説明

ホスホマイシンを有効成分とする魚類のエドワジエラ症治療剤

【課題】本発明の課題は、マダイなどの養殖魚のエドワジエラ症に対する有効な治療剤を提供することにある。
【解決手段】前記の課題を解決するために研究を重ねた結果、ホスホマイシンが魚類のエドワジエラ症に対して優れた治療効果を示すことを見出した。すなわち、本発明はホスホマイシンを有効成分として含有する魚類のエドワジエラ症治療剤を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類のエドワジエラ症治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エドワジエラ症はグラム陰性桿菌であるエドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)によって引き起こされる養殖魚の感染症であり、魚齢に関係なく周年発生し、慢性化しやすくなることから、ヒラメやマダイなどの養殖魚の出荷量が減少させられるため、養殖現場においては大きな問題となっている。
従前から予防治療対策の研究開発は進められているが、本症に対する有効な治療薬はなく、ワクチンも実用化されていない状況である。従来、魚類のエドワジエラ症に対する治療剤として、塩酸オキシテトラサイクリンが使用されているが、十分な治療効果が得られず、また耐性菌を発生させてしまうという問題がある。
その他にもエドワジエラ症の治療剤として、生薬を用いた予防治療剤(特許文献1)や抗菌活性を有する中鎖脂肪酸を含む魚類用飼料(特許文献2)、あるいは、エドワジェラ・タルダ由来株の不活化菌体を用いたワクチン(特許文献3)などが研究されているが、いまだ製品化されたものはない。
そのため、養殖現場からは魚類養殖に甚大な経済的損失を与えるエドワジエラ症に対する有効な治療剤の開発を切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−75425号公報
【特許文献2】国際公開00/10558号パンフレット
【特許文献3】特開2008−50300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、マダイなどの養殖魚のエドワジエラ症に対する有効な治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するために研究を重ねた結果、ホスホマイシンが魚類のエドワジエラ症に対して優れた治療効果を示すことを見出した。すなわち、本発明はホスホマイシンを有効成分として含有する魚類のエドワジエラ症治療剤を提供するものである。
【0006】
本発明は、
[1]ホスホマイシンを有効成分として含有する魚類のエドワジエラ症治療剤、
[2]前記[1]の魚類がマダイ、ブリ、カンパチ、マアジ、シマアジ、キジハタまたはヒラメである魚類のエドワジエラ症治療剤、
[3]ホスホマイシンの有効量を投与することを特徴とする魚類のエドワジエラ症治療方法、
[4]投与方法が、経口、注射または薬浴である、前記[3]のエドワジエラ症治療方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の魚類のエドワジエラ症治療剤は、従来の抗菌剤による耐性菌にも抗菌力を示し、養殖飼料に含有させる等の投与方法により、早い摂餌活性の回復を図りながら、エドワジエラ症に感染した魚類の治療を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の治療剤はホスホマイシンを有効成分とするものである。ホスホマイシンは医薬品として、グラム陰性菌やグラム陽性菌による感染症の治療に用いられており、他の抗生物質と交差耐性が無いことが知られている。また、ヒト以外に牛の大腸菌性下痢症やサルモネラ症の治療に用いられている。さらに、魚類のパスツレラ属細菌性類結節症の治療に用いられている(特許第2993812号)。ホスホマイシンとしては、フェネチルアンモニウム塩、ナトリウム塩(ホスホマイシン・ナトリウム)またはカルシウム塩(ホスホマイシン・カルシウム)等の塩を用いることができる。
【0009】
本剤が適用できる魚類としては、エドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)に感染する魚類であれば、特に制限されないが、例えば、マダイ、ブリ、カンパチ、マアジ、シマアジ、キジハタ、ヒラメ等があげられる。
ここでいうエドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)は定型および非定型を問わない全ての株が含まれる。
【0010】
本発明の治療剤の投与方法は特に限定されず、経口、注射、薬浴(海水または淡水に溶解)等、様々な方法によって行うことができる。その中でも養殖魚飼育形態から経口投与が好ましい。経口投与の方法も特に制限されないが、一般にはホスホマイシンを賦形剤に混合し、製剤化したものを餌料(例えば魚肉ミンチ、モイストペレット、ドライペレット等)に含有させて経口投与する方法が好ましい。
【0011】
また、粉剤、散剤、顆粒剤などの製剤とした上で、餌料と混合して用いることができる。製剤に配合される成分は特に限定されないが、例えば、界面活性剤として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、大豆リン脂質及びプロピレングリコール脂肪酸エステルなど、結合剤として、ヒドロキシプロピルセルロース(M、L)、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム及びポリビニールアルコール、防腐剤として、パラオキシ安息香酸メチル及びパラオキシ安息香酸プロピル、賦形剤として、白糖、精製白糖、粉糖、コーンスターチ、乳糖、グルコース及びD−マンニトールなどを配合することができる。製剤の製造方法は常法によって行うことができる。
【0012】
本発明の治療剤の投与量は、魚体重1kg当たりホスホマイシンとして10〜60mg(力価)の範囲で適宜調整することができるが、より好ましくは、30〜50mg(力価)の範囲で行うことができる。投与回数や投与日数は特に限定されないが、1日1〜3回に分けて、4〜8日間程度投与することができる。
【実施例】
【0013】
次に本発明の魚類のエドワジエラ症治療剤の効果を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
(試験例1)ホスホマイシンの試験管内抗菌活性
エドワジエラ症の原因菌エドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)に対するホスホマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)を、日本化学療法学会のMIC測定法に準じて測定した。その結果を表1に示した。ホスホマイシンのMICは、塩酸オキシテトラサイクリンに対する感受性株(15株:E08-18、E09-10、E09-14、E09-15、E09-19、E09-20、E09-25、E09-28、E09-32、E09-36、E09-37、E09-38、E09-40、E09-43、E09-44の株)及び耐性株(7株:E09-2、E09-16、E09-21、E09-24、E09-30、E09-31、E09-39の株)に対しても、1〜2μg/mLであり、一定の抗菌力を示した。すなわち、ホスホマイシンは塩酸オキシテトラサイクリンに対する耐性株に対しても強い抗菌活性を示すことが確認された。
【0015】
【表1】

