)を加え、引き続き24時間インキュベータ中で培養した。
【0084】
その後、生存細胞数をMosmann(T.Mosmann, J.Immunnol.Method(1983)65,55-63)変法により評価した。即ち、テトラゾリウム塩(3,[4,5-dimethylthiazole-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide,MTT)溶液を加え、さらに3時間、同条件で培養した。細胞内のミトコンドリアの酵素活性により生成したホルマザン結晶を0.04mol/HCl/イソプロピルアルコールで溶解し、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad 550)を用い、595nmの吸光度を測定した。バックグランドを排除するために630nmの吸光度を測定し、実測値から差し引いた。これを生存細胞数として評価し、50%細胞発育抑制濃度(IC50)を算出した。なお、IC50値の算出に当たっては、同様に実施した少なくとも3回以上の実験値の平均値を採用した。この結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1の結果から明らかなように、ビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)は、シスプラチンよりも高い抗癌活性を有することがわかった。
【0087】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)50g、乳糖400g及びトウモロコシデンプン50gをブレンダーで混合して散剤を得た。
【0088】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)50g、乳糖250g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース50gを混合した後、10%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液150gを加えて混練した。これを押出し造粒機を用いて造粒、乾燥して顆粒剤を得た。
【0089】
(実施例4)
実施例1と同様にして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)50g、乳糖250g、トウモロコシデンプン120g、結晶セルロース75g及びステアリン酸マグネシウム5gをブレンダーで混合した後、錠剤機で打錠して錠剤を得た。
【0090】
(実施例5)
実施例1と同様にして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)25g、乳糖300g、トウモロコシデンプン170g及びステアリン酸マグネシウム5gをV型混合機を用いて混合した後、3号カプセルに180mgずつ充填してカプセル剤を得た。
【0091】
(実施例6)
実施例1と同様にして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)100mg及びグルコース100mgを精製水2mlに溶解した後、濾過し、濾液を2mlアンプルに分注、封入した後滅菌して注射剤を得た。
【0092】
(実施例7)
実施例1と同様にして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)1g、エタノール3g、ヒドロキシエチルセルロース0.2g及びパラオキシ安息香酸メチル0.1gを精製水100mlに混合溶解してローション剤を得た。
【0093】
(実施例8)
実施例1と同様にして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)2g、流動パラフィン6g、ミツロウ2g、自己乳化型モノステアリン酸グリセリド3g及び白色ワセリン5gを加温して溶解、分散させ、軟膏剤を得た。
【0094】
(実施例9)
実施例1と同様にして得られたビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(1a)2gを、モノステアリン酸グリセリド2g、ステアリルアルコール4g、オクチルドデカノール2g及びモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン5gに加温しながら分散させ、これにパラオキシ安息香酸メチル0.1g、グリセリン5g及び精製水60gを加温して溶解させたものを加え、高速攪拌により乳化、冷却し、クリーム剤を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】


(式中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、炭素数が1〜6であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、置換基を有していてもよい。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。Xは、アニオンを示す。)
で表されることを特徴とするホスフィン遷移金属錯体。
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】


(式中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。Rは、一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。Xは、アニオンを示す。)
で表されることを特徴とする請求項1記載のホスフィン遷移金属錯体。
【請求項3】
がt−ブチル基又はアダマンチル基であり、Rがメチル基であることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のホスフィン遷移金属錯体。
【請求項4】
下記一般式(3):
【化3】


(式中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、炭素数が1〜6である。R及びRは、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、置換基を有していてもよい。)
で表されるホスフィン誘導体と、
金、銅又は銀の遷移金属塩と、
を反応させて、
下記一般式(1):
【化4】


(式中、R及びRは、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有するシクロアルキル基、アダマンチル基、フェニル基又は置換基を有するフェニル基を示し、炭素数が1〜10であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、水素原子又は直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、炭素数が1〜6であり、同一の基であっても異なる基であってもよい。R及びRは、互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、置換基を有していてもよい。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。Xは、アニオンを示す。)
で表されるホスフィン遷移金属錯体を得ることを特徴とするホスフィン遷移金属錯体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか1項記載のホスフィン遷移金属錯体を含有することを特徴とする抗癌剤。

【公開番号】特開2007−320909(P2007−320909A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153422(P2006−153422)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】