【0016】
(試験例2)マダイのエドワジエラ症原因菌エドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)の人工感染治療試験(1)
平均体重29gのマダイ稚魚を、1水槽に20尾ずつ2群に分けて収容し、エドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)(E08−18株:2008年7月愛媛県のマダイの腎臓から分離)浮遊液を1個体当たり3.6×10CFU/mL腹腔内注射し、流水で飼育した。試験群は、ホスホマイシン・カルシウム40mg(力価)/kg魚体重を投薬した1群と無投薬対照群1群の計2群に設定した。
菌接種後、ホスホマイシン・カルシウムの10%製剤を、水を吸着させた市販の養魚用ドライペレットに所定の濃度になるように展着し、これの1日量を1日に1〜3回に分けて、6日間連続して自由摂餌により経口投与した。感染後14日目までの供試魚の死亡率を計測した。死亡魚についてはエドワジエラ症原因菌で使用する選択培地(SS寒天培地)へ腎臓から菌分離を行った。なお、試験期間中の水温は23.8〜24.6℃であった。
その結果を表2に示した。無投薬対照群での死亡率は、95%であった。死亡魚19尾中18尾からエドワジエラ・タルダが分離され、エドワジエラ症による死亡率が90%であることが確認された。一方、投薬群の死亡率は10%であり、菌分離によりエドワジエラ症による死亡であることが確認され、ホスホマイシンの優れた治療効果が認められた。
また、魚の摂餌は菌接種後に低下したが、ホスホマイシンの投薬により摂餌活性の回復が早まることが認められた。
【0017】
【表2】

【0018】
(試験例3)マダイのエドワジエラ症原因菌エドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)の人工感染治療試験(2)
平均体重27gのマダイ稚魚を、1水槽に20尾ずつ3群に分けて収容し、エドワジエラ・タルダ(Edwardsiella tarda)(E08−18株;塩酸オキシテトラサイクリン感受性株)浮遊液を1個体当たり4.6×10CFU/mL腹腔内注射し、流水で飼育した。
試験群は、ホスホマイシン・カルシウム40mg(力価)/kg魚体重投薬群、塩酸オキシテトラサイクリン50mg(力価)/kg魚体重投薬群及び無投薬感染対照群1群の計3群を設定した。菌接種後、ホスホマイシン・カルシウムの10%製剤及び市販の塩酸オキシテトラサイクリン製剤(「水産用OTC散「コーキン」」、コーキン化学社製)を、水を吸着させた市販の養魚用ドライペレットに所定の濃度になるように展着し、これの1日量を1日に1〜3回に分けて、ホスホマイシン・カルシウムでは6日間、塩酸オキシテトラサイクリンでは7日間、連続して自由摂餌により経口投与した。感染後14日目までの供試魚の死亡率を計測した。死亡魚についてはエドワジエラ症原因菌の選択培地(SS寒天培地)に腎臓から菌分離を行った。なお、試験期間中の水温は24.1〜26.0℃であった。
その結果を表3に示した。無投薬対照群での死亡率は、95%であった。死亡魚からはエドワジエラ・タルダが分離され、エドワジエラ症により死亡したことが確認された。一方、投薬群の死亡率は、ホスホマイシン・カルシウム40mg(力価)/kg魚体重投薬群で25%、塩酸オキシテトラサイクリン50mg(力価)/kg魚体重投薬群で100%である。よって、従来の抗生物質よりもホスホマイシンが優れた投薬効果を示すことが確認された。
また、魚の摂餌は菌接種後に低下したが、ホスホマイシンの投薬の方が塩酸オキシテトラサイクリンや無投薬の群よりも摂餌活性の回復が早まることが認められた。
【0019】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、マダイなどの養殖魚のエドワジエラ症に対する治療剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホマイシンを有効成分として含有する、魚類のエドワジエラ症治療剤。
【請求項2】
前記魚類がマダイ、ブリ、カンパチ、マアジ、シマアジ、キジハタまたはヒラメである、請求項1記載の魚類のエドワジエラ症治療剤。
【請求項3】
ホスホマイシンの有効量を投与することを特徴とする、魚類のエドワジエラ症治療方法。
【請求項4】
投与方法が、経口、注射または薬浴である、請求項3記載のエドワジエラ症治療方法。

【公開番号】特開2012−67022(P2012−67022A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211508(P2010−211508)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年度日本水産学会春季大会(社団法人 日本水産学会)発行、平成22年度日本水産学会春季大会 講演要旨集、平成22年3月26日発行
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(000006091)Meiji Seikaファルマ株式会社 (180)
【Fターム(参考)】